説明

ヨードニウム塩のフッ素化の改良

本発明は、ヨードニウム塩のフッ素化のための改良方法であって、フリーラジカル捕捉剤を含むヨードニウム塩の溶液を反応の実施前に貯蔵することを含んでなる方法を提供する。本発明の方法は自動化することができ、これは本発明の方法が放射性フッ素化である場合に特に好都合である。したがって本発明は、自動化合成装置で本発明の方法を実施するために適した、ヨードニウム塩溶液を含むカセットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨードニウム塩のフッ素化に関する。詳しくは、本発明は、ヨードニウム塩のフッ素化のための方法であって、前記ヨードニウム塩の溶液の貯蔵後に反応を実施する方法に関する。本発明はまた、前記ヨードニウム塩の放射性フッ素化を実施するためにも特に適している。本発明の方法で得られる放射性フッ素化化合物は、例えば陽電子放出断層撮影(PET)イメージングで使用するための医薬組成物中に配合するのに有用である。さらに本発明は、本発明の方法の実施を容易にするためのキット並びに本発明の方法の実施を自動化するためのカセットにも関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物による求核置換は、有機化合物中にフッ素を導入するための最も魅力的な方法の1つとみなされている。[18F]フッ化物アニオンを用いて電子欠乏性芳香環から適当な脱離基を置換する芳香族求核置換は、[18F]フルオロアレーンを製造するための公知方法である。求核置換反応を以下に例示する。
【0003】
【化1】

