説明

ユニタリ時空符号による信号のマルチアンテナ送信方法、受信方法および対応する信号

【課題】 従来技術の時空符号と比べて性能が向上した時空符号を用いる信号送信技術を提供する。
【解決手段】 本発明は、送信されるN個のシンボルをそれぞれが含む一連のベクトルによって形成される信号を送信し、少なくとも2つの送信アンテナを使用するための方法に関する。
本発明において、前記各アンテナには別個の部分行列が関連付けられ、前記部分行列はユニタリ正方行列の分割によって得られ、前記各アンテナは、前記ベクトルの分割によって得られそれぞれに前記部分行列が掛け合わされる部分ベクトルを送信し、それにより、受信器から見て、前記ベクトルに前記ユニタリ行列を掛け合わせてなる単一の結合信号が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線デジタル通信の分野に属する。より具体的には、本発明は、MIMO(マルチ入力マルチ出力)またはMISO(マルチ入力単一出力)型マルチアンテナシステムとの関連で、新しいタイプの時空ブロック符号(space−time block code)を使用した信号の送信および受信に関する。
【0002】
そのため、本発明は、特に、送信及び/又は受信において複数(少なくとも2つ)のアンテナを使用する送信システムに適用することができる。したがって、本発明は、Nt個の送信アンテナおよびNr個の受信アンテナを用いた非直交時空符号のための受信器に十分適している。
【0003】
本発明は、特に第3世代、第4世代およびその後の世代のシステムのための無線通信の分野において適用できる。
【背景技術】
【0004】
幾つかの送信アンテナを備え且つ時空符号を使用する、幾つかの周知の送信および受信システムは既に存在している。今までに提案された中で最も初期のシステムは全て、直交時空ブロック符号を使用していた。
【0005】
Alamoutiは、「A Simple Transmit Diversity Technique for Wireless Communications」(IEEE J.Sel.Areas Comm.,1998,16(8),pp.1451−1458)において、2つの送信アンテナのためのレート1の直交時空ブロック符号を使用する最初のシステムを提案した(ここで、レートは、送信されるシンボルの数Nと、シンボルが送信されている期間であるシンボル時間またはシンボル周期の数Lとの間の比率として定義される)。
【0006】
その後、Tarokhら(「Space−time block codes from orthogonal designs」,IEEE Trans.on Information Theory,1999,45,(5),pp.1456−1467)は、3つ又は4つの送信アンテナを備えるシステムに対して、直交時空ブロック符号を一般化した。しかしながら、得られたレート値R=N/Lは、たった1/2レートまたは3/4レートであった。
【0007】
次の研究は、非直交時空ブロック符号の使用認識をもたらした。したがって、Jafarkhani(「A Quasi−Orthogonal Space−Time Block Code」,IEEE Trans.Comm.,2001,49,(1),pp 1−4)およびTirkonnenら(「Minimal non−orthogonality rate one space−time block code for 3+Tx antennas」,ISSSTA,2000,pp 429−432)は、4アンテナシステムのためのレート1の非直交時空ブロック符号を見出した。
【0008】
その後、Damenら(「Diagonal Algebraic Space−Time Block Codes」,IEEE Trans.Inf.Theory,2002,48,(3),pp 628−626)は、符号行列のサイズを個数とするいくつかの送信アンテナを伴う、アダマール構成および他の回転に基づく非直交時空符号の使用を認識した。
【0009】
その後、Xinらは、「Time Constellation−Rotating Codes Maximizing Diversity and Coding Gains」,(GLOBECOM,San Antonio,2001,pp 455−459)において、他の回転に基づく時空符号を提案した。
【0010】
AlamoutiまたはTarokhの直交時空符号の1つの欠点は、シンボルが送られている期間であるシンボル周期の数に対応する持続時間Lにわたってチャネルを一定にする必要があるという点である。
【0011】
したがって、そのような符号は、送信および受信システムにかなりの制約を課すとともに、チャネルのダイバーシティを利用するために使用することができない。
【0012】
Jafarkhani、Tirkonnen、DamenまたはXinによって提案された非直交時空符号の1つの欠点は、期間L=Ntにわたってチャネルを一定にする必要があるという点である。ここで、Ntは送信アンテナの数である。これは、特にDamenおよびXinの符号において当てはまる。
【0013】
