説明

ライニング用組成物及びその製造方法、ならびにそれを用いたライニング鋼管及びライニング施工方法

【課題】水分透過率が低く、且つ、耐摩耗性を向上させたポリエチレンを主とするライニングを形成可能なラインニング用組成物およびそのライニング施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ライニング用組成物は、直鎖低密度ポリエチレンと、直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤とを含む。また、ライニング用組成物の製造方法は、直鎖低密度ポリエチレンに、直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤と、を添加した混合物を、直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上の温度で、且つ、架橋剤の1時間半減期温度以下の温度で加熱して混練する工程と、混練した混合物を冷却固化して粉砕し、粉末とする工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング用組成物及びその製造方法、ならびにそれを用いたライニング鋼管及びライニング施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等のプラントでは、冷却用の配水管の腐食を防止するために配水管内面全体をライニングで覆う場合がある。
ライニング材としては、ポリオレフィンの一種であるポリエチレン(PE)が適用されることがある。PEは水分透過率が小さいことから、配管母材(多くは炭素鋼)の腐食防止に有効であることが知られている。
【0003】
ポレオレフィン全般に言えることであるが、PEは、通常分子間の結合(架橋)がなく、さらに分子の極性もほとんどないため分子間の引き合う力も弱い(分子同士が物理的に絡み合うことにより、分子を引き離す力に対して抵抗力はあるが弱い)ことなどに起因して、耐摩耗性についてはゴムなどに比較すると必ずしも優れた材料とは言えない。
PEの耐摩耗性を向上させるためには、分子間の結合を設けることが効果的である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4295216号公報(段落[0009])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、原子力発電プラントでは冷却用に海水が用いられ、冷却用の配水管内には、海水が供給される。配水管内には、海水の流量を調整するための弁が設けられているものがある。このような配水管では、弁を通過した海水の影響により、弁の下流側に施されたライニングにエロージョンが発生するという問題がある。現状、そのようなエロージョンが発生しやすい箇所には耐エロージョン性が相対的に高いとされるゴムライニングが適用される場合が多い。しかしながら、ゴムはPEと比較すると水分の透過性が高いため、腐食防止の観点からゴムライニングはPEライニングよりも劣るという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載のような架橋したPEは熱可塑性を示さないため、通常ライニング施工で行われる溶融成形加工ができなくなる。このような事情から、特許文献1では、PE管を予め成形しておき、それを鋼管に挿入して、鋼管内面に貼り付けてライニングを形成する。この2段階の加工を可能とする方法として、シランカップリング剤を適用した水架橋を採用している。
【0007】
成形加工性と架橋とを両立させた水架橋は有用な架橋手法であるが、水架橋に関わったシランがシリカとしてライニング内に残留するという問題がある。シリカは親水性が高いため、PEライニング内に残留するとPEライニングの低い水分透過性を損なう恐れがあり、配水管の防食を目的とするライニング材には好ましくない。
【0008】
他の架橋手法として、有機過酸化物をラジカル発生源として用いる過酸化物架橋が知られている。しかしながら、通常のライニング施工方法では、原料PEの粉体を加熱溶融して配管内面にライニング層を形成させるため、加熱によりラジカルを発生させる有機過酸化物が存在すると、ライニング層の成形中に架橋反応が進行してしまう。成形中に架橋反応が進行すると、PEの流動性が阻害され、均一なライニング層を形成させることが困難となる。また、成形中に架橋反応が進行すると、PE粉体の熱溶融が阻害され、PE粉体間の空気が抜けきらない。そのため、ライニング層の空孔率が高くなり、内部の流体が施工対象部材の表面に到達しやすくなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、水分透過率が低く、且つ、耐摩耗性を向上させたポリエチレンを主とするライニングを形成可能なラインニング用組成物およびそのライニング施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のライニング用組成物及びその製造方法、ならびにそれを用いたライニング鋼管及びライニング施工方法は以下の手段を採用する。
