説明

ラウドネス計測装置、補聴器調整装置、その方法及びそのプログラム

【課題】ラウドネス増加曲線を計測するために、長時間かかっていた。
【解決手段】ラウドネス計測方法は、互いに異なる周波数であり、ラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音を呈示し、初期呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測し、典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンを伸縮させて、典型パタンと計測した脳波の事象関連電位とを比較し、類似する典型パタンを選択し、互い異なる周波数であり、異なる音圧を有する複数の呈示音を呈示し、呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測し、選択した典型パタンを伸縮し、かつ、脳波のうち複数の呈示音に対する事象関連電位と最も類似するように伸縮した典型パタンに含まれるN1成分を取得し、予め定めたN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時を用いて、ラウドネス増加曲線を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的な音の大きさに対して、人間が受ける感覚的な音の大きさ(ラウドネス)を計測する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音の音圧の大きさ(sound pressure)と、人間が受ける感覚的な音の大きさとは、一対一で対応しない場合がある。本明細書において、「ラウドネス」は、人間が受ける感覚的な音の大きさを示す。
【0003】
聴覚障害者(the aurally-challenged)のラウドネスは、健聴者のラウドネスと異なる。例えば、多くの聴覚障害者は、健聴者が聞こえる音圧の小さい音を聞きとることができない。しかし、多くの聴覚障害者は、音圧の大きい音を、健聴者と同様に、聞き取ることができる。聴覚障害者のラウドネスは、健聴者のラウドネスと比較して、歪んでいる。この現象を、補充現象(recruitment phenomenon)と称する。
【0004】
聴覚障害者が用いる補聴器において、全ての音圧の範囲の音に対して、一律に音圧を大きくする調節をする場合を考える。その調節により、聴覚障害者は、小さい音圧の音を聞き取れるようになる。一方、その調節により、聴覚障害者は、大きい音圧の音は音圧を大きすぎると感じる。
【0005】
したがって、補聴器を調節するためには、補充現象を含むラウドネスを計測することが必要となる。計測したラウドネスを用いて、音圧の大きさ等を調節することが求められる。
【0006】
人間が音を聞いた時に誘発される脳波を用いて、人間の聴覚を計測する従来技術がある。非特許文献1に示す従来技術は、聴性脳幹反応(Auditory Brain-stem Response:ABR)を用いて、乳幼児が聴覚障害を有するかどうかを判定している。具体的には、乳幼児が特定の音圧を有する音を聞いた時、乳幼児の脳波波形が典型的なABR波形であるかどうかを判定する。その判定結果が、乳幼児が聴覚障害を有するかの判定と対応している。
【0007】
特許文献1に示す従来技術は、聴性誘発電位(Auditory evoked potential:AEP)を用いて、聴力検査を行っている。具体的には、例えば、2kHz及び90dBHLを有する基準刺激を呈示し、AEPを計測する。計測したAEPを利用した閾値に基づいて、聴力を検査している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010−504139号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.R.Kileny 「New insight on infant ABR hearing screening」Scandinavian Audiology Supplement 30巻、81−88、1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ラウドネスを計測するためには、後述する脳波に含まれるN1成分を取得する必要がある。測定した脳波のみからN1成分を取得する場合、非常に多くの量の脳波信号を計測する必要があり、ユーザの負担となる。
【0011】
計測する脳波を少なくするために、非特許文献1に示す従来技術のように、典型的なABR波形と測定した脳波とを比較する方法がある。また、特許文献1に示す従来技術のように、基準刺激に基づいて、基準となる脳波を計測する方法がある。
【0012】
しかし、N1成分は、音の周波数、音の音圧、及び個人毎に異なるため、一律の基準を用いて取得することは容易でない。
【0013】
そこで、本発明では、音の周波数及び音の音圧に対する脳波の変化に関する知見を用いることで、従来技術より少ない量の脳波で、ユーザの補充現象を含むラウドネスを計測する装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、互いに異なる周波数であり、かつ、人間が受ける感覚的な音の大きさであるラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音を、ユーザに呈示するステップと、前記初期呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測するステップと、典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンを伸縮させながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較し、前記事象関連電位と類似する典型パタンを選択する典型パタン選択ステップと、互いに異なる周波数であり、かつ、異なる音圧を有する複数の呈示音を、前記ユーザに呈示するステップと、前記呈示音を呈示した時の前記ユーザの脳波を計測するステップと、前記選択した典型パタンを伸縮し、かつ、前記脳波のうち前記複数の呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と最も類似するように伸縮した典型パタンに含まれるN1成分を取得する脳波選択ステップと、予め定めたN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値を、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧としてラウドネス増加曲線を求めるステップとを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の装置及び方法によれば、音の周波数及び音の音圧に対する脳波の変化に関する知見を用いることにより、従来技術より少ない量の脳波で、ユーザの補充現象を含むラウドネスを計測する装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1のラウドネス計測システムの構成を示す図。
【図2】呈示音の音圧とN1潜時およびN1成分の振幅とP2成分の振幅差との関係を示す図。
【図3】複数のユーザに同じ音を呈示した時に測定した脳波波形の模式図
【図4】実施の形態1のラウドネス計測システムの部分の構成を示す図。
【図5】実施の形態1のラウドネス計測システムの部分の構成を示す図。
【図6】実施の形態1のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図7】実施の形態1のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図8】実施の形態1のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図9】ラウドネス増加曲線を求める手順を示す図。
【図10】実施の形態1のラウドネス計測システムのマッチングの手順を示す図。
【図11】実施の形態1のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図12】実施の形態1のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図13】実施の形態1の変形例1のラウドネス計測システムの構成を示す図。
【図14】実施の形態1の変形例1における最小可聴値と等ラウドネスを与える音圧の関係を示す図。
【図15】実施の形態1の変形例1における補聴器の入出力特性を決定する手順を示す模式図。
【図16】実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムの部分の構成を示す図。
【図17】実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図18】実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムにおける典型パタンの変形率を決定するための関数を示す図。
【図19】実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図20】実施の形態2のラウドネス計測システムの構成を示す図。
【図21】実施の形態2のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図22】実施の形態2のラウドネス計測システムの誘発電位の典型パタンを示す図。
【図23】実施の形態2のラウドネス計測システムの部分の構成を示す図。
【図24】実施の形態2のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図25】実施の形態2のラウドネス計測システムの動作を示すフローチャート。
【図26】国際10−20法(10−20System)の電極位置を示す図。
【図27】脳波サンプルパタンの例を示す図。
【図28】等ラウドネス曲線の一例を示す図。
【図29】ラウドネス計測装置のハードウェア構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(定義)
本明細書における用語の定義を説明する。
「事象関連電位(event−related potential:ERP)」とは、脳波(electroencephalogram:EEG)の一種であり、外的あるいは内的な事象に時間的に関連して生じる脳の一過性の電位変動をいう。「誘発電位」は、事象関連電位の一例である。「聴覚刺激」とは、ユーザに対して音を呈示である。「N1成分」とは、聴覚の刺激呈示を起点として、50ms以上150ms以下の範囲後の陰性成分の誘発電位である。N1成分は、事象関連電位に含まれる。「P2成分」とは、聴覚の刺激呈示を起点として、150ms以上300ms以下の範囲後の陽性成分の誘発電位である。P2成分は、事象関連電位に含まれる。「潜時」とは、音声刺激が呈示された時刻を起点として陽性成分または陰性成分のピーク電位が出現するまでの時間である。「陰性成分」とは、一般的には、0μVよりも小さい電位をいう。「陽性成分」とは、一般的には、0μVよりも大きい電位をいう。「UCL(uncomfortable loudness level)」とは、ユーザが不快に感じる程大きい音圧である。「最小可聴値(HTL:hearing threshold level)」とは、ユーザが聞き取ることのできる最も小さい音の音圧である。「音を呈示する」とは、純音を出力することをいう。「純音」とは、単一の周波数で周期振動を繰り返す、正弦波で表される音である。
【0018】
