説明

ヨード低減ポリアリーレンスルフィドの製造方法

本発明は、熱安定性に優れると共に、ヨード含量が低減されたポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)を製造する方法に関し、具体的にジヨード芳香族化合物、硫黄化合物、および重合停止剤を含む組成物を重合反応させる段階を含む。前記製造方法は、ポリアリーレンスルフィド内のヨード含量を効果的に低下し、後工程設備の腐食を防止することができ、ポリアリーレンスルフィドの熱安定性などの物性も改善して、ポリアリーレンスルフィドの製造に関する産業分野に有用に応用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)の製造方法に関し、より詳しくは、ポリアリーレンスルフィド内に含まれているヨード含量を低減させながらも物性が向上したポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在代表的なエンジニアリングプラスチック(Engineering Plastic)であるポリアリーレンスルフィドは、高い耐熱性と耐化学性、難燃性(flame resistance)、電気絶縁性に基づいて高温と腐食性環境および電子製品用途に需要が多い。主な用途は、コンピュータ付属品、自動車部品、腐食性化学物質が接触する部分のコーティング、産業用耐化学性繊維などである。
【0003】
ポリアリーレンスルフィドの中で商業的に販売されるものは、現在ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide;以下、「PPS」という)が唯一である。現在PPSの商業的生産工程は、全てパラ−ジクロロベンゼン(p−dichlorobenzene;以下、「pDCB」という)と硫化ナトリウム(sodium sulfide)を原料としてN−メチルピロリドン(N−methyl pyrrolidone)などの極性有機溶媒で反応させる方法である。この方法はマッカラム工程(Macallum process)として知られており、基本工程は米国特許第2,513,188号および第2,583,941号に開示されている。この時に使用する極性溶媒としては数種類が挙げられるが、現在最も多く使用されるものはN−メチルピロリドンである。この工程は、原料として全て二塩化芳香族化合物(dichloro aromatic compound)を使用し、副産物としては塩化ナトリウム(NaCl)が発生する。
【0004】
このようなマッカラム工程で得られるPPSは、分子量が10,000〜40,000程度であり、溶融粘度が3000ポアズ(Poise)以下で、あまり大きくない。より高い溶融粘度を得るためには、通常PPSを融点(Tm)下で加熱しながら酸素と接触させる後処理(curing)工程を経るが、この時、酸化、架橋(crosslinking)、高分子鎖延長(extension)などの反応により溶融粘度を必要な水準まで増加させることができる。
【0005】
この既存工程で作ったPPSは、次のような根本的な弱点がある。
【0006】
第一に、高分子反応に必要な硫黄を供給する時に硫化ナトリウムなどを使用するが、そのため、副産物として塩化ナトリウムなどの金属塩が多量に高分子内に存在する。これによって、工程で得た高分子を洗浄した後にも金属塩が数千ppm水準で残留し、高分子の電気伝導度を上昇させる以外に加工機器の腐食を誘発し、繊維に作る時、紡糸工程でも問題を引き起こす。そして、生産者の立場では、原料に硫化ナトリウムを使用する場合、副産物である塩化ナトリウムの発生量が、投入する原料に対する重量比で52重量%に達し、これは回収しても経済性がないため、そのまま廃棄物になるという問題もある。
【0007】
第二に、後処理工程で高分子の物性が一般に望ましくない方向に変わる。酸素による酸化および架橋反応により色が濃くなり、機械的性質はより脆くなる(brittleness)。
【0008】
最後に、溶液重合法で得た高分子が全てそうであるように、最終PPSが非常に微細な粉末形態になり、これは相対的に見かけ密度を低下して運送に不利であるばかりか、製品を作る加工工程でも多大な不便さを招く。
【0009】
このマッカラム工程以外に新たな工程が米国特許第4,746,758号、第4,786,713号およびその関係特許で提案されている。これらの特許では、既存工程の二塩化化合物と硫化塩(metal sulfide)の代わりに、ジヨード化合物(diiodo compounds)と固体硫黄(solid sulfur)を使用し、極性溶媒なしに直接加熱してポリアリーレンスルフィドを得ることができると開示した。この方法はヨード化工程および重合工程の2段階で構成され、ヨード化工程ではアリール化合物(aryl compounds)をヨードと反応させてジヨード化合物を得、重合工程ではこれを固体状態の硫黄と反応させて高分子量のポリアリーレンスルフィドを製造する。反応途中に蒸気形態にヨードが発生するが、これを回収して再びアリール化合物と反応させることができるため、実質的にヨードは触媒である。
【0010】
しかしながら、この新たな工程で解決しなければならない問題は次の2つが主に指摘される。第一に、ヨードが分子状態で残留する場合、腐食性があるため、少量でも最終のポリアリーレンスルフィド製品内に含まれれば加工機器に問題を招き得る。第二に、重合工程で固体硫黄を使用する特性上、最終のポリアリーレンスルフィド内にジスルフィド結合(disulfide link)が含まれ、これが融点を含む熱的性質(thermal properties)を低下させる点である。
【0011】
したがって、工程上に不必要な金属塩の生成がなく、機器に腐食性を誘発するヨード含量を顕著に低下しながら、高い耐熱性と耐化学性、機械的強度を有するポリアリーレンスルフィドを効果的に製造することができる工程の開発に対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第2,513,188号明細書