言い換えると、文献で提案された全ての時空符号の主要な欠点は、準静的チャネルとの関連で解決がなされる必要があるという点である。これは、特に限定的であり、チャネルのダイバーシティを利用することができない。
【0014】
さらに、JafarkhaniおよびTirkonnenの符号は、変調の次数(order)および符号サイズに伴って、複雑度が急激に増大する最大尤度(ML)復号化を決定づける。
【0015】
最後に、アダマール構成に依存するDamenの代数的時空符号の他の欠点は、特定の行列形式で送信されなければならないという点である。したがって、これらは、チャネルの変化にしたがった自由度の高い符号化の選択するために使用することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、特に、従来技術のこれらの欠点を軽減することである。
【0017】
より具体的には、本発明の目的は、従来技術の時空符号と比べて性能が向上した時空符号を用いる信号送信技術を提供することである。
【0018】
本発明の更なる他の目的は、限られた持続時間または与えられた数のシンボル周期にわたるチャネルの不変に関しては特定の条件を必要としない、この種の技術を実施することである。
【0019】
本発明の更なる他の目的は、MIMO型およびMISO型のアンテナシステムに適応する、この種の技術を提供することである。特に、本発明の目的は、アンテナの数に関わらず、1という一定の符号化レートを与えるこの種の技術を提供することである。
【0020】
また、本発明の目的は、高い信号対ノイズ比でバイナリエラーレートの性能が、従来技術よりも優れている、この種の技術を実施することである。
【0021】
本発明の更なる他の目的は、例えばアンテナ数の増加や使用する符号のサイズの増大といった異なるタイプの構成に対して容易に適応できる、この種の技術を提供することである。
【0022】
本発明の更なる他の目的は、チャネルダイバーシティを従来技術における場合よりも良好に利用でき、自由度の高い符号化が可能なこの種の技術を実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
これらの目的および以下で明らかになる他の目的は、送信するN個のシンボルをそれぞれ含む一連のベクトルによって形成される信号を送信し、少なくとも2つの送信アンテナを用いることによって達成できる。
【0024】
本発明において、前記各アンテナには別個の部分行列が関連付けられ、前記部分行列はユニタリ正方行列の再分割によって得られ、前記アンテナは、それぞれ、前記ベクトルの再分割によって得られ且つそれぞれ前記部分行列が掛け合わされる部分ベクトルを送信し、それにより、受信器から見て、前記ベクトルに前記ユニタリ行列を掛け合わせてなる単一の結合信号が形成される。
【0025】
したがって、本発明は、マルチアンテナシステムにおいて時空符号を用いる、全体的に新規で進歩的な信号送信方法に依存している。本発明の技術は、チャネルに条件を課さないため特に有利である。すなわち、従来技術と異なり、提案された符号化は、符号の持続時間にわたってチャネルが一定である必要がない。
【0026】
本発明によって提案される時空符号の特定の形成は、全体的に新規であり、各アンテナにおける直交行列構成またはユニタリ行列構成に依存している。実際に、これらの行列を使用することにより、各アンテナによって送られる信号の分離が可能になる。
【0027】
したがって、本発明において、システム制約は、従来技術を用いた場合ほど制限されず、また、チャネルダイバーシティを良好に利用できる。高い信号対ノイズ比で得られるバイナリエラーレート性能値は、文献で与えられている性能値も優れている。
【0028】
また、本発明の方法は、多数のアンテナへと非常に容易に拡張することができる。これは、本発明の方法が、基本的なユニタリ行列または直交行列によって直接得ることができるからである。使用するアンテナの数に関わらず、符号化レートは一定に保持される。
【0029】
Nt個のアンテナを使用した、このような送信方法を用いる場合、前記部分行列は、それぞれ、(N/Nt)×Nのサイズを有することが有益である。
【0030】
実際に、本発明の方法は、異なる構成に対して、特にアンテナの数Ntの増加に対して容易に適応できる。Nt個の異なる行列に再分割されるN×Nサイズの主行列から、(N/Nt)×Nサイズの異なる行列が得られる。
【0031】
N/Ntは2以上であることが好ましい。
【0032】
前記ユニタリ行列は完全行列であることが有益である。すなわち、行列の各要素はゼロではない。
【0033】
前記ユニタリ行列は、
実アダマール行列と、
複素アダマール行列と、
フーリエ行列と、
実回転行列と、
複素回転行列と、
を含むグループに属することが好ましい。
【0034】
異なる行列は、互いに何ら関係を持っていない。しかしながら、これらの行列は全て、実行列の場合には直交行列であり、複素行列の場合にはユニタリ行列であるという共通の特徴を有する。
【0035】
本発明の第1の有利な変形例によると、このような方法は、2つの送信アンテナを使用するとともに、前記部分行列が[1 1]および[1 −1]に等しい。
【0036】
本発明の第2の有利な変形例によると、このような方法は、2つの送信アンテナを使用するとともに、前記部分行列が
【数1】

