説明

モータ制御装置とその異常診断方法

【課題】振動波形信号を平均化処理して雑音成分を除去し、雑音成分除去信号に基づいてシステムの異常診断をするモータ制御装置とその異常診断方法において、効果的に低周波数成分を除去でき、異常診断に必要な振動波形を簡単に計算でき、効果的に異常診断することができるモータ制御装置とその異常診断方法を提供する。
【解決手段】トルク指令信号2を入力して前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を出力するシフィテッド移動平均部9を備え、前記差と予め設定された閾値との比較に基づいて、システムの異常診断をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にロボットや工作機械等に用いられるモータ制御装置に関し、特に、異常診断機能を備えたモータ制御装置とその異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の異常判定方法および装置では、移動平均を用いて信号処理して異常診断で使う。
図9は、従来の異常判定方法および装置における信号処理方法を示すブロック図である。図において、22は断続成分増幅前処理部、23は元データ、24はヒルバート変換部、25は複素数計算部、26は自乗平方根計算部、27は平滑処理部、28はローパスフィルタ、29は断続成分増幅後データであり、元データを包絡線処理と平滑処理をして異常状態を検出している(例えば、特許文献1参照)。断続成分増幅前処理部22は、メモリに格納された時間軸波形である元データ23を実数部とし、また、メモリに格納された時間軸波形である元データ23をヒルバート変換部24によるヒルバート変換後データを虚数部として、複素数計算部25において複素数配列を作る。自乗平方根計算部26において、複素数計算部25で作られた複素数配列の自乗平方根の配列を演算し、平滑処理部27において、自乗平方根計算部26で演算された自乗平方根の配列を移動平均などの平滑処理をし、ローパスフィルタ28において、平滑処理部27で平滑処理された波形から雑音成分等を除き、断続成分増幅後データ29を作成される。
このように、従来の異常判定方法および装置は、元データを包絡線処理(ヒルバート変換部24、複素数計算部25、自乗平方根計算部26)と平滑処理(平滑処理部27、ローパスフィルタ28)をして異常状態を検出している。
【特許文献1】特開平11−173909号公報(第5−13頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図4は、従来の異常判定方法および装置の適用を示す第1の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸は波形振幅を示しており、15は任意の元データ信号、16は移動平均処理(20点)後の移動平均信号である。任意の元データ信号15には、高周波数成分と低周波数成分が含まれており、通常、システムの異常に関する情報は、高周波数成分に含まれている。任意の元データ信号15に従来の移動平均処理(20点)を施した結果である移動平均信号からは高周波数成分が除去される。
【0004】
図5は、従来の異常判定方法および装置の適用を示す第2の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸は誤差波形振幅を示しており、17は任意の元データ信号15と移動平均信号16との誤差信号である。この誤差信号17は、時間によって振幅が漸進的に増えている。つまり、この誤差信号17には低周波数成分が含まれている。
【0005】
従来の異常判定方法および装置は、任意の元データ信号に低周波成分が残ってしまい、異常診断に必要な信号を効果的に抽出できないという問題点があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、効果的に低周波数成分を除去できて、異常診断に必要な振動波形を簡単に計算でき、効果的に異常診断することができるモータ制御装置とその異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、振動波形信号を平均化処理して雑音成分を除去し、雑音成分除去信号に基づいてシステムの異常診断をするモータ制御装置において、トルク指令信号を入力して前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を出力するシフィテッド移動平均部を備え、前記差と予め設定された閾値との比較に基づいて、システムの異常診断をするものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明における前記シフィテッド移動平均部が、前記トルク指令信号を任意点数の移動平均処理して移動平均信号を算出し、前記移動平均信号を時間軸に対してシフトさせたシフィテッド移動平均信号を算出し、前記トルク指令信号と前記シフィテッド移動平均信号との誤差信号である前記雑音成分除去信号を算出し、前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を算出するものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2記載の発明における前記シフトは、前記任意点数の半分だけ時間進め処理するものである。
請求項4に記載の発明は、振動波形信号を平均化処理して雑音成分を除去し、雑音成分除去信号に基づいてシステムの異常診断をするモータ制御装置の異常診断方法において、トルク指令信号を任意点数の移動平均処理して移動平均信号を算出し、前記移動平均信号を時間軸に対してシフトさせたシフィテッド移動平均信号を算出し、前記トルク指令信号と前記シフィテッド移動平均信号との誤差信号である前記雑音成分除去信号を算出し、前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を算出し、前記差と予め設定された閾値との比較に基づいてシステムの異常診断をするのである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項4記載の発明における前記シフトは、前記任意点数の半分だけ時間進め処理するのである
