説明

モールディング成形用離型フィルム及びその製造方法

【課題】 本発明は、撥水性、離型性、ガスバリア性及び非転移性であり、金型への追従性にも優れ、均一かつ安定的な、環境負荷も低減され、低コストのフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有するモールディング成形用離型フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 プラズマ化学気相蒸着法(PE−CVD法)により、プラスチック基材上にフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成させてなるガスバリア性、撥水性及び離型性の離型フィルム及びその製造方法において、フッ素化炭化水素化合物(フルオロカーボン)と有機珪素化合物を蒸着モノマー材料とし、希ガス及び/又は酸素ガス雰囲気下、有機珪素化合物の蒸着膜をプラズマ化学気相蒸着させ、最終的にフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜をプラスチック基材フィルム上に成膜することで、高速にかつ90°以上の水接触角を有する撥水性及び離型性に優れ、ガスバリア性も付与された離型フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ化学気相成長法(PE−CVD法)によりプラスチック基材フィルム上にフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物膜を形成させたモールディング成形用離型フィルムに関するもので、具体的には、有機珪素化合物とフッ素化炭化水素化合物を蒸着モノマー原料とし、酸素及び又は希ガスを含むガス雰囲気下、2段階でプラズマ化学気相成長を行い、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜をプラスチック基材フィルム上に成膜したことを特徴とするフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜付きモールディング成形用離型フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルムに離型性のある材料を積層、あるいは基材フィルム自体が離型性を有する材料を用いた、いわゆる、離型フィルムは、粘着テープ、感光剤のセパレーターフィルムといったものから、真空成形、多層プリント基板製造などのインモールド成形時に使用する剥離フィルム、電子部品キャリア、セラミックシート、炭素繊維プリプレグなどの成形加工に用いるリリースフィルム、ラッピングフィルムなどの工程フィルムとして製造工程にも広く使用されている。
【0003】
インモールド成形時あるいは工程フィルムとして用いるモールディング成形用フィルムでは、製品への形状を反映するため柔軟性、及び金型から製品を取り出す時のモールディング成形金型及びモールディング樹脂と容易に剥離できる離型性が最低限要求され、さらに、通常より温度、圧力などが厳しい成形加工条件下で使用されることから、例えば、FPCやフラットケーブルなどの工程でヒートプレス加工の際に用いる場合、耐熱性並びに適度な離型性とクッション性、母材への非転移性が求められ、また、真空成形、半導体チップのパッケージなどのインモールド成形等のモールディング成形では、耐熱性、空気や樹脂成分ガスに対するガスバリア性、深絞り性、型追従性、非転移性及び離型性などが求められる。
【0004】
さらに、このような離型フィルムには、コストメリットとして、離型フィルムの離型性を高めかつガスバリア性を付与し、金型のクリーニング頻度の低減による作業効率アップ、金型の長寿命化、繰り返し耐性や低価格性、廃棄のたやすさが重要な特性として求められる。
【0005】
こうした要求性能に対し、シロキサン結合を主骨格とするシリコーン材料により離型性を付与した離型フィルムが用いられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート上に離型層としてシリコーンを積層したシリコーン膜積層体(特許文献1)があり、すぐれた離型性、低表面エネルギー、及びコーティング加工性を有することから多くの用途分野で利用されているが、ガスバリア性に劣り、また、長時間大気暴露された場合、重剥離化(表面特性が劣化する)が促進され、表面特性が変化してしまうものであり、また、離型層のシリコーンが剥離時に転移し、後処理が必要となる等の問題がある。
【0006】
フッ素系材料を用いた場合は、基材フィルム上に離型層としてフッ素化合物を形成させるもの、又はフッ素樹脂そのものを離型層として使用するもの(特許文献2、3)があり、耐熱、耐薬品、柔軟性、繰り返し耐久性、防汚性、耐候性などに優れた物性、性能を有するものの、ガスバリア性、型追従性で劣り、他の基材と積層する複合加工の困難性の問題もある。さらに、フッ素化合物自体の材料価格が高価であり、焼却時に有害なフッ化ガスが発生するといった問題及び難燃性であるため廃棄処理上の問題もある。
【0007】
また、ポリオレフィンを離型層として利用するもの(特許文献4、5)がある。ポリオレフィン樹脂によるシート、フィルム自体を離型フィルムとして用いた場合は、ポリオレフィン自体ある程度の離型性があり、安価、柔軟性といった利点があり、離型性とコストのバランスがとれているが、高ヘイズや、耐熱性、ガスバリア性に劣るなどの面で工業的な利用性という点で劣ることが知られている。また、内外層として結晶性ポリメチルペンテン層と軟質ポリオレフィン樹脂層を積層して用いた離型性及びクッション性を有する積層離型フィルムもあるが、膜厚が厚くなり、型追従性に劣り、ガスバリア性については何ら触れられていないものである。
オレフィン系の材料は低価格で加工性にも優れる一方、耐熱性に劣るため、高温での成型には使用できないなどいろいろと問題があるものであった。
【0008】
特に、半導体パッケージのモールディング成形用離型フィルムにおいては、上記したようなテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体フィルム(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが知られており、それらの離型フィルムが用いられた場合、半導体パッケージの端子表面への樹脂かぶりが発生する問題があり、引張弾性率の低い樹脂を用いた場合、成形中にフィルムのたわみやしわが発生するため成形体に凹みが発生する問題がある。
【0009】
また、ポリイミド、アルミニウムとPTFEなどのフッ素樹脂積層フィルムを使用した場合、フッ素樹脂層は水性分散液を塗布し、乾燥加熱焼成することにより形成されるため、1回に形成できる層の厚さに限界があり、必要な厚さ(スタンドオフ高さ;半導体チップリードフレームの端子上面と半導体パッケージ封止樹脂上面との高さの差を意味する)になるまで操作を繰り返す必要があり、手間と時間がかかり、工業的に不利となりかつ高価となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2846155号公報
【特許文献2】特開2001−250838号公報
【特許文献3】特開平8−186141号公報
【特許文献4】特許第2619034号公報
【特許文献5】特開2006−257399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、プラスチック基材フィルム上にフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成させてなるモールディング成形用離型フィルムであって、分子内にSi−O結合を含有する有機珪素化合物とフッ素化炭化水素化合物を蒸着モノマー原料とし、酸素、不活性ガスを含むガス雰囲気下、プラズマ化学気相成長法(PE−CVD法又はCVD法又はプラズマCVD法ということがある)によりプラズマ化学気相成長させて有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を成膜し、かつ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜にフッ素がドープされていることを特徴とするフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有するモールディング成形用離型フィルム及びその製造方法に関するものである。
【0012】
上記したとおり、多機能化、微細化する電子機器の製造工程において採用されているインモールド成形用離型フィルムでは、ガスバリア性、離型工程材料のクリーン性や耐熱、寸法安定性などが必要不可欠となっている。さらには、環境対応の観点から、使用後の離型材料の処理による環境負荷の低減も重要な機能の一つに数えられるようになっている。
【0013】