なお、「事象関連電位(ERP)マニュアル−P300を中心に」(加我君孝ほか編集、篠原出版新社、1995)の30頁に記載の表1によると、一般的に、事象関連電位の波形には、個人ごとに30msから50msの差異(ずれ)が生じる。したがって、本明細書において、「約Xms」又は「Xms付近」は、Xmsを中心として30から50msの幅がその前後(例えば、100ms±30ms、200ms±50ms)を含む。
【0019】
(N1成分の潜時の特性と音の周波数及び音の音圧に対する脳波の変化)
本実施の形態の詳細な説明の前に、N1成分の潜時の特性と音の周波数及び音の音圧に対する脳波の変化に関する知見とを説明する。
【0020】
人間が受ける感覚的な音の大きさ(ラウドネス)が大きい場合、N1成分の潜時は短い。ラウドネスが小さい場合、N1成分の潜時は長い。図2に、人間が受ける感覚的な音の大きさ(ラウドネス)と、N1成分の潜時およびN1成分の振幅の関係とを示す。図2に示す関係は、「第23章 頭頂部緩反応」船坂宗太郎、大西信治郎編集、鈴木篤郎監修(1985)「聴性脳幹反応―その基礎と臨床―」メジカルビュー社 pp.381−392に開示されている。図2の横軸は、dBSLである。図2の横軸は、ユーザの刺激音の聴取閾値を0dBとして、音圧をdBで表示している。図2の縦軸の左側の表示は、N1−P2振幅の大きさを示している。N1−P2振幅の大きさの単位は、マイクロボルト(μV)である。図2の縦軸の右側の表示は、N1の潜時を示している。N1潜時の単位は、ミリ秒(ms)である。図2は、聴覚刺激として1000Hzの呈示音を健聴者に呈示した時の測定結果である。一般的に、1000Hzの周波数を有する音に対して、UCL(uncomfortable loudness level)は、90dBから100dB程度であることが知られている。つまり、UCLは、図2の横軸における右端の90dBSLより大きい。
【0021】
図2に示す白丸は、潜時のデータを示す。図2に示す破線は、潜時のモデル値を示す。図2に示す黒丸は、振幅のデータを示す。図2に示す実線は、振幅のモデル値を示す。図2において、呈示音の音圧が10dBSLから90dBSLまで増加するとき、振幅は比較的線形に増加する。呈示音の音圧が10dBSLから30dBSLまで増加するとき、潜時は急峻に潜時が短くなる。呈示音の音圧が30dBSLから70dBSLまで増加するとき、潜時は比較的線形に潜時が短くなる。図2に示すように、呈示音の音圧が大きい場合、N1成分の潜時が短く、呈示音の音圧が小さい場合、N1成分の潜時が長い。
【0022】
図3(a)から(c)に、音を呈示した後に測定した脳波の例を示す。図3(a)から(c)は、複数のユーザに同じ音を呈示した時に測定した波形の模式図である。図3(a)から(c)の縦軸は電位を示し、横軸は時間を示す。それぞれの波形は、N1成分とP2成分とを有する。図3(a)に示す波形は、N1成分の振幅とP2成分の振幅とが、およそ同じである。一方、図3(b)に示す波形は、N1成分の振幅に対してP2成分の振幅が大きい。このように、N1成分の振幅とP2成分との振幅の比、又は脳波の波形の形状は、個人毎に異なる。また、音の周波数及び音の音圧にも依存して、脳波は異なる。
【0023】
しかし、音の周波数及び音の音圧を変化させても、同じユーザの脳波に含まれるN1成分とP2成分との間の波形の変化は小さいという知見がある。N1成分とP2成分との間の波形とは、例えば、図3(a)から(c)の波形の破線で囲む部分である。そこで、本願発明者らは、音の周波数及び音の音圧を変化させて測定する場合、N1成分とP2成分との間の波形の形状をおよそ維持するように変化させることで、個人毎に適した脳波の典型パタンを選択できるということを見出した。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1におけるラウドネス計測システム10の構成図である。
【0026】
ラウドネス計測システム10は、呈示音決定部110と、呈示音生成部120と、電気音響変換部130と、脳波計測部150と、サンプルパタン生成部160と、典型パタン記憶部170と、典型パタン選択部180と、脳波選択部190と、潜時推定部200と、計測完了判定部210と、呈示音制御部220とを備える。ラウドネス計測システム10のそれぞれの構成は、有線又は無線で接続されている。図1において、説明の便宜上示すユーザ100は、ラウドネス計測システム10の構成要素ではない。
【0027】
(呈示音決定部110)
呈示音決定部110は、呈示音記憶部111に記憶されている音から、互いに異なる周波数を有する複数の音を決定する。「呈示音」は、ユーザ100に呈示する音である。呈示音決定部110は、予め決められた複数の周波数を参照して、呈示音記憶部111に記憶されている音から、複数の音を決定しても良い。
【0028】
呈示音決定部110は、周波数毎に、音圧の値と人間が受ける感覚的な音の大きさ(ラウドネス)の値とのラウドネス対応関係を有している。このラウドネス対応関係は、いわゆる等ラウドネス曲線である。等ラウドネス曲線は、周波数毎に、ラウドネスが同じ値になる音圧の値との対応関係を有する。図28に、等ラウドネス曲線の一例を示す。図28に示す曲線上の周波数及び音圧は、同じラウドネスとなる。
【0029】
呈示音決定部110は、ラウドネス対応関係を参照して、互いに異なる周波数を有する複数の呈示音について、ラウドネスの値が同じとなる音圧を決定する。例えば、任意のラウドネスの値を決定する。次に、ラウドネス対応関係を参照して、呈示音の周波数毎に、決定したラウドネスの値に対応する音圧を決定する。例えば、図28に示す等ラウドネス曲線を用いる場合、250Hz、50dBを有する純音(図28のA)、1000Hz、40dBを有する純音(図28のB)、4000Hz、35dBを有する純音(図28のC)を決定する。
【0030】
呈示音決定部110は、複数の呈示音の情報を呈示音生成部120に送信する。「呈示音の情報」は、呈示音の周波数及び音圧の情報を含む。
【0031】
(呈示音記憶部111)
呈示音記憶部111は、少なくとも周波数と対応付けられている複数の純音が記憶されている。呈示音記憶部111は、音韻の種類、音圧の大きさ等と対応付けられた純音を記憶しても良い。
【0032】
(呈示音生成部120)
呈示音生成部120は、呈示音決定部110から、呈示音の周波数及び音圧の情報を含む複数の呈示音の情報を受信する。呈示音生成部120は、受信した複数の呈示音の情報を用いて、複数の呈示音の出力順序及び複数の呈示音の出力する間隔を決定する。呈示音生成部120は、呈示音を呈示する回数及び呈示音を呈示する間隔は、予め保持していても良い。又は、呈示音生成部120は、呈示音を呈示する回数、及び呈示音を呈示する間隔を受信しても良い。
【0033】
呈示音生成部120は、呈示音の情報及び呈示音を呈示する回数を参照して、周波数が同じ呈示音が連続しないように順序を決定する。以下、呈示音を含むユーザに提示する音を「刺激」とも表記する。呈示音を呈示する間隔は、「刺激間間隔(a interval between stimulus)」又は「呈示間隔」とも表記する。
【0034】
呈示音生成部120は、複数の呈示音の情報、呈示音を呈示する順序、及び呈示音を呈示する間隔を含む呈示音の音声情報を電気音響変換器130に送信する。
【0035】
(電気音響変換器130)
電気音響変換器130は、呈示音生成部120及び音制御部220から、呈示音の音声情報を受信する。電気音響変換器130は、ユーザ100に、呈示音の音声情報に対応する呈示音に変換して出力する。電気音響変換器130は、サンプルパタン生成部160に、呈示音を出力した時刻を送信する。例えば、電気音響変換器130は、スピーカー、及びヘッドフォンを含む音声を出力する機器で構成される。電気音響変換器130を、「呈示部」とも表記する。
【0036】
(脳波計測部150)
ユーザ100に、基準電極141と計測電極142とを含む複数の電極140が配置されている。脳波計測部150は、基準電極141と計測電極142との電位差に対応する脳波を計測する。脳波計測部150は、計測した脳波を、サンプルパタン生成部160及び脳波選択部190に送信する。
【0037】
(サンプルパタン生成部160)
サンプルパタン生成部160は、脳波計測部150から、計測した脳波を受信する。サンプルパタン生成部160は、電気音響変換器130から、呈示音を呈示した時刻を受信する。サンプルパタン生成部160は、計測した脳波から、呈示音を呈示した時刻から所定時間後の範囲の脳波を抽出する。呈示音を呈示した時刻から所定時間後の範囲の脳波とは、例えば、N1成分及びP2成分である。互いに異なる周波数の音に対する、抽出した脳波を加算して、脳波サンプルパタンを生成する。サンプル生成部160は、生成した脳波のサンプルパタンを、典型パタン選択部180に送信する。
【0038】
(典型パタン記憶部170)
典型パタン記憶部170は、N1成分及びP2成分を含む脳波の複数の典型パタンを記憶している。呈示音からの時刻と対応付けられた脳波の波形自体を保持しても良い。また、呈示音からの時刻と対応付けた電位の値の情報を保持しても良い。
【0039】
(典型パタン選択部180)
典型パタン選択部180は、サンプルパタン生成部160が生成した脳波のサンプルパタンを受信する。典型パタン選択部180は、受信した脳波のサンプルパタンから、N1成分及びP2成分を検出する。典型パタン選択部180は、N1成分の潜時の時刻と、P2成分の潜時の時刻と、N1成分の潜時及びP2成分の潜時の差分とを取得する。
【0040】
典型パタン選択部180は、N1成分の潜時及びP2成分の潜時の差分と、予め保持する倍率とから、マッチングする伸縮範囲を決定する。典型パタン選択部180は、N1成分の潜時の時刻と、P2成分の潜時の時刻と、予め保持する時間幅の情報とを用いて、マッチングの時間範囲を決定する。
【0041】
典型パタン選択部180は、複数の典型パタンを決定した伸縮範囲及び時間範囲を用いて伸縮させながら、脳波のサンプルパタンと類似する典型パタンを選択する。典型パタン選択部180は、選択した典型パタンを、脳波選択部190に送信する。詳細は、S300等で説明する。
【0042】
(呈示音制御部220)
呈示音制御部220は、ユーザ100のラウドネスを測定するために、呈示音記憶部111に記憶されている音から、互いに周波数及び音圧が異なる複数の音を決定する。呈示音制御部220は、決定した音の呈示回数及び呈示順序を決定する。呈示音制御部220は、複数の呈示音の情報、呈示音を呈示する順序、及び呈示音を呈示する間隔を電気音響変換器130に送信する。
【0043】
(脳波選択部190)
脳波選択部190は、典型パタン選択部180が選択した典型パタンを受信する。脳波選択部190は、予め保持する伸縮範囲と時間範囲において、計測した脳波と類似するように、受信した典型パタンを伸縮する。計測した脳波と最も類似するように典型パタンを伸縮した時の波形におけるN1成分の潜時を取得する。脳波選択部190は、取得したN1成分の潜時を、潜時推定部200に送信する。詳細は、S400等で説明する。
【0044】
(潜時推定部200)
潜時推定部200は、脳波選択部190から取得したN1成分の潜時を受信する。潜時推定部200は、呈示音の周波数及び呈示音の音圧毎に、N1成分の潜時を推定する。潜時推定部200は、呈示音の周波数及び呈示音の音圧毎のN1成分の潜時を、計測完了判定部210に送信する。
【0045】
(計測完了判定部210)
計測完了判定部210は、潜時推定部200から呈示音の周波数及び呈示音の音圧毎のN1成分の潜時を受信する。計測完了判定部210は、受信したN1成分の潜時の数が、予め定められた数以上の場合、計測完了の判定をする。計測完了判定部210は、予め定められた呈示音の音圧とN1成分の潜時との関係を参照して、周波数毎に、ラウドネス増加曲線を求める。詳細は、後述する。
【0046】
図6は、ラウドネス計測システム10の動作を示すフローチャートである。図6を用いて、ラウドネス計測システム10の動作の概要について説明する。
【0047】
(S100)
