説明

モールド加工品

【課題】型保持性、風合い、伸縮性に優れ、基材となる発泡樹脂等のモールド加工品と縫製等により積層したとき、皺が殆ど発生せずに優れた一体性を発揮し、更には基材の型を崩さずに高い意匠性を付与することが可能なモールド加工品を提供する。
【解決手段】繊度10〜78dtex、120℃での熱セット率65〜100%、破断伸度300〜600%の架橋型ポリオレフィン系弾性繊維及び/又はポリウレタン系弾性繊維を3〜30重量%含む布帛を加熱成型してなることを特徴とするモールド加工品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型された発泡樹脂等と積層して好適なモールド加工品に関し、更に詳しくは、型保持性、風合い、伸縮性に優れ、成型された発泡樹脂等との積層品と用いた場合、優れた意匠性を付与することが可能なモールド加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、発泡樹脂成形体に編物等の布帛を積層したものが、パッドとしてファンデーションの一部に広く用いられている。かかるパッドを構成する素材として、例えばポリウレタン不織布とウレタン弾性糸を含む編物とを接合したシートを加熱成型したモールド加工品(ブラカップ)が開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、かかるモールド加工品は、基材としてポリウレタン不織布を用いるため、型保持性、フィット性が劣り、ファンデーションとして用いる場合、女性の体型を美しくする機能に劣るものであった。
【0003】
一方、型保持性に優れたモールド加工品として、基材としての樹脂発泡体シートと編物を重ね合わせて接着、接合し、モールド加工したものも開示されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、かかるモールド加工品は、型保持特性に優れているものの、基材の樹脂発泡シートを成型するためには高温、高圧の極めて過酷な条件で成型する必要があるため、編物が多大なダメージを受けるという問題点がある。
【0004】
また、発泡樹脂成形体と編物等の布帛を別個にモールド加工した後、これらを縫製又は接着するモールド加工品が開示されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、発泡成形樹脂成形体と編物等の布帛を別個にモールド加工した場合、一体性が弱く、縫製後に皺が生じ、意匠性に劣るものとなるという問題点がある。
【0005】
そこで、編物等のモールド加工品にポリウレタン弾性糸を用いて伸縮性を付与することが開示されている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、かかる編物等のモールド加工品は、弾性繊維の収縮力に対抗できる程度まで非弾性繊維を十分に熱セットして、型保持特性を維持することが必要であるため、風合いが硬くなる、或いは変色するという問題を有するものであった。さらに弾性繊維の収縮力に対抗できる程度にまで非弾性繊維を十分に熱セットする必要性から十分な耐熱性を保有する非弾性繊維しか適用できないという問題を有するものであった。
【特許文献1】実公平6−5364号公報
【特許文献2】特開2000−314011号公報
【特許文献3】特開平8−158112号公報
【特許文献4】特開2006−161246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、型保持性、風合い、伸縮性に優れ、基材となる発泡樹脂等のモールド加工品と縫製等により積層したとき、皺が殆ど発生せずに優れた一体性を発揮し、更には基材の型を崩さずに高い意匠性を付与することが可能なモールド加工品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(1)繊度10〜78dtex、120℃での熱セット率65〜100%、破断伸度300〜600%の架橋型ポリオレフィン系弾性繊維及び/又はポリウレタン系弾性繊維を3〜30重量%含む布帛を加熱成型してなることを特徴とするモールド加工品、(2) 前記架橋型ポリオレフィン系弾性繊維又はポリウレタン系弾性繊維が、100℃で2分間加熱セット後の加熱収縮率が80〜140%、収縮応力が0.1〜20mNであることを特徴とする(1)記載のモールド加工品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるモールド加工品は、型保持性が高く、伸縮性に優れるため、基材のモールド加工品との一体性を確保することが可能であり、意匠性に優れ、更には風合いに優れたパッド等が得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のモールド加工品は、繊度10〜78dtex、120℃での熱セット率60〜100%、破断伸度300〜600%の弾性繊維を3〜30重量%含む布帛を加熱成型してなることが好ましい。
従来、非弾性繊維を熱セットして形態を保持させていたところ、かかる熱セットにより著しく風合いが損なわれるものであった。そこで本願発明者らは、従来、伸縮性を付与するために用いられていた弾性繊維を、モールド加工品の骨格としても利用することにより型保持性を確保し、非弾性繊維が有する風合いを損なうことなく、優れた型保持性、基材との一体性を確保できることを本願発明者等は見出したものである。
【0010】