従来のモールディング成形用離型フィルムにあっては、塗工により離型層を形成する場合、離型フィルムの離型性を維持しつつ、樹脂成分が透過しないガスバリア性離型性層を調製すること、さらには、離型剤の転移をなくすことは困難とされ、また、フッ素樹脂、ポリオレフィン系樹脂、あるいは離型性フィルム層を基材フィルムに積層したフィルムを離型フィルムとして採用した場合には、上記したような問題があり、モールディング成形用離型フィルムとして求められる、均質でかつ均一な、ガスバリア性、撥水性及び離型性を有しかつ安定的に確実に、低コストなものを提供するには未だ至っていない。
【0014】
特に、半導体パッケージの製造においては、離型フィルムに求められる特性として、樹脂封止時に、離型フィルムにたるみやしわが発生せず、金型への追従性がよいこと、封止樹脂成分が離型フィルムを透過し、金型を汚染しないこと、離型フィルムと半導体パッケージの端子表面との間にすき間が発生し、封止樹脂が該端子表面にまわり込み、樹脂かぶりが生じないこと、半導体パッケージにおけるスタンドオフ高さを良好に形成できること、樹脂封止した後、半導体パッケージからの剥離性に優れること、及び安価でかつ金型の長寿命化によるコスト低減などが要求されていたが、未だ、それら要求を満たす思い通りの性能のモールディング成形用離型フィルムを形成するに至っていなかった。
【0015】
本発明は、上記のような従来技術の状況を鑑みてなされたものであり、均質で均一な撥水性と離型性を同時に発現でき、樹脂成分の透過のないガスバリア性の離型層を制御下、安定かつ確実に低コストで簡単に提供するとともに、半導体パッケージの製造に求められる要求を満たし、従来技術の問題点を解消したフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有するガスバリア性のモールディング成形用離型フィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、有機珪素化合物のプラズマCVD法による蒸着膜が撥水性及び離型性を有すること、またその撥水性が、有機珪素化合物材料が酸素の存在下、プラズマCVD法により蒸着処理することで、分子内のSi−C結合のCが酸素と結合してCO2として失われることで、Si−C結合が減少し撥水性が低下するという知見、有機珪素化合物を蒸着材料とし、CVD法によりガスバリア性の有機珪素化合物の蒸着膜を形成するためには、モノマー材料のほかに酸素ガスを導入する必要があるという知見、さらにはフッ素が優れた撥水性を発現できるという知見などに基づき、発明者らは鋭意研究した結果、有機珪素化合物、フッ素化炭化水素化合物、及び酸素ガスの存在するガス雰囲気下でプラズマCVD法により有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜をプラスチック基材フィルムに形成することにより、ガスバリア性を有する撥水性に優れたモールディング成形用離型フィルムができるという知見に基づいて本願発明に至ったものである。
【0017】
本発明は、プラズマCVD法により有機珪素化合物を蒸着することにより、蒸着される有機珪素化合物中のSi−C結合が確実に高濃度に維持でき、かつSi−C結合の濃度を制御した表面状態を有する撥水性の原因となる有機成分を高濃度に含む有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜をプラスチック基材フィルムと化学的に結合して形成し、さらに、フッ素化炭化水素化合物の存在下プラズマCVD処理を行うことで、Si−C結合に起因する撥水性及び離型性を有する有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を架橋し、緻密な層とし、かつフッ素化炭化水素化合物のフッ素により有機成分に含まれる水素をフッ素置換させる、あるいはフッ素を主鎖構造に結合させる、さらにフッ素化炭化水素化合物を蒸着膜に取り込むなどにより蒸着膜にフッ素化合物を含有した状態(このような状態を「フッ素ドープ」という。)にすることで、蒸着膜の緻密化及びフッ素ドープによりさらに優れた撥水性と離型性を兼ね備えたモールディング成形用離型フィルムとしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のPE−CVD法により有機珪素化合物から有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を成膜するモールディング成形用離型フィルムでは、シリコーン離型剤を塗布した離型コート品と異なり、ドライプロセスのため、有機珪素化合物の成膜に使用する量が極めて少なく、基材フィルムと化学結合を形成するため密着性に優れ、モールディング成形用離型フィルムとして使用した際に離型層である有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の剥離による転移性は極めて低く、ほとんど見られない。
【0019】
有機珪素化合物をPE−CVD法により蒸着膜とすることで、Si−OH基が少なくなり、エチル基(−CH2−CH3)、メチル基(−CH3)が末端として残ることで、有機珪素化合物中の有機成分含有量が大きい膜が形成可能であり、撥水性が増すうえに、フッ素化炭化水素化合物をプラズマCVD法により処理することで有機成分のフッ素化あるいはフッ素化合物のドープが表面域で進み、フッ素ドープ蒸着膜とすることにより一層の撥水性及び離型性が付与され、極めて低い表面自由エネルギーをとることとなり、モールディング成形用離型フィルムとして優れたものができる。
【0020】
そして、本発明の方法による有機珪素化合物の蒸着膜は、有機成分を含有する有機珪素化合物の蒸着膜であり有機無機系薄膜(ハイブリッド)といえるもので、経時変化や温湿度変化に強く、表面状態が安定した膜が形成でき、また、巻き取り加工が可能であり、大面積かつ安価に作成可能である。さらに、フッ素化炭化水素化合物存在下プラズマCVD法により処理することで、有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜がフッ素化炭化水素化合物のフッ素と化学的に結合して、シリカや炭素骨格と直接結合している水素がフッ素に置き換わり、あるいはフッ素化合物を蒸着膜に含有した状態となることで、フッ素ドープ状態の有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜となることから、本発明の有機珪素化合物の蒸着膜自体が、毒性もなく、リサイクル可能であり、含有するフッ素原子の量も少なく、燃焼による廃棄を行っても有害ガスがほとんど発生しないというメリットがある。
【0021】
本発明のモールディング成形用離型フィルムは、ナノメートルレベルの薄膜の離型性層を形成したもので、プラスチック基材フィルムの柔軟性、成形加工性等に着目することで、型追従性のあるリリースフィルム等に適した離型フィルムを製造することができ、また、上記のとおり、優れた撥水性及び離型性を有するとともに、ガスバリア性を有することから、正確かつ精密に樹脂材料のモールディング成形あるいは樹脂封止が可能となり、リリースフィルムとして用いることができる。
【0022】
また、モールディング成形あるいは樹脂封止に際し、本発明の離型フィルムをリリースフィルムとして介在させて成形又は封止することで、樹脂が金型面に接触することも透過することもなく、金型から成形品を離型することが容易となり、確実にモールディング成形することができる。
【0023】
特に、本発明のモールディング成形用離型フィルムは、半導体チップのような小さいサイズのキャビティに樹脂材料を供給する半導体チップパッケージの製造において、樹脂封止時に半導体パッケージの端子間において、離型フィルムにたるみやしわが発生しないようにでき、金型への追従性を向上することができる。また、本発明の離型フィルムは、薄膜で柔軟性があり、型追従性があることから、離型フィルムと半導体パッケージの端子表面との間にすき間が発生し、封止樹脂が該端子表面にまわり込み、樹脂かぶりが生じることもない、あるいは半導体パッケージにおけるスタンドオフ高さを良好に形成できる。
【0024】
さらに、本発明の離型フィルムは、ガスバリア性があり、撥水性及び離型性にも優れていることから、樹脂封止した後、非常に小さいキャビティから半導体パッケージを容易に離型することができ、離型に優れ、しかも、封止樹脂の透過もなく、離型層の型への転移もないことから、金型が汚されることなく、金型のクリーニングが不要となり、製造が容易で、安価でかつ金型を長寿命化することができることによりコストの低減が可能となる。
【0025】
本発明の方法において、CVD法の反応条件として、反応原料が有機珪素化合物、フッ素化炭化水素化合物をプラズマCVD法により連続した供給、処理できることから、CVD蒸着条件のみを制御対象とする単純な系であり、所望の表面状態(撥水性、離型性、接触角、剥離強度など)を有する蒸着膜を、蒸着条件を制御するだけで確実に形成できる。また、蒸着膜の厚み、適用幅等も基材の搬送速度などを制御することで所望に応じて変化させることができる。
