説明

ヤットコを利用した杭の施工方法

【課題】工程数を少なくするとともに杭の水平耐力を向上させる。
【解決手段】地盤Gを拡大掘削する外枠体21と、杭10の杭芯を当該ヤットコ20の回転中心に略一致させた状態を保持するガイド22と、を備えるヤットコ20を用い、杭10を当該ヤットコ20の回転中心に略一致させた状態で保持し、該ヤットコ20を利用して杭10を地中に埋設するとともに外枠体21により杭10の周辺を拡大掘削し、ヤットコ20を介さずに、拡大掘削した部分に地盤改良材30を打設することによって当該杭10の周辺を地盤改良する。ヤットコ20が回転力を伝達する杭10の上部に別の杭が接続されてガイド22に保持されていることが好ましい。また、ヤットコ20を地中から引き上げた後、拡大掘削した部分に地盤改良材30を打設することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤットコを利用した杭の施工方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、ヤットコの構造および杭の施工方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
螺旋状羽根を有する杭(例えば鋼管杭)の施工方法として、杭打機によって鋼管杭の下端付近を振れ止めしながら、杭回転装置(オーガー)で当該鋼管杭を回転させて地盤に埋設するというものがある。また、このような施工方法においては、杭回転装置で杭頭部を直接回転させる他、これらの間にヤットコ(鋼管製の仮杭)を介し、杭回転装置の動力を杭に伝達して埋設することも行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、杭を施工するに際し、杭頭部付近に軟弱地盤が存在すると、地震時に作用する水平力に対して杭の変位量が大きくなり、上部構造に悪影響を与えるおそれがある。そこで、特に杭頭部付近における水平耐力を向上させてこのような影響を軽減させるために杭頭部の周辺を拡大掘削する方法として、拡大径の掘削孔を先に築造してから杭を埋設する方法(特許文献2参照)や、杭を埋設した後に、杭頭部周辺を掘削して地盤改良を行う方法(特許文献3参照)などが提案されている。さらに、杭周辺部を改良するための掘削孔を無排土で行う方法であって、拡大掘削は行われずに全長にわたり同径で掘削するもの(特許文献4参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3828731号公報
【特許文献2】特許第4223780号公報
【特許文献3】特許第3127276号公報
【特許文献4】特許第3532247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような杭の施工方法においては、工程の数をより少なくすることができれば、コストや品質管理の面において有利である。しかしながら、上述のごとくヤットコを利用して杭を施工する場合、工程数を少なくするにも限度がある。また、地盤に埋設された杭の水平抵抗については現状よりもさらに向上させることができれば望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術における課題を踏まえつつ、工程数を少なくするとともに杭の水平耐力を向上させることを可能とする、ヤットコを利用した杭の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。杭の水平耐力を向上させるため、上述のように拡大径の掘削孔をあらかじめ築造する、あるいは杭頭部周辺を掘削して地盤改良を行うといった工法が採られているが、いずれの工法も、掘削工程、杭を建て込み埋設する工程、地盤改良工程といった各種工程を経ているのが現状である。
【0008】
また、杭の水平耐力を向上させるため、上述のごとく杭頭部の周辺を拡大掘削し、さらに杭周辺部に地盤改良材を充填する等して地盤を改良することが行われている。この場合、杭の水平耐力を均等に発揮させることが望ましいが、実際には、改良材が固化するまでの間、拡大掘削孔の中で杭が動いてしまい、杭の中心と改良材の中心とがずれてしまう可能性があった。このように杭の中心がずれることは、当該杭の水平耐力が均等でなくなることから、水平耐力向上の観点からしても望ましくない。
