説明

モーター用電気絶縁性樹脂シート及びその製造方法

【課題】 モーターのコイル線間やコイル線と鉄心間の絶縁に用いられるモーター用電気絶縁性樹脂シートにおいて、高い耐熱性、電気絶縁性に加え絶縁破壊電圧の高いモーター用電気絶縁性樹脂シート、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を含む多孔質樹脂層を備えているモーター用電気絶縁性樹脂シートであって、当該多孔質樹脂層は1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることを特徴とするモーター用電気絶縁性樹脂シートを提供する。前記多孔質層は、平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が30%以上となる気泡を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター用電気絶縁性樹脂シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターのコイル線間やコイル線と鉄心間の絶縁に用いられる絶縁部材としてモーター用電気絶縁性樹脂シートが知られている。これらは、コイル線間やコイル線と鉄心間を電気的に絶縁することが要求されるが、モーターを高出力とする場合、電流密度が大きくなり、高温となるため、耐熱性を有する絶縁部材が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また近年、モーターは省エネルギー化および小型化高性能化のため高電圧でのインバーター制御が必要となっている。しかし、インバーター電源を使用してモーター駆動を制御する場合、インバーターから発生する高いサージ電圧がモーターに侵入する。このためモーターに使用される絶縁部材は、 サージ電圧に対応するために絶縁部材の劣化を抑制する必要があった。
【0004】
サージ電圧による絶縁部材の劣化を抑制する手法としては、(1)サージによる部分放電が発生した場合でも絶縁破壊に至る寿命を長くする、(2)部分放電開始電圧をサージ電圧以上にする、ことが考えられる。(1)の場合では、無機フィラーを絶縁部材に添加する手法があるが、樹脂シートの可とう性が低下し、成型加工によるストレスが加えられた場合に絶縁性が低下するといった問題が発生する。(2)の場合では、絶縁部材の部分放電開始電圧がサージ電圧以上であればコロナ放電が発生せず寿命が長くなるが、部分放電開始電圧を向上するには絶縁部材を厚膜化する必要があり、この場合、モーターにおいてコイル占積率が低下し高出力が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−23601号公報
【特許文献2】特開2006−321183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点等に鑑みてなされたものであり、高い耐熱性、電気絶縁性に加え部分放電開始電圧の高いモーター用電気絶縁性樹脂シート、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記のとおり、インバーター電源を使用する際の急激なサージ電圧に対して、部分放電開始電圧の高いことが有効であることから、本発明者らは、絶縁部材の厚みを変えることなく、部分放電開始電圧を向上される一つの手法として、コイル線間やコイル線と鉄心間の絶縁部材を高耐熱でかつ低誘電化することに着目し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂を含む多孔質樹脂層を備えているモーター用電気絶縁性樹脂シートであって、1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートを提供する。
【0009】
本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートにおいては、前記多孔質樹脂層は、平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が30%以上となる気泡を有することが好適であり、また前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンから選ばれるいずれか1種であることが好適である。さらに前記熱可塑性樹脂がガラス転移温度が異なる2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物であることが好適である。
【0010】
また本発明においては、前記モーター用電気絶縁性樹脂シートにおいて、前記多孔質樹脂層の少なくとも片面にシート材を備えていることを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートを提供する。
【0011】
さらに本発明においては、前記モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法であって、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程、により多孔質樹脂層を製造することを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法を提供する。
【0012】
特に本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法においては、前記発泡工程後に、150℃以上の温度で多孔質樹脂層を加熱する加熱工程を含むことが好適である。
【0013】
また本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法においては、前記非反応性ガスが二酸化炭素であることが好適であり、前記非反応性ガスを超臨界状態で含浸させることが好適である。
【0014】
さらに本発明においては、前記モーター用電気絶縁性樹脂シートの別の製造方法であって、熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂の硬化体と相分離する相分離剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥あるいは硬化させてミクロ相分離構造を有する熱可塑性樹脂シートを作製する工程、熱可塑性樹脂シートから相分離化剤を除去する工程、により多孔質樹脂層を製造することを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法を提供する。