【0026】
本発明のPE−CVD法により得られる有機珪素化合物の蒸着膜としての優位性は、特に耐熱性の低い材料や一般の物理蒸着では蒸着困難な低表面エネルギーの材料にも強固に密着した膜を形成可能であり、PET、ポリオレフィンなど蒸着可能な基材フィルムであれば、特に、材料を選ばず、何でもよく、求められる機械的物性やコストに合わせて種々の基材を選択することができ、設計自由度が極めて高い。また、本発明の製造方法は、基材フィルムの材料の選択の自由度の幅が広く、かつガスバリア性、撥水性及び離型性の離型フィルムを確実に制御して製造することができる方法であるので、離型フィルムの設計自由度が極めて高く、所望の物性、性能のものを安価に製造することができるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】プラズマ化学気相成長装置の概略的断面図
【図2】本発明のモールディング成型用離型フィルムを樹脂封止型半導体パッケージの製造に適用した一例の、上下金型、該離型フィルム及び半導体チップとの関係を表した全体図及び平面概略図
【図3】本発明の実施態様における樹脂封止型半導体パッケージを製造する各工程を示す工程概略図であって、全体図の一つの半導体チップについて拡大して各工程を示すもので、全体図に示すように上下金型を開いた状態で、図3aは、半導体チップの大きさの型が複数設けた上金型と複数の半導体チップを配列した基板を配置した下金型との上下金型間に本発明の離型フィルムを挿入し、上金型上へフィルムをセットし、封止樹脂材料をセットした状態を示す断面図、図3bは、封止樹脂材料を注入、充填し、金型を閉じて加熱、加圧等して上下金型により形成されたキャビティ内で封止樹脂を硬化させる状態の断面図、図3cは、金型間の封止樹脂材料が加熱硬化され封止樹脂により封止された半導体チップの表面から上金型を離型させた状態の断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、フッ素含有量を制御して撥水性及び離型性を制御したフッ素を含有した有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を基材フィルム上に形成したものであって、ガスバリア性の有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜中にフッ素原子等が取り込まれ、C−FあるいはSi−F等の形態でフッ素を含有する有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成したモールディング成形用離型フィルム及びその製造方法である。
【0029】
本発明のガスバリア性、撥水性及び離型性蒸着膜形成方法によれば、ガスバリア性を有し、かつ撥水性及び離型性を有するフッ素を含む有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜のナノメートルレベルからマイクロメートルレベルの膜厚を正確に任意の膜厚レベルで制御して形成することが可能であり、有機珪素化合物のガスバリア性に加えて、優れた撥水性及び離型性を有する、しかも、離型性層の転移性もなく、制御可能に安定して連続蒸着膜を形成することができる。
【0030】
本発明は、有機珪素化合物、フッ素化炭化水素化合物の蒸着により形成されるフッ素を含む有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を成膜する技術として、CVD法を有機成分含有有機珪素化合物のSi−Oを主鎖とする蒸着膜形成の成膜化工程とさらにフッ素化炭化水素化合物を用いた蒸着膜のフッ素化あるいはフッ素化合物を蒸着膜中に含ませる等のフッ素化工程の2工程を採用することで、供給される反応系に関与する材料を少なくし、制御しやすい状態で離型層表面の離型性及び高い撥水性を制御可能にした離型層を形成する方法を提供することができるものである。
【0031】
また、本発明のモールディング成形用離型フィルムにおいては、離型層に求められる離型性及び撥水性に加えて、ガスバリア性、さらには、基材フィルムと離型層との間に化学結合を形成し、基材フィルムと離型層とが優れた密着性及び非転移性を発揮するものとし、また、省資源、省エネあるいは廃棄処理をも考慮し、CVD法により有機珪素化合物、フッ素化炭化水素化合物を用いて、フッ素を含む有機珪素化合物の連続蒸着膜を形成することから、ハロゲン系元素を少なく含有させ、環境負荷を小さくできるものである。
【0032】
上記の本発明について、以下に図面等を用いて更に詳しく説明する。
本発明にかかるガスバリア性、撥水性及び離型性を有する有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有する離型フィルム及びその薄膜形成方法についてその層構成の一例を例示して図面を用いて説明する。
なお、本発明において、フィルムとは、シート、フィルム、フィルム状物又はシート状物のいずれの場合も意味するもので、特別な意味を与えるものではない。
【0033】
本発明にかかるフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を有するモールディング成形用離型フィルムは、例えば、図1に示すようなプラズマ化学気相成長蒸着装置を用い、真空チャンバ内で基材フィルムをプラズマ化学気相成長する雰囲気下に順次送り出し、巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式を適用し、まず、Si−Oを主鎖とする有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を成膜する段階と、次いで、基材フィルム上に形成したガスバリア性を有し、撥水性及び離型性の蒸着層をフッ素化炭化水素と希ガス雰囲気のPE−CVD法中に供給し、蒸着膜中の主鎖構造を含む蒸着膜をフッ素化あるいはフッ素化合物を含有させる段階とを連続的に基材フィルムに対して適用し、モールディング成形用離型フィルムを製造することができるものである。
【0034】
本発明に係るフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の形成方法は、広範な用途に利用できるガスバリア性、撥水性及び離型性を有する離型フィルムを製造することができる。
本発明で用いる基材フィルムは、用途に応じ、基材フィルムに求められる物性、性能に適合するプラスチック材料を選択し、かつその表面粗さ、基材の厚み、表面凹凸形状など用途に応じた基材性状を設定、選択することができる。
【0035】
本発明にかかるフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の形成方法及びその方法により製造されたガスバリア性、撥水性及び離型性のモールディング成形用離型フィルムにおいて、使用する材料、方法等について説明する。
【0036】
本発明において、プラスチック基材フィルムとして使用できる材料としては、具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂等の各種樹脂フィルムないしシートを挙げることができる。な
かでも、耐熱性、機械的性質、寸法安定性、密着性、価格等の点から、本発明においては、特に、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂のフィルムないしシートが好ましい。また、基材フィルムとして上記の2種以上の樹脂を用いて2層以上の積層フィルムであってもよい。
【0037】
本発明のプラスチック基材フィルムとして、特に、好ましく用いることができるものとしては、二軸延伸ポリエステルフィルムである。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレ
ート(PBT)、ポリブチレンナフタレート等である。
【0038】
本発明のフィルムの製造法としては、特に限定されるものではなく、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、インフレーション法等の従来から一般に知られているフィルムの製法を適宜採用して製造することができる。また、2種以上の樹脂を使用して多層成膜化する方法、更には、2種以上の樹脂を使用し、成膜化する前に混合して成膜化する方法等により、多層化してもよい。
さらに、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラ方式等を利用して1軸ないし2軸延伸処理してもよい。
【0039】
本発明において、基材フィルムの成膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、表面粗さなど離型層の形成に影響を及ぼさない範囲で選択、添加することができる。
【0040】