ラウドネス計測システム10は、計測開始の入力を受付けた後に、聴覚の計測を開始する。例えば、呈示音決定部110が、計測開始の入力を受け付ける。
【0048】
(S200)
呈示音決定部110は、音圧の値とラウドネスの値との関係のラウドネス対応関係を参照して、呈示音記憶部111に記憶されている音から複数の呈示音を決定する。典型パタンの選択に用いるために、呈示音決定部110が決定する呈示音を「初期呈示音」とも表記する。決定した複数の初期呈示音は、互いに異なる周波数であり、かつ、互いに同じラウドネスの値の音圧を有する。呈示音生成部120は、呈示音を呈示する順序及び呈示音を呈示する間隔を含む初期呈示音の情報を生成する。電気音響変換器130は、生成した初期呈示音の情報に基づいて、ユーザ100に呈示音を呈示する。脳波計測部150は、初期呈示音が呈示された時のユーザ100の脳波を計測する。
【0049】
(S300)
サンプルパタン生成部160は、初期呈示音に対する脳波を加算平均して、脳波のサンプルパタンを生成する。生成した脳波のサンプルパタンは、互いに異なる周波数を有する複数の音に対する脳波を加算平均している。典型パタン選択部180は、典型パタン記憶部170に記憶されているN1成分及びP2成分を含む複数の脳波の典型パタンを予め定められた伸縮範囲及び時間範囲で伸縮する。典型パタン選択部180は、伸縮した典型パタンと生成した脳波のサンプルパタンとを比較し、脳波のサンプルパタンに最も近い典型パタンを選択する。
【0050】
(S400)
呈示音制御部220は、互いに周波数及び音圧が異なる複数の呈示音を決定する。電気音響変換器130は、互いに周波数及び音圧が異なる複数の呈示音を、ユーザ100に呈示する。脳波計測部150は、呈示音が呈示された時のユーザ100の脳波を計測する。
脳波選択部190は、予め定められた伸縮範囲及び時間範囲で、S300で選択した典型パタンを伸縮し、計測した脳波と比較する。計測した脳波と最も近くなるように伸縮した典型パタンが有するN1成分の潜時を取得する。潜時推定部200は、脳波選択部190が取得したN1成分の潜時を用いて、呈示音の周波数及び呈示音の音圧毎に、N1成分の潜時を推定する。計測完了判定部210は、予め定められた呈示音の音圧とN1成分の潜時との関係を参照して、呈示音の周波数毎に、呈示音の音圧に対する推定されたN1成分の潜時の変化に対応するラウドネス増加曲線を求める。S200の処理と異なり、計測完了判定部210は、呈示音の周波数毎に、脳波を用いている。
【0051】
(S500)
計測完了判定部210は、周波数ごとのラウドネス増加曲線を出力し、計測を終了する。
【0052】
S300で典型パタンを伸縮させながら典型パタンを選択し、その典型パタンを利用してラウドネス曲線を求めている。その結果、脳波の時系列データに対してロバストにラウドネス曲線を生成することが可能になる。電位の個人差又は電極の装着位置によっても、計測される脳波の特徴が異なるため、典型パタンを利用することで、より正確なN1成分を含む事象関連電位の振幅又は潜時の値を計測できる。
【0053】
以下、図6に示すフローチャートの各ステップについて、詳細に説明する。
【0054】
図7は、図6に示すフローチャートにおけるステップS200の詳細を示すフローチャートである。
【0055】
(S201)
呈示音決定部110は、呈示音記憶部111に記憶されている音から、互いに異なる周波数を有する複数の音を選択する。呈示音決定部110は、予め保持するラウドネス対応関係を参照して、決定した複数の呈示音について、ラウドネスの値が同じになる音圧を決定する。つまり、呈示音決定部110は、複数の呈示音毎に、その周波数と音圧の情報を含む呈示音の情報を決定する。
【0056】
人間は、1kHzから3kHzまでの範囲の周波数を有する音を、感度良く聞き取ることができる。一方、人間は、1kHzより小さい周波数を有する音または3kHzより大きい周波数を有する音に対して、周波数により最小可聴値およびラウドネスが異なることが知られている。そこで、例えば、1kHzの音に対して健聴者が70dBSPLとなる音圧に基づいて、各周波数を決定する。例えば、500Hz、1kHz、2kHzの純音について、90dBPSLとなる音圧の値を決定する。
【0057】
(S202)
呈示音生成部120は、S201で決定した呈示音を呈示する順序及び呈示音の呈示する間隔を決定する。例えば、呈示音生成部120は、呈示音の呈示回数及び呈示音の呈示する呈示間隔の情報を予め保持している。呈示音生成部120は、呈示回数及び呈示間隔を参照して、呈示音の呈示する順序及び呈示音の呈示する間隔を決定する。呈示音生成部120は、同じ周波数を有する呈示音を連続して呈示しないように、呈示する順序を決定する。
【0058】
呈示音生成部120は、呈示音の呈示する回数及び呈示音の呈示する間隔の情報を受信し、受信した情報を用いて、呈示音の呈示する順序及び呈示音の呈示する間隔を決定しても良い。例えば、呈示間隔は、800msである。または、呈示間隔は、400ms以上1200ms以下の範囲から選択されるいずれかの時間である。呈示回数は、例えば、3回である。
【0059】
電気音響変換器130は、呈示音の周波数、呈示音の音圧の情報、呈示音を呈示する順序、及び呈示音を呈示する間隔を用いて、呈示音を音響信号に変換し、ユーザ100に呈示する。
【0060】
(S203)
脳波計測部150は、ユーザ100の頭皮上に装着した複数の電極140を用いて、ユーザ100の脳波を計測する。図26に、国際10−20法(10−20System)の電極位置を示す。図26は、人間の頭の上から見た図である。例えば、図26に示すFz、Cz、Pz、右目の右、右目の下、左マストトイド、右マストイドに計測電極142を装着し、鼻に基準電極141を装着する。「マストイド」とは、耳の裏の付け根の下部にある頭蓋骨の乳様突起である。脳波計測部150は、基準電極141と計測電極142との電位差に対応する脳波を計測する。
【0061】
(S204)
サンプルパタン生成部160は、呈示音毎に、脳波計測部150が計測した脳波から、呈示した時刻の起点として、一定の時間幅の脳波を切り出す。例えば、呈示音の提示時刻を起点として、−100ms以上400ms以下の範囲の脳波を切り出す。「-100ms」とは、呈示音の提示する時刻の100ms前を意味する。サンプルパタン生成部160は、呈示音毎に切り出した脳波を、加算平均して、脳波のサンプルパタンを生成する。つまり、サンプルパタン生成部160は、異なる周波数であり、かつ、ラウドネスが同じ初期呈示音に対する全ての脳波を加算平均した脳波のサンプルパタンを生成する。
【0062】
(S205)
典型パタン選択部180は、ステップS204で生成された脳波のサンプルパタンにおいて、N1成分及びP2成分が検出できるか否かを判断する。典型パタン選択部180は、呈示音を呈示した時刻を起点として、80ms以上130ms以下の範囲後に、第1の閾値以上の陰性ピークが検出する。検出した陰性ピークは、N1成分候補である。典型パタン選択部180は、呈示音を呈示した時刻を起点として、150ms以上から280ms以下の範囲後に、第2の閾値以上の陽性ピークが検出する。検出した陽性ピークは、P2成分候補である。
【0063】
N1成分候補およびP2成分候補の両方を検出できる場合、典型パタン選択部180は、脳波サンプルパタンからN1成分とP2成分が検出できると判断する。このとき、処理フローは、ステップS300へ進む。N1成分候補あるいはP2成分候補の少なくとも一方を検出できない場合は、典型パタン選択部180は、脳波サンプルパタンからN1成分とP2成分が検出できないと判断する。このとき、処理フローは、ステップ201に戻る。ステップ201に戻った時、呈示音決定部110は、前回決定した呈示音より大きいラウドネスを有する呈示音を決定する。
【0064】
図8は、図6に示すフローチャートにおけるステップS300の詳細を示すフローチャートである。典型パタン選択部180が、ステップS300の処理を行う。まず、典型パタン選択部180を説明する。図4は、典型パタン選択部180の詳細なブロック図である。典型パタン選択部180は、検出部181と、潜時差計算部182と、サンプルパタンマッチング部183とを備える。以下、それぞれの構成を説明する。
【0065】
(検出部181)
検出部181は、脳波のサンプルパタンにおいて、N1成分候補とP2成分候補を検出する。呈示音を呈示した時刻を起点として、80ms以上130ms以下の範囲後に、第1の閾値以上の陰性ピークが検出する。検出した陰性ピークは、N1成分候補である。典型パタン選択部180は、呈示音を呈示した時刻を起点として、150ms以上から280ms以下の範囲後に、第2の閾値以上の陽性ピークが検出する。検出した検出できたピークは、P2成分候補である。検出部181は、N1成分候補及びP2成分候補の潜時又は振幅を取得する。
【0066】
(潜時取得部182)
潜時取得部182は、P2成分の潜時及びN1成分の潜時の差分と、N1成分の時刻とP2成分の時刻とを取得する。
【0067】
(典型パタンマッチング部183)
典型パタンマッチング部183は、予め定める倍率とP2成分の潜時及びN1成分の潜時の差分とを用いて、伸縮範囲を決める。典型パタンマッチング部183は、予め定める時間範囲と、P2成分の潜時及びN1成分の潜時の差分、又はN1成分の時刻及びP2成分の時刻とを用いて、時間範囲を決める。
【0068】
典型パタンマッチング部183は、決定した伸縮範囲及び時間範囲を用いて、典型パタンを伸縮し、脳波のサンプルパタンと類似する伸縮した典型パタンを選択する。
【0069】
次に、図8に示すステップS300の処理を説明する。
【0070】
(S301)
検出部181は、ステップS205で検出したN1成分候補及びP2成分候補を用いて、N1成分とP2成分とを決定する。検出部181が1つのN1成分候補を検出した場合、そのN1成分候補をN1成分と決定する。検出部181が1つのP2成分候補を検出した場合、そのP2成分候補をP2成分と決定する。
【0071】
検出部181が複数のN1成分候補を検出した場合、それらから、1つのN1成分を決定する。検出部181が複数のP2成分候補を検出した場合、それらから、1つのP2成分を決定する。例えば、検出部181は、最も小さい電位の値を有する陰性ピークであるN1成分候補を、N1と決定する。最も小さい電位の値を有する陰性ピークは、最も大きい振幅を有する陰性ピークと同義である。または、検出181は、N1成分候補の潜時を取得する。検出部181は、予め保持する標準N1潜時の100msと最も近い潜時を有するN1成分候補を、N1成分と決定する。
【0072】
検出部181は、決定したN1成分の潜時を起点として80ms以上130ms以下の範囲後において、最も大きい電位の値を有する陽性ピークに対応するP2成分候補を、P2成分と決定する。最も大きい電位の値を有する陽性ピークは、最も大きい振幅を有する陽性ピークと同義である。
【0073】
(S302)
潜時取得部182は、P2成分の潜時及びN1成分の潜時の差分である潜時差を取得する。潜時取得部182は、N1成分の時刻及びP2成分の時刻を取得する。N1成分の時刻は、呈示音が呈示された時刻からN1成分までの経過時間に対応する。P2成分の時刻は、呈示音が呈示された時刻からP2成分までの経過時間に対応する。
【0074】
(S303)
典型パタン記憶部170は、N1成分とP2成分とを有する脳波の典型パタンを記憶している。例えば、脳波の典型パタンは、刺激からの時刻毎の電位の値の情報である。
【0075】
典型パタンマッチング部183は、後述するS305で用いる、典型パタンに含まれるN1成分及びP2成分の伸縮範囲を決定する。
【0076】
例えば、典型パタンマッチング部183は、予め定める倍率を保持している。典型パタンマッチング部183は、予め定める倍率を伸縮範囲として決定しても良い。または、典型パタンマッチング部183は、S302で取得した潜時差と予め定める倍率との積により、伸縮範囲を決定する。潜時差が100msで、予め定める倍率が0.8倍以上1.2倍以下の場合、典型パタンマッチング部183は、潜時差を80ms以上120ms以下とする伸縮範囲を決定する。
