説明

ライニング用組成物及びライニング施工方法

【課題】水分遮断性、化学的安定性が基本的に優れるPEをベースとして、さらに耐エロージョン性を向上させたポリエチレンライニングの組成および施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ライニング用組成物は、直鎖低密度ポリエチレンと、ポリスチレンからなるハードブロック、及び、ポリオレフィン構造を有するエラストマーブロックから構成され、ハードブロックのガラス転移温度Tg以下でハードブロックを疑似架橋点としてエラストマーブロックが擬似架橋し、且つ、Tgより高い温度で流動性を示す擬似架橋型の熱可塑性エラストマーと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング用組成物及びライニング施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等のプラントでは、冷却用の配水管の腐食を防止するために配水管内面全体をライニングで覆う場合がある。
ライニング材としては、ポリオレフィン、特にポリエチレン(PE)が適用されている。PEは水分透過率が小さいことから、配管母材(多くは炭素鋼)の腐食防止に有効であることが知られている。特に、直鎖低密度PE(LLDPE)は分岐鎖が少ない分子構造により分子間の隙間が少ない。すなわち、LLDPEは、分子が比較的密にパッキングされているため、分岐鎖が相対的に多い低密度PE(LDPE)よりも水分透過しにくい。よって、近年、ライニング材としてLLDPEが適用されることが多い。
【0003】
ポレオレフィン全般に言えることであるが、PEには極性を有する官能基がないため分子間の引き合う力も弱い(分子同士が物理的に絡み合うことにより、分子を引き離す力に対して抵抗力はあるが弱い)ことなどに起因して、耐摩耗性についてはゴムなどに比較すると必ずしも優れた材料とは言えない。
【0004】
PEの機械的特性を向上させたものとして、メタロセン触媒を用いて合成したPE(以下、メタロセンPEと表記)などが知られている。メタロセンPEは、従来のチグラー触媒を使用して合成したPEと比較するとPE分子量分布がシャープであるという特徴があり、結果としてPEの機械的特性(引張強度や伸びなど)が向上する傾向がある。
【0005】
また、PEの機械的特性を向上させたものとして、架橋PEを用いることがある。
架橋PEは、有機過酸化物などの架橋剤によりPEを架橋させて得られるものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−12101号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷却用の配水管内には、配水管内を流れる海水の流量を調整するための弁が設けられているものがある。弁の下流側にはライニングが配設されているが、該弁を通過した海水の影響により、ライニングにキャビテーションエロージョンが発生する問題がある。上記の理由からキャビテーションエロージョンが発生しやすい箇所にはゴムライニングが適用される場合が多い。
【0008】
従って、PEにゴム弾性を付与することで耐エロージョン性を向上させられる可能性がある。PEのような熱可塑性樹脂にゴム弾性を付与する方法として、例えばゴムなどのエラストマー微粒子を樹脂中に分散させる方法がある。このような熱可塑性樹脂にエラストマーを添加してゴム弾性を発現させたものを熱可塑性エラストマーと呼ぶが、熱可塑性樹脂とエラストマーは(分子レベルで)均一に混合できないため、海島構造になりやすい。またエラストマー微粒子を分散させるために分散剤を使用すると、熱可塑性樹脂とエラストマー微粒子の界面に分散剤が濃縮され、分散剤は界面活性剤であり親水基を有することから、界面が水の浸入経路となりやすいという懸念がある。
【0009】
特許文献1では、架橋剤として使用する有機過酸化物が配管内部の流体(水道水)に溶出するのを抑制するために熱可塑性エラストマーを添加している。しかしながら、配管の寿命、とりわけエロージョンに対する耐性について言及されておらず、熱可塑性エラストマーを添加した架橋PEをライニング材としてキャビテーションエロージョンが発生しやすい箇所に使用した場合の効果は不明である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、水分遮断性、化学的安定性が基本的に優れるPEをベースとして、さらに耐エロージョン性を向上させたポリエチレンライニングの組成および施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のライニング用組成物及びライニング施工方法は以下の手段を採用する。
【0012】
本発明は、直鎖低密度ポリエチレンと、ハードブロック、及び、エラストマーブロックから構成され、前記ハードブロックのガラス転移温度Tg以下で前記ハードブロックを疑似架橋点として前記エラストマーブロックが擬似架橋し、且つ、前記Tgより高い温度で流動性を示す擬似架橋型の熱可塑性エラストマーと、を含むライニング用組成物を提供する。
