説明

モータ内蔵自転車用ハブ

【課題】モータ内蔵自転車用ハブにおいて、フレーム取付部分のハブ軸方向長さを可及的に短くする。
【解決手段】モータ内蔵ハブ10は、ハブ軸15とモータケース17とを備えている。モータケース17は、フロントフォーク103aを受け入れ可能な凹部32aを有し、モータを収容する。このモータ内蔵ハブでは、自転車の前フレームを受け入れ可能な凹部32aをモータケースが有している。ここでは、凹部に、フレームのたとえば、車輪が装着されるフロントフォークの先端部を配置可能である。このため、凹部の周囲に空間を形成することができ、その空間を利用して電装品等を収納できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用ハブ、特に、自転車の車輪のハブを構成するモータ内蔵自転車用ハブに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車において、人力による駆動力をモータにより補助するアシスト自転車が従来知られている。アシスト自転車には、車輪にモータが設けられているモータ内蔵ハブを採用しているものがある。従来のモータ内蔵ハブにおいて、モータを駆動する、たとえばインバータ等のモータ制御回路が内部に配置されているものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のモータ内蔵ハブは、ハブ軸と、ハブ軸の第1端側に固定された第1ケース部材と、ハブ軸の第2端側および第1ケース部材に回転自在に装着された第2ケース部材と、コイルを有するロータと、第1ケース部材に固定された磁石と、を有している。第1ケース部材はロータを挟んで第2ケース部材の内部にも配置されている。モータ制御回路は、ロータを挟んで配置された第2ケース部材の内部で第1ケース部材に収納されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−095179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の構成では、モータ制御回路がハブの内部に配置されているため、モータ内蔵ハブのフレーム取付部分のハブ軸方向長さが長くなる。モータ内蔵ハブのフレーム取付部分のハブ軸方向長さが長くなると、既存のフレームにモータ内蔵ハブを取り付けることができず、モータ内蔵ハブを装着するための専用のフレームが必要になる。
【0006】
本発明の課題は、モータ内蔵自転車用ハブにおいて、フレーム取付部分のハブ軸方向長さを可及的に短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係るモータ内蔵自転車用ハブは、自転車の車輪のハブを構成する自転車用モータ内蔵ハブである。ハブ軸と、モータケースと、を備えている。モータケースは、フレームを受け入れ可能な凹部を有し、モータを収容する。このため、凹部の周囲においてモータケース内に空間を形成することができ、その空間を利用して電装品またはモータの一部等を収納できる。このため、モータ内蔵ハブのフレーム取付部分のハブ軸方向長さを可及的に短くすることができる。
【0008】
発明2に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明1に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、凹部は、自転車の前フレームの一部であるフロントフォークの先端部分を受け入れ可能である。
【0009】
この場合には、後輪のチェーンステイを凹部に受け入れる場合よりも、凹部を小さく形成することができるので、凹部の周囲においてモータケース内に大きな空間を形成できる。
【0010】
発明3に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明1又は2に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、モータ制御回路をさらに備える。モータケースは、凹部を形成し、ハブ軸方向外方に膨出して内部に第1空間が形成される膨出部を有する。モータ制御回路は、第1空間に配置される。
【0011】
この場合には、モータ制御回路をモータ内蔵ハブに設けても、フレーム取付部分のハブ軸方向長さが可及的に短くなる。
【0012】
発明4に係る自転車用モータ内蔵ハブは、発明1から3のいずれかに係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、モータケースは、ハブ軸に回転不能に連結される第1ケース部材と、ハブ軸および第1ケース部材に回転自在に支持され第1ケース部材とで内部に第2空間を形成可能な第2ケース部材とを有する。凹部は、第1ケース部材に設けられる。
【0013】
この場合には、凹部がハブ軸に回転不能に連結される第1ケース部材に設けられるので、ハブ軸をフレームに固定すると、凹部とフレームとが相対回転しなくなる。
【0014】