【0009】
これら現状の技術について検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。本発明はかかる知見に基づくものであり、地盤を拡大掘削する外枠体と、杭の杭芯を当該ヤットコの回転中心に略一致させた状態を保持するガイドと、を備えるヤットコを用い、杭を当該ヤットコの回転中心に略一致させた状態で保持し、該ヤットコを利用して杭を地中に埋設するとともに外枠体により杭の周辺を拡大掘削し、ヤットコを介さずに、拡大掘削した部分に地盤改良材を打設することによって当該杭の周辺を地盤改良する、というものである。
【0010】
かかる施工方法においては、上述のごときヤットコを利用して杭を地中に埋設することにより、当該埋設工程と同時に、外枠体によって杭の周辺に拡大掘削孔を築造することができる。例えば従来方法であれば、先に拡大掘削孔を築造しておき、次に杭を埋設し、その後、杭周辺部を地盤改良するといったように各種工程を順次経る必要があるが、本発明にかかる施工方法によれば、杭の埋設と拡大掘削孔の築造という異なる工程をひとまとめが行うことが可能となる。
【0011】
また、この施工方法においては、杭を、ヤットコの回転中心に略一致させた状態で保持しながら地盤を拡大掘削するので、埋設した杭を中心として拡大掘削孔を築造することができる。このため、杭の中心と地盤改良材の中心とをより一致させた状態で地盤改良を行うことが可能となる。したがって、本発明にかかる施工方法によれば、杭に作用することのある曲げモーメントを軽減させて水平耐力を従来よりも向上させることが可能となる。
【0012】
上述のごとき杭の施工方法においては、ヤットコが回転力を伝達する杭の上部に別の杭が接続されてガイドに保持されていることが好ましい。このようにして回転力を下の杭に伝達した場合、上杭との接続部に回転力(トルク)が作用しないため、例えば杭と杭とを接続するための機械式継手構造を簡略化することができ、コスト軽減に寄与する。
【0013】
また、かかる施工方法において、ヤットコを地中から引き上げる途中または引き上げた後、拡大掘削した部分に地盤改良材を打設することもできる。例えば所定の範囲に複数の杭を一機の杭打機で順次施工するような場合においては、一の杭の埋設・拡大掘削孔の築造の工程と、拡大掘削孔に地盤改良材を打設して固化させる工程とを別個独立に実施することができれば、異なる場所で各工程を並行して進めることが可能となる。この点、本発明にかかる施工方法によれば、一の杭の埋設・拡大掘削孔の築造の工程を終えた後、いったんヤットコを引き上げてから当該拡大掘削した部分に地盤改良材を打設する工程と、他の杭の埋設・拡大掘削孔の築造の工程とを並行して進めることができるから、施工速度を向上させて全体に要する施工時間を短縮することが可能である。なお、拡大掘削した部分に地盤改良材を打設するのはヤットコを地中から引き上げる途中または引き上げた後のいずれでもよく、要は、拡大掘削した部分に地盤改良材を打設するためのスペースがあれば足りる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工程数を少なくするとともに杭の水平耐力を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に実施に利用される杭打機の一例を示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるヤットコの構造例を示す斜視図である。
【図3】ヤットコの可動蓋およびその周辺の構造を拡大して示す断面図である。
【図4】ヤットコの内部鋼管下端の杭係合部に杭の係合用突起が係合した様子を示す底面図(ただし杭と内部鋼管のみを図示)である。
【図5】鋼管杭の施工手順の一例を(A)〜(I)の順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1等に本発明にかかるヤットコを利用した杭の施工方法の実施形態を示す。ヤットコ20は、鋼管杭10を地盤Gに埋設するための鋼材治具であるガイドと、地盤Gを拡大掘削するとともに地盤改良材30を打設することが可能な鋼材治具である外枠体とを一体化した構造となっている。以下では、杭施工に利用される一般的な杭打機1の構成をまず簡単に説明し(図1参照)、その後、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