および
【数2】

の値を有する。
【0037】
したがって、本発明のこの好ましい実施形態においては、ユーザ毎に幾つかの符号が使用される。言い換えると、各ユーザに対して、各部分行列は少なくとも2つの行を有する。
【0038】
本発明の第3の有利な変形例によると、このような方法は、4つの送信アンテナを使用するとともに、前記部分行列が[1 1 1 1]、[1 −1 1 −1]、[1 1 −1 −1]および[1 −1 −1 1]の値を有する。
【0039】
また、本発明は、前述の送信方法にしたがって送られた信号を受信し、少なくとも1つの受信アンテナを使用して、前記受信アンテナのそれぞれにより前記単一の結合信号を受信するとともに、前記ユニタリ行列の共役転置行列に対応する復号化行列により前記単一の結合信号を復号化する方法に関する。
【0040】
最大尤度復号化は、前記共役転置行列による積から得られるデータに対して適用することが好ましい。
【0041】
また、他のあまり複雑でない復号器を使用することもでき、したがって、例えば球面復号化(sphere decoding)またはQR分解復号化を行なうことができる。なお、実際に、任意のエルミート行列がQR形式で分解されてもよい。ここで、Qはユニタリ行列であり、Rは上三角行列である。この種のQR分解は、O3の複雑度を有し、したがって、OLの複雑度を有する最大尤度復号化よりも複雑度が低い。
【0042】
したがって、本発明は、前述の送信方法にしたがって送られ、前記送信アンテナのそれぞれの寄与度(contribution)の組み合わせに対応し、前記各アンテナには別個の部分行列が関連付けられ、前記部分行列がユニタリ正方行列の分割によって得られる信号に関する。前記各アンテナは、前記部分行列によりそれぞれ掛け合わされる前記ベクトルを分割することによって得られる、部分ベクトルを送信する。このような信号は、受信器から見て、前記ベクトルに前記ユニタリ行列を掛け合わせてなる単一の結合信号を形成する。
【0043】
本発明の他の特徴および利点は、単に例示的で網羅的ではない実施例として与えられる好ましい実施形態の以下の説明と、添付図面とから、より明確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の一般的な原理は、マルチアンテナシステムにおける新規なタイプの時空符号に依存している。これらの符号の特定の形成は、各送信アンテナにおける直交行列またはユニタリ行列の構成に依存し、これらの行列の使用により、各アンテナによって送られる信号の分離が可能になる。
【0045】
図1は、本発明にしたがって信号の送受信中に実施される様々なステップを示す。
【0046】
符号化において、Xは、送信されるN個のシンボルを含むNサイズのベクトルであると見なされる。Nt個の送信アンテナを備えるシステムも考慮される。本発明によって提案された新規な時空符号は以下のように考えられる。
【0047】
第1のステップでは、送信されるシンボルを含むベクトルXが、N/NtサイズのNt個の部分ベクトルに分割される。
【0048】
その後、ステップ2において、N/Ntサイズの各部分ベクトルは、(N/Nt)×Nサイズの異なる行列によって分割される。これらの行列は、実アダマール行列、複素アダマール行列またはフーリエ行列から得られ、また、任意の実回転行列または複素回転行列から得られる。これらの行列は互いに関係を有していないが、共通の特徴を有する。実際に、これらの行列は、それぞれ、実行列である場合には直交行列であり、複素行列である場合にはユニタリ行列である。
【0049】
さらに、これらの行列は、それぞれ、完全行列でなければならない。すなわち、これらの行列の各要素はゼロであってはならない。したがって、(N/Nt)×Nサイズの異なる行列は、Nt個の異なる行列に分割されるN×Nサイズの主行列から得られる。
【0050】
その後、ステップ3において、Nt個の各アンテナにおいて符合化される異なる部分ベクトルが送信される。各シンボル周期の間、異なる送信アンテナと受信アンテナとの間に存在する各送信チャネルは、送信される信号に影響を及ぼす(ステップ7)。
【0051】
ステップ4の間に各受信アンテナによって受信された信号は、任意の時点でそれ自体のチャネルにより影響される各アンテナによって送信された異なる信号の合計に一致する。
【0052】