発明5に係る自転車用モータ内蔵ハブは、発明4に係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、第1ケース部材は、ハブ軸に回転不能に連結されかつ第2ケース部材を支持するケース本体と、凹部及び膨出部を有し、ケース本体との間で前記第1空間が形成されるカバー部材と、を有する。
【0015】
この場合には、第1ケース部材が、ケース本体と、凹部を有するカバー部材とで構成されるので、第1空間の形成が容易であり、かつ凹部を形成しやすくなる。
【0016】
発明6に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明5に係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、チューブ部材をさらに備え、カバー部材は、ケース本体の外方に突出し、フロントフォークに沿って配置可能な配線接続部をさらに有し、チューブ部材の一端部は、第2空間の一部に配置され、チューブ部材の他端部は、配線接続部に配置されている。
【0017】
この場合には、チューブ部材の一端部が第2空間の一部に配置され、他端部がフロントフォークに沿って配置可能な配線接続部に配置されるので、第2空間内の気圧が外気に近い配線接続部内の気圧と同じになり、第2空間内部において、気圧の変動による結露等の不具合を抑制することができる。
【0018】
発明7に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明3から6のいずれかに係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、モータ制御回路は、モータを駆動するためのインバータ回路を有する。
【0019】
この場合には、モータを駆動するためのインバータ回路が第1空間内に配置されるので、モータとインバータ回路との配線が容易になる。
【0020】
発明8に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明7に係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、インバータ回路は、半導体駆動素子を有する。
【0021】
この場合には、インバータ回路が有する半導体駆動素子により、モータを駆動する。
【0022】
発明9に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明8に係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、膨出部の内側面と半導体駆動素子との間に配置され、膨出部および半導体駆動素子に接触する放熱部材をさらに備える。
【0023】
この場合には、放熱部材を介して、たとえば電界効果トランジスタ等の半導体駆動素子で発生する熱を、外気に接触する膨出部に効率よく伝導することができ、半導体駆動素子が過熱してしまうことを抑制することができる。
【0024】
発明10に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明3から9のいずれかに係るモータ内蔵自転車ハブにおいて、モータ制御回路は、電力線通信回路を含み、モータケースには、電力線通信回路に電気的に接続される2芯のコネクタが設けられる。
【0025】
この場合には、モータ内蔵ハブと外部の電装品との間の通信及び電力の供給とを2芯の電力線により行えるので、電装品間の配線の数を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、モータケースに設けられる凹部に、フレームのたとえば、車輪が装着されるフロントフォークの先端部を配置可能である。このため、凹部の周囲においてモータケース内に空間を形成することができ、その空間を利用して電装品またはモータの一部等を収納できる。このため、モータ内蔵ハブのフレーム取付部分のハブ軸方向長さを可及的に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態が採用される自転車の右側面図。
【図2】モータ内蔵ハブの右側面図。
【図3】モータ内蔵ハブの図2の切断面線III−IIIにおける断面図。
【図4】モータ内蔵ハブの左斜視図。
【図5】モータ内蔵ハブの右斜視図。
【図6】モータ内蔵ハブの分解斜視図。
【図7】基板カバーの背面図。
【図8】モータ制御回路の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<自転車の全体構成>
図1において、本発明の一実施形態を採用した自転車は人力よる駆動をモータ内蔵ハブ10により補助するアシスト自転車である。自転車は、フレーム体102及びフロントフォーク103を有するフレーム101と、ハンドル部104と、駆動部105と、前輪106fと、後輪106rと、フロントブレーキ装置107f及びリアブレーキ装置107rと、前照灯23と、尾灯24と、を備えている。フロントフォーク103は、フレーム体102の前部に斜めの軸回りに揺動自在に装着されている。フロントフォーク103の先端部にモータ内蔵ハブ10が装着されている。フロントブレーキ装置107f及びリアブレーキ装置107rは、前輪106f及び後輪106rのリム121f及び121rにそれぞれ接触して制動する。