本発明における一般的な添加剤としては、モールディング成形用離型フィルムの基材として必要な機能を維持するため、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料等の着色剤等を使用することができる。
【0041】
ポリエステル等のプラスチックは、成膜時のフィルムの巻き取り性や粘着剤等を塗設する際のフィルムの搬送性等を良くするため、必要に応じて滑剤としての有機又は無機の微粒子で処理し、滑性を付与してもよい。かかる微粒子としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、有機珪素化合物、酸化亜鉛、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が例示される。
【0042】
本発明の基材フィルムにおいて、フィルムの厚さとしては、特に限定されないが、10〜100μm、より好ましくは20〜50μm程度が好ましい。基材フィルムの厚さが離型層の厚さに対し、比率が薄くなると、離型層を形成する際、基材フィルムの寸法安定性の低下や、CVD法処理又は塗工などの製造時の温度、気流、支持状態などの製造条件の影響を受け易く、基材フィルムの平坦性や平滑状態の維持に支障を来す恐れがある。厚みが100μmを超えると材料の浪費となり、資源及び環境のコストが高くなる。
【0043】
本発明において、プラスチック基材フィルムの表面に、ガスバリア性層を構成する有機珪素化合物の連続蒸着膜との密接着性を向上させるために、必要に応じて、予め所望の表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を挙げることができる。
【0044】
基材フィルムと有機成分を含有する有機珪素化合物のガスバリア性連続蒸着膜との密接着性を改善するための方法として、プラズマCVD法により形成される有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜とプラスチック基材フィルムとの密接着性が低下しない限りにおいて、例えば、プライマーコート層、アンダーコート層、アンカーコート層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート層等の易接着層を形成することもできる。
上記前処理のコート材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂等を使用することができる。
【0045】
[フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜]
本発明において、プラスチック基材フィルム上に形成される被膜物質は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される有機成分を含有する有機珪素化合物の連続蒸着膜であって、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等が化学反応し、その反応生成物が基材フィルムの一方の面に密着し、緻密な、柔軟性等に富む有機成分を含有する有機珪素化合物の連続蒸着膜を形成し、ガスバリア性及び離型性を有する層として用いるものであって、有機珪素化合物の連続蒸着膜中には、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体などの有機成分を化学結合等によって含有している。
【0046】
そして、該有機成分含有有機珪素化合物が、第2段階のフッ素化炭化水素化合物を導入したガス組成物の存在下でPE−CVD法により処理することで、有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜中にフッ素がドープされた状態、すなわち有機成分含有有機珪素化合物がフッ素化された、あるいはフッ素化合物を含有した状態となった、フッ素を含有する有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜となったもので、その蒸着膜は有機成分が界面で架橋するなどにより、ガスバリア性及び離型性の層として作用することができ、かつフッ素が蒸着膜表面近傍にフッ素化あるいはフッ素化合物を含有する状態となり撥水性及び離型性が向上した蒸着膜として作用するものである。
【0047】
本発明の有機成分含有有機珪素化合物は、一般式SiOxCy(式中、0<x≦2.5)で表されるものである。
離型性層では、xが0.3〜1.5の範囲内にあって、yが1.2〜2.4の範囲内にあるのが好ましく、そして、xが1.0〜1.4の範囲内にあって、yが1.5〜2.1の範囲内にあるのがさらに好ましい。
ガスバリア性層では、xが1.3〜2.5の範囲内にあって、yが0.20〜1.5の範囲内にあるのが好ましく、そして、xが1.5〜2.0の範囲内にあって、yが0.70〜1.30の範囲内にあるのがさらに好ましい。
【0048】
本発明において、有機成分含有有機珪素化合物のガスバリア性連続蒸着膜の厚さとしては、5〜100nmの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。
その厚さが5nm以下であると、蒸着膜の平面密度が低下して基材フィルムが表面に露出することとなり、ガスバリア性が十分に得られないし、均一なガスバリア性層とならない。また、有機珪素化合物の蒸着膜が剥離する可能性が増加する。一方、100nmより厚くなると、剛性が増してきて、その膜にクラック等が発生しやすくなるので好ましくない。必要以上に厚くすることは、蒸着膜の形成速度と関係し、生産性の低下、コスト高にもなる。
蒸着膜の膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。
【0049】
本発明において、有機珪素化合物の連続蒸着膜層としては、有機珪素化合物の連続蒸着膜の1層だけではなく、2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよく、また、使用する材料も1種又は2種以上の混合物を使用し、異種の有機珪素化合物を混合したものから連続蒸着膜層を構成することもできる。
【0050】
本発明の有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜において、上記有機成分の含有量が有機珪素化合物の連続蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少させることが好ましく、これにより有機珪素化合物の連続蒸着膜の表面においては、上記有機成分により離型性及び耐衝撃性等が高められ、他方、樹脂フィルムとの界面においては、上記有機成分の含有量が少なく、主鎖−SiO−と基材フィルムとの間で化学結合が形成されるために、基材フィルムと珪素酸化物の連続蒸着膜との密着性が強固なものとなるという利点を有するものである。
【0051】
本発明のガスバリア性層及び又は離型性層を構成する有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成するために使用する有機珪素化合物としては、メチル基あるいはエチル基を含み、かつSiを主鎖とする、次のようなモノマー材料、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン(MTMOS)、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。また、これらの1種又は2種以上を含むものであってもよい。
蒸着モノマー材料は、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物で、常温で適当な蒸気圧を持ち、プラズマCVD法を実施することが可能な材料であればどのような材料でも構わない。
【0052】
本発明において、有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜に含有する化合物としては、特に、CH3部位を持つハイドロカーボンを基本構造とするものを多く含むものが、界
面での架橋化などにより有機珪素化合物薄膜のガスバリア性であって、成形材料等の移行阻止層の働きをするものとして好ましい。
【0053】
本発明においては、有機珪素化合物として、特に、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料として使用することが、その取り扱い性、形成された有機珪素化合物の蒸着膜の撥水性、離型性等の特性から特に好ましい。
【0054】
本発明では、フッ素材料としては、酸化珪素や窒化珪素のエッチング(洗浄)ガスとして一般的に使用されており、非常に安定しかつ無毒のガスである安全性の高いフルオロカーボン(ただし、地球温暖化ガスという意味での環境毒性がある)を用い、また、フッ素の撥水性を発揮させるには炭素に結合させたフッ素化アルキルにする必要があることから、シリコーン源としては、上記した有機珪素化合物の有機シリコーンを使用した。
【0055】