【0004】
式中、WGは1〜4の電子吸引性基であり、LGは適当な脱離基、例えばフルオロ、ブロモ、ニトロ、第三アミノ又はヨードである。
【0005】
国際公開第2005/061415号によれば、フリーラジカル連鎖反応プロセスによるヨードニウム塩の分解が、(例えば、Pike et al,J.Chem.Soc.Chem.Comm.1995:2215−16によって報告されたような)ヨードニウム塩を用いる放射性フッ素化について観察される収率のばらつきの主たる要因であることが確認されている。国際公開第2005/061415号では、反応混合物中にフリーラジカル捕捉剤を混入してヨードニウム塩に関するラジカル連鎖分解経路をブロックすることで、放射性フッ素化に至る反応が優先的に起こって所望の放射性フッ素化生成物の収率が再現可能になることが実証された。そこに記載された実験では、放射性フッ素化反応を実施しながらヨードニウム塩中にフリーラジカル捕捉剤が導入される(国際公開第2005/061415号の実験例を参照されたい)。ラジカル捕捉剤の存在下で反応を行った場合、一貫して約40〜60%のRCYが得られた。
【0006】
18F]フルオロアルケニル基を含む[18F]標識化合物もまた、[18F]フルオロアレーンを得るために記載されたものと同様なヨードニウム塩化学を用いて合成されてきた(国際公開第2007/073200号)。この特許出願中にも、反応混合物中にフリーラジカル捕捉剤を混入することが報告されている。
【0007】
別の報告では、Carroll et al(J.Fluorine Chem.2007;128:127−132)は、ジアリールヨードニウム塩のフッ素化に際してラジカルスカベンジャーを混入すると、プロセスの再現性及び所望のフルオロアレーン化合物の物質収率が顕著に向上することを実証している。そこに記載された方法では、ラジカルスカベンジャーは反応容器内でジアリールヨードニウム塩と合わされる(Carroll et alの実験セクション4.3、4.5及び4.6を参照されたい)。
【0008】
明らかに、ラジカル捕捉剤の添加はヨードニウム塩のフッ素化における収率の向上をもたらす。本出願人は、これらの反応の収率をさらに向上させる余地があると考えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
国際公開第2005/061415号パンフレット
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ヨードニウム塩のフッ素化方法であって、反応を実施する前にフリーラジカル捕捉剤を含むヨードニウム塩の溶液を貯蔵することを含んでなる方法を提供する。本発明の方法は、意外にも所望のフッ素化生成物の収率の増加をもたらす。さらに、ヨードニウム塩溶液を貯蔵できる結果、本発明の方法で使用するための予備調製溶液を用意できるので好都合である。本発明はまた、適当な貯蔵用容器内にヨードニウム塩溶液を含んでなるキットを提供する。自動化合成装置で本発明の方法を実施するために適したカセットも提供される。自動化のために固体ヨードニウム塩用及び溶媒用の独立したバイアルを必要とする現在公知のヨードニウム塩フッ素化方法とは対照的に、本発明の方法では両者を単一のバイアル内に収容できるので有利である。本発明の自動化方法は、本発明の方法が放射性フッ素化である場合に特に好都合である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一態様では、本発明は、フッ素標識化合物の合成方法であって、
(a)(i)ヨードニウム塩又はその保護バージョン及び(ii)フリーラジカル捕捉剤を有機溶媒に溶解してなるヨードニウム塩溶液を用意する段階、
(b)段階(a)の前記溶液を、前記溶液の凝固点より高くかつ30℃以下の貯蔵温度で、3時間以上の貯蔵期間にわたり貯蔵容器内に貯蔵する段階、並びに
(c)段階(b)に続き、前記溶液をフッ化物イオン源で処理して前記フッ素標識化合物を生成する段階
を含んでなる方法に関する。
【0012】
本発明の方法の「フッ素標識化合物」は、その化学式が1以上のフッ素原子を含む化合物であり、「フッ素原子」という用語はフッ素の非放射性同位体及び放射性同位体の両方を包含する。本発明の方法の好ましい実施形態では、フッ素原子は放射性同位体18Fである。好ましくは、本発明の方法のフッ素標識化合物は、一般式Q−F(式中、Qは式Iに関して下記に定義される通りであり、Fはフッ素原子を表す。)を有する。
【0013】
本発明の方法の「ヨードニウム塩溶液」は、ヨードニウム塩を含んでいる。「ヨードニウム塩」という用語は、本発明では式Y2+のイオンを含む化合物として定義される。好適には、ヨードニウム塩は、0.001〜0.1M、好ましくは0.01〜0.05M、最も好ましくは0.01〜0.02Mの濃度でヨードニウム塩溶液中に存在している。好ましいヨードニウム塩は下記に一層詳しく記載される。
【0014】
ヨードニウム塩溶液はまた、フリーラジカル捕捉剤も含んでいる。「フリーラジカル捕捉剤」という用語は、本明細書ではフリーラジカルと相互作用してそれを不活性化する任意の薬剤として定義される。本発明の方法において好適なフリーラジカル捕捉剤は、4−アミノ安息香酸、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、1,2−ジフェニルエチレン(DPE)、ガルビノキシル、ゲンチシン酸、ヒドロキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド(TEMPO)、チオフェノール、アスコルビン酸塩、パラアミノ安息香酸(PABA)、β−カロテン及びDL−α−トコフェロールから選択される。本発明の方法で使用するための好ましいフリーラジカル捕捉剤はTEMPO及びDPEであり、TEMPOが最も好ましい。ヨードニウム塩溶液は、通常は1モル%以上、好ましくは約2〜500モル%のフリーラジカル捕捉剤を含んでいる。溶液中におけるフリーラジカル捕捉剤の一層好ましい範囲は約10〜400モル%である。
【0015】
ヨードニウム塩溶液用の好適な「有機溶媒」は、アセトニトリル(ACN)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン(DME)、スルホラン及びN−メチルピロリジノンから選択できる。本発明における好ましい有機溶媒はACN、DMF、DMSO、DMAC及びTHFであり、最も好ましくはACN、DMF及びDMSOである。有機溶媒は好ましくは使用前に脱気されるが、これは例えばガス中に窒素又はアルゴンをほぼ数分間吹き込むことで実施される段階である。最も好ましい実施形態では、有機溶媒は「乾燥」しており、これは存在する水のレベルが1000ppm以下、一層好適には600ppm以下、好ましくは100ppm以下であることを意味する。これが好ましいのは、乾燥した溶媒を用いて反応を実施する場合に処理段階でのフッ化物イオンとヨードニウム塩との反応性が向上するからであり、さらなる操作なしに貯蔵されたヨードニウム塩溶液を用いて処理段階を実施するのが好都合だからである。
【0016】
ヨードニウム塩溶液を貯蔵するための好適な「貯蔵容器」は、合成反応のいずれの成分とも相互作用せず、任意には無菌健全性の維持を可能にし、加えて任意には注射器による溶液の添加及び抜取りを許しながら不活性ヘッドスペースガス(例えば、窒素又はアルゴン)の維持を可能にするものである。かかる貯蔵容器は好ましくは液密又は気密のジャー、フラスコ、アンプル及びバイアルであり、蓋、栓又は隔膜のような液密又は気密のクロージャーによってシールが施される。最も好ましいかかる貯蔵容器は、気密クロージャーを(通例はアルミニウムからなる)オーバーシールと共にクリンプ加工した隔膜封止バイアルである。かかる貯蔵容器は、例えばヘッドスペースガスの変更又は溶液のガス抜きのために所望される場合にはクロージャーが真空に耐え得ると共に、例えば容器からの溶液の取出しを助けるための過圧にも耐え得るという追加の利点を有している。ヨードニウム塩溶液は、好ましくは暗所に貯蔵される。さらに具体的には、特に紫外線を排除することが好ましい。これは、溶液中におけるヨードニウム塩のフリーラジカル分解が紫外線によって刺激されると考えられるからである。例えば、貯蔵容器を褐色ガラスで作製するか、或いは貯蔵中には貯蔵容器をアルミニウム箔で包むのがよい。
