説明

ラインプラズマ発生装置

【課題】例えば幅広ビーム源への使用に好適な、実用性に優れるラインプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】ラインプラズマ発生装置10は、長手方向にマイクロ波を伝搬するための導波管14と、長手方向に沿って配設され、導波管14にプラズマを閉じ込めるための長手方向に交差する磁場を発生させるための磁石16と、を備える。導波管14は、側壁24から管内に突き出して長手方向に延びるリッジ部26を備え、リッジ部26は側壁24の外表面に長手方向に延びる凹部28を形成してもよい。磁石16は、凹部28に配設されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を誘導する導波管に対して、プラズマ発生用の放電管をその全部または一部が導波管内へ入り込む状態に装着し、放電管の長手軸方向に沿って長いライン状のプラズマを発生させるラインプラズマ発生装置が知られている。長尺のライン状プラズマは、半導体プロセスにおけるエッチングやクリーニング処理、有機フイルムのCVD処理、親水性加工、あるいは食品等の殺菌処理などのプラズマ処理に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−269151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラインプラズマ発生装置の更なる用途の1つに、幅広ビーム(例えばイオンビームまたは電子ビーム)を出力するビーム源がある。幅広ビームを得るためのある試みにおいては、アーク放電のために複数本のフィラメントが真空容器に並べて配置される。しかし、フィラメントが短時間で消耗されうるため、必ずしも実用上好ましくない。他のある試みにおいては高周波電力を放射するためのアンテナが真空容器に挿入されているが、プラズマのスパッタリングによってアンテナが短時間で損傷され得る。こうした試みにおいてはフィラメントやアンテナから金属不純物がプラズマに放出され得るという問題もある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、プラズマ生成のための短時間で消耗する消耗部品を要しないという点で実用性に優れ、例えば幅広ビーム源への使用に好適なラインプラズマ発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、ラインプラズマ発生装置である。この装置は、長手方向にマイクロ波を伝搬するための導波管と、前記長手方向に沿って配設され、前記導波管にプラズマを閉じ込めるための前記長手方向に交差する磁場を発生させるための磁石と、を備える。
【0007】
なお、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、実用性に優れるラインプラズマ発生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置のプラズマ生成部における磁場強度分布の一例を示す図である。
【図4】一変形例に係るラインプラズマ発生装置の断面図である。
【図5】一変形例に係るラインプラズマ発生装置の断面図である。
【図6】一変形例に係るラインプラズマ発生装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10の断面図である。図2は、ラインプラズマ発生装置10の長手方向Lに垂直な断面を示す。
【0011】
本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10の1つの用途は、幅広ビーム源である。幅広ビームは例えば、プラズマから取り出された荷電粒子のビームである。荷電粒子ビームは、イオンビームであってもよいし、電子ビームであってもよい。幅広ビームは、プラズマから放射された光または電磁波のビームであってもよい。
【0012】
よって、ラインプラズマ発生装置10は、イオン注入装置のためのイオン源であってもよい。その場合、ラインプラズマ発生装置10は例えば、共鳴磁場よりも高い磁場が印加されたプラズマ生成部12にマイクロ波電力を入力して高密度プラズマを生成し、そのプラズマからイオンを引き出すように構成される。ライン状のプラズマから長手方向Lに延びる幅広のイオンビームが生成されるため、ラインプラズマ発生装置10は大型の基板にイオン注入処理をするためのイオン注入装置のイオン源に好適である。そうした大型基板には例えば、フラットパネルディスプレイ用の基板、太陽電池用の基板がある。幅広のイオンビームは、リボンビームと呼ばれることもある。
【0013】