【特許文献2】米国特許第2,583,941号明細書
【特許文献3】米国特許第4,746,758号明細書
【特許文献4】米国特許第4,786,713号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ヨード含量が低く、熱安定性に優れたポリアリーレンスルフィドを製造する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、低いヨード含量と優れた熱安定性を有するポリアリーレンスルフィドを提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリアリーレンスルフィドを含む成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ジヨード芳香族化合物、硫黄化合物、および下記化学式1で表される重合停止剤を含む反応物を重合反応させる段階を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供する。
【0017】
【化1】

ただし、前記化学式1中、Xは、化学結合、O、S、N、カルボニル、またはメチレンであり、前記R1〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基(hydroxyl)、炭素数1〜5のアルキル基、またはフェニル基である。
【0018】
また、本発明は、前記方法で製造され、ヨード含量が20,000ppm以下であるポリアリーレンスルフィドおよびこれを含む成形品を提供する。
【0019】
以下、本発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法およびこれから得られたポリアリーレンスルフィドなどについてより具体的に説明する。
【0020】
本発明の発明者らは、従来のポリアリーレンスルフィドの製造方法に伴う問題点に注目し、これを化学的方法で解決するのに主力を注いだ。最終の高分子内でヨードを除去すべき理由は、腐食性以外に経済的側面も大きい。ジヨード芳香族化合物などを使用する方式では、遊離されたヨード分子が製造されたポリアリーレンスルフィド高分子内に含まれたり、ヨード原子が高分子内のアリール原子団(arylgroup)に結合しているようになると知られている。
【0021】
本発明は特に、ポリアリーレンスルフィドの重合工程で最終の高分子に残留するヨード(iodine)含量を低減しながらもポリアリーレンスルフィドの物性を同等または改善された水準に維持することができるようにするポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【0022】
本発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法は、ジヨード芳香族化合物、硫黄化合物、および下記化学式1で表される重合停止剤を含む反応物を重合反応させる段階を含む:
【0023】
【化2】

ただし、前記化学式1中、Xは、化学結合、またはO、S、N、カルボニル、メチレンであり、前記R1〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基(hydroxyl)、炭素数1〜5のアルキル基、またはフェニル基である。
【0024】
好ましくは、前記化学式1中、Xは、化学結合、またはO、Sであり得る。一方、R1〜R10がアルキル基である場合、炭素数1〜5であればその構成に限定はないが、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基であり得る。
【0025】
このように、前記化学式1で表される重合停止剤を使用してポリアリーレンスルフィドの重合反応を行う場合、重合停止剤を使用しないか、またはヨードなどの、重合を終結させる置換基を有する従来知られている重合停止剤を使用して行った場合に比べて、重合された高分子内のヨード含量を低下することができるばかりか、製造された高分子の熱的安定性も優秀に現れることを確認した。同時に、このように添加される前記化学式1の重合停止剤の量を調節して、最終生成されるポリアリーレンスルフィドの溶融粘度も容易に調節可能であることを確認した。
【0026】
一方、このような重合停止剤は、前記化学式1と定義されるものであればその構成に限定はないが、好ましくは、ジフェニルスルフィド(diphenylsuldife)、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ビフェニル(biphenyl)、およびベンゾフェノン(benzophenone)からなる群より選択される1種以上であり得る。より好ましくは、ジフェニルスルフィド(diphenylsuldife)、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、またはビフェニル(biphenyl)であり得るが、このような重合停止剤は、フェニル間の作用基が電子供与体(electron donor)の機能を果たして、より優れた作用を奏することができる。
【0027】
また、このような重合停止剤は、ジヨード化合物100重量部に対して0.3〜2.8重量部が含まれることが好ましい。ジヨード化合物100重量部に対して0.3重量部未満含まれる場合、重合停止剤の使用による熱安定性の向上およびヨード低減効果が僅かであり、2.8重量部超過して反応物に含まれる場合、ヨード含量は測定不可能な水準に低減させることができるが、溶融点度が過度に低いポリアリーレンスルフィドが重合され得る。
【0028】