【0017】
フッ化物イオン源によるヨードニウム塩溶液の処理(「フッ素化」としても知られる)は、(i)ヨードニウム塩溶液に関して上記に記載したタイプの有機溶媒、或いは(ii)イミダゾリウム誘導体(例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート)、ピリジニウム誘導体(例えば、1−ブチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート)、ホスホニウム化合物又はテトラアルキルアンモニウム化合物のようなイオン性液体の存在下で行うことができる。本発明の方法の処理段階は、好適には極端でない温度(例えば15〜180℃)、好ましくはその範囲の高温側の温度(例えば80〜150℃、特に120℃又はその付近)で実施される。好ましい実施形態では、フッ素化のために選択される有機溶媒は、ヨードニウム塩溶液の貯蔵のために使用したものと同じ有機溶媒であるのが最も好都合である。当業者であれば、フッ素化反応を実施するため本明細書に記載した温度の一部は有機溶液の沸点を超えることが理解されよう。したがって、好ましい実施形態では、反応容器を密封することで温度の上昇と共に圧力を高め、その結果として沸点を上昇させる。例えば、アセトニトリルは約80℃で沸騰するが、密封容器内ではアセトニトリルの沸騰なしに120℃で反応が可能となる。
【0018】
フッ素化反応を実施するための反応容器の選択は、使用する反応体の性質及び量に依存する。好適な反応容器は、所望の反応を妨害なしに進行させる材料で作製される。かかる反応容器には、ビーカー及びフラスコのような標準の実験室用ガラス器具、並びに自動化合成用カートリッジ及びミクロ加工容器があるが、当業者はこれらのすべてに精通している。
【0019】
反応溶媒が水を含む場合にも段階(c)のフッ素化反応を首尾良く実施することが可能であるものの(国際公開第2005/097713号)、反応前にフッ化物から水を除去すれば、フッ化物イオンの反応性が高まると共に、水の存在に起因するヒドロキシル化副生物の生成が回避されると一般に考えられている。通常、フッ素化反応は無水反応溶媒を用いて実施される(Aigbirhio et al,J.Fluor.Chem.1995;70:279−87)。フッ化物イオンからの水の除去は、フッ化物イオンを「裸」にするといわれる。これは、フッ化物イオンの反応性を高めると共に、水の存在に起因するヒドロキシル化副生成物の生成を回避することを意図したものである(Moughamir et al,Tett.Letts.1998;39:7305−6)。したがって、一実施形態では、フッ素化のために使用する溶媒は本明細書で前記に定義したように「乾燥」している。
【0020】
フッ素化反応におけるフッ化物イオンの反応性を向上させるため当技術分野で通例使用される追加の段階は、水の除去に先立ってカチオン性対イオンを添加することである。対イオンは、無水反応溶媒中において、フッ化物イオンの溶解性を維持するのに十分な溶解度を有するべきである。したがって、これまで使用されてきた対イオンには、ルビジウムやセシウムのような大きいが軟らかい金属イオン、Kryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯体化したカリウム、又はテトラアルキルアンモニウム塩がある。フッ素化反応にとって好ましい対イオンは、無水溶媒中での溶解性が高く、フッ化物の反応性を向上させることから、Kryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯体化したカリウムである。本発明の「フッ化物イオン源」は、好適にはフッ化カリウム、フッ化セシウム及びテトラアルキルアンモニウムフルオリドから選択される。本発明の好ましいフッ化物イオン源は、Kryptofix(商標)で活性化されたフッ化カリウムである。この段落に記載された試薬の大部分は、Sigma−Aldrich社のような化学薬品供給業者から入手できる。テトラアルキルアンモニウム塩はABX Chemicals社から得ることができる。
【0021】
本発明の方法の好ましいヨードニウム塩は、次の式Iの化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、
1〜R5の各々は、水素、ニトロ、シアノ、ハロ、C1-10ヒドロキシアルキル、C2-10カルボキシアルキル、C1-10アルキル、C2-10アルコキシアルキル、C1-10アミノアルキル、C1-10ハロアルキル、C6-14アリール、C3-12ヘテロアリール、C3-20アルキルアリール、C2-10アルケニル、C2-10アルキニル、C1-10アシル、C7-10アロイル、C2-10カルボアルコキシ、C2-10カルバモイル及びC2-10カルバミル並びにこれらの基のいずれかの保護バージョンから独立に選択されるR基であるか、或いは2つの隣接するR基がこれらと結合した炭素原子と共に四員乃至六員環又はその保護バージョンを形成し、
Qは任意にはC2-6アルケニレン基を介してI+に結合されたC5-14アリール基又はC4-13ヘテロアリール基を表し、Qは0〜3のR6置換基を有していて、各R6はハロ、シアノ、ニトロ、−C(=O)、−E、−OE、−OC(O)E、−C(=O)OE、−SO2E、−SE、−NE2、−C(=O)NE2及び−N(E)COE(式中、Eの各々は水素、C1-6アルキル、C1-5ヘテロアルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシアルキル、C1-6ハロアルキル、C2-6ハロアルケニル、C2-6ハロアルキニル、C1-6ハロアルコキシ−C1-6アルキル、C4-12シクロアルキル、C4-12ヘテロシクロアルキル、C5-12アリール及びC4-13ヘテロアリールから選択される。)並びにこれらの基のいずれかの保護バージョンから選択されるR*基であり、ただしR*は水素でないことが条件であり、いずれか2つの隣接するR*基がこれらと結合した炭素原子と共に四員乃至六員環を形成してもよく、これらのR*基のいずれかがC1-6アルキレンを介してQに結合していてもよく、ヒドロカルビルR6基は任意には1以上のR7基で置換され、ヒドロカルビルR7基は任意には1以上のR8基で置換され、R7及びR8は共にR*基であり、
-は、好適にはトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)、メタンスルホネート(メシレート)、トリフルオロアセテート、トルエンスルホネート(トシレート)及びペルフルオロC2〜C10アルキルスルホネートから選択されるアニオンである。
【0024】
単独で又は別の基の一部として使用される「アルキル」は、本明細書では任意の直鎖又は枝分れした飽和又は不飽和Cn2n+1基(式中、特記しない限り、nは1〜10の範囲内の整数である。)として定義される。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、1−メチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルがある。
【0025】
シクロアルキル」という用語は任意の環状アルキルであって、特記しない限り、Cn2n+1中のnは3〜10の範囲内の整数である。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルがある。
【0026】