【0077】
なお、典型パタンごとに伸縮範囲を決定しても良い。全ての典型パタンについて、潜時を同じにするように時間軸上で標準化している場合、全ての典型パタンに共通する伸縮範囲を決定する。例えば、標準化された典型パタンとは、全ての典型パタンに含まれるN1成分の潜時とP2成分の潜時との差が100msである。
【0078】
(S304)
典型パタンマッチング部183は、後述するS305で用いる、脳波のサンプルパタンと、典型パタンとをマッチングする時間範囲を決定する。典型パタンマッチング部183は、脳波のサンプルパタンのN1成分の時刻およびP2成分の時刻と、予め定める時間幅の情報とを用いて、時間範囲を決定する。
【0079】
図27に、脳波サンプルパタンの例を示す。図27の縦軸は脳波に対応する電位であり、横軸は時間を示す。図27において、0μVの脳波の電位を有する時刻からN1成分を有する時刻までの時間をT1と表している。T1を立ち上がり時間と称する。図27において、P2成分を有する時刻から0μVの脳波の電位を有する時刻までの時間をT2と表している。T2を立下り時間と称する。
【0080】
N1成分の時刻の前である立ち上がり時間においても、N1成分の特徴が現れている。P2成分の時刻の後である立ち下がり時間においても、P2成分の特徴が現れている。したがって、典型パタンマッチング部183は、N1成分の時刻からP2成分の時刻に、立ち上がり時間と立ち下がり時間とを加えた時間を、マッチングする時間範囲として決定する。
【0081】
N1成分の時刻が100msであり、P2成分の時刻が200msの場合を考える。例えば、典型パタンマッチング部183は、立ち上がり時間を50ms、立ち下がり時間を80msとする時間幅の情報を保持している。N1成分の時刻から立ち下がり時間を引いた50msが時間範囲の下限となる。P2成分の時刻から立ち下がり時間を足した280msが時間範囲の上限となる。つまり、典型パタンマッチング部183は、50ms以上280ms以下の時間範囲を決定する。または、典型パタンマッチング部183は、立ち上がり時間をN1成分の潜時の0.4倍、立下り時間をN1とP2の潜時差の0.6倍として保持する。N1成分の時刻からN1成分の潜時の0.4倍の時間を引いた40msが時間範囲の下限となる。P2成分の時刻からP2成分の潜時の0.6倍を足した320msが時間範囲の上限となる。つまり、典型パタンマッチング部183は、40ms以上320ms以下の時間範囲を決定する。
【0082】
(S305)
典型パタンマッチング部183は、典型パタン記憶部170に記憶される典型パタンから、S204で生成した脳波のサンプルパタンと類似度を求める。
【0083】
具体的には、典型パタンマッチング部183は、S303で決定した伸縮範囲と、S304で決定した時間範囲とを用いて、典型パタンと脳波のサンプルパタンとをマッチングする。
【0084】
具体的には、ステップS304で決定した時間範囲において、脳波のサンプルパタンと典型パタンとの相関係数を求める。その際、S303で決定した伸縮範囲で典型パタンを伸縮して、脳波サンプルパタンと典型パタンとの相関係数を求める。
【0085】
図10に、マッチングの手順を模式的に示す。図10の縦軸は脳波に対応する電位であり、横軸は時間である。
【0086】
典型パタンを、決定した伸縮範囲で伸縮する。ここでは、伸縮範囲は0.9倍以上1.1倍以下とする。図10に示すように、0.9倍に伸縮した典型パタン1000、1.0倍に伸縮した典型パタン1003、及び1.1倍に伸縮した典型パタン1004を用意する。
【0087】
次に、決定した時間範囲(T3)において、脳波のサンプルパタンとS1001で伸縮した典型パタンとの相関係数を求める。
【0088】
図10に示す典型パタン1000は、時間範囲(T3)よりも短い時間の波形である。この場合、0.9倍に伸縮した典型パタン1000を時間方向にずらしながら、脳波のサンプルパタンとS1001で伸縮した典型パタンとの相関係数を求める。典型パタン1000が含まれる時間T4において、典型パタン1000と脳波のサンプルパタンとの相関係数を求める。次に、0.9倍に伸縮した典型パタン1000を、0.9倍に伸縮した典型パタン1001にずらす。典型パタン1001が含まれる時間T5において、典型パタン1001と脳波のサンプルパタンとの相関係数を求める。次に、0.9倍に伸縮した典型パタン1001を、0.9倍に伸縮した典型パタン1002にずらす。典型パタン1002が含まれる時間T6において、典型パタン1002と脳波のサンプルパタンとの相関係数を求める。例えば、10msずつ時間方向をずらして求めた最も高い相関係数を、0.9倍に伸縮した典型パタンと脳波のサンプルパタンとの相関係数とする。時間範囲T4、T5、T6は、決定した時間範囲(T3)に含まれる。
【0089】
なお、決定した時間範囲(T3)より長い時間幅を有する典型パタンを、典型パタン記憶部170に記憶しておいても良い。この場合には、決定した時間範囲(T3)において、典型パタンと脳波のサンプルパタンとの相関係数を求める。
【0090】
(S306)
典型パタンマッチング部183は、S305で求めた相関係数を参照して、最も高い相関係数を有する典型パタンを選択する。
【0091】
(S400)
図11は、図6に示すフローチャートにおけるステップS400の詳細を示すフローチャートである。脳波データ選択部190が、主に、ステップS400の処理を行う。まず、脳波データ選択部190を説明する。図5は、脳波データ選択部190のブロック図である。脳波データ選択部190は、パタン伸縮部191と、脳波切り出し部192と、パタンマッチング部193と、選択決定部194とを備える。
【0092】
(パタン伸縮部191)
パタン伸縮部191は、予め定めた伸縮範囲と時間範囲で典型パタンを伸縮する。
【0093】
(脳波切り出し部192)
脳波切り出し部192は、電気音響変換器130から呈示音を呈示した時刻を受信する。脳波切り出し部192は、計測した脳波のうち、呈示音が呈示された時点を起点として所定の時間幅の脳波を切り出す。
【0094】
(パタンマッチング部193)
パタンマッチング部193は、伸縮範囲と時間範囲の条件ごとに、パタン伸縮部191が伸縮した典型パタンと計測した脳波との相関関数を求めている。
【0095】
(選択決定部194)
選択決定部194は、パタンマッチング部193が求めた相関関数が最大となる典型パタンの伸縮範囲と時間範囲とを特定する。特定した伸縮範囲と時間範囲のときの典型パタンが有するN1成分の潜時を取得する。
【0096】
次に、図11に示すステップS400の処理を説明する。
【0097】
(S411)
呈示音制御部220は、互いに周波数が異なる複数の呈示音を決定する。S201と異なり、呈示音制御部220は、決定した周波数毎に、複数の異なる音圧を有する呈示音を決定する。
【0098】
(S412)
呈示音生成部120は、決定された呈示音を生成する。電気音響変換器130は、呈示音生成部120が生成した呈示音を音響信号に変換して、ユーザ100に呈示する。
【0099】
(S413)
脳波計測部150は、ユーザ100に装着した複数の電極140の電位差に対応する脳波を計測する。計測した脳波は、呈示音が呈示された時刻の脳波を含む。
【0100】
(S414)
脳波切り出し部192は、S413で計測した脳波のうち、呈示音が呈示された時点を起点として所定の時間幅の脳波を切り出す。例えば、脳波切り出し部192は、呈示音の呈示起点をとして、−100ms以上+400ms以下の区間の脳波を切り出す。
【0101】
(S415)
パタン伸縮部191は、あらかじめ定められた伸縮範囲内で、ステップS300で選択された典型パタンを伸縮する。例えば、パタン伸縮部191は、0.5倍以上1.5倍以下の範囲で典型パタンを伸縮する。パタンマッチング部193は、予め定められたマッチング範囲において、パタン伸縮部191で伸縮された典型パタンと、S414で切り出された脳波とをマッチングする。予め定められたマッチングする時間範囲は、例えば、呈示音の呈示された時点を起点として、70ms以上450ms以下の範囲である。
【0102】
パタンマッチング部193は、S300と同様に、図9に示すように、ステップS414で決定した時間範囲において、S413で計測した脳波と典型パタンとの相関係数を求める。パタンマッチング部193は、予め定めた伸縮範囲と時間範囲の条件ごとに、S413で計測した脳波と典型パタンとの相関係数を求めている。
【0103】
(S416)
パタンマッチング部193は、ステップS415で求めた相関係数の中で、最大の値が基準値以上であるか否かを判断する。この基準は、計測した脳波と典型パタンとの類似度の下限を示す。例えば、基準を0.5とする。最大の相関係数が基準以上である場合、ステップS417に進む。最大の相関係数が基準未満である場合、当該の脳波はデータとして採用しないものとして、ステップS418へ進む。
【0104】
(S417)
選択決定部194は、S415で求めた相関係数が最大となる典型パタンの伸縮範囲と時間範囲とを特定する。選択決定部194は、相関係数が最大となる時の典型パタンにおけるN1成分の潜時を取得する。選択決定部194は、典型パタンを利用して取得したN1成分の潜時を、S413で測定した脳波のN1成分の潜時として決定する。
【0105】
(S418)
計測完了判定部210は、予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定したか否かを判定する。計測完了判定部210は、呈示音の周波数毎に予め定められた数を保持しても良い。計測完了判定部210は、例えば、予め定められた数として、5個を保持する。
【0106】
計測完了判定部210が予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定したと判定した場合、ステップS420へ進む。計測完了判定部210が予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定していないと判定した場合、ステップS411へ戻る。
【0107】
(S421)
潜時推定部200は、呈示音の周波数及び音圧ごとに、平均したN1成分の潜時を求める。
【0108】
(S422)
計測完了判定部210は、呈示音の音圧ごとのN1成分の潜時を、呈示音の周波数ごとにまとめ、周波数ごとのラウドネス増加曲線を生成する。
【0109】
以下に説明する方法を用いて、計測完了判定部210は、ラウドネス増加曲線を生成する。計測完了判定部210は、呈示音の音圧及びN1成分の潜時と、ラウドネスとの関係を予め保持している。計測完了判定部210は、呈示音の音圧及びN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、ラウドネス増加曲線を生成する。
【0110】
図9(a)に、呈示音の音圧及びN1成分の潜時とラウドネスの関係との関係の一例として、健聴者の関係を示す。図9(a)の縦軸は潜時(ms)であり、横軸は呈示音の音圧(dBHL)である。図9(a)に示す網掛け部分は、健聴者が有する呈示音の音圧とN1成分の潜時の関係を示す。図9(a)に示していないが、呈示音の音圧とN1成分の潜時毎に、健聴者のラウドネスの値を保持している。計測完了判定部210は、網掛け部分の情報のうち、点線で示す境界部分の呈示音の音圧及びN1成分の潜時とラウドネスとの関係を有していても良い。
【0111】
図9(a)に示す白丸は、呈示音の音圧とS421で求めたN1成分の潜時に対応する値である。70dBHL以上の音圧を有する呈示音に対して、N1成分の潜時の分散が小さい。例えば、分散が小さい70dBHL以上の音圧に対するN1成分の潜時を用いて、ラウドネス増加曲線を生成する。測定した呈示音の音圧の全範囲で求めても良い。