また、このようなポリアリーレンスルフィドの重合反応に使用可能なジヨード芳香族化合物としては、ジヨード化ベンゼン(diiodobenzene;DIB)、ジヨード化ナフタレン(diiodonaphthalene)、ジヨード化ビフェニル(diiodobiphenyl)、ジヨード化ビスフェノール(diiodobisphenol)、およびジヨード化ベンゾフェノン(diiodobenzophenone)からなる群より選択される1種以上が挙げられるが、これに限定されず、ジヨード芳香族化合物に属する化合物として、アルキル原子団(alkyl group)やスルホン原子団(sulfone group)などが置換基として追加で結合されているジヨード芳香族化合物、アリール化合物に酸素や窒素などのヘテロ原子を含有する形態のジヨード芳香族化合物も、使用することができる。この時、前記ジヨード芳香族化合物は、ヨード原子が結合された位置により様々な異性体(isomer)になり得るが、このうち最も好ましいものは、pDIB、2,6−ジヨードナフタレン、またはp,p’−ジヨードビフェニルのように分子の両端に、最遠距離に、対称的にヨードが結合された化合物である。
【0029】
そして、使用可能な硫黄化合物の形態には制限がない。通常、硫黄は、常温で原子8個が連結された環形態(cyclooctasulfur;S8)で存在するが、このような形態ではなくても商業的に使用可能な固体状態の硫黄であれば如何なる形態でも可能である。
【0030】
また、前記ジヨード芳香族化合物は、固体硫黄1モルを基準に0.9モル以上投入され得る。また、前記硫黄化合物は、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物を反応させて製造されたポリアリーレンスルフィドの重量を基準に15〜30重量%含まれることが好ましい。前記範囲内に硫黄を添加すると、耐熱性および耐化学性が増加し、同時に物理的強度などの物性も優れたポリアリーレンスルフィドを合成することができる。
【0031】
一方、このような重合反応させる段階は、ジヨード芳香族化合物、硫黄化合物、および前記化学式1で表される重合停止剤を含む反応物を使用して重合反応を開始することができる任意の条件下に行われ得る。ただし、好ましくは、昇温減圧反応条件で重合反応を行うことができるが、この場合、温度180〜250℃および圧力50〜450torrの初期反応条件で温度上昇および圧力降下を行い、最終的に温度270〜350℃および圧力0.001〜20torrに変化させながら1〜30時間行うことができる。
【0032】
このような昇温減圧条件で重合反応を行う場合、ヨード低減効率が高く、熱安定性に優れ、機械的物性に優れた高分子を得ることができるという点で有利である。
【0033】
一方、上述した一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法は、前記重合反応させる段階前に、ジヨード芳香族化合物、硫黄化合物および前記化学式1で表される重合停止剤を含む反応物を溶融混合する段階をさらに含むことができる。上述した重合反応させる段階は、有機溶媒の非存在下に行われる溶融重合反応で行われるが、このような溶融重合反応の進行のために、ジヨード芳香族化合物を含む反応物を予め溶融混合した後、重合反応を行うことができる。
【0034】
このような溶融混合は、上述した反応物が全て溶融混合され得る条件であれば、その構成に限定はないが、好ましくは、150〜250℃の温度で行われ得る。
【0035】
このように重合前に溶融混合段階を経るため、溶融重合反応がより容易に行われ得る。
【0036】
一方、上述した一実施形態によるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合反応はニトロベンゼン系触媒の存在下で行われ得る。また、上述のように重合反応前に溶融混合段階を経る場合、前記触媒は溶融混合段階で追加され得る。重合反応において、ニトロベンゼン系触媒の存在下でポリアリーレンスルフィドを重合する場合、触媒非存在下で重合する場合よりも高い融点を有するポリアリーレンスルフィドを製造できることを確認した。ポリアリーレンスルフィドの融点が低ければ製品の耐熱性に問題があるため、耐熱性が必要なポリアリーレンスルフィドの製造のためには、ニトロベンゼン系触媒の存在下で重合反応を行うことができる。ニトロベンゼン系触媒の種類としては、1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン、または1−ヨード−4−ニトロベンゼンなどが挙げられるが、上述した例に限定されない。
【0037】
そして、最終的に製造されたポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィド内のヨード含量が20,000ppm以下、好ましくは10,000ppm以下になると共に、溶融粘度または融点などの物性が従来の方法により生産されたものと同等または改善された値を有する。この時、生産されたポリアリーレンスルフィド内のヨード含量を20,000ppm以下に低下することによって、既存に比べて工程装置などで腐蝕の危険をほとんど低減することができる。また、融点(Tm)が265〜320℃、好ましくは268〜290℃、より好ましくは270〜285℃である。このように高い範囲に融点(Tm)を確保することによって、前記ポリアリーレンスルフィドはエンジニアリングプラスチックへの適用時、高強度および向上した耐熱性などの優れた性能を発揮することができる。
【0038】
前記ポリアリーレンスルフィドは、溶融粘度が20〜100,000ポアズ(poise)、好ましくは150〜40,000ポアズ、より好ましくは200〜20,000ポアズ、さらに好ましくは、300〜15,000ポアズになり得る。このように向上した溶融粘度を確保することによって、前記ポリアリーレンスルフィドはエンジニアリングプラスチックへの適用時、高強度および向上した耐熱性などの優れた性能を発揮することができる。
【0039】