【0011】
本発明は、直鎖低密度ポリエチレンと、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤とを含むライニング用組成物を提供する。
【0012】
通常、架橋された直鎖低密度ポリエチレンは、溶融して加工することが難しいため、粉体溶融法によるライニング施工に適さない。上記発明によれば、ライニング用組成物は、重合禁止剤を含むため、ライニング施工前の直鎖低密度ポリエチレンは架橋しておらず、架橋剤を混合された状態で存在する。そのため、ライニング層を形成後に架橋反応を進めることができる。上記ライニング用組成物を所定温度で加熱すると、ライニング用組成物は熱溶融して母材(炭素鋼)表面上に成膜され密着する。重合禁止剤は、架橋剤の作用を所定期間抑制するため、所定期間後には直鎖低密度ポリエチレン分子同士が橋かけされ、3次元網目構造を形成させることができる。上記ライニング用組成物を用いて施工したライニングは、3次元網目構造が形成されるため、耐摩耗性が向上する。
【0013】
上記発明の一態様によれば、前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、前記架橋剤が0.5重量部以上10重量部以下、前記重合禁止剤が0.001重量部以上0.1重量部以下で、含有されることが好ましい。
【0014】
架橋剤を上記範囲で含有させることにより、所望の架橋度のライニングを形成することが可能となる。また、重合禁止剤を上記範囲で含有させることにより、所定時間架橋剤の作用を抑制しつつ、所定時間後には架橋剤の作用を発現させて直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【0015】
上記発明の一態様によれば、前記重合禁止剤がフェノール系化合物または多環芳香族構造を有する化合物のいずれかであることが好ましい。
【0016】
重合禁止剤として上記化合物を選択することで、所定期間中は架橋剤を発生源とするラジカルを補足しつつ、所定期間経過後は補足したラジカルを放出することもできる。これにより、架橋剤の含有量に依存して直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【0017】
上記発明の一態様において、前記直鎖低密度ポリエチレンがメタロセン触媒によって合成されることが好ましい。
【0018】
メタロセン触媒によって重合された直鎖低密度ポリエチレン(以下、メタロセンLLDPEと称す)は、側鎖の分岐が少なく、分子量の分布が狭いという特徴を有する。上記特徴により、メタロセンLLDPEは、他の触媒を用いて重合した直鎖低密度ポリエチレンよりも引張強度や伸びなどが向上する。よって、メタロセンLLDPEを架橋させることで、ライニングの耐摩耗性をより向上させることができる。
【0019】
また、本発明は、上記のいずれかに記載のライニング用組成物を用いて、内面にライニングを形成したライニング鋼管を提供する。
そのようなライニング鋼管は、3次元構造を有するライニングがより均一に形成されているため、水分透過率が低く、且つ、耐摩耗性に優れたものとなる。
【0020】
また、本発明は、直鎖低密度ポリエチレンに、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤と、を添加した混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上の温度で、且つ、前記架橋剤の1時間半減期温度以下の温度で加熱して混練する工程と、前記混練した混合物を冷却固化して粉砕し、粉末とする工程と、を含むライニング用組成物の製造方法を提供する。
【0021】
上記発明によれば、ライニング用組成物は、重合禁止剤を含むため、ライニング施工前の直鎖低密度ポリエチレンは架橋しておらず、架橋剤を混合された状態で存在させることができる。混合物の加熱は直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上で行うため、より均一に混練することが可能となる。また、混合物の加熱は架橋剤の1時間半減期温度以下ですばやく行い、また重合禁止剤が配合されているため、架橋反応の進行を抑制することが可能となる。上記ライニング用組成物をポリエチレンの融点以上の所定温度で加熱すると、ライニング用組成物は熱溶融して母材(炭素鋼)表面上に成膜され密着する。重合禁止剤は、架橋剤の作用を所定期間抑制するため、所定期間後には直鎖低密度ポリエチレン分子同士が橋かけされ、3次元網目構造を形成させることができる。上記ライニング用組成物を用いて施工したライニングは、3次元網目構造が形成されるため、耐摩耗性が向上する。
【0022】
上記発明の一態様において、前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、前記架橋剤を0.5重量部以上10重量部以下、前記重合禁止剤を0.001重量部以上0.1重量部以下、添加することが好ましい。
【0023】
