説明

ヨーレートのずれ検出装置

【課題】ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値のずれを正確に検出する。
【解決手段】自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ30と、自車両の前方の物体を検知する前方物体検知センサ31と、前方物体検知センサ31により検知された物体が固定物であるのかを認識する前方物体認識部10と、前方物体認識部10により認識された固定物が自車両に対してその横方向に相対的に移動する横移動量を測定する横移動量測定部12と、横移動量測定部12により測定された横移動量に基づいて、自車両のヨーレートを推定するヨーレート推定部13と、ヨーレートセンサ30により検出されたヨーレート検出値の、ヨーレート推定部13により推定された推定ヨーレート値からのずれを検出するずれ検出部14とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値のずれを検出するヨーレートのずれ検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ等の前方物体検知センサを用いて自車両の前方の先行車を検知するようにした先行車認識装置が従来技術として知られており、その検知した先行車に追従する追従制御等を行う。この先行車認識装置には、自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサの検出値と、自車両の車速を検出する車速センサの検出値とに基づいて、自車両の進行路を推定するものがある(例えば、特許文献1参照)。すなわち、このものでは、ヨーレートと車速とから自車両の旋回半径を算出し、この旋回半径を自車両の進行路の曲率半径であるとしている。そして、先行車に追従する追従制御を行っている場合、上記推定した進行路上に、上記検知した先行車が存在するか否かを判定して、その先行車が上記進行路上に存在していると判定したときには、そのまま追従制御を続行する一方、上記進行路上に存在しないと判定したときには、乗員が設定した目標車速で走行させる定速制御を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−161697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヨーレートセンサの検出値はヨーレートセンサの経時劣化や温度ドリフト、ノイズなどの影響を受けて変動するため、誤検出される場合がある。このため、追従制御を行っている場合、自車両の進行路を誤推定して、先行車が自車両の進行路に隣接する隣接路上に存在しているにも拘わらず、自車両の進行路上に存在していると誤判定する虞がある。
【0005】
ここで、自車両の停車中は、ヨーレートはゼロであるため、ヨーレートセンサのゼロ点補正は容易であるが、走行中は、ヨーレートは変動するため、ヨーレートセンサのゼロ点補正は困難である。
【0006】
そこで、自車両の走行中は、内外輪差からヨーレートを推定して、ヨーレートセンサの検出値の推定ヨーレート値からのずれを検出し、そのずれからヨーレートセンサの検出値を補正することが考えられる。
【0007】
しかしながら、車輪径は車輪の摩耗や空気圧、テンパータイヤなどの影響を受けて変動するため、ヨーレートセンサの検出値のずれを正確に検出することができないという課題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値のずれを正確に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、自車両の前方の物体を検知する前方物体検知センサと、上記前方物体検知センサにより検知された物体が固定物であるのかを認識する前方物体認識手段と、上記前方物体認識手段により認識された固定物が自車両に対して相対的に移動する移動軌跡を算出する移動軌跡算出手段と、上記移動軌跡算出手段により算出された移動軌跡に基づいて、自車両のヨーレートを推定するヨーレート推定手段と、上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値の、上記ヨーレート推定手段により推定された推定ヨーレート値からのずれを検出するずれ検出手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
これによれば、自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、自車両の前方の物体を検知する前方物体検知センサと、この前方物体検知センサにより検知された物体が固定物であるのかを認識する前方物体認識手段と、この前方物体認識手段により認識された固定物が自車両に対して相対的に移動する移動軌跡を算出する移動軌跡算出手段と、この移動軌跡算出手段により算出された横移動量に基づいて、自車両のヨーレートを推定するヨーレート推定手段と、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値の、ヨーレート推定手段により推定された推定ヨーレート値からのずれを検出するずれ検出手段とを備える。つまり、前方物体検知センサにより検知された多数の固定物の移動軌跡を用いることにより、ヨーレートを正確に推定することができ、ヨーレート検出値のずれを正確に検出することができる。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ずれ検出手段により検出されたずれに基づいて、上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値を補正するずれ補正手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0012】
これによれば、ずれ補正手段により、ずれ検出手段により検出されたヨーレート検出値のずれに基づいて、ヨーレート検出値を補正する。つまり、正確に検出されたヨーレート検出値のずれに基づいて、ヨーレート検出値を正確に補正することができる。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記ずれ補正手段は、上記ずれ検出手段により検出されたずれに対して増幅処理を行い、該増幅処理の結果に基づいて、上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値を補正することを特徴とするものである。
【0014】