【0015】
特に本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法においては、相分離化剤を溶剤抽出により除去することが好適であり、さらに溶剤が液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素から選ばれる一種であることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートは、耐熱性、電気絶縁性に優れ、部分放電開始電圧が高いため、絶縁部材の劣化が抑制され長寿命化が図れるという効果を奏する。また本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法は、このようなモーター用電気絶縁性樹脂シートを簡易な方法で効率よく製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの一実施形態についての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含む多孔質樹脂層を備えており、1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることを特徴とする。比誘電率が2.0以下であれば、モーターの絶縁部材として使用した際に、耐サージ電圧による絶縁破壊を防止することができる。これは、絶縁破壊の初期現象である部分放電開始電圧を上げることができるためである。一方1GHzにおける比誘電率が2.0を超えると十分に部分放電開始電圧を上げることができない。本発明においては、モーター用電気絶縁性樹脂シートの1GHzにおける比誘電率は、1.9以下、さらに1.8以下であることが好ましい(通常1.4以上)。
【0019】
本発明においてモーター用電気絶縁性樹脂シートの比誘電率は、空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。
【0020】
(熱可塑性樹脂)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、耐熱性を有する熱可塑性樹脂であることが好ましく、特にガラス転移温度が150℃以上、好ましくは180℃以上の耐熱性を有するものが好適に使用される。このような熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。熱可塑性樹脂は単独で又は2種以上混合して使用できる。
【0021】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、高温時の寸法安定性がよく長期での耐久性が高いことから、特にポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンを好適に使用することができる。また高ガラス転移温度(例えば220℃以上、さらに230℃以上)の樹脂と、低ガラス転移温度(例えば150℃以上220℃未満)の樹脂を併用することが好ましい。それにより、耐久性を維持しつつ微細な気泡を形成することができる(加工性の向上が可能)。ガラス転移温度が異なる熱可塑性樹脂を併用する場合、その配合割合(重量)は、高ガラス転移温度/低ガラス転移温度=20/80〜80/20程度が好ましく、30/70〜70/30程度がより好ましい。
【0022】
前記ポリイミドは公知乃至慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミドは、有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることができる。
【0023】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0024】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−2,2−ジメチルビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
なお本発明において用いられるポリイミドの原料としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン及び/又は4,4′−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。
【0026】
前記ポリイミド前駆体は、略等モルの有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを、通常、有機溶媒中、0〜90℃で1〜24時間程度反応させることにより得られる。前記有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。
【0027】
ポリイミド前駆体の脱水閉環反応は、例えば、300〜400℃程度に加熱したり、無水酢酸とピリジンの混合物などの脱水環化剤を作用させることにより行われる。一般に、ポリイミドは有機溶媒に不溶であり、成形困難なポリマーである。そのため、ポリイミドからなる多孔質体を製造する場合、前記ミクロ相分離構造を有するポリマー組成物の調製には、ポリマーとして上記のポリイミド前駆体を用いるのが一般である。
【0028】
なお、ポリイミドは、上記方法のほか、有機テトラカルボン酸二無水物とN−シリル化ジアミンとを反応させて得られるポリアミド酸シリルエステルを加熱閉環させる方法などよっても得ることができる。
【0029】
前記ポリエーテルイミドは、前記ジアミノ化合物と、2,2,3,3−テトラカルボキシジュフェニレンエーテル二無水物のような芳香族ビスエーテル無水物との脱水閉環反応により得ることができるが、市販品、例えば、ウルテム樹脂(SABIC社製)、スペリオ樹脂(三菱樹脂社製)などを用いてもよい。
【0030】
前記ポリエーテルスルホンは、ジクロロジフェニルスルホンとジヒドロキシジフェニルスルホンのカリウム塩との縮重合反応により得ることができるが、市販品、例えば、ウルトラゾーンEシリーズ(BASF社製)、レーデルAシリーズ(ソルベイ社製)などを用いてもよい。
【0031】
(その他の成分)