一方、上述した一実施形態により重合されたポリアリーレンスルフィドにおいて、重合された高分子内に含まれている遊離ヨードをより低減させるために、重合されたポリアリーレンスルフィドを100〜260℃に維持するヒートセッティング(heat setting)段階をさらに行うことができる。この時、「ヒートセッティング」とは、重合された高分子を固相状態に、一定の温度条件で維持する段階を意味する。また、高分子内に含まれている遊離ヨードは「遊離されたヨード分子が直接高分子内に含まれている」形態で、その含量測定方法については後述するが、高分子試料を凍結粉砕した後、50℃で1時間塩化メチレン(Methylene chloride)で超音波処理(Sonication)した試料をU.V(UV Spectrometer;Varion)で定量分析して得ることができる。
【0040】
一方、このようなヒートセッティング段階は、100〜260℃の温度条件で行われ得るが、100℃未満の温度でヒートセッティングする場合には、ヒートセッティングによる遊離ヨード含量低減効果が僅かであり、260℃以上の条件でヒートセッティングする場合、重合された高分子が溶融または融着されてヒートセッティングの進行による効果が充分に発現しないことがある。
【0041】
より好ましくは、130〜250℃の温度条件でヒートセッティングすることができ、最も好ましくは、150〜230℃の温度条件でヒートセッティングすることができる。ヒートセッティング温度が高いほど、一定量以下に遊離ヨード含量を低減するためのヒートセッティング時間を短縮することができる。
【0042】
したがって、ヒートセッティング時間は、ヒートセッティング温度を考慮して0.5〜100時間の範囲内で調節して行うことができる。好ましくは、1時間〜40時間ヒートセッティングすることができる。
【0043】
この時、ヒートセッティングは、一般的な大気環境下で行われることもできるが、好ましくは窒素、空気、ヘリウム、アルゴンおよび水蒸気からなる群より選択される一つ以上のガスを注入しながら行うこともできる。このようなガスを注入しながらヒートセッティングを行う場合、遊離ヨード減少速度が増加してヒートセッティング時間を短縮することができる点で有利である。
【0044】
一方、前記ヒートセッティングは、好ましくは真空の条件で行われることもできるが、真空の条件でヒートセッティングする場合にも、遊離ヨード減少速度が速いため、ヒートセッティング時間を短縮することができる点で有利である。
【0045】
本発明の他の実施形態により上述した方法で製造されると、ヨード含量が20,000ppm以下であるポリアリーレンスルフィドが提供される。好ましくは、前記ポリアリーレンスルフィド内のヨード含量は、20,000ppm以下であり得る。
【0046】
また、このようなポリアリーレンスルフィドは、融点が265〜320℃であり得る。また、前記ポリアリーレンスルフィドは、20〜100,000ポアズ(Poise)、好ましくは150〜40,000ポアズ、より好ましくは200〜20,000ポアズ、さらに好ましくは300〜15,000ポアズの溶融粘度を有することができる。このように向上した溶融粘度を確保することによって、前記ポリアリーレンスルフィドはエンジニアリングプラスチックとして高強度および向上した耐熱性などの優れた性能を発揮することができる。
【0047】
さらに他の実施形態によれば、前記ポリアリーレンスルフィドを含む成形品が提供される。このような成形品は、フィルム、シート、または繊維形態などの形態になり得る。
【0048】
このような成形品は、前記ポリアリーレンスルフィドを射出成形、押出成形またはブロー成形などの方法で加工して得ることができる。射出成形する場合の金型温度としては、結晶化の観点で、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、試験片の変形の観点では、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。また、これら物品は、電気・電子部品、建築部材、自動車部品、機械部品または日用品などとして利用され得る。
【0049】
フィルム、またはシートは、未延伸、1軸延伸、2軸延伸などの各種フィルム、シートになり得る。繊維は、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維になり得、これを織物、編物、不織布(スパンボンド、メルトブロー、ステープル)、ロープ、ネットなどに利用することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、ヨード含量を極小に低下することができると共に、熱安定性が改善されたポリアリーレンスルフィドを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例を通して発明の作用および効果をより詳しく説明する。ただし、このような実施例は発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるのではない。
【0052】
[比較例]ポリアリーレンスルフィドの重合
1.比較例1のポリアリーレンスルフィドの重合
pDIB327.0g、硫黄26.5gからなる混合物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、温度を220℃に上げ、圧力を200torrに下げた後、温度は320℃、圧力は1torr以下までそれぞれを段階的に変えながら計8時間反応させた。
【0053】
生成された高分子は、溶融粘度(Melting Viscosity、MV)35,000ポアズ(Poise)、融点(Tm)265℃、ヨード含量は30,000ppmであった。
【0054】