これによれば、ずれ補正手段により、ずれ検出手段により検出されたヨーレート検出値のずれに対して増幅処理を行い、この増幅処理の結果に基づいて、ヨーレート検出値を補正するため、この補正量が異常値であることを早期に検出することができ、補正量を早期に学習することができる。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか1つの発明において、上記ずれ補正手段により補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、上記進行路推定手段により推定された自車両の進行路上に存在する、自車両の前方の先行車との車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両を該先行車に追従走行させる追従制御を行う追従制御手段とをさらに備えていることを特徴とするものである。
【0016】
これによれば、ずれ補正手段により補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、この進行路推定手段により推定された自車両の進行路上に存在する、自車両の前方の先行車との車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両を先行車に追従走行させる追従制御を行う追従制御手段とを備える。つまり、正確に補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両の進行路を正確に推定することができ、追従制御を正確に行うことができる。
【0017】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、上記追従制御手段による追従制御を制限する追従制御制限手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、ヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があるとして、追従制御手段による追従制御を制限する追従制御制限手段を備えるため、ヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があるときに、追従制御を制限することができる。
【0019】
第6の発明は、上記第4の発明において、上記ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、上記ヨーレートセンサ及び上記前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定する異常判定手段と、上記異常判定手段によりヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定されたときに、その旨を自車両の乗員に報知する警報手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0020】
これによれば、ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、ヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定する異常判定手段と、この異常判定手段によりヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定されたときに、その旨を自車両の乗員に報知する警報手段を備えるため、その乗員は、ヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定されたときには、その旨を知ることができる。
【0021】
第7の発明は、上記第4の発明において、イグニッションオンから上記ずれ補正手段によりヨーレート検出値が補正されるまで、上記追従制御手段による追従制御を制限する追従制御制限手段をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0022】
これによれば、追従制御制限手段により、イグニッションオンからずれ補正手段によりヨーレート検出値が補正されるまで、追従制御手段による追従制御を制限するため、誤ったヨーレート検出値に基づいて、自車両の進行路を推定することを抑制することができ、誤った追従制御を行うことを抑制することができる。
【0023】
第8の発明は、上記第1〜7のいずれか1つの発明において、上記前方物体検知センサは、レーダ又はカメラであることを特徴とするものである。
【0024】
これによれば、前方物体検知センサはレーダ又はカメラであるため、自車両の前方の物体を誤検知することを確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、検知精度の高い前方物体検知センサの検知結果に基づいて、ヨーレートを正確に推定することができ、ヨーレート検出値のずれを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るヨーレートのずれ検出装置を備える車両走行制御装置のブロック図である。
【図2】自車両が走行している様子を示す模式図である。
【図3】自車両が走行しているときに、固定物が自車両に対して相対的に移動する様子を説明する図であり、(a)は自車両が直進走行しているときの図、(b)は自車両が旋回走行しているときの図である。
【図4】自車両の求心加速度によって固定物が自車両に対してその横方向に相対的に移動する横移動量を説明する図である。
【図5】自車両の自転によって固定物が自車両に対してその横方向に相対的に移動する横移動量を説明する図であり、(a)は前方物体検知センサの検知周期一周期開始時における自車両を示す図、(b)はその一周期終了時における自車両を示す図である。
【図6】自車両の横滑り角によって固定物が自車両に対してその横方向に相対的に移動する横移動量を説明する図であり、(a)は前方物体検知センサの検知周期一周期開始時及び終了時における自車両を示す図、(b)は自車両の横滑り角を示す図である。
【図7】ヨーレート検出値の推定ヨーレート値からのずれの検出を説明する図であり、(a)はヨーレート検出値と推定ヨーレート値との関係を示すグラフ、(b)はヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値の数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値の数を引いた差を示す表である。
【図8】車両走行制御装置による車両走行制御を示すフローチャートである。
【図9】ヨーレートのずれ検出制御を示すフローチャートである。
【図10】ACC制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係るヨーレートのずれ検出装置を備える車両走行制御装置のブロック図を示す。符号1は、自車両Vの車速や先行車Wとの車間距離を自動的に制御するクルーズコントローラである(自車両Vと先行車Wは図2を参照)。このクルーズコントローラ1は、自車両Vに発生するヨーレートを検出するヨーレートセンサ30(図3も参照)、自車両Vの前方の物体を検知する前方物体検知センサ31(図3も参照)、及び自車両Vの車速を検出する車速センサ32等から信号が入力され、エンジンECU50及びDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)ユニット52を制御することによって、先行車Wが存在しない場合は目標車速での定速制御を行う一方、先行車Wが存在する場合にはその先行車Wとの車間距離が目標車間距離となるような追従制御を行うと共に、前方に障害物が存在する場合にはその障害物との衝突を回避するように衝突回避制御を行うACC制御を行う。
