説明

ヤトロファ・クルカスからの細胞組織増殖のための方法

【課題】植物の成長を必要としない、ヤトロファ・クルカスに由来する油の生成のための方法の提供。
【解決手段】ヤトロファ・クルカスの種子から外植片を得ること、ヤトロファ・クルカスの種子に由来する外植片を培地に入れること、外植片組織の細胞間結合を破壊して、個別細胞を生成させること、培地を、生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、上記個別細胞を増殖させること、及びヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性植物の種子に由来する細胞の増殖及び生成された細胞に由来する油を得ることに関する。
【背景技術】
【0002】
油性植物の種子は、数ある用途の中でも特に、バイオディーゼルとしての役割を果たすことができる油の生産における供給源として同定されている。
【0003】
一例は、油を含む種子を有する、ヤトロファ・クルカス(ナンヨウアブラギリ)(Jatropha curcas)植物である。上記油は、薬剤、獣医学及び石けん製造等のための用途を有することに加えて、高品質バイオディーゼルとして適切であると考えられる。ヤトロファ・クルカス種子に由来する油は、エンジン用ディーゼルに類似した物理化学的性質及び生産性を備える(Murali,et al.,米国特許出願第2008/0194026A1号、paragraph 0008 - 0010参照)。
【0004】
そのため、先行技術において、器官、組織、細胞又はプロトプラストに由来するヤトロファ・クルカス植物を生成することを目的としたミクロ増殖法が記述されている(Murali,et al., paragraph 0014, 0017 and 0024参照)。生成された植物は、油の生産のための種子の供給源として使用し得る(Shuyi Qiu, et al., 中国特許出願第11225416A号、要約書参照)。
【0005】
残念ながら、ミクロ増殖法又は従来の増殖法によって生成される植物の収穫のためには広大な土地面積が必要とされるので、ヤトロファ・クルカス種子に由来する油をバイオディーゼル用途のために大量に生産する可能性は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第2008/0194026A1号
【特許文献2】中国特許出願第11225416A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物の成長を必要としない、ヤトロファ・クルカスに由来する油の生成のための方法を提供する。したがって、本発明の方法は、ヤトロファ・クルカス又は他の油性植物に由来する油の生産のための土地面積の使用を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヤトロファ・クルカス種子組織から増殖した細胞に由来する油の生産のための方法を提供し、本方法は他の油性植物種子にも適用できる。上記方法は、ヤトロファ・クルカス種子からの子葉から外植片を得ること、上記外植片を、撹拌下でインキュベートすることによって個別細胞を生成するように、細胞間結合を破壊する酵素を含む培地に接種して上記個別細胞を増殖させることを含む。ヤトロファ・クルカス種子の子葉組織に由来する個別細胞から誘導された増殖細胞から、バイオディーゼルとして使用できる油が抽出される。
【0009】
詳細には、本発明の方法は、ヤトロファ・クルカス種子から外植片を得ること、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片を液体培地に入れること、上記培養中のヤトロファ・クルカス種子に由来する組織外植片の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させること、培地を、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、上記個別細胞を定められた時間内で増殖させること、及びヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出することを含む。
【0010】
本発明の方法の1つの態様では、外植片は、ヤトロファ・クルカス種子をエタノール浴に浸して、ヤトロファ・クルカス種子をエタノールで消毒すること、上記消毒したヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で包んで、ヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で水和すること、上記水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウム浴に浸して、水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウムで滅菌すること、滅菌したヤトロファ・クルカス種子の外皮を除去し、結果として種子の子葉をヤトロファ・クルカス種子から放出させること、及びヤトロファ・クルカス種子の子葉から外植片を得ることを含む手順によって、ヤトロファ・クルカス種子から得られる。
【0011】
本発明の方法はあらゆる油性植物に適用できる。あらゆる油性植物に適合する上記方法は、
A.油性植物種子から外植片を得ること、
B.種子に由来する外植片を培地に入れること、
C.上記培地中の種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させること、
D.培地を、種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、上記個別細胞を定められた時間内で増殖させること、及び
E.種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出すること
を含む。
【0012】
本発明のもう1つの態様では、好ましくは、培地は、少なくともNHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸(naftalenacetic acid)、ゼアチン及び炭素源を含む。
【0013】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含み得る。
【0014】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含み得る。
【0015】