復号化においては、均等化ステップ5が行なわれる。このステップは、再結合された伝送行列の逆復号化(reverse decoding)に関連している。この行列は、N×Nサイズの伝送行列の共役転置行列である。この共役転置行列の要素は、符号Nの持続時間における送信アンテナと受信アンテナとの間のチャネルの均等化フィルタである。
【0053】
その後、最大尤度復号化ステップ6が行なわれる。例えば球面復号化(sphere decoding)またはQR分解復号化を行なうためには、使用する復号器はあまり複雑なものでなくてもよい。この復号化ステップ6は、ステップ4の実行中に受信したユークリッド信号と、送信アンテナから送信された全ての信号との間の距離を計算することにより行なわれる。したがって、受信した、ノイズのない仮想的な受信信号は、再形成され、送信チャネルを通過(ステップ7)している最中にノイズがあった実際の受信信号と直接に比較される。そのため、この復号化は、行なわれる符号化に対して適応することが必要であり、使用する各時空符号器において異なっている。最大尤度復号化の場合には、Mが変調度を表す文字であり、Nが使用する行列のサイズであるとすると、MN回の比較を行なうことによって送られる信号に関して徹底調査を行なわなければならない。すなわち、これは、複雑度の点から見るとコストがかかり、そのため、他のあまり複雑でない復号化方法を使用するのが有益である。
【0054】
図1のフローチャートの異なるステップを、以下の例で具体的に示す。
【0055】
ベクトルXのサイズを10とし、アンテナの数をNt=2とする。
【0056】
ステップ1の間に、ベクトルXが、N/NtサイズのNt個の部分ベクトルに分割され、それにより、サイズ5の部分ベクトルが2つ得られる。
【0057】
ステップ2の間、サイズ5の各部分ベクトルには異なる行列が掛け合わされる。10×10サイズの既知の行列は、フーリエ行列である。この10×10サイズの行列は、5×10サイズの2つの行列に分割される。したがって、サイズ5の各部分ベクトルには2つの行列5×10のうちの一方が掛け合わされる。この演算後、2つのアンテナに対応する2つの部分ベクトルは、送信のために使用する時空符号に対応する。
【0058】
ステップ3の間、2つの各送信アンテナで、符号化された2つの異なる部分ベクトルが送信される。
【0059】
送信チャネルによる伝搬(ステップ7)および受信(ステップ4)の後、復号化時に均等化ステップ5が行なわれる。この均等化ステップ5は、再結合された伝送行列の逆復号化に関連している。この行列は、10×10の伝送フーリエ行列の共役転置行列である。
【0060】
ステップ6では、最大類似(maximum resemblance)復号化、または球面タイプのあまり複雑でない復号化、またはQR分解復号化が行なわれる。最大尤度復号化を用いると、Mが変調度である場合、M10回の比較を行なうことにより送られる信号に関して徹底調査を行なわなければならない。
【0061】
ここで図2を参照すると、2×2行列時空符号を使用する2アンテナ(10、11)送信システムの場合における本発明の一実施形態が示されている。
【0062】
図2は、アンテナ毎に長さが2のアダマール符号シーケンスを用いた本発明の送信システムを示す。この符号は、1/2の符号化レートを有し、あるいは、レートRがシンボルの数Nをシンボル送信中のシンボル周期の数Lで割った数に等しいと見なされる場合には、1の時空符号化レートを有する。
【0063】
図2において、x1、x2は送信されるシンボルを表わし、h1、h2、h3、h4は、例えば、2つの送信アンテナ10、11に関連付けられるフラットレイリー(flat Rayleigh)伝搬チャネルであり、y1およびy2は、図1のステップ5で得られる均等化されたシンボルである。
【0064】
送信アンテナ10に関連付けられた部分行列[1 1]を部分ベクトルに掛け合わせた後、このアンテナは部分ベクトル[x11]を送信する。同様に、送信アンテナ11は、[x2]に部分行列[1 −1]を掛け合わせることにより得られる部分ベクトル[x2 −x2]を送信する。
【0065】
アンテナ間の非相関性および適合したインタリービングを考えると、チャネルは全てのシンボル周期で変化する。受信時に、対応するチャネルによって影響される第1のアンテナ10の寄与度(contribution)および第2のアンテナ11の寄与度が、受信アンテナ12で受信される。ここで、この寄与度は行列形式[h11+h2231−h42]と表される。その後、復号化および均等化ステップでは、送信されたユニタリ行列の共役転置(transconjugate)行列
【数3】