【0029】
前方物体検知センサ31は、スキャン式のミリ波レーダによって構成されている。このミリ波レーダは、自車両Vの前端部の車幅方向略中央位置においてその光軸が車両前方を向くように配設されていて、自車両Vの前方の所定範囲(図3の破線を参照)にミリ波を発信し、その反射波を受信することによって自車両Vの前方に物体が存在するか否かを検知することができる。また、前方物体検知センサ31は、自車両Vの前方の物体を複数個(例えば8個)、同時に検知することができる。
【0030】
尚、前方物体検知センサ31は、ミリ波レーダ以外であってもよく、レーザレーダや超音波レーダや赤外線レーダやカメラ等を採用することもできる。
【0031】
上記エンジンECU50は、主にエンジン(図示省略)を制御し、その機能の1つとしてスロットル51のスロットル開度を調節して自車両Vを加速させる。
【0032】
上記DSCユニット52は、急ハンドルや急カーブ走行時などに、自車両Vの安定した走行姿勢を確保するアクティブセーフティシステムであって、エンジン出力と4輪の各輪に別個に付与するブレーキ力とを統合的にコントロールすることにより、自車両Vの横滑りを抑制するものである。このDSCユニット52は、各輪に設けられたブレーキ装置にブレーキ圧を供給する液圧ユニット(Hydraulic Unit;以下HUという)53を制御することによってブレーキ力を調節して自車両Vを減速させる。
【0033】
上記クルーズコントローラ1は、上記前方物体検知センサ31の検知信号が入力される前方物体認識部10(前方物体認識手段)と、上記車速センサ32の検出信号が入力される車速認識部11と、横移動量測定部12(移動軌跡算出手段)と、ヨーレート推定部13(ヨーレート推定手段)と、上記ヨーレートセンサ30の検出信号が入力されるずれ検出部14(ずれ検出手段)と、ずれ補正部15(ずれ補正手段)と、進行路推定部16(進行路推定手段)と、車両走行制御部17(追従制御手段)と、ACC制御制限部18(追従制御制限手段)と、異常判定部19(異常判定手段)と、ゼロ点補正部20とを有する。
【0034】
前方物体認識部10は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きい(自車両Vが走行している)ときには、前方物体検知センサ31からの検知信号(検知結果)から自車両Vの前方に物体が存在するか否かを認識し、この認識された物体の自車両Vに対する相対速度から、その物体が固定物F(例えば電柱やガードレール等。図3等を参照)であるのか、移動物であるのかを認識する。例えば、認識された物体の自車両Vに対する相対速度が5km/h以下であるときには、その物体が固定物Fであると認識する。また、前方物体認識部10は、前方物体検知センサ31からの検知信号から自車両Vの前方に物体が存在するか否かを認識し、この結果から、進行路推定部16によって推定した自車両Vの進行路S(図2を参照)上に物体が存在するか否かを認識する。さらには、認識された物体の相対速度から、その物体が障害物であるのか、前方を走行する先行車Wであるのかを認識する。
【0035】
上記車速認識部11は、車速センサ32からの検出信号から車速を認識し、後述する定速制御において、この検出された検出車速と目標車速との車速偏差を算出する。
【0036】
上記横移動量測定部12は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きいときには、前方物体検知センサ31からの検知信号から、前方物体認識部10によって認識された固定物Fが自車両Vに対して相対的に移動する移動軌跡を算出し、この算出された移動軌跡から、その固定物Fが前方物体検知センサ31の検知周期(例えば100msec)一周期当たりに自車両Vに対してその横方向(幅方向)に相対的に移動する横移動量を、その検知周期毎に測定する。このとき、便宜上、左側に横移動する場合は正の符号を、右側に横移動する場合は負の符号を付するようにする(尚、正負の符号は逆であってもよい)。以下、この横移動量測定部12による固定物Fの横移動量の測定について図3を用いて詳細に説明する。図3は、自車両Vが走行しているときに、固定物Fが自車両Vに対して相対的に移動する様子を説明する図であり、(a)は自車両Vが直進走行しているときの図、(b)は自車両Vが旋回走行しているときの図である。つまり、図3では、自車両Vが固定されている基準の座標系に対して固定物Fが相対的に移動する様子を示している。
【0037】
図3(a)に示すように、自車両Vが直進走行しているときには、固定物Fは自車両Vに対してまっすぐ近付いてくる一方、図3(b)に示すように、自車両Vが旋回走行(図3(b)では右旋回走行。図4〜図6も同様)しているときには、固定物Fは自車両Vに対してその旋回方向とは反対方向に斜めに近付いてくる。よって、自車両Vが走行しているときに、前方物体検知センサ31によって固定物Fを観察することにより、自車両Vの旋回走行によるその固定物Fの自車両Vに対する相対的な横移動量を算出する。そして、前方物体認識部10によって認識された固定物Fがn個であるときには、そのn個分の固定物Fの横移動量を測定する。ここで、自車両Vの横方向とは、前方物体検知センサ31の検知周期一周期終了時における自車両Vの中心軸(正面軸)aの方向(車両前後方向)と直角な方向である。
【0038】
尚、横移動量測定部12は、自車両Vの中心軸方向に関する自車両Vから固定物Fまでの距離が所定距離よりも短いときには、自車両Vのヨーレートを正確に推定するため、その固定物Fの横移動量を測定しない。
【0039】
上記ヨーレート推定部13は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きいときには、横移動量測定部12によって測定された、固定物Fの横移動量から、自車両Vのヨーレートを推定する。以下、このヨーレート推定部13による自車両Vのヨーレートの推定について詳細に説明する。
【0040】