本発明において、多孔質樹脂層には、熱可塑性樹脂のほか、本発明の効果を損ねない範囲において、種々の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤の種類は特に限定されず、粘着付与樹脂、難燃剤、酸化防止剤、無機フィラー、気泡核剤、結晶核剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合剤などを挙げることができる。これらの添加剤は、樹脂組成物100重量部に対して、例えば0.1〜5重量部用いることができる。
【0032】
(多孔質樹脂層の製造方法)
本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含む多孔質樹脂層を備えており、多孔質樹脂層は、前記熱可塑性樹脂およびその他の添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物を多孔質化することで得ることができる。多孔質化する方法は特に限定されず、従来周知の化学発泡、物理発泡などにより発泡させることで得ることが出来るが、本発明の低比誘電率の多孔質樹脂層を得るためには、微細な気泡を高い空孔率で均一に形成することが好ましく、この点から、(1)非反応性ガスにより発泡させる方法、または(2)熱可塑性樹脂中に相分離させた相分離化剤を抽出する方法、のいずれかが好ましい。これらの方法では、化学発泡の場合に用いられる発泡剤に起因する反応残渣が残らず、また気泡が独立気泡構造となるため、吸湿などによる電気特性の変動が起こりにくい。
【0033】
本発明の多孔質樹脂層の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程を含む。
【0034】
ガス含浸工程は、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下に含浸させる工程であり、非反応性ガスとしては、例えば二酸化炭素、窒素ガス、空気等が挙げられる。これらのガスは、単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0035】
これらの非反応性ガスのうち、多孔質樹脂層の素材として用いる熱可塑性樹脂への含浸量が多く、含浸速度も速い二酸化炭素の使用が特に好ましい。
【0036】
非反応性ガスを含浸させる際の圧力および温度は、非反応性ガスの種類、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物の種類、および目的とする多孔質樹脂層の平均気泡径や空孔率によって適宜調整する必要がある。例えば非反応性ガスとして二酸化炭素を用い、熱可塑性樹脂としてポリイミドを用いた場合において、平均気泡径を5.0μm以下、空孔率を30%以上の多孔質樹脂層を製造するためには、圧力は7.4〜100MPa程度、好ましくは20〜50MPaであり、温度は120〜350℃程度、好ましくは120〜300℃程度である。また例えば非反応性ガスとして二酸化炭素を用い、熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミドを用いた場合において、平均気泡径を5.0μm以下、空孔率を30%以上の多孔質樹脂層を製造するためには、圧力は7.4〜100MPa程度、好ましくは20〜50MPaであり、温度は120〜260℃程度、好ましくは120〜220℃程度である。
【0037】
また、ポリマー中への含浸速度を速めるという観点から、前記非反応性ガスは超臨界状態であることが好ましい。例えば、二酸化炭素の場合、臨界温度が31℃、臨界圧力が7.4MPaであり、温度31℃以上、圧力7.4MPa以上の超臨界状態にすると、ポリマーへの二酸化炭素の溶解度が著しく増大し、高濃度の混入が可能となる。また、超臨界状態でガスを含浸させるとポリマー中のガス濃度が高いため、急激に圧力を降下させると、気泡核が多量に発生し、その気泡核が成長してできる気泡の密度が大きくなり、非常に微細な気泡を得ることができる。
【0038】
本発明において発泡工程は、前記ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる工程である。圧力を減少させることにより、熱可塑性樹脂組成物中に気泡核が多量に発生する。圧力を減少させる程度(減圧速度)は特に制限されないが、5〜400MPa/秒程度である。
【0039】
本発明においては、発泡工程により気泡核が形成された熱可塑性樹脂組成物からなる多孔質樹脂層を、150℃以上の温度で加熱する加熱工程を設けてもよい。気泡核が生じた多孔質樹脂層を加熱することにより、気泡核が成長し、気泡が形成される。加熱温度は180℃以上であることが好ましく、より好ましくは200℃以上である。加熱温度が150℃未満では、空孔率の高い多孔質樹脂層を得ることが困難な場合がある。なお加熱工程後には、多孔質樹脂層を急冷して気泡の成長を防止したり、気泡形状を固定してもよい。
【0040】
本発明において、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程と、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程は、バッチ方式、連続方式の何れの方式で行ってもよい。
【0041】
バッチ方式によれば、例えば以下のようにして発泡体を製造できる。すなわち、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して押し出すことにより、熱可塑性樹脂を基材樹脂として含むシートが形成される。あるいは、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を、ローラ、カム、ニーダ、バンバリ型等の羽根を設けた混錬機を使用して均一に混錬しておき、熱板のプレスなどを用いて所定の厚みにプレス成形することにより、熱可塑性樹脂を基材樹脂として含むシートが形成される。こうして得られる未発泡シートを高圧容器中に入れて、二酸化炭素、窒素、空気などからなる非反応性ガスを注入し、前記未発泡シート中に非反応性ガスを含浸させる。十分に非反応性ガスを含浸させた時点で圧力を解放し(通常、大気圧まで)、基材樹脂中に気泡核を発生させる。そして、この気泡核を加熱することによって気泡を成長させた後、冷水などで急激に冷却し、気泡の成長を防止したり、形状を固定することにより耐熱性ポリマー発泡体が得られる。
