説明

ヨウ素吸着性多孔質体

【課題】ポリビニルピロリドンの持つヨウ素吸着能力を低下せしめることなくポリビニルピロリドンを固定化し、水中に存在するヨウ素を効率的に除去し得る担体を提供する。
【解決手段】非水溶性樹脂との合計量中1〜50重量%の割合で親水性ポリビニルピロリドンを添加した非水溶性樹脂の水溶性有機溶媒溶液よりなる原液を、水性凝固液中で凝固させて成形した、ヨウ素分子I2およびトリヨウ化物イオンI3-の吸着に用いられるヨウ素吸着性多孔質体。多孔質体は、好ましくは粒子状(多孔質ビーズ)あるいは平膜状に成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素吸着性多孔質体に関する。さらに詳しくは飲用水の殺菌に用いられたヨウ素を効率的に吸着する性能を有するヨウ素吸着性多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は抗菌性が高くかつ人体への安全性も高いことから、ヨードチンキやポピドンヨードに代表される外用消毒薬として用いられている。また、ヨウ素は飲用水の殺菌にも用いられており、例えば特許文献1〜2には、ヨウ素を吸着した樹脂ビーズを容器に充填し、通水により水とヨウ素を接触させる方法が開示されている。
【0003】
しかるに、かかる方法で飲用水を殺菌する場合、ヨウ素はビーズから徐放されるため、ヨウ素特有の色、臭いまたは味が水に付着し、飲用の際不快に感じられることがある。
【0004】
ヨウ素を除去する方法としては、銀添着ゼオライトにヨウ素を吸着させる方法、強塩基性陰イオン交換樹脂にヨウ素を吸着させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、銀添加ゼオライトは気相中のヨウ素の吸着能は高いものの、水中のヨウ素吸着能はそれほど高いものではない。また、強塩基性陰イオン交換樹脂は、ヨウ素分子I2(二原子ヨウ素)に対する吸着能が高くはない。
【0005】
一方、ヨウ素はポリビニルピロリドンと錯化合物を形成することが広く知られており、このポリビニルピロリドンのヨウ素吸着能を利用してヨウ素を除去することが提案されている(特許文献3〜4)。しかるに、ポリビニルピロリドンは水溶性であるため、ポリビニルピロリドンにより水中のヨウ素を吸着除去するためには、ポリビニルピロリドンが水に溶出することを防ぐ必要がある。ポリビニルピロリドンの水不溶化方法として、ポリビニルピロリドンをガンマ線照射等により架橋する方法が知られているが、架橋によって吸着機能は低下してしまう。
【0006】
また、ポリエチレン繊維にN-ビニルピロリドンをグラフト重合し、ビニルピロリドンを固定化し、水に不溶化する方法も提案されているが(特許文献5)、ビニルピロリドンの導入効率が高くないといった課題がある。さらに、ポリビニルピロリドンを非水溶性樹脂と混合するか、または非水溶性樹脂でカプセル化することにより、ポリビニルピロリドンの水への溶出を抑制することは可能であるものの、水中のヨウ素とポリビニルピロリドンの接触効率が低下するため、吸着機能は大きく低下するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−193189号公報
【特許文献2】特開2008−307253号公報
【特許文献3】特許第4,416,844号公報
【特許文献4】特開2006−348118号公報
【特許文献5】特許第3,885,099号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol. 117, p329-334(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリビニルピロリドンの持つヨウ素吸着能力を低下せしめることなくポリビニルピロリドンを固定化し、水中に存在するヨウ素を効率的に除去し得る担体を提供することにある。
【0010】