杭打機1は、リーダー2、オーガー3、振れ止め装置4などを有し、杭(例えば鋼管杭10)を立設させながら回転させ、地盤Gに埋設させる機械である(図1参照)。なお、図1において、鋼管杭10の基端(上端)に取り付けられる場合のあるキャップを想像線で示している。
【0019】
オーガー(杭回転装置)3は、杭打時において鉛直方向に立設するリーダー2に沿って移動可能に設けられており、当該リーダー2の長手方向に沿って昇降する(図1参照)。オーガー3には、鋼管杭10が直接またはヤットコ20を介して連結され、該オーガー3が回転駆動することによって当該鋼管杭10も回転する。本実施形態では、先端に掘削用の螺旋状羽根12が設けられた鋼管杭10を用いており、このように鋼管杭10を回転させることにより、螺旋状羽根12が生じさせる地中への推進力を利用して当該鋼管杭10を未掘削の地盤Gに食い込ませながら掘進させる。地盤Gに対して鋼管杭10が掘進する際、オーガー3もリーダー2に沿って降下する。
【0020】
振れ止め装置4は、杭打される鋼管杭10をガイドして当該鋼管杭10の横振れ(水平方向への振れ)を抑える装置で、例えばリーダー2の下部に設けられている(図1参照)。また、振れ止め装置4は、鋼管杭10の軸線回りに鋼管杭10を取り囲んで案内するガイド部5を備えている。例えば本実施形態の場合、ガイド部5は、垂直に立設しているリーダー2に対して水平方向に揺動するように設けられた一対の開閉ガイド(図示省略)を有している。
【0021】
続いて、ヤットコ20の構成および当該ヤットコ20を利用した鋼管杭10の施工方法の例を以下に説明する。
【0022】
本実施形態のヤットコ20は、外枠体21、ガイド22、杭係合部22bなどを備えた杭埋設用の鋼管製仮杭であり、鋼管杭10を埋設すると同時に地中における該鋼管杭10の周辺に地盤改良用の空間を形成する。
【0023】
ヤットコ20の外枠体21は、地盤Gを拡大掘削するとともに、地盤改良材30を貯留可能なホッパーとして機能する(以下、ホッパーともいう)。例えば本実施形態では、このホッパー21を、円筒部と、該円筒部分の下部に設けられたテーパ部とで形成している(図2等参照)。下部がテーパ状であるホッパー21は、地盤Gをより掘削しやすいという点で好ましい。
【0024】
ガイド22は、埋設対象とする鋼管杭10の杭芯を当該ヤットコ20の回転中心に略一致させた状態を保持する部材である。例えば本実施形態では、施工対象とする鋼管杭10の外径よりも大きな内径の鋼管(以下、内部鋼管22ともいう)をガイドとして用いている。
【0025】
この内部鋼管22とホッパー21とは、当該内部鋼管22の軸がホッパー21の回転中心と略一致するように連結部材23によって一体化されている。連結部材23の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態では、平面視十字状のスポーク状のアームからなる連結部材23を上下段のそれぞれに計2個用い、当該ホッパー21の円筒部における上部付近および下部付近の2箇所においてホッパー21の内壁と内部鋼管22とを連結している(図2参照)。2箇所において同じ構成のスポーク23を利用しうる構成とすればコスト面でも有利となる。
【0026】
内部鋼管(ガイド)22の上端には、オーガー3と連結するための係合用突起22aが形成されている。係合用突起22aは例えば等間隔(180度おき)に配置された2つの同形状の突起からなり(図2参照)、オーガー3によって回転駆動される際の回り止めとして機能する。この係合用突起22aを含む内部鋼管22の上端部の形状を杭10の上端部の形状と同様とすれば、オーガー3に対し、杭10と内部鋼管22の両方を補助具などを介さず直接取り付けることができる。
【0027】
また、内部鋼管(ガイド)22の下端には、杭10を連結させるための杭係合部22bが形成されている。本実施形態における杭係合部22bは、杭10の係合用突起11が嵌まり込む切り欠き22cと、当該切り欠き22cを外側から覆うとともに強度を補強する切り欠きカバー22dとで構成されている(図4参照)。このような杭係合部22dの切り欠き22cおよび該切り欠き22cに嵌まり込んだ状態の杭10の係合用突起11は、内部鋼管22に対する杭10の周方向への回り止めとして機能する。したがって、内部鋼管22と杭10とを係合させた状態でヤットコ20を回転させると杭10も同量回転する。なお、杭10の係合用突起11は所定位置で当該切り欠き22cの壁(度当たり)に当接して位置決めされ、当該所定位置よりも奥には入り込むことができない(図3、図4参照)。また、切り欠きカバー22は、後述する可動蓋24のストローク端を規定する度当たりとしても機能する。
