説明

ラクチドの製造方法

【課題】乳酸オリゴマーの解重合・環化によるラクチド製造における、スズ化合物触媒使用時の欠点を克服し、高い光学純度および化学純度のラクチドを得る。
【解決手段】特定の有機オニウム塩の存在下に、乳酸オリゴマーを減圧雰囲気で加熱することにより解重合・環化させてラクチドを生成させることを特徴とするラクチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸オリゴマーを解重合・環化してラクチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ−L−乳酸に代表されるポリヒドロキシカルボン酸は、機械的特性、物理的性質、化学的性質に優れている上に自然環境下で分解され、最終的には微生物によって水と炭酸ガスになるという生分解性の機能も有しており、近年医療用材料や、汎用樹脂代替等、様々な分野で注目されており、今後もその需要が大きく伸びることが期待されている。
【0003】
ポリ−L−乳酸の製造方法としては、乳酸の直接脱水重縮合法(特許文献1)や、乳酸の環状ジエステルモノマーであるL−ラクチドの開環重合法(ラクチド法)、またはL−乳酸のオリゴマーを経由するなどの間接重合法(「ラクチド法」も広義の間接重合法に含まれる)が挙げられる。
【0004】
【化1】

【0005】
これらの製造方法のうち、ラクチド法は、乳酸を重縮合させた乳酸オリゴマーを解重合・環化してラクチドとし、これを開環重合してポリ乳酸を得るというプロセスが一般的である。直接脱水重縮合法と比較すると、ラクチド法は製造工程が長く、設備コスト及び製造コストが大きくなるという点で不利ではあるが、高分子量のポリ−L−乳酸を得る技術が早期に開発されたことから、ポリ乳酸の工業生産において主流となっている。
【0006】
ラクチド法において、ラクチドは、乳酸オリゴマーを触媒存在下で解重合・環化(熱分解と称されることもある)してラクチドを生成させ、これを溜去させる方法で製造されている(例えば、特許文献2〜4)。その解重合・環化の際の触媒(以下、解重合触媒と称する)としては、様々な金属や金属化合物が活性を有することが知られており、なかでもスズ化合物が好ましいとされており、代表的なものは、ジ(2−エチルヘキサン)酸スズ(II)、つまり、いわゆるオクチル酸スズである(特許文献2においては、錫ジオクトエートとの化合物名で記載されている)。オクチル酸スズは、触媒活性が高いうえに、室温でも液状で扱い易く、有機溶媒や溶融状態の高分子化合物といった有機化合物にも溶解し易いといった点で優れているとされる。
【0007】
なお、ポリ乳酸は光学純度が高いほど、耐熱性などの点で優れた性能を持つので、光学純度が高い乳酸やラクチドを原料として用い、途中の工程におけるラセミ化を可能な限り抑制して光学純度の高いポリ乳酸を製造することが重要である(特許文献2または特許文献4など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公報第2007/145195号パンフレット(米国出願公開公報第2009/0176963号)
【特許文献2】特開昭63−101378号公報(米国特許第5,053,522号公報)
【特許文献3】特開平5−105745号公報
【特許文献4】特開平9−327625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のとおり、ラクチド法によるポリ乳酸製造は工業化されているが、製造工程が長く、設備コスト及び製造コストが大きくなるという問題点があり、これがポリ乳酸製品の普及を阻害する要因の一つとなっている。
【0010】
更に、本発明者らは、以下のとおり、スズ化合物触媒を用いたラクチドの製造には潜在的な課題があることを見出した。
【0011】
まず、解重合触媒として多用されているオクチル酸スズは、比較的揮発性が高く、その蒸留精製の条件(例えば、特開2001−288141号公報の段落[0036]には、好ましくは1torr以下、200℃以上と示されている)が、ラクチド製造において生成したラクチドを溜出させる際の条件と類似している。そのため、ラクチド製造において、ラクチドとともにオクチル酸スズも一部気化してしまい、生成後に分離されたラクチドに微量のオクチル酸スズが混入したり、解重合・環化の反応器内で飛散して反応器内部の壁や天井に付着したオクチル酸スズが劣化分解して異物化したりする恐れがある。
【0012】
前記のようなリスクを回避するため、高融点・高沸点で揮発性が極めて低い無機スズ化合物を用いようとしても、それら無機スズ化合物の多くは、有機溶媒や溶融状態の有機化合物への溶解性が良好ではないため、反応器や輸送管中で滞留・劣化して堅固な異物として付着したり、閉塞を起こしたり、送液ポンプの故障を起こしたりする危険が増大するという別の問題が生じ、根本的な解決には至らない。
【0013】
なお、ラクチド法では、減圧下に解重合・環化を行い生成したラクチドを溜去するので、解重合触媒が釜残(不揮発性の反応残渣)に残留すれば、これを回収・再利用することは理論上可能な筈であり、製造コストの抑制の点からも解重合触媒を再利用することが好ましい。しかし、前記のようなスズ化合物触媒の欠点は、解重合触媒の再利用において重大な支障となりうるものである。更に、生産効率をより高める為、連続式のラクチド製造プロセスとした場合、前記スズ化合物触媒の欠点による工程トラブル発生のリスクは更に高まるものと本発明者らは考えた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、非金属の解重合触媒であれば、そのような問題が生じず、より効率良く、長期の連続運転が可能なラクチド製造プロセスを完成できると考えた。本発明者らは、更に検討を進め、前記特許文献1記載のとおり、乳酸の直接脱水重縮合反応を促進する触媒活性が極めて高いため、乳酸オリゴマーに作用させても解重合・環化よりも脱水重縮合が進んでしまう筈でラクチド製造には不向きと考えられていた有機オニウム塩が、意外にも乳酸オリゴマーの解重合・環化にも高い触媒活性を示すことを見出した。更に驚くべきことに、L−乳酸またはD−乳酸のいずれか一方のみからなる光学活性乳酸オリゴマーを、有機オニウム塩を用いて解重合・環化させると、メソラクチドの生成を全く伴わず、よってラセミ化も全く生じず、高い化学純度・光学純度のラクチドが得られることを本発明者らは見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の要旨を以下に示す。
【0015】
1. 下記一般式(1)〜(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に、乳酸オリゴマーを減圧雰囲気で加熱することにより解重合・環化させてラクチドを生成させることを特徴とするラクチドの製造方法。
【0016】
【化2】

(前記一般式(1)において、Zは窒素原子またはリン原子である。
前記一般式(1)において、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜18のアリール基、または無置換もしくは置換基を有する炭素数3〜22の複素環基である。また、水素原子でないR、R、Rのうち2以上が非芳香族環を形成してもよく、その際、置換基を有していても良い。
前記一般式(1)において、Xは炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
【0017】
【化3】

(前記一般式(2)において、Z’およびZ’’はそれぞれ独立に窒素原子またはリン原子であり、Qは単結合、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数4〜12のシクロアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数3〜12の複素環基である。
前記一般式(2)において、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜18のアリール基、または無置換もしくは置換基を有する炭素数3〜22の複素環基である。また、水素原子でないR、R、R、およびRのうち2以上が非芳香族環を形成してもよく、その際、置換基を有していても良い。
前記一般式(2)において、X’およびX’’はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
【0018】
[Het]H X’’’ (3)
(前記一般式(3)において、[Het]は、炭素数3〜65の無置換もしくは置換基を有する含窒素芳香族複素環基を表し、また、前記一般式(3)において、X’’’は炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
【0019】
【化4】

(前記一般式(4)において、[Het’]およびは[Het’’]、同一または異なってもよい、炭素数3〜65の無置換もしくは置換基を有する含窒素芳香族複素環基であり、[Het’]と[Het’’]が結合し環を形成していてもよい。
前記一般式(4)において、Q’は単結合、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数4〜12のシクロアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数3〜12の複素環基である。
前記一般式(4)において、X’’’’およびX’’’’’はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
【0020】
2.前記一般式(1)の有機オニウム塩が、
【0021】
【化5】

なる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0022】
3.前記一般式(2)の有機オニウム塩が、
【0023】
【化6】

(前記右側の一般式において、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4のいずれかである。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0024】
4.前記一般式(3)の有機オニウム塩が、その[Het]Hは、
【0025】
【化7】

(前記一般式において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0026】
5.前記一般式(3)の有機オニウム塩が、その[Het]Hは、
【0027】
【化8】

