説明

ヤマノイモ科植物の抽出物、及びこれを含む末梢神経障害の予防用または治療用の組成物

末梢神経障害の予防または治療に有用なヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物、及び該抽出物を含む医薬組成物並びに食品組成物が提供される。さらにヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物から分離された化合物を含む、末梢神経障害の予防または治療に有用な医薬組成物並びに食品組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経障害の予防または治療用ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物、並びに前記抽出物または前記抽出物から分離した化合物を含む医薬組成物または食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経障害とは、神経系の構造的あるいは機能的異常により発生する疾患である。神経系は脳、脊髄に分布し、その機能の調節に関与する中枢神経系と、脳、脊髄を除外したほぼ全ての器官に分布してその機能の調節に関与する末梢神経系とに分けられる。末梢神経系はさらに、運動神経系、感覚神経系、自律神経系に分類される。脳と脊髄とから神経突起(neurite)が伸びて出てきて胴、腕、足に行く末梢神経は、腕、足で感じた感覚を中枢神経(脳及び脊髄)に伝達し、中枢神経の命令を筋肉に伝達する。
【0003】
末梢神経は多様な原因によって損傷され、これを総称して末梢神経障害という。1つの末梢神経が損傷された場合を単神経障害といい、さまざまな末梢神経が同じような程度に損傷された場合を多発性神経障害という。単神経障害は、1つの末梢神経が腕及び足の端に行く間に異常に押さえつけられたり、または外傷を負ったときに主に発生する。単神経障害は、手術で治療されもする。
【0004】
多発性神経障害は、代謝性疾患(例えば、糖尿病、腎不全症、甲状腺機能低下症)、薬物(例えば、抗ガン剤、抗結核薬)や毒性物質(例えば、鉛、有機溶媒)中毒、栄養欠乏(例えば、ビタミン不足、アルコール中毒)、結締組織疾患(例えば、リューマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡など)、炎症性疾患(ギラン−バレー症候群)、または遺伝性神経障害のような多様な原因により誘発されうる。その他、ガンによって多発性神経障害が発生することもある。
【0005】
現在まで神経障害は、症状のみを改善する対症療法として使われる薬物でもって治療され、神経障害に対する根本的な治療法はほとんどない。アルドース還元酵素阻害剤であるエパルレスタットだけが米国食品医薬品局(FDA)により多発性神経障害の一つである糖尿病性神経障害に対して承認されたが、エパルレスタットは、治療効果が低いので使われていない(Foster DW., Harrison's Principles of Internal Medicine 13, p1979, 1999; Stephen LD, Applied Therapeutics: the clinical use of drugs. 6, p48.1-48.62, 1996)。
【0006】
一方、中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS)とでニューロンの成長、分化及び生存に影響を及ぼす蛋白質を総称して神経栄養因子(NF)といい、これは、ニューロンの成長、分化及び死滅を調節する神経調節因子の一つである。NFの例は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニュートロフィン−3(NT−3)、NT−4、NT−5を含む。かようなNFは異なる部位で合成され、分化、発現、及び標的部位が異なる。
【0007】
NFの一つである神経成長因子(NGF)は、ニューロンの退化及び死滅を抑制することによって、ニューロン数の減少を防止し、ニューロンを損傷から保護し、成熟した神経源を維持させる(Hefti F., J. Neurosci., 6(8), pp2155-2162, 1986;及びLevi-Montalcini R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 46, pp384-391, 1960)。神経系が正常に発達するとき、成長中であるニューロンの50%ほどは細胞死滅によって除去され(Raff MC., et al., Science, 262(5134), pp695-70, 1993)、標的細胞によって分泌されるNGFがニューロンの生存を決定すると知られている。ニューロンが正常状態で生存、成長、分化するためには、NGFのような成長因子が必須である。
【0008】
かようなNGFの有用性から多発性神経障害の一つである糖尿病性神経障害を治療するために、組み換えヒト神経成長因子の開発が試みられたが、組み換えヒト神経成長因子は、安全性及び有効性においてまだ満足すべきものではない (Apfel SC et al., Journal of American Medical Association 284(17), pp2215-2221, 2000)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、多様な原因によって誘発される末梢神経障害の予防または治療に有用な生薬抽出物及びこれから分離された化合物を提供する。
すなわち、本発明は、末梢神経障害の予防または治療用ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物を提供する。
また、本発明は、前記抽出物または前記抽出物から分離された化合物を有効成分として含む医薬組成物または食品組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によって、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物が提供され、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物は、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)、キクバドコロ(Dioscorea septemloba)、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)、ナガイモ(Dioscorea batatas)、ヤマノイモ(Dioscorea japonica)、ニガガシュウ(Dioscorea bulbifera)、オニドコロ(Dioscorea tokoro)、及びヒメドコロ(Dioscorea tenuipes)からなる群から選択される1種以上である。