【0042】
一方、連続方式によれば、例えば、少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して混練しながら非反応性ガスを注入し、十分に非反応性ガスを樹脂中に含浸させた後、押し出すことにより圧力を解放(通常、大気圧まで)して気泡核を発生させる。そして、加熱することによって気泡を成長させた後、冷水などで急激に冷却し、気泡の成長を防止したり、形状を固定化することにより耐熱性ポリマー発泡体を得ることができる。
【0043】
本発明の多孔質樹脂層の別の製造方法は、熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂の硬化体と相分離する相分離剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を基板上に塗布し、硬化させてミクロ相分離構造を有する樹脂シートを作製する工程、樹脂シートから相分離化剤を除去する工程を含む。
【0044】
本発明において、前記ミクロ相分離構造の非連続相を構成する成分(以下、単に「相分離化剤」と称する場合がある)としては、上記熱可塑性樹脂と混合した場合に相溶性であり、かつ該樹脂成分の硬化体と相分離する化合物である。ただし熱可塑性樹脂成分と相分離する化合物であっても、適宜な媒体(例えば有機溶剤)を加えることで均一状態(均一溶液)となるものは使用可能である。
【0045】
このような相分離化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;前記ポリアルキレングリコールの片末端もしくは両末端メチル封鎖物、又は片末端もしくは両末端(メタ)アクリレート封鎖物;ウレタンプレポリマー;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物などが例示される。これらの相分離化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0046】
本発明においては、前記相分離化剤を用いることで、微小なミクロ相分離構造を得ることができ、このため多孔質樹層において、平均気泡径を5μm以下とすることができる。
【0047】
上記相分離化剤の分子量は特に制限はないが、後の除去操作が容易になることから、重量平均分子量として10000以下、例えば100〜10000程度であるのが好ましく、より好ましくは100〜2000である。重量平均分子量が100未満の場合には、樹脂成分の硬化体と相分離し難くなり、一方重量平均分子量が10000を超えると、ミクロ相分離構造が大きくなりすぎたり、樹脂成型体中から除去し難くなったりする。
【0048】
前記相分離剤の添加量は、該相分離剤と前記樹脂成分の組み合わせに応じて適宜選択出来るが、多孔質樹脂成型体の空孔率を30%以上にするためには、通常樹脂成分100重量部に対して25〜300重量部、より好ましくは30〜200重量部用いることができる。
【0049】
以下、本発明の多孔質樹脂成型体の製造方法について詳しく説明する。
【0050】
まず、前記熱可塑性樹脂成分と相分離化剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を基板上に塗布する。
【0051】
均一な熱可塑性樹脂組成物を調製するために、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、及びアセトンなどのケトン類;N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドなどのアミド類などの有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒の使用量は、樹脂成分100重量部に対して通常100〜500重量部であり、好ましくは200〜500重量部である。
【0052】
基材としては、平滑な表面を有するものであれば特に制限されず、例えば、PET、PE、及びPPなどのプラスチックフィルム;ガラス板;ステンレス、銅、及びアルミニウムなどの金属箔が挙げられる。連続して樹脂シートを製造するために、ベルト状の基材を用いてもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物を基材上に塗布する方法は特に制限されず、連続的に塗布する方法としては、例えば、ワイヤーバー、キスコート、及びグラビアなどが挙げられ、バッチで塗布する方法としては、例えば、アプリケーター、ワイヤーバー、及びナイフコーターなどが挙げられる。
【0054】
次に、基板上に塗布した熱可塑性樹脂組成物を硬化させて、相分離化剤がミクロ相分離した熱可塑性樹脂シートを作製する。ミクロ相分離構造は、通常、樹脂成分を海、相分離化剤を島とする海島構造となる。
【0055】
熱可塑性樹脂組成物が溶媒を含まない場合には、塗布膜に熱硬化処理などの硬化処理を施し、塗布膜中の熱可塑性樹脂成分を硬化させて相分離化剤を不溶化する。
【0056】
熱可塑性樹脂組成物が溶媒を含む場合には、塗布膜中の溶媒を蒸発(乾燥)させてミクロ相分離構造を形成した後に熱可塑性樹脂成分を硬化させてもよく、熱可塑性樹脂成分を硬化させた後に溶媒を蒸発(乾燥)させてミクロ相分離構造を形成してもよい。溶媒を蒸発(乾燥)させる際の温度は特に制限されず、用いた溶媒の種類により適宜調整すればよいが、通常10〜250℃であり、好ましくは60〜200℃である。
【0057】
次に、熱可塑性樹脂シートからミクロ相分離した相分離化剤を除去して多孔質樹脂層を作製する。なお、相分離化剤を除去する前に熱可塑性樹脂シートを基材から剥離しておいてもよい。
【0058】
熱可塑性樹脂シートから相分離化剤を除去する方法は特に制限されないが、溶剤で抽出する方法が好ましい。溶剤は、相分離化剤に対して良溶媒であり、かつ熱可塑性樹脂成分の硬化体を溶解しないものを用いる必要があり、例えば、トルエン、エタノール、酢酸エチル、及びヘプタンなどの有機溶剤、液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素、超臨界二酸化炭素などが挙げられる。液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素及び超臨界二酸化炭素は、樹脂シート内に浸透しやすいため相分離化剤を効率よく除去することができる。