また上記いずれかの担体に吸着していたヨウ素が徐放されあるいは担体であるポリビニルピロリドンが水に溶出することによって、経時的にヨウ素の放出量も少なくなるため、殺菌性が低下することとなる。したがって、ヨウ素を用いて殺菌された飲用水からヨウ素を効率的に除去することに加えて、ヨウ素放出量が少なくなった場合においても、飲用水を確実に除菌する方法も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、非水溶性樹脂との合計量中1〜50重量%の割合で親水性ポリビニルピロリドンを添加した非水溶性樹脂の水溶性有機溶媒溶液よりなる原液を、水性凝固液中で凝固させて成形した、ヨウ素分子I2およびトリヨウ化物イオンI3-の吸着に用いられるヨウ素吸着性多孔質体によって達成される。多孔質体は、好ましくは粒子状(多孔質ビーズ)あるいは平膜状に成形される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る多孔質体は、ヨウ素吸着性を有するポリビニルピロリドンの架橋処理を施していないため、ヨウ素の高い吸着能を維持し得るとともに、孔同士が繋がった連結孔であることから、水中のヨウ素分子I2およびトリヨウ化物イオンI3-を効率よく吸着することが可能であり、さらに非水溶性樹脂とポリビニルピロリドンとの多孔質体とすることにより、ポリビニルピロリドンの水中への溶出量を低く抑えることができることから、吸着したヨウ素が水中に再溶出する量も非常に小さく、これらの効果が相俟って、水中に残存するヨウ素を長期間にわたって効率よく除去し、水に付着しているヨウ素特有の色、臭いまたは味を取り除くことができるといったすぐれた効果を奏する。
【0013】
また、上記効果に加えて、多孔質体の形状をビーズ状とした場合には、カラム等に充填して通水する際の圧力損失、接触面積の有効性ならびに取り扱い易さの点で有利であり、平膜、中空糸膜等の分離膜状とした場合には、ヨウ素を用いて殺菌された飲用水からヨウ素を効率的に除去するといった上記効果に加えて、飲用水中のヨウ素量が少なくなった場合においても、分離膜の微孔により菌を捕捉することが可能であるため、飲用水を確実に除菌することを可能とするといった効果をあわせて奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
非水溶性樹脂としては、ポリビニルピロリドンと常温、常圧で良溶媒に均一に溶解し、得られる多孔質樹脂の多孔質構造が孔同士繋がった連結孔となるものが用いられる。具体的には、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、メタ型アラミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、酢酸セルロースが挙げられ、好ましくはポリスルホン、酢酸セルロースが用いられる。これらの非水溶性樹脂は、非水溶性樹脂、ポリビニルピロリドンおよび有機溶媒からなる原液中、5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の割合で用いられる。
【0015】
非水溶性樹脂に添加されるポリビニルピロリドンは、非水溶性樹脂、ポリビニルピロリドンおよび有機溶媒からなる原液中1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%の割合で用いられる。ポリビニルピロリドンの割合がこれより少ないと、ヨウ素の吸着効果が小さくなってしまい、一方これより多いとポリビニルピロリドンの水への溶出量が大きくなるようになる。ポリビニルピロリドンとしては、分子量の高いものが用いられ、好ましくはK値が30以上のものが用いられる。分子量の高いものを用いることにより、ポリビニルピロリドンが非水溶性樹脂に十分に取り込まれるため、水への溶出量が少なくなるようになる。
【0016】
原液中、一般には20〜94重量%、好ましくは50〜85重量%を占める有機溶媒としては、非水溶性樹脂およびポリビニルピロリドンと常温、常圧で均一に溶解するもの、具体的にはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテルが使用される。
【0017】