【0112】
計測完了判定部210は、呈示音の音圧とN1成分の潜時の関係を参照して、呈示音の音圧とS421で求めたN1成分の潜時に対する差分を求める。図9(a)に、70dBHLの音圧を有する呈示音に対して、約120msの潜時を有するN1成分の点を示す。健聴者は、45dBHLの音圧を有する呈示音に対して、約120msのN1成分の潜時となる。70dBHLの音圧を有する呈示音に対するユーザ100のN1成分の潜時は、45dBHLの音圧を有する呈示音に対する健聴者のN1成分と同じになる。よって、45dBHLの音圧に対応する健聴者のラウドネスの値が、70dBHLの音圧を有する呈示音に対するユーザ100のラウドネスの値となる。図9(a)に示すように、80dBHLの音圧を有する呈示音に対するユーザ100のN1成分の潜時が、65dBHLの音圧を有する呈示音に対する健聴者のN1成分の潜時に対応する。また、90dBHLの音圧を有する呈示音に対するユーザ100のN1成分の潜時が、90dBHLの音圧を有する呈示音に対する健聴者のN1成分の潜時に対応する。
【0113】
図9(b)に、これらの結果に基づいて生成したラウドネス増加曲線を示す。図9(b)の縦軸はラウドネスであり、横軸は音圧(dBHL)である。図9(b)に示す実線は、70dBHL、80dBHL、90dBHLを有する呈示音に対する、ユーザ100のラウドネスの値を結んだ直線である。この実線が、生成したラウドネス増加曲線である。図9(b)に示す点線は、健聴者のラウドネス増加曲線である。なお、図9(b)でも示したように、ラウドネス増加曲線は曲線でなくても良いし、呈示音の音圧とラウドネスの値とを対応付けたテーブルでも良い。
【0114】
なお、本実施の形態では、典型パタンマッチング部183は、複数の典型パタンを選択し、パタンマッチング部193は、選択した典型パタンを用いて、計測した脳波とマッチングしても良い。例えば、典型パタンマッチング部183は、計測した脳波に対して所定の閾値より高い類似度を有する複数の典型パタンを選択できる。また、高い類似度を有する上位数個の典型パタンを選択することもできる。パタンマッチング部193は、選択した複数の典型パタンを用いて、計測した脳波とマッチングしても良い。脳波の電位の絶対値が小さい等のため脳波計測が難しく、典型パタンマッチング部183が選択する1つの典型パタンの場合、誤ったパタンを選択する可能性がある。典型パタンマッチング部183は、複数の典型パタンを選択することで、誤ったパタンを選択したときでも、別の典型パタンに変更できる。
【0115】
(実施の形態1の変形例)
図12は、実施の形態1のラウドネス計測システムを含む補聴器調整システムの構成を示す。図13に示すラウドネス計測システムは、実施の形態1の聴覚計測装置に加えて、HTL入力手段320と、補聴器入出力特性設定部330と、補聴器340とを備え、図13に示すラウドネス計測システムは、実施の形態1のラウドネス計測システムと比較して、呈示音決定部110が呈示音決定部310に置き換わり、呈示音制御部220が呈示音制御部350に置き換わった以外は同一の構成である。実施の形態1と同一の構成については同一の番号を付し、適宜説明を省略する。以下、実施形態1の聴覚計測装置と異なる構成を説明する。補聴器調整システムのそれぞれの構成は、有線又は無線で接続されている。
【0116】
(HTL入力部320)
HTL入力部320は、ユーザ100の周波数毎の最小可聴値(Hearing Threshold Level:HTL)を、呈示音決定部310及び呈示音制御部350に入力する。
【0117】
なお、HTL入力部320は、ユーザ100の周波数毎のHTLを予め保持しても良いし、外部からユーザ100の周波数毎のHTLを受け付けても良い。HTL入力部320は、例えば、テンキーとカーソルキーで構成される。
(呈示音決定部310)
呈示音決定部310は、呈示音記憶部111に記憶されている純音を参照して、互いに周波数が異なる純音である初期呈示音を決定する。
【0118】
呈示音決定部310は、HTL入力部320からHTLを受け付ける。呈示音決定部310は、予め保持するHTLと同じラウドネスの値を有する音圧の関係とを保持する。例えば、図14に、予め保持するHTLと同じラウドネスの値を有する音圧の関係を示す。図14は、HTL(dBSPL)と、それに対応するラウドネスの値との関係である。呈示音決定部310は、受け付けたHTLに対応するラウドネスの値が同じになる音圧を決定する。ラウドネス対応関係を参照して、周波数毎に、決定したラウドネスの値に対応する音圧を決定する。詳細については、後述する。
【0119】
つまり、呈示音決定部310は、受け付けたHTLと、予め保持するHTLと音圧の関係とを参照して、互いに周波数が異なり、かつ、同じラウドネスとなる音圧を有する初期呈示音を決定する。呈示音決定部310は、複数の呈示音の情報を呈示音生成部120に送信する。「呈示音の情報」は、呈示音の周波数及び音圧の情報を含む。
【0120】
(呈示音制御部350)
呈示音制御部350は、HTL入力部320からHTLを受け付ける。呈示音制御部350は、ユーザ100のラウドネスを測定するために、呈示音記憶部111に記憶されている音から、受け付けたHTLを参照して、互いに周波数及び音圧が異なる複数の音を決定する。呈示音制御部220は、決定した音の呈示回数及び呈示順序を決定する。呈示音制御部220は、複数の呈示音の情報、呈示音を呈示する順序、及び呈示音を呈示する間隔を電気音響変換器130に送信する。
【0121】
(特性設定部330)
特性設定部330は、予め定める健聴者のラウドネスと音圧との関係を保持する。特性設定部330は、測定完了判定部210から、ラウドネス増加曲線を受信する。特性設定部330は、予め定める健聴者のラウドネスと音圧との関係とラウドネス増加曲線との差分に対応する特性を設定する。特性設定部330は、補聴器340に設定した特性を送信する。
【0122】
(補聴器340)
補聴器340は、特性設定部330から受信したデータに基づいて、特性を設定する。
補聴器340は、外部から音を受信し、設定した特性に基づいて受信した音を調整して、ユーザ100に呈示する。
【0123】
図13に、補聴器調整システムの処理のフローチャートを示す。以下、上述の図6に示すラウドネス計測装置の処理のフローチャートと同一のステップを付しているステップは、同じ処理を行う。
(S200)
HTL入力部210は、周波数毎のHTLを、呈示音決定部301に入力する。例えば、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz毎のHTLを入力する。呈示音決定部301は、HTLと同じラウドネスの値を有する音圧の関係を参照して、受け付けたHTLに対応する音圧を決定する。呈示音決定部301は、受け付けた周波数と決定した音圧を参照して、呈示音記憶部111に記憶されている音から、互いに異なる周波数を有する複数の音を選択する。
【0124】
なお、呈示音決定部301は、受け付けたHTLを参照して、互いに異なる周波数を有する複数の音を選択し、その後、HTLと同じラウドネスの値を有する音圧の関係を参照して、選択した音の音圧を決定しても良い。
【0125】
呈示音生成部120、電気音響変換器130及び脳波計測部150は、実施形態1のラウドネス計測システムと同様の処理を行い、初期呈示音が呈示された時のユーザの脳波を計測する。
【0126】
(S300)
補聴器調整システムは、S300については、図6に示すラウドネス計測システムと同様の処理を行い、脳波のサンプルパタンに最も近い典型パタンを選択する。
【0127】
(S401)
呈示音制御部350は、HTL入力部320からHTLを受け付ける。呈示音制御部350は、予め定められたHTLと音圧の関係を参照して、互いに周波数及び音圧が異なる複数の呈示音を決定する。
【0128】
音響変換器130、脳波計測部150、脳波選択部190、潜時推定部200、計測完了判定部210は、実施形態1のラウドネス計測システムと同様の処理を行い、周波数毎のラウドネス増加曲線を出力する。
【0129】
(S500)
特性設定部330は、予め定める健聴者のラウドネスと音圧との関係を参照して、出力されたラウドネス増加曲線との差分に対応する特性を設定する。図15に、健聴者のラウドネスと音圧との関係1500と、難聴者のラウドネスと音圧との関係1501を示す。
出力されたラウドネス増加曲線が、難聴者のラウドネスと音圧との関係1501に対応する。特性設定部330は、例えば、図15に示す健聴耳のラウドネス増加曲線1500と難聴耳のラウドネス増加曲線1501との差分に対応する特性を設定する。難聴耳のラウドネスが健聴耳のラウドネスとの差が所定の値以上の場合、図15に示す白抜きの矢印で示す大きな利得を与える。難聴耳のラウドネスが健聴耳のラウドネスより所定の値より小さい場合、小さな利得を与えるもしくは利得を与えない。これにより、健聴耳の可聴範囲の音圧に対して、難聴耳の可聴範囲内に入るように調整する。特性設定部330は、設定した特性を補聴器340に送信する。補聴器340は、特性設定部330から受信したデータに基づいて、補聴器340の特性を設定する。
【0130】
なお、実施の形態1および実施の形態1の変形例において、マッチングは領域シフトによる相関係数の比較によって行ったが、電位の変化量を指標としてDPマッチングを行うものとしても良い。但し、DPマッチングの場合には、マッチング時の時間方向の伸縮に対して制限を設けて時間パタンの非線形な変形を防ぐ。
【0131】
(実施の形態1の変形例2)
図16は、実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システム12の一部を示す。実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システム12は、実施の形態1の典型パタン選択部180に含まれる潜時取得部182は有していないこと以外、実施形態1のラウドネス計測システム10と同様である。ラウドネス計測システム12のそれぞれの構成は、有線又は無線で接続されている。
【0132】
図8に示すステップS303では、典型パタンマッチング部183は、典型パタンを線形に伸縮して、脳波のサンプルパタンとマッチングする。また、図11に示すステップS415では、パタン伸縮部191が典型パタンを線形に伸縮して、切り出した脳波とマッチングする。
【0133】
一方、本変形例の典型パタンマッチング部183及びパタン伸縮部191は、典型パタンを非線形に伸縮する。本変形例の典型パタンマッチング部183及びパタン伸縮部191は、は、刺激提示時点である時間軸上の0点に近いところでは伸縮率が小さく、0点から遠いところでは伸縮率が大きくなるように非線形に伸縮する。脳波において、潜時の短い成分ほど、刺激の条件による潜時の変化が小さく、潜時の長い成分ほど刺激の条件による潜時の変化が大きい。したがって、上記の非線形な伸縮により、典型パタンと脳波のサンプルパタン又は切り出した脳波とマッチングし易くなり、推定の誤差が少なくなる。
【0134】
変形例2のラウドネス計測システムは、図6に示す処理と全体の処理は同じである。実施形態1のラウドネス計測システムの処理と異なる処理を説明する。図17及び19に、実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムの処理のフローチャートを示す。
【0135】
(S301)
検出部181は、脳波のサンプルパタンのN1成分及びP2成分を決定する。また、検出部181は、N1成分の時刻及びP2成分の時刻を取得する。
【0136】
(S1303)
典型パタンマッチング部183は、典型パタン記憶部170に記憶されている典型パタンそれぞれについて、後述するS305で用いる、典型パタンを時間軸上で伸縮する際の伸縮関数パラメータの範囲を決定する。
【0137】