が適用され、一方、同時に、均等化が行なわれる。その結果、送信ステップに寄与した様々なチャネルが考慮される。その後、ML(または最大尤度)復号化を行なうことができる。この復号化は、送られる可能性が最も高かったワードを求める。これを行なうため、全てのベクトル
【数4】

に関して図2に示されている測定基準(metric)
【数5】

が計算され、それにより、最も送られる可能性が高い符号ワードが決定される。
【0066】
図3は、4×4行列時空符号を使用する、図2の2アンテナ送信システムに類似する2アンテナ送信システム10、11を示している。
【0067】
図3のシステムは、より具体的には、アンテナ毎に長さが4のアダマール符号シーケンスを用いている。アダマール行列のサイズの増大も考慮することができ、したがって、2つのアンテナに対して長さがLの符号を得ることができる。
【0068】
この場合も同様に、x1、x2、x3、x4は送信されるシンボルを表わし、h1、h2、h3、h4、h5、h6、h7、h8は、2つの送信アンテナ10、11に関連付けられるフラットレイリー伝搬チャネルである。奇数の添字は第1の送信アンテナ10を示し、偶数の添字は第2のアンテナ11を示す。y1、y2、y3、y4は、図1のステップ5の最後に受信アンテナ12で得られる均等化されたシンボルである。
【0069】
送信アンテナ10は、部分ベクトル[x12]に部分行列
【数6】

を掛け合わせることにより得られる部分ベクトルを送信する。同様に、送信アンテナ11は、[x34]に部分行列
【数7】

を掛け合わせることにより得られる部分ベクトルを送信する。
【0070】
受信時に、対応するチャネル([r1234])によって影響される第1のアンテナ10の寄与度および第2のアンテナ11の寄与度が、受信アンテナ12で受信される。その後、受信信号の復号化および均等化のためのステップでは、送信ユニタリ行列の共役転置(transconjugate)行列
【数8】

が適用され、一方で、同時に、均等化が行なわれる。
【0071】
その後、最も送られる可能性が高い符号ワードを求めるために全てのベクトル
【数9】

に関して図3に示されている測定基準(metric)
【数10】

が計算される。
【0072】
本発明のシステムは、送信アンテナの数を限定しない。図4に示されているように、最小の行列サイズL=4である4つの送信アンテナ10、11、13、14を用いて時空符号を形成することができる。
【0073】
図4において、x1,x2,x3,x4は、送信されるシンボルである。h1、h2、h3、h4、h5、h6、h7、h8、h9、h10、h11、h12、h13、h14、h15、h16は、図4に示されている4つのアンテナ10、11、13、14のそれぞれに関連付けられるフラットレイリー伝搬チャネルであり、y1、y2、y3、y4は、受信アンテナ12による受信後に均等化されるシンボルである。その後、全ての可能なベクトル
【数11】