自車両Vが旋回走行しているときに、固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する要因として、自車両Vの求心加速度によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動すること、自車両Vの自転によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動すること、及び自車両Vの横滑り角によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動することがある。つまり、前方物体認識部10によって認識された固定物Fが前方物体検知センサ31の検知周期のある一周期の間に自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量をLM(m)、自車両Vの求心加速度によって固定物Fがその一周期の間に自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量をLM1(m)、自車両Vの自転によって固定物Fがその一周期の間に自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量をLM2(m)、自車両Vの横滑り角によって固定物Fがその一周期の間に自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量をLM3(m)とすると、LMは次の式で表される。
【0041】
LM=LM1+LM2+LM3…(1)
以下、自車両Vの求心加速度による固定物Fの自車両Vに対する相対的な横移動量LM1について図4を用いて詳細に説明する。図4は、自車両Vの求心加速度によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LM1を説明する図である。図4では、前方物体検知センサ31の検知周期一周期開始時における自車両Vを実線で、その一周期終了時における自車両Vを二点鎖線で表している(図6(a)も同様)。
【0042】
図4に示すように、自車両Vが旋回走行しているときには、その求心加速度によって自車両Vはその旋回方向に横移動するため、固定物Fは自車両Vに対してその旋回方向とは反対方向に相対的に横移動する。ここで、自車両Vの求心加速度をα(m/s)、前方物体検知センサ31の検知周期をt(s)、自車両Vの旋回半径をr(m)、自車両Vの車速をv(m/s)、自車両Vの推定ヨーレート値をω(rad/sec)とすると、LM1は次の式で表される。
LM1=1/2・α・t …(2)
【0043】
また、αは次の式で表される。
α=r・ω =v・ω…(3)
【0044】
式(2)に式(3)を代入すると、LM1は次の式で表される。
LM1=1/2・v・ω・t …(4)
【0045】
以下、自車両Vの自転による固定物Fの自車両Vに対する相対的な横移動量LM2について図5を用いて詳細に説明する。図5は、自車両Vの自転によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LM2を説明する図であり、(a)は前方物体検知センサ31の検知周期一周期開始時における自車両Vを示す図、(b)はその一周期終了時における自車両Vを示す図である。
【0046】
図5に示すように、自車両Vが旋回走行しているときには、自車両Vはその旋回方向に自転するため、固定物Fは自車両Vに対してその旋回方向とは反対方向に相対的に横移動する。ここで、前方物体検知センサ31の検知周期一周期開始時における、自車両Vの中心軸方向に関する自車両Vから固定物Fまでの距離をLd、自車両Vの自転によって該自車両Vがその一周期の間に回転する回転角度をθとすると、LM2は次の式で表される。
LM2=Ld・sinθ
【0047】
ここで、θ<<1であるため、
LM2=Ld・θ…(5)
【0048】
また、θは次の式で表される。
θ=ω・t…(6)
【0049】
式(5)に式(6)を代入すると、LM2は次の式で表される。
LM2=Ld・ω・t…(7)
【0050】
以下、自車両Vの横滑り角による固定物Fの自車両Vに対する相対的な横移動量LM3について図6を用いて詳細に説明する。図6は、自車両Vの横滑り角によって固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LM3を説明する図であり、(a)は前方物体検知センサ31の検知周期一周期開始時及び終了時における自車両Vを示す図、(b)は自車両Vの横滑り角を示す図である。
【0051】
図6に示すように、自車両Vが旋回走行しているときには、自車両Vの進行方向と自車両Vの中心軸方向は一致しない。そして、自車両Vの旋回姿勢は、その車速に応じて変化する。このため、固定物Fは自車両Vに対して相対的に横移動する。ここで、自車両Vの横滑り角をβ(rad)、この横滑り角を示す、自車両Vの中心軸方向に関する自車両Vの重心の、自車両Vの旋回中心からのずれ量をd(m)とすると、自車両Vは、前方物体検知センサ31の検知周期一周期の間にv・t(m)だけ進むため、LM3は次の式で表される。
LM3=v・t・sinβ
【0052】
ここで、β<<1であるため、
LM3=v・t・β…(8)
【0053】
また、βは次の式で表される。
β=tan(d/r)
【0054】
ここで、β<<1であるため、βは次の式で表される。
β=d/r…(9)
【0055】
式(8)に式(9)を代入すると、LM3は次の式で表される。
LM3=v・t・(d/r)…(10)
【0056】
また、v/rは次の式で表される。
v/r=ω…(11)
【0057】
式(10)に式(11)を代入すると、LM3は次の式で表される。
LM3=d・ω・t…(12)
【0058】
尚、dは、vを用いて次の式で表される。
d=a・v+b
【0059】
この定数aは、自車両Vの実際の走行データから予め決定される。定数bは、自車両Vの中心軸方向に関する自車両Vの重心と自車両Vの後輪の中心との距離であり、自車両Vの実際のデータから予め決定される。
【0060】
そして、式(1)に式(4)、式(7)及び式(12)を代入すると、LMは次の式で表される。
LM=1/2・v・ω・t+Ld・ω・t+d・ω・t…(13)
【0061】
この式(13)を変形すると、ωは次の式で表される。
ω=LM/(1/2・v・t+Ld・t+d・t)…(14)
【0062】
そして、式(14)の右辺の変数に実測値を代入することによって、自車両Vの推定ヨーレート値ωを算出する。
【0063】
以上のようにして、ヨーレート推定部13は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きいときには、横移動量測定部12によって測定された、固定物Fの横移動量LMから、自車両Vのヨーレートを推定する。そして、前方物体認識部10によって認識された固定物Fがn個であるときには、そのn個の固定物F分の推定ヨーレート値ωを算出する。
【0064】
尚、LM3はLM1、LM2と比べて微小であるため、LMは次の式で表されてもよい。
LM=LM1+LM2
【0065】
このとき、ωは次の式で表される。
ω=LM/(1/2・v・t+Ld・t)
【0066】