【0011】
本発明の他の様態によって、治療学的有効量の前記抽出物、及び薬学的に許容可能な担体を含む、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用医薬組成物が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の態様によって、前記抽出物を有効成分として含む、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用食品組成物が提供される。
【0013】
本発明のさらに他の様態によって、治療学的有効量の化学式1の化合物またはその塩、並びに薬学的に許容可能な担体を含む、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用医薬組成物が提供される:
【化1】


式中、Rは、水素原子、C−Cアルキル基、または糖類である。
【0014】
本発明のさらに他の態様によって、前記化学式1の化合物またはその塩を有効成分として含む、末梢神経障害の予防または治療用食品組成物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物及び/または前記抽出物から分離した化合物は、生体内で内因性神経成長因子を誘導することによって、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療のための用途に広範囲に使われうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書で、「末梢神経障害」というのは、多様な原因によって損傷された末梢神経(運動神経、感覚神経、及び自律神経)の状態をいう。前記末梢神経障害は、単神経障害及び多発性神経障害(poly-neuropathyまたはmultiple neuropathy)に分けることができる。前記多発性神経障害は、代謝性疾患(例えば、糖尿病、腎不全症、甲状腺機能低下症)、薬物(例えば、抗ガン剤、抗結核薬)や毒性物質(例えば、鉛、有機溶媒)中毒、栄養欠乏(例えば、ビタミン不足、アルコール中毒)、結締組織疾患(例えば、リューマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡など)、炎症性疾患(ギラン−バレー症候群)、または遺伝性神経障害から引き起こされたあらゆる神経障害を含む。また、前記多発性神経障害は、遺伝的因子及びガンによって発生する神経障害を含む。
【0017】
本発明の一実施形態によるヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記抽出物から分離された化合物は、神経突起の成長を誘導して内因性神経成長因子の分泌量を増加させることによって、末梢神経系の神経を効果的に分化、保護及び再支配(reinnervation)させることができる。特に、前記抽出物及び/または前記化合物は、経口投与が可能であって患者の服薬順守を高めることができる。
【0018】
本発明は、末梢神経障害の予防または治療用ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物を提供する。
【0019】
前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物は、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)、キクバドコロ(Dioscorea septemloba)、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)、ナガイモ(Dioscorea batatas)、ヤマノイモ(Dioscorea japonica)、ニガガシュウ(Dioscorea bulbifera)、オニドコロ(Dioscorea tokoro)、及びヒメドコロ(Dioscorea tenuipes)からなる群から選択される1種以上である。望ましくは、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物は、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)、及び/またはオニドコロ(Dioscorea tokoro)であり、さらに望ましくは、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)である。
【0020】
本発明の抽出物は、前記のヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の全草、根、または地上部(例えば、葉、茎)を、水、C−Cのアルコール、及び水とC−Cのアルコールとの混合溶媒からなる群から選択された抽出溶媒(一次抽出溶媒)で抽出する段階を含む抽出工程を介して得られる。例えば、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物は、前記ヤマノイモ科植物の根を前記一次抽出溶媒で抽出して得られる。前記一次抽出溶媒は、水とメタノールとの混合溶媒、または水とエタノールとの混合溶媒でありうる。
【0021】
前記抽出工程において、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の全草、根または地上部、望ましくは、根を細かく切った後で一次抽出溶媒で抽出する。このとき、前記一次抽出溶媒の量は、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の量に対して1倍ないし20倍ほど、望ましくは、3倍ないし10倍ほどでありうる。前記一次抽出溶媒は、水とメタノールとの混合溶媒(例えば、約85%のメタノール水溶液)または水とエタノールとの混合溶媒(例えば、約85%のエタノール水溶液)でありうる。前記抽出は、温度に影響を受けるものではないので、15℃ないし100℃のような多様な温度範囲で行われうる。前記抽出は、冷浸(cold extraction)、温浸(hot extraction)、超臨界抽出(superfluid extraction)、遠心抽出(centrifugal extraction)、超音波抽出、還流冷却抽出によって行える。抽出時間は、抽出方法によって異なりうる。例えば、抽出は、約1時間ないし10日間で1回または複数回行える。望ましくは、前記抽出は、室温で約2日間、前記の一次抽出溶媒を使用して2、3回行える。前記一次抽出溶媒を使用した抽出によって得られた抽出物は、濾過のような通常の方法を使用して抽出物中の不純物を除去した液状形態、または前記液状抽出物を通常の方法を使用して、減圧濃縮したり乾燥して得られた粉末状でありうる。
