説明

モードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法

【課題】モードSによる運用を継続しながら、マルチパスの影響で発生するゴースト機のアジマス領域の測定を行い得るモードSを有する二次監視レーダ装置を提供する。
【解決手段】制御装置16において、モードSレーダ地上局がカバーする監視領域の少なくとも一部に対し、MIIP質問を行うことでモードSによるオールコール質問を行いつつゴーストターゲットやリアル機からモードA/Cによる応答信号を返送させ、モードAアドレスが重複して検出される方位の分布を測定するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空管制用レーダ装置に用いられるモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空管制用の二次監視レーダ装置は、例えば特許文献1に示されているように、質問信号を航空機上のトランスポンダ(応答装置)に送信し、このトランスポンダにより復号された質問信号に対応する応答信号を受信することによって航空機の識別を行なうものである。この場合、モノパルス測角方式により航空機の距離及び方位を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249291号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記二次監視レーダ装置を用いるレーダ地上局では、監視領域に進入する航空機に対しモードSのオールコールによる質問信号を送出し、この質問に対し返送される応答信号を受信した航空機に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで航空機の追跡を行うようにしている。また、モードSを有する二次監視レーダ装置において、反射物の影響で発生したゴースト機のアジマス領域を測定する場合、モードS質問で測定するとマルチパスの影響を受ける航空機は、最初にオールコール質問を受信したパスの方位でロールコールに移行しロックアウトするため、もう一方のパスの方位からは応答が返らなくなり、アドレスが重複した航空機の検出でゴースト機と判断していることから、モードS質問ではゴースト機のアジマス領域を測定することができない。手段として運用モードとは別にキャリブレーションモードとし、モードA/C質問のみを送信するモードに切り換えて行っていた。
【0005】
さらに、運用中に突然反射物が出現した場合(例えば、センサ付近に高層ビルの建設が始まり、クレーン等が反射物になる場合)は、運用を一旦停止しキャリブレーションモードに切り換える必要がある。
【0006】
そこで、この発明の目的は、モードSによる運用を継続しながら、マルチパスの影響で発生するゴースト機のアジマス領域の測定を行い得るモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係るモードSを有する二次監視レーダ装置は、レーダ地上局に備えられ、当該レーダ地上局がカバーする監視領域内に進入する目標対象物に対しモードSで規定されるオールコール質問信号を送出し、このオールコール質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置において、モードSによるオールコール質問を行うとともに、モードA/Cによる質問を行い、モードSによるオールコール質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対しモードA/Cの質問に応答信号を返送させるMIIP(Mode S Intermediate Interrogation Pattern)モードの質問をレーダ地上局がカバーする監視領域の少なくとも一部で実行するMIIP質問実行手段と、このMIIP質問実行手段によるMIIPモードの質問信号に対し、互いに異なる方位から返送される複数の応答信号それぞれに付加されるモードAアドレスが一致するか否かを判定する判定手段と、この判定手段による判定結果に基づいて、返送された複数の応答信号の少なくとも1つをゴースト応答として検出するゴースト応答検出手段とを備えるようにしたものである。なお、ゴースト応答検出手段は、モードAアドレスが一致する複数の応答信号のうち遅延時間が長い応答信号をゴースト応答として検出する。
【0008】
この構成によれば、レーダ地上局がカバーする監視領域の少なくとも一部に対し、MIIP質問を行うことでモードSによるオールコール質問を行いつつ目標対象物からモードA/Cによる応答信号を返送させ、モードAアドレスが重複して検出される方位の分布を測定するようにしている。
【0009】
従って、上記測定した結果、ゴースト側とリアル側とで両方の分布になるため、ゴースト側であるかの判断を同じアドレスの目標対象物間で応答信号の遅延時間が長い方で判定した結果により、監視領域内の反射物の反射により生じるゴースト発生アジマス領域を決めることができる。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、モードSによる運用を継続しながら、マルチパスの影響で発生するゴースト機のアジマス領域の測定を行い得るモードSを有する二次監視レーダ装置及びその二次監視レーダ装置に用いられる制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態のモードSを有する二次監視レーダ装置における通常動作時の監視システムを示す図。
【図2】MIIPモード動作時の監視システムを示す図。
【図3】この発明において、モードSレーダ地上局における目標の検出動作を示す図。
【図4】この発明に係るモードSを有する二次監視レーダ装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図5】上記図4に示したメモリの記憶内容の一例を示す図。
【図6】同実施形態における制御装置の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
まず、この発明に係る実施形態を説明するに先立ち、その動作原理について説明する。