【0059】
溶剤として液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を用いる場合には、通常、圧力容器を用いる。圧力容器としては、例えば、バッチ式の圧力容器、耐圧性のシート繰り出し・巻き取り装置を有する圧力容器などを用いることができる。圧力容器には、通常、ポンプ、配管、及びバルブなどにより構成される二酸化炭素供給手段が設けられている。
【0060】
液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素で相分離化剤を抽出する際の温度及び圧力は、二酸化炭素の臨界点以上であればよく、通常、32〜230℃、7.3〜100MPaであり、好ましくは40〜200℃、10〜50MPaである。
【0061】
抽出は、熱可塑性樹脂シートを入れた圧力容器内に、液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を連続的に供給・排出して行ってもよく、圧力容器を閉鎖系(投入した樹脂シート、液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素が容器外に移動しない状態)にして行ってもよい。超臨界二酸化炭素および亜臨界二酸化炭素を用いた場合には、熱可塑性樹脂シートの膨潤が促進され、かつ不溶化した相分離化剤の拡散係数の向上によって効率的に熱可塑性樹脂シートから相分離化剤が除去される。液化二酸化炭素を用いた場合には、前記拡散係数は低下するが、熱可塑性樹脂シート内への浸透性が向上するため効率的に樹脂シートから相分離化剤が除去される。
【0062】
抽出時間は、抽出時の温度、圧力、相分離化剤の配合量、及び樹脂シートの厚みなどにより適宜調整する必要があるが、通常、1〜10時間であり、好ましくは2〜10時間である。
【0063】
一方、溶剤として有機溶剤を用いて抽出する場合、大気圧下で相分離化剤を除去できるため、液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を用いて抽出する場合に比べて多孔質樹脂層の変形を抑制できる。また、抽出時間を短縮することもできる。さらに、有機溶剤中に順次熱可塑性樹脂シートを通すことにより、連続的に相分離化剤の抽出処理を行うことができる。
【0064】
有機溶剤を用いた抽出方法としては、例えば、有機溶剤中に熱可塑性樹脂シートを浸漬する方法、熱可塑性樹脂シートに有機溶剤を吹き付ける方法などが挙げられる。相分離化剤の除去効率の観点から浸漬法が好ましい。また、数回に亘って有機溶剤を交換したり、撹拌しながら抽出することで効率的に相分離化剤を除去することができる。
【0065】
相分離化剤を除去した後に多孔質樹脂層を乾燥処理等してもよい。
【0066】
本発明においては、相分離化剤として加熱により蒸発または分解できるものを用いた場合は、上記抽出の前に、相分離化剤を加熱して蒸発又は分解することで除去する方法と組み合わせることもできる。相分離化剤を加熱いより蒸発又は分解する場合の加熱温度は、相分離化剤の沸点、分解温度に応じて適宜選択できるが、一般に100℃以上、例えば100〜500℃、好ましくは250〜450℃程度である。蒸発、分解操作は、前記相分離化剤の除去効率を高めるため、減圧下(例えば、1mmHg以下)で行うことが好ましい。蒸発又は分解と抽出操作とを組み合わせて行うので、一方の操作では除去出来ない添加剤の残渣を他の操作により完全に取り除くことが出来、比誘電率の極めて低い多孔質体を得ることが出来る。
【0067】
(多孔質樹脂層)
本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートに用いる多孔質樹脂層は、1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることが好ましい。多孔質樹脂層の比誘電率が2.0以下であれば、モーター用電気絶縁性樹脂シートの1GHzにおける比誘電率を2.0以下にすることが可能となり、モーターの絶縁部材として使用した際に、耐サージ電圧による絶縁破壊を防止することができる。一方1GHzにおける比誘電率が2.0を超えると、モーター用電気絶縁性樹脂シートを構成した際に、比誘電率を2.0以下にすることが困難となる。本発明においては、多孔質樹脂層の1GHzにおける比誘電率は、1.9以下、さらに1.8以下であることが好ましい(通常1.4以上)。なお比誘電率は、多孔質樹脂層固有の比誘電率に依存するが、空孔率を高くすることで低誘電化することが可能である。
【0068】
本発明において多孔質樹脂層の比誘電率は、空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。
【0069】
本発明の多孔質樹脂層の厚さは10〜500μmであることが好ましく、さらに好ましくは20〜300μmである。多孔質樹脂層の厚さが10〜500μmの範囲であれば、モーター用電気絶縁性樹脂シートにおいて、絶縁性を維持できるという利点がある。一方多孔質樹脂シートの厚さが10μm未満であると、絶縁破壊が起こりやすく、500μmを超えるとコイル線の巻数が低下して、モーター出力が低下するという不具合が発生する恐れがある。
【0070】
本発明の多孔質樹脂層に含まれる気泡の平均気泡径は、5.0μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.5μm以下であり、特に4.0μm以下であることが好ましい(通常0.01μm以上)。多孔質樹脂層の平均気泡径が5.0μm以下であれば、絶縁性や機械強度を低下させることなく比誘電率を低くすることができるという利点があり、5.0μmを超えると絶縁性や機械強度が低下する場合がある。
【0071】
本発明の多孔質樹脂層に含まれる気泡の平均気泡径は、多孔質樹脂層の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製「S−3400N」)で観察したのち、その画像を画像処理ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。気泡径の大きいほうから50個の気泡について平均値をとり、平均気泡径とした。
【0072】
