ラクトビオン酸カルシウムを含む口腔用組成物および食品
【課題】従来よりも優れた再石灰化効果を有する組成物および食品を提供すること。
【解決手段】抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む、組成物が提供される。抗齲蝕用食品であって、該食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品もまた提供される。
【解決手段】抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む、組成物が提供される。抗齲蝕用食品であって、該食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品もまた提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトビオン酸またはその塩(例えば、ラクトビオン酸カルシウム)を含む、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品に関する。より詳細には、歯の再石灰化などにより齲蝕の発生を低下させるような、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕とは、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された有機酸によって歯質が脱灰されて起こる実質欠損のことであり、一般にむし歯として知られる。近年、齲蝕が起こる前に初期齲蝕といわれる現象が生じることがわかった。初期齲蝕とは、歯質の実質欠損は生じておらず、歯面表層は保持されているが、歯面の表層下からカルシウムとリン酸が失われている状態をいう。初期齲蝕になるとカルシウムとリン酸が失われたことにより、歯の結晶状態が変化するために歯面が白く見える。齲蝕は実質欠損であるため自然修復が不可能であり、歯科医による治療を受けなければ欠損部を埋めることができない。それに対し、初期齲蝕は、時間はかかるが、自然修復が可能である。これは、口腔内で通常、歯質の脱灰と再石灰化という事象が起こることによる。
【0003】
一般に、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された有機酸が何らかの障害物のために拡散を妨げられることにより歯が高濃度の有機酸にさらされ、その結果、齲蝕が形成される。この意味では、代謝により有機酸を産生する糖発酵能を持つすべての口腔内細菌が齲蝕の原因となり得る。有機酸産生に好都合な基質は糖類であり、これにはグルコース、スクロースなどの単糖類および少糖類、単糖の重合体であるデンプンなどの多糖類がある。
【0004】
有機酸の拡散が妨げられる要因は、以下の2つに大きく分けられる:(1)食事により摂取されたデンプンが歯頸部および歯根部へ滞留すること;および(2)スクロースなどの分解されやすい糖(すなわち、発酵性の糖)を基質として細菌が産生した不溶性グルカンが歯面へ固着すること。
【0005】
上記要因(1)は、乳酸桿菌等の、口腔内に存在する糖発酵能を持つすべての細菌が原因菌であると考えられる。この場合の齲蝕の進行は一般的に遅いことが公知である。
【0006】
現代の食品にはスクロース含有食品が多いため、上記要因(2)は、現代の齲蝕の主要因であると考えられる。この要因(2)の原因菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ソブリヌスが考えられている。これらの細菌は直径0.6μm程度の球状の個々の菌が数珠状に連鎖した形態の連鎖球菌である。これらの細菌はスクロースの存在下で、非水溶性のα−グルカンを活発に産生する。このグルカンは、歯の表面に極めて強く付着する性質を持つ。これらの細菌は、スクロースを速やかに代謝することにより、酸産生能を発揮する。これらの細菌は強い耐酸性を有するため、他の細菌が生育できないような酸性下でも生存することができる。非水溶性α−グルカンは粘着性が強いため、歯の表面等に細菌を強固に結合することができる。細菌が産生した有機酸は、歯面に付着した非水溶性グルカンによって拡散を妨げられ、その結果、歯面には高濃度の有機酸が蓄積し、その結果、歯面は高濃度の有機酸にさらされる。この場合の齲蝕の進行は要因(1)に比べて速い。
【0007】
歯の健康を考える上で歯質の脱灰と再石灰化というミクロ的なレベルから齲蝕予防への新たなアプローチも実践されてきている(非特許文献1)。歯は象牙質の部分とエナメル質の部分とからなっており、象牙質をエナメル質が覆っている。エナメル質の約97%は、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO4)6(OH)2]によって構成されている。ハイドロキシアパタイトは主にカルシウムとリン酸との結晶構造物である。エナメル質は歯の中で最も硬い部分であり、歯垢中の細菌が作り出す有機酸、食品に含まれる酸などによってエナメル質の内側から大切なカルシウムまたはリン酸が溶け出す(脱灰)のを防御している。有機酸は、水分で満たされたエナメル小柱間空隙からエナメル質に浸透し、ハイドロキシアパタイトを脱灰と呼ばれるプロセスにより溶解する。このエナメル質組織からのカルシウムとリン酸塩の喪失が、結果的にエナメル質表層下の初期齲蝕となる。初期齲蝕は修復可能であり、カルシウムおよびリン酸塩イオンが表層下の齲蝕部分に浸透し、再石灰化と呼ばれるプロセスによって、喪失したアパタイトを元に戻すことができる。
【0008】
食事や間食をとることにより、口腔内でプラーク(歯垢)が形成され、有機酸が産生され、pHが低下し、エナメル質が溶解する。これが脱灰である。脱灰の程度が表層下にとどまっていて歯表面が残存している場合が初期齲蝕であり、脱灰が進んで歯面の陥没などが生じるとう窩が形成され、齲蝕となる。プラークのpHは、発酵性炭水化物を含む飲食物を摂取するたびに酸性に傾き、脱灰の始まる臨界pHを越える。これはプラーク中の酸産生細菌の働きによるものである。齲蝕は、齲蝕細菌のほか、歯列状態、加齢などの様々な要因が関与する。酸性の食べ物および飲み物も齲蝕のリスクを高める。酸性の食べ物および飲み物による脱灰は非細菌性であり、酸蝕症と呼ばれる。酸蝕症とは、齲蝕細菌の関与なしに酸またはキレート化により歯の表面が化学的に溶ける現象をいう。酸蝕症も齲蝕の1種である。近年では、主に乳幼児および若者の炭酸飲料やスポーツドリンクによる酸蝕症、ならびに主に成人および高齢者のアルコール飲料または健康飲料による酸蝕症およびこれに伴う歯牙破折および咬耗症が注目を集めている。エナメル質の臨界pHは5.5であり、市販されている多くの飲み物のpH値は5.5よりも低い。通常、唾液には、歯の表面の汚れを洗い流す洗浄効果と、酸を中和する酸緩衝効果がある。この2つの働きにより、エナメル質が保護される。しかし、pH値の低い飲み物を頻繁かつ過剰に摂取するとこれらの効果が充分に発揮されない。しかも、眠っている間は唾液の分泌量が減少する。従って、pH値の低い飲み物を飲んだあとに口腔内を充分に洗浄せずに眠ると口腔内が酸性環境にさらされる時間が長くなり、酸蝕症が起きやすくなる。