【0029】
フレーム101には、サドル111やハンドル部104を含む各部が取り付けられている。駆動部105は、フレーム体102のハンガー部に回転自在に支持されたクランク軸116と、クランク軸116の両端に固定されたギアクランク118a及び左クランク(図示せず)と、ギアクランク118aに掛け渡されたチェーン119と、後輪106rのリアハブ110に装着されたギア109と、フロントディレーラ108fと、リアディレーラ108rと、を有している。
【0030】
フロントディレーラ108fは、ギアクランク118aに装着された、たとえば3枚のスプロケットのいずれかにチェーン119を架け渡すものである。リアディレーラ108rは、リアハブ110に取り付けられた、ギア109のたとえば9枚のスプロケットのいずれかにチェーン119を架け渡すものである。フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rは、いずれも電動駆動されるものであり、電動アクチュエータと、現在の変速段を検出する段数センサと、これらを制御するディレーラ制御部と、をそれぞれ有している。ハンドルバー115には、変速を指示する変速スイッチが設けられ、変速スイッチの操作に応じて、前記ディレーラ制御部が電動アクチュエータを制御する。本実施の形態では、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rは電動駆動されるが、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rは変速レバーにワイヤーで連結され、変速レバーによってワイヤーを引っ張ることによって変速駆動される構成であってもよい。
【0031】
フレーム体102の後上部には、リアキャリア112が取り付けられている。リアキャリア112には、自転車全体の電装品を制御する全体制御部12を含むリアキャリアユニット13が装着されている。リアキャリアユニット13は、モータ内蔵ハブ10、全体制御部12及び前照灯23等の電装品の電源となる蓄電部14を着脱可能に搭載している。蓄電部14は、たとえばニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等の蓄電池を含んで構成される。蓄電部14に尾灯24が一体で取り付けられている。
【0032】
ハンドル部104は、フロントフォーク103の上部に固定されたハンドルステム114と、ハンドルステム114に固定されたバーハンドル型のハンドルバー115とを有している。ハンドルバー115の両端には、左ブレーキレバー16f及び右ブレーキレバー16rと、が装着されている。また、ハンドルバー115の中央部には、表示ユニット18と、前照灯23とが装着されている。表示ユニット18は、たとえばアシストモード及び回生制動モードなどの動作モードを表示可能である。
【0033】
<モータ内蔵ハブ>
モータ内蔵ハブ10は、自転車の前輪106fのハブを構成するものである。モータ内蔵ハブ10は、フロントフォーク103の先端に装着されており、人力による駆動を補助するためのものである。モータ内蔵ハブ10は、たとえば3相のブラシレスDCモータを含んでいる。モータ内蔵ハブ10は、図2に示すように、ハブ軸15と、ハブ軸15に装着されるモータケース17と、を有している。また、モータ内蔵ハブ10は、図3に示すように、モータケース17内に収納されたモータ11と、モータ制御回路19と、回転伝達機構25と、を有している。
【0034】
<ハブ軸>
ハブ軸15は、たとえば、鋼鉄製であり、フロントフォーク103の先端の前爪部103aに両端部が回転不能に装着可能である。ハブ軸15の両端外周面には、フロントフォーク103に固定するためのナット部材50が螺合する左右1対の第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bが形成されている。また、第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bの外周面には、互いに平行な二面を有する第1係止部15c及び第2係止部15dが形成されている。第2係止部15dのハブ軸方向内方には、モータケース17の後述する第1ケース部材32を回転不能に連結するための回転係止部15eが形成されている。第1雄ねじ部15aには、ナット部材50と、ロックナット51と、が螺合している。第2雄ねじ部15bには、ナット部材50と、第1ケース部材32をハブ軸15に固定するナット部材52と、が螺合している。ナット部材50の軸方向内方には、第1係止部15c及び第2係止部15dに各別に回転不能に係合し、かつフロントフォーク103の装着溝103bに係合してハブ軸15を回り止めするための回り止めワッシャ54が装着されている。