本発明では、基材フィルムに形成する有機成分含有有機珪素化合物の表面エネルギーを更に低くし、撥水性を高め、離型性に優れた表面特性を与えるため、撥水性基であるCH3基及び/又はC25基等のC−H結合の水素原子をフッ素化炭化水素のフッ素原子で置換し、あるいはフッ素化合物を蒸着膜に含有した状態にすることで、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜としたもので、プラズマCVD法の蒸着モノマー原料として、有機珪素化合物に、さらにフッ素化のためフッ素化合物からなるフッ素化反応性ガス原料を使用するものである。
【0056】
本発明では、有機成分含有有機珪素化合物のフッ素ドープ蒸着膜を形成するためのフッ素化反応性ガス原料に用いられるフッ素化合物としてフッ素化炭化水素が用いられる。
メチル基あるいはエチル基を含み、且つSiを主鎖とする有機珪素化合物の蒸着膜材料源である有機珪素化合物とともに、常温で気体、あるいはPE−CVD法による処理時の温度で気体化するフッ素化炭化水素であればいずれでも使用することができる。
【0057】
このフッ素化炭化水素としては、例えば、フッ素化アルカン、フッ素化シクロアルカン、フッ素化アルケン、フッ素化シクロアルケン、フッ素化芳香族化合物などを挙げることができる。これらのフッ素化炭化水素を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、これらの中でフッ素化飽和炭化水素が好ましい。
【0058】
フッ素化飽和炭化水素としては、含フッ素メタン、含フッ素エタン、含フッ素プロパン、オクタフルオロシクロブタン、フロン23などが挙げられるが、特に一般式(I)Cn
2N+2のもの、4フッ化炭素、6フッ化エタン、8フッ化プロパンなどが挙げられる。
原料として用いるフッ素化炭化水素として、フッ素含有量の異なるフッ素化炭化水素を用いる、あるいは2種以上を混合して用いることによりフッ素化の度合いを制御でき、表面エネルギー又は撥水性を制御することができる。
【0059】
上記蒸着モノマーガスのほかに、モノマー蒸気を効率よく真空槽内に導入するためのガス(キャリアーガス)やプラズマを発生させたり、プラズマを増強させたりする目的のガスを導入することも必要に応じて行われる。
キャリアガスとして、アルゴンガス又はヘリウムガスからなる不活性ガスを含有させることができる。
【0060】
[フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の形成法]
本発明の蒸着膜形成方法には、分子内に酸素原子を有する有機珪素化合物の蒸着原料モノマーガスを含有するガス組成物を使用し、所定のCVD法の条件下、プラズマ化学気相成長法により有機珪素化合物の連続蒸着膜を所定の搬送速度で送られるプラスチック基材の一方の面に化学気相成長させて形成し、その後、フルオロカーボンの存在によりフッ素化した場合、酸素存在下でプラズマCVD法により有機成分の含有量の多い蒸着膜を形成し、かつそのような有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜が混合ガス組成物中のフルオロカーボンの存在によりCH3基及び/又はC25基等のC−H結合の水素原子をフッ素化炭化水素のフッ素原子で置換し、あるいはフッ素化合物を含有した状態となることで、ガスバリア性を示し、優れた撥水性、離型性を発揮するフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成することができることから、本願発明では、あらかじめ有機シリコーンのガスをプラズマ反応させ、次いで、フルオロカーボン存在下、プラズマCVD反応させる方法を採用した。
【0061】
本発明において、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜は、具体的には、プラスチック基材フィルムの片面に、有機珪素化合物の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリアガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスと、酸素ガス等の酸素供給ガスを含有するガス組成物を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法により有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を化学気相成長させ、引き続き、フルオロカーボンと不活性ガスのキャリアガス存在下で低温プラズマCVD法により処理し、ガスバリア性、撥水性及び離型性のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成するものである。
【0062】
本発明の方法では、混合ガス組成物の組成比を、モノマー材料100重量部に対して酸素ガス10重量部〜1000重量部とすることである。酸素ガスが10重量部未満だと有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を形成することができず、また酸素ガスが1000重量部を超えると、メチル基やエチル基がなどの有機成分が酸素と反応してCO2やH2Oとなって消失し、有機珪素化合物の連続蒸着膜の中にメチル基又はエチル基が含まれな
くなるので、酸素の割合を制御することによりガスバリア性あるいは撥水性及び離型性を制御した有機珪素化合物の連続蒸着膜を形成する。
【0063】
ガス組成物の供給量を変更することで、形成される有機珪素化合物の連続蒸着膜中に含有される有機珪素化合物に起因する有機成分の含有量、Si−C結合の含有量を調整し、ガスバリア性を有する均一な撥水性を有する離型層を形成することができ、さらに、フッ素化炭化水素の存在下、プラズマCVD法により処理することで本発明にかかるガスバリア性が付与されたフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を基材フィルム表面に形成したモールディング成形用離型フィルムを確実にかつ簡単に製造することができる。
【0064】
本発明のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜のの基本となる有機成分の含有量は、原料となる蒸着モノマーの有機珪素化合物により変わるもので、有機珪素化合物のC/Si比により撥水性及び離型性を容易に制御できることになる。蒸着膜の撥水性及び離型性の基となる有機成分を含有する蒸着膜中の密度又は蒸着膜における平面的な広がりの密度分布を有機珪素化合物の分子構造から予測し、制御することも期待できる。
一般的には、有機成分の含有量が0.1〜80%位、好ましくは、5〜60%位が望ましいものである。含有率が、0.1%未満であると、有機珪素化合物の連続蒸着膜の離型性が低下し、あるいは、その耐衝撃性、延展性、柔軟性等が不十分となり、曲げ等により、擦り傷、クラック等が発生し易く、その安定性を維持することが困難になり、また、80%を越えると、離型性、蒸着膜の密着性も低下して好ましくない。
【0065】
本発明においては、有機珪素化合物の連続蒸着膜中に、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体などの有機成分を残した状態で化学結合等によって蒸着膜を形成するものであり、特に、CH3基及び/又はC25基を残すようにCVD法で蒸着膜を形成し、さらに、フルオロカーボン存在下でプラズマCVD法により蒸着膜を処理する結果、有機成分が膜表面に配列し、あるいは有機成分が架橋してさらに緻密な膜を形成し、かつフッ素ドープが起き、蒸着膜表面近傍におけるフッ素の含有量が多くなり、しかも、その有機成分及びフッ素の含有する密度により水接触角すなわち表面自由エネルギーが変わり、均一な撥水性及び離型性を示す有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜が形成できることである。
【0066】
モノマーガスのほかにモノマー蒸気を効率よく真空チャンバ内に導入するためのガス(キャリアーガス)やプラズマを発生させたり、プラズマを増強させたりする目的のガスを導入することも必要に応じて行われる。
キャリア−ガスとして、アルゴンガス又はヘリウムガス等の希ガス、又は窒素ガス、あるいはそれらの混合ガスなどの不活性ガスを含有させることができる。
【0067】
本発明において用いる低温プラズマ発生装置には、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、又はマイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができる。
【0068】
本発明において、離型層を構成する有機珪素化合物の連続蒸着膜中の有機成分の含有比C/Si、フッ素ドープ量F/Siは、例えば、X線光電子分光装置(XPS)、二次イオン質量分析装置(SIMS)等の表面分析装置を用いて分析する方法を利用して、有機珪素化合物の連続蒸着膜の元素分析を行うことより求めることができ、C/Si比、フッ素ドープ量F/Siにより離型層の特性(物性)を確認することができる。