【0013】
上記発明によれば、ライニング用組成物に擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを含有させることにより、ハードブロックのガラス転移温度Tg以下ではエラストマーブロックが擬似架橋し、ゴム的性質を示す。それにより、ライニング施工した後のライニング層の耐キャビテーション壊食性を向上させることができる組成物となる。また、ライニング用組成物は、ハードブロックのTgを超える温度において擬似架橋が外れるため、加熱により熱可塑性樹脂としての流動性を示すことができる。これにより、ライニング施工時により均一にライニング層を形成することが可能となる。
【0014】
またハードブロックのTgを超える温度において擬似架橋が外れ熱可塑性樹脂と均一に混合できるため、海島構造にならないという特徴がある。さらに、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーのソフトブロックをポリオレフィン構造とすることで、直鎖低密度ポリエチレンとの相溶性を高くすることができる。これにより、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーと直鎖低密度ポリエチレンとをより均一に混合できるようになる。
【0015】
上記発明の一態様において、前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量が、5重量%以上60重量%以下とされることが好ましい。
【0016】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量を上記範囲内とすることで、直鎖低密度ポリエチレンの水遮蔽特性及び化学的安定性を損なくことなく、ライニング層を形成した時に所望のエラストマー特性を得ることができる。
【0017】
上記発明の一態様において、前記ハードブロックの前記Tgが、前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以下であり、且つ、施工対象部材の使用温度Tuよりも高いことが好ましい。
【0018】
Tu<Tg≦Tmの関係を満たすことで、ライニング施工時には流動性を有し、施工対象部材の使用時には所望のエラストマー特性を示すライニング用組成物となる。そのようなTgを有するハードブロックの組成としてはポリスチレンが好適である。
【0019】
上記発明の一態様において、前記直鎖低密度ポリエチレンが、メタロセン触媒によって合成されることが好ましい。
【0020】
メタロセン触媒によって重合された直鎖低密度ポリエチレン(以下、メタロセンLLDPEと称す)は、側鎖の分岐が少なく、分子量の分布が狭いという特徴を有する。上記特徴により、メタロセンLLDPEは、他の触媒を用いて重合した直鎖低密度ポリエチレンよりも引張強度や伸びなどが向上する。このようなメタロセンLLDPEを用いることで、ライニング層の経時による機械的特性低下を抑制することが可能となる。
【0021】
また、本発明は、第1温度に加熱した施工対象部材を、直鎖低密度ポリエチレンの粉体、及び、ポリスチレンからなるハードブロック及びポリオレフィン構造のエラストマーブロックから構成され、前記ハードブロックのガラス転移温度Tg未満で前記ハードブロックを擬似架橋点として擬似架橋し、前記Tg以上で流動性を示す擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを含むライニング用組成物と接触させて、前記施工対象部材の表面にライニング層を形成するライニング層形成工程と、前記ライニング層形成工程の後、前記施工対象部材の温度を第2温度まで低下させる工程と、を備えるライニング施工方法を提供する。
【0022】
ライニング用組成物に含まれる擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、第1温度で加熱されることにより擬似架橋が外れて流動性を得ることができる。それによって、より均一なライニング層を形成することができる。また、施工対象部材の温度を第2温度まで低下させることで、ライニング層は所望のエラストマー特性を得ることができる。第2温度は、ハードブロックのガラス転移温度Tg未満であることが好ましい。
【0023】
上記発明の一態様において、前記直鎖低密度ポリエチレン及び前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを含む混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以上の温度で加熱しながら混練した後、粉砕してライニング用組成物の粉体を作製するライニング用組成物作製工程をさらに備えることが好ましい。
【0024】