【0028】
また、ホッパー(外枠体)21の例えば底部には、当該ホッパー21内に貯留された地盤改良材30を外部に流出させることが可能な流出孔21aが設けられている(図2、図3参照)。例えば本実施形態では、ホッパー下部のテーパ状円筒部分の底部を開口させ、内部鋼管22を中心とした環状の流出孔21aを形成している(図2、図3参照)。
【0029】
さらに、ヤットコ20は、この流出孔21aを開閉する可動蓋(開閉蓋)24を備えていてもよい。例えば本実施形態のヤットコ20は、当該ヤットコ20の地中への推進時、および地中からの引き上げ時に当該地中での抵抗を受けて流出孔21aを開閉する可動蓋24を備えている(図2、図3参照)。
【0030】
本実施形態の可動蓋24は、内部鋼管2の周囲を軸方向に沿ってスライド可能であって尚かつ内部鋼管2の周囲を回転可能なパイプ部24aに、流出孔21aを塞ぎうる大きさの例えば円形の平板部24bを一体化した構造となっている。この可動蓋24は、平板部24bが流出孔21aの縁に当接した位置(上側ストローク端)と、パイプ部24aの縁が杭係合部22bの切り欠きカバー(度当たり)22dに当接した位置(下側ストローク端)との間の所定間隔をストローク可能である。
【0031】
可動蓋24には、ヤットコ20の地中からの引き上げ時における当該可動蓋24に対する地中での抵抗を増大させる抵抗増大部が設けられていることが好ましい。本実施形態では、パイプ部24aの周囲に螺旋状羽根24cを形成し、鋼管杭10の埋設時にこの螺旋状羽根24cをアンカーのように地盤Gに食い込ませ、引き上げ時における抵抗を増大させて可動蓋24を強制的に開かせるようにしている(図2、図3参照)。また、このような螺旋状羽根24cは、鋼管杭10の埋設時に鉛直軸周りに回転した際、地盤Gに食い込んで地中への推進力を生じさせ、当該鋼管杭10の埋設をより容易にさせる。
【0032】
また、ヤットコ20には、ホッパー21に対する可動蓋24の相対回転を所定時に規制するための装置、例えば凹部と該凹部に嵌まり込む突起との組み合わせ等からなる相対回転規制装置が設けられていることが好ましい。例えば本実施形態では、ホッパー21の底部に鉛直下向きに突出する例えば2個の相対回転規制用の突起(以下、共回り用突起ともいう)21bを設けるとともに、可動蓋24の平板部24bには、これら共回り用突起21bが嵌まり込みうる共回り用切り欠き24dを設けている(図3等参照)。共回り用突起21bが回転規制用切り欠き24bに嵌まり込んでいる状態で内部配管22およびホッパー21を回転させると、これらと共に可動蓋24を共回りさせ、ホッパー21等に対する相対回転を規制することができる。なお、共回り用突起21bは、杭を地中に埋設する際には共回り用切り欠き24dに嵌まり込んだ状態となる一方、ヤットコ20の引き上げ時には共回り用切り欠き24dから自動的に抜け出ることができ、可動蓋24が開いた状態となるための動作を妨げることはない。
【0033】
続いて、鋼管杭10を埋設する際の施工手順の一例を以下に説明する(図5等参照)。
【0034】
まず、地盤Gへの鋼管杭10の建て込みに際しては、杭打機1の振れ止め装置4の開閉ガイド(図示省略)を開いておき、リーダー2に沿ってオーガー3を降下させ、鋼管杭10の基端をオーガー3に連結する。その後、オーガー3を上昇させて鋼管杭10を吊り込み、杭芯に合わせて当該鋼管杭10をセットする(図1参照)。鋼管杭10の先端を杭芯にセットしたら、開閉ガイドを閉じて振れ止め状態とし、鋼管杭10を把持させる。
【0035】
ここで、鋼管杭10が鉛直に建て込まれていることを確認した後、オーガー3で鋼管杭10に正回転(右回転)を与え、当該鋼管杭10の螺旋状羽根12によって生じる推進力で地盤Gに埋設させる(図5(A)、(B)参照)。第1の鋼管杭10(10A)を埋設したら、必要に応じ、第2以降の鋼管杭10(10B)を溶接あるいは機械式継手などによって継ぎ足す(図5(C)参照)。
【0036】