【0009】
他方、初期齲蝕の段階で唾液の緩衝作用を受けるなどして口腔内のpHが上昇して中性に戻り、カルシウムイオンおよびリン酸イオンが供給されると、エナメル質が再形成される。これが再石灰化である。
【0010】
従って、齲蝕を予防および処置するための手段として、齲蝕の原因である口腔内細菌の栄養源にならず、有機酸を生成させないこと;齲蝕の原因であるミュータンス菌の栄養源にならず、非水溶性のグルカンおよび有機酸を生成させないこと;脱灰の始まるpHを越えないように、この有機酸によるpHの低下を防ぐこと(例えば、緩衝作用を有し、pHの低下を防ぐこと);再石灰化を促進することなどが重要であると考えられる。
【0011】
再石灰化を利用して初期齲蝕を治療するための口腔用組成物、食品などは種々研究されている。
【0012】
例えば、特許文献1は、抗齲蝕機能を有する飲食用組成物および口腔用組成物であって、リン酸化オリゴ糖などの緩衝剤を含む口腔用組成物を開示している。
【0013】
しかしながら、これらの従来の方法を用いても、初期齲蝕の脱灰部の再石灰化を完全な状態に回復することはできずその効果は限定的なものであった。
【0014】
また、特許文献2は、β−ガラクトシド結合を有する特定アルドビオナミドを含む歯磨剤組成物を開示している。特許文献2に記載の発明は、β−ガラクトシド結合を含有する特異的アルドビオナミド(例えば、ラクトビオナミド)が、口腔内で、抗菌剤として、細菌の結合ないし作用を崩壊させる事によって、抗歯垢効果を示すとした発見に基づいている。特許文献2の表1および表2には、比較対照としてラクトビオン酸が記載されている。しかし、表1は、細菌共凝集試験の結果を示しており、表2は、細菌−ラテックスビーズ凝集抑制についての結果を示しており、いずれもラクトビオン酸に抗菌機能がないことを示しているだけである。
【0015】
特許文献3は、ラクトビオン酸含有乳飲料の製造方法を開示している。特許文献3は、0009段落において、「ラクトビオン酸含有乳飲料を、カルシウムや鉄などのミネラルを含む飲食品の経口摂取時、あるいはその前後に摂取することで、飲食品に由来するミネラルの吸収を促進することができる。」と記載している。特許文献3は、0010段落において「ラクトビオン酸含有乳飲料自体に含まれるカルシウムもラクトビオン酸の存在により吸収が促進されるため、普通の乳中のカルシウムよりもその吸収効率が高くなる。」と記載している。しかし、特許文献3は、ラクトビオン酸が歯の再石灰化を促進する作用を有することに関しては開示していない。さらに、特許文献3は、その実施例において、乳飲料の製造方法を記載するが、カルシウムの吸収が促進されることを示す実施例は記載されていない。
【特許文献1】特開2002−325557号公報
【特許文献2】特開平6−80543号公報
【特許文献3】特開2008−245587号公報
【非特許文献1】飯島洋一,熊谷崇;カリエスコントロール 脱灰と再石灰化のメカニズム、医歯薬出版株式会社、1999、p.21−51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化を促進する作用を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含む、組成物。
【0019】
(項目2)
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、項目1に記載の組成物。
【0020】
(項目3)
前記組成物の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、項目1または2に記載の組成物。
【0021】
(項目4)
リン酸源化合物をさらに含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【0022】
(項目5)
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、項目4に記載の組成物。
【0023】
(項目6)
フッ化物をさらに含む、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【0024】
(項目7)
前記組成物のフッ素含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、項目6に記載の組成物。
【0025】
(項目8)
初期齲蝕の治療のために用いられる、項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0026】
(項目9)
健常人の歯質強化のために用いられる、項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0027】
(項目10)
歯磨剤、洗口剤、トローチ剤またはゲル剤である、項目1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【0028】
(項目11)
抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品。
【0029】
(項目12)
チューインガム類、キャンディー類、錠菓または冷菓である、項目11に記載の食品。
【0030】
(項目13)
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、項目11または12に記載の食品。
【0031】
(項目14)
前記食品の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、該食品が口腔内で存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が1.5〜6.0mMとなるのに適切な量である、項目13に記載の食品。
【0032】
(項目15)
リン酸源化合物をさらに含む、項目11〜14のいずれか1項に記載の食品。
【0033】
(項目16)
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、項目15に記載の食品。
【0034】
(項目17)
フッ化物をさらに含む、項目11〜16のいずれか1項に記載の食品。
【0035】
(項目18)
前記食品のフッ素含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、項目17に記載の食品。
【0036】
(項目19)
前記食品がチューインガム類であり、1回摂取量に含まれるラクトビオン酸カルシウム塩の重量が、カルシウムの重量として、1.2mg〜4.8mgである、項目11〜18のいずれか1項に記載の食品。
【0037】
(項目20)
前記チューインガム類が、1回に1〜3g喫食される、項目19に記載の食品。
【発明の効果】
【0038】