【0022】
また、必要な場合、前記抽出工程は、さらに高い含有量の有効成分を有する分画を得る段階をさらに含むことができる。すなわち、前記抽出工程は、前記一次抽出溶媒で抽出して得られた抽出物を水に分散させ、得られた溶液を水飽和C−Cのアルコール(二次抽出溶媒)で抽出することをさらに含むことによって、得られる抽出物中の有効成分含有量を高めることができる。
【0023】
前記一次抽出溶媒で抽出して得られた抽出物を水に分散させるとき、一次抽出溶媒で抽出して得られた液状形態自体を水に分散させたり、または前記液状抽出物を通常の方法を使用して減圧濃縮及び/または乾燥して得られた粉末形態を水に分散させることができる。
【0024】
前記水飽和C−Cのアルコール(二次抽出溶媒)は、水飽和ブタノールでありうる。
【0025】
本発明は、前記抽出物から分離した化合物、すなわちステロイド性サポニンまたはステロイド性サポゲニンを含む組成物を含む。すなわち、本発明は、治療学的有効量の化学式2の化合物またはその塩、並びに薬学的に許容可能な担体を含む、末梢神経障害の予防または治療用医薬組成物を含む。
【化2】


式中、Rは、水素原子、C−Cアルキル基、または糖類または糖類の残基である。
【0026】
前記化学式2の化合物において、Rは、水素またはメチル、望ましくは水素でありうる。すなわち、化学式2の化合物は、3−β,25R−スピロスト−5−エン−3−オール(3-β,25R-spirost-5-en-3-ol)でありうる。
【0027】
また前記糖類は、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、セルロース、グリコーゲン、スクロース、マルトース及びラクトースのような単糖類、二糖類、または多糖類でありうる。
【0028】
前記化学式2の化合物の塩は、ステロイド性サポニンまたはサポゲニンの化合物から製造される通常の無機酸及び/または有機酸付加塩でありうる。前記化学式2の化合物の塩の例は、国際公開第2003/082893号パンフレットに開示された塩を含む。かような塩は、化合物の最終分離及び精製段階でインシチュで製造されうる。特に、酸付加塩は、遊離塩基形態の精製された化合物と適切な有機または無機酸を反応させ、製造された塩を分離することによって製造されうる(例えば、S. M. Berge, et al., Pharmaceutical Salts, J. Pharm. Sci., 66: p.1-19(1977)を参照)。国際公開第2003/082893号パンフレット及び前記S.M.Bergeらの文献は、本発明で参考資料として使われる。塩基付加塩は、酸形態の精製された化合物と適切な有機または無機塩基とを反応させ、製造された塩を分離することによって製造されうる。前記塩基付加塩は、薬学的に許容可能な金属及びアミン塩でありうる。前記酸付加塩は、塩酸、硫酸、リン酸及び硝酸から選択された酸から製造された塩でありうる。前記塩基付加塩は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化アンモニウムから選択された塩基から製造された塩でありうる。
【0029】
前記化学式2の化合物は、本発明の一実施形態によって抽出物から分離する、公知の方法によって合成する(例えば、Herbert O. House, Modern Synthetic Reactions, The Benjamin Cummings Publishing Company, 1972を参照)、または商業的に購入することができる(Sigma Co.、米国)。
【0030】
前記抽出物から前記化学式2の化合物を分離する方法は、本発明の一実施形態によって得られた抽出物(例えば、一次抽出溶媒及び二次抽出溶媒を使用して得られた抽出物)を使用した酸加水分解工程及び再結晶工程を含むことができる。例えば、前記抽出物から前記化学式2の化合物を分離する方法は、50ないし150℃、望ましくは、約94℃で、30分ないし3日、望ましくは約4時間、2.5N塩酸のような酸で加水分解する段階、得られた加水分解物(すなわち、非糖体サポゲニン)をクロロホルム、アセトン、ベンゼン、キシレンのような有機溶媒で1ないし60分、望ましくは約15分溶媒抽出した後、有機層を分離する段階、必要によって分離された有機層を10ないし100℃、望ましくは、30ないし35℃で濃縮する段階、前記有機層または前記有機層の濃縮液をC−CアルコールまたはC−Cアルコール水溶液(例えば、95%エタノール水溶液)で再結晶する段階、並びに得られた沈殿物を、必要によって水で洗浄し、アセトンで再結晶する段階を含むことができる。
【0031】
本発明は、治療学的有効量の前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物もしくは前記化学式2の化合物またはその塩、及び薬学的に許容可能な担体を含む、末梢神経障害の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0032】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体を含み、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールのような経口用剤形、外用剤形、座剤及び滅菌注射溶液として製剤化されうる。前記薬学的に許容可能な担体は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油でありうる。前記医薬組成物はまた、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤のような希釈剤または賦形剤を含むことができる。固形の経口製剤は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤またはカプセル剤であり、かような固形製剤は、例えば澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、及びゼラチンから選択される少なくとも1つ以上の賦形剤を含むことができる。また、前記固形製剤は、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような滑沢剤を含むことができる。液状経口用製剤は、懸濁液、溶液、エマルジョン、またはシロップであって、前記液状経口用製剤は、水、リキッドパラフィンなどの希釈剤;湿潤剤;甘味剤;芳香剤;または保存剤を含むことができる。非経口用製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶液、懸濁液、エマルジョン、凍結乾燥製剤、または座剤であって、非水性溶媒または懸濁化剤は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような天然オイル、エチルオレートのような注射可能なエステル類でありうる。座剤のビークルは、witepsol(ハードファット)、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンでありうる。