次に、本発明にかかるヤットコ20を所定位置に設置する。ここでは、第2の鋼管杭10(10B)の上部からヤットコ20を降下させ、内部鋼管22の内側に鋼管杭10を通した状態とする(図5(D)参照)。なお、後述する実施例におけるように、ヤットコ20の内部鋼管22の中に第2の鋼管杭10(10B)を挿入し、挿入したまま両鋼管杭を継ぎ足すようにしてもよい。次いで、鋼管杭10の係合用突起11を、内部鋼管22の杭係合部22bの切り欠き22c(図5においては切り欠きカバー22dの図示を省略)に係合させる(図5(E)参照)。このとき、鋼管杭10がヤットコ20の内部鋼管22を通過した状態となっていることから、鋼管杭10をヤットコ20の回転中心にほぼ一致させた状態で保持することができる。
【0037】
続いて、オーガー3でヤットコ20を正回転(右回転)させ、鋼管杭10をさらに埋設する(図5(F)参照)。本実施形態の場合、オーガー3による駆動力は、ヤットコ20の係合用突起22a → 内部鋼管22 → 杭係合部22b → 係合用突起11 → 第1の鋼管杭10A → 第2の鋼管杭10Bという経路で鋼管杭10に伝達され、また、ヤットコ20の係合用突起22a → 内部鋼管22 → スポーク(連結部材)23 → ホッパー21 → 共回り用突起21b → 共回り用切り欠き24d → パイプ部24a → 可動蓋24という経路で可動蓋24に伝達される。ヤットコ20を正回転(右回転)させて鋼管杭10を埋設する際、当該鋼管杭10(本実施形態の場合第2の鋼管杭10B)の周辺をホッパー21によって拡大掘削することができる。
【0038】
次に、ヤットコ20のみを地盤Gから引き上げる(図5(G)参照)。ヤットコ20を引き上げると、地盤Gには、ホッパー21の外形どおりの拡大掘削孔が築造されている(図5(H)参照)。その後、この拡大掘削孔に地盤改良材を打設し、地盤改良を行う。この際、地盤Gから引き上げたヤットコ20を利用して、次なる鋼管杭10の埋設および拡大掘削孔の築造を並行して行うことが可能である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態における鋼管杭10の施工方法によれば、鋼管杭10の埋設工程、地盤改良用の拡大掘削工程、といった各種工程を同時に実施することができる。すなわち、この施工方法によれば、ヤットコ20を利用して鋼管杭10を地盤Gに埋設する工程と、ホッパー21によって鋼管杭10の周辺に拡大掘削孔を築造する工程とを同時に進行させることができる。これによれば、鋼管杭10の埋設工程と、拡大掘削孔の築造工程という異なる工程を一度に行うことが可能となるため、施工時に経る工程数が減少し、施工効率を向上させることが可能となる。また、工程数が減少することは、鋼管杭10の施工時におけるコスト面や品質管理面においても有利である。
【0040】
また、本実施形態における施工方法によれば、拡大径の掘削孔をあらかじめ築造することなく鋼管杭10を地盤Gに埋設し、当該鋼管杭10の上部の周辺のみを拡大掘削することができる(図5等参照)。これによれば、その後に打設される地盤改良材30が拡大掘削孔の中で固化するまでの間、鋼管杭10の先端を地中に埋設させ、拡大掘削孔の中で鋼管杭10が動き難い状態を維持することができる。このため、当該鋼管杭10の周辺に地盤改良材30を均等な状態で固化させることができるから、余分な調整・管理工程を経ずとも、鋼管杭10の水平耐力を向上させやすいという利点がある。
【0041】
また、この施工方法においては、拡大径の掘削孔をあらかじめ築造することなく、ホッパー(外枠体)21を回転させながら地中に推進させて拡大掘削孔を築造するといったことから、施工時に排土が行われないという点でも特徴的である。すなわち、鋼管杭10の施工時に発生する残土(建設副産物)をなくす(あるいは少なくする)ことで、残土処分費(産業廃棄物扱い)を削減することが可能になる。また、このように建設副産物の発生を抑制することは環境面でも望ましいことである。
【0042】