本発明の食品および組成物は、初期齲蝕の治療用に、すなわち、C1〜C4と評価される齲蝕になる前の初期齲蝕の状態の歯を有する人に適切である。
【0039】
本発明により、従来と同様に優れた再石灰化効果を有し、かつ齲蝕の可能性が従来よりも低く、メイラード反応のおそれがなく、味および匂いにくせがないというさらなる利点を有する、口腔用組成物および食品が提供される。
【0040】
ラクトビオン酸カルシウム塩は、口腔においてエナメル質にカルシウムを供給して再石灰化を促進する。ラクトビオン酸のカルシウム塩の挙動は、他のカルシウム塩と異なり、特徴的である、すなわち、ラクトビオン酸カルシウム塩は、中性条件下で無機リン酸と結合して不溶化せずに、溶解性を保つ。また、通常の環境下ではカルシウムを放出せず、ハイドロキシアパタイトが存在する場所(すなわち、歯面)に到達するとカルシウムを放出する。さらに、カルシウム塩以外のラクトビオン酸は、カルシウムイオンとともに存在する場合にも、カルシウムをエナメル質特異的に放出する役割を果たす。そのため、ラクトビオン酸とカルシウムイオンとが存在すると、ハイドロキシアパタイトに多量のカルシウムが提供され、再石灰化が顕著に促進される。つまり、初期齲蝕における再石灰化促進物質に必要な以下の2点をリン酸化糖は満たしている:
(1)中性pH条件下でカルシウム−リン酸の不溶化を防ぐ;ならびに
(2)カルシウムイオンおよびリン酸イオンが患部に到達して再石灰化に供される。
【0041】
他方、例えば、塩化カルシウムなどのカルシウム塩は、非常に容易にカルシウムを放出する。そのため、塩化カルシウムがハイドロキシアパタイトの存在する場所に到達する前にカルシウムが放出されてしまい、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを提供することができない。逆に、CPP(カゼインホスフォペプチド)とカルシウムとは、強固にカルシウムを結合していて、容易にカルシウムを放出しない。そのため、ハイドロキシアパタイトの存在する場所に到達しても、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを少量しか提供しない。
【0042】
従って、ラクトビオン酸とカルシウムイオンとの組合せは、ハイドロキシアパタイトに対して、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩同様に、他のカルシウム化合物と顕著に異なる優れたカルシウム提供効果を奏するものである。
【0043】
さらに、ラクトビオン酸およびその塩は、リン酸化オリゴ糖よりも優れた特性を有する。リン酸化オリゴ糖は通常、口腔内細菌のうち、S.mutansによってはほとんど資化されず、齲蝕の原因にならない。しかし、口腔内には、S.mutans以外の様々な細菌が存在し、その中には、ホスファターゼを有するかまたは産生する細菌が存在する場合があり得る。その場合には、このホスファターゼによってリン酸化オリゴ糖のリン酸基の部分が遊離してオリゴ糖が生成される。オリゴ糖は口腔内細菌によってよく資化されて齲蝕の原因となる。そのため、リン酸化オリゴ糖には、資化されるリスクがわずかとはいえ存在する。他方、ラクトビオン酸およびその塩は、口腔内細菌によってほとんど資化されず、齲蝕の原因にならない。ラクトビオン酸およびその塩にはリン酸基は結合していないので、ホスファターゼが存在していてもラクトビオン酸の性能が低下する懸念はない。このように、ラクトビオン酸およびその塩は、口腔内にホスファターゼが存在しても、資化されて齲蝕の原因となるリスクが極めて低い物質である。
【0044】
また、リン酸化オリゴ糖は還元末端を有するので、タンパク質とメイラード反応により反応して褐変を生じる。食品にはタンパク質を含むことが多いので、メイラード反応を生じないことが好ましい。他方、ラクトビオン酸およびその塩は還元末端を有さず、メイラード反応を生じない。そのため、ラクトビオン酸およびその塩は、タンパク質を含む食品であっても褐変の懸念なく配合され得る。
【0045】
さらに、ラクトビオン酸およびその塩は、味や香りにくせがないという利点を有する。そのため、各種の食品および口腔用組成物に配合した場合に、それぞれの本来の味や香りを損なわない、すなわち、味や香りの面において高品質の食品および口腔用組成物を容易に得ることができるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0047】
(1.定義)
本明細書において、抗齲蝕機能とは、齲蝕予防機能と齲蝕治療機能との両方を含む。齲蝕治療機能とは、いったん齲蝕により失われた歯の一部を修復する機能をいう。本明細書中において「抗齲蝕機能」を有するとは、以下の1つ以上の性質を有することを意味する:(1)pH緩衝作用を有し、口腔内細菌の産生する酸によるpH低下を抑制する能力を有する;(2)口腔内細菌のつくる不溶性グルカンの形成を抑制する能力を有する;(3)初期齲蝕の歯の再石灰化を促進する能力を有する。好ましくは、上記の性質の2つを有し、最も好ましくは、上記の全ての性質を有する。
【0048】
本発明の組成物および食品によれば、齲蝕された歯に対して、リン酸およびカルシウムを安定的に提供することができる。リン酸およびカルシウムが提供された歯は再石灰化されるので、齲蝕により失われた歯の一部を修復することができる。
【0049】
特に本発明によれば、口腔内に緩衝剤が添加されるので、口腔内においてpH緩衝作用を得ることができると期待される。口腔内のpH緩衝作用により、口腔内の唾液などに存在するリン酸およびカルシウムが安定的に歯の再石灰化に使用される。従って、従来は困難もしくは不可能であると考えられていた歯の修復が可能になる。
【0050】
齲蝕の初期症状である脱灰性病変は、口腔内の条件が整えば、脱灰したエナメル質部分にカルシウムやリン酸が再補充され(再石灰化)、健全な状態に修復される。歯が健全状態を維持するためには、唾液の働きにより脱灰病変患部にミネラルが供給されミクロのレベルでの脱灰と再石灰化が均衡していることが必要である。一般に、飲食後には歯垢内pHが低下傾向となり、「脱灰−再石灰化」の均衡関係がくずれ、「脱灰>再石灰化」となった場合に病変が進行するのである。また逆に「再石灰化>脱灰」の関係では脱灰病変が回復に向かい、歯が再石灰化する。このような脱灰と再石灰化のバランスには、口腔内環境、特に唾液と歯垢中のpH、カルシウム、およびリン酸濃度の果たす役割は非常に大きい(飯島洋一,熊谷 崇;カリエスコントロール 脱灰と再石灰化のメカニズム.医歯薬出版株式会社;21−51,1999)。本発明によれば、口腔内環境を再石灰化の生じ易い環境に整え得るので、齲蝕を予防し、かつ齲蝕の初期症状である脱灰性病変を治療でき、歯を健康で丈夫にすることができる。
【0051】
(2.本発明で使用される材料)
本発明においては、ラクトビオン酸またはその塩が使用される。また、必要に応じて他の材料もまた使用され得る。
【0052】
(2a.ラクトビオン酸およびラクトビオン酸の塩)
本発明において使用されるラクトビオン酸は、乳糖を酸化させることにより得られる酸性オリゴ糖であり、以下の構造を有する:
【0053】
【化1】
本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸の塩」とは、ラクトビオン酸の任意の塩をいう。本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸無機塩」とは、ラクトビオン酸の任意の無機塩をいう。本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸カルシウム塩」とは、ラクトビオン酸のカルシウム塩をいう。
【0054】
ラクトビオン酸は、酸の形態(すなわち、カルボキシル基に水素が結合している)である。本発明においては、ラクトビオン酸の電離形態(すなわち、カルボキシル基の水素が解離して離れてカルボン酸イオンになっている)を用いてもよく、塩の形態(すなわち、カルボン酸イオンと塩基の陽イオンが結合している)を用いてもよい。特定の実施形態では、好ましくは、ラクトビオン酸の無機塩が使用される。ラクトビオン酸の無機塩は、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、鉄塩またはナトリウム塩である。
【0055】
ラクトビオン酸およびその塩としては、高純度のものを用いてもよく、低純度のものを用いてもよい。例えば、ラクトビオン酸およびその塩は、その製造の際の原料の一部との混合物として用いられてもよい。なお、本明細書中でラクトビオン酸およびその塩の含有量について言及する場合、この含有量は、純粋なラクトビオン酸およびその塩の量に基づいて計算される。それゆえ、ラクトビオン酸およびその塩以外の物を含む混合物を用いた場合、含有量は、混合物全体の量ではなく、混合物中のラクトビオン酸およびその塩の量に基づいて計算される。
【0056】
ラクトビオン酸およびラクトビオン酸塩は、市販のものを使用し得る。例えば、ラクトビオン酸カルシウムはReliable Biopharmaceutical Corporation(St.Louis,USA)社から商品名CALCIUM LACTOBIONATEとして市販されており、ラクトビオン酸は同社から商品名LACTOBIONIC ACIDとして市販されている。ラクトビオン酸の製造方法は公知であり、例えば、Yang, B.Y., et al.,Carbohydrate Research,340,2698−2705(2005)に記載されている。
【0057】
(2b.水溶性カルシウム塩)
本発明の特定の実施形態では、水溶性カルシウム塩が用いられる。本明細書中では、「水溶性カルシウム塩」とは、20℃の水中での溶解度が1重量%以上であるカルシウム塩をいう。本発明で用いられる水溶性カルシウム塩の20℃の水中での溶解度は、好ましくは約2重量%以上であり、より好ましくは約3重量%以上であり、さらに好ましくは約4重量%以上であり、特に好ましくは約5重量%以上である。水溶性カルシウム塩の定義には、ラクトビオン酸カルシウム塩も含む。このような水溶性カルシウム塩の他の例としては、塩化カルシウム、有機酸カルシウム塩(例えば、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、醗酵カルシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸・リンゴ酸カルシウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、など)、コロイド性炭酸カルシウム、ポリオールリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、乳清カルシウム、カゼインホスホペプチドカルシウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。
【0058】
(2c.リン酸源化合物)
歯のエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイト(これは、Ca10(PO4)6(OH)2で表される)のCa/P比は約1.67であり、歯のエナメル質を構成する組成物においては、Ca/P比は約1.0〜約1.67(P/Ca比=0.6〜1.0)である。従って、Ca/P比を約1.0〜約1.67(P/Ca比=0.6〜1.0)、好ましくは約1.67(P/Ca比=0.6)に近づけるように、リン酸イオンおよびカルシウムイオンを供給することにより、エナメル質の再石灰化を促進できる。
【0059】
本発明においてラクトビオン酸カルシウムのみを用いると、またはカルシウム塩以外のラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と水溶性カルシウム塩との組合せのみを用いると、カルシウムイオンのみが供給され、そのままでは、より効率の高い再石灰化のためには、リン酸イオンが不足する。
【0060】
唾液中には多量のリン酸が存在することが公知である。正常な人体の場合、唾液におけるカルシウム:リン酸のモル比(以下、「Ca/P比」と称する)は、一般的に約0.25〜約0.67(P/Ca=約1.45〜約3.9)であり、リン酸が過多に存在する(すなわち、ほぼリン酸3モル対カルシウム2モル〜リン3.9モル対カルシウム1モル)。そのため、チューインガム類のような口腔内でよく咀嚼される食品の場合にはリン酸を添加しなくとも、リン酸が不足することはほとんどない。
【0061】
しかし、ジュースのように唾液を洗い流してしまう食品、歯面に直接塗布される組成物などの場合は、より効率の高い再石灰化のためには、リン酸イオンが不足する場合があり得る。そのため、本発明の組成物および食品においては、リン酸イオンの供給源もまた同時に用いることが好ましい。本明細書では、リン酸イオンの供給源をリン酸源化合物という。リン酸源化合物とは、リン酸化合物を意味する。
【0062】
本発明において用いられ得るリン酸源化合物は、水に溶けることによってリン酸イオンを放出する化合物であれば任意の化合物であり得る。リン酸源化合物は好ましくは水溶性のリン酸塩または無機リン酸である。このようなリン酸源化合物の例としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸およびその塩、環状リン酸およびその塩などが挙げられる。リン酸ナトリウムの例としては、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。リン酸カリウムの例としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。ポリリン酸は、2以上のリン酸が縮合して形成される化合物である。ポリリン酸中の重合度は2以上であれば任意であり、例えば、2以上であり、10以下である。ポリリン酸の例としては、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、シクロポリリン酸などが挙げられる。これらのポリリン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩またはマグネシウム塩である。環状リン酸の例としては、ヘキサメタリン酸などが挙げられる。これらの環状リン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩またはマグネシウム塩である。