2.比較例2のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、触媒としてm−ジヨードニトロベンゼン(m−diiodonitrobenzene)0.2gを追加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0055】
生成された高分子は、MV40,000ポアズ、Tm276℃、ヨード含量は31,000ppmであった。
【0056】
[実施例]ポリアリーレンスルフィドの重合
1.実施例1のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ビフェニル(biphenyl)1g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0057】
生成された高分子は、MV20,000ポアズ、Tm273℃、ヨード含量は5300ppmであった。
【0058】
2.実施例2のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ビフェニル(biphenyl)3g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0059】
生成された高分子は、MV5,000ポアズ、Tm276℃、ヨード含量は2200ppmであった。
【0060】
3.実施例3のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルスルフィド(diphenyl sulfide)1g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0061】
生成された高分子は、MV15,000ポアズ、Tm277℃、ヨード含量は4700ppmであった。
【0062】
4.実施例4のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルスルフィド(diphenyl sulfide)3g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0063】
生成された高分子は、MV3,000ポアズ、Tm280℃、ヨード含量は1500ppmであった。
【0064】
5.実施例5のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルスルフィド(diphenyl sulfide)9g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0065】
生成された高分子は、MV40ポアズ、Tm275℃、ヨード含量は1ppm未満であった。
【0066】
6.実施例6のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、重合が50%行われる時点に、ジフェニルスルフィド(diphenyl sulfide)3g添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0067】
生成された高分子は、MV8,000ポアズ、Tm275℃、ヨード含量は12,000ppmであった。
【0068】
7.実施例7のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルスルフィド(diphenyl sulfide)3gと、触媒としてm−ジヨードニトロベンゼン(m−diiodonitrobenzene)0.2gを追加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0069】
生成された高分子は、MV2,500ポアズ、Tm281℃、ヨード含量は1,700ppmであった。
【0070】
8.実施例8のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)3gを添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0071】
生成された高分子は、MV2,000ポアズ、Tm277℃、ヨード含量は1、700ppmであった。
【0072】
9.実施例9のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)9gを添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0073】
生成された高分子は、MV17ポアズ、Tm276℃、ヨード含量は1ppm未満であった。
【0074】
10.実施例10のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ベンゾフェノン(benzophenone)3gを添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0075】
生成された高分子は、MV30,000ポアズ、Tm274℃、ヨード含量は19,000ppm未満であった。
【0076】
11.実施例11のポリアリーレンスルフィドの重合
比較例1と同一な条件で重合反応を行うが、最初にpDIBと硫黄を溶融混合する時、ベンゾフェノン(benzophenone)9gを添加する以外は、すべての条件を同一に維持した。
【0077】
生成された高分子は、MV15,000ポアズ、Tm271℃、ヨード含量は11,000ppm未満であった。
【0078】
上述した比較例および実施例の重合反応に添加された添加剤の種類および含量、添加時点を下記表1に示し、このような製造方法により重合されたポリアリーレンスルフィドのM.V.、Tm、ヨード含量を下記表2に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

[実験例]比較例および実施例のポリアリーレンスルフィドの物性測定
1.溶融粘度の分析