図18に、伸縮前の時間位置と伸縮後の時間位置の一例を示す。図18に、実線で示す曲線は、波形の最大伸長を与える関数の例であり、例えば、2次曲線である。図18に、破線で示す曲線は、波形の最小伸縮を与える関数の例であり、実線より係数の小さい2次曲線である。
【0138】
図18に示すように、典型パタンの時間軸上の基準点を起点として、100ms以上300ms以下の時間区間、すなわち200msの区間について、最大伸長を与える関数を当てはめる。その結果、100msは10msに変換され、300msは360msに変換される。時間区間の時間長は、350ms(360ms−10ms)となる。100ms以上300ms以下の時間区間について、最小縮小を与える関数を当てはめる。その結果、100msは20msに変換され、300msは180msに変換される。時間区間の時間長は160ms(180ms−20ms)に縮小される。
【0139】
検出部181は、典型パタンのN1成分の潜時がステップS301で取得された脳波のサンプルパタンのN1成分の潜時より小さく、典型パタンのP2成分の潜時が脳波のサンプルパタンのP2成分の潜時より大きくなるように、最大伸長を与える関数のパラメータを決定する。また、典型パタンのN1成分の潜時が、脳波のサンプルパタンのN1成分の潜時より大きく、典型パタンのP2成分の潜時が脳波のサンプルパタンのP2潜時より小さくなるように、最小縮小を与える関数のパラメータを決定する。関数のパラメータは例えば、2次式の係数である。
【0140】
(S304)
典型パタンマッチング部183は、図8に示すS304と同様に、脳波のサンプルパタンのN1成分の時刻およびP2成分の時刻と、予め定める時間幅の情報とを用いて、時間範囲を決定する。
【0141】
(S1305)
典型パタンマッチング部183は、ステップS304で決定した時間範囲において、脳波のサンプルパタンと典型パタンとの相関係数を求める。その際、S1303で決定した関数のパラメータを用いて典型パタンを伸縮して、脳波サンプルパタンと典型パタンとの相関係数を求める。
【0142】
(S1306)
典型パタンマッチング部183は、S305で求めた相関係数を参照して、最も高い相関係数を有する典型パタンを選択する。典型パタンマッチング部183は、選択した典型パタンについて、ステップS1303で決定された最大伸長を与える関数のパラメータと最小縮小を与える関数のパラメータとを脳波選択部190に出力する。
【0143】
図19に、実施の形態1の変形例2のラウドネス計測システムのステップS400の処理を示す。
【0144】
(S411)
呈示音制御部220は、互いに周波数が異なる複数の呈示音を決定する。S201と異なり、呈示音制御部220は、決定した周波数毎に、複数の異なる音圧を有する呈示音を決定する。
【0145】
(S412)
呈示音生成部120は、決定された呈示音を生成する。電気音響変換器130は、呈示音生成部120が生成した呈示音を音響信号に変換して、ユーザ100に呈示する。
【0146】
(S413)
脳波計測部150は、ユーザ100に装着した複数の電極140の電位差に対応する脳波を計測する。
【0147】
(S414)
脳波切り出し部192は、S413で計測した脳波のうち、呈示音が呈示された時点を起点として所定の時間幅の脳波を切り出す。例えば、脳波切り出し部192は、呈示音の呈示起点をとして、−100ms以上+400ms以下の区間の脳波を切り出す。
【0148】
(S1415)
パタン伸縮部191は、S1306で出力された最大伸長を与える関数のパラメータと最小縮小を与える関数のパラメータとを用いて、典型パタンを伸縮し、ステップS414で切り出した脳波との相関係数を求める。切り出し位置を順次シフトして伸縮された典型パタンと切り出された脳波の相関係数を求める。
【0149】
(S416)
パタンマッチング部193は、ステップS415で求めた相関係数の中で、最大の値が基準値以上であるか否かを判断する。この基準は、計測した脳波と典型パタンとの類似度の下限を示す。例えば、基準を0.5とする。最大の相関係数が基準以上である場合、ステップS417に進む。最大の相関係数が基準未満である場合、当該の脳波はデータとして採用しないものとして、ステップS418へ進む。
【0150】
(S417)
選択決定部194は、S415で求めた相関係数が最大となる典型パタンの伸縮範囲と時間範囲とを特定する。選択決定部194は、相関係数が最大となる時の典型パタンにおけるN1成分の潜時を取得する。選択決定部194は、典型パタンを利用して取得したN1成分の潜時を、S413で測定した脳波のN1成分の潜時として決定する。
【0151】
(S418)
計測完了判定部210は、予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定したか否かを判定する。計測完了判定部210は、呈示音の周波数毎に予め定められた数を保持しても良い。計測完了判定部210は、例えば、予め定められた数として、5個を保持する。
【0152】
計測完了判定部210が予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定したと判定した場合、ステップS420へ進む。計測完了判定部210が予め定められた数以上の脳波のN1成分が決定していないと判定した場合、ステップS411へ戻る。
【0153】
(S421)
潜時推定部200は、呈示音の周波数及び音圧ごとに、平均したN1成分の潜時を求める。
【0154】
(S422)
計測完了判定部210は、呈示音の音圧ごとのN1成分の潜時を、呈示音の周波数ごとにまとめ、周波数ごとのラウドネス増加曲線を生成する。
【0155】
以上のように構成されたラウドネス計測システムは、典型パタンを時間軸上で非線形に伸縮してマッチングすることにより、脳波の各成分の潜時に合わせた変形が可能になり、より精度の高いマッチングができる。その結果、少ない計測回数で、N1成分の潜時を正確に計測することができ、ラウドネス増加曲線を短時間に計測することができる。
【0156】
(実施の形態2)
図20は、実施の形態2のラウドネス計測システム21の構成を示す。図20に示すラウドネス計測システム21は、実施の形態1のラウドネス計測システム10のパタン記憶部170がパタン記憶部470aから470cに置き換わり、典型パタン選択部180が典型パタン選択部480に置き換わり、呈示音制御部220が呈示音制御部420に置き換わり、スイッチ410が付け加わった以外は同一の構成である。実施の形態1と同一の構成については同一の番号を付し、適宜説明を省略する。
【0157】
ラウドネス計測システム21は、呈示音決定部110と、呈示音生成部120と、電気音響変換部130と、脳波計測部150と、サンプルパタン生成部160と、典型パタン記憶部470と、典型パタン記憶部471と、典型パタン記憶部472と、典型パタン選択部180と、スイッチ410と、脳波選択部190と、潜時推定部200と、計測完了判定部210と、呈示音制御部220とを備える。図1において、説明の便宜上示すユーザ100は、ラウドネス計測システム21の構成要素ではない。
【0158】
ラウドネス計測システム21は、図6に示す処理と全体の処理は同じである。実施形態1のラウドネス計測システムの処理と異なる処理を説明する。図21に、実施の形態2のラウドネス計測システム21の処理のフローチャートを示す。実施の形態1と同様の動作については適宜説明を省略する。
【0159】
(S100)
ラウドネス計測システム10は、計測開始の入力を受付けた後に、聴覚の計測を開始する。例えば、呈示音決定部110が、計測開始の入力を受け付ける。
【0160】
(S200)
呈示音決定部110は、音圧の値とラウドネスの値との関係のラウドネス対応関係を参照して、呈示音記憶部111に記憶されている音から複数の初期呈示音を決定する。決定した複数の初期呈示音は、互いに異なる周波数であり、かつ、互いに同じラウドネスの値の音圧を有する。呈示音生成部120は、呈示音を呈示する順序及び呈示音を呈示する間隔を含む初期呈示音の情報を生成する。電気音響変換器130は、生成した初期呈示音の情報に基づいて、ユーザ100に呈示音を呈示する。脳波計測部150は、初期呈示音が呈示された時のユーザ100の脳波を計測する。
【0161】
ステップS200においては、図7に示すステップS201からステップS205の動作を行う。典型パタン記憶部470から472に記憶されている典型パタンは、呈示音の呈示間隔の情報を保持している。S202において、呈示音生成部120は、記憶部470から472から呈示音の呈示間隔の情報を受信し、それらの呈示間隔より長い呈示間隔を決定する。また、呈示音生成部120は、所定の呈示間隔以下とする情報を保持しても良い。ここでの呈示間隔は、同一の周波数を有する複数の呈示音が呈示される間隔としても良い。例えば、1000Hzを有する呈示音(第1音)、4000Hzを有する呈示音(第2音)、2000Hzを有する呈示音(第3音)、1000Hzの呈示音(第4音)をそれぞれ500msの間隔を空けて順に呈示した場合を考える。最初の1000Hzを有する呈示音(第1音)と、次の1000Hzを有する呈示音(第4音)が呈示されるまでの時間間隔は、1500ms(500ms+500ms+500ms)である。
【0162】
本実施の形態2のステップS200において、典型パタン記憶部470から典型パタン記憶部471に記憶されている音が有する最も大きい呈示間隔に対応する呈示間隔以上で音を呈示する。例えば、3秒以上の呈示間隔で呈示された音に対する脳波を計測する。
【0163】
図22(a)(b)(c)に、典型パタン記憶部470から典型パタン記憶部472に記憶された典型パタンの呈示音の呈示間隔の影響を受けて変形する様子を示す。ユーザ100が呈示される音を予測できる場合、事象関連電位が変化することが知られている。そのため、ユーザ100が呈示音を予測できないように、異なる周波数を有する複数の呈示音をランダムに呈示している。このとき、呈示音の提示順序によって、呈示音の呈示間隔が変化する。呈示音の呈示間隔が変わると、N1成分およびP2成分の振幅が変化することが知られている。図22(a)(b)(c)に、呈示音の呈示間隔が3秒以上の場合の波形、2秒以上3秒より短い場合の波形、呈示間隔が1.5秒以上2秒より短い場合の波形をそれぞれ示す。例えば、図22(a)に示す波形は、呈示間隔が3秒以上の場合には、N1成分の振幅とP2成分の振幅が同程度である。しかし、2秒以上3秒より短い場合の波形、呈示間隔が1.5秒以上2秒より短い場合の波形になるにつれて、P2成分の振幅が減少している。図22(b)に示す波形も、図22(a)に示す波形と同様に、呈示間隔が短くなるにつれて、P2成分の振幅が減少している。図22(c)に示す波形は、呈示間隔が短くなるにつれて、N1成分の振幅が減少している。例えば、典型パタン記憶部470は、図22(a)に示す波形を記憶している。典型パタン記憶部471は、図22(b)に示す波形を記憶している。典型パタン記憶部472は、図22(c)に示す波形を記憶している。
【0164】
(S2300)
サンプルパタン生成部160は、初期呈示音に対する脳波を加算平均して、脳波のサンプルパタンを生成する。典型パタン選択部180は、典型パタン記憶部470から典型パタン記憶部472に記憶されているN1成分及びP2成分を含む複数の脳波の典型パタンを予め定められた伸縮範囲及び時間範囲で伸縮する。典型パタン選択部180は、伸縮した典型パタンと生成した脳波のサンプルパタンとを比較し、脳波のサンプルパタンに最も近い典型パタンを選択する。
【0165】
(S2400)
呈示音制御部220は、互いに周波数及び音圧が異なる複数の呈示音を決定する。電気音響変換器130は、互いに周波数及び音圧が異なる複数の呈示音を、ユーザ100に呈示する。脳波計測部150は、呈示音が呈示された時のユーザ100の脳波を計測する。