【0028】
【化9】


よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0029】
6.前記一般式(3)の有機オニウム塩が、
【0030】
【化10】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0031】
7. 前記一般式(4)の有機オニウム塩が、その([Het’]H)−Q’−([Het’’]H)は、
【0032】
【化11】


(前記一般式において、R11〜R22はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0033】
8.前記一般式(4)の有機オニウム塩が、
【0034】
【化12】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の項1.記載のラクチドの製造方法。
【0035】
9.乳酸オリゴマーの平均重合度が、3以上100以下である前記の項1.〜8.のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【0036】
10.140〜200℃の温度に加熱して解重合・環化を行う前記の項1.〜9.のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【0037】
11.乳酸オリゴマーが、光学純度99%e.e.以上の光学活性乳酸を重縮合させたものである前記の項1.〜10.のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【0038】
12.乳酸オリゴマーが、乳酸を、一般式(1)〜(4)より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に加熱して重縮合させたものである前記の項1.〜11.のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【0039】
13.乳酸オリゴマーの解重合・環化反応物からラクチドを分離した残渣またはポリ乳酸に、乳酸および/または水を加えて、一般式(1)〜(4)より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に加熱して再生させたものを、解重合・環化の原料の乳酸オリゴマーとして用いることを特徴とする、前記の項1.〜10.のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【0040】
14.ラクチドが、メソラクチドの含有率1%以下、かつ下記式(A)で定義される光学活性ラクチド選択率が99%以上のものであり、乳酸が該光学活性ラクチドを構成する乳酸成分と同じ光学活性を示し、光学純度が99%e.e.以上である前記の項13.に記載の製造方法。
光学活性ラクチド選択率[%]=(LL‐ラクチドまたはDD‐ラクチドの質量)/(LL‐ラクチドの質量+メソラクチドの質量+DD‐ラクチドの質量)×100 (A)
【発明の効果】
【0041】
本発明により、工程内で異物化する恐れがある金属化合物触媒を使用することなく、高い光学純度および化学純度のラクチドを、安定かつ効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例4−1および比較例4−3にて得られたラクチドについて、H−homodecoupling NMR測定を行って得られたチャートの1.7ppm付近の抜粋である(左側:実施例4−1、右側:比較例4−3)。これにより、該ラクチドがメソラクチドを含有している率(以下、メソ体率と称する)を算出するために使用した1.66ppmと1.77ppmのピークの積分値を確認することができる。
【図2】実施例5の連続的なラクチド製造において、各回にて投入したL−乳酸の総量を基準としたラクチド収率(LA base)と、オリゴマー総量を基準としたラクチド収率(OLA base)とを示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、前記一般式(1)〜(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に、乳酸オリゴマーを減圧雰囲気で加熱することにより解重合・環化させてラクチドを生成させることを特徴とするラクチドの製造方法である。
【0044】
<有機オニウム塩>
まず、前記一般式(1)で表される有機オニウム塩について述べる。
前記一般式(1)で表される有機オニウム塩において、R、R、またはRが無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基であるとき、該脂肪族炭化水素基としては、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基、無置換もしくは置換基を有する炭素数4〜12のシクロアルキル基、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数7〜20の直鎖状もしくは分岐状のアラルキル基より選ばれるいずれかが好ましい。
【0045】
前記のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル、イコシル基等を挙げることができる。
【0046】
前記のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0047】
前記のアルキニル基としては、プロパルギル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、19−イコシニル基等が挙げられる。
【0048】
前記のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基、パーヒドロビフェニル基などが挙げられる。
【0049】
前記のアラルキル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、(α−/β−)フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基、ナフチルメチル基、トリフェニルエチル基などが例示される。
【0050】
なお、本発明の製造方法において用いられる前記の一般式(1)〜(4)の有機オニウム塩の構造に関して、「無置換もしくは置換基を有する」という場合の“置換基”とは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基よりなる群から選ばれる1種類以上を指し、「置換基を有する炭素原子数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」のように言う場合、該炭素原子数は該アルキル基についてのもので、置換基が有する炭素原子はこれに含まれない。
【0051】
前記一般式(1)で表される有機オニウム塩において、R、R、またはRのうち2以上が水素原子でなく環を形成する場合の、環状構造としては、ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、ピペラジン環、2−アザアダマンタン環、キヌクリジン環などからなる群より選ばれる1つ以上が挙げられる。
【0052】
前記一般式(1)で表される有機オニウム塩において、R、R、またはRが無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜18のアリール基であるとき、該アリール基としては、フェニル基、トルイル基類,キシリル基類、(α−、β−)ナフチル基、ビフェニル基、アントラニル基、フルオレニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アセナフチル基などが好ましく、これらアリール基は無置換またはフルオロ基もしくはクロロ基で1つ以上の水素が置換されたものが好ましい。
【0053】
前記一般式(1)で表される有機オニウム塩において、R、R、またはRが無置換もしくは置換基を有する炭素数3〜22の複素環基であるとき、該アリール基としては、アジリジル基、フリル基、チェニル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾフリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、キナゾリニル基、プリニル等が好ましいものとして挙げられる。
【0054】
前記一般式(1)において、Xは炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンであり、なかでも、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、オクタンスルホン酸イオン、ドデカンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、デシルベンゼンスルホン酸イオン、炭素数1〜6のパーフルオロアルキルスルホン酸イオン、硫酸水素イオンよりなる群から選ばれる1種類以上が好ましく、炭素数1〜6のパーフルオロアルキルスルホン酸イオン、つまり、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パーフルオロエタンスルホン酸イオン、パーフルオロブタンスルホン酸イオン、パーフルオロヘキサンスルホン酸イオン等が特に好ましい。
【0055】
前記一般式(1)で表される有機オニウム塩としては、カチオンがトリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、エチルジメチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム等の脂肪族アンモニウム、アニリニウム、ジフェニルアンモニウム等の芳香族アンモニウム、N−メチルピロリジウム、N−メチルピペリジニウム、N−メチルモルホリニウム等の脂環式アンモニウム、トリアリールホスホニウム、アリールジアルキルホスホニウム、ジアリールアルキルホスホニウム、トリアルキルホスホニウム等のモノホスホニウムであるものが好ましいものとして挙げられる。
【0056】
特に、カチオンがフッ素置換体のアニリウム、塩素置換体、具体的には置換位置任意のジクロロアニリニウムや、置換位置任意のトリクロロアニリニウム、ジフェニルアンモニウム、トリアリールアンモニムである前記一般式(1)で表される有機オニウム塩が好ましく、より好ましいものとしては以下に構造を示すものが挙げられる。
【0057】
【化13】

ここで、TPP−Tはトリフェニルホスホニウムトルフルオロメタンスルホネート、TPP−Sはトリフェニルホスホニウムハイドロジェンサルフェート、PFPATはペンタフルオロフェニルアンモニウムトルフルオロメタンスルホネート、2,4−DCA−Tは2,4−ジクロロフェニルアンモニウムトルフルオロメタンスルホネート、2,5−DCA−Tは2,5−ジクロロフェニルアンモニウムトルフルオロメタンスルホネート、2,4,6−DCA−Tは2,4,6−トリクロロフェニルアンモニウムトルフルオロメタンスルホネート、DPATはジフェニルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、DPA−Sはジフェニルアンモニウムハイドロジェンサルフェートの略号である。
【0058】
次に、前記一般式(2)で表される有機オニウム塩について述べる。
前記一般式(2)で表される有機オニウム塩として、そのQが単結合または無置換の炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基であるものが好ましい。
【0059】
前記一般式(2)におけるR、R、R、およびRの好ましい基は、前記一般式(1)におけるR、R、およびRについて示したものと同様である。ただし、R、R、R、およびRのうち2以上が水素原子でなく環を形成する場合の、環状構造としては、前記一般式(1)に関して示したピロリジン環等のほか、1,3−ジアダマンタン環なども含まれる。
【0060】
前記一般式(2)におけるX’−、およびX’’−の好ましいものは前記一般式(1)におけるXについて示したものと同様である。
【0061】
前記一般式(2)で表される有機オニウム塩として特に好ましくは、以下に示すものが挙げられる。
【0062】
【化14】