【発明の効果】
【0007】
請求項1または4に記載の発明によると、高周波成分と低周波成分が含まれる振動波形信号から効果的に不用な周波数成分を除去することができ、システムの異常診断をすることができる。また、システムの異常診断に関するパラメータの計算又は推定が、容易に誤差が少ないものとすることができる。また、異常診断を確実に行うことで、異常によるシステムの破損を最低限に抑えることができる。
また、請求項2に記載の発明によると、確実に低周波数成分を除去して、ギヤやメカの異常時に発生する高周波成分を抽出することができる。移動平均点数を任意に変えることができ、またシフト数も任意に変えることができるため、必要に応じて精度が高い不要な周波数成分の除去をすることができ、適用分野に応じて、汎用性を持たせることができるる。
また、請求項3または5に記載の発明によると、簡単な演算により効果的に不用な周波数成分を除去することができるので、演算CPU等の負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例】
【0009】
図1は、本発明のモータ制御装置の構成を示すブロック図である。図において、1は位置・速度制御部、2はトルク指令信号、3は電流制御部、4はモータ、5はギヤ、6はロボットアーム、7はエンコーダ、8は位置検出信号、9はシフィテッド移動平均部、10は異常診断部である。本発明が特許文献1と異なる部分は、トルク指令信号2に基づいて動作するシフィテッド移動平均部9を備えた部分である。
シフィテッド移動平均部9は、トルク指令信号2のシフィテッド移動平均を計算して、トルク指令信号2とシフィテッド移動平均信号との誤差信号を計算して、その誤差信号の最大値と最小値の差を計算する。異常診断部10は、前述の誤差信号の最大値と最小値の差に基づいて、システムの異常診断をする。
なお、本発明のモータ制御装置でのモータ4並びにギヤ5を介してのロボットアーム6の駆動は、周知技術を用いて駆動するものであるため、詳細な説明は省略する。
【0010】
まず、シフィテッド移動平均部9におけるシフィテッド移動平均処理について説明する。
図6は、本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均処理を説明する第1の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸は波形振幅を示しており、15は任意の元データ信号、18は移動平均処理(20点)後のシフィテッド移動平均信号である。シフィテッド移動平均信号18は、図4における移動平均信号16を時間軸に対し10点シフトS19させたものである。即ち、移動平均信号16の移動平均点数Mに対して、S=M/2だけ時間軸に対してシフトさせるのである。
図7は、本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均処理を説明する第2の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸は誤差波形振幅を示しており、20は任意の元データ信号15とシフィテッド移動平均信号18との誤差信号である。図5における誤差信号17と比較して、誤差信号20は低周波成分が除去されていることが分かる。
【0011】
次に、シフィテッド移動平均部9におけるシフィテッド移動平均信号18の最大値および最小値に基づく、異常診断部10における異常診断方法について説明する。
図7において、誤差信号20の最大値と最小値の差P21は、式(1)で計算できる。
P=(誤差信号20の最大値)―(誤差信号20の最小値) (1)
図8は、本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均信号の最大値と最小値の差の導出方法を示すフローチャートである。
(ステップ101)
データ点数Nのトルク指令信号データ(x,x,…,x)が、シフィテッド移動平均部9に入力され、ステップ102に進む。
(ステップ102)
シフィテッド移動平均部9において、式(2)より、入力データのM点移動平均処理をし、ステップ103に進む。なお、M点移動平均のデータ点数は、M+N−1である。また、式(2)で算出したM点移動平均データは、(y,y,…,yN−M+1)である。ここで、M<Nである。
【0012】
【数1】

(2)
【0013】
(ステップ103)
シフィテッド移動平均部9において、M点移動平均データを時間軸に対しS点シフト、即ち、移動平均信号の移動平均点数Mに対して、S=M/2だけ時間軸に対してシフトさせ、ステップ104に進む。ここで、M点移動平均データは、それぞれy→y、y→yS+1、…、yN−M+1→yS+N−Mとなり、(y,y,…,yN−M+1)→(y,yS+1,…,yS+N−M)と表せる。ここで、M<N、S=M/2である。
(ステップ104)
シフィテッド移動平均部9において、任意の元データ信号とシフィテッド移動平均信号との誤差信号dを式(3)で算出し、ステップ105に進む。ただし、計算はS時間ステップから開始される。
=x−y (i=S〜N−M+S) (3)
(ステップ104)
シフィテッド移動平均部9において、シフィテッド移動平均信号との誤差信号dの最大値と最小値の差を式(1)に基づいた式(4)より算出する。なお、dmaxは誤差信号dの最大値、dminは誤差信号dの最小値である。
P=dmax―dmin (4)
【0014】