本明細書で「アリール」は、1以上の芳香環を含み、好ましくは各環中の5〜6の環構成員を有する任意の単環式、二環式又は三環式C5-14分子断片又は基として定義される。アリール基には、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダン及びビフェニルのような純粋な芳香族基、並びに1以上のシクロアルキル環又はヘテロシクロアルキル環と縮合した少なくとも1つの芳香環を含む基がある。
【0027】
本明細書で定義される「ヘテロアルキル」、「ヘテロシクロアルキル」及び「ヘテロアリール」という用語は、それぞれ上記に定義したようなアルキル、シクロアルキル又はアリールにおいて、鎖中の少なくとも1つの原子がN、S及びOから選択されるヘテロ原子であるようなものである。
【0028】
アルコキシアルキル」とは、アルキル基を分子の残部に結合する末端酸素原子を含むC2-10直鎖又は枝分れアルキル基である。アルコキシアルキルには、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシなどがある。
【0029】
カルボアルコキシ」は、上記に定義したようなアルコキシアルキル基がカルボニル基中の2つの非共有結合の一方に結合したものを包含する。ここで、「カルボニル」基は酸素原子に二重結合した炭素原子からなる官能基(即ち、C=O)である。
【0030】
アルケニル」という用語は、1以上の二重結合を含む非環状炭化水素基をいう。かかるアルケニル基は、2〜10の炭素原子、好ましくは2〜8の炭素原子、さらに好ましくは2〜6の炭素原子を含んでいる。好適なアルケニル基の例には、プロペニル、ブテン−1−イル、イソブテニル、ペンテン−1−イル、2−2−メチルブテン−1−イル、3−メチルブテン−1−イル、ヘキセン−1−イル、ヘプテン−1−イル及びオクテン−1−イルがある。本明細書で使用される「アルケニルアリール」という用語は、本明細書で定義されるアルケニル基が本明細書で定義されるアリール基に結合してなるC7-20基、例えばフェニル−ブテニル及びフェニル−ペンテニルをいう。「アルケニルヘテロアリール」とは、アリール部分中に1以上のヘテロ原子を含むアルケニルアリール基であり、前記ヘテロ原子はN、S及びOから選択される。
【0031】
アルキニル」という用語は1以上の三重結合を含む非環状炭化水素基をいい、かかる基は、2〜10の炭素原子、好ましくは2〜8の炭素原子、さらに好ましくは2〜6の炭素原子を含んでいる。アルキニル基の例には、エチニル、プロピニル、ブチン−1−イル、ブチン−2−イル、ペンチン−1−イル、ペンチン−2−イル、3−メチルブチン−1−イル、ヘキシン−1−イル、ヘキシン−2−イル及びヘキシン−3−イルがある。本明細書で使用される「アルキニルアリール」という用語は、本明細書で定義されるアルキニル基が本明細書で定義されるアリール基に結合してなるC7-20基をいう。
【0032】
アシル」とは−CO−アルキルを意味し、ここでアルキルは上記に定義した通りである。
【0033】
アロイル」とは−CO−アリール基を意味し、ここでアリール基は上記に定義した通りである。例示的な基には、ベンゾイル、1−ナフトイル及び2−ナフトイルがある。
【0034】
カルバミル」とは−C(O)NH2基を意味し、ここで一方又は両方の水素原子は上記に定義したようなアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0035】
ニトロ」という用語は−NO2をいう。
【0036】
シアノ」という用語は−CNをいう。
【0037】
ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素(これらの同位体を含む)から選択されるハロゲン置換基を意味する。
フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨード原子をいう。現時点で好ましいハロゲンはクロロ及びフルオロである。「ハロアルキル」、「ハロアルケニル」及び「ハロアルコキシ」という用語は、本明細書で定義されたアルキル基、アルケニル基及びアルコキシ基を1以上のハロ基で置換したものをそれぞれ表す。
【0038】
ヒドロカルビル」という用語は、主として炭素原子及び水素原子からなる基をいう。ヒドロカルビル基は、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシアルキル、カルボアルコキシ、アルケニル、アルケニルアリール、アルケニルヘテロアリール、アルキニル、アシル、アロイル又はカルバミルであり得るが、これらはいずれも上記に定義されている。
【0039】
本明細書で定義される任意のR基又はR*基の「保護バージョン」を得るためには、保護基化学の標準的な方法が使用される。フッ素化の完了後、保護基はやはり当技術分野で標準的である簡単な方法によって除去できる。「保護基」という用語は、望ましくない化学反応を阻止又は抑制するが、分子の残部を変質させない十分に温和な条件下で問題の官能基から脱離させ得るのに十分な反応性を有するように設計された基を意味する。脱保護後には所望のインビボイメージング剤が得られる。保護基は当業者にとって公知であり、アミン基に関してはBoc(ここでBocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)、Fmoc(ここでFmocはフルオレニルメトキシカルボニルである。)、トリフルオロアセチル、アリルオキシカルボニル、Dde[即ち、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル]及びNpys(即ち、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)から適宜に選択され、カルボキシル基に関してはメチルエステル、tert−ブチルエステル及びベンジルエステルから適宜に選択される。ヒドロキシル基に関しては、好適な保護基は、メチル、エチル又はtert−ブチル、アルコキシメチル又はアルコキシエチル、ベンジル、アセチル、ベンゾイル、トリチル(Trt)、又はテトラブチルジメチルシリルのようなトリアルキルシリルである。チオール基に関しては、好適な保護基はトリチル及び4−メトキシベンジルである。好適な保護方法及び脱保護方法は、例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,Theorodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,published by John Wiley & Sons Inc(1999)中に見出すことができる。
【0040】
1〜R5は、最も好適には各々が水素である。別の実施形態では、R1〜R5基の1つ(例えばR3基)がメトキシのようなC1-10アルコキシであり、それ以外は各々が水素である。
【0041】
好ましいQ基は、C5-14アリール基又はC4-13ヘテロアリール基である。最も好ましいのは、フェニル、ピリジル及びピラゾリルを含む単環式アリール又はヘテロアリール基、ナフタリル及びキノリニルを含む二環式アリール又はヘテロアリール基、或いは少なくとも1つのアリール又はヘテロアリール基がシクロアルキル基と縮合している三環式アリール又はヘテロアリール基である。ヘテロアリールに関しては、好ましいヘテロ原子はNである。
【0042】
好ましいR6〜R8基には、−C(=O)、ヒドロキシル、−NH2、C1-6アルキル、−SO2−C1-6アルキル、C1-6シクロアルキル、C1-6ヘテロアルキル、C1-6アルコキシアルキル、C5-14アリール及びC4-13ヘテロアリールがあり、ここでヘテロ原子は好ましくはN又はOであり、最も好ましくはNである。
【0043】
式Iのヨードニウム塩の合成及びフッ素化のための先行技術方法は、Carroll et al(J.Fluorine Chem.2007;128:127−132)並びに国際公開第2005/061415号及び同第2007/141529号に記載されている。
【0044】
別法として、本発明のヨードニウム塩は、次の式Iaのように固体担体に結合されたものであり得る。
【0045】
【化3】