(前記右側の一般式において、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4のいずれかである。)
【0063】
次に、前記一般式(3)で表される有機オニウム塩について述べる。
なお、本発明の製造方法において用いられる前記一般式(3)〜(4)の有機オニウム塩の構造に関して、「無置換もしくは置換基を有する」という場合の“置換基”とは、無置換の炭素原子数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、無置換の炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、無置換の炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基、無置換の炭素数4〜12のシクロアルキル基、無置換の炭素原子数7〜20の直鎖状もしくは分岐状のアラルキル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、アミノ基よりなる群から選ばれる1種類以上を指し、「炭素数3〜65の無置換もしくは置換基を有する含窒素芳香族複素環基」のように言う場合、該炭素数は置換基が有する炭素原子も含むものである。
【0064】
前記一般式(3)におけるX’’’−の好ましいものは前記一般式(1)におけるXについて示したものと同様である。
【0065】
前記一般式(3)で表される有機オニウム塩としては、その[Het]Hが、
【0066】
【化15】

(前記一般式において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であるものが好ましく、具体例として、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピラジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、イソオキサゾリウムなどの含窒素の単環又は縮合環化合物を挙げることができる。これら含窒素芳香族複素環化合物にはアルキル基、アラルキル基、ハロゲン基、アルコキシ基などの置換基が結合していても良い。
【0067】
前記一般式(3)で表される有機オニウム塩としては、その[Het]Hが、
【0068】
【化16】

【0069】
【化17】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種であるとより好ましく、かつX’’’−が炭素数1〜6のパーフルオロアルキルスルホン酸イオンであると一層好ましい。更に言うと、前記一般式(3)で表される有機オニウム塩としては、
【0070】
【化18】


よりなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0071】
次に、前記一般式(4)で表される有機オニウム塩について述べる。
前記一般式(4)におけるQ’の好ましいものは前記一般式(2)おけるQについて示したものと同様である。
【0072】
前記一般式(4)におけるX’’’’−およびX’’’’’−の好ましいものは前記一般式(1)におけるXについて示したものと同様である。
【0073】
前記一般式(4)の有機オニウム塩は、その([Het’]H)−Q’−([Het’’]H)が、
【0074】
【化19】