直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以上の温度で加熱することで、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーにおいてエラストマーブロックの架橋が外れる。それにより、直鎖低密度ポリエチレンと擬似架橋型の熱可塑性エラストマーとをより均一に混合することが可能となる。粉砕されたライニング用組成物の粉体には、直鎖低密度ポリエチレン及び擬似架橋型の熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0025】
上記発明の一態様において、前記ライニング用組成物中の前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量を、5重量%以上60重量%以下とすることが好ましい。
【0026】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量を上記範囲内とすることで、直鎖低密度ポリエチレンの水遮蔽特性及び化学的安定性を損なくことなく、所望のエラストマー特性を有するライニング層を形成することができる。
【0027】
上記発明の一態様において、前記第1温度を前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以上とし、前記第2温度を前記ハードブロックのガラス転移温度Tg未満とすることが好ましい。
【0028】
それにより、ライニング施工時にはより均一なライニング層を形成することができるとともに、被施工部材の使用時には所望のエラストマー特性を有するライニング層を形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを加えることで、水分遮断性、化学的安定性に優れ、且つ、耐エロージョン性を向上させたポリエチレンライニングを形成可能なライニング用組成物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】冷凍粉砕機の概略図である。
【図2】配水管の下地処理の概略構成図である。
【図3】配水管の加熱処理の概略構成図である。
【図4】ライニング層形成時の概略構成図である。
【図5】ライニング後に処理される配水管端面の概略構成図である。
【図6】壊食試験に用いる治具の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係るライニング用組成物及びそれを用いたライニング施工方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るライニング用組成物は、ライニング施工前の中間材料であり、直鎖低密度ポリエチレンと擬似架橋型の熱可塑性エラストマーとを含む。
【0032】
直鎖低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと称す)は、重合触媒を用いてα−オレフィンとエチレンとを共重合させたポリマーである。重合触媒は、メタロセン触媒またはチグラー触媒などとされる。重合触媒は、ポリエチレンの引張強度及び伸びなどの機械特性の観点から、特に、メタロセン触媒が好ましい。メタロセン触媒は、二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせたもので、エチレンに対して高い重合活性を示し、さらに活性点が均一であるという特徴を有する。
【0033】
メタロセン触媒で合成したLLDPE(以下、メタロセンLLDPEと称する)は市販のものを適用することができる。例えば、メタロセンLLDPEは、「ハーモレックス」(日本ポリエチレン株式会社から入手可能)、「ユメリット」(宇部丸善ポリエチレン株式会社から入手可能)、「エリート」(ダウ・ケミカル日本株式会社から入手可能)などとされるが、これに限るものではない。
【0034】
また、本実施形態におけるLLDPEはJIS K6922−1に則って測定したメルトフローレート(MFR)が1〜15g/10分であることが好ましい(さらに好ましくは、2〜10g/10分)。MFRがこれより低い場合、加熱溶融時の流動性が低いため均一な成膜がしにくく、また気泡が抜けにくいなどの課題がある。一方、MFRがこれより高いと、特にライニング層を厚くしたい部分で、いわゆる垂れが発生し、成膜厚さに制限ができるなどの課題がある。
【0035】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、ハードブロックと、エラストマーブロックとから構成されている。
【0036】
ハードブロックは、ポリスチレンからなるのが好適であるが、これに限るものではない。ハードブロックは、エラストマーブロックの両端部に結合されている。
【0037】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンを10重量%〜60重量%、好ましくは15重量%〜40重量%含有するのが適正である。ポリスチレンが少なすぎると、擬似架橋点が少なくなり、ゴム的性質が発現しにくくなる。一方、ポリスチレンが多すぎると、エラストマーブロックが少なくなるため擬似架橋してもゴム的性質が弱くなる。
【0038】