本発明の方法の培地のもう1つの態様では、上記培地は、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0016】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0017】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含み得る。
【0018】
本発明の方法の培地の1つの態様では、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを培地に添加し、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼは、上記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片の組織細胞間結合を破壊する。
【0019】
本発明の方法の1つの付加的な態様では、油は、有機溶媒を添加すること、超音波処理、遠心分離、上面(superior face)の抽出、及び溶媒の蒸発と乾燥を含む手順によって、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した個別細胞を含む培地から抽出される。
【0020】
本発明はまた、NHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸、ゼアチン及び炭素源を含む培地を提供する。
【0021】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを含み、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼは、上記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊する。
【0022】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含み得る。
【0023】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含み得る。
【0024】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0025】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0026】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含み得る。
【0027】
本発明の付加的な目的及び利点は、本発明の詳細な説明及び特許請求の範囲においてより明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の方法は、ヤトロファ・クルカス種子から外植片を得ること、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片を培地に入れること、上記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する組織外植片の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させること、培地を、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、上記個別細胞を定められた時間内で増殖させること、及び、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出すること、を含む。
【0029】
本発明の方法の好ましい形態では、好ましいインキュベーション時間は、外植片を培地に入れた時点から少なくとも3日間である。より好ましい形態では、インキュベーションの時間は、外植片を培地に入れた時点から少なくとも8日間である。さらに一層好ましい形態では、インキュベーションの時間は、外植片を培地に入れた時点から少なくとも14日間である。インキュベーションは、好ましくは暗所にて室温で絶えず撹拌しながら実施される。
【0030】
インキュベーションはまた、定められた波長を発する光源、又は特定の油性植物種子に由来する細胞の増幅のために最適である波長を発する光源の下に照明下で実施され得る。
【0031】
ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片から生成された個別細胞は、培地中で少なくとも3日間のインキュベーション後にひとたび細胞間結合が破壊されれば、新鮮培地に再接種するための細胞の供給源として使用でき、新鮮培地に繰り返し再接種して、上記個別細胞の増幅を維持することができる。新鮮培地に再接種される個別細胞の好ましい量は1〜2×10細胞/mlであり、再接種された上記新鮮培地は、細胞が増殖定常期に達するまで定められた時間インキュベートされる。
【0032】
本発明の方法の1つの態様では、外植片は、ヤトロファ・クルカス種子をエタノール浴に浸して、ヤトロファ・クルカス種子をエタノールで消毒すること、上記消毒したヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で包んで、ヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で水和すること、上記水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウム浴に浸して、水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウムで滅菌すること、滅菌したヤトロファ・クルカス種子の外皮を除去し、結果として種子の子葉をヤトロファ・クルカス種子から放出させること、及びヤトロファ・クルカス種子の子葉から外植片を得ることを含む手順によって、ヤトロファ・クルカス種子から得られる。
【0033】
本発明の適用に関して、外植片という用語は、ヤトロファ・クルカス種子からの子葉の部分を指す。好ましい形態では、ヤトロファ・クルカス種子の子葉から得られる外植片は、厚さ1〜2mmの層形態の、子葉の横方向に切断された部分によって構成される。外植片はまた、ヤトロファ・クルカス種子又は他の油性植物の種子に由来する異なる形態を有する他の種類の子葉部分であってもよい。本発明の好ましい形態では、外植片の量は、各々100mmlの培地につき1〜7グラムであり得る。
【0034】
本発明の方法はあらゆる油性植物に適用できる。あらゆる油性植物に適合する上記方法は、
A.油性植物種子から外植片を得ること、
B.種子に由来する外植片を培地に入れること、