また、有機溶媒溶液(原液)中の非水溶性樹脂および親水性ポリビニルピロリドンの量、すなわち多孔質体形成用原液中の固形分量は、5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の割合となるように用いられる。これより少ない割合で用いられると多孔構造の孔の径が大きくなり、多孔質体の強度が弱くなってしまい、一方これより多い割合で用いられると多孔構造の孔の径が小さくなり、さらには孔同士の連結が少ない独立閉塞孔の割合が高くなってしまようになり、多孔質体として膜状とした場合には、膜の透水性が小さくなってしまう。
【0018】
非水溶性樹脂および親水性ポリビニルピロリドンの水溶性有機溶媒溶液よりなる原液は、常温、常圧で相分離せず一相状態にある均一溶液であり、この溶液を水性凝固液、好ましくは水を用いて凝固させることにより、非溶媒誘起相分離が生じ、樹脂濃厚相と樹脂希薄相に分離する。次いで、温水で洗浄することにより、濃厚相の樹脂骨格表面にあるポリビニルピロリドンを抽出し、乾燥することによって、ポリビニルピロリドン含有多孔質体が得られる。
【0019】
多孔質体は、所望の形状、例えばフィルム状の平膜、中空糸膜、粒子状の多孔質ビーズなどの形状に成形される。原液をディスペンサを用いて1μl〜20ml/回、好ましくは10μl〜5ml/回の滴下量で滴下し、多孔質体の形状を粒径0.1〜3mm、好ましくは0.3〜2mmのビーズ状とした場合には、カラム等に充填して通水する際の圧力損失、接触面積の有効性ならびに取り扱い易さの点で有利であり、アプリケータなどを用いて原液をガラス板上などに流延し、平膜状とした場合には、後記実施例に示されるようにこれをろ過ホルダーなどにセットして水を透過させることにより、ヨウ素を用いて殺菌された飲用水からヨウ素を効率的に除去するといった上記効果に加えて、ヨウ素放出量が少なくなった場合においても、飲用水を確実に除菌することを可能とする。
【実施例】
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
実施例1(ヨウ素吸着用粒子状多孔質体)
ポリスルホン14.5重量%およびポリビニルピロリドン(K値90)9重量%をジメチルホルムアミド76.5重量%に溶解し、25℃で均一な状態にある溶液を得た。得られた溶液をディスペンサを用いて4ml/回の滴下量で水の中へ滴下し、凝固させた。次いで80℃の温水によって2回洗浄を行った後乾燥することによって約2mm径の多孔質ビーズを得た。この多孔質ビーズを用いて、ヨウ素吸着試験およびヨウ素放出量の測定を行った。
【0022】
(ヨウ素吸着試験)
カラム内径10mmのクロマトカラムに体積容量が10mlとなるようにビーズを充填し、そこに濃度0.5モル/Lのヨウ素溶液(関東化学製品ヨウ化カリウム約40%およびヨウ素を約
13%含む水溶液)を純水で希釈して10ppmとしたヨウ素水溶液を、空間速度を示すSV(Space Velocity)値が20で通過させ、多孔質ビーズへのヨウ素吸着操作を行った。
【0023】
カラム通過後のヨウ素溶液の吸光度を分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製品U-2810)により測定した。この際、460nmの吸光度をヨウ素分子(I2)、351nmの吸光度をトリヨウ化物イオン(I3-)による吸収として用いた(非特許文献1)。また、濃度の異なるヨウ素溶液吸光度を測定し、ヨウ素(ヨウ素分子およびトリヨウ化物イオンの両者を含む)と吸光度の関係から検量線を作成し、この検量式を用いてビーズによるヨウ素の残存量を算出した。さらに、カラム通過後の液に過酸化水素(酸化剤)と硝酸(酸)を加え、ヨウ化物イオン(I-)をヨウ素分子(I2)に還元し、再度460nmの吸光度を測定した。その結果、残存ヨウ素分子、残存トリヨウ化物イオンおよび還元処理後のヨウ素分子のいずれも1ppm以下であった。
【0024】
(ヨウ素放出量の測定)