【0069】
離型層を構成する有機珪素化合物の連続蒸着膜中に含有される、有機成分の含有量によりC/Si及びF/Si比が変動するものであって、有機珪素化合物の連続蒸着膜中に炭素原子及びフッ素ドープの含有量が少なくなるとC/Si及びF/Si比は低下することになるので、結果的に、撥水基であるメチル基(CH3 )等の存在が少なくなることを意味し、離型性が低下するという理由により好ましくない。また、炭素原子含有量が多くなるとC/Si及びF/Si比が大きくなり、膜の硬度、強度等が低下し、剥がれ落ちる現象が生じるという理由により好ましくないものである。
【0070】
本発明の低温プラズマ化学気相成長法による有機珪素化合物の連続蒸着膜の形成法について、プラズマ化学蒸着装置の一例を用いて説明する。
【0071】
図1は、上記有機珪素化合物の連続蒸着膜をプラズマ化学気相成長法により形成する際に用いる低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
本発明においては、プラズマ化学気相成長装置11の真空チャンバ12内に配置された巻き出しロール13から基材フィルム1を繰り出し、該基材フィルム1は補助ロール14を介して所定の速度で冷却・電極ドラム15周面上に搬送する。ガス供給装置16、17及び原料揮発供給装置18等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物、フルオロカーボンの蒸着用モノマーガス等を適宜供給し、目的の蒸着用混合ガス組成物を調製しながら原料供給ノズル19を通して真空チャンバ12内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、上記冷却・電極ドラム15の周面上に搬送された基材フィルム1の上に、グロー放電プラズマ20によって発生したプラズマを照射して、有機珪素化合物の連続蒸着膜を成膜化する。なお、冷却・電極ドラム15は、真空チャンバ12の外に配置されている電源21から所定の電力を印加する。また、冷却・電極ドラム15の近傍には、マグネット22を配置してプラズマの発生を促進している。
【0072】
そして、有機珪素化合物の連続蒸着膜の層を形成した離型フィルム1は、所定の巻き取りスピードで補助ロール23を介して巻き取りロール24に巻き取って、本発明にかかる有機珪素化合物の連続蒸着膜をプラズマ化学気相成長法により形成した離型フィルムとするものである。なお、図中、25は真空ポンプを表す。
上記の例示は、プラズマ化学気相成長法の一例を示すものであり、これによって本発明は限定されるものではないことは言うまでもないことである。
【0073】
原料を供給する原料揮発供給装置18は、原料である有機珪素化合物を揮発させ、ガス供給装置16、17から供給される希ガス、不活性ガスあるいは酸素ガス等と混合させ、この混合ガスは原料供給ノズル19を介して真空チャンバ12内に導入されるもので、混合ガス中の有機珪素化合物、希ガス、及び不活性ガス等の含有量は、有機珪素化合物の連続蒸着膜に求める性質に応じて任意の組成で変更することができる。本発明では、ガス供給装置からは、希ガスとしてHe又は不活性ガスとして、酸素ガスが供給される。
【0074】
プラズマの生成については、冷却・電極ドラム15に電源21から所定の電圧が印加され、真空チャンバ12内の原料供給ノズル19の開口部と冷却・電極ドラム15との近傍でグロー放電プラズマ20が生成する。このグロー放電プラズマ20は、混合ガスの中の1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態において、基材フィルム1を一定速度で搬送することで、グロー放電プラズマ20が、冷却・電極ドラム15周面上の基材フィルム1の上に、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の連続蒸着膜を形成するものである。
【0075】
本発明において、真空チャンバ内の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは、1×10-1〜1×10-2Torrに調整することから、従来の真空蒸着法により酸化珪素の蒸着膜を形成する時の真空度1×10-4〜1×10-5Torrに比較して低真空度であることから、基材フィルム1を原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度が安定しやすく、成膜プロセスが安定するものである。
【0076】
また、基材フィルム1の搬送速度は、形成する有機珪素化合物の連続蒸着膜の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常は10〜500m/min、好ましくは、20〜100m/minに調整することが好ましい。また、プラズマ発生電圧は、形成する有機珪素化合物の連続蒸着膜の膜厚、密度、生産性等に関係し、特に、有機珪素化合物との反応あるいは有機珪素化合物の分解を生じないマイルドな条件下、通常5〜20kwに調整することが好ましい。
【0077】
上記のプラズマ化学気相成長装置11を用いた有機珪素化合物の連続蒸着膜の層の形成は、基材フィルム1の上にプラズマ化した有機珪素化合物の原料ガスを式SiOX の形で連続蒸着膜状に形成されるので、有機珪素化合物の蒸着膜は、緻密で隙間の少ない、可撓性に富む連続蒸着膜となる。また、プラズマにより基材フィルム1の表面が清浄化され、基材フィルム1の表面に極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される有機珪素化合物の連続蒸着膜と基材フィルム1との結合が形成され、密着性が高いものとなるという利点を有する。また、有機珪素化合物の蒸着膜は真空中で成膜化することからその表面に塵埃等が付着することはない。
【0078】
[モールディング成形用離型フィルムを適用した半導体チップの樹脂封止方法]
本発明の離型フィルムを用いて半導体チップを樹脂封止する半導体パッケージの製造方法の一例について図を用いて説明する。本発明はこれに限定されるものではない。
図2は、本発明の離型フィルムを適用し、リードフレームを有する半導体チップが配列したものを樹脂封止する直前の状態にある、樹脂封止モールディング装置を説明するための全体図及びその平面図である。
【0079】
具体的には、図2の樹脂封止モールディング装置は、注入モールディング方法、圧縮モールディング方法などに利用できるものである。図2の全体図は、モールディング成形金型を示したもので、半導体チップの高さに合わせた凹みが多数形成された上金型と平らな下金型からなるものである。図は、ポンプにより吸引口3を介して真空引きされ、空気を排気し、本発明のモールディング成形用離型フィルムを上金型に密着させた状態を示している。図2の平面概略図は、下金型をみたもので、リードフレームを有する半導体チップが下金型の基板上に並べられ、多数存在している状態を示したものである。
本発明のモールディング成形用離型フィルムは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムからなる基材フィルムの片面にプラズマCVD法によりフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜が積層されているものである。
【0080】
図3aないし3cは、図2に示した樹脂封止モールディング装置の1つの半導体チップをクローズアップして本発明のモールディング成形用離型フィルムを用いて半導体チップを樹脂封止し、半導体パッケージを製造する工程の状態変化を示す断面図である。
【0081】
図3aに示すように、モールディング成形装置の下金型5に、基板上に配置した半導体チップ6が載置されており、その半導体チップ6上に封止樹脂を配するか、又は半導体チップを覆うように液状封止樹脂を注入することで、排気吸引され、密着された離型フィルム1を配置した上金型2と下金型との間に封止樹脂が収容される。次に図3bに示すように、上金型2と下金型5とが、本発明の離型フィルムを介して型閉じし、封止樹脂を硬化させる。
【0082】
型閉め硬化により、図3cに示すように封止樹脂4が金型内に流動化し、封止樹脂4が空間部に流入し半導体チップ6の側面周囲を囲むようにして充填され、封止された半導体チップ6を上金型2と下金型5とが型開きされ、取り出される。型開きし、成形品を取り出した後、離型フィルムを複数回繰り返して利用するか、新たな離型フィルムを供給し、次の、樹脂モールディング成形に付される。取り出した半導体パッケージ成形品は、その後、カッターで切断される。
【0083】
本発明の離型フィルムを上金型に密着させ、金型と封止樹脂との間に介在させ、樹脂モールドすることにより金型への樹脂の付着を防ぎ、金型の樹脂モールド面を汚さず、かつ成形品を容易に離型させることができる。