エラストマーブロックはポリオレフィン構造を含む。ポリオレフィン構造とは、−CH−CH−(エチレン)の鎖からなる分子構造を指す。LLDPEはエチレンの鎖からなる分子構造を有するため、少なくともエチレンを含むポリオレフィン構造を有するエラストマーブロックは、LLDPEに添加した際に、LLDPEとの相溶性に優れたものとなる。さらに好ましいポリオレフィン構造はポリ(エチレン/プロピレン)ブロックあるいはポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロックである。
【0039】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンのガラス転移温度Tgを境にして、ゴム的性質と熱可塑性の間で特性が可逆的に変化する特性を有する。
詳細には、ポリスチレンからなるハードブロックは、ポリスチレンのガラス転移温度Tg(100℃程度)以下では擬似架橋点として作用する。すなわち、エラストマーブロックがハードブロックで擬似架橋される。これにより、熱可塑性エラストマーはゴム的性質(エラストマー特性)を発現することができる。
【0040】
一方、ポリスチレンのTgを超える温度では、ハードブロックの擬似架橋が外れて分子が溶融するため、熱可塑性エラストマーは熱可塑性樹脂としての流動性を示す。上記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの特性は、他の熱可塑性樹脂と混合した場合も維持され得る。
【0041】
「擬似架橋」とは、高分子分野では一般的に使用されている用語である。本発明の熱可塑性エラストマーを構成するハードブロック(=ポリスチレン部分、1つの分子の一方の端、または両端にポリスチレン部分がある)とエラストマーブロック(ポリオレフィン構造)は相溶性が低い。そのため、加熱溶融状態から冷却して固化させる過程で、ハードブロックとエラストマーブロックにミクロ相分離していく。すなわち、ハードブロックを構成するポリスチレン部分が凝集して小さな塊を多数形成しながら固化していく。分子Aのポリスチレン部分と分子Bのポリスチレン部分の距離が近づかないと擬似架橋できないため、上記のようにポリスチレン部分が凝集することで、擬似架橋する下準備ができたことになる。
【0042】
ハードブロックのガラス転移温度Tgが使用温度より十分高い場合、使用温度ではハードブロック部分の熱振動エネルギーよりもハードブロックを構成するポリスチレン間の凝集力が相対的に強い。擬似架橋の場合の凝集力は水素結合、クーロン力、ファンデルワールス力などと考えられている。そのため、ポリスチレンの運動性が著しく低下し、ハードブロックは実質的に動くことが出来なくなる。この状態にあるとき、動かないハードブロックでエラストマーブロックの端部が拘束されるため、エラストマーブロック間があたかも架橋されたような状態となりゴム的性質を発現する。
【0043】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、LLDPEと混合して使用するため、熱溶融時の流動特性がLLDPEと類似していることが好ましい。すなわち、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、JIS K6922−1に則って測定したMFRが1〜15g/10分であることが好ましい(さらに好ましくは、2〜10g/10分)。
【0044】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの添加量は、ライニング用組成物の総重量に対して5重量%以上60重量%以下が好ましく、10重量%以上50重量%以下が更に好ましい。擬似架橋型の熱可塑性エラストマーが5重量%より少ないと、エラストマー特性を十分に得ることができない場合がある。擬似架橋型の熱可塑性エラストマーには、ポリエチレンよりも親水性を示すスチレンブロックが含まれているため、添加量が多すぎるとLLDPEの優れた水遮蔽特性及び化学的安定性が損なわれる可能性がある。擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンからなるハードブロックと、ポリオレフィン構造を含むエラストマーブロックで構成されている。
【0045】
擬似架橋型の熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、具体的には、(株)クラレ製のセプトンシリーズ、セプトンVシリーズが挙げられるが、これに限定されるものではない。擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、粉体またはペレットのいずれであっても良い。
【0046】
なお、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂にゴムなどのエラストマー微粒子を分散させた熱可塑性エラストマーとは異なる性質を示す。エラストマー微粒子分散型の熱可塑性エラストマーとしては、サーモラン、ゼラス、プリマロイ(いずれも三菱化学)などが挙げられるが、擬似架橋型ではない。
【0047】