図2は、本発明のモータ制御装置とその異常診断方法の適用を示す第1の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸はトルク指令信号振幅を示しており、11は元のトルク指令信号、12はトルク指令信号11のシフィテッド移動平均信号である。
また、図3は、本発明のモータ制御装置とその異常診断方法の適用を示す第2の波形図である。図において、横軸は時間軸、縦軸は誤差信号振幅を示しており、13はトルク指令信号11とトルク指令信号11のシフィテッド移動平均信号12との誤差信号、14は誤差信号13の最大値と最小値の差である。
前述のように、シフィテッド移動平均部9において、トルク指令信号11を入力とし、トルク指令信号11とトルク指令信号11のシフィテッド移動平均信号12との誤差信号13の最大値と最小値の差14が出力され、異常診断部10において、予め設定された閾値と誤差信号13の最大値と最小値の差14との比較に基づいて、異常判定を行うのである。また、比較結果をモニタすることで、ロボットのギヤやメカの異常診断を行うことができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明のモータ制御装置とその異常診断方法の適用を示す第1の波形図である。
【図3】本発明のモータ制御装置とその異常診断方法の適用を示す第2の波形図である。
【図4】従来の異常判定方法および装置の適用を示す第1の波形図である。
【図5】従来の異常判定方法および装置の適用を示す第2の波形図である。
【図6】本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均処理を説明する第1の波形図である。
【図7】本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均処理を説明する第2の波形図である。
【図8】本発明のモータ制御装置におけるシフィテッド移動平均信号の最大値と最小値の差の導出方法を示すフローチャートである。
【図9】従来の異常判定方法および装置における信号処理方法を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0016】
1 位置・速度制御部
2 トルク指令信号
3 電流制御部
4 モータ
5 ギヤ
6 ロボットアーム
7 エンコーダ
8 位置検出信号
9 シフィテッド移動平均部
10 異常診断部
11 元のトルク指令信号
12 トルク指令信号11のシフィテッド移動平均信号
13 トルク指令信号11とシフィテッド移動平均信号12との誤差信号
14 誤差信号13の最大値と最小値の差
15 任意の元データ信号
16 移動平均処理後の移動平均信号
17 任意の元データ信号21と移動平均信号22との誤差信号
18 移動平均処理後のシフィテッド移動平均信号
19 シフト数
20 任意の元データ信号18とシフィテッド移動平均信号24との誤差信号
21 シフィテッド移動平均信号24の最大値と最小値の差
22 断続成分増幅前処理部
23 元データ
24 ヒルバート変換部
25 複素数計算部
26 自乗平方根計算部
27 平滑処理部
28 ローパスフィルタ
29 断続成分増幅後データ
S101〜S105 処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動波形信号を平均化処理して雑音成分を除去し、雑音成分除去信号に基づいてシステムの異常診断をするモータ制御装置において、
トルク指令信号を入力して前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を出力するシフィテッド移動平均部を備え、
前記差と予め設定された閾値との比較に基づいて、システムの異常診断をすることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記シフィテッド移動平均部が、前記トルク指令信号を任意点数の移動平均処理して移動平均信号を算出し、
前記移動平均信号を時間軸に対してシフトさせたシフィテッド移動平均信号を算出し、
前記トルク指令信号と前記シフィテッド移動平均信号との誤差信号である前記雑音成分除去信号を算出し、
前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を算出することを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記シフトは、前記任意点数の半分だけ時間進め処理するものであることを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
振動波形信号を平均化処理して雑音成分を除去し、雑音成分除去信号に基づいてシステムの異常診断をするモータ制御装置の異常診断方法において、
トルク指令信号を任意点数の移動平均処理して移動平均信号を算出し、
前記移動平均信号を時間軸に対してシフトさせたシフィテッド移動平均信号を算出し、
前記トルク指令信号と前記シフィテッド移動平均信号との誤差信号である前記雑音成分除去信号を算出し、
前記雑音成分除去信号の最大値と最小値との差を算出し、
前記差と予め設定された閾値との比較に基づいてシステムの異常診断をすることを特徴とするモータ制御装置の異常診断方法。
【請求項5】
前記シフトは、前記任意点数の半分だけ時間進め処理するものであることを特徴とする請求項4記載のモータ制御装置の異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−147523(P2007−147523A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344798(P2005−344798)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】