また本発明の多孔質樹脂層の空孔率は、30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは40%以上である。多孔質樹脂層の空孔率が30%以上であれば、多孔質樹脂層内に均等な空孔が存在する状態となり誘電特性のバラツキが低減され、低誘電率化を図れるという利点があり、30%未満であると空孔形成状態が偏より誘電特性のバラツキが発生しやすくなり、比誘電率を下げることができない場合がある。
【0073】
本発明の多孔質樹脂層の空孔率は、多孔化前の熱可塑性樹脂組成物、および多孔化後の多孔質樹脂層の比重を測定し、下記式より算出した。
空孔率(%)=[1−(多孔質樹脂層の比重/多孔化前の熱可塑性樹脂組成物の比重)]×100
【0074】
(モーター用電気絶縁性樹脂シート)
次に、本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートについて、図1を参照して、説明する。
【0075】
図1は、本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シートの一実施形態についての断面図である。図1において(a)は、多孔質樹脂層のみからなるモーター用電気絶縁性樹脂シートを厚さ方向に切断した断面を模式的に示しており、(b)〜(d)は多孔質樹脂層に他のシート材をさらに備えたモーター用電気絶縁性樹脂シートを厚さ方向に切断した断面を模式的に示している。モーター用電気絶縁性樹脂シートのその他の形状については特に限定されず、シート状、テープ状であってもよく、また適宜必要な形状に打ち抜き加工されてもよく、さらには3次元的な折り曲げ加工がなされていても良い。
【0076】
すなわち図1(a)においては、多孔質樹脂層2のみから形成されているモーター用電気絶縁性樹脂シート1を示している。多孔質樹脂層2の厚みは前述したとおりである。
【0077】
また図1(b)は、多孔質樹脂層2の片面側にシート材3が配されたモーター用電気絶縁性樹脂シート1を示している。シート材3を備えることで、モーター用電気絶縁性樹脂シート1の強度や滑り性が向上するという利点がある。
【0078】
前記シート材3は、例えば、不織布、紙、又はフィルム等が挙げられるが、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性がより優れたものになり得るという点で、不織布、紙又は耐熱性を有するフィルムが好ましい。
【0079】
また前記シート材3は、モーター用電気絶縁性樹脂シートの1GHzにおける比誘電率を2.0以下とするために、低い比誘電率を有することが好ましく、例えば1GHzにおける比誘電率が3.5以下、好ましくは3.0以下であることが望ましい。
【0080】
前記シート材3の厚さは、特に限定されるものではなく、通常、5〜100μm、好ましくは5〜50μmである。シート材3の厚さが5μm未満であると、モーター用電気絶縁性樹脂シートに強度を付与することが困難となり、100μmを超えるとモーター用電気絶縁性樹脂シートとしての厚さが増しコイル線の巻数が低下してモーター出力が低下したり、モーター用電気絶縁性樹脂シートの比誘電率を低くすることが困難になるといった不具合が発生する。
【0081】
前記シート材3としては、湿式抄紙法により作製されたもの(湿式不織布等)、大気中で乾式法により作製されたもの(乾式不織布等)などが挙げられる。前記シート材3としては、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性がより優れたものになり得るという点で、湿式抄紙法により作製された紙が好ましい。
【0082】
紙の材質としては、ポリアミド、ポリエステルなどの合成高分子化合物、セルロースなどの天然高分子化合物等が挙げられ、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性がより優れたものになり得るという点で、ポリアミド好ましい。
【0083】
該ポリアミドとしては、構成モノマーの全てが芳香族炭化水素を有する全芳香族ポリアミド、構成モノマーの全てが脂肪族炭化水素のみを有する脂肪族ポリアミド、構成モノマーの一部が芳香族炭化水素を有する半芳香族ポリアミドなどが挙げられ、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性がより優れたものになり得るという点で、全芳香族ポリアミドが好ましい。すなわち、前記シート材3は、前記全芳香族ポリアミドを含んでいることが好ましい。
【0084】
また、前記紙としては、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性がより優れたものになり得るという点で、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙がさらに好ましい。即ち、全芳香族ポリアミド繊維を用いて湿式抄紙法により作製された全芳香族ポリアミド紙がさらに好ましい。
【0085】
前記全芳香族ポリアミド紙(アラミド紙)としては、例えば、アミド基以外がベンゼン環で構成されたフェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物(全芳香族ポリアミド)を繊維化し、繊維化した全芳香族ポリアミド繊維を主たる構成材として形成されたものが挙げられる。
【0086】
前記全芳香族ポリアミド紙は、力学的特性に優れ、モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造工程におけるハンドリングが良好であるという点で、坪量が5g/m2以上であることが好ましい。坪量が5g/m2以上であることにより、力学的強度の不足が抑制されモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造中に破断しにくいという利点がある。
【0087】
なお、前記全芳香族ポリアミド紙には、本発明の効果を損なわない範囲において他の成分を加えることができ、該他の成分としては、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維やガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維、アルミナ繊維などの無機繊維が挙げられる。
【0088】
このような前記全芳香族ポリアミド紙としては、デュポン社より「ノーメックス」などの商品名で市販されているもの等を用いることができる。