架橋剤を上記範囲で含有させることにより、所望の架橋度のライニングを形成することが可能となる。また、重合禁止剤を上記範囲で含有させることにより、所定時間架橋剤の作用を抑制しつつ、所定時間後には架橋剤の作用を発現させて直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【0024】
上記発明の一態様によれば、前記重合禁止剤をフェノール系化合物または多環芳香族を有する化合物のいずれかとすることが好ましい。
【0025】
重合禁止剤として上記化合物を選択することで、所定期間中は架橋剤を発生源とするラジカルを補足しつつ、所定期間経過後は補足したラジカルを放出することもできる。これにより、架橋剤の含有量に依存して直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【0026】
また、本発明によれば、直鎖低密度ポリエチレンに、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤及び前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤を添加した混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上の温度で、且つ、前記架橋剤の1時間半減期温度以下の温度で加熱して混練した後、前記混合物を冷却固化して粉砕し、粉末を作製するライニング用組成物作製工程と、前記ライニング用組成物粉体に、前記直鎖低密度ポリエチレンの融点以上に加熱した施工対象部材を接触させ前記所定期間内にライニング層を形成するライニング層形成工程と、前記所定期間の後、前記架橋剤により直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させる架橋工程と、を備えたライニング施工方法を提供する。
【0027】
上記発明によれば、ライニング用組成物中(ライニング施工前)の直鎖低密度ポリエチレンは架橋しておらず、架橋剤を混合された状態で存在する。ライニング施工と同時に架橋剤は熱分解してラジカルを発生するが、重合禁止剤がラジカルを補足するため所定期間(誘導期間)中は架橋反応の進行を抑制する。重合禁止剤が消費されると、すなわち、誘導期間が終了すると、ラジカルによる架橋反応が進み、直鎖低密度ポリエチレンの分子同士が橋かけされ、3次元網目構造を形成させることができる。このように施工したライニングは、3次元網目構造が形成されるため、特に耐摩耗性が向上する。
【0028】
上記発明の一態様において、前記所定期間を、前記ライニング用組成物粉体を熱溶融させてライニング層を形成する際に、ライニング層の空孔率が5体積%以下になるまで前記直鎖低密度ポリエチレン分子同士の架橋を抑制できる期間に設定することが好ましい。
【0029】
空孔率を5体積%以下とすることで、ライニングの水分透過性を低く保持するとともに、ライニング施工対象部材の寿命を短縮させる懸念もなくなる。また、配管の耐久性の観点から空孔率は1体積%以下がより好ましい。
【0030】
上記発明の一態様において、前記ライニング用組成物作製工程において、前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、前記架橋剤を0.5重量部以上10重量部以下、前記重合禁止剤を0.001重量部以上0.1重量部以下、添加することが好ましい。
【0031】
架橋剤を上記範囲で含有させることにより、所望の架橋度のライニングを形成することが可能となる。また、重合禁止剤を上記範囲で含有させることにより、所定時間架橋剤の作用を抑制しつつ、所定時間後には架橋剤の作用を発現させて直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【0032】
上記発明の一態様において、前記重合禁止剤をフェノール系化合物または多環芳香族を有する化合物のいずれかとすることが好ましい。
【0033】
重合禁止剤として上記化合物を選択することで、所定期間中は架橋剤を発生源とするラジカルを補足しつつ、所定期間経過後は補足したラジカルを放出することもできる。これにより、架橋剤の含有量に依存して直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、直鎖低密度ポリエチレンに所定量の架橋剤及び重合禁止剤を含有させることで、水分透過率が低く、且つ、耐摩耗性を向上させたポリエチレンを主とするライニングを形成可能なラインニング用組成物とすることができる。このようなライニングを施工することで、施工対象部材の寿命を延長させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ライニング管の製作フロー概要を示す図である。
【図2】配水管の下地処理の概略構成図である。
【図3】配水管の加熱処理の概略構成図である。
【図4】ライニング層形成時の概略構成図である。