上記ずれ検出部14は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きいときには、ヨーレートセンサ30によって検出されたヨーレート検出値とヨーレート推定部13によって推定された推定ヨーレート値ωを比較し、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれを前方物体検知センサ31の検知周期毎に検出する。具体的には、前方物体認識部10によって認識された固定物Fがn個であるときには、ヨーレート検出値とそのn個の固定物F分の推定ヨーレート値ωを比較し、ヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値ωの数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値ωの数を引いた差gを算出する。
【0067】
ここで、図7は、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれの検出を説明する図であり、(a)はヨーレート検出値と推定ヨーレート値ωとの関係を示すグラフ、(b)はヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値ωの数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値ωの数を引いた差gを示す表である。図7(a)では、線分がヨーレート検出値を、白抜きの四角が推定ヨーレート値ωを示している。そして、図7の例では、前方物体検知センサ31の検知周期のある連続した四周期に検出された差gは「2」「−2」「−1」「5」となっている。
【0068】
尚、ヨーレート検出値のずれの検出はこれ以外であってもよく、例えば、n個の固定物F分の推定ヨーレート値ωを平均し、この平均された推定ヨーレート平均値とヨーレート検出値を比較し、ヨーレート検出値の推定ヨーレート平均値からのずれ量(誤差)を算出してもよい。
【0069】
上記ずれ補正部15は、車速認識部11によって認識された車速が0よりも大きいときには、ずれ検出部14によって検出された、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれから、ヨーレート検出値を前方物体検知センサ31の検知周期毎に補正し、この補正量(補正値)の学習制御を行う。具体的には、ヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値ωの数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値ωの数を引いた差gが正であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をプラス側に補正する一方、その差gが負であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をマイナス側に補正する。
【0070】
また、ずれ検出部14によってヨーレート検出値の推定ヨーレート平均値からのずれ量を算出した場合は、そのずれ量の絶対値が正であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をプラス側に補正する一方、そのずれ量の絶対値が負であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をマイナス側に補正する。
【0071】
尚、ずれ補正部15は、前方物体認識部10によって認識された固定物Fが多いほど、補正量を早期に学習し、検出ヨーレート値を正常値に早期に収束させることができる。
【0072】
上記進行路推定部16は、ずれ補正部15によって補正された補正ヨーレート値と車速認識部11によって認識された車速とから自車両Vのヨーレート旋回半径(例えば、ヨーレート旋回半径=車速/ヨーレート)を算出し、この算出されたヨーレート旋回半径によって自車両Vの進行路Sを推定する。
【0073】
上記車両走行制御部17は、進行路推定部16によって推定された自車両Vの進行路S上に存在する、自車両Vの前方の先行車Wとの車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両Vを先行車Wに追従走行させる追従制御を行うACC制御を行う。具体的には、車両走行制御部17は、自車両Vを加速させるべくアクセル制御を行う。このアクセル制御では、所望のエンジン出力が得られるように、車両走行制御部17が所定のアクセル制御量に応じたアクセル制御量信号をエンジンECU50に出力する。このアクセル制御量信号を受けたエンジンECU50は、アクセル制御量信号に応じて制御信号をスロットル51に出力して、所定のアクセル制御量に応じたスロットル開度となるようにスロットル51を制御する。所定のアクセル制御量は、追従制御及び定速制御毎にそれぞれ設定されている。
【0074】
また、車両走行制御部17は、自車両Vを減速させるべくブレーキ制御を行う。このブレーキ制御では、所望のブレーキ力が得られるように、車両走行制御部17が所定のブレーキ制御量に応じたブレーキ制御量信号をDSCユニット52に出力する。このブレーキ制御量信号を受けたDSCユニット52は、ブレーキ制御量信号に応じて制御信号をHU53に出力して、所定のブレーキ制御量に応じたブレーキ力が発生するようにHU53を制御する。所定のブレーキ制御量は、追従制御、定速制御及び衝突回避制御毎にそれぞれ設定されている。
【0075】
上記ACC制御制限部18は、ずれ補正部15による、ヨーレート検出値の補正量の絶対値が第1所定値(例えば3deg/sec)よりも大きいときには、車両走行制御部17によるACC制御を禁止する。
【0076】
また、ACC制御制限部18は、イグニッションオンからずれ補正部15によってヨーレート検出値が所定回数(例えば5000回)補正される、すなわち走行時学習が完了するまで、車両走行制御部17によるACC制御を縮退するとともに、作動信号を車内に設けられた警報装置54に出力する。この作動信号を受けた警報装置54は、車両走行制御部17によるACC制御を縮退した旨を自車両Vの運転者(乗員)に報知する。ここで、ACC制御の縮退とは、例えば、先行車Wとの目標車間距離を小さくすることによって、自車両Vの進行路Sに隣接する隣接路T上にある車両Xを先行車であると誤認識することを防止したり(隣接路Tと車両Xは図2を参照)、ブレーキ力を小さくすることによって、誤ったブレーキ制御を行ったときに、乗員に違和感を与えることを防止したりすることをいう。
【0077】
尚、ACC制御制限部18は、ヨーレート検出値の補正量の絶対値が第1所定値よりも大きいときには、ACC制御を縮退してもよい。また、ACC制御制限部18は、イグニッションオンからヨーレート検出値が所定回数補正されるまで、ACC制御を禁止してもよい。
【0078】