【0013】
図1は、この発明の一実施形態のモードSを有する二次監視レーダ装置における通常動作時の監視システムを示す図である。図2は、MIIP(Mode S Intermediate Interrogation Pattern)モード動作時の監視システムを示す図である。
【0014】
本実施形態のMIIPモードでは、従来のモードSモードのシステムでは使用しなかったP4パルスが無いモノパルス形式の質問(モードA/C質問)とモードSオールコール質問/ロールコール質問とを交互に行う方式が採用される。また、本システムによりモードS航空機AP1もモードA/C応答することとなる。
【0015】
通常動作時は、図1に示すように、質問を受けて折り返す動作を行うモードS航空機AP1に搭載されたモードS対応トランスポンダ、同様に非モードS航空機AP2に搭載されたモードS非対応トランスポンダと、各トランスポンダに送信するそれぞれモードSオールコール質問/ロールコール質問及びモードA/C質問(P4パルス有り)のパルス変調信号の生成処理、及び、モードS対応トランスポンダからのモードSオールコール質問/ロールコール質問に対するモードS応答、モードS非対応トランスポンダからのモードA/C質問に対する応答の受信処理を行うモードS地上局BS1とモードA/C地上局BS2とから構成される。
【0016】
MIIPモード動作時は、図2に示すように、質問を受けて折り返す動作を行うモードS航空機AP1に搭載されたモードS対応トランスポンダ、同様に非モードS航空機AP2に搭載されたモードS非対応トランスポンダと、各トランスポンダに送信するそれぞれモードSオールコール質問/ロールコール質問及びモードA/C質問(P4パルス無し)のパルス変調信号の生成処理、及び、モードS対応トランスポンダからのモードSオールコール質問/ロールコール質問に対するモードS応答、モードS非対応トランスポンダからのモードA/C質問に対する応答の受信処理を行うモードS地上局BS1とモードA/C地上局BS2とから構成される。
【0017】
図3は、モードSレーダ地上局BS1における目標の検出動作を示している。モードSレーダ地上局BS1は、図3に示すように、モードSオールコールによる質問信号を送信して監視領域を方位方向(アジマス(AZ)方向)に走査する。そして、目標とするリアル機RTからの応答信号を受信検波して復号することで、リアル機RTを検出する。
【0018】
ところで、上記モードSレーダ地上局BS1は、走査域内の反射物Rによる反射でゴーストターゲットGTを検出することもある。そうすると、ゴースト応答が先にオールコールから個別質問によるロールコールに移行することになる。この場合、航空機は、ロールコールによる質問信号のみを受け付けるロックアウトを設定する。
【0019】
このゴーストターゲットGTのロールコール移行状態において、モードSレーダ地上局BS1はリアル機RTの方向へオールコールによる質問信号を送出してもロックアウトがかかってしまうため、リアル機RTの方向からは応答信号が返送されず、これによりリアル応答が検出できない。
【0020】
また、モードA/Cによるオールコール質問(P4パルス有り)に対し、ゴーストターゲットGT及びリアル機RTは何も応答を返送しない。そこで、モードSシステムにおいて、ゴーストが発生すると予想されるアジマス領域に対し、通常のモードSオールコール質問/ロールコール質問に加え、P4パルスが有るモードA/Cオールコール質問の代わりに、P4パルスが無いモードA/C質問を行うMIIPモードによる質問を行うようにし、ゴーストターゲットGT及びリアル機RTからモードS応答が無かった場合でも、モードA/C応答が得られるようにしている。
【0021】
上記の原理に基づき、以下にこの発明の実施形態について説明する。
【0022】
図4は、本発明に係り、モードSレーダ地上局BS1に備えられる二次監視レーダ装置の構成を示すブロック図である。図4において、質問信号送信器11から発生されたオールコールによる質問信号は、アンテナ12により所定方向に向けて送出される。航空機RTから返送される応答信号は、アンテナ12で受信され、増幅器13で増幅された後、和・差信号検出器14に供給される。この和・差信号検出器14は、各象限の受信信号を加算して和信号Σを生成し、各象限の受信信号を減算することで差信号Δを生成する。
【0023】
上記和・差信号検出器14で得られた和信号Σ及び差信号Δは、目標情報検出器15に供給される。目標情報検出器15は、和信号Σ及び差信号Δから目標方向及び目標とする航空機RTまでの距離を検出するものである。この検出情報は、制御装置16に供給される。
【0024】
制御装置16は、目標情報検出器15により監視領域内に目標とする航空機RTが検出された場合に、メモリ17に目標位置と目標を特定するモードSアドレスとを対応付けて記憶する。メモリ17には、図5に示すデータが記憶される。そして、制御装置16は、メモリ17に記憶された目標に対し個別質問を行うように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御する。
【0025】
ところで、上記制御装置16は、この発明に係わる機能として、MIIPモード制御部161と、判定部162と、ゴースト応答検出部163とを備えている。MIIPモード制御部161は、MIIPモードによる質問信号をモードSレーダ地上局BS1の監視領域内の少なくとも一部で実行するように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御する。
【0026】
判定部162は、MIIPモード制御部161によるMIIPモードの質問信号に対し、互いに異なる方位から返送される複数の応答信号それぞれに付加されるモードAアドレスが一致するか否かを判定する。
【0027】
ゴースト応答検出部163は、モードAアドレスが重複した場合に、同じモードAアドレスの複数の応答信号のうち遅延時間が長い応答信号をゴースト応答として検出し、メモリ17中に2重アドレス航空機としてフラグを立てて登録する。なお、制御装置16は、フラグが立てられた航空機については、個別質問をしないようにする。
【0028】