【図5】ライニング後に処理される配水管端面の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明に係るライニング用組成物及びその製造方法、ならびにそれを用いたライニング鋼管及びライニング施工方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るライニング用組成物は、ライニング施工前の中間材料であり、直鎖低密度ポリエチレン、架橋剤、及び重合禁止剤を含む。
【0037】
本実施形態における直鎖低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと称す)は、重合触媒を用いてα−オレフィンとエチレンとを共重合させたポリマーである。重合触媒は、メタロセン触媒またはチグラー触媒などとされる。重合触媒は、特に、メタロセン触媒が好ましい。メタロセン触媒は、二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせたもので、エチレンに対して高い重合活性を示し、さらに活性点が均一であるという特徴を有する。
【0038】
メタロセン触媒で合成したLLDPE(以下、メタロセンLLDPEと称する)は市販のものを適用することができる。例えば、メタロセンLLDPEは、「ハーモレックス」(日本ポリエチレン株式会社から入手可能)、「ユメリット」(宇部丸善ポリエチレン株式会社から入手可能)、「エリート」(ダウ・ケミカル日本株式会社から入手可能)などとされるが、これに限るものではない。
また、本実施形態におけるLLDPEはJIS K6922−1に則って測定したメルトフローレート(MFR)が1〜15g/10分であることが好ましい(さらに好ましくは、2〜10g/10分)。MFRがこれより低い場合、加熱溶融時の流動性が低いため均一な成膜がしにくく、また気泡が抜けにくいなどの課題がある。一方、MFRがこれより高いと、特にライニング層を厚くしたい部分で、いわゆる垂れが発生し、成膜厚さに制限ができるなどの課題がある。
【0039】
架橋剤は、LLDPEを架橋可能な有機過酸化物とされる。詳細には、架橋剤は、ジーイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(DBP)、2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキシン−3(25YB)、ジ−t−アミルパーオキサイド(DAM)などとされるが、これらに限るものではない。架橋剤は、LLDPEの融点よりも高い温度で熱分解することが好ましい。架橋剤の配合量は、LLDPE100重量部に対して通常0.5重量部以上10重量部以下が好ましい。架橋剤の配合量が0.5重量部未満では、架橋度が小さすぎて効果が発現しにくい。架橋剤の配合量が10重量部を越えると、架橋度が上がりすぎてライニングが脆くなる懸念がある。
ここで架橋剤の熱分解温度は1時間半減期温度とする。たとえば、ジーイソプロピルベンゼン ハイドロパーオキサイドの1時間半減期温度は172.8℃である。なお、LLDPEの融点は一般的には120〜130℃程度とされている。
【0040】
重合禁止剤は、架橋剤を発生源とするラジカルを補足可能な物質とされる。重合禁止剤は、フェノール系化合物及び多環芳香族系が好適であるが、これらに限るものではない。フェノール系化合物としては、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、4−tert−ブチルカテコール、4−メトキシフェノールなどが挙げられる。多環芳香族系としては、4−メトキシ−1−ナフトール、または川崎化成工業(株)製のキノパワーLSN、キノパワーATRなどが挙げられる。
【0041】
重合禁止剤の添加量は、LLDPEの種類、架橋剤の種類及び添加量などに応じて適宜設定する。重合禁止剤の添加量は、ライニング施工時に、粉体として供給されたライニング用組成物が熱溶融して良好な流動性を発現し、粉体間の空気が抜けてライニング層の空孔率が5体積%以下になるまでの間、架橋反応がほとんど進まないように設定すると良い。空孔率は、施工温度、施工時間及び粉体粒径などを適宜調整し、LLDPEのMFRを制御することにより5体積%以下とすることができる。よって、例えば、LLDPEの種類や溶融条件に応じて空孔率が5体積%以下となる時間を予め導き出し、上記溶融条件下においてその時間内に架橋剤から発生されるであろう量のラジカルを補足可能な量の重合禁止剤を添加すると良い。
【0042】
なお、本明細書において、この架橋がほとんど進まない時間帯を「誘導期間」と定義する。誘導期間は、架橋剤及び重合禁止剤の種類、架橋剤と重合禁止剤との配合比に影響される。
例えば、重合禁止剤として50ppm〜150ppmの濃度のヒドロキノンを用いた場合には、誘導期間は数分〜20分程度となる。例えば、重合禁止剤として50ppm〜150ppmの濃度の4−メトキシフェノールを用いた場合には、誘導期間は数分〜10分程度となる。例えば、重合禁止剤として50ppm〜150ppmの濃度の4−メトキシ−1−ナフトールを用いた場合には、誘導期間は数分〜60分程度となる。
【0043】