【0035】
また、第1雄ねじ部15aのハブ軸方向内方には、モータケース17の後述する第2ケース部材34の第2端を回転自在に支持する第2軸受31が螺合する第3雄ねじ部15fが形成されている。ハブ軸15の中間部分は、第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bより大径である。
【0036】
<モータケース>
図2、図3,図4、図5及び図6に示すように、モータケース17は、ハブ軸15に回転不能に連結される第1ケース部材32と、第1ケース部材32に第1端(図3右端)が、ハブ軸15に第2端(図3左端)がそれぞれ回転自在に支持される第2ケース部材34と、を有している。第2ケース部材34は、たとえばアルミニウム合金によって形成される。第1ケース部材32は、外側面に形成されフロントフォーク103の先端部を受け入れ可能な凹部32aと、凹部32aを形成し、ハブ軸方向外方に膨出する膨出部32bと、を有している。膨出部32bの内部には第1空間32cが形成されている。第2ケース部材34と第1ケース部材32とで内部に第2空間34aが形成される。
【0037】
第1ケース部材32は、ハブ軸15に回転不能に装着されるケース本体36と、ケース本体36の外側面に複数本(たとえば、5本)の取付ボルト37により固定されるカバー部材38と、を有している。カバー部材38とケース本体36との間には、第1空間32cが形成される。ケース本体36およびカバー部材38は、たとえばアルミニウム合金によって形成される。
【0038】
ケース本体36は、ハブ軸15に回転不能に連結される第1ボス部36aと、第1ボス部36aと一体形成される第1円板部36bと、第1円板部36bの外周部から第2ケース部材34に向かって延びる筒状の第1円筒部36cと、を有している。第1ボス部36aの内周面には、ハブ軸15の回転係止部15eに回転不能に連結される非円形の連結孔36dが形成されている。第1円板部36bの外側面は概ね平坦面である。この外側面にハブ軸15方向外方に突出して形成された複数の取付ボス36eが形成される。前記取付けボス36eに取付ボルト53によってモータ制御回路19が固定されている。第1円筒部36cの外周面には、第2ケース部材34の第1端を回転自在に支持する、たとえば玉軸受の形態の第1軸受30の内輪30aが装着されている。第1軸受30の外側には、第1円筒部36cと外輪30bとの間をシールするシール部材30cが配置されている。また、外輪30bと第2ケース部材34との間には、シール用のOリング60が配置されている。さらに第1ボス部36aの内周部とハブ軸15との間には、シール用のOリング61が配置されている。これにより、第1ケース部材32の外側から第2ケース部材34内の第2空間34aに異物が侵入しにくくなる。
【0039】
カバー部材38は、外側面に前述した凹部32a及び膨出部32bを有している。カバー部材38の内側面において、カバー部材38とケース本体36との間には、モータ制御回路19が配置される第1空間32cへの液体の浸入を抑制するシール部材62が配置されている。シール部材62は、カバー部材38の内側面において、凹部32aの外側及び膨出部32bの外周部に配置されている。シール部材62は、防水性および弾発性を有するゴムなどによって形成される。シール部材62は、図3及び図6に示すように、ケース本体36の第1円板部36bの外側面に形成されたシール溝36fに装着されている。
【0040】
凹部32aは、図2及び図4に示すように、概ねU字状に凹んで形成されており、本実施の形態では、ハブ軸15が貫通する中心部から僅かに先広がりに概ねU字状に凹んで形成されている。凹部32aは様々な形状のフロントフォークを挿入可能にするために、通常のフロントフォークの先端の形状より僅かに幅広に形成されている。
【0041】
膨出部32bの内部に、ケース本体36とカバー部材38とによって形成される第1空間32cは、概ね馬蹄形状となっている。第1空間32cには、第1円板部36bに固定されたモータ制御回路19が配置されている。膨出部32bの内側面には、モータ制御回路19のシート装着溝32dが形成されている。シート装着溝32dは、複数の半導体駆動素子(特に、後述する電界効果トランジスタ44)に臨む位置に設けられ、放熱部材である放熱シート80を位置決めして装着するための溝である。シート装着溝32dは、放熱シート80と同様の形状に形成されている。
【0042】
凹部32aの一方の縁部には、配線接続部38aがケース本体36の周方向外方に突出して形成されている。配線接続部38aは膨出部32bよりもハブ軸方向に僅かに凹んで形成されている。配線接続部38aは、モータ制御回路19と全体制御部12及び蓄電部14とを接続する2芯の電力線70(図7)を外部に取り出すために設けられている。配線接続部38aは、電力線70を接続可能なコネクタ41を有している。なお、この実施形態では、電力線70は、PLC(電力線通信Power Line Communications)により、電源の供給と信号の通信とを行えるように構成されている。配線接続部38aの先端には、コネクタ41(図7)が設けられている。コネクタ41は、たとえば、2芯の雌コネクタである。