【0033】
本発明の医薬組成物において、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記化学式2の化合物の投与量は、患者の状態または体重、疾病の程度、投与形態、投与経路及び投与期間によって異なり、当業者によって適切に決定されうる。例えば、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記化学式2の化合物は、1日当たり0.0001ないし1,000mg/kg、望ましくは0.001ないし1,000mg/kgの量で投与されうる。前記投与は、1日に1回または数回で完了しうる。本発明の医薬組成物において、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記化学式2の化合物の量は、前記組成物100重量%に対して0.001ないし50重量%の範囲でありうる。
【0034】
前記医薬組成物は、ラット、マウス、家畜、人間のような哺乳動物に多様な経路で、例えば、経口、直腸、静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜注射あるいは脳室内(Intracerebroventricular)注射によって投与されうる。
【0035】
本発明は、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記化学式2の化合物を有効成分として含む、末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用食品組成物を含む。
【0036】
本発明の食品組成物は、健康機能食品として使われうる。健康機能食品に関する法律第6727号によって、前記「健康機能食品」というのは、人体に有用な機能性を有した原料や成分を使用して製造及び加工した食品を意味し、「機能性」というのは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節したり、または生理学的作用のような有用な保健効果を得る目的で摂取するものを意味する。
【0037】
本発明の食品組成物は、通常の食品添加物を含むことができ、前記「食品添加物」としての適否は、他の規定がない限り、食品医薬品局に承認された食品添加物公典の総則及び一般試験法などによって、当該品目に関する規格及び基準を考慮して判定される。
【0038】
前記「食品添加物公典」に収載された品目は、ケトン、グリシン、クエン酸カリウム、ニコチン酸、ケイ皮酸のような化学的合成物質;柿色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コウリャン色素、グアーガムのような天然添加物;L−グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類用アルカリ添加剤、保存料、タール色素製剤のような混合製剤を含む。
【0039】
本発明の食品組成物は、末梢神経障害の予防及び/または治療を目的に、組成物100重量%に対して、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または前記化学式2の化合物を0.01ないし95重量%、望ましくは1ないし80重量%で含むことができる。また、末梢神経障害の予防及び/または治療を目的に、前記食品組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液相またはピルで製造及び加工されうる。
【0040】
例えば、錠剤状の健康機能食品の製造のために、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または化学式2の化合物、賦形剤、結合剤、崩壊剤、及び他の添加剤との混合物を通常の方法で顆粒化した後、滑沢剤と共に圧縮成形を行ったり、または前記混合物を直接圧縮成形できる。また、必要な場合、錠剤状の健康機能食品は、矯味剤(sweetening agent)を含有でき、必要によって錠剤状の健康機能食品は、コーティング物質でコーティングされもする。
【0041】
カプセル形態の健康機能食品のうち、硬質カプセル製剤は、通常の硬質カプセルに、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または化学式2の化合物と賦形剤のような添加剤との混合物、または前記混合物の顆粒、または前記混合物のコーティングされた顆粒を充填して製造され、軟質カプセル製剤は、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または化学式2の化合物と、賦形剤のような添加剤との混合物をゼラチンカプセル基剤に充填して製造できる。必要な場合、前記軟質カプセル製剤は、グリセリンもしくはソルビトールなどの可塑剤、着色剤、並びに保存剤を含有できる。
【0042】
ピル状の健康機能食品は、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または化学式2の化合物、賦形剤、結合剤、及び崩壊剤の混合物を適当な方法で成形して製造でき、必要な場合、白糖や他のコーティング物質でコーティングしたり、または澱粉、タルクまたは他の物質で塗布(cover)することもできる。
【0043】
顆粒形態の健康機能食品は、ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物または化学式2の化合物、賦形剤、結合剤、及び崩壊剤の混合物を適当な方法で顆粒化して製造でき、必要な場合、顆粒形態の健康機能食品は、着香剤、矯味剤(sweetening agent)を含有できる。
【0044】