なお、離型フィルムは一回の樹脂モールド操作ごとに新たに供給して樹脂モールドすることもできるし複数回の樹脂モールド操作ごとに新たに供給して樹脂モールドすることもできる。
【0084】
封止樹脂としては、液状樹脂又は常温で固体状樹脂であるが、樹脂封止時液状となるものなどの封止材を適宜採用できる。封止樹脂材料として、具体的には、主としてエポキシ系(ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)が用いられ、エポキシ樹脂以外の封止樹脂として、ポリイミド系樹脂(ビスマレイミド系)、シリコーン系樹脂(熱硬化付加型)など封止樹脂として通常に使用されているものを用いることができる。また、樹脂封止条件としては、使用する封止樹脂により異なるが、硬化温度150℃〜200℃、成形圧力20〜50kg/cm2
、硬化時間1〜60分の範囲で適宜設定される。
【0085】
本発明のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有する離型フィルムは、シリコーン樹脂を離型剤とする離型フィルムに比較して、遜色のない優れた離型性、撥水性及び耐油性を発揮でき、しかも、ガスバリア性を有するなど優れた性質、機能を有することから、リリースフィルム、ラッピングフィルムなど工程フィルムに使用することができる。フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜がガスバリア性かつ離型性層として機能することから、従来に比較して離型層の厚みをオングストローム単位の厚みで形成することができ、かつフッ素ドープ無機材料系の有機珪素化合物の連続蒸着膜であることから、フッ素樹脂に比較してフッ素の含有量が少なく、離型フィルムの廃棄処理に際し環境を破壊するような原因物質の発生を少なくすることができる。
【0086】
本発明の成形用離型フィルムは、前記のとおり優れた性能を有するものであり、粘着テープのセパレータから、電子部品キャリア、セラミックフィルム、炭素繊維プリプレグ、成形用フィルム、金型保護フィルム、半導体封止用フィルムなどの製造に広く用いることができる工程フィルムを提供することができる。
【実施例】
【0087】
本発明を以下の実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明における実施例は、下記測定方法を用いて各種測定を行い、評価した。以下に実施例の物性値の測定方法及び評価方法を説明する。
【0088】
(測定方法)
(1)金型への追従性の評価
1cm四方、深さ5mmの金型を用意し、調製した各成形用離型フィルムを金型へ50MPaで真空吸引した。
の各フィルムの金型への追従性を外観で次のように評価した。
外観のしわの有無:○隙間なく追従している △少しシワがある
【0089】
(2)剥離性の評価
調製した各成形用フィルムを10cm四方にカットし、その各成形用離型フィルムの離型面中央に、モールディング成型に使用する封止樹脂であるエポキシ樹脂を垂らし、同じサイズの各成形用フィルムの離型面を内側にしてエポキシ樹脂を挟むように重ね、ゴムローラーで均一に力をかけ、その後、150℃で15分間加熱を行い、樹脂が硬化した後、フィルムをはがす。そのフィルムを剥がした時の剥離力を次のように評価した。
剥離力評価 ◎非常に軽い ○軽い △やや重い ×剥離しにくい
【0090】
(3)樹脂成分のガスバリア性の評価
封止樹脂をアルミのカップに入れ、アルミカップの開口を各成形用離型フィルムで封止したものを秤量した。その後、各成形用離型フィルムを用いる成形温度及び圧力におけるガスバリア性を確認するため、成形条件に近似させた温度150℃、圧力10Paに設定し、10分間放置した後、アルミカップの重量変化を確認し、次のように評価した。
重量変化:○ 1.5%以下、 △ 1.5〜3%、 × 3%以上
【0091】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
基材として、厚さ50μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ(株)製「KESK」)の片面にコロナ処理を施したものを用い、該無延伸ポリエステルフィルムを巻取り式PE−CVD蒸着装置の繰り出し側に、コロナ処理面が被蒸着面となるように設置し、その後、該基材フィルムを巻き出し、巻上げ張力を1.4N/mに設定し、巻き取り式PE−CVD蒸着装置の容器を密閉し、排気ポンプを稼動させて減圧し、キャパシタンスマノメーターにより測定し、装置内圧力が0.5Paに到達した段階で、蒸着モノマーとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を採用し、液体状態で流量を計量し、その供給ラインの流量を1slm(standard liter/min、1atm、0℃あるいは、25℃など一定温度で規格化されたslmを意味する) に、また、装置内の雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)及び酸素ガス(O2)を用い、その供給ラインの流量を1:1(slm)に、それぞれ設定し、PE−CVD法蒸着装置の真空チャンバ内へ供給し、PE−CVD蒸着装置の容器内の圧力を10Paに調整した。
【0092】
上記のとおりPE−CVD蒸着装置を設定し、蒸着装置の動作が安定化した後、下記PE−CVDの蒸着条件として、印加電圧:40KHzの交流電源8kW、フィルムの搬送速度:30m/min、成膜圧力:10Paで、ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)、パーフルオロプロパンを蒸着原料としたプラズマ化学気相蒸着を二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ放電処理面に施し、有機珪素化合物の蒸着膜を成膜し、次いで、八フッ化プロパン(C38)を蒸着原料とし、プラズマ化学気相蒸着を更に行い、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有するモールディング成形用離型フィルムを得た。
その後、基材フィルムの搬送を停止させ、捲き取り部のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有する本発明の離型フィルムを回収し、所定の物性測定を実施した。
【0093】
(蒸着条件)
基材フィルム:二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ(株)製「KESK」)
蒸着面:コロナ放電処理
蒸着材料:ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)、C38
雰囲気ガス:Arガス、酸素ガス
導入ガス比;第1段目:HMDSO:Ar:O2=1:1:1[slm]
第2段目:C38:O2:Ar=5:0:5[slm]
巻き取り型PE−CVD装置
印加電圧:40KHz交流電源、8kW
フィルムの搬送速度:L/S=30m/min
成膜圧力:10[Pa]
【0094】
(実施例2)
前記蒸着時のガス雰囲気として、酸素ガスの導入量を5倍にしたこと以外は実施例1と同様にして、プラズマ化学気相蒸着によるフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の成膜条件を下記のとおり設定して、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有する本発明の離型フィルムを得た。
【0095】
(蒸着条件)
基材フィルム:二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ(株)製「KESK」)
蒸着面:コロナ放電処理
蒸着材料:ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)、C38
雰囲気ガス:Arガス、酸素ガス
導入ガス比;第1段目:HMDSO:Ar:O2=1:1:5[slm]
第2段目:C38:O2:Ar=5:0:5[slm]
巻き取り型PE−CVD装置
印加電圧:40KHz交流電源、8kW
フィルムの搬送速度:L/S=30m/min
成膜圧力:10[Pa]
【0096】
(実施例3)
前記蒸着時のガス雰囲気として、アルゴンガスの導入量を5倍にしたこと、基材フィルムとしてポリブチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして、プラズマ化学気相蒸着によるフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜の成膜条件を下記のとおり設定して、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有する本発明の離型フィルムを得た。
【0097】
(蒸着条件)