【0043】
配線接続部38aは、図1に示すように、フロントフォーク103の後部に近接してフロントフォーク103に沿って配置されるように形成されている。配線接続部38aには、第1空間32cに連通する第3空間38bが形成されている。図7に示すように、第3空間38bには、隔壁38cにより仕切られた調整空間38dが形成されている。調整空間38dには、チューブ部材である気圧調整チューブ63の先端部(他端部)が配置されている。気圧調整チューブ63は、第2空間34a内の気圧を調整するために設けられている。気圧調整チューブ63は、第1空間32cを通って第2空間34aに基端部(一端部)が配置されている。配線接続部38aの電力線70が通る第3空間38bには、封止剤64が充填されている。封止剤64は、防水性および絶縁性をする樹脂からなり、たとえばシリコン樹脂を含む。配線接続部38aの内側面は、図5に示すように、ねじ49により配線接続部38aに固定された蓋部材39により塞がれている。蓋部材39と配線接続部38aとの間にはシール部材が配置されておらず、調整空間38dには封止剤64が充填されていない。このため、調整空間38d内に外気を導入可能であり、調整空間38dの気圧は、外気と同じ気圧に維持される。したがって、気圧調整チューブ63により第2空間34aも外気と同じ気圧に保たれる。これにより、第2空間34a内の気圧の変動による結露等の不具合が生じにくくなる。
【0044】
第2ケース部材34は、通常の自転車用ハブのハブシェルに類似する構造であり、有底筒状の部材である。第2ケース部材34は、第2軸受31に支持される第2ボス部34bと、第2ボス部34bと一体形成された第2円板部34cと、第2円板部34cの外周部からハブ軸方向内方に筒状に延びる第2円筒部34dと、を有している。
【0045】
第2ボス部34bの内周面には、ハブ軸15との間に第2軸受31が装着されている。第2軸受31は、内輪31aがハブ軸15に形成された第3雄ねじ部15fに螺合して軸方向位置を調整可能である。調整後の内輪31aは、ロックナット51により回り止めされる。外輪31bは、第2ボス部34bの内周面に装着されている。第2軸受31の外側には、第2ボス部34bと内輪31aとの間をシールするシール部材31cが配置されている。また、内輪31aの内周面とハブ軸15の外周面との間にはOリング65が配置されている。これにより、第2ケース部材34の第2端側から第2空間34aに異物が侵入しにくくなる。
【0046】
第2円筒部34dは、第1円筒部36cの外周側に配置されている。第2円筒部34dの第1端側内周面に第1軸受30の外輪30bが装着されている。第2円筒部34dの外周面には、前輪106fのリム121fとモータ内蔵ハブ10とをスポーク122により連結するための第1ハブフランジ40a及び第2ハブフランジ40bがハブ軸方向の両端部に間隔を隔てて形成されている。
【0047】
第1空間32cと第2空間34aとの間に第1円板部36bが設けられているので、第1空間32cに収容されるモータ制御回路19がグリース等によって汚染されにくい。
【0048】
<モータ制御回路>
図8に示すように、モータ制御回路19は、蓄電部14から供給された直流をスイッチングして交流に変換するインバータ回路19aと、電力線通信回路19bと、回転センサ19cと、を有している。インバータ回路19aは、デューティ比を変化させてモータ内蔵ハブ10の駆動力を変化させるともに、モータ内蔵ハブ10を発電機として使用するときの回生制動力を変化させる。インバータ回路19aは、固定子22に接続されている。電力線通信回路19bは、電力線70を介して他の電装品と通信するための回路である。電力線通信回路19bは、コネクタ41に電気的に接続されている。回転位置センサ19cは、前記スイッチングの周波数からモータ内蔵ハブ10の回転および回転速度の少なくともいずれかを検出する。
【0049】
インバータ回路19aは、図6及び図8に示すように、ケース本体36の外側面に固定される回路基板42に搭載される複数(たとえば6つ)の電界効果トランジスタ(FET)44を有している。複数の電界効果トランジスタ44は、放熱シート80に接触して配置されている。これによって電界効果トランジスタ44で発生した熱の一部を、放熱シート80を介してカバー部材38に伝導させて、カバー部材38から外部に熱を放出可能である。
【0050】
電力線通信回路19bは、図6に示すように、回路基板42に搭載されている。電力線通信回路19bは、電力に重畳される制御信号を復号及び変調する信号処理機能等を有する信号処理素子45を有している。回転位置センサ19cは、回路基板42に搭載された演算素子46を有している。回路基板42は、複数本(たとえば、7本)の取付ボルト53によりケース本体36の外側面に突出して形成されたボス部36eに固定されている。回路基板42は、略U字または略C字形状に形成されている。