【0089】
前記シート3として、耐熱性を有するフィルムも用いることができ、モーター用電気絶縁性樹脂シートの耐熱性や強度がより優れたものになり得るという点で、ガラス転移温度が150℃以上の耐熱性を有する熱可塑性樹脂からなるフィルムが好適に使用される。そのようなフィルムとしては、例えばポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0090】
また図1(c)は、多孔質樹脂層2の両面にシート材3が配されたモーター用電気絶縁性樹脂シート1を示している。この場合、多孔質樹脂層2に配されるシート材3は、両面側とも同じシート材であってもよく、異なるシート材であってもよい。すなわち、多孔質樹脂層2の一方の面にシート材3が配され、もう一方の面にも同じシート材3が配されていてもよく、あるいは多孔質樹脂層2の一方の面にシート材3が配され、もう一方の面には異なるシート材3´が配されていても良い。このようなシート材3およびシート材3´は前記したシート材を用いることができる。
【0091】
また図1(d)は、シート材3の両面に多孔質樹脂層2を配されたモーター用電気絶縁性樹脂シート1を示している。この場合、シート材3に配される多孔質樹脂層2は、両面側とも同じ多孔質樹脂層であってもよく、異なる多孔質樹脂層であってもよい。すなわち、シート材3の一方の面に多孔質樹脂層2が配され、もう一方の面にも同じ多孔質樹脂層2が配されていてもよく、あるいはシート材3の一方の面に多孔質樹脂層2が配され、もう一方の面には異なる多孔質樹脂層2´が配されていても良い。
【0092】
なお図1の(b)、(c)及び(d)に示す多孔質樹脂層2にシート材3を配するモーター用電気絶縁用樹脂シートにおいては、多孔質樹脂層2にシート材3を配するため、本発明の効果を損なわない限り、適宜接着剤や粘着剤を用いても良い(図示していない)。このような目的で使用される接着剤や粘着剤は特に限定されず、従来周知のものを用いることができ、例えばエポキシ接着剤、ウレタン接着剤、アクリル接着剤等を挙げることができる。
【0093】
前記シート材3の多孔質樹脂層2側には、コロナ処理を施すことができる。該コロナ処理が施されていることにより、シート材3と多孔質樹脂層2との間における層間剥離が抑制され得るという利点がある。前記コロナ処理は、多孔質樹脂層2と接するシート材3の一方の面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ荒面化する処理である。前記コロナ処理としては、従来公知の一般的な方法を採用することができる。
【0094】
本発明のモーター用電気絶縁性樹脂シート1の厚さは10〜500μmであることが好ましく、さらに好ましくは20〜300μmである。モーター用電気絶縁性樹脂シート1の厚さが10〜500μmの範囲であれば、モーター用電気絶縁性樹脂シートにおいて、絶縁性を維持できるという利点がある。一方多孔質樹脂シートの厚さが10μm未満であると、絶縁破壊が起こりやすく、500μmを超えるとコイル線の巻数が低下して、モーター出力が低下するという不具合が発生する恐れがある。
【実施例】
【0095】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0096】
〔測定及び評価方法〕
(比誘電率)
空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。
【0097】
(平均気泡径)
多孔質樹脂層を液体窒素で冷却し、刃物を用いてシート面に対して垂直に切断して評価サンプルを作製した。サンプルの切断面にAu蒸着処理を施し、該切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製「S−3400N」)で観察した。その画像を画像処理ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。気泡径の大きいほうから50個の気泡について平均値をとり、平均気泡径とした。
【0098】
(空孔率)
発泡前の熱可塑性樹脂組成物、および発泡後の多孔質樹脂層の比重を比重計(Alfa Mirage社製「MD−300S」)により測定し、下記式より算出した。
空孔率(%)=[1−(多孔質樹脂層の比重/多孔化前の熱可塑性樹脂組成物の比重)]×100
【0099】
(部分放電開始電圧)
50mm×50mmに切り出した試料を真鍮電極とステンレス板間挟み、交流電源を接続し、200V/秒で0kVから電圧を印加し、電荷量が100Pcを示したときの印加電圧(放電開始電圧)Vpeakを測定した。本発明においては、部分放電開始電圧が1200Vpeak以上であれば良い。
【0100】
(耐熱性の評価)
シートの流れ方向に沿って15mm幅で切断した試験サンプルを作製した。作製したサンプルを220℃に加熱した恒温槽に1000時間放置した。恒温槽に放置する前と後のサンプルについて、JIS C2151における「引張強さ」に準じ、23℃において、200mm/分、標線100mmの条件で引張試験を行い、引張強度を測定した。下記の式により、強度残率を算出した。
強度残率(%)= [(放置後の引張強度)/(放置前の引張強度)]×100
本発明においては、上記評価で得られる強度残率が50%以上であれば良い。
【0101】
実施例1
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg217℃ 比重1.27)を二軸押出機により厚さ120μmの単層シートとした。未発泡の単層シートを、500ccの耐圧容器に入れ、槽内を200℃、25MPaの二酸化炭素雰囲気中に0.5時間保持することにより、二酸化炭素を含浸させた。その後、300MPa/秒でこのシートを大気圧に戻した後、厚さ200μmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂層を得た。得られた多孔質樹脂層の平均気泡径は4.1μm、空孔率は55%、比誘電率は1.8(1GHz)であった。
【0102】
実施例2
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg217℃ 比重1.27)と、相分離化剤としてポリプロピレングリコール(日油社製、商品名「ユニーオールD−400」、平均分子量400)を重量比100:75で、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ、固形分濃度20%の熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布し、その後110℃で10分乾燥させてNMPを蒸発除去し、厚さ100μmの熱可塑性樹脂シートを得た。