【0063】
このリン酸源化合物は、Ca/P比を約1.0〜約1.67(P/Ca比=約0.6〜約1.0)、好ましくは約1.67(P/Ca比=約0.6)に近づけるように、単独で、または組み合わせて、本発明の組成物および食品中に添加され得る。
【0064】
(2d.フッ化物)
本発明においては、フッ化物も好適に使用できる。フッ化物イオンはカルシウムイオンと反応して沈澱しやすいが、リン酸化糖が存在することにより、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンの状態が保持されることが知られている(特許文献1(特開2002−325557号公報))。本発明においては、ラクトビオン酸カルシウムもまた、リン酸化糖と同様に、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンの状態を保持する性質を有することがわかった。よって、フッ化物もカルシウムイオンおよびリン酸イオンと同時に供給することで、脱灰患部の再結晶化を促すことができる。さらに、フッ化物イオンが結晶に取り込まれることで耐酸性の獲得が期待できる。本発明においては、フッ化物が水溶性カルシウム塩と同時または水溶性カルシウム塩よりも後に放出されるように設計されることが好ましい。また、本発明においては、フッ化物がラクトビオン酸もしくはその塩と同時またはそれよりも後に放出されるように設計されることが好ましい。
【0065】
従来、フッ化物は1000ppm以上の高濃度で使用される場合が多い。しかし、高濃度のフッ化物を摂取した場合、歯牙フッ素症となり軽度には歯面に白斑を生じたり、重度になると褐色の斑点や染みを生じたりする場合があり、それゆえ、高濃度のフッ化物は毒性が問題になる場合がある。本発明においては、ラクトビオン酸をフッ化物と同時に使用することにより、従来よりも低濃度のフッ化物を用いても充分なフッ化物イオン量を確保できるため、低濃度のフッ化物の使用で、従来の高濃度と同等以上の効果が得られるようになる。本発明によれば、例えば、約100ppm以下のフッ化物の添加、好ましくは約10ppm以下の使用でも十分な効果が得られ得る。フッ化物の濃度は、好ましくは約0.01ppm以上であり、より好ましくは約0.1ppmであり、さらに好ましくは約0.5ppm以上であり、最も好ましくは約2ppm以上である。フッ化物の濃度は、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約10ppm以下であり、最も好ましくは約5ppm以下である。フッ化物は好ましくは、水に溶けてフッ化物イオンを放出する化合物である。フッ化物は好ましくは、食品、医薬品または医薬部外品への配合が認められているフッ化物である。このようなフッ化物の例としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸、フッ化カルシウム、氷晶石、モノフルオロ酢酸などが挙げられる。本発明のフッ化物として、食品として使用可能なお茶、井戸水、海水、魚介類、海草等由来のフッ素を用いることもできる。例えば、フッ素の濃度が極めて高く、かつ茶ポリフェノールの濃度が極めて低い茶抽出物を使用してもよい。
【0066】
(2e.他の材料)
本発明の組成物および食品においては、ラクトビオン酸およびカルシウムによる作用を妨害しない限り、目的とする組成物および食品において通常用いられる任意の材料が用いられ得る。
【0067】
本発明の食品が例えば、チューインガム類である場合、ガムベース、甘味料、ゼラチン、香料、光沢剤、着色料、増粘剤、酸味料、pH調整剤などを含み得る。ガムベースの例としては、チクル、酢酸ビニール、エステルガム、ポリイソブチレンおよびスチレンブタジエンラバーが挙げられる。甘味料は、糖、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。甘味料は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性であることが好ましい。甘味料は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。チューインガム類の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0068】
本発明の食品が例えば、キャンディー類である場合、ショ糖、水飴などの糖類、小麦粉、練乳、食塩、寒天、ゼラチン、ナッツ類(ピーナッツなど)、ショートニング、バター、酸味料、香料、pH調整剤、着色料などを含み得る。糖類は、糖、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。糖類は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性の糖類であることが好ましい。糖類は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。キャンディー類の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0069】
錠菓(タブレットともいう)とは、粉末または顆粒を圧縮成形することによって形成され、口中で徐々に溶解または崩壊させて、口腔に長時間持続して作用するように設計された食品をいう。錠菓が口腔内で溶け始めてから溶け終わるまでにかかる時間は、錠菓の大きさおよび原料に依存する。当業者は、錠菓が溶け始めてから溶け終わるまでの所望の時間を達成するに適切な錠菓を任意に設計し、製造し得る。錠菓に使用される原料の例としては、以下が挙げられる:糖類、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、粉末セルロース、乳化剤、酸味料、香料、pH調整剤および着色料。糖類は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性の糖類であることが好ましい。糖類は、糖(ショ糖、水飴、乳糖、ブドウ糖、デンプンなど)、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。糖類は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。錠菓の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0070】