カラム内径10mmのクロマトカラムに体積容量が50mlとなるようにビーズを充填し、SV値が10、濃度が10ppmのヨウ素水溶液1リットルを通過させた。カラム透過後、ビーズを取り出し、三角フラスコに純水100mlおよび透過後のビーズ1gを加えて、攪拌子とマグネティックスターラーにより10分間攪拌した。ヨウ素吸着試験と同様に、ビーカー内の水および酸化剤と酸を添加した後のビーカー内の水の吸光度を分光光度計(U-2810)により測定したところ、残存ヨウ素分子、残存トリヨウ化物イオンおよび還元処理後のヨウ素分子のいずれも1ppm以下であった。
【0025】
実施例2(ヨウ素吸着用多孔膜)
ポリスルホン14.5重量%およびポリビニルピロリドン(K値30)9重量%をジメチルホルムアミド76.5重量%に溶解し、25℃で均一な一相状態にある溶液を得た。得られた溶液をガラス板上にベーカーアプリケータを用いて流延し、次いで水に浸せきすることにより凝固を行い、さらに80℃の温水によって2回洗浄を行った後乾燥することによって厚さ150μmの多孔質平膜を得た。得られた多孔質平膜を用いて、ヨウ素吸着試験、透水量の測定およびヨウ素放出量の測定を行った。
【0026】
(ヨウ素吸着試験)
平膜を直径25mmの円形に打ち抜きろ過ホルダー(アドバンテック社製品攪拌型ウルトラホルダーUHP-25K、有効ろ過面積3.5cm2)にセットした。ここに、濃度0.5モル/Lのヨウ素溶液(関東化学製品ヨウ化カリウム約40%およびヨウ素を13%含む水溶液)を純水で希釈して20ppmとしたヨウ素水溶液を、25℃、30kPaの吸引圧にて透過させ、実施例1と同様に膜透過液中のヨウ素を測定したところ、残存ヨウ素分子、残存トリヨウ化物イオンおよび還元処理後のヨウ素分子のいずれも1ppm以下であった。なお、透水量はSV換算で約500であった。
【0027】
(透水量の測定)
平膜を直径25mmの円形に打ち抜き、ろ過ホルダー(UHP-25K)にセットし、25℃、100kPaの吸引圧にて透水試験を行ったところ、純水透過係数は1×10-9m3/m2・Pa・秒であった。
【0028】
(ユニホームラテックス阻止率の測定)
粒径が均一になるように管理されたポリスチレンラテックス微粒子0.12μmを用い、平膜を直径47mmに打ち抜き、攪拌式セル(アドバンテック社製)に膜をセットし、評価圧力10kPa、攪拌速度300rpmにて、20ppmに調整したラテックス微粒子原液をろ過した。微粒子濃度に比例する波長である220nmの吸光度を原液と透過液に対して測定し、その強度比から阻止率を求めたところ、膜によるユニホームラテックス阻止率は99%以上であった。
【0029】
以上の結果より、得られた分離膜によって、水溶液中のヨウ素を除去できることが確認され、また得られた分離平膜の透水量あるいは高いユニホームラテックス阻止率は、水中の菌を除去し、飲用水を得るのに十分な値であることを示している。
【0030】
比較例
実施例1において、ポリビニルピロリドンとしてポリビニルピロリドン(K値15)を同量用い、得られた約2mm径の多孔質ビーズを用いてヨウ素吸着試験を行ったところ、残存ヨウ素分子量は3ppm、残存トリヨウ化物イオンは、3ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性樹脂との合計量中1〜50重量%の割合で親水性ポリビニルピロリドンを添加した非水溶性樹脂の水溶性有機溶媒溶液よりなる原液を、水性凝固液中で凝固させて成形した、ヨウ素分子I2およびトリヨウ化物イオンI3-の吸着に用いられるヨウ素吸着性多孔質体。
【請求項2】
原液を水中に滴下して粒子状に成形された請求項1記載のヨウ素吸着性多孔質体。
【請求項3】
アプリケータを用いて平膜状に成形された請求項1記載のヨウ素吸着性多孔質体。
【請求項4】
K値が30以上であるポリビニルピロリドンが用いられた請求項1記載のヨウ素吸着性多孔質体。

【公開番号】特開2013−43118(P2013−43118A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182153(P2011−182153)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】