また、ラインプラズマ発生装置10は、電子源であってもよい。その場合、ラインプラズマ発生装置10は例えば、プラズマ生成部12に生成されたプラズマから電子を引き出すように構成される。ライン状のプラズマから当該ライン方向に幅広の電子ビームが生成されるため、ラインプラズマ発生装置10は例えば、幅広のイオンビームを使用するイオン注入装置における基板のチャージアップ抑制のための電子源に好適である。
【0014】
本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10は、マイクロ波と磁場との相互作用によって原料ガスのプラズマをプラズマ生成部12に生成するよう構成されている。ラインプラズマ発生装置10は、長手方向Lにマイクロ波を伝搬するための導波管14と、長手方向Lに沿って配設されている磁石16と、を含む。導波管14は、マイクロ波電力の導入方向に延在するプラズマ生成部12を備える。プラズマ生成部12は、導波管14の内部領域であり、生成されたプラズマを収容するための空間である。ラインプラズマ発生装置10は、そのプラズマ収容空間(即ちプラズマ生成部12)に、磁石16による磁場でプラズマを閉じ込めるよう構成されている。
【0015】
なお本願において、導波管14に関する位置関係を述べるために、「縦方向」及び「横方向」ということがある。縦方向は、導波管14の延在する長手方向L、または導波管14の管軸方向を表す。横方向は、導波管14の長手方向Lに交差する方向、通常は直交する方向を表す。
【0016】
また、導波管14に関する相対的な位置を述べるために、幅広ビームを外部に取り出すための引出口18が設けられている導波管14の部位を指すために「上側」または「上方」などと称し、引出口18に対向する導波管14の部位(例えば磁石16の設置部分)を指すために「下側」または「下方」などということがある。しかしこれは説明の便宜のためであって、引出口18と磁石16とが鉛直方向(即ち重力の作用する方向)に沿って配列されなければならないことを意味していない。例えば、導波管14の引出口18と磁石16とが水平方向に向けられた状態でラインプラズマ発生装置10は使用されてもよい。
【0017】
ラインプラズマ発生装置10は使用に際して真空環境に置かれる。例えば、ラインプラズマ発生装置10が搭載される真空処理装置(例えばイオン注入装置)の真空チャンバに、ラインプラズマ発生装置10は収容されている。よって、プラズマ生成部12は、周囲の真空環境に応じた真空度を有する。
【0018】
ラインプラズマ発生装置10は、マイクロ波Aを導波管14に供給するためのマイクロ波供給系(図示せず)を備える。マイクロ波供給系は、導波管14の真空窓20を通じて管内にマイクロ波電力を入力するよう構成されている。マイクロ波供給系は例えば、マイクロ波電源、当該電源から導波管14にマイクロ波を伝送するための伝送路、マイクロ波電源側への電力反射を低減するための整合部などを含む公知の構成であってもよい。図示の例では、マイクロ波供給系の末端(例えば整合部)から導波管14へのマイクロ波Aの導入方向は導波管14の長手方向Lに一致している。導波管14に入射したマイクロ波Aは導波管14内を縦方向に伝搬する。例えば2.45GHzの周波数のマイクロ波電力が導波管14に供給される。
【0019】
ラインプラズマ発生装置10は、プラズマの原料ガスCをプラズマ生成部12に供給するためのガス供給系22を備える。原料ガスCは例えばアルゴンガスである。原料ガスCはイオン注入のための不純物を含有する成分を含んでもよい。図示されるように、ガス供給系22の末端の配管が導波管14に接続されている。この配管は例えば、長手方向Lに延びる導波管14の側壁24に接続されている。配管を通じてプラズマ生成部12に原料ガスCが供給される。ガス供給系22は、ガス源と、ガス源からプラズマ生成部12への原料ガスCの供給流量を制御するガス流量制御器と、を含んでもよい。
【0020】
導波管14は例えば金属(例えば非磁性金属材料)の中空パイプである。よって導波管14は、長手方向Lに延在する筒形の側壁24を備える。側壁24を以下では導波管側壁24と呼ぶこともある。導波管側壁24は所望の長さを有する。導波管側壁24の長さは、例えば幅広ビームの所望の幅に応じて定められる。導波管側壁24の一端にはマイクロ波供給系からマイクロ波電力を受け入れるための真空窓20が形成されている。真空窓20は例えば誘電体で形成されている。導波管側壁24の他端は閉塞されている。導波管側壁24は、後述するように、長手方向Lに延在する磁石16に隣接している。
【0021】