一方、齲蝕は細菌が引き起こす疾患である。よって、本発明の組成物および食品においては、抗菌剤またはプラーク形成阻害剤との併用も効果的である。ハイドロキシアパタイトが齲蝕原性細菌を吸着することも知られている。殺菌剤および抗菌剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジウム、パラペン、安息香酸、エタノールなどのアルコール類などが挙げられる。比較的安全性の高い物質として、キチンキトサン、キトサンオリゴ糖、ラクトフェリン、ポリフェノールなどとの組み合わせが挙げられる。また、細菌によって発症した炎症を抑える策も併用できる。主な抗炎症剤としては、ゲニステイン、ナリンゲニンなどのフラボノイド類、ポリアミン、β−グルカン、アルカロイド、ヘスペリジン、ヘスペレチン、糖転移ヘスペリジンなどが挙げられる。これらの種々の薬剤は、本発明の組成物および食品中に必要に応じて含まれ得る。
【0071】
本発明の組成物および食品は、特定の実施形態では、リン酸化オリゴ糖またはその塩およびハイドロキシアパタイトを含まないことが好ましい。このリン酸化オリゴ糖およびその塩は、特開平8−104696号公報に記載のリン酸化オリゴ糖およびその塩である。
【0072】
(3.本発明の食品)
1つの実施形態では、本発明の食品は、抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する。
【0073】
(3a.本発明の食品の製造方法)
本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含むように、当該分野で公知の任意の方法によって製造され得る。
【0074】
上記(ii)の場合、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを本発明の食品中に実質的に均一に含むことが好ましい。これらを均一に含む食品は、製造が容易であるという利点がある。
【0075】
上記(ii)の場合、ラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含む部分と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む部分とを分けてもよい。この場合には、本発明の食品においては、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸が放出されるのと同時またはそれよりも後にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩が食品から放出されるように設計されるべきである。ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩の方がラクトビオン酸またはその塩よりも早く放出されると、カルシウムイオンが歯面に無秩序に沈着してしまい、好ましくないからである。
【0076】
本発明の食品においては、フッ化物もまた使用され得、その場合には、フッ化物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されるべきである。
【0077】
本発明の食品においては、リン酸源化合物もまた使用され得、その場合には、リン酸源化合物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されることが好ましい。
【0078】
これらのことは、本発明の全ての食品および組成物について適用される。
【0079】
(3b.本発明の食品)
本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む、任意の食品であり得る。本発明の食品がラクトビオン酸カルシウム塩を含む場合は、本発明の食品は他にラクトビオン酸またはその塩を含む必要はないが、含んでもよい。
【0080】
本発明の食品は、必要に応じて、フッ化物を含み得る。本発明の食品がフッ化物を含む場合には、フッ化物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されるべきである。これらのことは、本発明の全ての食品について適用される。
【0081】
本発明の食品の例としては、例えば、チューインガム類;キャンディー類;錠菓;複合飲料;ヨーグルトなどの半流動性食品;ビスケット、せんべいなどの焼き菓子;アイスクリームなどの冷菓;ゼリーなどのゲル状の食品;および麺が挙げられる。チューインガム類、キャンディー類および錠菓は、有効成分を口腔内に長時間にわたって滞留させることが可能であることから、本発明の食品として好適である。刺激唾液には予めカルシウムイオンが約1〜1.5mM濃度含まれていることが知られており、商品設計時に考慮することが望ましい。
【0082】
本発明の食品がチューインガム類である場合、チューインガム類は、糖衣ガムまたは板ガムであり得る。チューインガム類は、そのいずれの部分もが、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ、を含むことが好ましい。ガムが糖衣ガムであって、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、糖衣部分はラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、ガム部分はラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。チューインガム類が板ガムの場合であって、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、このチューインガム類は、マイクロカプセルを含む板ガムであり、ガム部分がラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、マイクロカプセルがラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。どちらの場合も、ラクトビオン酸はラクトビオン酸含有部分、カルシウム含有部分のどちらか、あるいは両方に含まれていてもよい。
【0083】
本発明の食品がキャンディー類である場合、キャンディー類は、単層のキャンディーであっても、複数層キャンディーであってもよい。キャンディー類とは、ショ糖および水飴などの糖類を主原料とし、糖類を煮詰める工程を含む方法によって製造される食品をいう。キャンディー類は、ソフトキャンディーとハードキャンディーとに分類される。ソフトキャンディーの例としては、ソフトキャラメル、ハードキャラメル、ヌガーおよびマシュマロが挙げられる。ハードキャンディーの例としては、ドロップ、タフィおよびブリットルが挙げられる。
【0084】
本発明の食品が単層キャンディーである場合、このキャンディーは、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。単層キャンディーは複数層キャンディーよりも製造が容易であるという利点を有する。
【0085】