C.上記培地中の種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させること、
D.培地を、種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、上記個別細胞を定められた時間内で増殖させること、及び
E.種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出すること
を含む。
【0035】
「油性植物」という用語は、種子又は果実油を抽出することができ、一部の場合には食用であり、また別の場合には工業用、さらにまた別の場合には薬剤用である何らかの植物を表す。油性植物は、
グリシン・マックス(ダイズ)
エラエイス・グイニーンス(Elaeis guineensis)(ギニアアブラヤシ)
エラエイス・オレイフェラ(Elaeis oleifera)(Noli又はアメリカアブラヤシ)
アラチス・ハイポガエア(Arachis hypogaea)(落花生)
ヘリアンタス・アナス(Helianthus annuus)(ヒマワリ)
ゼア・メイズ(Zea mays)(トウモロコシ)
リヌム・ウシタチシム(Linum usitatissimum)(亜麻仁)
ブラシカ・ナプス(Brassica napus)(菜種、セイヨウアブラナ、カノーラ又はナビコール)
オレア・エウロパエア L(Olea europaea L.)(オリーブ)
リシヌス・コミュニス(Ricinus communis)(ヒマシ油)
セサムム・インディクム(Sesamum indicum)(ゴマ)
シモンドシス・キネンシア(Simmondsia chinensis)(ホホバ)
ベルニシア・フォルジイ(Vernicia fordii)(オオアブラギリ)
プルナス・ダルシス(Prunus dulcis)(アーモンド)
カーサムス・ティントリウス(Carthamus tinctorius)(ベニバナ)
ゴシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum)(ワタ)
モリンガ・オレイフェラ(Moringa oleifera)(ワサビノキ)
トリティクム・アエスティブム(Triticum aestivum)(コムギ)
及び種子が油分を有する全てのクラスの植物を包含する。
【0036】
本発明の方法の他の態様では、好ましくは、培地は少なくともNHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸、ゼアチン及び炭素源を含む。
【0037】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含み得る。
【0038】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含み得る。
【0039】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0040】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0041】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含み得る。
【0042】
本発明の方法の培地の1つの態様では、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを培地に添加し、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼは、上記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片の組織細胞間結合を破壊する。ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片組織の細胞間結合は、酵素的又は非酵素的な他の手順によっても破壊され得る。
【0043】
好ましい形態では、本発明の培地の成分の濃度範囲は以下の通りである:
NHNO 100〜500mg/L
CaNO又はKNO 200〜400mg/L
CuSO 0.1〜5mg/L
MnSO 10〜40mg/L
ZnSO 20〜50mg/L
BO 10〜20mg/L
KHPO 50〜200mg/L
NaMoO 0.1〜5mg/L
EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 10〜50mg/L
FeSO 10〜50mg/L
CaCl又はKCl 50〜100mg/L
CaCO 30〜50mg/L
NaC(クエン酸ナトリウム) 0.1〜10mg/L
MgSO 50〜300mg/L
SO 700〜1500mg/L
チアミン 0.5〜3mg/L
グリシン 0.5〜3mg/L
イノシトール 50〜200mg/L
ニコチン酸 0.1〜10mg/L
ピリドキシン 0.1〜10mg/L
ビオチン 0.1〜10mg/L
グルタミン 20〜50mg/L
IAA又はNAA又はIBA 0.5〜10mg/L
ゼアチン又はカイネチン又はBA又はGA 0.5〜10mg/L
サッカロース又はグルコース又はフルクトース 3000〜100000mg/L
ヘミセルラーゼ及びペクチナーゼ及びセルラーゼ 3000〜10000mg/L
【0044】
本発明の方法の好ましい形態では、EDTAは二ナトリウムである。EDTA一ナトリウムも本発明の方法において使用できる。
【0045】
本発明の方法の好ましい形態では、イノシトールはミオイノシトールである。
【0046】
本発明の方法の好ましい形態では、培地はpH4.8〜6.5に調整される。
【0047】
本発明の方法の1つの付加的な態様では、油は、有機溶媒を添加すること、超音波処理、遠心分離、上面の抽出、及び溶媒の蒸発と乾燥を含む手順によって、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した個別細胞を含む培地から抽出される。
【0048】
ヤトロファ・クルカス又は他の何らかの油性植物の場合、種子の子葉に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞からの油の抽出は、細胞の量が培地中で定常期に達したときに実施される。有機溶媒を、増殖した細胞を含む培地に添加する。好ましい有機溶媒はヘキサンであるが、イソプロパノール又はエタノール等のような他の溶媒も使用できる。
【0049】