本発明に使われる前記賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、及び着香剤は、当業界に公知の文献(大韓薬典解説編、ムンソン社、韓国薬学大学協会、第5改訂、pp.33−48、1989)に記載された、同一または類似の機能を有するそれぞれの対応物質として定義されうる。
【実施例】
【0045】
本発明は、下記実施例を参照にして、さらに詳細に説明される。それらの実施例は、単に説明の目的のためであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0046】
実施例1:抽出物の製造
ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)を乾燥し、根を細かく切った。得られた試料500gを85%メタノール水溶液10リットルに入れ、室温でそれぞれ2時間ずつ3回抽出した。前記抽出過程を2回繰り返した。得られた上澄み液を集め、減圧濃縮して粗抽出物74gを得た。
前記粗抽出物74gを蒸溜水1リットルに懸濁させた後、水飽和ブタノール1リットルを加え、得られた有機層を分離し、この過程を5回繰り返した。得られた有機層を合わせ、減圧乾燥した。その結果、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)抽出物17gが得られた。
【0047】
実施例2:抽出物の製造
カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)を乾燥し、根を細かく切った。得られた試料500gを85%エタノール水溶液5リットルに入れ、室温でそれぞれ2時間ずつ3回抽出した。前記抽出過程を2回繰り返した。得られた上澄み液を集め、減圧濃縮して粗抽出物90gを得た。
前記粗抽出物90gを蒸溜水1リットルに懸濁させた後、水飽和ブタノール1リットルを加え、得られた有機層を分離し、この過程を5回繰り返した。得られた有機層を合わせ、減圧乾燥した。その結果、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)抽出物26gが得られた。
【0048】
実施例3:抽出物の製造
オニドコロ(Dioscorea tokoro)を乾燥し、根を細かく切った。得られた試料300gを85%エタノール水溶液3リットルに入れ、室温でそれぞれ2時間ずつ3回抽出した。前記抽出過程を2回繰り返した。得られた上澄み液を集め、減圧濃縮して粗抽出物35gを得た。
前記粗抽出物35gを蒸溜水0.5リットルに懸濁させた後、水飽和ブタノール0.5リットルを加え、得られた有機層を分離し、この過程を5回繰り返した。得られた有機層を合わせ、減圧乾燥した。その結果、オニドコロ(Dioscorea tokoro)抽出物11gが得られた。
【0049】
実施例4:活性化合物の分離
実施例1で得たウチワドコロ(Dioscorea nipponica)抽出物1gに2.5N塩酸10mlを加えて、94℃で4時間加水分解した。得られた加水分解物をクロロホルム10mlで15分間抽出した。クロロホルム層を分離して濾過した後、30〜35℃で減圧濃縮した。得られた残渣を95%エタノール水溶液5mlを使用して4℃で再結晶した。再結晶された沈殿物を濾過して水で洗浄した後、アセトン3mlを使用して4℃で再結晶し、濾過して沈殿物約100mgを得た。前記沈殿物は、化学式3の3−β,25R−スピロスト−5−エン−3−オールであった。
【化3】


(1)化学式:C2742
(2)分子量:414.62
(3)融点:204−207℃
(4)[α]25−129°
(5)NMRデータ:表1参照
【0050】
【表1】

【0051】
試験例1:神経突起成長(neurite outgrowth)の測定
5%CO及び37℃温度の培養器で、PC 12細胞(pheochromocytoma, ATCC Number: CRL-1721)をウマ血清(10%、v/v)、ウシ胎児血清(5%、v/v)、及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンが補充されたRPMI 1640培地で培養した。
神経突起成長に対する化学式3の化合物の影響を知るために、2%ウマ血清、1%ウシ胎児血清、1%ペニシリン−ストレプトマイシンが補充された培地をポリ−D−リシン(Poly−D−lysine)でコーティングした6−ウェルプレートそれぞれに加え、前記PC 12細胞をウェル当たり5×10個で分注した。24時間後に前記ウェルをエタノール10μl/ml、化学式3の化合物10μg/ml、及び神経成長因子(R&D system、米国)50ng/mlでそれぞれ処理した。48時間後に倒立像対比顕微鏡(CK−2、Olympus、米国)を利用して神経突起の長さを測定した(図1及び図2参照)。
図1及び図2から分かるように、エタノール処理群(control)では神経突起の成長が観察されていないが、化学式3の化合物処理群(DG)及び神経成長因子処理群(NGF)では、いずれも神経突起の成長が誘導された。従って、化学式3の化合物は、神経突起成長を誘導することによって、PC 12細胞の分化を誘導することが発見された。
【0052】
試験例2:マウス血清中の神経成長因子のレベル測定
化学式3の化合物をジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlに溶解させ、10mg/kgの量で7週齢の雄性ICRマウス(n=7)に1回経口投与した。24時間後に、内因性神経成長因子の含有量をELISAで測定した。対照群として、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlをICRマウスに1回経口投与し、前記と同じ方法で対照群での神経成長因子の含有量を測定した。
図3から分かるように、化学式3の化合物投与群(DG 10mg/kg P.O)は、対照群に比べて、血清中の神経成長因子の含有量が2.5倍ほど増加したと分かった。かような結果は、化学式3の化合物がマウスにおいて、ニューロンの退化及び死滅を抑制することによって、ニューロン数の減少を防止し、神経障害を治療することができるということを示している。
【0053】
試験例3:糖尿病誘発マウスの血清中神経成長因子のレベル測定
多発性神経障害の一つである糖尿病性神経障害の動物モデルとして、アロキサン誘発糖尿病マウスを準備した。