に関して図4に示されているメトリック
【数12】

が計算され、それにより、最も送られる可能性が高い符号ワードが決定される。
【0074】
各送信アンテナによる部分ベクトルの送信原理は、図中の参照番号10、11、13、14を参照しながら前述した原理に類似している。したがって、簡単のため、ここではこれ以上詳しく説明しない。
【0075】
なお、図2〜図4を参照して前述した実施例において、考慮される時空符号は、簡単なアダマール行列を使用することにより形成された。しかしながら、任意のユニタリ行列、複素アダマール行列またはフーリエ行列を使用することができる。より一般的には、本発明の送信システムにおいては、任意のユニタリ行列を使用することができる。
【0076】
図5および図6は、ML(最大類似)復号器を用いて時空符号を復号化する際における、本発明にしたがって得られた性能値を示している。
【0077】
図5は、QPSK変調との関連で、2つの送信アンテナおよび1つの受信アンテナにおける異なるレート1の時空符号の性能値の比較を示している。より具体的には、図5は、符号化行列サイズがL=2、L=4、L=8における本発明の時空符号の性能、およびAlamouti符号の性能を示している。
【0078】
図5に示されているように、符号化行列のサイズLが増大すると、本発明の符号の性能値は、高い信号対ノイズ比という点において良好である。実際に、2つの送信アンテナおよび1つの受信アンテナの場合、符号化行列L=8を利用すると、本発明の符号の性能値は、ビット/エネルギーノイズ比Eb/N0>10dBにおいて、Alamouti符号化の基準曲線の性能値を上回る(「A Simple Transmit Diversity Technique for Wireless Communications」,IEEE J.Sel.Areas Comm.,1998,16(8),pp.1451−1458)。
【0079】
より具体的には、符号の行列のサイズが大きくなればなるほど、より多くの信号が高い次数のチャネルダイバーシティを伴って検出されるといったことが実現され得る。これは、図5の性能曲線の傾きによって表わされている。すなわち、傾きが顕著であればあるほど、チャネルダイバーシティの次数も大きくなり、それにより、図5の曲線AWGNにより示されているガウス関係(Gaussian relationship)に漸近的に到達する。
【0080】
これらの結果は、従来技術の性能値よりも満足できる性能値を維持しつつ、最大類似復号化ほど複雑ではない復号化演算を、本発明にしたがって実行できることを示している。
【0081】
したがって、DFE(デジタルフィードバックイコライザ)に対応するQR復号化、あるいは、Viterbi復号化システムを使用することができる。別のアプローチとして「干渉消去器」を使用することができる。実際に、Mがサイズを表す文字であり、Lが符号の行列のサイズである場合、最大尤度復号器はML個のワードを徹底的に比較しなければならず、実施が特に複雑となる。
【0082】
図6は、QPSK変調との関連で、4つの送信アンテナおよび1つの受信アンテナにおける異なるレート1の時空符号の性能値の比較を示している。より具体的には、図6は、符号化行列サイズがL=4、L=8およびQPSK型変調における本発明の時空符号の性能値、および、16QAM変調におけるTarokh符号G4の性能値を示している。図6の曲線AWGNは、ホワイトノイズに関連するガウス関係を表わしている。
【0083】
L=4における本発明の時空符号と、16QAM(直交振幅変調)変調を使用するTarokhのG4符号(「Space−time block codes from orthogonal designs」,IEEE Trans.on Inforamation Theory,1999,45,(5),pp.1456−1467)との間の差は小さく、Lが増大すると、かなり大きな利益が期待できる。したがって、L=8の場合には、かなり大きな利益が得られる。2つの曲線は平行である。なぜなら、これら2つの符号は、4という同じ次数のダイバーシティを得るからである。違いは、L=4という本発明の符号の場合において、僅かに大きい干渉によってもたらされる。しかしながら、L=8の場合、現時点では、本発明の符号の性能値が、TarokhのG4符号の性能値よりも高いと言える。
【0084】
繰り返しになるが、本発明の技術は、MIMO型であろうとMISO型であろうと、任意のマルチアンテナシステムに対して適用することができる。OFDM型の変調およびMC−CDMAシステムは、特に、本発明で提案されたシステムに十分適している。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の時空符号により符号化された信号のための送受信において実施される、様々なステップを示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る2×2行列時空符号を使用する2アンテナシステムを示す。
【図3】4×4行列時空符号を使用する、図2の2アンテナシステムに類似した2アンテナシステムを示す。
【図4】4×4行列時空符号を使用する、4アンテナシステムを示す。
【図5】2つの送信アンテナおよび1つの受信アンテナを使用する場合の、従来技術と本発明における異なるレート1の時空符号の性能値の比較を示す。
【図6】4つの送信アンテナおよび1つの受信アンテナを使用する場合の、従来技術と本発明における異なるレート1の時空符号の性能値の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの送信アンテナを使用し、送信されるN個のシンボルをそれぞれ含む一連のベクトルによって形成される信号を送信する方法であって、
前記送信アンテナにそれぞれ別個の部分行列が関連付けられ、前記部分行列はユニタリ正方行列の分割によって得られ、前記送信アンテナは、それぞれ、前記ベクトルの分割によって得られ、前記部分行列が掛け合わされる部分ベクトルを送信することを特徴とし、
それにより、受信器から見て、前記ベクトルに前記ユニタリ行列を掛け合わせてなる単一の結合信号を形成する送信方法。
【請求項2】
Nt個のアンテナを使用し、前記部分行列が、それぞれ、(N/Nt)×Nのサイズを有することを特徴とする、請求項1に記載の送信方法。
【請求項3】
N/Ntが2以上であることを特徴とする、請求項2に記載の送信方法。
【請求項4】
前記ユニタリ行列が完全行列であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の送信方法。
【請求項5】
前記ユニタリ行列は、
実アダマール行列と、
複素アダマール行列と、
フーリエ行列と、
実回転行列と、
複素回転行列と
を含むグループに属することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の送信方法。
【請求項6】
2つの送信アンテナを使用し、前記部分行列が[1 1]および[1 −1]の値を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の送信方法。
【請求項7】
2つの送信アンテナを使用し、前記部分行列が、
【数1】