(前記一般式において、R11〜R22はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。好ましいものの具体例としては、2,2’−ビピリジニウム、4,4’ −ビピリジニウム、5,5’−ジメチル−2,2’−ビピリジニウム、が挙げられる。また、ビスホスホニウムも好ましいものとして挙げることができる。
【0075】
更に言うと、前記一般式(4)で表される有機オニウム塩としては、
【0076】
【化20】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0077】
以下の説明において、特に断らない限り、前記の化学式(5)から(9)のスルホン酸塩は、それぞれ、ピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、5,5’−ジメチル−2,2’−ビスピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、2,2’−ビスピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、4,4’−ビスピリジニウムトリフルオロメタンスルホネートであり、それぞれ、PyH−T、Me−Imid−T、5,5’−diMe−2,2’−BiPy−T、2,2’−BiPy−T、4,4’−BiPy−Tと略するものとする。
【0078】
前記の一般式(1)〜(4)の有機オニウム塩は、乳酸オリゴマーを解重合・環化してラクチドを生成させる際の条件で充分な安定性を有するが、前記一般式(5)〜(9)の有機オニウム塩は、特に耐熱性に優れているので、反応温度をより高くすることできる。
【0079】
前記一般式(1)〜(4)の有機オニウム塩の製造方法としては、カチオン成分の含窒素化合物または含リン化合物と、X等のアニオン成分となるスルホン酸類とを反応させる方法が簡便である。前記一般式(7)、(8)および(9)の有機オニウム塩について具体的に言うと、前記一般式(7)の有機オニウム塩は5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジンを塩化メチレンに溶かし、2当量のトリフルオロメタンスルホン酸を加えて中和反応させた後、ジエチルエーテルを加えて再結晶させることで得られる。
【0080】
また、前記一般式(8)の有機オニウム塩は2,2’-ビピリジンを塩化メチレンに溶かし、2当量のトリフルオロメタンスルホン酸を加えて中和反応させた後、ジエチルエーテルを加えて再結晶させることで得られる。
【0081】
更に、前記一般式(9)の有機オニウム塩は4,4’-ビピリジンを塩化メチレンに溶かし、2当量のトリフルオロメタンスルホン酸を加えて中和反応させた後、ジエチルエーテルを加えて再結晶させることで得られる。
【0082】
前記一般式(8)の有機オニウム塩の合成法については、“Barbara Milani, Anna Anzilutti, Lidia Vicentini, Andrea Sessanta o Santi, Ennio Zangrando, Silvano Geremia, and Giovanni Mestroni Organometallics 1997, 16, 5064-5075”に詳細が示されている。
【0083】
本発明の製造方法における有機オニウム塩の使用量は、乳酸オリゴマー基準の触媒濃度が0.01〜10mol%であると好ましく、0.1〜5mol%であると更に好ましく、0.2〜2mol%であると特に好ましい。0.01mol%より少ないとラクチド収率上、不十分となる傾向があり、また、10mol%を越えてもその効果はほとんど変わらないからである。
【0084】
なお本発明において、“乳酸オリゴマー基準の触媒濃度”とは、乳酸オリゴマーの質量を乳酸残基(−O−CH(CH)−C(=O)−)の式量の72で割って求めた乳酸残基のモル量に対する有機オニウム塩のモル量の割合(有機オニウム塩/乳酸残基)を言う。“ポリ乳酸基準の触媒濃度”や“ラクチド残渣基準の触媒濃度”という場合も同様である。
【0085】
<解重合・環化>
本発明の製造方法においては、平均重合度が3〜100の範囲にある乳酸オリゴマーを用いることが好ましい。平均重合度が3より小さい乳酸オリゴマーを用いると、ラクチド生成の前に低分子量オリゴ乳酸が留出し易い傾向にあり、平均重合度が100より大きい乳酸オリゴマーを用いると、加熱時に解重合・環化よりも重縮合が優先的に進行するらしくラクチドの収率が低下するからである。ここで、平均重合度は、H−NMRスペクトル測定により測定することができ、特に断らない限り、本明細書中では、得られた数平均重合度を平均重合度という。本発明の製造方法において用いられる乳酸オリゴマーは平均重合度が3〜50のものであるとより好ましく、平均重合度が6〜15のものを用いると更に好ましい。
【0086】
本発明の製造方法の解重合・環化において、減圧下とは、大気圧(101.3kPa)より低い圧力であればよく、好ましくは0.013〜1.3kPa、より好ましくは0.133〜0.533kPaである。
【0087】
本発明の製造方法において、解重合・環化を行う温度としては140〜200℃が好ましく、160〜180℃が更に好ましい。加熱温度が140℃よりも低いと解重合・環化が進行しにくく、200℃よりも高いと副反応が惹起し易くなり好ましくないからである。
【0088】
本発明の製造方法において、解重合・環化を行う反応時間としては、生産性の面からは短い方が好ましいが、充分に反応を行う必要があるので、0.5〜75時間であると好ましく、1〜35時間であるとより好ましく、2〜10時間であると更に好ましい。
【0089】
また、本発明の製造方法における、乳酸オリゴマーの解重合・環化は、溶媒を用いても又は無溶媒で行ってもよい。なお、特に断らない限り、本発明において「無溶媒」とは、脱水縮合反応により生じる水を共沸除去するための溶媒を添加しない反応条件を意味する。
【0090】
なお、本発明の製造方法において、前記の有機オニウム塩に加えて、本発明の効果を損なわない程度に、スズ化合物など公知の金属化合物触媒を併用することも可能である。
【0091】
<乳酸オリゴマー>
本発明の製造方法において、原料の乳酸オリゴマーとしては、公知の方法によって製造されたものを使用できる。例えば、乳酸を直接脱水縮合して得られた乳酸オリゴマーが代表的なものとして挙げられる。その場合、乳酸を直接脱水縮合して乳酸オリゴマーを生成させた反応混合物のまま、本発明の製造方法において原料として用いてもよく、また、乳酸オリゴマーを反応混合物から分離・精製してから用いても良い。
【0092】
高性能のポリ乳酸を得るためには高純度のラクチドが必要であり、高純度のラクチドを得るためには、乳酸オリゴマーの原料となるD−乳酸またはL−乳酸には光学純度の高いものを用いることが好ましい。
【0093】
なお、ここで、光学純度とは、D−乳酸またはL−乳酸のいずれか多い方の量から少ない方の量を差し引き、全体の量で割った値で表すことができる。例えば、L−乳酸量を「L」、D−乳酸量を「D」とし、L−乳酸量が過剰な場合、光学純度は以下の式で表される。
光学純度(%e.e.)=[(L−D)/(L+D)]×100
【0094】
D−乳酸またはL−乳酸の光学純度は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)を用いて、乳酸のD/L体のピーク面積比から算出することができる。
【0095】
本発明において、乳酸オリゴマーの原料として用いられる光学活性乳酸、つまりD−乳酸またはL−乳酸は、光学純度が99%e.e.以上のものがより好ましく、99.5%e.e.以上のものが更に好ましい。
【0096】
また、本発明の製造方法において、勿論、ラクチドを開環重合して得た乳酸オリゴマーを原料として用いても良い。
【0097】
前述のように乳酸オリゴマーの重合度が高すぎると、これを前記の有機オニウム塩とともに、減圧下に加熱しても、解重合・環化よりも脱水重縮合が優先的に進行し易くなるので、前記のとおり、乳酸オリゴマーの重合度が、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、特に好ましくは15以下、かつ好ましくは3以上、より好ましくは6以上となるように乳酸の直接脱水重縮合の条件を選択することが好ましい。
【0098】
乳酸を直接脱水重縮合させる際の圧力としては、2.5〜9.3kPaであると好ましく、4.0〜6.7kPaであるとより好ましい。圧力が9.3kPaより高いと水が留出しにくい場合がある。また、より低圧とする方が反応温度を低くできるので好ましいが、2.5kPaよりも低くすると高真空装置が必要となる上に、配管に詰まりが生じる等の問題が発生し易くなることがある。
【0099】
乳酸の直接脱水重縮合の温度としては、120〜160℃が好ましく、130〜150℃であるとより好ましい。直接脱水重縮合の温度が120℃より低いと脱水縮合が進行しにくいことがあり、160℃より高いと重合度が高くなりすぎることがある。
【0100】
乳酸の直接脱水重縮合の反応時間としては、生産性の面からは短い方が好ましいが、充分に反応を行う必要があるので、0.5〜75時間であると好ましく、1〜35時間であるとより好ましく、2〜10時間であると更に好ましい。
【0101】
乳酸を直接脱水重縮合して乳酸オリゴマーを得る際、溶媒を用いることなく乳酸と重縮合触媒との混合物のみで反応を行っても良く、脱水重縮合反応による生じる水を共沸除去するための溶媒を添加してもよい。そのような溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等が使用でき、その使用量は操作性の観点から、乳酸に対して1〜3倍(容量)程度が好ましい。
【0102】
乳酸を直接脱水重縮合して乳酸オリゴマーを得る際の重縮合触媒としては、オクチル酸スズに代表される金属化合物触媒など公知のものを使用することができるが、前記一般式(1)〜(4)に示した有機オニウム塩の少なくとも1種類を用いると、乳酸オリゴマーの単離や金属化合物触媒の除去をすることなくラクチド製造の原料とすることができるので好ましい。直接脱水重縮合における重縮合触媒の使用量としては、乳酸に対する重縮合触媒の濃度(重縮合触媒/乳酸)が0.01〜10mol%であると好ましく、0.1〜5mol%であると更に好ましく、0.2〜2mol%であると特に好ましい。
【0103】
また、本発明の製造方法において、原料の乳酸オリゴマーとしては、乳酸オリゴマーを解重合・環化させた反応物からラクチドを分離した残渣(以下、ラクチド残渣と称する場合がある)に乳酸および/または水を加えて加熱することにより、再生されたものを用いてもよい。該ラクチド残渣中には、重合度が高めの乳酸オリゴマーや、ポリ乳酸が含まれており、乳酸により加酸分解、および/または水による加水分解が起こって低分子量化が進むことにより、ラクチドの原料として好適な乳酸オリゴマーが再生される。
【0104】
更に、本発明の製造方法において原料として用いられる乳酸オリゴマーとしては、ポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、再生されたものを用いてもよい(以下、ラクチド残渣やポリ乳酸から再生された乳酸オリゴマーを再生乳酸オリゴマーと称することがある)。この場合のポリ乳酸としては、前記のラクチド残渣から単離されたものでも良く、重縮合反応の際の品質外れ品でも良く、ポリ乳酸を紡糸や成形する際に生じた成形屑でも良く、また、ポリ乳酸製品として販売され、使用後に廃棄されたものを回収して異物や他素材を除去したものでも良い。ポリ乳酸やラクチド残渣から乳酸オリゴマーを再生させる際に用いる乳酸および/または水としては、乳酸水溶液が好ましい。予め乳酸水溶液を調製してポリ乳酸やラクチド残渣と混合しても良く、乳酸と水とを別々に混合しても良い。
【0105】
前記のように、ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させ、これを解重合・環化してラクチドを生成させるにおいて、ラクチドが、メソラクチドの含有率1%以下、かつ前記式にて定義される光学活性ラクチド選択率が99%以上のものであり、乳酸が該光学活性ラクチドを構成する乳酸成分と同じ光学活性を示し、光学純度が99%e.e.以上であることが好ましい。
【0106】
なお、本発明においては、便宜上、平均重合度が100超過のものをポリ乳酸と称し、3以上100以下のものを乳酸オリゴマーと称し、非環状の2量体をダイマーと称する。前記のポリ乳酸の平均重合度について特に上限は特に無いが、あまり平均重合度が高いと加酸分解が進みにくいので、平均重合度は7000以下であると好ましく、5000以下であるとより好ましく、1000以下であると更に好ましい。
【0107】
ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際の温度としては、100℃以上200℃以下の温度が好ましく、120℃以上160℃以下であるとより好ましい。
【0108】
ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際の圧力としては、特に制限は無いが、0.096〜0.106MPaの大気圧雰囲気または0.106MPa超過の加圧雰囲気が好ましい。加圧雰囲気で乳酸オリゴマーを再生させる際の圧力の上限としては5MPa以下が好ましく、1MPa以下であると好ましい。
【0109】
ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際の反応時間としては、生産性の面からは短い方が好ましいが、充分に反応を行う必要があるので、0.5〜75時間であると好ましく、1〜35時間であるとより好ましく、2〜10時間であると更に好ましい。
【0110】
ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際の、ラクチド残渣やポリ乳酸に対する乳酸および/または水の量は、100質量部のラクチド残渣やポリ乳酸に対して10質量部以上2500質量部以下であると好ましく、25質量部以上1000質量部以下であると更に好ましい。なお、本発明の製造方法において、乳酸および/または水としては乳酸水溶液が好ましい。乳酸水溶液は、乳酸と水の合計を100質量%とした場合、乳酸の濃度が0質量%超〜100質量%未満のものであり、乳酸の濃度が50質量%以上〜99質量%以下であると好ましく、80質量%以上〜95質量%以下であるとより好ましい。
【0111】
また、本発明の製造方法において用いる、乳酸および/または水は、乳酸と水のほか、乳酸オリゴマーの再生を阻害するなどの本発明の目的に支障を来たすものではない他の成分を含んでもよい。
【0112】
ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際、無触媒で反応を行っても良く、オクチル酸スズに代表される金属化合物触媒を加酸分解触媒として使用しても良いが、前記一般式(1)〜(4)に示した有機オニウム塩の少なくとも1種類を加酸分解触媒として用いると、乳酸オリゴマーの単離や金属化合物触媒の除去をすることなくラクチド製造の原料とすることができるので好ましい。ラクチド残渣やポリ乳酸に乳酸および/または水を加えて、加熱することにより、乳酸オリゴマーを再生させる際の加水分解触媒の使用量としては、ラクチド残渣またはポリ乳酸基準の触媒濃度が0.01〜10mol%であると好ましく、0.1〜5mol%であると更に好ましく、0.2〜2mol%であると特に好ましい。
【0113】
<製造プロセス>
以上の記載より明らかなように、本発明のラクチド製造方法では、乳酸を重縮合させて乳酸オリゴマーを製造し、該乳酸オリゴマーを解重合・環化させてラクチドを生成させ、該解重合・環化反応物から該ラクチドを分離した残渣に、乳酸および/または水を加えて加酸分解および/または加水分解して乳酸オリゴマーを再生させ、これをまた解重合・環化させるというプロセスを、前記の有機オニウム塩を用いて行うことができる。有機オニウム塩の量は、該プロセスにおいて適宜追加で添加することも可能であり、反応混合物をプロセス外にパージすることなどにより減らすことも可能である。該プロセスを構成する各反応器はバッチ式、セミバッチ式、連続式のいずれでも良く、乳酸の重縮合や乳酸オリゴマーの解重合・環化用の装置として公知のものを採用することができる。
【0114】
<ラクチド>
本発明のラクチド製造方法では極めて高純度のラクチドを得ることができる。
例えば、100%e.e.のL−乳酸を用いて得たオリゴマーを原料として用いても、解重合・環化の条件が不適切であると、L−乳酸の環状二量体であるLL−ラクチドのほかに、まずメソラクチド(DL−ラクチド)が生成し、さらにDD−ラクチドも生成する。
【0115】
【化21】