また、本実施形態のライニング用組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤は、高分子であることが好ましい。高分子の酸化防止剤(以下、高分子酸化防止剤と称する)は、高分子型ヒンダードフェノール系酸化防止剤などがあるが、これに限るものではない。また、高分子酸化防止剤の酸化防止機能を向上させるためにリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤を併用しても良い。酸化防止剤の配合量は、メタロセンLLDPE100重量部に対して通常0.05重量部〜1.0重量部が好ましい。
【0048】
ライニング用組成物は、必要に応じて、滑剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤などの添加材を添加しても良い。アンチブロッキング剤を添加すると、粉体の流動性及び取扱い性が向上する。ライニングの施工対象が配水管の外面である場合には、紫外線吸収剤の添加が有用である。帯電防止剤を添加すると、ライニング用組成物(粉体)としての取扱い性が改良される。
【0049】
次に、本実施形態に係るライニング施工方法について説明する。本実施形態に係るライニング施工方法は、施工対象部材の表面にライニング層を形成した後、ライニング層にエラストマー特性を発現させることを特徴とする。
【0050】
(ライニング用組成物作製工程)
LLDPE粉体を加熱し熱溶融させながら、熱可塑性エラストマーを総重量に対して20重量%添加する。さらに、必要に応じて高分子酸化防止剤や滑剤などの添加剤を加え均一に混練する。LLDPE粉体の加熱温度はLLDPEの融点Tm以上の温度とすると良い。LLDPEの融点Tmは、密度によって差があるが、概ね120℃〜130℃である。混練時間はLLDPEと熱可塑性エラストマーとの均一混合が可能となる時間で行うことが望ましい。上記温度で加熱することで、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーは熱可塑性樹脂として挙動し、LLDPEと均一に混合することができる。
【0051】
混練した混合物は、粉砕機により粉砕し粉体にする。粉砕方法は熱可塑性樹脂の粉砕に用いられる方法であればよく、例えば、冷凍粉砕法などを適用できるが、これに限るものではない。図1に、冷凍粉砕機の概略図を示す。図1の冷凍粉砕機10では、ホッパー11に原料を充填した後、粉砕機12で粉砕しLLDPEの粉末を作製する。粉砕機冷凍粉砕法を適用する場合、液体窒素(−196℃)13などを用いて、LLDPE及び熱可塑性エラストマーのハードブロックのガラス転移温度Tg以下まで冷却して粉砕することが好ましい。LLDPEのガラス転移温度Tgは、−110℃〜−120℃程度である。
【0052】
上記工程で得られたライニング用組成物粉体は、1粒子にLLDPE、熱可塑性エラストマー、及び高分子酸化剤などが均一混合した状態の粉体となる。これによって、施工対象部材上でLLDPE及び熱可塑性エラストマーが偏在することを抑制できる。
【0053】
以降、金属製配水管内面に工業的にライニング施工する方法を例にあげて説明する。図2に、配水管の下地処理の概略構成図を示す。図3に、配水管の加熱処理の概略構成図を示す。図4にライニング層形成時の概略構成図を示す。図4(a)は配水管が樹脂容器上にある状態、図4(b)は配水管が樹脂容器下にある状態を示す。図5に、ライニング後に処理される配水管端面の概略構成図を示す。
【0054】
まず、配水管を受け入れ、外観検査を行う。詳細には、割れ、変形、及び溶接部の内面に突起など有害なものがないことを目視し、配水管のライニング施工が可能であることを確認する。
【0055】
次に、配水管に下地処理を行う。下地処理は、スチールグリッドによるブラスト処理などとされる。下地処理後、圧縮空気で下地処理面の清掃を行い、下地処理面の検査を行う。また、下地処理後12時間以内にライニング処理を行う。
【0056】
(ライニング層形成工程)
ライニング施工は、粉体成形法で行われることが好ましい。詳細には、下地処理した配水管1を、電気炉2に入れて加熱する。加熱温度(第1温度)は、LLDPEを溶融可能な温度とされ、好ましくは150℃以上280℃以下、更に好ましくは160℃以上250℃以下とされる。第1温度は、LLDPEが溶融するまで、適当な時間維持されることが好ましい。そのようにすることで、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーが、熱可塑性樹脂として溶融して流動性を得られるため、均一なライニング層を形成することができる。
【0057】
第1温度が高すぎると、後の工程で配水管内面にライニング層を形成する際に、LLDPEと配水管(母材)界面に気泡が発生する懸念がある。また、温度が高すぎると、LLDPEが分解してしまう懸念がある。
【0058】
第1温度が低すぎると、LLDPE粉体の溶融不足で一部が粉体状態のままでライニン層に残留する、あるいは、粉体粒子間に含まれる気泡が抜け切らずライニング層中に残るなどにより、均一な連続層のライニング層が形成できない懸念がある。
【0059】