さらに、この施工方法によれば、ヤットコ20を地中から引き上げた後、拡大掘削した部分に地盤改良材を打設しながら、他の場所において次の鋼管杭10を埋設することが可能である。つまり、本実施形態の施工方法によれば、一の杭の埋設・拡大掘削孔の築造の工程を終えた後、当該拡大掘削した部分に地盤改良材を打設する工程と、次なる杭の埋設・拡大掘削孔の築造の工程とを並行して進めることができるから、施工速度を向上させて全体に要する施工時間を短縮することが可能である。一般的な杭施工に際しては、所定の範囲に複数の鋼管杭10を一機(ないしは限られた数)の杭打機1で順次施工することが多く行われていると考えられるところ、本実施形態の杭施工方法のように、一の鋼管杭10の埋設・拡大掘削孔の築造の工程と、拡大掘削孔に地盤改良材を打設して固化させる工程とを別個独立に実施することができれば、異なる場所で各工程を並行して進めることが可能になるという点で好ましい。
【0043】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、可動蓋24のパイプ部24aの周囲に螺旋状羽根24cが形成されているヤットコ20を例示したが、この他の部位、例えばホッパー21の外周面に別の螺旋状羽根が形成されていてもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では施工対象となる杭の具体例として鋼管杭を示したがこれは好適な一例にすぎず、例えばコンクリート製杭など他の種類の杭に対しても本発明を適用することが可能である。
【0045】
また、上述した実施形態では、ホッパー(外枠体)21を地中から完全に引き出した後に地盤改良材を充填する態様を例示したが(図5(H)、(I)参照)、これも好適な一例にすぎない。この他、例えば、ホッパー21が完全に地中から引き出されるよりも前に拡大掘削孔への地盤改良材の打設を開始してももちろん構わない。要は、本発明にかかる施工方法においては、ヤットコ20を介さずに地盤改良材を打設すること、地盤改良材の打設とは無関係にヤットコ20を使用することが可能となっている。したがって、ホッパー21が地中から完全に引き出されたかどうかは、地盤改良材の打設タイミングに影響を与えない。
【0046】
さらに、上述した実施形態では、流出孔21a、可動蓋24などを備えたヤットコ20を例示したうえで鋼管杭10の施工方法を説明したが、このようなヤットコ20も好適な一例にすぎない。詳述すれば、上述した構造のヤットコ20は、ホッパー21内に充填された地盤改良材を流出孔21aから流出させることによって当該地盤改良材を拡大掘削孔に打設する場合に有用なものであるが、これ以外の構造のヤットコ20によっても本発明を実施することが当然に可能である。例示すれば、これらのような流出孔21aや可動蓋24などを備えていない、単なる容器状のホッパー(外枠体)21によっても上述した実施形態と同様に本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、螺旋状羽根を有する杭(例えば鋼管杭)を振れ止めしながら回転させ、地盤に埋設する場合にヤットコを利用する場合に適用して好適である。
【符号の説明】
【0048】
10…鋼管杭(杭)、20…ヤットコ、21…ホッパー(外枠体)、22…内部鋼管(ガイド)、30…地盤改良材、G…地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を拡大掘削する外枠体と、前記杭の杭芯を当該ヤットコの回転中心に略一致させた状態を保持するガイドと、を備える前記ヤットコを用い、
前記杭を当該ヤットコの回転中心に略一致させた状態で保持し、該ヤットコを利用して前記杭を地中に埋設するとともに前記外枠体により前記杭の周辺を拡大掘削し、前記ヤットコを介さずに、前記拡大掘削した部分に前記地盤改良材を打設することによって当該杭の周辺を地盤改良する、ヤットコを利用した杭の施工方法。
【請求項2】
ヤットコが回転力を伝達する杭の上部に別の杭が接続されてガイドに保持されている、請求項1に記載のヤットコを利用した杭の施工方法。
【請求項3】
前記ヤットコを地中から引き上げる途中または引き上げた後、前記拡大掘削した部分に前記地盤改良材を打設する、請求項1または2に記載のヤットコを利用した杭の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117216(P2011−117216A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276492(P2009−276492)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】