重合禁止剤は、例えばLLDPE100重量部に対して0.001重量部以上0.1重量部以下、好ましくはLLDPE100重量部に対して0.01重量部以上0.05重量部以下の範囲を目安として添加されると良いが、これらに限るものではない。
【0044】
ライニング用組成物は、必要に応じて、滑剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤などの添加材を添加しても良い。アンチブロッキング剤を添加すると、粉体の流動性及び取扱い性が向上する。ライニングの施工対象が配水管の外面である場合には、紫外線吸収剤の添加が有用である。帯電防止剤を添加すると、ライニング用組成物(粉体)としての取扱い性が改良される。また、接着性向上のために樹脂など、例えば接着性PEまたは架橋PEなどを添加しても良い。
【0045】
次に、本実施形態に係るライニング用組成物の製造方法及びライニング施工方法について説明する。本実施形態に係るライニング用組成物の製造方法では、架橋剤を含むが、LLDPE間は架橋していないライニング用組成物を作製することを特徴とする。一方、本実施形態に係るライニング施工方法は、施工対象部材の表面にライニング層を形成した後、ライニング層に含まれるLLDPE間を架橋させることを特徴とする。
【0046】
(ライニング用組成物作製工程)
LLDPE粉体を加熱して熱溶融させながら架橋剤及び重合禁止剤を添加し、さらに必要に応じて任意の添加剤を加えて均一に混練する。加熱温度はLLDPEの軟化点以上、架橋剤の1時間半減期温度以下の温度とすると良い。LLDPEの軟化点(ビカット軟化点)は、100℃〜120℃である。
【0047】
混練した混合物は、冷却固化させて再び粉砕し粉体にする。粉砕方法は熱可塑性樹脂の粉砕に用いられる方法であればよく、例えば、冷凍粉砕法あるいは冷却粉砕法などがあるが、これに限るものではない。冷凍粉砕する場合は、液体窒素(−196℃)、またはドライアイス(−78℃)でライニング用組成物の混合物を冷却した後、粉砕機で粉砕する。
【0048】
上記工程で得られたライニング用組成物の粉体では、LLDPEは実質的に未架橋状態で架橋剤と均一混合されている。また、上記工程で得られたライニング用組成物粉体は、1粒子にLLDPE、架橋剤及び重合禁止剤などが均一混合した状態の粉体となる。これによって、施工対象部材上でLLDPE及び架橋剤が偏在することを抑制できる。
【0049】
以降、金属製配水管内面に工業的にライニング施工する方法を例にあげて説明する。図1に、ライニング鋼管の製作フロー概要を示す。図2に、配水管の下地処理の概略構成図を示す。図3に、配水管の加熱処理の概略構成図を示す。図4にライニング層形成時の概略構成図を示す。図4(a)は配水管が樹脂容器上にある状態、図4(b)は配水管が樹脂容器下にある状態を示す。図5に、ライニング後に処理される配水管端面の概略構成図を示す。
【0050】
まず、配水管を受け入れ、外観検査を行う。詳細には、割れ、変形、及び溶接部の内面に突起など有害なものがないことを目視し、配水管のライニング施工が可能であることを確認する。
【0051】
次に、配水管に下地処理を行う。下地処理は、スチールグリッドによるブラスト処理などとされる。下地処理後、圧縮空気で下地処理面の清掃を行い、下地処理面の検査を行う。また、下地処理後12時間以内にライニング処理を行う。
【0052】
(ライニング層形成工程及び架橋工程)
本実施形態に係るライニング施工方法では、施工対象部材の表面にライニング層を形成させた後、ライニング層中のLLDPEを架橋させてライニングとする。ライニング層とは、施工対象部材の表面上を被覆するが、実質的にLLDPEが架橋していない状態の膜を指す。また、ライニングは、架橋工程後に施工対象部材表面上に形成された膜を指す。
【0053】
ライニング施工は、粉体成形法で行われることが好ましい。詳細には、下地処理した配水管1を、電気炉2に入れて加熱する。加熱温度は、LLDPEを溶融可能な温度とされ、好ましくは150℃以上300℃以下、更に好ましくは160℃以上280℃以下とされ、所定時間この温度は維持される。
【0054】
上記温度範囲では、架橋剤は熱分解しラジカルを発生するが、ライニング用組成物には重合禁止剤が所定量添加されているため、設定された誘導期間中は架橋反応が抑制される(ライニング層形成工程)。
【0055】
ライニング用組成物の粉体は熱溶融して良好な流動性を示すため、粉体間の空気が気相側表面(配管に接する面の反対の面)から抜けることができる。これにより、配管内面に空孔の少ない、あるいは空孔がほとんどないライニング層を形成することができる。ライニングの空孔率は5体積%以下、好ましくは1体積%以下とされる。
【0056】
ライニングに空孔が存在すると海水が母材へと浸透しやすくなる。そのため、ライニング用組成物粉体は、熱溶融されて流動しながら粉体間の空気を気泡としてできるだけ含まずにライニング層を形成することが重要である。空孔率が5体積%より多いと海水浸透により母材が腐食し、配管の寿命を短縮させるという問題が無視できなくなる。また、配管の耐久性の観点から空孔率は1体積%以下がより好ましい。