本実施例においては導波管14はリッジ導波管である。導波管14は、矩形断面を有する側壁24から管内に突き出して形成されているリッジ部26を備える。リッジ部26は長手方向Lに導波管14の一端から他端まで延びている。リッジ部26は側壁24の外表面に長手方向Lに延びる凹部28を形成する。よって導波管14は、マイクロ波電力の導入方向から見た断面に凹部28を有する。後述のように、凹部28に磁石16を収容することができる。リッジ部26に対向する導波管側壁24の上面30は平坦に形成されている。
【0022】
なお、リッジ部26は中実であってもよい。その場合、導波管側壁24に凹部28が形成されずに、導波管側壁24の下側の外表面は例えば平坦に形成されていてもよい。また、導波管側壁24の上面30に、下側のリッジ部26に対向する第2のリッジ部が形成されていてもよい。第2のリッジ部によって上面30の外表面に形成される第2の凹部に、後述の引出電極36が収容されていてもよい。
【0023】
リッジ部26は導波管14の幅方向中央部に形成されている。よって、導波管14内の高さ(即ち対向する一組の側壁間の距離)はリッジ部26において相対的に小さく、リッジ部26の両側(幅方向に外側)において相対的に大きくなっている。リッジ導波管は、リッジ部26がある中央部分でマイクロ波Aによる電界が強くなる。プラズマ生成部12は、リッジ部26と導波管上面30との間に形成されている。そのため、マイクロ波電界の強い領域でプラズマを効率的に生成することができる。
【0024】
導波管14は、管内で長手方向Lに沿って延在する誘電体32を備える。誘電体32は例えばBN(窒化ホウ素)材またはアルミナであってもよい。こうした材料は、マイクロ波Aに対し低損失であり、かつ耐プラズマ性、耐熱性を有する点で好ましい。
【0025】
誘電体32は、導波管14内にプラズマ生成部12を画定するように充填されている。引出口18側を除いて導波管14の内表面は誘電体32で被覆されている。具体的には、リッジ部26の内表面は誘電体32で被覆されている。また、リッジ部26の両側は誘電体32によって埋められている。上面30の内表面のうち引出口18の周囲部分は露出されている。こうして、引出口18側の導波管内表面と誘電体32の表面とでプラズマ生成部12が画定されている。プラズマ生成部12は長手方向Lに垂直な断面が矩形とされている。
【0026】
磁石16は、導波管14にプラズマを閉じ込めるための横方向磁場を発生させるよう構成されている。本実施例では磁石16は永久磁石である。磁石16は、プラズマ生成部12に向けられた面に一方の磁極を有し、その反対側の面に他方の磁極を有する。磁石16の磁化方向を図2に矢印Bで示す。なお磁化方向は図示の方向とは反対向きであってもよい。磁石16は、長手方向Lに配列された複数の磁石を含んでもよい。
【0027】
磁石16は、導波管14のリッジ部26の外側に配設され、凹部28に収容されている。図示の例においては磁石16の幅は凹部28の幅に等しくされている。プラズマ生成部12における磁力線の向きをそろえるために、磁石16の幅は、プラズマ生成部12の幅以上であることが好ましい。磁石16(または複数の磁石の配列)は、少なくともプラズマ生成部12の長手方向Lの長さ以上の長さをもち、例えば導波管14に相当する長さを有する。
【0028】
こうして、磁力線はリッジ部26から引出口18へと概ね向けられる。磁石16は、マイクロ波電力導入方向と直角方向の磁場を発生する。この磁場によってプラズマが導波管14内に閉じこめられる。高密度プラズマの生成を促進するために、電子サイクロトロン共鳴を引き起こす磁場(共鳴磁場)がプラズマ生成部12に与えられるように磁石16が構成されていることが好ましい。
【0029】
導波管14の外部へと幅広ビームを取り出すための引出口18が、導波管14に形成されている。導波管14には、少なくとも1つの引出口18が導波管側壁24に長手方向Lに沿って形成されている。プラズマ生成部12は引出口18を通じて導波管14の外部に連通されている。引出口18は、荷電粒子が通過可能であるように物理的に開放された開口である。しかし、プラズマから外部に取り出すビームが光または電磁波である場合には引出口18はビームが透過可能であればよく、必ずしも物理的に開放されていなくてもよい。
【0030】
引出口18は、リッジ部26に対向する導波管側壁24の表面に形成されている。図示の例においては、複数の円形開口が長手方向Lに沿って導波管側壁24に配列されている。複数の開口を形成することに代えて、長手方向Lに延びる1つまたは複数のスリットが導波管側壁24に形成されていてもよい。引出口18の開口形状は任意であり、丸穴、長穴、または角穴であってもよいし、導波管14の一端から他端まで延びるスリット状の開口であってもよい。引出口18の形状、直径、半径、幅、長さ、個数、ピッチの少なくとも1つを含む引出口18の寸法は、ラインプラズマ発生装置10の用途に応じて適宜設定することができる。