【0046】
式中、
1、R2、R4、R5及びQは式Iに関して上記に定義した通りであり、
Lはポリエチレングリコールリンカーであるか、或いはLは1〜4のC5-12アリーレン基及び/又はC1-20アルキレン、C2-20アルコキシアルキレン又はC1-20ハロアルキレンを含むと共に、任意にはC(=O)、ハロゲン、アミド又はスルホンアミドのような1以上の追加置換基を含み、
Xは本方法で使用される溶媒に不溶でありかつリンカーLが共有結合される任意適宜の固相担体である。
【0047】
「アルキレン」という用語は、1〜20の炭素原子を有する線状飽和二価炭化水素部分又は枝分れ飽和二価炭化水素部分を意味する。
【0048】
「アリーレン」という用語は、C5-12芳香族二価炭化水素部分をいう。
【0049】
「アルコキシアルキレン」とは、上記に定義したようなアルキレン基において、鎖中にさらに酸素原子を含むもの(即ち、エーテル結合)である。
【0050】
「ハロアルキレン」とは、上記に定義したようなアルキレン基において、上記に定義したような1以上のハロ基で置換されているものである。
【0051】
好適な固体担体Xは、ポリスチレン(例えば、ポリエチレングリコールでブロックグラフトしたものであってもよい)、ポリアクリルアミド又はポリプロピレンのようなポリマー、及びかかるポリマーで被覆されたガラス又はシリコンから選択できる。固体担体は、ビーズ又はピンのような小さい離散粒子の形態、或いは例えばカートリッジ又はミクロ加工容器の内面上のコーティングであってもよい。
【0052】
リンカーLの機能は、反応性が最大になるように反応部位を固体担体構造から十分に離隔させることにある。
【0053】
かかるリンカー及び固体担体の例は、例えばFlorencio Zaragoza Dorwald“Organic Synthesis on Solid Phase:Supports,Linkers,Reactions”Wiley−VCH(2000)に記載されているように、固相化学の当業者には公知である。本発明に係る若干の式Iaの固相結合ヨードニウム塩の合成及びフッ素化の例は、国際公開第2005/061415号の実験セクションに記載されている。
【0054】
当業者の現在の知識に従えば、フッ素化反応で使用するためのヨードニウム塩溶液は、それの調製の直後に又はそれの調製から間もなく溶液を使用するという意図をもって調製される(例えば、Carroll et al,J.Fluorine Chem.2007;128:127−132の実験セクションを参照されたい)。本発明者らは意外にも、フッ化物イオン源での処理前にヨードニウム塩溶液を貯蔵すると、所望のフッ素標識化合物の合成が首尾よく実施できることを見出した。実際、本明細書に定義されるようなヨードニウム塩溶液を調製直後に使用する場合に比べ、貯蔵後には収率が増加することが観察された。当技術分野での従来の知識によれば、貯蔵中に溶液成分の分解が起こり、したがって所望生成物の収率が低下すると予想されるので、このような観察結果は驚くべきことであった。
【0055】
ヨードニウム塩溶液の貯蔵温度は、好適には前記溶液の凝固点より高くかつ30℃以下である。任意の所定液体に関しては、「凝固点」は液体が液体状態から固体状態に変化する温度である。すべての液体が凝固するまで、温度はこの点に留まる。それは同様な圧力条件下では不変である。例えば、標準大気圧下での水の凝固点は0℃である。本発明に関しては、液体の凝固点は標準大気圧下での凝固点と見なすべきである。「凝固点より高く」とは、液体が完全に液体状態にある最低温度以上の任意の温度であることを理解すべきである。本発明の方法では、ヨードニウム塩溶液の貯蔵のための好ましい温度範囲は、1〜30℃、最も好ましくは1〜25℃、特に好ましくは1〜20℃、最も特に好ましくは1〜10℃、理想的には1〜5℃である。1〜5℃の温度は冷蔵のための典型的な温度範囲であり、したがって容易に実現できる。
【0056】
当業者には、貯蔵温度が低いほど長い貯蔵期間が達成できることが予想されよう。ヨードニウム塩溶液がセンターで製造され、次いでカスタマーに輸送される場合には、長い貯蔵期間が望ましい。好ましい貯蔵期間は、12時間乃至3ヶ月、最も好ましくは1日乃至1ヶ月、特に好ましくは1〜7日、最も特に好ましくは3〜5日である。
【0057】
本明細書には、標準冷蔵条件下で3〜5日間貯蔵すれば、フッ化物イオン源による溶液の処理時に所望生成物の収率が顕著に増加することが実証されている。これは、本発明の方法に従ったフッ素化化合物の合成を記載した実施例2及び実施例3に示されている。
【0058】
好ましい実施形態では、フッ化物イオン源が[18F]フッ化物イオン源である場合に本発明の方法が実施される。この場合、放射化学は[18F]フッ化セシウム又は[18F]フッ化カリウムのような求核性放射性フッ素化剤を用いて実施される。これらの放射性フッ素化剤は、(Aigbirhio et al,J.Fluorine Chem.1995;70:279に記載されているように)サイクロトロンで生成したキャリヤー無添加(NCA)[18F]フッ化物から調製される。
【0059】
18F]フッ化物イオンは、通例、[18O]水ターゲットの放射線照射の生成物である水溶液として得られる。通常のやり方では、[18F]フッ化物が求核性放射標識反応での使用に適するように、[18F]フッ化物を反応性求核試薬に転化するための様々な段階が実施される。非放射性フッ素化と同じくかつ前述したように、これらの段階は、[18F]フッ化物イオンから水を除去すること及び適当な対イオンを供給することを含んでいる(“Handbook of Radiopharmaceuticals”2003;Welch & Redvanly eds.;ch.6:195−227)。次いで、無水溶媒を用いて求核性放射性フッ素化反応が実施される(Aigbirhio et al,J.Fluor.Chem.1995;70:279−87)。
【0060】
最も好ましくは、[18F]標識化合物は[18F]標識放射性トレーサーである。即ち、これは投与後に被験体内部の特定の生物学的標的と結合し、陽電子放出断層撮影(PET)イメージングを用いて検出できる[18F]標識化合物である。哺乳動物への投与に適するためには、[18F]標識放射性トレーサーは医薬組成物中に含まれる。「医薬組成物」とは、本発明では、本発明の[18F]標識放射性トレーサー又はその塩をヒトへの投与に適した形態で含む製剤として定義される。かかる医薬組成物は非経口的に(即ち、注射によって)投与でき、最も好ましくは水溶液である。かかる組成物は、緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えば、シクロデキストリン或いはPluronic、Tween又はリン脂質のような界面活性剤)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、ゲンチジン酸又はパラアミノ安息香酸)のような追加成分を任意に含み得る。本発明の方法はさらに、医薬組成物を得るために必要な段階(例えば、有機溶媒の除去、生体適合性緩衝剤及び上述したような任意の追加成分の添加)を含むことができる。非経口的投与のためには、医薬組成物が無菌性かつ無発熱原性であることを保証するための手段を講じることも必要である。
【0061】
本発明の方法が特に[18F]標識放射性トレーサーを製造するための放射性フッ素化方法である場合、それはさらに以下の段階の1以上を任意の順序で含むことができる。
(i)例えばイオン交換クロマトグラフィーによる過剰の18-の除去、及び/又は
(ii)いずれかの保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた[18F]標識化合物の、水溶液としての製剤化、及び/又は
(v)段階(iv)の製剤の滅菌。
【0062】
本発明の方法によって製造できる[18F]標識放射性トレーサーであって、ヨードニウム塩が式Iを有するものの非限定的な例を下記表1に示す。式Iのヨードニウム塩のそれぞれの−Q基を表1の右側の欄に示す。各々の場合において、P1〜P4は独立に水素又は保護基を表す。
【0063】
【表1−1】