上記異常判定部19は、ずれ補正部15による、ヨーレート検出値の補正量の絶対値が上記第1所定値よりも大きいときには、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常がある(例えば、前方物体検知センサ31の光軸の向きが自車両1の軽衝突などの影響を受けて自車両Vの中心軸方向からずれている)と判定し、この判定結果に応じた作動信号を車内に設けられた警報装置54(警報手段)に出力する。この作動信号を受けた警報装置54は、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常がある旨を自車両Vの運転者に報知する。
【0079】
上記ゼロ点補正部20は、イグニッションオンで且つ、自車両Vが安定して停車しているときには、ヨーレートセンサ30のゼロ点のずれ(オフセット)を高速で補正する。ここで、「自車両Vが安定して停車している」ときとは、例えば、自車両Vが停車し且つ、自車両Vが駐車場のターンテーブルや船など不安定なものに乗っていないときをいう。
【0080】
以上の如く構成された車両走行制御装置は、前方物体検知センサ31及び前方物体認識部10によって自車両Vの前方の先行車Wを認識し、その車間距離が予め設定された目標車間距離となるように追従制御を行う。
【0081】
以下、車両走行制御装置による車両走行制御について図8のフローチャートを用いて説明する。
【0082】
始めに、ステップS1において、ヨーレートのずれ検出制御が行われ、続いて、ステップS2において、上記ずれ検出に基づいてACC制御が行われる。
【0083】
まずは、ステップS1におけるヨーレートのずれ検出制御について図9のフローチャートを用いて説明する。
【0084】
ヨーレートのずれ検出制御ルーチンでは、まずステップSA1においてイグニッションオンか否かを判定する。イグニションオンである場合(YES)にはステップSA2へ進む一方、イグニッションオフである場合(NO)はステップSA14へ進む。
【0085】
ステップSA2においては、車速認識部11によって認識された車速から、自車両Vが停車しているか否かを判定する。走行している場合(NO)にはステップSA3へ進む一方、停車している場合(YES)はステップSA10へ進む。
【0086】
ステップSA3においては、前方物体認識部10によって、前方物体検知センサ31からの検知信号から、自車両Vの前方に物体が存在するか否かを認識し、この認識された物体の自車両Vに対する相対速度から、その物体が固定物Fであるのか、移動物であるのかを認識する。
【0087】
続くステップSA4においては、横移動量測定部12によって、前方物体検知センサ31からの検知信号から、前方物体認識部10によって認識された固定物Fが前方物体検知センサ31の検知周期一周期当たりに自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LMを測定する。
【0088】
続くステップSA5においては、ヨーレート推定部13によって、横移動量測定部12によって測定された、固定物Fの横移動量LMから、自車両Vのヨーレートを推定する。具体的には、上記式(14)の右辺の変数に実測値を代入することによって、自車両Vの推定ヨーレート値ωを算出する。
【0089】
続くステップSA6においては、ずれ検出部14によって、ヨーレートセンサ30によって検出されたヨーレート検出値とヨーレート推定部13によって推定された推定ヨーレート値ωを比較し、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれを検出する。具体的には、前方物体認識部10によって認識された固定物Fがn個であるときには、ヨーレート検出値とそのn個の固定物F分の推定ヨーレート値ωを比較し、ヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値ωの数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値ωの数を引いた差gを算出する。
【0090】
続くステップSA7においては、ずれ補正部15によって、ずれ検出部14によって検出された、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれから、ヨーレート検出値を補正する。具体的には、上記差gが正であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をプラス側に補正する一方、差gが負であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をマイナス側に補正する。
【0091】
続くステップSA8においては、ずれ補正部15によるヨーレート検出値の補正回数が5000回以上になったか否かを判定する。5000回以上の場合(YES)にはステップSA9へ進む一方、5000回未満の場合(NO)はリターンへ進む。
【0092】
ステップSA9においては、走行時学習完了フラグをセットする。その後、リターンへ進む。
【0093】
また、ステップSA2で停車していると判定されて進んだステップSA10においては、自車両Vの停車状態を判定する。
【0094】
続くステップSA11においては、自車両Vが安定して停車しているか否かを判定する。安定して停車している場合(YES)にはステップSA12へ進む一方、不安定に停車している場合(NO)はリターンへ進む。
【0095】
ステップSA12においては、ゼロ点補正部20によってヨーレートセンサ30のゼロ点のずれを補正する。続くステップSA13においては、停車時学習完了フラグをセットする。その後、リターンへ進む。
【0096】
また、ステップSA1でイグニッションオフと判定されて進んだステップSA14においては、停車時学習完了フラグ及び走行時学習完了フラグをリセットする。その後、リターンへ進む。
【0097】
次に、ステップS2におけるACC制御について図10のフローチャートを用いて説明する。
【0098】
ACC制御ルーチンでは、まずステップSB1において、−3deg/sec≦ずれ補正部15による、ヨーレート検出値の補正量≦3deg/secを満たすか否かを判定する。つまり、ヨーレート検出値の補正量の絶対値が上記第1所定値以下であるか否かを判定する。満たす(第1所定値以下の)場合(YES)にはステップSB2へ進む一方、満たさない(第1所定値よりも大きい)場合(NO)はステップSB7へ進む。
【0099】
ステップSB2においては、−0.4deg/sec≦ずれ補正部15による、ヨーレート検出値の補正量≦0.4deg/secを満たすか否かを判定する。つまり、ヨーレート検出値の補正量の絶対値が第1所定値よりも小さい第2所定値以下であるか否かを判定する。満たす(第2所定値以下の)場合(YES)にはステップSB3へ進む一方、満たさない(第2所定値よりも大きい)場合(NO)はステップSB4へ進む。
【0100】
ステップSB3においては、停車時学習完了フラグから、停車時学習が完了しているか否かを判定する。完了していない場合(NO)にはステップSB4へ進む一方、完了している場合(YES)はSB5へ進む。