すなわち、120℃での熱セット率が65〜100%という熱セット特性に優れ、曲げ剛性が高い繊度が10〜78dtexの弾性繊維を、3〜30重量%含むことにより、非弾性繊維の風合いを損なうことなく、所望のモールド加工品形状を維持することが可能となる。
【0011】
上記弾性繊維のより好ましい120℃での熱セット率は65〜100%、更に好ましくは75〜100%である。かかる範囲であれば、所望の形状により近いモールド加工品が得られる一方、実用上の温度変化に対しても物性を維持することができる。
【0012】
また、上記弾性繊維のより好ましい繊度は10〜78dtex、更に好ましくは20〜50dtexである。かかる繊度であれば、型保持特性と風合いのバランスが一層高くなる。
【0013】
また、上記弾性繊維の含有率は3〜30重量%、更に好ましくは8〜30重量%である。かかる含有率の範囲であれば、型保持特性、伸縮性、風合いのバランスが一層高くなる
【0014】
本発明のモールド加工品に用いる弾性繊維は、100℃で2分間加熱セット後の加熱収縮率が80〜140%、収縮応力が0.1〜20mNであってもよい。かかる物性を有する弾性繊維であれば、モールド加工品と基材を積層後、加熱することにより、積層体の型を崩すことなく、皺を消滅させることが可能となるからである。より好ましい範囲は収縮率90〜130%、収縮応力0.5〜15mN、更に好ましくは収縮率95〜125%、収縮応力1〜10mNである。
【0015】
本発明のモールド加工品に用いる弾性繊維の熱応力ピーク温度が130℃以下であることが好ましい。熱応力ピーク温度が高いとその分だけモールド加工時のセット温度を高くする必要がある。セット温度が高くなればなるほど風合いの低下や、繊維の黄変といった品質低下が起き易いためである。熱応力ピーク温度が130℃以下であればモールド加工時のセット温度が180℃以下でも成型後の収縮が起きにくい。より好ましい範囲は100℃以下であり、更に好ましくは70℃以下である。
【0016】
本発明のモールド加工品の製造方法として、モールド加工時のセット温度が50℃〜120℃であることが好ましい。120℃を越えると組み合わされる非弾性繊維の種類によっては劣化するものもあるためである。50℃未満ではセットされにくい為好ましくない。より好ましくは60℃から110℃であり、一層好ましくは70℃から100℃である。また、型押し加熱後は生地温度が50℃以下に冷却してから型から外すことがセット性から好ましい。
【0017】
本発明のモールド加工品に用いる弾性繊維は架橋型ポリオレフィン系弾性繊維であることが好ましい。本発明でいう架橋型ポリオレフィン系弾性繊維は、例えば、特表平8-509530号公報に開示されたポリオレフィンを弾性繊維が挙げられる。かかる架橋型ポリオレフィン系弾性繊維は、低温熱セットが可能である一方、セット後に適度な応力で加熱収縮させることが可能であるため、モールド加工品の形状不良、或いは縫製不良等の原因で、基材と積層したときの一体性が不良であっても、積層後加熱することにより皺等を消滅させることが可能となり、一体性不良を治癒することが容易であるという効果も奏する。また、耐熱性に乏しい非弾性繊維と組み合わせて使用することが容易である。更に、架橋型ポリオレフィン系弾性繊維は、透明性、耐変色、化学耐久性にも優れており、モールド加工品が取り扱い易くなり、更に使用期間延長という効果も有する。
【0018】
本発明のモールド加工品に用いる弾性繊維は特に限定されないが、例えばポリウレタン弾性繊維、架橋型ポリオレフィン系弾性繊維が挙げられる。ポリウレタン弾性繊維であれば、例えば特開2000−265326号公報に開示された低温セット可能なポリウレタン弾性繊維を用いた弾性布帛を用いたモールド加工品が挙げられる。
【0019】
本発明のモールド加工品は、非弾性繊維も含有することが好ましい。前記弾性繊維は伸縮性に優れるが肌さわりが悪く、また風合いにも乏しく、非弾性繊維で補うことが好ましいからである。
【0020】
本発明のモールド加工品に用いる非弾性繊維の単糸繊度は0.5〜5dtexであることが好ましい。かかる範囲であれば、毛羽立ちが少なく、濃染が可能である一方、柔軟で弾性繊維が形成するモールド加工品の形状に沿って変形するため、所望の型どおりのモールド加工品が得られ易くなるからである。より好ましい単糸繊度は0.5〜4dtex、更に好ましい単糸繊度は0.5〜3.5dtexである。
【0021】
本発明のモールド加工品に用いる非弾性繊維の素材は特に限定されるものではなく、例えば綿やシルク、麻のような天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、レーヨンなどの合成繊維が挙げられる。
【0022】
本発明のモールド加工品の形態は、布帛であることが好ましく、不織布、織物等であってもよいが、編物であることが特に好ましい。編物であれば、弾性繊維の伸縮特性を特に発揮し易いのみならず、非弾性繊維による弾性繊維の拘束が弱く、弾性繊維による型保持性を阻害し難いからである。編物の形態としては、丸編み、経編み、緯編み等が挙げられるが、布帛の表面平滑性の観点から丸編みもしくは経編みが特に好ましい。
【0023】
本発明のモールド加工品は、種々の用途に展開可能であるが、意匠性、風合いが特に要求されるブラカップに特に適している。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本願発明を更に詳細に説明する。
なお、本発明に用いる測定方法は下記の通りである。
【0025】
[熱セット率]
初期長22.5cm(L1)の弾性繊維を100%伸張下、乾熱120℃で一分間処理した後、室温で10分間放冷・放縮させた後の糸長(L2)を測定し次式により求めた。