【0051】
<モータ>
モータ11は、回転子21と、回転子21の外周側に回転子21と対向して配置される固定子22と、を有している。
【0052】
回転子21は、第2空間34a内に配置され、ハブ軸15に回転自在に支持されている。回転子21は、たとえば周方向に複数の磁極を有する図示しない磁石と磁石を保持する磁石保持部とを有している。磁石保持部は、ハブ軸方向に間隔を隔てて配置された2つの軸受66によりハブ軸15に回転自在に支持されている。
【0053】
固定子22は、第2空間34a内で回転子21の外周側に配置されている。固定子22は、ケース本体36の第1円筒部36cの内周面に固定され、周方向に間隔を隔てて配置された図示しない複数(たとえば6つ)のコイルを有している。複数のコイルは、モータ制御回路19のインバータ回路19aの電界効果トランジスタ44によりスイッチングされた交流により順次励磁され、回転子21を自転車の進行方向に回転させる。
【0054】
<回転伝達機構>
回転伝達機構25は、回転子21の回転を第2ケース部材34に伝達し、前輪106fの回転を回転子21に伝達する。回転伝達機構25は、遊星歯車機構48を有している。遊星歯車機構48は、太陽ギア48aと、太陽ギア48aの外周側に配置された内歯ギア48bと、太陽ギア48aと内歯ギア48bとに噛み合う複数(たとえば3つ)の遊星ギア48cと、を有している。太陽ギア48aは、回転子21に固定されている。内歯ギア48bはケース本体36に設けられている。複数の遊星ギア48cは、キャリア48dによって回転可能に支持されている。各遊星ギア48cは、歯数の異なる2つの第1および第2のギア部を有する。第1のギア部は、太陽ギア48aに噛み合い、第2のギア部は、歯ギア48bに噛み合っている。キャリア48dは、第2ケース部材34の第2円板部34cの内側面に固定されている。この遊星歯車機構48では、ケース本体36に設けられた内歯ギア48bがハブ軸15に回転不能に固定されるため、回転子21が連結された太陽ギア48aの回転が減速して第2ケース部材34に伝達される。
【0055】
<モータ内蔵ハブの組み込み手順>
モータ内蔵ハブ10をフロントフォーク103に組み込む際には、フロントフォーク103の先端の前爪部103aの装着溝103bにハブ軸15を装着する。このときフロントフォーク103の先端部をモータ内蔵ハブ10の第1ケース部材32のカバー部材38に凹んだ凹部32aに配置することができるので、モータケース17のフロントフォーク103への装着部分間の長さが長くならない。また、凹部32aの径方向外方に膨出部32bを設け、膨出部32b内にモータ制御回路19を設けるので、モータ制御回路19を内部に設けてもフロントフォーク103への装着部分間のモータ内蔵自転車用ハブの長さが長くならない。このため、既存のハブ取付幅のフロントフォーク103に装着可能なモータ内蔵ハブ10を設計しやすい。
【0056】
ハブ軸15を装着溝103bに装着すると、その両端からナット部材50を装着するとともに、回り止めワッシャ54を装着溝103bに係合させてハブ軸15を回り止めする。この状態でナット部材50を締め込むとモータ内蔵ハブ10がフロントフォーク103に固定される。
【0057】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
(a)前記実施形態では、ブラシレスDCモータを例示したが、コイルが回転するブラシ付きモータにも本発明を適用できる。この場合、回生駆動機能及び周波数変調によりモータを駆動するモータ制御回路を膨出部に設けてもよい。
【0059】
(b)前記実施形態では、モータ内蔵ハブ10にハブブレーキ装置の連結構造を設けていないが、連結構造を設けてもよい。たとえば、ローラブレーキのドラム又はディスクブレーキ用のロータを一体回転可能に連結可能な連結構造を第2ボス部34bの外周面に設けてもよい。
【0060】
(c)前記実施形態では、前輪106fに装着可能なモータ内蔵ハブ10を例示したが、本発明はこれに限定されない。たとえば後輪106rに装着可能なモータ内蔵ハブにも本発明を適用できる。この場合、凹部の形状をチェーンステイとシートステイとの連結部分を受け入れ可能な形状にすればよい。
【0061】
(d)前記実施形態では、第1ケース部材32をケース本体36とカバー部材38とで構成した。しかし、本発明はこれに限定されず、第1ケース部材を一体で形成してもよい。この場合、一体の第1ケース部材の外側面に凹部と膨出部とが形成される。たとえば、第1ケース部材の内部に別体の隔壁を設けて、第1空間と第2空間とを形成してもよく、前記隔壁を設けない構成としてもよい。
【0062】
(e)モータ11の機械的な構成は、上記構成に限定されない。たとえば前記実施形態では、インナーロータのモータであるが、アウターロータのモータであってもよい。
【0063】