【0101】
ステップSB4においては、走行時学習完了フラグから、走行時学習が完了しているか否かを判定する。完了している場合(YES)にはステップSB5へ進む一方、完了していない場合(NO)はSB6へ進む。
【0102】
ステップSB5においては、車両走行制御部17によるACC制御を許可する。そして、ACCメインスイッチがオンされているときには、車両走行制御部17によってACC制御を行う。具体的には、進行路推定部16によって推定された自車両Vの進行路S上に存在する、自車両Vの前方の先行車Wとの車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両Vを先行車Wに追従走行させる追従制御を行う。その後、リターンへ進む。
【0103】
また、ステップSB4で走行時学習が完了していないと判定されて進んだステップSB6においては、ACC制御制限部18によって、車両走行制御部17によるACC制御を縮退するとともに、作動信号を警報装置54に出力することにより、この作動信号を受けた警報装置54によって、車両走行制御部17によるACC制御を縮退した旨を自車両Vの運転者に報知する。その後、リターンへ進む。
【0104】
また、ステップSB1でヨーレート検出値の補正量が−3deg/sec≦補正量≦3deg/secを満たさないと判定されて進んだステップSB7においては、ACC制御制限部18によって車両走行制御部17によるACC制御を禁止するとともに、異常判定部19によってヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があると判定し、この判定結果に応じた作動信号を警報装置54に出力することにより、この作動信号を受けた警報装置54によって、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常がある旨を自車両Vの運転者に報知する。その後、リターンへ進む。
【0105】
−効果−
以上より、本実施形態によれば、自車両Vのヨーレートを検出するヨーレートセンサ30と、自車両Vの前方の物体を検知する前方物体検知センサ31と、この前方物体検知センサ31により検知された物体が固定物Fであるのかを認識する前方物体認識部10と、この前方物体認識部10により認識された固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LMを測定する横移動量測定部12と、この横移動量測定部12により測定された横移動量LMに基づいて、自車両Vのヨーレートを推定するヨーレート推定部13と、ヨーレートセンサ30により検出されたヨーレート検出値の、ヨーレート推定部13により推定された推定ヨーレート値ωからのずれを検出するずれ検出部14とを備える。つまり、前方物体検知センサ31により検知された多数の固定物Fの横移動量LMを用いることにより、ヨーレートを正確に推定することができ、ヨーレート検出値のずれを正確に検出することができる。
【0106】
また、ずれ補正部15により、ずれ検出部14により検出されたヨーレート検出値のずれに基づいて、ヨーレート検出値を補正する。つまり、正確に検出されたヨーレート検出値のずれに基づいて、ヨーレート検出値を正確に補正することができる。
【0107】
さらに、ずれ補正部15により補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両Vの進行路Sを推定する進行路推定部16と、この進行路推定部16により推定された自車両Vの進行路S上に存在する、自車両Vの前方の先行車Wとの車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両Vを先行車Wに追従走行させる追従制御を行う車両走行制御部17とを備える。つまり、正確に補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両Vの進行路Sを正確に推定することができ、追従制御を正確に行うことができる。
【0108】
さらにまた、ずれ補正部15による補正量の絶対値が上記第1所定値よりも大きいときに、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があるとして、車両走行制御部17による追従制御を制限するACC制御制限部18を備えるため、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があるときに、追従制御を制限することができる。
【0109】
また、ずれ補正部15による補正量の絶対値が第1所定値よりも大きいときに、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があると判定する異常判定部19と、この異常判定部19によりヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があると判定されたときに、その旨を自車両Vの運転者に報知する警報装置54を備えるため、その運転者は、ヨーレートセンサ30及び前方物体検知センサ31の少なくとも一方に異常があると判定されたときには、その旨を知ることができる。
【0110】
さらに、ACC制御制限部18により、イグニッションオンからずれ補正部15によりヨーレート検出値が補正されるまで、車両走行制御部17による追従制御を制限するため、誤ったヨーレート検出値に基づいて、自車両Vの進行路Sを推定することを抑制することができ、誤った追従制御を行うことを抑制することができる。
【0111】
さらにまた、前方物体検知センサ31はレーダ又はカメラであるため、自車両Vの前方の物体を誤検知することを確実に抑制することができる。
【0112】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、横移動量測定部12は、前方物体認識部10によって認識された固定物Fが前方物体検知センサ31の検知周期一周期当たりに自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量LMを測定するが、その一周期以外の所定の単位時間当たりに移動する横移動量を測定してもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、固定物Fが自車両Vに対してその横方向に相対的に移動する横移動量を測定し、この横移動量から、自車両Vのヨーレートを推定しているが、これに限らず、例えば、固定物Fが自車両Vに対して相対的に移動する移動ベクトルを算出し、この移動ベクトルから、自車両Vのヨーレートを推定してもよい。
【0114】