【0031】
引出口18は、導波管14とは別体の引出部材34に形成されていてもよい。引出部材34は導波管側壁24の一部を構成する。引出部材34は、導波管14に対し交換可能に構成されている。引出部材34は、耐プラズマ性をもつ材料(例えばグラファイト)で形成された板状の部材である。引出部材34は、長手方向Lに延びるプラズマ生成部12に相当する平面形状を有する。こうして、プラズマ生成部12を引出部材34と誘電体32とで画定することもできる。この場合、導波管14の金属部分を誘電体32で完全に被覆してプラズマから保護することができる。引出部材34は、必要に応じて容易に取り外して交換またはメンテナンスをすることができる。
【0032】
ラインプラズマ発生装置10は、プラズマ生成部12から引出口18を通じて荷電粒子を導波管14の外部に引き出すための少なくとも1つの引出電極36を備える(図2参照)。引出電極36は引出口18に対向して設けられている。引出電極36は、導波管側壁24から距離を有して導波管14に平行に長手方向Lに延びている。引出電極36は、ビームを通過させる開口38を、引出口18に対応する位置に有する。引出電極36は、平行に並べられた2枚の電極を備え、その一方が接地電極として構成され、他方の電極に引出電圧が与えられるよう構成されていてもよい。
【0033】
引出電極36は、引出電源40に接続されている。引出電源40は、プラズマ生成部12から荷電粒子を引き出すための引出電圧を引出電極36と導波管14との間に印加するよう構成されている。あるいは、引出電源40は、引出部材34と引出電極36との間に引出電圧を印加するよう構成されている。
【0034】
引出電源40は、引出電極36と導波管14(または引出部材34)との間に印加される引出電圧の極性を変更可能に構成されていてもよい。このようにすれば、一方の極性の場合にはプラズマ生成部12から陽イオンを引き出し、他方の極性の場合にはプラズマ生成部12から電子を引き出すことができる。ラインプラズマ発生装置10をイオン源と電子源とに切り替えて使用することができる。
【0035】
ラインプラズマ発生装置10は、導波管14を覆うヨーク42を備えてもよい。ヨーク42は、磁石16の横方向磁場を導波管14内で局所的に集中させるために導波管14を囲む。ヨーク42は、プラズマ生成部12に磁場を集中させ、外部への漏れ磁場を減らすよう構成されている。ヨーク42は、導波管14及び磁石16の外表面を被覆している。なお、磁石16によってプラズマ生成部12に十分な磁場が与えられる場合には、ラインプラズマ発生装置10はヨーク42を必ずしも備えなくてもよい。
【0036】
ヨーク42は磁石16とともに、プラズマ生成部12において上方から下方に(または下方から上方に)向けられた磁場を生成するための閉じた磁気回路を形成する。ヨーク42によって、プラズマ生成部12の上端に一方の磁極が配置され、プラズマ生成部12の下端に他方の磁極が配置される。
【0037】
ヨーク42の上面には、長手方向Lに沿ってスリット44が形成されている。スリット44の平面形状は、引出部材34の平面形状に一致するか、または引出部材34の平面形状を包含する。これにより、ヨーク42のスリット44を通じて引出部材34の交換または取り外しをすることが容易である。なお、ヨーク42はスリット44を有していなくてもよく、その場合、ヨーク42は、引出口18を除く導波管14の外表面全体を被覆していてもよい。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10のプラズマ生成部12における磁場強度分布の一例を示す図である。図3には、図2に示す断面の右半分についての磁場強度分布の計算結果を示す。図3には、プラズマ生成部12、磁石16、及びヨーク42が示されている。静磁場に対し透明である誘電体32や導波管側壁24などは図3において図示を省略している。
【0039】
図示されるように、下方の磁石16側から上方の引出口18側へと向けられた磁場がプラズマ生成部12に生成されている。本例では、プラズマ生成部12における磁場の強さは、引出口18側で約40mT(400ガウス)程度であり、磁石16側で最大約220mT(2200ガウス)程度である。電子サイクロトロン共鳴を引き起こす磁場の強さは使用されるマイクロ波の周波数に対し一意に定まり、マイクロ波周波数が2.45GHzの場合には87.5mT(875ガウス)の磁場が必要である。よって、本例の磁場は、電子サイクロトロン共鳴を引き起こすのに十分な大きさをもつ。
【0040】