【0116】
当然、100%e.e.のD−乳酸を用いて得たオリゴマーを原料として用いても、解重合・環化の条件が不適切であると、D−乳酸の環状二量体であるDD−ラクチドのほかに、まずメソラクチド(DL−ラクチド)が生成し、さらにLL−ラクチドも生成することが知られている。
【0117】
よって、あるラクチド試料について、そのうちのある光学活性ラクチド、つまりLL−体またはDD体のいずれかについての純度を正式に表現するためには、下記式(A)で表される、対象の光学活性ラクチドがLL‐ラクチド、メソラクチド、およびDD‐ラクチドの合計量において占める割合(光学活性ラクチド選択率)のような指標が必要となる。なお、下記式(A)において、質量をすべてモル量に置き換えて算出してもよい。
光学活性ラクチド選択率[%]=(LL‐ラクチドまたはDD‐ラクチドの質量)/(LL‐ラクチドの質量+メソラクチドの質量+DD‐ラクチドの質量)×100 (A)
【0118】
前記のような高い光学純度の乳酸を原料として、本発明の製造方法によって得られるラクチドについて、ラクチドのH−または13C−NMR分析により、光学活性ラクチド類(LL‐ラクチドとDD‐ラクチドの双方を指す)とメソラクチドの存在比を定量し、以下の式(B)によって求められるメソ体率が1%以下の場合は、光学活性ラクチドは全量、原料として用いた光学活性な乳酸の環状二量体、つまり光学純度が100%e.e.のラクチドであり、前記の式(A)は以下の式(A’)のように簡略化できる。
メソ体率[%]={メソラクチドのピークの積分値/(光学活性ラクチド類のピークの積分値+メソラクチドのピークの積分値)}×100 (B)

光学活性ラクチド選択率[%]=(LL‐ラクチドまたはDD‐ラクチドの質量)/(LL‐ラクチドの質量+メソラクチドの質量+DD‐ラクチドの質量)×100≒100−メソ体率 (A’)
【0119】
例えば、L−乳酸オリゴマーを原料として本発明の製造方法によりLL‐ラクチドを製造した場合の、LL‐ラクチド、メソラクチド、およびDD‐ラクチドの合計量に対するLL‐ラクチドの割合(LL‐ラクチド選択率と称する)は、以下の式(C)で表される。当然、下記の式(C)において、質量をすべてモル量に置き換えて算出してもよい。
【0120】
LL‐ラクチド選択率[%]=(LL‐ラクチドの質量)/(LL‐ラクチド質量+メソラクチド質量+DD‐ラクチドの質量)×100≒100−メソ体率 (C)
【0121】
前述の特許文献2や特許文献4にも光学純度が100%e.e.またはそれに近い光学活性ラクチドが得られる製法が開示されているが、特許文献4の実施例記載からも明らかなように、当該方法で得られる光学活性ラクチドには最低でも2〜3%程度のメソラクチドが混入しており、高耐熱性のポリ乳酸を得るためには、更に精製を行い、メソラクチドを分離することが必要であった。
【0122】
本発明の製造方法では、前記のメソ体率、つまりメソラクチドの混入率が1%以下であり、光学活性ラクチド選択率が99%以上のものが得られ、更に光学純度が99%e.e.以上の高純度の光学活性ラクチドが得られるため、前記のようなラクチドの精製工程を省略または簡素化することが可能である。前記のとおり、ラクチド法によるポリ乳酸製造には製造プロセスが長く、これが高コストの原因となっているので、本発明のラクチド製造方法による製造プロセスの短縮は極めて重要な意義を持つものである。
【0123】
本発明の製造方法によって得られたラクチドを開環重合して高分子量のポリ乳酸を得る方法や装置、プロセスについては公知のものを使用できる。
【0124】
なお、本発明のラクチド製造方法は、グリコール酸の環状二量体であるグリコリドの製造に応用が可能である。つまり、前記のラクチドの製造方法において、光学活性に関するものは除き、乳酸をグリコール酸、乳酸オリゴマーをグリコール酸オリゴマー、ラクチドをグリコリド、そしてポリ乳酸をポリグリコール酸に置き換えると、前記一般式(1)〜(4)の有機オニウム塩を用いることにより、前述のようなオクチル酸スズなどの金属化合物触媒を用いる場合の課題が解決されたグリコリドの製造方法の発明となる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の改良及び変形が可能である。
【0126】
本実施例にて行った分析および物性測定の方法、使用した原料について以下のとおり示す。
【0127】
1)ラクチドのメソ体率およびLL−ラクチド選択率
標準化合物としてテトラメチルシラン(TMS)を0.03vol%含むCDC1溶媒に試料を溶解し、ブルカーDRX500(500MHz)NMRスペクトロメーター(ブルカー社製)を使用して、H−homodecoupling NMR測定を行い、1.66ppmと1.77ppmの積分値から下記式(D)により、メソ体率を求め、更に下記式(E)にてメソ体率からLL-ラクチド選択率を求めた。

メソ体率[%]=(1.77ppmの積分値)/{(1.66ppmの積分値)+(1.77ppmの積分値)}×100 (D)

LL-ラクチド選択率[%]=100−メソ体率 (E)
【0128】
2)乳酸オリゴマーおよびポリ乳酸の平均重合度
標準化合物としてテトラメチルシラン(TMS)を0.03vol%含むCDC1溶媒に試料を溶解し、ブルカーDRX500(500MHz)NMRスペクトロメーター(ブルカー社製)を使用して、H−NMRスペクトル測定を行い、OH末端側のCH(δ4.3)と内部CH(δ5.2)の面積比から算出した。
【0129】
3)有機オニウム塩の熱分解温度測定
テキサスインスツルメンツ社製の熱重量測定装置を用いて、空気中にて試料を室温から600℃に、昇温速度10℃/分にて昇温した際の5%質量減少温度を熱分解温度とした。
【0130】
4)L−乳酸の光学純度
本実施例において用いた90質量%(以下、90wt%と略記する)のL−乳酸水溶液は、L乳酸の光学純度が99%e.e.以上のものである。HPLC法による光学純度の測定条件を以下に示す。
測定条件:
カラム:SUMICHIRAL OA−5000(4.5mmφ×15cm、住化分析センター)
カラムオーブン温度:40℃
移動相:1mMCuSO4水溶液
流量:1.0mL/min
測定時間:30分
オーブン:Shodex Oven AO−30
ポンプ:Shodex DS−4
検出器:Shodex UV−41(測定波長254nm)
【0131】
5)PyH−T触媒
本実施例において用いたPyH−T触媒は、東京化成株式会社製の製品コードP1627を用いた。
【0132】
[有機オニウム塩の合成]
合成例1(TPP−T触媒の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLにトリフェニルホスフィン(和光純薬社製)2.3gを溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸0.9mlを少しずつ滴下した。塩化メチレン/ジエチルエーテル/ヘキサン=2/2/1の溶媒から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥して、収率78.9%にて、以下に示すPP−T触媒を得た。TPP−T触媒の熱分解温度は178℃であった。
参考文献:van der Akker, M. Jellinek, Recl. Trav. Chim. Pays-Bas, 1967, 86, 275-288.
【0133】
【化22】