複数層キャンディーがセンター層とそれを取り囲むコーティング層との2層からなるキャンディーである場合、例えば、センター層およびコーティング層の両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、センター層およびコーティング層のいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。1つの実施形態では、センター層は、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、コーティング層はラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。センター層は、硬質キャンディーであっても、軟らかいキャンディーであっても、またはクリームであってもよい。コーティング層は、硬質キャンディーであっても、軟らかいキャンディーであっても、糖衣であっても、または粉末の層であってもよい。本発明のキャンディー類は1層キャンディーおよび2層キャンディーに限定されず、さらなる層が設けられてもよい。
【0086】
1つの実施形態では、本発明の食品は、キャンディーによってガムが包まれた菓子(糖衣キャンディー・ガムともいう)であってもよい。この場合、例えば、キャンディーおよびガムの両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、キャンディーおよびガムのいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品が糖衣キャンディー・ガムであって、(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、キャンディー部分にラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含み、キャンディー部分にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む構成としてもよい。
【0087】
本発明の食品が錠菓である場合、錠菓は、単層錠菓であっても、複数層錠菓であってもよい。本発明の食品が単層錠菓である場合、この錠菓は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。単層錠菓は複数層錠菓よりも製造が容易であるという利点を有する。
【0088】
本発明の食品が複数層錠菓である場合、例えば、全ての層に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、いずれか1つまたは2つの層にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品が3層からなる3層錠菓であって(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、2つの層に挟まれた真ん中の層がラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでおり、この層を挟んでいる2つの層がラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含まむことが好ましい。
【0089】
本発明の食品がアイスクリームなどの冷菓である場合、本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。
【0090】
別の実施形態では、本発明の食品は、ベースとなる冷菓中に固体食品を含む冷菓であり得る。この場合、例えば、ベースとなる冷菓および固体食品の両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、ベースとなる冷菓および固体食品のいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品がベースとなる冷菓中に固体食品を含む冷菓であって、(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、ベースとなる冷菓中にラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含み、固体食品中にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む構成としてもよい。
【0091】
本発明の冷菓またはこのようなベースとなる冷菓の例としては、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスおよび氷菓が挙げられる。このような固体食品は例えば、ゲルであり得る。このような固体食品の例としては、例えば、タピオカ、ナタデココ、寒天、ゼリー、ババロア、ジャムなどが挙げられる。このような固体食品は任意の大きさであり得るが、好ましくは直径2mm以上、より好ましくは直径3mm以上である。固体食品の直径は、例えば、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上または10mm以上であってもよい。固体食品の直径は、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは14mm以下であり、さらに好ましくは13mm以下である。固体食品の直径は、例えば、12mm以下、11mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下または5mm以下であってもよい。
【0092】
本発明の食品の重量は、任意の重量であり得る。本発明の食品の重量は、好ましくは約0.05g以上であり、より好ましくは約0.1g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上である。本発明の食品の重量は、好ましくは約5g以下であり、より好ましくは約4g以下であり、さらに好ましくは約3g以下である。
【0093】
本発明の食品がチューインガム類である場合、チューインガム類の重量は、好ましくは約0.05g以上であり、より好ましくは約0.1g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上である。チューインガム類の重量は、好ましくは約3g以下であり、より好ましくは約2g以下であり、さらに好ましくは約1g以下である。
【0094】
本発明の食品がキャンディー類の場合、キャンディー類の重量は、好ましくは約0.5g以上であり、より好ましくは約1g以上であり、さらに好ましくは約1.5g以上である。キャンディー類の重量は、好ましくは約5g以下であり、より好ましくは約4g以下であり、さらに好ましくは約3g以下である。
【0095】
本発明の食品が錠菓である場合、錠菓の重量は、好ましくは約0.05g〜約10g、より好ましくは約0.1g〜約5gであり、さらに好ましくは約0.2g〜約3gである。
【0096】