7週齢の雄性ICRマウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解させたアロキサンを160mg/kgの量で1回腹腔投与して糖尿病を誘発させた。空腹時の血糖が200mg/dl以上を1週間維持するマウス、すなわち糖尿病誘発マウスを選択し、それぞれ対照群(n=10)、抽出物投与群(n=10)、及び化合物投与群(n=10)に分けた。対照群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与し、抽出物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた実施例1によって得られた抽出物を100mg/kgの量で投与し、化合物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた化学式3の化合物を10mg/kgの量で投与した。前記群は、いずれも1週間に3回、1ヵ月間にわたって経口投与した。血清中の内因性神経成長因子の含有量をELISAで測定した。
図4から分かるように、抽出物投与群(DN 100mg/kg p.o)及び化合物投与群(DG 10mg/kg p.o)の血清中神経成長因子の含有量がビークルのみ投与した対照群に比べ、それぞれ3倍及び4倍高かった。かような結果は、本発明の抽出物及び化合物が糖尿病によって引き起こされる神経損傷疾患で、ニューロンの退化及び死滅を抑制することによってニューロン数の減少を防止し、糖尿病性神経障害を治療できることを示している。
【0054】
試験例4:糖尿病誘発マウスでの座骨神経の運動神経及び感覚神経の伝達速度測定
多発性神経障害の一つである糖尿病性神経障害に対する本発明の化合物の治療効果について、座骨神経の運動神経及び感覚神経の伝達速度に対する本発明の化合物の効果を測定して確認した。
7週齢の雄性ICRマウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解させたアロキサンを160mg/kgの量で1回腹腔投与して糖尿病を誘発させた。空腹時の血糖が200mg/dl以上を1週間維持するマウス、すなわち糖尿病誘発マウスを選択し、それぞれ対照群(n=7)及び化合物投与群(n=7)に分けた。対照群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与し、化合物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた化学式3の化合物を10mg/kgの量で投与した。糖尿病を誘発していない7週齢の雄性ICRマウスを正常群(n=7)とし、正常群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与した。前記群は、いずれも1週間に3回、2ヵ月間にわたって経口投与した。投与が終了したマウスは頸椎脱臼させて致死させた後、速かに大腿部部位の皮膚と筋肉とを摘出した。その後、左右の座骨神経をそれぞれ20mm以上の長さに分離して生理食塩水に保管し、該生理食塩水には空気を還流させた。分離された座骨神経を20mm丸測定板上に置き、それぞれの神経末端にセンサと刺激器プローブとを連結した後、デジタル・ストレージ・オシロスコープ(Digital storage oscilloscope)を使用し、電気伝導度を測定して神経伝達速度を評価した(図5及び図6参照)。
【0055】
一般的にミエリンは、軸索周囲を何層にも覆い包んでいるリン脂質膜であり、ミエリン髄鞘ともいう。電線のプラスチック被覆と同様に、ミエリンは、白色脂肪物質を介してニューロンによって伝えられる電気信号が漏出したり散在しないように保護する。ミエリンは、ミエリンのないランビエ絞輪(ミエリンの節を形成する部分)を挟んで規則的にスペースを置きつつ軸索を覆い包んでいる。電気信号がこのスペースに沿って伝えられ、刺激が速くニューロンに沿って伝えられ、ミエリンは、電気刺激伝達速度を増大させる。従って、糖尿病によって誘発された神経障害による神経損傷によってミエリンが破壊されれば軸索が機能を止め、神経伝達速度が減速する。
糖尿病誘発期間の1ヵ月間、化合物投与群(DM−DG)は、ビークルのみが投与された糖尿病−誘発対照群(DM)に比べて、25%高い感覚神経の伝達速度を示した(図5参照)。糖尿病誘発期間の2ヵ月間、化合物投与群(DM−DG)は、対照群に比べて45%高い感覚神経伝達速度を示し、対照群に比べて40%高い運動神経伝達速度を示した(図6参照)。よって、本発明の化合物は、糖尿病誘発マウスの感覚神経及び運動神経の伝達速度を高めることによって、糖尿病性神経障害による神経損傷に対して治療効果を有するということを示している。
【0056】
試験例5:糖尿病誘発マウスの座骨神経での神経成長因子のレベル測定
7週齢の雄性ICRマウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解させたアロキサンを160mg/kgの量で1回腹腔投与して糖尿病を誘発させた。空腹時の血糖が200mg/dl以上を1週間維持するマウス、すなわち糖尿病誘発マウスを選択し、それぞれ対照群(n=5)及び化合物投与群(n=5)に分けた。対照群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与し、化合物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた化学式3の化合物を10mg/kgの量で投与した。前記群は、いずれも1週間に3回、1ヵ月間にわたって経口投与した。座骨神経のうち神経成長因子の含有量をELISAで測定した(図7参照)。
図7から分かるように、化合物投与群(DM−DG 10mg/kg P.O)の座骨神経中の神経成長因子が、ビークルのみ投与した糖尿病誘発対照群に比べて30%ほど高かった。従って、前記図7に示した結果は、神経成長因子の神経保護作用に起因すると判断される。
【0057】
試験例6:糖尿病誘発マウスの座骨神経中のソルビトール含有量変化の測定
神経障害に対する本発明の化合物の治療効果について、座骨神経中のソルビトール含有量変化を測定して確認した。
7週齢の雄性ICRマウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解させたアロキサンを160mg/kgの量で1回腹腔投与して糖尿病を誘発させた。空腹時の血糖が200mg/dl以上を1週間維持するマウス、すなわち糖尿病誘発マウスを選択し、それぞれ対照群(n=3)及び化合物投与群(n=3)に分けた。対照群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与し、化合物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた化学式3の化合物を10mg/kgの量で投与した。糖尿病を誘発していない7週齢の雄性ICRマウスを正常群(n=3)とし、正常群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与した。前記正常群、対照群及び化合物投与群は、いずれも1週間に3回、2週間にわたって経口投与した。投与が終了したマウスは頸椎脱臼させて致死させた後、座骨神経中のソルビトールの含有量をHPLCで測定した(図8参照)。