溶媒、培地及び個別細胞の混合物を超音波処理に供したとき、個別細胞の壁が壊れて、細胞から油が放出される。破壊された細胞と放出された油を含む溶媒と培地の混合物を遠心分離にかけ、それによって上記混合物は上部相と下部相の2つの相に分離される。上部相は溶媒と放出された油を含み、下部相は上記細胞残留物と培地を含む。溶媒と油を含む上部相を分離し、次に、上記相の溶媒を回転蒸発と加熱によって蒸発させ、油の精製を生じさせる。
【0050】
本発明はまた、NHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸、ゼアチン及び炭素源を含む培地を提供する。
【0051】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを含み、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼは、上記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊する。
【0052】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含み得る。
【0053】
本発明の方法の培地の1つの態様では、上記培地は、CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含み得る。
【0054】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0055】
本発明の培地の1つの態様では、上記培地は、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含み得る。
【0056】
本発明の培地のもう1つの態様では、上記培地は、サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含み得る。
【0057】
好ましい形態では、本発明の培地の成分の濃度範囲は以下の通りである:
NHNO 100〜500mg/L
CaNO又はKNO 200〜400mg/L
CuSO 0.1〜5mg/L
MnSO 10〜40mg/L
ZnSO 20〜50mg/L
BO 10〜20mg/L
KHPO 50〜200mg/L
NaMoO 0.1〜5mg/L
EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 10〜50mg/L
FeSO 10〜50mg/L
CaCl又はKCl 50〜100mg/L
CaCO 30〜50mg/L
NaC(クエン酸ナトリウム) 0.1〜10mg/L
MgSO 50〜300mg/L
SO 700〜1500mg/L
チアミン 0.5〜3mg/L
グリシン 0.5〜3mg/L
イノシトール 50〜200mg/L
ニコチン酸 0.1〜10mg/L
ピリドキシン 0.1〜10mg/L
ビオチン 0.1〜10mg/L
グルタミン 20〜50mg/L
IAA又はNAA又はIBA 0.5〜10mg/L
ゼアチン又はカイネチン又はBA又はGA 0.5〜10mg/L
サッカロース又はグルコース又はフルクトース 3000〜100000mg/L
ヘミセルラーゼ及びペクチナーゼ及びセルラーゼ 3000〜5000mg/L
【0058】
本発明の培地の好ましい形態では、EDTAは二ナトリウムである。EDTA一ナトリウムも本発明の方法において使用できる。
【0059】
本発明の培地の好ましい形態では、イノシトールはミオイノシトールである。
【0060】
本発明の培地の好ましい形態では、培地はpH4.8〜6.5に調整される。
【0061】
本発明の記載は、本発明の好ましい実施形態を提示しているが、特許請求の範囲に包含される思想と基本原理から逸脱することなく形態及び部分の配置に付加的な変更を施し得る。
【実施例】
【0062】
あらかじめ水と石けんで清潔にして洗い流した成熟ヤトロファ・クルカス種子をエタノール浴で消毒した。次に上記種子を、滅菌水で湿らせた紙で包むことによって水和した。その後、種子を3%次亜塩素酸ナトリウム浴で滅菌した。次に柳葉刀で種子の外皮を除去した。生じたヤトロファ・クルカス種子の子葉から、厚さ1〜2mmの外植片又は水平層状部分を切断した。
【0063】
ヤトロファ・クルカス種子の子葉の外植片1〜3gを、以下の組成と以下の濃度を有する培地100mlに入れた:
NHNO 400mg/L
CaNO 383mg/L
CuSO 0.25mg/L
MnSO 22.3mg/L
ZnSO 8.6mg/L
BO 6.2mg/L
KHPO 170mg/L
NaMoO 0.25mg/L
NaEDTA(エチレンジアミン四酢酸) 37.3mg/L
FeSO 27.85mg/L
CaCl 72.5mg/L
CaCO 20mg/L
NaC(クエン酸ナトリウム) 0.5mg/L
MgSO 180.7mg/L
SO 990mg/L
チアミン 1mg/L
グリシン 2mg/L
ミオイノシトール 100mg/L
ニコチン酸 0.5mg/L
ピリドキシン 0.5mg/L
ビオチン 1mg/L
グルタミン 30mg/L
IAA 2mg/L
カイネチン 1mg/L
サッカロース 50000mg/L
ペクチナーゼ及びセルラーゼ 5000mg/L
【0064】
培地をHCl及び/又は0.1N NaOH溶液でpH5.8に調整した。
【0065】
上記培地を、暗所にて15日間、室温で絶えず撹拌しながらインキュベートし、その時点で、外植片組織は約2×10個別細胞/mlの密度で個別に増殖した細胞に変換していることが観察された。
【0066】
細胞を培地から分離し、同じ組成物と濃度の新鮮培地100mlに再接種して、暗所にてさらに約10日間、絶えず撹拌しながらインキュベーションを続け、その時点で増殖細胞は定常状態(約2×10個別細胞/ml)に達した。
【0067】
ヘキサン100mlを、約2×10個別細胞/mlの密度の個別細胞を含む培地100mlに添加した。生じた混合物を90分間超音波処理に供した。次に混合物を2500rpmで30分間遠心分離した。遠心分離後、上部相と下部相が生じた。上部相を分離し、容器に移して、70℃、180rpmで回転蒸発させ、その後75℃で1時間ストーブに入れた。生じた油は1.978gの重量であった(生じた収率19.78g/L)。
【0068】
油を分析し、結果を以下の表に示している。
【表A】

【0069】
本発明の方法により、ヤトロファ・クルカス種子の子葉に由来する個別細胞から得られた油の組成は、Akintayo,E:T;,Bioresource technology 92(2004)307−310からの以下の表の抜粋に示されるように、文献で報告されているものと同様である。
【表B】

【0070】