【0064】
【表1−2】

【0065】
【表1−3】

【0066】
【表1−4】

【0067】
【表1−5】

【0068】
本発明の方法のフッ素標識化合物が[18F]放射性トレーサー(例えば、上記表1に示した化合物のいずれか)である場合、かかる放射性トレーサーは、患者の画像を得るための方法において有用である。かかる方法は、本発明の方法で得られる[18F]放射性トレーサーを患者に投与する段階、次いでPETイメージングを用いて患者の体内における[18F]標識放射性トレーサーの存在を検出することで患者の画像を得る段階を含んでいる。前記方法は本発明の追加の態様をなしている。
【0069】
通常、本発明のヨードニウム塩溶液は、本発明の方法を実施するために適するキットの一部として供給できる。前記キットは本発明の追加の態様をなしていて、本発明の方法に関して上記に定義されたように、ヨードニウム塩溶液を貯蔵容器内に含んでいる。フッ素標識化合物が[18F]標識放射性トレーサーのような18F標識化合物である場合、キットは特に好都合である。この場合、前記キットは放射線薬局、PETセンター又は核医学科における前記18F標識化合物の製造のために適している。かかるキットは、下記に一層詳しく記載されるように、適宜に改造された自動化合成装置内に挿入できるカートリッジを含み得る。かかるキットは、好ましくはフッ化物イオンによるフッ素化のための手段を含むと共に、不要のフッ化物イオンを除去するためのカラムを含むことができる。合成のために必要な試薬、溶媒及び他の消耗品もまた、濃度、体積、送出時間などに関するカスタマーの要求条件を満たすように合成装置を運転させるソフトウェアを保持したコンパクトディスクのようなデータ媒体と共に含めることができる。
【0070】
好ましくは、操作間での汚染の可能性を最小限に抑えると共に無菌性及び品質保証を確実にするため、キットのすべての構成要素は使い捨てである。
【0071】
キット用の好ましい貯蔵容器、[18F]標識化合物、ヨードニウム塩、フリーラジカル捕捉剤、有機溶媒及びフッ化物イオン源は、本発明の方法に関連して上記に定義した通りである。
【0072】
上記に言及した通り、本発明のフッ素化方法は自動化することができ、これは特に放射性フッ素化のための本発明の方法の好ましい実施形態である。現在、[18F]放射性トレーサーはしばしば自動化放射合成で簡便に製造されている。かかる装置には、(いずれもGE Healthcare社から入手可能な)Tracerlab MX及びTracerlab FXをはじめとするいくつかの市販例が存在している。かかる装置は、通常、放射化学を実施するために(しばしば使い捨ての)「カセット」を含んでおり、これを装置に取り付けることで放射合成が行われる。普通、カセットは流体通路、反応容器、及び試薬バイアルを受け入れるためのポート並びに放射合成後の清掃段階で使用される固相抽出カートリッジを含んでいる。
【0073】
本明細書に記載される貯蔵容器内のヨードニウム塩溶液は、自動化合成装置と共に使用するように設計されたかかる使い捨て又は着脱自在のカセット内に収容できる。したがって、別の態様では、本発明はさらに、本明細書に前述した貯蔵容器内のヨードニウム塩溶液を含む自動化合成装置用のカセットも提供する。かかるカセットは、放射性フッ化物を除き、フッ素化反応のために必要な試薬のすべてを完備した状態で提供できる。有利には、ヨードニウム塩はカセットの単一のバイアルに入れた溶液として提供されるが、この場合の前記バイアルは本明細書に記載されるような貯蔵容器である。ヨードニウム塩のフッ素化のための現在公知の方法に基づく自動化装置で使用するためのカセットでは、固体ヨードニウム塩用の1つのバイアル及び有機溶媒用の別のバイアルが要求される。したがって、本発明の方法は、自動化合成用の関連カセットで必要とされる構成要素が現在公知の方法を自動化するために必要なものより少ないことを意味している。さらに、ヨードニウム塩を溶解する段階が存在しないので、自動化合成を完了するまでに要する時間が短縮される。
【0074】
本発明はまた、本発明の方法を実施するための本発明のキット又は本発明のカセットの使用も包含することが理解されよう。本発明のキット、カセット及び方法の構成要素の好適な実施形態及び様々な好ましい実施形態は、前述した通りである。
【実施例】
【0075】
実施例の簡単な説明
実施例1及び実施例2は、キノイルヨードニウム塩をそれぞれ3日間及び5日間貯蔵した後におけるキノイルヨードニウム塩のフッ素化を記載している。
【0076】
実施例で使用される略語
Ac:アセチル
DCM:ジクロロメタン
DMF:ジメチルホルムアミド
g:グラム
h:時間
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
MeOH:メタノール
mL:ミリリットル
mp:融点
ppm:百万分率
RCP:全放射能に対する百分率で表された所望の放射性生成物の量として定義される放 射化学純度
RCY:反応容器から回収された放射能の崩壊補正百分率をRCPに掛けて得られる値と して定義される放射化学収率
TEMPO:2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド
TFA:トリフルオロ酢酸
THF:テトラヒドロフラン
TLC:薄層クロマトグラフィー
比較例1:貯蔵なしのキノイルヨードニウム塩のフッ素化
例1(i):3−ヨードピリジンジクロリド
【0077】
【化4】

【0078】
この実験は、換気の良好なヒュームフード内で実施した。過マンガン酸カリウム上に濃塩酸を滴下することで塩素ガスを生成させた。発生したガスを水中に吹き込んでHClガスを除去し、次いで反応混合物中に吹き込み、次いで20%水酸化ナトリウム溶液に2回吹き込んで未反応塩素を分解した。実験全体を通じて塩素ガス検出器を使用し、0.10ppmで警報を発するように設定した。排気及び接合部については、湿ったデンプン紙を用いて微量の塩素の存在をモニターした。
【0079】
3−ヨードピリジン(0.79g、5mmol)をクロロホルム(150mL)に溶解した撹拌溶液中に、塩素ガスを0℃でゆっくりと0.5時間吹き込んだ。得られた鮮黄色の結晶質固体を含む懸濁液を1時間かけて室温まで温めた後、それを再び0℃に冷却し、沈殿を濾過によって集め、ヘキサン(50mL)で洗浄し、真空中で乾燥することで、標記化合物を黄色の結晶質固体として得、これをそれ以上精製せずに使用した(1.11g、4.85mmol、97%)、mp 128〜129℃分解(CHCl3から)。
【0080】
例1(ii):3−ジアセトキシヨードピリジン
【0081】
【化5】