加熱した配水管が規定温度(第1温度)であることを、非接触式温度計や温度チョークなどで確認する。第1温度に達した配水管を、樹脂容器3に取付ける。必要に応じて、樹脂容器と反対側の配水管開口部には蓋を取り付ける。所定量のライニング用組成物粉体4を樹脂容器内に投入した後、配水管と樹脂容器を一体として、例えば樹脂容器を中心に配水管をほぼ半径とする円を描くように回転させ、また配水管軸を中心に配水管を回転させながら配水管内面にライニング層を形成する。樹脂投入量、配水管保持温度、及び回転数は、ライニング目標膜厚、配水管の口径・寸法・形状などに応じて適宜設定される。
【0060】
ライニング層を形成した配水管を、熱可塑性エラストマーのハードブロックのTg未満である第2温度まで低下させる。ライニング層を形成した配水管は、自然放冷などにより徐冷し、第2温度まで低下させても良い。ライニング層形成後、配管が冷却されてガラス転移温度Tg未満となると、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーのハードブロックが擬似架橋して、ゴム弾性などのエラストマーとしての機能を発現させることができる。
【0061】
最後に、フランジ面外周5のバリ取り、フランジガスケット接触面6の平面出しなどを行い、端面を仕上げる。
【0062】
本実施形態に係るライニング用組成物は、使用温度がポリスチレンのTg(約100℃)以下である金属製配水管などへと適用され得る。そのような金属配管などに施工したライニング層は、金属配管を使用中にエラストマー的な特性を発現することができるため、耐キャビテーション壊食性に優れたものとなる。例えば、原子力発電プラントの海水冷却系に使用する配管では内部を流れる海水温度は最高40℃程度であるため、ライニング層はエラストマー的な特性を発現する。
【0063】
ライニング用組成物に酸化防止剤を添加した場合、酸化防止剤は擬似架橋によって生じたライニングの3次元網目構造内に保持される。それによって、ライニングからの酸化防止剤の溶出を抑制することができる。酸化防止剤が高分子酸化防止剤であれば、更に溶出が抑制される。
【0064】
(実施例1)
LLDPEは、メタロセンLLDPE(粉体)を用いた。擬似架橋型の熱可塑性エラストマー(以下、熱可塑性エラストマーと略す)は、(株)クラレ製 セプトン2007(ペレット)を用いた。
メタロセンLLDPEに対して30重量%の熱可塑性エラストマーを添加し、ライニング用組成物を作製した。このライニング用組成物の粉体を容器内に充填し、該組成物粉体流動させた。次に、予め250℃に加熱した鋼板(厚さ:10mm)を、流動するライニング用組成物粉体中に30秒間投入して、厚さ約2mmのライニング層を形成した。ライニング層を形成した鋼板を、自然放冷し試験片を作製した。
【0065】
(実施例2)
メタロセンLLDPEに熱可塑性エラストマーを5重量%添加した以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0066】
(実施例3)
メタロセンLLDPEに熱可塑性エラストマーを65重量%添加した以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0067】
(実施例4)
LLDPEとしてチグラー触媒を用いて合成したチグラーLLDPEを用いた以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0068】
(比較例1)
メタロセンLLDPEに熱可塑性エラストマーを添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験片を作製した。
【0069】
実施例1〜実施例4、及び比較例1の試験片について、ASTM G134に従いキャビテーション噴流法により壊食試験を実施した。試験片は、直径12mm、厚さ5mmのライニング材を規格で決められた形状のステンレス製冶具(図6)に熱融着したものを使用し、ASTM G134−95に準じて作製した試験水槽にイオン交換水を入れて試験を行った。試験はASTMの標準条件(キャビテーション数=0.025、上流(絶対)圧力17.4MPa)で水温25℃に保持し、試験時間は10時間とした。
【0070】
表1にキャビテーション壊食試験の結果を示す。
【表1】

【0071】
表1によれば、LLDPEライニングの質量減少量(壊食量)は、熱可塑性エラストマーを添加していない比較例1が最も多かった。これにより、熱可塑性エラストマーをライニング用組成物に添加することにより、耐キャビテーション壊食性が向上することが確認された。また、実施例4の壊食量は、比較例1よりも少なかったが、実施例1よりも多かった。これにより、チグラー触媒を用いて合成したLLDPEよりも、メタロセン触媒を用いて合成したLLDPEの方が、より耐キャビテーション壊食性が向上することがわかる。
実施例2の壊食量は、比較例1よりも少なかった。これにより擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを5重量%添加することで、従来よりも耐キャビテーション壊食性が向上することが確認された。しかしながら、実施例2では熱可塑性エラストマーの添加量が少なかったため、十分な効果が発現しなかったと考えられるため、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの添加量は5重量%以上が好ましく、10重量%以上が更に好ましいと言える。