比較例および実施例により合成された高分子の物性分析において、溶融粘度(melt viscosity、以下、「MV」)は回転円盤粘度計(rotating disk viscometer)で300℃で測定した。
【0081】
2.融点(Tm)の測定
示差走査熱量分析器(Differential Scanning Calorimeter;DSC)を利用して融点を測定した。
【0082】
3.ヨード含量の分析
実施例および比較例により重合された高分子試料を粉砕した後、このうち一定量を燃焼(combustion)して純水などの吸着剤でイオン化した後、ヨードイオンの濃度を測定する燃焼(combustion)イオンクロマトグラフィー(ion chromatograph)を使用してヨード含量を分析した。
【0083】
前記表2から分かるように、実施例の条件による特定の重合停止剤を使用して重合する場合、ポリアリーレンスルフィド内に含まれているヨード含量を20,000ppm以下に低減することができると同時に、熱安定性に関連したTm値も重合停止剤を使用しない場合と同等以上の値を示すことが分かった。
【0084】
したがって、実施例のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば、ヨード含量を減少させながらも、高分子の物性にはほとんど影響を与えないため、ポリアリーレンスルフィド製造に関する産業分野に広く利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヨード芳香族化合物、硫黄化合物、および下記化学式1で表される重合停止剤を含む反応物を重合反応させる段階を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法:
【化1】

ただし、前記化学式1中、Xは、化学結合、O、S、N、カルボニル、またはメチレンであり、前記R1〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、またはフェニル基である。
【請求項2】
前記重合停止剤は、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、 ビフェニル、およびベンゾフェノンからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記重合停止剤は、ジヨード化合物100重量部に対して0.3〜2.8重量部が含まれるものである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記ジヨード芳香族化合物は、ジヨード化ベンゼン、ジヨード化ナフタレン、ジヨード化ビフェニル、ジヨード化ビスフェノール、およびジヨード化ベンゾフェノンからなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
前記重合反応させる段階は、温度180〜250℃および圧力50〜450torrの初期反応条件で温度上昇および圧力降下を行い、最終的に温度270〜350℃および圧力0.001〜20torrに変化させながら1〜30時間行われる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項6】
前記重合反応させる段階前に、前記反応物を溶融混合する段階をさらに含む、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項7】
前記重合反応は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で行われる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項8】
前記ポリアリーレンスルフィドは、ヨード含量が20,000ppm以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項9】
前記ポリアリーレンスルフィドは、ヨード含量が10,000ppm以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項10】
前記ポリアリーレンスルフィドは、融点が265〜320℃である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項11】
前記ポリアリーレンスルフィドは、20〜100,000ポアズの溶融粘度を有する、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法で製造され、ヨード含量が20,000ppm以下であるポリアリーレンスルフィド。
【請求項13】
ヨード含量が10,000ppm以下である、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項14】
融点が265〜320℃である、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項15】
溶融粘度が20〜40,000ポアズである、請求項12に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項16】
請求項12に記載の ポリアリーレンスルフィドを含む成形品。
【請求項17】
フィルム、シート、または繊維形態である、請求項16に記載の成形品。

【公表番号】特表2013−518933(P2013−518933A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551098(P2012−551098)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国際出願番号】PCT/KR2011/000667
【国際公開番号】WO2011/093685
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】