(f)前記実施形態では、回転伝達機構として遊星歯車機構を備えているが、遊星歯車機構を用いず、回転子21が第2ケース部材34に直接接続される構成であってもよい。また遊星歯車機構は、回転子21の回転を減速する構成であればよく、上記の構成に限定されない。
【0064】
(g)前記実施形態では、アシスト自転車は外装変速機を有する構成であるが、内装変速機を有する構成であってもよく、変速機を備えない構成であってもよく、本システムはあらゆるアシスト自転車に適用することができる。
【0065】
(h)前記実施形態では、1枚の放熱シート80が複数の電界効果トランジスタ44に接触しているが、複数の放熱シート80を複数の電界効果トランジスタ44に個別に接触させる構成としてもよい。また放熱シート80は、電子基板42に搭載される電界効果トランジスタ44を除く電子部品にも接触するように設けられてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 モータ内蔵ハブ
15 ハブ軸
17 モータケース
19 モータ制御回路
19a インバータ回路
19b 電力線通信回路
32a 凹部
32b 膨出部
32c 第1空間
34 第2ケース部材
34a 第2空間
36 ケース本体
38 カバー部材
38a 配線接続部
41 コネクタ
44 電界効果トランジスタ(半導体駆動素子の一例)
63 気圧調整チューブ(チューブ部材の一例)
80 放熱シート(放熱部材の一例)
101 フレーム
103 フロントフォーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の車輪のハブを構成するモータ内蔵自転車用ハブであって、
ハブ軸と、
フレームを受け入れ可能な凹部を有し、モータを収容するモータケースと、
を備えたモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項2】
前記凹部は、前記自転車の前フレームの一部であるフロントフォークの先端部分を受け入れ可能である、請求項1に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項3】
モータ制御回路をさらに備え、
前記モータケースは、前記凹部を形成し、ハブ軸方向外方に膨出して内部に第1空間が形成される膨出部を有し、
前記モータ制御回路は、前記第1空間内に配置される、請求項1又は2に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項4】
前記モータケースは、前記ハブ軸に回転不能に連結される第1ケース部材と、前記ハブ軸および前記第1ケース部材に回転自在に支持され前記第1ケース部材とで内部に第2空間を形成可能な第2ケース部材とを有し、
前記凹部は、第1ケース部材に設けられる、請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項5】
前記第1ケース部材は、前記ハブ軸に回転不能に連結されかつ前記第2ケース部材を支持するケース本体と、前記凹部を有し、前記ケース本体との間で前記第1空間が形成されるカバー部材と、を有する、請求項4に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項6】
チューブ部材をさらに備え、
前記カバー部材は、前記ケース本体の外方に突出し、前記フロントフォークに沿って配置可能な配線接続部をさらに有し、
前記チューブ部材の一端部は、前記第2空間の一部に配置され、他端部は、前記配線接続部に配置されている、請求項5に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項7】
前記モータ制御回路は、前記モータを駆動するためのインバータ回路を有する、請求項3から6のいずれか1項に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項8】
前記インバータ回路は、半導体駆動素子を有する、請求項7に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項9】
前記膨出部と内側面と前記半導体駆動素子との間に配置され、前記膨出部および前記半導体駆動素子に接触する放熱部材をさらに備える、請求項8に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項10】
前記モータ制御回路は、電力線通信回路を含み、
前記モータケースには、前記電力線通信回路に電気的に接続される2芯のコネクタが設けられる、請求項3から9のいずれか1項に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−255842(P2011−255842A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133829(P2010−133829)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】