実施例3では実施例1よりもキャビテーション壊食量は少なかった。しかしながら実施例3は、JIS K 7209の6.3 B法による7日間の吸水率が2.3重量%で、実施例1の吸水率0.8重量%より明らかに多いことから海水遮蔽性が劣ると考えられ、ライニング材としてのバランスでは実施例1よりも劣ると考えられる。よって、ライニング材の吸水率がこれ以上高くならないよう、擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの添加量は60重量%以以下が好ましいと言える。
なお、従来のライニング材の海水遮蔽に関する実績を鑑みると、JIS K 7209の6.3 B法による7日間の吸水率は、2.0重量%を超えないものが好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1 配水管
2 加熱炉(電気炉)
3 樹脂容器
4 ライニング用組成物(粉体)
5 フランジ面外周
6 フランジガスケット接触面
10 冷凍粉砕機
11 ホッパー
12 粉砕機
13 液体窒素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖低密度ポリエチレンと、
ハードブロック、及び、ポリオレフィン構造を有するエラストマーブロックから構成され、前記ハードブロックのガラス転移温度Tg以下で前記ハードブロックを疑似架橋点として前記エラストマーブロックが擬似架橋し、且つ、前記Tgより高い温度で流動性を示す擬似架橋型の熱可塑性エラストマーと、
を含むライニング用組成物。
【請求項2】
前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量が、5重量%以上60重量%以下とされる請求項1に記載のライニング用組成物。
【請求項3】
前記ハードブロックの前記Tgが、
前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以下であり、且つ、施工対象部材の使用温度Tuよりも高い請求項1または請求項2に記載のライニング用組成物。
【請求項4】
前記ハードブロックが、ポリスチレンである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のライニング用組成物。
【請求項5】
前記直鎖低密度ポリエチレンが、メタロセン触媒によって合成された請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のライニング用組成物。
【請求項6】
第1温度に加熱した施工対象部材を、直鎖低密度ポリエチレンの粉体、及び、ハードブロック及びポリオレフィン構造のエラストマーブロックから構成され、前記ハードブロックのガラス転移温度Tg未満で前記ハードブロックを擬似架橋点として擬似架橋し、前記Tg以上で流動性を示す擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを含むライニング用組成物と接触させて、前記施工対象部材の表面にライニング層を形成するライニング層形成工程と、
前記ライニング層形成工程の後、前記施工対象部材の温度を第2温度まで低下させる工程と、
を備えるライニング施工方法。
【請求項7】
前記直鎖低密度ポリエチレン及び前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーを含む混合物を、前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以上の温度で加熱しながら混練した後、粉砕してライニング用組成物の粉体を作製するライニング用組成物作製工程をさらに備える請求項6に記載のライニング施工方法。
【請求項8】
前記ライニング用組成物中の前記擬似架橋型の熱可塑性エラストマーの含有量を、5重量%以上60重量%以下とする請求項7に記載のライニング施工方法。
【請求項9】
前記第1温度を前記直鎖低密度ポリエチレンの融点Tm以上とし、
前記第2温度を前記ハードブロックのガラス転移温度Tg未満とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載のライニング施工方法。
【請求項10】
前記ハードブロックを、ポリスチレンとする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載のライニング施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95840(P2013−95840A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239647(P2011−239647)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】