熱セット率(%)=(L2−L1)/L1×100
【0026】
[破断伸度]
JIS L 1013の定義に準拠し、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、引張試験機を用い、糸長5cm、引っ張り速度50cm/分で応力伸張曲線を求め、糸が破断した伸度を破断伸度とした。
【0027】
[加熱収縮率]
初期長10cm(L1)の弾性繊維を100%伸張下、乾熱100℃で二分間処理した後、室温で10分間放冷・放縮させた後の糸長(L2)を測定し、さらにフリーな状態で乾熱80℃で一分間処理した後、室温で10分間放冷・放縮させた後の糸長(L3)を測定し、次式により求めた。
加熱収縮率(%)=(L2−L3)/(L2−L1)×100
【0028】
[熱収縮応力]
弾性繊維を100%伸張下、乾熱100℃で二分間処理した後、室温で10分間放冷・放縮させた試験糸をセイコー電子工業(株)製、SSC−5200装置を用いて糸長2cmの一本の糸に1mgの初期荷重を掛け、昇温速度20℃/分で測定を行い、100℃での熱応力を測定した。
【0029】
[熱応力測定法]
セイコー電子工業(株)製、SSC−5200装置を用いて糸長2cmの一本の糸に1mgの初期荷重を掛け、昇温速度20℃/分で測定した。
【0030】
[モールド加工]
試料生地を20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、直径18cm、深さ5cmのステンレスボウルの開口部に広げ、その上から同じ大きさのステンレスボウルをボウルの底側から生地に当て、そのまま押し込んだ。間に試料生地を挟んだ二個のステンレスボウルを8方向からクリップで固定し、所定の温度で3分間加温し、常温に冷却後試料を取り出した。
モールド加工の成型性は、ステンレスボウルの深さ形状に対し、生地の変形率が80%以上を○(良好)とし、50%以下を×(不良)、50〜80%を△とした。
モールド加工後の生地風合い評価は、モールド加工した試料生地の表面の風合い硬化を被験者5名の官能試験で評価し、硬化が全く認められないものを○(良好)とし、硬化がハッキリと認められるものを×(不良)とした。
【0031】
(実施例1〜3)
弾性繊維として、表1記載の架橋型ポリオレフィン系弾性繊維(東洋紡績株式会社製 DOWXLA(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー 登録商標))を、弾性繊維用積極送出し装置付き28ゲージ、38インチのシングル編機に供給し、表1記載の非弾性繊維で天竺編みを編成し、上記架橋型ポリオレフィン系弾性繊維糸条でプレーティング挿入編みを行い、ベア天竺編地を編成した。得られたベア天竺編地を表1記載の温度条件でモールド加工して、モールド加工品を作成した。得られたモールド加工品の評価結果を表1に示す。
【0032】
(実施例4)
弾性繊維として、表1記載の溶融型ポリウレタン弾性繊維(東洋紡績株式会社製 エスパ−M)を用いた以外は、実施例2と同様の条件でモールド加工品を得た。得られたモールド加工品の評価結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1〜4)
弾性繊維として表1記載の乾式ポリウレタン弾性繊維(東洋紡績株式会社製 エスパ T71)を、非弾性繊維として表1記載の繊維を用いた以外は実施例と同様に編地を編成し、表1記載の温度条件でモールド加工品を作成し、評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例5及び6)
弾性繊維として表1記載の架橋型ポリオレフィン系弾性繊維(東洋紡績株式会社製 DOWXLA(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー 登録商標))を、非弾性繊維として表1記載の繊維を用いた以外は実施例と同様に編地を編成し、表1記載の温度条件でモールド加工品を作成し、評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1からわかるように、本発明のモールド加工品は優れた成型性と風合いをかね添えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によるモールド加工品は、型保持性が高く、伸縮性に優れるため、基材のモールド加工品との一体性を確保することが可能であり、意匠性、更には風合いに優れたパッド等が安価に得られ、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度10〜78dtex、120℃での熱セット率65〜100%、破断伸度300〜600%の架橋型ポリオレフィン系弾性繊維及び/又はポリウレタン系弾性繊維を3〜30重量%含む布帛を加熱成型してなることを特徴とするモールド加工品。
【請求項2】
前記架橋型ポリオレフィン系弾性繊維又はポリウレタン系弾性繊維が、100℃で2分間加熱セット後の加熱収縮率が80〜140%、収縮応力が0.1〜20mNであることを特徴とする請求項1記載のモールド加工品。

【公開番号】特開2008−138298(P2008−138298A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323202(P2006−323202)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】