【0134】
合成例2(TPP−S触媒の合成)
塩化メチレン30mLにトリフェニルホスフィン2.62g(10mmol)を溶解し、氷冷、撹拌しながら濃硫酸1.0mL(9.7mmol)を少しずつ加えた。濃縮後、酢酸エチル30mLから析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、2.31gの以下に示すTPP−S触媒を得た(収率64%)。TPP−S触媒の熱分解温度は173℃であった。
13C NMR (CDCl3) δ119.02(d、J=69.8Hz),129.9 (d,J=12.5), 134.4 (d,J=9.5), 134.6 (d, J=3.4 Hz)
31P NMR(CDCl3) δ20.89
【0135】
【化23】

【0136】
合成例3(PyH−S触媒の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン15mLにピリジン5.2g(65mmol)を溶解し、氷冷、撹拌しながら濃硫酸3.6mL(65mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶をろ過して減圧乾燥し、8gの以下に示すPyH‐S触媒を得た(収率69.0%)。
13C NMR (CDCl3) δ127.34, 141.82, 146.43
【0137】
【化24】

【0138】
合成例4(Me−Imid−T触媒の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLにN-メチルイミダゾール4mL(50.2mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸5mL(53.3mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、12gの以下に示すMe−Imid−T触媒を得た(収率 95.9%)。Me−Imid−T触媒の熱分解温度は276℃であった。
13C NMR (CD3COCD3) δ35.53, 119.88, 121.05(q,J=319.0), 123.49, 135.91
19F NMR(CD3COCD3) δ98.68
【0139】
【化25】

【0140】
合成例5(5,5’−diMe−2,2’−BiPy−T触媒の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジン(和光純薬社製)9g(48mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸9mL(96mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、11gの以下に示す5,5’−Me−2,2’−BiPy−T触媒を得た(収率47.7%)。この5,5’−Me−2,2’−BiPy−T触媒の熱分解温度は235℃であった。
13C NMR (CDCl3) δ18.04, 120.08(q,J=319.7), 122.28, 137.71, 143.19, 144.21, 145.88
19F NMR(CD3COCD3) δ98.68
【0141】
【化26】

【0142】
合成例6 (2,2’−BiPy−T触媒の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに2,2’-ビピリジン(和光純薬社製)4.5g(28.8mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸5mL(53.3mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、12gの以下に示す2,2’−BiPy−T触媒を得た(収率 95.9%)。2,2‘−BiPy−T触媒の熱分解温度は208℃であった。
13C NMR (CDCl3) δ119.95(q,J=319.0), 123.54, 127.20, 143.41, 145.71, 14.96
19F NMR(CDCl3) δ-78.75
【0143】
【化27】

【0144】
合成例7 (4,4’−BiPy−Tの合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに4,4’-ビピリジン(和光純薬社製)4.5gを溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸5mLを少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、12gの以下に示す4,4’−BiPy−T触媒を得た(収率 93.7%)。この4,4’−BiPy−T触媒の熱分解温度は300℃であった。
13C NMR (CDCl3) δ120.75(q,J=320.0), 126.07, 126.33, 126.54, 143.72, 151.68
19F NMR(CD3COCD3) δ98.34
【0145】
【化28】

【0146】
合成例8 (3−メチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(以下、3−Me−PyH−Tと略す。)の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに3−メチルピリジン3.0mL(30.8mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸3.0mL(33.9mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、7.2gの3−Me−PyH−T触媒を得た(収率96.7%)。
1H NMR(CDCl3) δ7.95(dd,1H,J=6.1,1.7), 8.33(d,1H,J=8.0), 8.69(s,1H),
8.72(d,1H,J=6.1)
13C NMR (CDCl3)δ18.30, 122.72(q,J=319.0), 127.04, 138.77, 139.00, 140.97, 147.37
19F NMR(CDCl3) δ-78.64
m.p. 72.6-73.8℃
【0147】
合成例9 (3−クロロピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(以下、3−Cl−PyH−Tと略す。)の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに3−クロロピリジン3.0mL(26.8mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸3.0mL(33.9mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、7.3gの3−Cl−PyH−T触媒を得た(収率96.0%)。
1H NMR(CDCl3) δ8.11(dd,1H,J=5.8,2.7), 8.54(m,1H), 8.65(m,2H)
13C NMR (CDCl3) δ120.08(q,J=318.8),128.43(d.J=4.4), 135.60, 140.66(d,J=6.0),
141.11, 146.33(d,J=7.4)
19F NMR(CDCl3) δ-78.67
m.p. 103.0-105.2℃
【0148】
合成例10 (3−フェニルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(以下、3−Ph−PyH−Tと略す。)の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに3−フェニルピリジン3.0mL(20.9mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸1.7mL(19.2mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、4.8gの3−Ph−PyH−T触媒を得た(収率82.8%)。
1H NMR(CDCl3) δ7.58(m,3H), 7.66(m,2H), 8.10(m,1H,), 8.66(m,1H), 8.92(m,1H),
9.08(t,1H,J=1.4)
13C NMR (CDCl3) δ120.29(q,J=319.0), 127.26, 127.48, 129.96, 130.70, 132.81,
139.59, 139.94, 141.29, 143.89
19F NMR(CDCl3) δ-78.39
m.p.63.5-64.0℃
【0149】
合成例11 (4−フェニルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(以下、4−Ph−PyH−Tと略す。)の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに4−フェニルピリジン3.0g(19.3mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸2.0mL(22.6mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、5.7gの4−Ph−PyH−T触媒を得た(収率96.9%)。
1H NMR(CDCl3) δ7.63(m,3H), 8.82(m,2H), 8.21(d,2H,J=4.7), 8.89(d,2H,J=4.7)
13C NMR (CDCl3) δ120.29(q,J=319.0), 124.38, 127.83, 129.94, 132.36, 134.03,
141.64, 158.47
19F NMR(CDCl3) δ-78.41
m.p. 106.5-108.3℃
【0150】
合成例12 (2,6−ジメチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート(以下、2,6−diMe−PyH−Tと略す。)の合成)
200mLナスフラスコ中で塩化メチレン25mLに2,6−ルチジン3.3mL(28.0mmol)を溶解し、氷冷、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸2.5mL(28.3mmol)を少しずつ滴下した。ジエチルエーテル(150mL)から析出した結晶を吸引ろ過して減圧乾燥し、6.0gの2,6−diMe−PyH−T触媒を得た(収率84.0%)。
1H NMR(CDCl3) δ2.88(s,6H),7.53(d,2H,J=7.8), 8.20(t,1H,J=7.8)
13C NMR (CDCl3) δ19.49, 122.80(q,J=319.4), 124.94, 127.20, 145.99, 153.84
19F NMR(CDCl3) δ-78.43
m.p. 68.2-71.0℃
【0151】
[製造例1−1] TPP−T触媒による乳酸オリゴマーの製造(無溶媒)
90wt%のL−乳酸水溶液5g(L−乳酸正味量 4.5g)とTPP−T触媒104mg(触媒濃度 0.5mol%)とを50mL丸底フラスコ(反応用フラスコ)に入れ、クーゲルロール蒸留装置にセットして、4kPa、130℃にて、12時間加熱し直接脱水重縮合を行った。その間に、冷却用ガラス球には、水および乳酸が留出した。反応終了後、反応用フラスコに残留した乳酸オリゴマーの質量は3.3g(オリゴマー収率92%)であり、その重合度は16.5であった。結果を表1に示す。
【0152】
[製造例1−2〜1−4] TPP−T触媒による乳酸オリゴマーの製造(無溶媒)
表1に示すとおりの圧力や反応時間とした以外は、製造例1−1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。なお、製造例1−2では、留出物がやや多く、乳酸オリゴマーの収率は低下した。留出物は主に乳酸(60〜70%)とダイマー(20〜30%)であり、少量のラクチドも含まれていた(<10%)。
【0153】
[製造例1−5] PyH−T触媒による乳酸オリゴマーの製造(無溶媒)
TPP−T触媒ではなくPyH−T触媒(触媒濃度 0.5mol%)を用い、130℃、6.7kPaで6時間反応させ、次いで150℃、6.7kPaで3時間反応させた以外は製造例1−1と同様に操作を行った。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
[実施例1−1] TPP−T触媒によるラクチドの製造
製造例1−2の反応終了後、冷却用ガラス球を取り替え、0.013kPaに減圧して、140℃で63時間、反応用フラスコ中の乳酸オリゴマーを加熱して解重合・環化させ、1.35gのラクチドを冷却用ガラス球に溜出させた。乳酸オリゴマーに対する収率は、74%であった(製造例1−2で使用したL−乳酸の量を基準とした収率は37%)。このラクチドのメソ体率は1%以下であり、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。
【0156】
なお、フラスコに残留したラクチド残渣は0.47g(乳酸オリゴマーに対して26%)であり、これをNMR測定したところ、平均重合度270以上のポリ乳酸であることが分かった。結果を表2に示す。
【0157】
[実施例1−2] TPP−T触媒によるラクチドの製造
製造例1−3の反応終了後、冷却用ガラス球を取り替え、実施例1−1と同様に操作を行った。結果を表2に示す。ラクチド残渣は、乳酸オリゴマーに対して61%の量で、平均重合度300以上のポリ乳酸であった。
【0158】
[実施例1−3] TPP−T触媒によるラクチドの製造
製造例1−1の反応終了後、冷却用ガラス球を取り替え、実施例1−1と同様に操作を行った。結果を表2に示す。ラクチド残渣は、乳酸オリゴマーに対して83%、平均重合度870以上のポリ乳酸であった。
【0159】
[実施例1−4] TPP−T触媒によるラクチドの製造
トルエン溶媒中、90wt%のL−乳酸水溶液を原料として、TPP−T触媒(0.5mol%)を用いて、大気圧雰囲気、トルエン還流条件にて18時間、直接脱水重縮合を行い、平均重合度25.3の乳酸オリゴマーを得た。反応混合物からトルエンを除去したのち、実施例1−1と同様の条件で反応させた。結果を表2に示す。ラクチド残渣は、乳酸オリゴマーに対して80%、平均重合度874のポリ乳酸であった。
【0160】
[実施例1−5] TPP−T触媒によるラクチドの製造
平均重合度9.0の乳酸オリゴマーを調製し、解重合・環化の反応時間を19時間とした以外は実施例1−4と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0161】
[実施例1−6] TPP−T触媒によるラクチドの製造
平均重合度22.0の乳酸オリゴマーを調製し、解重合・環化の反応時間を19時間とした以外は実施例1−4と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0162】
[実施例1−7] TPP−T触媒によるラクチドの製造
平均重合度115の乳酸オリゴマーを調製し、解重合・環化の反応時間を19時間とした以外は実施例1−4と同様に操作を行った。結果を表2に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
[実施例2−1] PyH−T触媒によるラクチドの製造(乳酸オリゴマーの平均重合度=9)
キシレン溶媒中、90wt%のL−乳酸水溶液を原料として、大気圧雰囲気、キシレン還流条件で無触媒にて24時間、直接脱水重縮合を行い、平均重合度9の乳酸オリゴマーを得た。反応混合物からキシレンを除去したのち、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のPyH−T触媒を加えクーゲルロール装置を用いて0.4kPa、180℃にて20時間、乳酸オリゴマーの解重合・環化を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は55%であった。結果を表3に示す。
【0165】
[実施例2−2] PyH−T触媒によるラクチドの製造(乳酸オリゴマーの平均重合度=50)
L−乳酸の直接脱水重縮合において、溶媒としてトルエンを用い、触媒としてTPP−T触媒(L−乳酸に対して0.5mol%)を用いて平均重合度50の乳酸オリゴマーを得て、これを解重合・環化に用いた以外は実施例2−1と同様に操作を行った(乳酸オリゴマーの解重合・環化においてPyH−T触媒も使用した)。乳酸オリゴマーに対する収率33%にてラクチドを得た。結果を表3に示す。
【0166】
[実施例2−3] PyH−T触媒によるラクチドの製造(乳酸オリゴマーの平均重合度=70)
L−乳酸の直接脱水重縮合において、溶媒としてトルエンを用い、触媒としてTPP−T触媒(L−乳酸に対して0.5mol%)を用い、直接脱水重縮合の反応時間を30時間とし、平均重合度70の乳酸オリゴマーを得て、これを解重合・環化に用いた以外は実施例2−1と同様に操作を行った(乳酸オリゴマーの解重合・環化においてPyH−T触媒も使用した)。乳酸オリゴマーに対する収率26%にてラクチドを得た。結果を表3に示す。
【0167】
[実施例2−4] PyH−T触媒によるラクチドの製造(乳酸オリゴマーの重合度=200)
L−乳酸の直接脱水重縮合において、溶媒としてトルエンを用い、触媒としてTPP−T触媒(L−乳酸に対して0.5mol%)を用い、直接脱水重縮合の反応時間を72時間とし、重合度200のポリ乳酸を得て、これを解重合・環化に用いた以外は実施例2−1と同様に操作を行った(ポリ乳酸の解重合・環化においてPyH−T触媒も使用した)。ポリ乳酸に対する収率18%にてラクチドを得た。結果を表3に示す。
【0168】
【表3】