本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10の動作を説明する。ラインプラズマ発生装置10の動作が停止されているときには、磁石16による横方向静磁場がプラズマ生成部12に生じている。この磁場は例えば図3に示す磁場である。ラインプラズマ発生装置10の動作が開始されると、ガス供給系22から原料ガスがプラズマ生成部12に供給される。真空窓20からプラズマ生成部12にマイクロ波が縦方向に導入される。
【0041】
マイクロ波によって原料ガスが励起され、プラズマ生成部12にプラズマが生成される。また、マイクロ波と磁場との作用によって電子サイクロトロン共鳴が生じ、電子のマイクロ波エネルギーの吸収がより促進される。これによってもプラズマ生成部12にプラズマが生成される。引出電極36には引出電圧が印加されている。引出電極36によって引出口18を通じてプラズマからイオン(または電子)が引き出される。こうして、長手方向Lに延びる幅広のイオンビーム(または電子ビーム)を得ることができる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るラインプラズマ発生装置10は、フィラメントやアンテナ等の消耗部品をプラズマ生成部12に有しない。よって、こうした消耗部品の寿命に左右されずに長期間のプラズマ生成運転が可能である。また、こうした部品の消耗による金属不純物のプラズマへの混入が生じないという利点もある。
【0043】
図4乃至図6を参照して、ラインプラズマ発生装置10のいくつかの変形例を説明する。図4に示す実施例は導波管14のための冷却手段を備えることを除いて、図1乃至図3を参照して説明した実施例と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0044】
図4は、一変形例に係るラインプラズマ発生装置10の断面図である。ラインプラズマ発生装置10は、導波管14を冷却するための冷却システム46を備える。冷却システム46は、導波管14とヨーク42との間に形成されている冷媒流路を含む。また、冷却システム46は、導波管14と磁石16との間に形成されている冷媒流路を含む。この冷媒流路は例えばウォータージャケットである。冷却システム46は、高温となり得る導波管14に接している。よって、冷却システム46は、導波管14を効率的に冷却することができる。
【0045】
冷却システム46は冷媒流路に冷媒(例えば冷却水)を供給または循環させるための冷媒源またはポンプを含んでもよい。冷却システム46の冷媒流路は導波管24の外表面とヨーク42の内表面との間に形成されていなくてもよい。冷却システム46の冷媒流路は導波管24の内表面とヨーク42の外表面との間の任意の場所にあればよく、例えば導波管側壁24またはヨーク42に形成されていてもよい。
【0046】
図5は、一変形例に係るラインプラズマ発生装置10の断面図である。図5に示す実施例はヨーク42の構成を除いて、図1乃至図3を参照して説明した実施例と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。なお図5を参照して述べるヨーク42の構成は、図4に示す実施例に適用されてもよい。
【0047】
ヨーク42は、取り外し可能ヨーク部分48を含む。取り外し可能ヨーク部分48は、引出口18が形成されている導波管14の部位を覆う。取り外し可能ヨーク部分48は、スリット44に合う形状を有する。取り外し可能ヨーク部分48は、引出口18に対応する位置に開口50を有する。そのため、引出口18を除いて導波管14の全体がヨーク42で囲まれる。プラズマ生成部12が全体的にヨーク42で囲まれることにより、外部への漏れ磁場をより低減することができる。
【0048】
図6は、一変形例に係るラインプラズマ発生装置10の断面図である。図5に示す実施例は磁石16の構成を除いて、図1乃至図3を参照して説明した実施例と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。なお図6を参照して述べる磁石16の構成は、図4に示す実施例または図5に示す実施例に適用されてもよい。
【0049】
図6に示す磁石16は電磁石である。よって、磁石16はコイル52と鉄芯54とを備える。鉄芯54は、長手方向Lに延びており、導波管14のリッジ部26の外側に配設され凹部28に収容されている。鉄芯54の周囲にコイル52の導線が巻かれており、電磁石が構成されている。図示される磁化方向B(またはその反対方向)を与えるようにコイル52に電流が供給される。図6に示す磁石16(電磁石)は、図1乃至図5に示す磁石16(永久磁石)と同様の横方向磁場をプラズマ生成部12に生成するよう構成されている。