【0082】
10M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)に3−ヨードピリジンジクロリド(1.66g、5mmol)を撹拌せずに添加し、懸濁液を0.5時間撹拌した後、固体を濾過によって集め、水(5mL)で洗浄し、0.5時間風乾した。次いで、無色固体を酢酸(5mL)に添加し、室温で0.5時間撹拌した後、水(30mL)を添加し、混合物をジクロロメタン(2×50mL)で抽出し、乾燥し(MgSO4)、真空中で濃縮することで黄色の油状物を得た。結晶化により、標記化合物を無色の結晶質固体として得た(0.36g、1.1mmol、22%)、mp 104−105℃(DCM−エーテル−ガソリンから)、(実測値:C,33.35;H,3.05;N,4.34、C910INO4に関する計算値:C,33.46;H,3.12;N,4.34%)。νmax/cm-1(ニート)1669、1426、1365、1289、1021。δH(300MHz;CDCl3)9.17(1H,d,H2 J 2Hz)、8.85(1H,d,H6 J 4Hz)、8.42(1H,dt,H4 J 4,2Hz)、7.48(1H,d,H5 J 4Hz)、2.03(6H,s,COMe)。δC(75MHz;CDCl3)176.53(CO)、153.78(C2)、152.02(C6)、142.02(C4)、125.94(C5)、121.02(C3)、20.26(COMe)。
【0083】
例1(iii):(4−メトキシフェニル)ピリジン−3−イルヨードニウムトリフルオロアセテート
【0084】
【化6】

【0085】
3−ヨードピリジンジアセテート(0.23g、1mmol)をジクロロメタンに溶解した撹拌溶液中に、トリフルオロ酢酸(0.15mL、2mmol)を−40℃で滴下し、0.5時間撹拌した後、溶液を1時間かけて室温まで放温した。その後、それを再び−40℃に冷却し、アニソール(0.11mL、1mmol)を滴下し、反応混合物を一晩かけて室温まで放温した。反応混合物を真空中で濃縮することで淡褐色の油状物を得た。結晶化により、標記化合物を無色の結晶質固体として得た(0.22g、0.52mmol、52%)、mp 150−151℃(DCM−エーテルから)、シリカゲルTLC Rf0.20(9:2 DCM−MeOH)、(実測値:C,39.67;H,2.53;N,3.21、C14113INO3に関する計算値:C,39.55;H,2.61;N,3.29%)。νmax/cm-1(ニート)3050、1642、1570、1251、1177、1130。δH(300MHz;d6−アセトン)8.93(1H,d,H2 J2 Hz)、8.74(1H,d,H6,J 4Hz)、8.39(1H,dt,H4 J 5,2Hz)、7.91(2H,d,H2'/H6' J 5Hz)、7.38(1H,dd,H5 J 5,3Hz)、6.93(2H,d,H3'/H5' J 5Hz)、3.84(3H,s,OMe)。δC(75MHz;d6−アセトン)163.99(C4')、154.59(C2)、152.76(C6)、143.06(C4)、138.63(C2'/C6')、127.45(C5)、118.68(C3'/C5')、116.64(C1')、107.60(C3)、56.51(OMe)。m/z(ES)312(M+,100%),185(20)、[実測値:M+]311.9878。
【0086】
例1(iv):[18F]フッ素化方法
18F]フッ化物(通例100〜150MBq)を吸引によってP6バイアルから反応容器に移した。Kryptofix(登録商標)222(2.5mg)及び0.1M炭酸カリウム水溶液(50μL)をアセトニトリル(0.5mL)に溶解した溶液をP6バイアルに添加し、溶液を容器に移した。次いで、窒素ガス流(0.3L/分)下において100℃で15分間加熱することで溶液を乾燥し、その間においてアセトニトリルアリコート(0.5mL)を5分後及び7分後に添加した。次いで、圧縮空気を用いて容器を30℃に冷却した後、(4−メトキシフェニル)ピリジン−3−イルヨードニウムトリフルオロアセテート(5mg)及びTEMPO(5mg)をN,N−ジメチルホルムアミド(0.7mL)に溶解した溶液を添加した。容器を密封し、120℃で30分間加熱した後、圧縮空気を用いて容器を冷却し、混合物を分析した。
【0087】
3回の実験において、観察された平均放射化学純度は77%であり、平均放射化学収率は58%であった。
【0088】
実施例2:3日間貯蔵後のキノイルヨードニウム塩のフッ素化
18F]フッ化物を吸引によってP6バイアルから反応容器に移した。Kryptofix(登録商標)222(2.5mg、6.6×10-6mol)及び0.1M炭酸カリウム水溶液(50μL、5×10-6mol)をアセトニトリル(0.5mL)に溶解した溶液をP6バイアルに添加し、溶液を容器に移した。次いで、窒素ガス流(0.3L/分)下において100℃で15分間加熱することで溶液を乾燥した。次いで、圧縮空気を用いて容器を30℃に冷却した後、(4−メトキシフェニル)ピリジン−3−イルヨードニウムトリフルオロアセテート(5mg、1.2×10-5mol、比較例1のようにして合成した)及びTEMPO(5mg、3.2×10-5mol)をDMF(0.7mL)に溶解し、冷蔵庫(約5℃)内で暗所に3日間貯蔵した溶液を添加した。容器を密封し、120℃で30分間加熱した後、圧縮空気を用いて容器を冷却した。水(0.5mL)を反応物に添加し、混合物をHPLCによって分析した。
【0089】
RCPは放射性HPLCによって測定した。RCYは崩壊補正値として表されるもので、RCP及び反応完了後に反応容器内で測定される放射能から計算される。
【0090】
DMF/TEMPO中での貯蔵プロセスは、比較例1に比べ、RCP及びRCYをそれぞれ11%及び5%だけ増加させた。
【0091】
実施例3:5日間貯蔵後のキノイルヨードニウム塩のフッ素化
18F]フッ化物を吸引によってP6バイアルから反応容器に移した。Kryptofix(登録商標)222(2.5mg、6.6×10-6mol)及び0.1M炭酸カリウム水溶液(50μL、5×10-6mol)をアセトニトリル(0.5mL)に溶解した溶液をP6バイアルに添加し、溶液を容器に移した。次いで、窒素ガス流(0.3L/分)下において100℃で15分間加熱することで溶液を乾燥した。次いで、圧縮空気を用いて容器を30℃に冷却した後、(4−メトキシフェニル)キノリン−3−イルヨードニウムトリフルオロアセテート(5mg、1.1×10-5mol、比較例1のようにして合成した)及びTEMPO(5mg、3.2×10-5mol)をDMF(0.7mL)に溶解し、冷蔵庫(約5℃)内で暗所に3日間貯蔵した溶液を添加した。容器を密封し、120℃で30分間加熱した後、圧縮空気を用いて容器を冷却した。水(0.5mL)を反応物に添加し、混合物をHPLCによって分析した。
【0092】
RCPは放射性HPLCによって測定した。RCYは崩壊補正値として表されるもので、RCP及び反応完了後に反応容器内で測定される放射能から計算される。
【0093】
DMF/TEMPO中での貯蔵プロセスは、比較例1に比べ、RCP及びRCYをそれぞれ9%及び3%だけ増加させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素標識化合物の合成方法であって、
(a)(i)ヨードニウム塩又はその保護バージョン及び(ii)フリーラジカル捕捉剤を有機溶媒に溶解してなるヨードニウム塩溶液を用意する段階、
(b)段階(a)の前記溶液を、前記溶液の凝固点より高くかつ30℃以下の貯蔵温度で、3時間以上の貯蔵期間にわたり貯蔵容器内に貯蔵する段階、並びに
(c)段階(b)に続き、前記溶液をフッ化物イオン源で処理して前記フッ素標識化合物を生成する段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記ヨードニウム塩が次の式Iの化合物である、請求項1記載の方法。
【化1】