次に、上記構成における動作について説明する。
図6は、ゴースト応答を検出する際の制御装置16の処理手順を示すフローチャートである。まず、制御装置16は、質問信号送信器11及びアンテナ12を制御して、モードSオールコール質問によるスキャンを自局BS1の監視領域内で実行する(ステップST6a)。そして、スキャン実行中に応答信号を返送した目標位置(X2,Y3)と目標を特定するモードSアドレス(ab)とを対応付けてメモリ17に登録する(ステップST6b)。
【0029】
続いて、制御装置16は、メモリ17に登録された各航空機に対し個別質問を行うように質問信号送信器11及びアンテナ12を制御し、しかる後に、監視領域の一部に対しMIIPモードによる質問信号、つまりモードSによるオールコール質問信号を送出すると共に、モードA/Cによる質問信号を送出し(ステップST6c)、モードA/Cによる応答信号が返送されるか否かの判断を行う(ステップST6d)。
【0030】
ここで、異なる方位から複数の応答信号が返送された場合に(Yes)、制御装置16は各応答信号に付加されるモードAアドレスが重複するか否かの判断を行う(ステップST6e)。
【0031】
ここで重複した場合(Yes)、制御装置16は応答信号の遅延時間が長いほうをゴースト応答と特定する(ステップST6f)。そして、制御装置16は、ゴースト応答に対して、ロールコール質問から除外する(ステップST6g)。
【0032】
なお、上記ステップST6dにおいて応答がなかった場合(No)や、上記ステップST6eにおいてモードAアドレスが重複しなかった場合には(No)、制御装置16は上記ステップST6cの処理に移行する。
【0033】
以上のように上記実施形態では、制御装置16において、モードSレーダ地上局BS1がカバーする監視領域の少なくとも一部に対し、MIIP質問を行うことでモードSによるオールコール質問を行いつつゴーストターゲットGTやリアル機RTからモードA/Cによる応答信号を返送させ、モードAアドレスが重複して検出される方位の分布を測定するようにしている。
【0034】
従って、上記測定した結果、ゴースト側とリアル側とで両方の分布になるため、ゴースト側であるかの判断を同じモードAアドレスの航空機間で応答信号の遅延時間が長い方で判定した結果により、監視領域内の反射物Rの反射により生じるゴースト発生アジマス領域を決めることができる。
【0035】
なお、MIIP質問信号送出する領域については、モードSレーダ地上局BS1がカバーする全監視領域であってもよい。
【0036】
また、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0037】
11…質問信号送信器、12…アンテナ、13…増幅器、14…和・差信号検出器、15…目標情報検出器、16…制御装置、17…メモリ、161…MIIPモード制御部、162…判定部、163…ゴースト応答検出部、RT…リアル機、R…反射物、GT…ゴーストターゲット、BS1…モードSレーダ地上局。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ地上局に備えられ、当該レーダ地上局がカバーする監視領域内に進入する目標対象物に対しモードSで規定されるオールコール質問信号を送出し、このオールコール質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置において、
前記モードSによるオールコール質問を行うとともに、モードA/Cによる質問を行い、前記モードSによるオールコール質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対し前記モードA/Cの質問に応答信号を返送させるMIIP(Mode S Intermediate Interrogation Pattern)モードの質問を前記レーダ地上局がカバーする監視領域の少なくとも一部で実行するMIIP質問実行手段と、
このMIIP質問実行手段による前記MIIPモードの質問信号に対し、互いに異なる方位から返送される複数の応答信号それぞれに付加されるモードAアドレスが一致するか否かを判定する判定手段と、
この判定手段による判定結果に基づいて、返送された複数の応答信号の少なくとも1つをゴースト応答として検出するゴースト応答検出手段とを具備したことを特徴とするモードSを有する二次監視レーダ装置。
【請求項2】
前記ゴースト応答検出手段は、モードAアドレスが一致する複数の応答信号のうち遅延時間が長い応答信号をゴースト応答として検出することを特徴とする請求項1記載のモードSを有する二次監視レーダ装置。
【請求項3】
レーダ地上局に備えられ、当該レーダ地上局がカバーする監視領域内に進入する目標対象物に対しモードSで規定されるオールコール質問信号を送出し、このオールコール質問に対し返送される応答信号を受信した目標対象物に対し個別に質問信号を送出するロールコールを実行することで目標追跡を行うモードSを有する二次監視レーダ装置で使用される制御方法において、
前記モードSによるオールコール質問を行うとともに、モードA/Cによる質問を行い、前記モードSによるオールコール質問に応答信号を返送しないロックアウトが設定された目標対象物に対し前記モードA/Cの質問に応答信号を返送させるMIIP(Mode S Intermediate Interrogation Pattern)モードの質問を前記レーダ地上局がカバーする監視領域の少なくとも一部で実行し、
前記MIIPモードの質問信号に対し、互いに異なる方位から返送される複数の応答信号それぞれに付加されるモードAアドレスが一致するか否かを判定し、
この判定結果に基づいて、返送された複数の応答信号の少なくとも1つをゴースト応答として検出するようにしたことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38950(P2011−38950A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188081(P2009−188081)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】