および
【数2】

の値を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の送信方法。
【請求項8】
4つの送信アンテナを使用し、前記部分行列が、[1 1 1 1]、[1 −1 1 −1]、[1 1 −1 −1]、[1 −1 −1 1]の値を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の送信方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の送信方法にしたがって送られた信号を受信する方法であって、少なくとも1つの受信アンテナを使用し、前記受信アンテナのそれぞれにより前記単一の結合信号を受信し、前記ユニタリ行列の共役転置行列に対応する復号化行列により前記単一の結合信号を復号化することを特徴とする受信方法。
【請求項10】
前記共役転置行列の掛け合わせることにより得られるデータに対して、最大尤度復号化を適用することを特徴とする、請求項9に記載の受信方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の送信方法にしたがって送られる信号であって、前記送信アンテナのそれぞれの寄与度の組み合わせに対応し、
各アンテナには別個の部分行列が関連付けられ、前記部分行列はユニタリ正方行列の分割によって得られ、前記各アンテナは、前記ベクトルの分割によって得られ、それぞれに前記部分行列が掛け合わされる部分ベクトルを送信し、
それにより、受信器から見て、前記ベクトルに前記ユニタリ行列を掛け合わせてなる単一の結合信号を形成することを特徴とする信号。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2007−509515(P2007−509515A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530401(P2006−530401)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002444
【国際公開番号】WO2005/034386
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(591034154)フランス・テレコム (290)
【Fターム(参考)】