【0103】
この熱可塑性樹脂シートを500ccの耐圧容器に入れ、25℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約15リットル/分の流量で二酸化炭素を注入、排気してポリプロピレングリコールを抽出する操作を5時間行い、厚さ100μmのポリエーテルイミドからなる多孔質樹脂層とした。得られた多孔質樹脂層の平均気泡径は3.2μm、空孔率は66%、比誘電率は1.7(1GHz)であった。
【0104】
実施例3
ポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg217℃ 比重1.27)とポリエーテルイミド樹脂(SABIC社製、商品名「ウルテムXH6050」、Tg247℃ 比重1.30)を質量比40:60になるように二軸押出機により混練し厚さ120μmの単層シートを得た以外は、実施例1と同様の方法で厚さ200μmの多孔質樹脂層を得た。得られた多孔質樹脂層の平均気泡径は3.9μm、空孔率は49%、比誘電率は1.9(1GHz)であった。
【0105】
比較例1
実施例2の相分離化剤を添加しない以外は、同様な方法で厚さ100μmのポリエーテルイミドからなる無孔の樹脂層を得た。得られた無孔樹脂層の比誘電率は2.7(1GHz)であった。
【0106】
比較例2
ポリエチレンナフタレート(PEN)の無孔フィルム(帝人デュポンフィルム社製商品名「テオネックス100μm」)を電気絶縁性樹脂シートとした。
【0107】
各実施例及び比較例における評価結果を、表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
実施例1〜3は、空孔形成により比誘電率を2.0以下とすることができ、同じ厚さの無孔樹脂層と比べ部分放電開始電圧を高めることができることが確認された。また、耐熱性についても、実施例1、2は無孔樹脂層と同様の高耐熱性を維持していることが確認された。特に実施例3では、耐熱性が向上し強度残率の高いものが作製できることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
1 モーター用電気絶縁性樹脂シート
2(2´) 多孔質樹脂層
3(3´) シート材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む多孔質樹脂層を備えているモーター用電気絶縁性樹脂シートであって、1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シート。
【請求項2】
前記多孔質樹脂層は、平均気泡径が5.0μm以下であり、空孔率が30%以上となる気泡を有することを特徴とする、請求項1に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンから選ばれるいずれか1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が異なる2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物であることを特徴とする、請求項1〜3に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シート。
【請求項5】
前記多孔質樹脂層の少なくとも片面にシート材を備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法であって、
少なくとも熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に非反応性ガスを加圧下で含浸させるガス含浸工程、ガス含浸工程後に圧力を減少させて熱可塑性樹脂組成物を発泡させる発泡工程、により多孔質樹脂層を製造することを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記発泡工程後に、150℃以上の温度で多孔質樹脂層を加熱する加熱工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
非反応性ガスが二酸化炭素であることを特徴とする、請求項6または7に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項9】
非反応性ガスを超臨界状態で含浸させることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載のーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂の硬化体と相分離する相分離剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を基板上に塗布し、乾燥あるいは硬化させてミクロ相分離構造を有する熱可塑性樹脂シートを作製する工程、熱可塑性樹脂シートから相分離化剤を除去する工程、により多孔質樹脂層を製造することを特徴とする、モーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項11】
相分離化剤を溶剤抽出により除去することを特徴とする、請求項10に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。
【請求項12】
溶剤が液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素または超臨界二酸化炭素から選ばれる一種であることを特徴とする、請求項11に記載のモーター用電気絶縁性樹脂シートの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−182116(P2012−182116A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19948(P2012−19948)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】