脳波選択部190は、予め定められた伸縮範囲及び時間範囲で、S2300で選択した典型パタン記憶部470から典型パタン記憶部472に記憶されているうちの1つに記憶された典型パタンを伸縮し、計測した脳波と比較する。潜時推定部200は、脳波選択部190が取得したN1成分の潜時を用いて、呈示音の周波数及び呈示音の音圧毎に、N1成分の潜時を推定する。計測完了判定部210は、予め定められた呈示音の音圧とN1成分の潜時との関係を参照して、呈示音の周波数毎に、呈示音の音圧に対する推定されたN1成分の潜時の変化に対応するラウドネス増加曲線を求める。
【0166】
(S500)
計測完了判定部210は、周波数ごとのラウドネス増加曲線を出力し、計測を終了する。
【0167】
図23は、典型パタン選択部480の詳細な構成を示す。図24は、ラウドネス計測システム21の処理のステップS2300を示すフローチャートである。
【0168】
図23に示す典型パタンマッチング部183は、典型パタンマッチング部483に置き換わった以外は図4と同様である。典型パタン選択部480は、検出部181と、潜時取得部182と、典型パタン記憶部470、471、472を切り替えるスイッチ410とパタンマッチング部483とを備える。
【0169】
(S301)
検出部181は、ステップS205で検出したN1成分候補及びP2成分候補を用いて、N1成分とP2成分とを決定する。検出部181が1つのN1成分候補を検出した場合、そのN1成分候補をN1成分と決定する。検出部181が1つのP2成分候補を検出した場合、そのP2成分候補をP2成分と決定する。
【0170】
(S302)
潜時取得部182は、P2成分の潜時及びN1成分の潜時の差分である潜時差を取得する。潜時取得部182は、N1成分の時刻及びP2成分の時刻を取得する。N1成分の時刻は、呈示音が呈示された時刻からN1成分までの経過時間に対応する。P2成分の時刻は、呈示音が呈示された時刻からP2成分までの経過時間に対応する。
【0171】
(S2301)
典型パタンマッチング483は、スイッチ410を切り替え、典型パタン記憶部470から472のいずれかを接続する。以下、パタンマッチング部483と典型パタン記憶部470と接続したものとして説明する。
【0172】
(S2302)
パタンマッチング部183は、典型パタン記憶部470に記憶されている典型パタンに含まれるN1成分及びP2成分の伸縮範囲を決定する。伸縮範囲の決定方法は、図8に示すS303と同様である。
【0173】
(S304)
典型パタンマッチング部183は、脳波のサンプルパタンと、典型パタンとをマッチングする時間範囲を決定する。図8に示すS304と同様である。
【0174】
(S2304)
典型パタンマッチング部483は、決定した伸縮範囲と時間範囲とを用いて、典型パタン記憶部470に記憶されている最も大きい呈示間隔を有する複数の典型パタンと脳波のサンプルパタンとの間の相関係数を求める。
【0175】
(S2305)
パタンマッチング部483は、典型パタン記憶部470から472に含まれる全ての典型パタン系列についてマッチングを行ったか否かを確認する。パタンマッチング部483は、典型パタン記憶部470から472に含まれる全ての典型パタンと脳波のサンプルパタンとの間の相関係数を求めている場合には、ステップS2306に進む。N1−P2典型パタン記憶部470から472に含まれるいずれか典型パタンと脳波のサンプルパタンとの間の相関係数を求めていない場合には、ステップS2301に戻る。
【0176】
(S2306)
典型パタンマッチング部183は、S305で求めた相関係数を参照して、最も高い相関係数を有する典型パタンを選択する。
【0177】
図25は、図21に示すフローチャートにおけるステップS2400の詳細を示すフローチャートである。ステップS2400は呈示音提示ごとの脳波に対する処理(S2410)とステップS410で処理された結果を呈示音種類ごとにまとめる処理(S420)とを有する。
【0178】
図25は、本実施の形態の動作の一部であるステップS2410の動作の詳細を示すフローチャートである。
【0179】
(S2411)
典型パタン選択部480に含まれる典型パタンマッチング部483は、ステップS2300で選択した典型パタンを記憶する典型パタン記憶部470から472のうち1つの記憶部にスイッチ410を接続する。例えば、典型パタン記憶部470にスイッチ410を接続する。
【0180】
(S2412)
呈示音制御部420は、あらかじめ定められたラウドネス増加曲線を計測するための呈示音のうち、計測が完了していない呈示音の1つを決定し、かつ、その呈示音の出力時刻を決定する。呈示音制御部420は、呈示音の種類と出力時刻を、呈示音生成部120と典型パタン選択部480に送信する。
【0181】
(S412)
呈示音生成部120は、決定された呈示音を生成する。電気音響変換器130は、生成された呈示音を、ユーザ100に呈示する。
【0182】
(S413)
脳波計測部150は、ユーザ100の頭皮上に装着した複数の電極140の電位差に対応する脳波を計測する。計測した脳波は、呈示音の呈示時刻の前後の時間を含む。
【0183】
(S414)
脳波データ選択部190は、ステップS413で記録された脳波より、呈示音の呈示時刻を基点として、一定の時間幅で脳波を切り出す。
【0184】
(S2414)
典型パタン選択部480に含まれる典型パタンマッチング部483は、呈示音の呈示間隔を参照して、ステップS2300で選択した典型パタンに対応する典型パタンを抽出し、脳波データ選択部190に送信する。典型パタンマッチング部483は、ステップS2412において、呈示音制御部420より出力された呈示音の種類と出力時刻とに基づき、先行する呈示音のうち、同一の周波数の呈示音を提示した時刻から当該呈示音の呈示音出力時刻までの時間間隔を求める。求めた時間間隔を呈示間隔とする。
【0185】
(S415)
利用脳波選択部190に含まれるパタン伸縮部191は、ステップS2414で抽出した典型パタンを時間方向に伸縮し、利用脳波データ選択部190のうちパタンマッチング部193は伸縮した典型パタンとステップS414で切り出した脳波との相関係数を求める。パタン伸縮部191は、実施の形態1のステップS415と同様に、たとえば、0.5倍以上1.5倍以下に典型パタンを線形に伸縮する。
【0186】
パタンマッチング部193は、パタン伸縮部191で伸縮された典型パタンと同一の時間幅の脳波をS414で切り出された脳波のマッチング範囲内で切り出す。実施の形態1と同様、マッチング範囲はあらかじめ定められたものとし、範囲は例えば、呈示音の提示を0として+70msから+450msまでとする。実施の形態1と同様、切り出し位置を順次シフトして伸縮された典型パタンと切り出された脳波の相関係数を求める。
【0187】
(S416)
パタンマッチング部193は、ステップS415で典型パタンの伸縮率とマッチング範囲での切り出し区間の組み合わせによる各条件で計算された相関係数の中で、最大の値が基準値以上であるか否かを判断する。基準は、計測された脳波と典型パタンの類似度の下限を定める。例えば、0.5とする。最大の相関係数が基準以上である場合、ステップS417に進む。最大の相関係数が基準未満である場合、当該の脳波はデータとして採用しないものとして、ステップS418へ進む。
【0188】
(S417)
ステップS416において最大の相関係数が基準以上である場合は、選択決定部194は相関係数が最大となる典型パタンの伸縮率と、相関係数計算時の脳波切り出し範囲を特定する。典型パタンの伸縮率と切り出し範囲から、脳波の時間軸上で、典型パタンのN1ピークが対応する時間位置を特定する。典型パタンのN1成分のピークが対応する時間軸上の位置を当該脳波のN1成分の潜時とする。
【0189】
(S418)
計測完了判定部210は、あらかじめ定められたラウドネス増加曲線計測用の各呈示音に対して、あらかじめ定められた数以上の脳波が採用されたかどうかを判断する。あらかじめ定められた数は例えば5個以上とする。ステップS418において、全呈示音について、採用された脳波の個数が必要数を満たしている場合、ステップS420へ進む。ステップS418において、呈示音に対して採用された脳波の個数が必要数を満たしていない呈示音がある場合はステップS2412へ戻る。
【0190】
(S421)
ステップS418において計測完了と判断された場合は、計測完了判定部210は呈示音の種類ごとに採用された脳波の、N1潜時の推定値を平均する。計測完了判定部210は、呈示音の種類(少なくとも音圧を含む)ごとに計算された平均N1潜時を呈示音の周波数ごとにまとめ、周波数ごとのラウドネス増加曲線を生成する。実施形態1で説明した図9に示す方法で、ラウドネス増加曲線を求める。
【0191】
以上のように構成されたラウドネス計測システムは、互いに異なる周波数であり、かつ同じラウドネスの値の音圧を有する複数の呈示音による初期計測を行い、個人の特性に合わせた聴性誘発電位の典型パタンを選択する。選択した典型パタンとのマッチングにより加算平均しない個別の脳波の誘発電位の潜時を推定して、ラウドネス増加曲線を生成する。その結果、少ない計測回数で誘発電位の潜時を正確に計測することができ、ラウドネス増加曲線を短時間に計測することができる。
【0192】
なお、本実施の形態2では、ステップS200での初期計測の呈示間隔は、例えば、3秒以上としている。さらに、ステップS2300で典型パタンを選択する際には、典型パタン記憶部470から472に記憶された最大の呈示間隔を有する典型パタンと、初期計測によるサンプルパタンとのマッチングを行っている。
【0193】
しかし、ステップS200での初期計測の呈示間隔を3秒未満としても良い。この場合、すなわち、N1−P2典型パタン記憶部470から472に記憶された典型パタンが有する呈示音間隔のうち最大の呈示間隔より短い時間間隔で初期呈示音を呈示する。ステップS2300では、典型パタン記憶部470から472に記憶されている典型パタンのうち、初期計測の呈示間隔に対応する典型パタンを用いてマッチングを行う。なお、典型パタンを線形伸縮でなく、実施の形態1の変形例2のような非線形伸縮でもよい。
【0194】
図29は、ラウドネス計測システム10、11、12、21のハードウェア構成を示す。ラウドネス計測システムは、CPU30と、メモリ31と、オーディオコントローラ32とを備えている。CPU30と、メモリ31と、オーディオコントローラ32とは、互いにバス34で接続されており、相互にデータの授受が可能である。
【0195】
CPU30は、メモリ31に格納されているコンピュータプログラム35を実行する。コンピュータプログラム35には、後述するフローチャートに示される処理手順が記述されている。ラウドネス計測システムは、このコンピュータプログラム35にしたがって、呈示音の決定、脳波の測定、ラウドネス増加曲線の生成等の処理を行う。この処理は後に詳述する。
【0196】
オーディオコントローラ32は、CPU30の命令に従って、それぞれ、電気音響変換器130を介して呈示音を出力する。
【0197】
なお、ラウドネス計測システムは、1つの半導体回路にコンピュータプログラムを組み込んだDSP等のハードウェアとして実現されてもよい。そのようなDSPは、1つの集積回路で上述のCPU30、メモリ31、オーディオコントローラ32の機能を全て実現することが可能である。
【0198】
上述のコンピュータプログラム35は、CD−ROM等の記録媒体に記録されて製品として市場に流通され、または、インターネット等の電気通信回線を通じて伝送され得る。図29に示すハードウェアを備えた機器(たとえばPC)は、当該コンピュータプログラム35を読み込むことにより、本実施形態によるラウドネス計測システムとして機能し得る。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明にかかるラウドネス計測システム及び補聴器調整システム等は、聴覚機能を計測する場合に広く利用可能であり、スピーカやヘッドホン等の音響機器の出力調整や、補聴器等の聴覚機能を補償する機器をその利用者個人の聴覚の状態に調整する機器を構築する場合に有用である。