【0169】
[実施例3−1] PyH−T触媒によるラクチドの製造(解重合・環化反応温度=180℃)
90wt%のL−乳酸水溶液5.0g、L−乳酸に対して1mol%のPyH−T触媒、25mLのキシレンを50mL丸底フラスコに入れ、キシレン還流条件にて、直接脱水重縮合を行った後、キシレンを除去して平均重合度10.6の乳酸オリゴマーを得た。この乳酸オリゴマーをクーゲルロール装置を用いて、0.013kPa、180℃にて5時間、解重合・環化を行い、乳酸オリゴマーに対して収率50%にてラクチドを得た。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表4に示す。
【0170】
[実施例3−2] PyH−T触媒によるラクチドの製造(解重合・環化反応温度=160℃)
解重合・環化を行う際の温度を160℃とした以外は実施例3−1と同様に操作を行い、乳酸オリゴマーに対して収率46%にてラクチドを得た。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表4に示す。
【0171】
[実施例3−3] PyH−T触媒によるラクチドの製造(解重合・環化反応温度=140℃)
解重合・環化を行う際の温度を140℃とした以外は実施例3−1と同様に操作を行い、乳酸オリゴマーに対して収率30%にてラクチドを得た。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表4に示す。
【0172】
【表4】

【0173】
[実施例4−1] PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
キシレン溶媒中、90wt%のL−乳酸水溶液を原料として、大気圧雰囲気、キシレン還流条件で無触媒にて24時間、直接脱水重縮合を行い、平均重合度9の乳酸オリゴマーを得た。反応混合物からキシレンを除去したのち、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のPyH−T触媒を加えクーゲルロール装置を用いて0.4kPa、180℃にて3時間、乳酸オリゴマーの解重合・環化を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は42%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度90の乳酸オリゴマーであった。
【0174】
[実施例4−2] 5,5’−diMe−2,2’−BiPy−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較))
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の5,5’−diMe−2,2’−BiPy−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は23%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度20の乳酸オリゴマーであった。
【0175】
[実施例4−3] 4,4’−BiPy−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の4,4’−BiPy−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は20%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度25の乳酸オリゴマーであった。
【0176】
[実施例4−4] TPP−S触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のTPP−S触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は18%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度27の乳酸オリゴマーであった。
【0177】
[実施例4−5] PyH−S触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のPyH−S触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は25%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度83の乳酸オリゴマーであった。
【0178】
[実施例4−6] Me−Imid−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のMe−Imid−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は31%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度60の乳酸オリゴマーであった。
【0179】
[実施例4−7] 3−Me−PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の3−Me−PyH−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は28%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度83の乳酸オリゴマーであった。
【0180】
[実施例4−8] 3−Cl−PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の3−Cl−PyH−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は39%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度90の乳酸オリゴマーであった。
【0181】
[実施例4−9] 3−Ph−PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の3−Ph−PyH−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は37%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度44の乳酸オリゴマーであった。
【0182】
[実施例4−10] 4−Ph−PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の4−Ph−PyH−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は38%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度42の乳酸オリゴマーであった。
【0183】
[実施例4−11] 2,6−diMe−PyH−T触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の2,6−diMe−PyH−T触媒を用いた以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は41%であった。このラクチドのメソ体率は1%以下で、LL−ラクチド選択率は99%以上であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度65の乳酸オリゴマーであった。
【0184】
[比較例4−1]無触媒でのラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒を用いなかった以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は12%であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度22の乳酸オリゴマーであった。
【0185】
[比較例4−2]塩化スズ(II)触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%の塩化スズ(II)触媒(SnCl)を用いて、解重合・環化反応の時間を1時間にした以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は92.2%であった。このラクチドのメソ体率は3.0%であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度58の乳酸オリゴマーであった。
【0186】
[比較例4−3]オクチル酸スズ(II)触媒によるラクチドの製造(同反応条件における触媒活性の比較)
解重合・環化反応の触媒として、PyH−T触媒の代わりに、乳酸オリゴマー基準で1.0mol%のオクチル酸スズ(II)触媒(Sn(Oct))を用いて、解重合・環化反応の時間を1時間にした以外は実施例4−1と同様に操作を行い、ラクチドを得た。乳酸オリゴマーに対するラクチドの収率は73.6%であった。このラクチドのメソ体率は3.2%であった。結果を表5に示す。なお、ラクチド残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度50の乳酸オリゴマーであった。
【0187】
【表5】