基材フィルム:二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製「トレコン」)
蒸着面:コロナ放電処理
蒸着材料:ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)、C38
雰囲気ガス:Arガス、酸素ガス
導入ガス比;第1段目:HMDSO:Ar:O2=1:1:1[slm]
第2段目:C38:O2:Ar=5:0:5[slm]
巻き取り型PE−CVD装置
印加電圧:40KHz交流電源、8kW
フィルムの搬送速度:L/S=30m/min
成膜圧力:10[Pa]
【0098】
本発明の実施例と対比するため比較例として、従来半導体チップ封止装置において使用されているフッ素樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、さらに、比較のためにPBTフィルムをリリースフィルムに用いて、実施例1と同様、前記測定法に従って測定、評価した。
【0099】
(比較例1)
厚さ50μmのフッ素樹脂フィルムとして旭硝子製の商品名「アフレックス」を用いて、実施例1と同様の比較実験を行った。
【0100】
(比較例2)
厚さ50μmの無延伸のポリエステルフィルムとして、ユニチカ(株)製の商品名「KESK」のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて、実施例1と同様の比較実験を行った。
【0101】
(比較例3)
ポリエステルフィルムとして、東レ(株)製の商品名:「トレコン」の厚さ50μmのポリブチレンテレフタレートフイルムを用いて、実施例1と同様の比較実験を行った。
【0102】
上記各実施例及び比較例に記載した方法により得られた本発明のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を有するフィルム及び市販品の各種樹脂フィルムに対して、金型への追従性、剥離性、樹脂成分のガスバリア性について前記した測定方法により測定し、それぞれのフィルムの評価を行った。その結果は、以下のとおりである。
【0103】
【表1】

【0104】
(結果の評価)
実施例と比較例を比較して明らかなとおり、本発明のフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成したモールディング成形用離型フィルムは、従来用いられているフッ素樹脂に匹敵する撥水性及び離型性を示す蒸着膜が得られ、しかも、ガスバリア性にも優れ、リリースフィルムとして総合的に優れた物性を有するものが得られることがわかる。
【0105】
また、成分濃度を変えた蒸着条件で実施した実施例1〜3の結果から、フッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜は、通常用いる範囲内の酸素濃度において、同程度の離型性、ガスバリア性の有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜が形成され、さらに、その蒸着膜中にフッ素を含有する有機成分が結合又は含有されたフッ素ドープ蒸着膜が形成されていることを示している。そして、蒸着時の有機珪素化合物と酸素の混合ガスの濃度比、希釈濃度は、形成される蒸着膜の物性に関係していないものと思われる。
【0106】
また、実施例と比較例2及び3を比較することで、基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレートよりポリブチレンテレフタレートの方が蒸着膜の離型性の面で、優れていることが分かる。これは、基材フィルムの主鎖構造のC−H結合が多いポリブチレンテレフタレートの方が、プラズマCVD法によりフッ素化炭化水素化合物によりフッ素修飾されやすく、主鎖中の−(CH22−の結合より−(CH24−の結合の方がフッ素ドープの割合が多くなることから、離型フィルム全体としてフッ素により撥水性及び離型性に影響がみられたものと思われる。また、金型への追従性の表中の評価は同じになっているが、ポリブチレンテレフタレートの方がポリエチレンテレフタレートより柔軟性があり、追従性がよく、細かな凹凸に沿うことができ、本発明のモールディング成形、特に半導体チップパッケージのような微小なものの成形に適している。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、効率よく、かつ低コストで物性的に優れたガスバリア性かつ撥水性及び離型性のモールディング成型用離型フィルムを正確に制御して安定的に製造できる。得られた撥水性及び離型層は、撥水撥油性、防汚性、剥離性、低摩擦性、耐薬品性等に優れたものであり、本発明のモールディング成形用離型フィルムは、各種複合材料の製造時、FPC、多層プリント基板製造時、粘着用セパレートフィルム、感光剤用離型積層フィルム、電子材料・機能性材料用工程紙などの離型積層フィルム用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
1:基材フィルム又は離型フィルム
2:上金型
3:吸引口
4:封止樹脂
5:下金型
6:半導体チップ
7:基板
11:プラズマ化学気相成長装置
12:真空チャンバ
13:巻き出しロール
14:補助ロール
15:冷却・電極ドラム
16、17:ガス供給装置
18:原料揮発供給装置
19:原料供給ノズル
20:グロー放電プラズマ
21:電源
22:マグネット
23:補助ロール
24:巻き取りロール
25:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材フィルムの片面もしくは両面に、プラズマ化学気相蒸着により有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成し、かつフッ素化炭化水素化合物を含むガス雰囲気下でプラズマ化学気相蒸着により処理したフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を少なくとも一層以上有するガスバリア性のモールディング成形用離型フィルム。
【請求項2】
有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成する蒸着モノマー材料が1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料とした有機珪素化合物である請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
プラスチック基材フィルムがポリエステルフィルムである請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
プラスチック基材フィルムがPBTである請求項1〜3のいずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項5】
ガスバリア性がモールド樹脂成分の揮発成分をブロックすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項6】
樹脂封止型半導体チップパッケージを製造する際に、金型と半導体チップとの間に配置し、金型の樹脂成形部を被覆し、半導体チップに供給される樹脂を封止するために用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項7】
プラスチック基材フィルムに有機珪素化合物を蒸着原料としてプラズマ化学気相蒸着により形成した有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を更にフッ素化炭化水素化合物を含む混合ガス雰囲気下でプラズマ化学気相蒸着により形成されたフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を少なくとも一層以上有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項8】
モールディング成形用離型フィルムの製造方法であって、蒸着材料として有機珪素化合物を用いて、酸素ガスが存在する雰囲気下でプラズマ化学気相蒸着により有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜をプラスチック基材フィルムの片面もしくは両面に少なくとも一層以上成膜し、フッ素化炭化水素化合物を含むガス雰囲気下、プラズマ化学気相蒸着することによりフッ素ドープ有機成分含有有機珪素化合物の蒸着膜を形成するガスバリア性の樹脂モールディング成形用離型フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−230320(P2011−230320A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100761(P2010−100761)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】