【符号の説明】
【0200】
10、11、12、21 ラウドネス計測システム
100 ユーザ
110 呈示音決定部
120 呈示音生成部
130 電気音響変換器
140 電極
150 脳波計測部
160 サンプルパタン生成部
170、470a、470b、470c 典型パタン記憶部
180、480 典型パタン選択部
181 検出部
182 潜時取得部
183、483 典型パタンマッチング部
190 脳波選択部
191 パタン伸縮部
192 脳波切り出し部
193 パタンマッチング部
194 選択決定部
200 潜時推定部
210 計測完了判定部
220、420 呈示音制御部
320 HTL入力部
330 特性設定部
340 補聴器
410 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる周波数であり、かつ、人間が受ける感覚的な音の大きさであるラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音を、ユーザに呈示するステップと、
前記初期呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測するステップと、
典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンを伸縮させながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較し、前記事象関連電位と類似する典型パタンを選択する典型パタン選択ステップと、
互いに異なる周波数であり、かつ、異なる音圧を有する複数の呈示音を、前記ユーザに呈示するステップと、
前記呈示音を呈示した時の前記ユーザの脳波を計測するステップと、
前記選択した典型パタンを伸縮し、かつ、前記脳波のうち前記複数の呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と最も類似するように伸縮した典型パタンに含まれるN1成分を取得する脳波選択ステップと、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値を、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧としてラウドネス増加曲線を求めるステップとを
有するラウドネス測定方法。
【請求項2】
事象関連電位を含む脳波の典型パタンは、音が呈示されてからの経過時間と電位とを対応付けた情報であり、
前記典型パタン選択ステップは、前記典型パタンの時間方向に伸縮させて、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較する、
請求項1に記載のラウドネス計測方法。
【請求項3】
前記事象関連電位は、音が呈示された時点から50ms以上150ms以下の範囲後の陰性成分であるN1成分と、音が呈示された時点から150ms以上300ms以下の範囲後の陽性成分であるP2成分とを含む、
請求項1に記載のラウドネス計測方法。
【請求項4】
前記典型パタン選択ステップは、前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位に含まれるN1成分の潜時及びP2成分の潜時の差を、予め定める倍率に伸縮しながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較する、
請求項3に記載のラウドネス計測方法。
【請求項5】
前記典型パタン選択ステップは、前記複数の初期呈示音の時刻から時間が経過する毎に、伸縮率が大きくなるように伸縮しながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較する、
請求項3に記載のラウドネス計測方法。
【請求項6】
前記典型パタン選択ステップは、前記事象関連電位に含まれるN1成分の時刻及びP2成分の時刻を用いて決定した時間範囲に含まれる、前記事象関連電位と前記典型パタンとを比較する、
請求項3に記載のラウドネス計測方法。
【請求項7】
ラウドネス増加曲線を求めるステップは、前記呈示音の周波数毎に、互いに異なる複数の音圧を有する複数の呈示音から取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値と、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧として、ラウドネス増加曲線を求める、
請求項1に記載のラウドネス計測方法。
【請求項8】
前記複数の初期呈示音を、ユーザに呈示するステップは、前記典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンの有する呈示間隔以上の間隔で、前記初期呈示音を呈示する、
請求項1に記載のラウドネス計測方法。
【請求項9】
請求項1に記載のラウドネス計測方法と、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスと基準音の音圧との関係を参照して、前記ラウドネス増加曲線を求めるステップで取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値と対応する基準音の音圧を決定し、前記決定した基準音の音圧と前記N1成分を取得した時の呈示音の音圧との差分を設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定した差分に基づいて、補聴器を調整するステップとを
有する補聴器調整方法。
【請求項10】
互い異なる周波数であり、かつ、人間が受ける感覚的な音の大きさであるラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音と、互い異なる周波数であり、かつ、異なる音圧を有する複数の呈示音とを、ユーザに呈示する呈示部と
前記ユーザの脳波を計測する脳波計測部と、
事象関連電位を含む脳波の典型パタンを複数記憶している典型パタン記憶部と、
前記典型パタンを伸縮させながら、前記典型パタンと前記脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と比較して、前記事象関連電位と類似する典型パタンを選択する典型パタン選択部と、
前記選択した典型パタンを伸縮し、かつ、前記脳波のうち前記複数の呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と最も類似する伸縮した典型パタンに含まれるN1成分の潜時を取得する脳波選択部と、
予め定めたN1成分の潜時と呈示音の音圧とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値を、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧としてラウドネス増加曲線を求める計測完了判定部とを、
備えるラウドネス計測システム。
【請求項11】
請求項10に記載のラウドネス計測システムと、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスと基準音の音圧との関係を参照して、前記ラウドネス増加曲線を求めるステップで取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値と対応する基準音の音圧を決定し、前記決定した基準音の音圧と前記N1成分を取得した時の呈示音の音圧との差分を補聴器の調整の特性として設定する特性設定部とを
備えた補聴器調整システム。
【請求項12】
コンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対し、
互い異なる周波数であり、かつ、人間が受ける感覚的な音の大きさであるラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音を、ユーザに呈示するステップと、
前記初期呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測するステップと、
典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンを伸縮させながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較し、前記事象関連電位と類似する典型パタンを選択する典型パタン選択ステップと、
互い異なる周波数であり、かつ、異なる音圧を有する複数の呈示音を、前記ユーザに呈示するステップと、
前記呈示音を呈示した時の前記ユーザの脳波を計測するステップと、
前記選択した典型パタンを伸縮し、かつ、前記脳波のうち前記複数の呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と最も類似するように伸縮した典型パタンに含まれるN1成分を取得する脳波選択ステップと、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値を、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧としてラウドネス増加曲線を求めるステップとを
実行させるコンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対し、
互い異なる周波数であり、かつ、人間が受ける感覚的な音の大きさであるラウドネスが同じ値となる音圧を有する複数の初期呈示音を、ユーザに呈示するステップと、
前記初期呈示音を呈示した時のユーザの脳波を計測するステップと、
典型パタン記憶部に記憶している事象関連電位を含む脳波の典型パタンを伸縮させながら、前記典型パタンと前記計測した脳波のうち前記複数の初期呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位とを比較し、前記事象関連電位と類似する典型パタンを選択する典型パタン選択ステップと、
互い異なる周波数であり、かつ、異なる音圧を有する複数の呈示音を、前記ユーザに呈示するステップと、
前記呈示音を呈示した時の前記ユーザの脳波を計測するステップと、
前記選択した典型パタンを伸縮し、かつ、前記脳波のうち前記複数の呈示音の時刻から所定時間後の事象関連電位と最も類似するように伸縮した典型パタンに含まれるN1成分を取得する脳波選択ステップと、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスとの関係を参照して、取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値を、前記N1成分が含まれる脳波を計測したときの呈示音の音圧としてラウドネス増加曲線を求めるステップと、
予め定めたN1成分の潜時とラウドネスと基準音の音圧との関係を参照して、前記ラウドネス増加曲線を求めるステップで取得したN1成分の潜時と対応するラウドネスの値と対応する基準音の音圧を決定し、前記決定した基準音の音圧と前記N1成分を取得した時の呈示音の音圧との差分を設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定した差分に基づいて、補聴器を調整するステップとを
実行させるコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate


【公開番号】特開2012−223314(P2012−223314A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92690(P2011−92690)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】