式中、
1〜R5の各々は、水素、ニトロ、シアノ、ハロ、C1-10ヒドロキシアルキル、C2-10カルボキシアルキル、C1-10アルキル、C2-10アルコキシアルキル、C1-10アミノアルキル、C1-10ハロアルキル、C6-14アリール、C3-12ヘテロアリール、C3-20アルキルアリール、C2-10アルケニル、C2-10アルキニル、C1-10アシル、C7-10アロイル、C2-10カルボアルコキシ、C2-10カルバモイル及びC2-10カルバミル並びにこれらの基のいずれかの保護バージョンから独立に選択されるR基であるか、或いは2つの隣接するR基がこれらと結合した炭素原子と共に四員乃至六員環又はその保護バージョンを形成し、
Qは任意にはC2-6アルケニレン基を介してI+に結合されたC5-14アリール基又はC4-13ヘテロアリール基を表し、Qは0〜3のR6置換基を有していて、各R6はハロ、シアノ、ニトロ、−C(=O)、−E、−OE、−OC(O)E、−C(=O)OE、−SO2E、−SE、−NE2、−C(=O)NE2及び−N(E)COE(式中、Eの各々は水素、C1-6アルキル、C1-5ヘテロアルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシアルキル、C1-6ハロアルキル、C2-6ハロアルケニル、C2-6ハロアルキニル、C1-6ハロアルコキシ−C1-6アルキル、C4-12シクロアルキル、C4-12ヘテロシクロアルキル、C5-12アリール及びC4-13ヘテロアリールから選択される。)並びにこれらの基のいずれかの保護バージョンから選択されるR*基であり、ただしR*は水素でないことが条件であり、いずれか2つの隣接するR*基がこれらと結合した炭素原子と共に四員乃至六員環を形成してもよく、これらのR*基のいずれかがC1-6アルキレンを介してQに結合していてもよく、ヒドロカルビルR6基は任意には1以上のR7基で置換され、ヒドロカルビルR7基は任意には1以上のR8基で置換され、R7及びR8は共にR*基であり、
-は、好適にはトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)、メタンスルホネート(メシレート)、トリフルオロアセテート、トルエンスルホネート(トシレート)及びペルフルオロC2〜C10アルキルスルホネートから選択されるアニオンである。
【請求項3】
前記ヨードニウム塩が次の式Iaの化合物である、請求項1記載の方法。
【化2】

式中、
1、R2、R4、R5及びQは式Iに関して請求項2で定義した通りであり、
Lはポリエチレングリコールリンカーであるか、或いはLは1〜4のC5-12アリーレン基及び/又はC1-20アルキレン、C2-20アルコキシアルキレン又はC1-20ハロアルキレンを含むと共に、任意にはC(=O)、ハロゲン、アミド又はスルホンアミドのような1以上の追加置換基を含み、
Xは本方法で使用される溶媒に不溶でありかつリンカーLが共有結合される任意適宜の固相担体である。
【請求項4】
前記フリーラジカル捕捉剤が、4−アミノ安息香酸、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、1,2−ジフェニルエチレン(DPE)、ガルビノキシル、ゲンチシン酸、ヒドロキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシド(TEMPO)、チオフェノール、アスコルビン酸塩、パラアミノ安息香酸(PABA)、β−カロテン及びDL−α−トコフェロールから選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記フリーラジカル捕捉剤が1モル%以上の濃度で前記溶液中に存在している、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、アセトニトリル(ACN)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン(DME)、スルホラン及びN−メチルピロリジノンから選択される、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記貯蔵温度が1〜5℃である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記貯蔵期間が1〜7日である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記貯蔵容器が液密又は気密のジャー、フラスコ、アンプル又はバイアルであり、蓋、栓又は隔膜のような液密又は気密のクロージャーによってシールが施される、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記フッ化物イオン源が、フッ化カリウム、フッ化セシウム及びテトラアルキルアンモニウムフルオリドから選択される、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記フッ素標識化合物が18F標識化合物である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
さらに以下の段階の1以上を任意の順序で含む、請求項11記載の方法。
(i)例えばイオン交換クロマトグラフィーによる過剰の18-の除去、及び/又は
(ii)いずれかの保護基の除去、及び/又は
(iii)有機溶媒の除去、及び/又は
(iv)得られた[18F]標識化合物の、水溶液としての製剤化、及び/又は
(v)段階(iv)の製剤の滅菌。
【請求項13】
前記処理段階が自動化合成装置で実施される、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記処理段階及び前記以下の段階の1以上が自動化合成装置で実施される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法を実施するためのキットであって、請求項1乃至請求項6のいずれか1項の段階(a)に定義された溶液を請求項1又は請求項9に定義された貯蔵容器内に含んでなるキット。
【請求項16】
さらに、フッ化物イオンでフッ素化するための手段及び不要のフッ化物イオンを除去するためのカラムを含む、請求項15記載のキット。
【請求項17】
自動化合成装置で使用するためのカセットであって、請求項15に定義された溶液を含んでなるカセット。
【請求項18】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法を実施するための、請求項15又は請求項16記載のキットの使用。
【請求項19】
請求項13又は請求項14記載の方法を実施するための、請求項17記載のカセットの使用。

【公表番号】特表2011−530572(P2011−530572A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522517(P2011−522517)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060523
【国際公開番号】WO2010/018218
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】