【0057】
また、温度が高すぎると、後の工程で配水管内面にライニング層を形成する際に、LLDPEと配水管(母材)界面に気泡が発生する、あるいは、ライニング層形成前に架橋が進みすぎて均一な厚さのライニング層が形成しにくいなどの不具合が発生する懸念がある。
【0058】
また、上記温度が低すぎると、LLDPE粉体の溶融不足で一部が粉体状態のままでライニン層に残留する、あるいは、粉体粒子間に含まれる気泡が抜け切らずライニング層中に残るなどにより、均一な連続層のライニング層が形成できない懸念がある。
【0059】
加熱した配水管が規定温度であることを、非接触式温度計や温度チョークなどで確認する。配水管が規定温度に達した配水管を、樹脂容器3に取付ける。必要に応じて、樹脂容器と反対側の配水管開口部には蓋を取り付ける。所定量のライニング用組成物粉体4を樹脂容器内に投入した後、配水管と樹脂容器を一体としてたとえば樹脂容器を中心に配水管をほぼ半径とする円を描くように回転させ、また配水管軸を中心に配水管を回転させながら配水管内面にライニング層を形成する。樹脂投入量、配水管保持温度、及び回転数は、ライニング目標膜厚、配水管の口径・寸法・形状などに応じて適宜設定される。
【0060】
誘導期間を過ぎると重合禁止剤が消費されるため、架橋剤の作用が現われて、LLPDE分子間の架橋反応が開始される(架橋工程)。架橋工程の間、配水管は、架橋反応が終了するまでの所定時間上記規定温度を維持したまま、気流中に保持される。
【0061】
ライニング用組成物粉体の粒子が完全に溶融し、均一なライニングが形成されたら、自然放冷などで表面に光沢がでるまで冷却する。
最後に、フランジ面外周5のバリ取り、フランジガスケット接触面6の平面出しなどを行い、端面を仕上げる。
【0062】
ゴムライニングでは、市販の架橋したゴムを溶融させ、配水管に塗りつけてライニングすることができるが、架橋したPEは溶融加工できないため、配水管内に施工することが難しい。本実施形態に係るライニング施工方法によれば、ライニング用組成物に重合禁止剤が含まれているため、誘導期間中は架橋反応が進行しない。これにより、ライニング層をより均一に形成させることができる。誘導期間終了後は、架橋反応が開始するため、LLDPEを溶融させてライニング層を形成しつつ、架橋反応を進めることで、架橋したLLDPEをライニングすることが可能となる。
【0063】
(実施例1)
LLDPEは、メタロセンLLDPE(粉体)を用いた。架橋剤はジクミルパーオキサイドとし、LLDPE100重量部に対して3重量部添加した。重合禁止剤は4−メトキシ−1−ナフトールとし、LLDPE100重量部に対して0.015重量部添加した。メタロセンLLDPEに架橋剤及び重合禁止剤を添加し、ロールミルで混練した後、液体窒素にて混合物を冷却固化させ、再び粉砕し、粉末とした。
上記で作製したライニング用組成物の粉体を容器内に充填し、該組成物粉体を流動させた。次に、予め250℃に加熱した鋼板(厚さ:10mm)を、流動するライニング用組成物粉体中に30秒間投入して、厚さ約2mmのライニング層を形成した。更に、250℃にて5分間保持した後、徐冷し、試験片を作製した。
【0064】
(実施例2)
LLDPEとしてチグラー触媒を用いて合成したチグラーLLDPEを用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0065】
(比較例1)
メタロセンLLDPEに重合禁止剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0066】
(比較例2)
メタロセンLLDPEに架橋剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0067】
実施例1〜実施例2、及び比較例1〜比較例2の試験片について、JIS K 7204「プラスチック摩耗輪による摩耗試験方法」に則って耐摩耗性試験を行った。また、ライニング中の空孔率を測定した。空孔率は任意の数箇所のライニング断面写真を撮影し、(画像中の空孔部分の総面積/画像中のライニング断面の面積)×100として求めた。
上記試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0068】
重合禁止剤が添加されていない比較例1では、ライニング用組成物の粉体形状を留めた状態で成膜されており、ライニング中の空孔率は12体積%であった。また、ライニングの厚さも場所によりばらつきが大きかった。上記結果から、重合禁止剤を添加しない場合、施工初期に重合反応が起こり、加熱環境下においてPEの流動性が阻害されるため、空孔率5体積%以下の均一なライニングを形成できないことがわかった。
【0069】
架橋剤及び重合禁止剤が含まれたライニング用組成物を用いた実施例1及び実施例2では、比較例2よりも摩耗量が少なかった。これにより、LLDPEに架橋剤及び重合禁止剤を添加し、LLDPEを誘導期間後に架橋させることで耐摩耗性を向上させることができることがわかった。これによって、ライニング施工された配水管の寿命を延ばすことができることが示唆された。