【0058】
ポリオール経路とは、ブドウ糖がアルドース還元酵素によってソルビトールに転換され、前記ソルビトールがソルビトール脱水素酵素によって果糖に変換される過程をいう。糖尿病のような高血糖状態では、過量のブドウ糖が細胞内に流入し、ポリオール経路によってソルビトールが生成されて蓄積される。このとき、細胞内に水分を導く浸透圧作用によって神経が損傷されうる。従って、糖尿病誘発マウスの座骨神経で、ソルビトール蓄積に対する本発明の化合物の影響を測定した結果、図8に示した通り、糖尿病−誘発対照群(DM−CON)の座骨神経でのソルビトールが正常群に比べて40%ほど高かったが、化合物投与群(DM−DG)の座骨神経でのソルビトールは、糖尿病誘発対照群に比べて10%低かった。かような結果は、本発明の化合物が神経損傷を引き起こす攻撃因子を部分的に減少させることができるということを示している。
【0059】
試験例7:糖尿病誘発マウスの座骨神経の組織学的比較
神経障害に対する本発明の化合物の治療効果について、座骨神経の組織学的変化を測定して確認した。
7週齢の雄性ICRマウスを18時間絶食させた後、生理食塩水に溶解させたアロキサンを160mg/kgの量で1回腹腔投与して糖尿病を誘発させた。空腹時の血糖が200mg/dl以上を1週間維持するマウス、すなわち糖尿病誘発マウスを選択し、それぞれ対照群(n=5)、抽出物投与群(n=5)、及び化合物投与群(n=3)に分けた。対照群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液0.2mlを投与し、抽出物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた実施例1によって得られた抽出物を100mg/kgの量で投与し、化合物投与群は、ジメチルスルホキシド:エタノール(3:1)溶液に溶解させた化学式3の化合物を10mg/kgの量で投与した。前記群は、いずれも1週間に3回、2ヵ月間にわたって経口投与した。投与の終了したマウスは頸椎脱臼させて致死させた後で座骨神経を分離し、次のような条件で染色し、600及び1200倍率でコンフォーカルマイクロスコープ(Confocal Micorscope)で観察した。
(1)前固定:2.5%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)、12時間以上
(2)洗浄:pH7.4、0.1Mリン酸塩緩衝液、15分/2回
(3)後固定:1%OsO(四酸化オスミウム)、60分
(4)洗浄:pH7.4、0.1Mリン酸塩緩衝液、5分/2回
(5)脱水:
50、70、80、90%アルコール:10分/それぞれ
100%アルコール:15分/2回
(6)置換:酸化プロピレン、15分/2回
(7)浸透:酸化プロピレン(1):EPOK 812(2)、12時間以上
(8)包埋:精製したEPOK 812(80℃重合反応):12時間以上
(9)薄切り:準超薄切片(semi-thin section)、35〜95μm
(10)染色:1%トルイジンブルー(toluidine blue)
図9のA及びBは、それぞれ600倍率(9A)及び1200倍率(9B)で得られた結果を示す。糖尿病誘発群(DM)の場合、座骨神経の中心部にある軸索(Axon)と髄鞘(Myelin)とが著しく破壊された。しかし、化合物投与群(DM−DG)及び抽出物投与群(DM−DN)は、座骨神経の中心部に軸索と髄鞘とが明確に観察された。かような結果は、本発明の抽出物または化合物が、神経障害によって損傷された神経を保護及び治療できることを示している。
【0060】
本発明の化合物を下記形態で製剤化した。しかし、下記製剤例は説明だけを目的としたものであって、本発明の範囲を制限するものではない。
製剤例1:錠剤
化学式3の化合物 200mg
ラクトース 100mg
澱粉 100mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
通常の錠剤調剤方法によって、前記の成分を混合して錠剤に圧縮した。
製剤例2:液剤
化学式3の化合物 100mg
CMC−Na 20g
異性化糖 20g
レモン香料 適量
精製水を加えて全体溶液の体積を1,000mlとした。通常の液剤調剤方法によって前記の成分を混合し、褐色ビンに充填して滅菌して液剤を製造した。
製剤例3:カプセル剤
化学式3の化合物 300mg
結晶性セルロース 3mg
ラクトース 14.8mg
ステアリン酸マグネシウム 0.2mg
通常のカプセル剤調剤方法によって前記の成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
製剤例4:注射剤
化学式3の化合物 300mg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸溜水 2974mg
NaHPO12HO 26mg
通常の注射剤の調剤方法によって、1アンプル当たり(2ml)前記の含有量を有する成分を含有する注射剤を製造した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】神経突起成長に対する、本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の影響を示すイメージである。
【図2】神経突起成長に対する、本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の影響を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の投与による正常マウス血清中の神経成長因子(NGF)レベルの変化を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態による抽出物及び前記抽出物から分離した化合物の投与による糖尿病誘発マウスの血清中のNGFレベルの変化を示すグラフである。
【図5】糖尿病誘発マウスの座骨神経での運動神経と感覚神経との伝達速度に対する本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の影響を示すグラフである(1ヵ月間のDG処理)。
【図6】糖尿病誘発マウスの座骨神経での運動神経と感覚神経との伝達速度に対する本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の影響を示すグラフである(2ヵ月間のDG処理)。