【0188】
[実施例5] 連続的なラクチド合成
1回目:90wt%のL−乳酸水溶液44gとPyH−T(1.0g)を100mLフラスコに入れ、150℃、3.3kPaで6時間反応させて平均重合度6の乳酸オリゴマー(32g)を得た。得られた乳酸オリゴマーを160℃、0.066〜0.13kPaの間の圧力で解重合・環化させるとラクチド(8.0g)が留出した。ラクチドを分離した残渣のNMR測定を行ったところ、平均重合度20の乳酸オリゴマー(23g)であった。
【0189】
2回目:前記の重合度20の乳酸オリゴマー(23g)に、60wt%のL−乳酸水溶液(18.0g)を加えて窒素雰囲気下、135℃で15時間、更に、3.3kPaに減圧し、150℃で3時間反応させて平均重合度6の乳酸オリゴマー(31g)を得た。得られた乳酸オリゴマーを前記と同様の条件で解重合・環化させるとラクチド(7.2g)が留出した。ラクチドを分離した残渣は、平均重合度45の乳酸オリゴマー(23g)であった。
【0190】
3回目:前記の重合度45の乳酸オリゴマー(23g)に、60wt%のL−乳酸水溶液(17.3g)を加えて前記と同様の反応を行い、平均重合度6の乳酸オリゴマー(32g)を得た。この得られた乳酸オリゴマーを前記と同様の条件で解重合・環化させるとラクチド(7.1g)が留出した。ラクチドを分離した残渣は、平均重合度30の乳酸オリゴマー(23g)であった。
【0191】
4回目:前記の重合度30の乳酸オリゴマー(23g)に60wt%のL−乳酸水溶液(17.3g)を加えて前記と同様の反応を行い、平均重合度7の乳酸オリゴマー(31g)を得た。この得られた乳酸オリゴマーを前記と同様の条件で解重合・環化させるとラクチド(7.6g)が留出した。ラクチドを分離した残渣は、平均重合度33の乳酸オリゴマー(22g)であった。
【0192】
5回目:前記の重合度33の乳酸オリゴマー(22g)に、60wt%のL−乳酸水溶液(18.2g)を加えて前記と同様の反応を行い、平均重合度7の乳酸オリゴマー(31g)を得た。この得られた乳酸オリゴマーを前記と同様の条件で解重合・環化させるとラクチド(7.7g)が留出した。ラクチドを分離した残渣は平均重合度32の乳酸オリゴマー(22g)であった。
【0193】
前記の結果を図2に示す。図2においては、オリゴマー総量を基準としたラクチド収率(OLAbase)と、2回目以降において、投入したL−乳酸を基準としたラクチド収率(LAbase)を示した。また、得られたラクチドのメソ体率はいずれも1%以下、LL−ラクチド選択率はいずれも99%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の製造方法は、高純度の光学活性ラクチドを効率良く製造することができ、ラクチド法によるポリ乳酸製造の生産性向上に極めて有効である。
【符号の説明】
【0195】
LA base: 各回において投入したL−乳酸の総量を基準としたラクチド収率
OLA base: オリゴマー総量を基準としたラクチド収率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)〜(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に、乳酸オリゴマーを減圧雰囲気で加熱することにより解重合・環化させてラクチドを生成させることを特徴とするラクチドの製造方法。
一般式(1)
【化1】


(前記一般式(1)において、Zは窒素原子またはリン原子である。
前記一般式(1)において、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜18のアリール基、または無置換もしくは置換基を有する炭素数3〜22の複素環基である。また、水素原子でないR、R、Rのうち2以上が非芳香族環を形成してもよく、その際、置換基を有していても良い。
前記一般式(1)において、Xは炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
一般式(2)
【化2】


(前記一般式(2)において、Z’およびZ’’はそれぞれ独立に窒素原子またはリン原子であり、Qは単結合、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数4〜12のシクロアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数3〜12の複素環基である。
前記一般式(2)において、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜18のアリール基、または無置換もしくは置換基を有する炭素数3〜22の複素環基である。また、水素原子でないR、R、R、およびRのうち2以上が非芳香族環を形成してもよく、その際、置換基を有していても良い。
前記一般式(2)において、X’およびX’’はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
一般式(3)
[Het]H X’’’ (3)
(前記一般式(3)において、[Het]は、炭素数3〜65の無置換もしくは置換基を有する含窒素芳香族複素環基を表し、また、前記一般式(3)において、X’’’は炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
一般式(4)
【化3】


(前記一般式(4)において、[Het’]およびは[Het’’]、同一または異なってもよい、炭素数3〜65の無置換もしくは置換基を有する含窒素芳香族複素環基であり、[Het’]と[Het’’]が結合し環を形成していてもよい。
前記一般式(4)において、Q’は単結合、無置換もしくは置換基を有する炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数4〜12のシクロアルキレン基、無置換もしくは置換基を有する炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数3〜12の複素環基である。
前記一般式(4)において、X’’’’およびX’’’’’はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキルスルホン酸イオン、炭素数6〜18のアリールスルホン酸イオン、炭素数4〜18の複素環スルホン酸イオン、炭素数1〜8のフッ化アルキルスルホン酸イオン、または硫酸水素イオンである。)
【請求項2】
前記一般式(1)の有機オニウム塩が、
【化4】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)の有機オニウム塩が、
【化5】

(前記右側の一般式において、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4のいずれかである。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(3)の有機オニウム塩が、その[Het]Hは、
【化6】

(前記一般式において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(3)の有機オニウム塩が、その[Het]Hは、
【化7】


【化8】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項6】
前記一般式(3)の有機オニウム塩が、
【化9】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(4)の有機オニウム塩が、その([Het’]H)−Q’−([Het’’]H)は、
【化10】


(前記一般式において、R11〜R22はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数3〜9の複素環基である。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項8】
前記一般式(4)の有機オニウム塩が、
【化11】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のラクチドの製造方法。
【請求項9】
乳酸オリゴマーの平均重合度が、3以上100以下である請求項1〜8のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【請求項10】
140〜200℃の温度に加熱して解重合・環化を行う請求項1〜9のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【請求項11】
乳酸オリゴマーが、光学純度99%e.e.以上の光学活性乳酸を重縮合させたものである請求項1〜10のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【請求項12】
乳酸オリゴマーが、乳酸を、請求項1記載の一般式(1)〜(4)より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に加熱して重縮合させたものである請求項1〜11のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【請求項13】
乳酸オリゴマーの解重合・環化反応物からラクチドを分離した残渣またはポリ乳酸に、乳酸および/または水を加えて、請求項1記載の一般式(1)〜(4)より選ばれる少なくとも1種の有機オニウム塩の存在下に加熱して再生させたものを、解重合・環化の原料の乳酸オリゴマーとして用いることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載のラクチドの製造方法。
【請求項14】
ラクチドが、メソラクチドの含有率1%以下、かつ下記式(A)で定義される光学活性ラクチド選択率が99%以上のものであり、乳酸が該光学活性ラクチドを構成する乳酸成分と同じ光学活性を示し、光学純度が99%e.e.以上である請求項13に記載の製造方法。
光学活性ラクチド選択率[%]=(LL‐ラクチドまたはDD‐ラクチドの質量)/(LL‐ラクチドの質量+メソラクチドの質量+DD‐ラクチドの質量)×100 (A)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140383(P2012−140383A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−699(P2011−699)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】