本発明の方法によって得られたヤトロファ・クルカスに由来する油の組成を、上記文献において記載されるヤトロファ・クルカスに由来する油の組成と比較する。したがって、本発明の方法によって得られたヤトロファ・クルカスに由来する油は、得られたヤトロファ・クルカスに由来する油に関して、上記文献に記載されるように、高品質のバイオディーゼルのために必要とされる特徴を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.種子から外植片を得る工程、
B.種子に由来する外植片を培地に入れる工程、
C.前記培地中の種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させる工程、
D.培地を、種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、前記個別細胞を定められた時間内で増殖させる工程、及び
E.種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出する工程
を含む、種子に由来する油の生産のための方法。
【請求項2】
種子が油性植物の種子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
A.ヤトロファ・クルカス(ナンヨウアブラギリ)種子から外植片を得る工程、
B.ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片を培地に入れる工程、
C.前記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊して、外植片に個別細胞を生成させる工程、
D.培地を、ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞と共に定められた時間インキュベートし、前記個別細胞を定められた時間内で増殖させる工程、及び
E.ヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した細胞から油を抽出する工程
を含む、ヤトロファ・クルカス種子に由来する油の生産のための方法。
【請求項4】
A.ヤトロファ・クルカス種子をエタノール浴に浸して、エタノールで消毒する工程、
B.前記消毒したヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で包んで、ヤトロファ・クルカス種子を滅菌水で湿らせた紙で水和する工程、
C.前記水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウム浴に浸して、水和したヤトロファ・クルカス種子を次亜塩素酸ナトリウムで滅菌する工程、
D.滅菌したヤトロファ・クルカス種子の外皮を除去し、結果として種子の子葉をヤトロファ・クルカス種子から放出させる工程、及び
E.ヤトロファ・クルカス種子の子葉から外植片を得る工程
を含む手順によってヤトロファ・クルカス種子から外植片を得る、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
培地が、少なくともNHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸、ゼアチン及び炭素源を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを培地に添加し、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼが、前記培地中のヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片組織の細胞間結合を破壊する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
培地が、CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
培地が、CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
培地が、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
培地が、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
培地が、サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
A.有機溶媒を添加する工程、
B.超音波処理、
C.遠心分離、
D.上面の抽出、及び
E.溶媒の蒸発と乾燥
を含む手順によってヤトロファ・クルカス種子に由来する外植片より生成された個別細胞から増殖した個別細胞を含む培地から油を抽出する、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
NHNO、CaNO、CuSO、MnSO、ZnSO、HBO、KHPO、NaMoO、EDTA、FeSO、CaCl、CaCO、NaC(クエン酸ナトリウム)、MgSO、KSO、チアミン、グリシン、イノシトール、ニコチン酸、ピリドキシン、ビオチン、グルタミン、ナフタレン酢酸、ゼアチン及び炭素源を含む、培地。
【請求項14】
セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼを含む、請求項13に記載の培地。
【請求項15】
CaNO及びKNOからなる群より選択される塩を含む、請求項13に記載の培地。
【請求項16】
CaCl及びKClからなる群より選択される塩を含む、請求項13に記載の培地。
【請求項17】
インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)及びインドール酪酸(IBA)からなる群より選択されるホルモンを含む、請求項13に記載の培地。
【請求項18】
カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ジベレリン(GA)及びゼアチンからなる群より選択されるホルモンを含む、請求項13に記載の培地。
【請求項19】
サッカロース(スクロース)、フルクトース及びグルコースからなる群より選択される炭素源を含む、請求項13に記載の培地。

【公開番号】特開2010−252780(P2010−252780A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−265017(P2009−265017)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(509322188)
【出願人】(509322177)
【Fターム(参考)】