【図7】本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の投与による糖尿病誘発マウスの座骨神経でのNGFレベルの変化を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態によって抽出物から分離した化合物の投与による糖尿病誘発マウスの座骨神経でのソルビトールレベルの変化を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態による抽出物及び前記抽出物から分離した化合物の投与による糖尿病誘発マウスの座骨神経の組織学的変化を示すイメージである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の抽出物であって、前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物が、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)、キクバドコロ(Dioscorea septemloba)、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)、ナガイモ(Dioscorea batatas)、ヤマノイモ(Dioscorea japonica)、ニガガシュウ(Dioscorea bulbifera)、オニドコロ(Dioscorea tokoro)、及びヒメドコロ(Dioscorea tenuipes)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする抽出物。
【請求項2】
前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物が、ウチワドコロ(Dioscorea nipponica)、カエデドコロ(Dioscorea quinqueloba)、またはオニドコロ(Dioscorea tokoro)であることを特徴とする請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
前記末梢神経障害が多発性神経障害(multiple neuropathy)であることを特徴とする請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
前記抽出物が前記ヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の全草、根、または地上部を、水、C−Cのアルコール、及び水とC−Cのアルコールとの混合溶媒からなる群から選択された一次抽出溶媒で抽出する段階を含む抽出工程を行うことによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の抽出物。
【請求項5】
前記抽出物がヤマノイモ科(Dioscoreaceae)植物の根を前記一次抽出溶媒で抽出する段階を含む抽出工程を行うことによって得られたものであることを特徴とする請求項4に記載の抽出物。
【請求項6】
前記一次抽出溶媒が水とメタノールとの混合溶媒、または水とエタノールとの混合溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の抽出物。
【請求項7】
前記抽出工程が前記一次抽出溶媒で抽出して得られた抽出物を水に分散させる段階、及び水飽和C−Cアルコール(二次抽出溶媒)で抽出する段階をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の抽出物。
【請求項8】
前記二次抽出溶媒が水飽和ブタノールであることを特徴とする請求項7に記載の抽出物。
【請求項9】
治療学的有効量の請求項1〜8のいずれかに記載の抽出物、及び薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする末梢神経障害の予防または治療用医薬組成物。
【請求項10】
治療学的有効量の請求項1〜8のいずれかに記載の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする末梢神経障害の予防または治療用食品組成物。
【請求項11】
治療学的有効量の化学式1の化合物もしくはその塩、並びに薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする末梢神経障害の予防または治療用医薬組成物:
【化1】


式中、Rは、水素原子、C−Cアルキル基、または糖類である。
【請求項12】
前記Rが水素原子であることを特徴とする請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記糖類がグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、セルロース、グリコーゲン、スクロース、マルトース及びラクトースからなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
化学式2の化合物またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする末梢神経障害(peripheral neuropathy)の予防または治療用食品組成物:
【化2】


式中、Rは、水素原子、C−Cアルキル基、または糖類である。
【請求項15】
前記Rが水素原子であることを特徴とする請求項14に記載の食品組成物。
【請求項16】
前記糖類がグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、セルロース、グリコーゲン、スクロース、マルトース及びラクトースからなる群から選択されることを特徴とする請求項14に記載の食品組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2009−513626(P2009−513626A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537601(P2008−537601)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004408
【国際公開番号】WO2007/049932
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508115233)
【出願人】(508115244)
【出願人】(508114904)
【Fターム(参考)】