【0070】
実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1の方が摩耗量は少なかった。これにより、チグラー触媒を用いて合成したLLDPEよりもメタロセン触媒を用いて合成したLLDPEの方がより耐摩耗性効果を向上できることがわかった。
【符号の説明】
【0071】
1 配水管
2 加熱炉(電気炉)
3 樹脂容器
4 ライニング用組成物(粉体)
5 フランジ面外周
6 フランジガスケット接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖低密度ポリエチレンと、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤とを含むライニング用組成物。
【請求項2】
前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、
前記架橋剤が0.5重量部以上10重量部以下、
前記重合禁止剤が0.001重量部以上0.1重量部以下、
で、含有される請求項1に記載のライニング用組成物。
【請求項3】
前記重合禁止剤がフェノール系化合物または多環芳香族構造を有する化合物のいずれかである請求項1または請求項2に記載のライニング用組成物。
【請求項4】
前記直鎖低密度ポリエチレンがメタロセン触媒によって合成された請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のライニング用組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のライニング用組成物を用いて、内面にライニングを形成したライニング鋼管。
【請求項6】
直鎖低密度ポリエチレンに、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤と、前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤と、を添加した混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上の温度で、且つ、前記架橋剤の1時間半減期温度以下の温度で加熱して混練する工程と、
前記混練した混合物を冷却固化して粉砕し、粉末とする工程と、
を含むライニング用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、
前記架橋剤を0.5重量部以上10重量部以下、
前記重合禁止剤を0.001重量部以上0.1重量部以下、
添加する請求項6に記載のライニング用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記重合禁止剤をフェノール系化合物または多環芳香族を有する化合物のいずれかとする請求項6または請求項7に記載のライニング用組成物の製造方法。
【請求項9】
直鎖低密度ポリエチレンに、前記直鎖低密度ポリエチレンを架橋可能な架橋剤及び前記架橋剤の作用を所定期間抑制可能な重合禁止剤を添加した混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの軟化点以上の温度で、且つ、前記架橋剤の1時間半減期温度以下の温度で加熱して混練した後、前記混合物を冷却固化して粉砕し、粉末を作製するライニング用組成物作製工程と、
前記ライニング用組成物粉体に、前記直鎖低密度ポリエチレンの融点以上に加熱した施工対象部材を接触させ前記所定期間内にライニング層を形成するライニング層形成工程と、
前記所定期間の後、前記架橋剤により直鎖低密度ポリエチレン分子同士を架橋させる架橋工程と、
を備えたライニング施工方法。
【請求項10】
前記所定期間を、前記ライニング用組成物粉体を熱溶融させてライニング層を形成する際に、ライニング層の空孔率が5体積%以下になるまで前記直鎖低密度ポリエチレン分子同士の架橋を抑制できる期間に設定する請求項9に記載のライニング施工方法。
【請求項11】
前記ライニング用組成物作製工程において、
前記直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対して、
前記架橋剤を0.5重量部以上10重量部以下、
前記重合禁止剤を0.001重量部以上0.1重量部以下、
添加する請求項10に記載のライニング施工方法。
【請求項12】
前記重合禁止剤をフェノール系化合物または多環芳香族を有する化合物のいずれかとする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載のライニング施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107958(P2013−107958A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252824(P2011−252824)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】