さらに、ずれ補正部15は、ずれ検出部14によって検出された、ヨーレート検出値の推定ヨーレート値ωからのずれに対して増幅処理を行い、この増幅処理の結果から、ヨーレート検出値を補正してもよい。具体的には、ヨーレート検出値よりも大きい推定ヨーレート値ωの数から、ヨーレート検出値よりも小さい推定ヨーレート値ωの数を引いた差gを算出し(図7を参照)、この差gに1よりも大きい数(例えば5)を乗ずる。この乗算値が正であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をプラス側に補正する一方、その乗算値が負であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をマイナス側に補正する。また、ずれ検出部14によってヨーレート検出値の推定ヨーレート平均値からのずれ量を算出した場合は、そのずれ量に1よりも大きい数(例えば5)を乗ずる。この乗算値の絶対値が正であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をプラス側に補正する一方、その乗算値の絶対値が負であるときには、その絶対値の大きさに応じた補正量だけヨーレート検出値をマイナス側に補正する。これらによれば、ずれ補正部15により、ずれ検出部14により検出されたヨーレート検出値のずれに対して増幅処理を行い、この増幅処理の結果に基づいて、ヨーレート検出値を補正するため、この補正量が異常値であることを早期に検出することができ、補正量を早期に学習することができる。具体的には、ACC制御制限部18によるACC制御の禁止や異常判定部19による異常判定を早期に行うことができる。
【0115】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0116】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0117】
以上説明したように、本発明に係るヨーレートのずれ検出装置は、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値のずれを正確に検出することが必要な用途等に適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1 クルーズコントロール
10 前方物体認識部(前方物体認識手段)
12 横移動量測定部(移動軌跡算出手段)
13 ヨーレート推定部(ヨーレート推定手段)
14 ずれ検出部(ずれ検出手段)
15 ずれ補正部(ずれ補正手段)
16 進行路推定部(進行路推定手段)
17 車両走行制御部(追従制御手段)
18 ACC制御制限部(追従制御制限手段)
19 異常判定部(異常判定手段)
30 ヨーレートセンサ
31 前方物体検知センサ
54 警報装置(警報手段)
F 固定物
V 自車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、
自車両の前方の物体を検知する前方物体検知センサと、
上記前方物体検知センサにより検知された物体が固定物であるのかを認識する前方物体認識手段と、
上記前方物体認識手段により認識された固定物が自車両に対して相対的に移動する移動軌跡を算出する移動軌跡算出手段と、
上記移動軌跡算出手段により算出された移動軌跡に基づいて、自車両のヨーレートを推定するヨーレート推定手段と、
上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値の、上記ヨーレート推定手段により推定された推定ヨーレート値からのずれを検出するずれ検出手段とを備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記ずれ検出手段により検出されたずれに基づいて、上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値を補正するずれ補正手段をさらに備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項3】
請求項2記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記ずれ補正手段は、上記ずれ検出手段により検出されたずれに対して増幅処理を行い、該増幅処理の結果に基づいて、上記ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値を補正することを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記ずれ補正手段により補正された補正ヨーレート値に基づいて、自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、
上記進行路推定手段により推定された自車両の進行路上に存在する、自車両の前方の先行車との車間距離が所定の目標車間距離に維持されるようにアクセル制御又はブレーキ制御を行って自車両を該先行車に追従走行させる追従制御を行う追従制御手段とをさらに備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項5】
請求項4記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、上記追従制御手段による追従制御を制限する追従制御制限手段をさらに備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項6】
請求項4記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記ずれ補正手段による補正量の絶対値が所定値よりも大きいときに、上記ヨーレートセンサ及び上記前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定する異常判定手段と、
上記異常判定手段によりヨーレートセンサ及び前方物体検知センサの少なくとも一方に異常があると判定されたときに、その旨を自車両の乗員に報知する警報手段をさらに備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項7】
請求項4記載のヨーレートのずれ検出装置において、
イグニッションオンから上記ずれ補正手段によりヨーレート検出値が補正されるまで、上記追従制御手段による追従制御を制限する追従制御制限手段をさらに備えていることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のヨーレートのずれ検出装置において、
上記前方物体検知センサは、レーダ又はカメラであることを特徴とするヨーレートのずれ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−66777(P2012−66777A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215324(P2010−215324)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】