【0050】
なお、プラズマ生成部12に十分な磁場が与えられる場合には、ラインプラズマ発生装置10は、鉄芯54及びヨーク42の少なくとも一方を備えていなくてもよい。また、磁石16は、電磁石と永久磁石の両方を含んでもよい。
【0051】
ラインプラズマ発生装置10がイオン源として使用される場合には、プラズマ生成部12に生成される磁場の強さを制御可能であることが好ましい場合がある。よって、その場合には、磁石16は電磁石を含むことが好ましい。また、ラインプラズマ発生装置10が電子源として使用される場合には、プラズマ生成部12に一定の磁場が生成されれば十分である場合がある。よって、その場合には磁石16は永久磁石であることが好ましい。
【0052】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0053】
引出口18と磁石16との位置関係は反転されてもよい。つまり、引出口18はリッジ部26に形成されていてもよい。磁石16は、導波管14の表面のうち、リッジ部26に対向する部分に設置されてもよい。
【0054】
導波管14の長手方向Lに垂直な断面の形状は任意である。導波管14はリッジ部26を有していなくてもよい。導波管14は例えば、断面が矩形である方形導波管、または断面が円形である円形導波管であってもよい。これらの場合においても、磁石16に近接する(または接触する)導波管14の部位に対向して導波管14の側壁に引出口18が形成される。磁石16と引出口18との間の導波管14の内部領域にプラズマ生成部12が形成され、磁石16による磁場がプラズマ生成部12に生成される。なお、磁石16と引出口18とは対向していなくてもよい。磁石16は、プラズマ生成部12に横方向磁場を生成する任意の位置に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 ラインプラズマ発生装置、 14 導波管、 16 磁石、 18 引出口、 26 リッジ部、 28 凹部、 32 誘電体、 36 引出電極、 38 開口、 42 ヨーク、 A マイクロ波、 B 磁化方向、 L 長手方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向にマイクロ波を伝搬するための導波管と、
前記長手方向に沿って配設され、前記導波管にプラズマを閉じ込めるための前記長手方向に交差する磁場を発生させるための磁石と、を備えることを特徴とするラインプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記導波管は、側壁から管内に突き出して前記長手方向に延びるリッジ部を備え、該リッジ部は前記側壁の外表面に前記長手方向に延びる凹部を形成しており、
前記磁石は、前記凹部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記磁場を前記導波管内で局所的に集中させるために前記導波管を囲むヨークをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記導波管と前記ヨークとの間に前記導波管を冷却するための冷媒流路が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記ヨークは、開口が形成されている前記導波管の部位を覆うための取り外し可能ヨーク部分を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記導波管は、前記長手方向に沿って形成されている少なくとも1つの引出口を有し、
前記引出口に対向し、前記プラズマから該引出口を通じて荷電粒子を前記導波管の外部に引き出すための引出電極をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記引出電極と前記導波管との間に印加される引出電圧の極性が変更可能であることを特徴とする請求項6に記載のラインプラズマ発生装置。
【請求項8】
前記導波管は、前記プラズマを閉じ込めるための空間を画定するよう充填された誘電体を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のラインプラズマ発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−41703(P2013−41703A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176559(P2011−176559)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】