本発明の食品は、任意の形状であり得る。例えば、本発明の食品がチューインガム類、キャンディー類および錠菓の場合、円盤状、球状、ラグビーボール状、ハート型などであり得る。例えば、本発明の食品が複合飲料、ヨーグルトなどの場合はもちろん、特に決まった形状はない。
【0097】
1つの実施形態では、本発明の食品がラクトビオン酸またはその塩(ただし、カルシウム塩を除く)を含む場合、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上の濃度となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下の濃度となるに適切な量である。
【0098】
食品に関して本明細書中で使用する場合、「含有量が、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が1.0mM以上の濃度となるに適切な量である」とは、本発明の食品を喫食し始めてから20分間の間に口腔内に生成する液体を採取し、その液体中のその成分の濃度を測定した場合の濃度が1.0mMになるに適切な量をいう。例えば、1分ごとに20回採取を行う方法が可能であり、その場合、20回採取された液体を合わせたものを測定サンプルとすることができる。当該20分間の間、その食品は飲み込まないで口腔内で保持しておくことが好ましい。あるいは、20分間の間に食品を少しずつ口の中に入れて咀嚼してもよい。そして、喫食者が、唾液が口腔内に溜まって来たと感じるごとにその唾液を吐き出してもらい、その吐き出された液体を収集する方法などが可能である。ただし、唾液を吐き出すさいには食品を吐き出さないように注意させる。他の濃度の場合についても同様に解釈される。本明細書中では、用語「唾液」とは、口腔腺から分泌される純粋な唾液ではなく、口腔内で食物を咀嚼した場合に口腔内にたまる液体を唾液と呼ぶ。この場合、口腔内にたまる液体は、純粋な唾液と、食品由来の液体部分と、食品由来の各種溶質との混合物である。食品への各成分の配合量は、食品の重量、大きさなどによって変化する。食品の1回摂取量が大きい場合、摂取量が小さい場合よりも低い含有量になるように配合される。例えば、同じ使用量を達成するためには、2gの食品中の配合量(%)は、1gの食品中の配合量(%)の約0.5倍になる。人間の唾液は、20分間で平均約20mL分泌される。そのため、食品への配合量は、20mLの唾液に対してどれだけ溶出するかを考慮して設定される。このような配合量の設定は、当業者によって容易に実施され得る。
【0099】
食品がラクトビオン酸またはその塩を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのラクトビオン酸およびその塩が唾液中に溶出する。
【0100】
食品がリン酸源化合物を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのリン酸源化合物が唾液中に溶出する。
【0101】
食品がフッ化物を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのフッ化物が唾液中に溶出する。
【0102】
1つの実施形態では、本発明の食品がラクトビオン酸またはその塩(ただし、カルシウム塩を除く)を含む場合、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上の濃度となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸またはその塩の含有量は、口腔内で使用する際に、カルシウム含量に換算して、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下の濃度となるに適切な量である。
【0103】
1つの実施形態では、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるに適切な量である。
【0104】
1つの実施形態では、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLでカルシウムの分子量が約40であるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度を1.5mM〜6mMとするのには、1回摂取量として1.2mg〜4.8mgのカルシウムを含めばよい(40×1.5(mM)×0.002(L)=1.2mg、40×6(mM)×0.002(L)=4.8mg)。それゆえ、ガムの重量をXg、配合量(カルシウムとして換算)をY%とすると、Y(%)={(1.2〜4.8(mg))/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、カルシウムとしての配合量は、0.06〜0.24重量%である。例えば、ガムの重量が1gであれば、カルシウムとしての配合量は、0.12〜0.48重量%であり、ガムの重量が10gであれば、カルシウムとしての配合量は0.012〜0.048重量%である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0105】
1つの実施形態では、本発明の食品がフッ化物を含む場合、この食品中のフッ化物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のフッ化物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が、好ましくは約0.1ppm以上、より好ましくは約0.5ppm以上、さらに好ましくは約1ppm以上、特に好ましくは約2ppm以上となるのに適切な量である。本発明の食品中のフッ化物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が、好ましくは約100ppm以下、より好ましくは約50ppm以下、さらに好ましくは約30ppm以下、さらにより好ましくは約10ppm以下、特に好ましくは約5ppm以下、最も好ましくは約3ppm以下となるのに適切な量である。
【0106】
1つの実施形態では、本発明の食品中のフッ化物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、フッ化物がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLであるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度を50ppm以下とするのには、1回摂取量として1mg以下のフッ素を含めばよい(20(g)×50×10−6=1(mg))。それゆえ、ガムの重量をXg、フッ化物の配合量(フッ素として換算)をY%とすると、Y(%)={1(mg)/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、フッ素としての配合量は、0.05重量%以下である。例えば、ガムの重量が1gであれば、フッ素としての配合量は、0.1重量%以下であり、ガムの重量が10gであれば、フッ素としての配合量は0.01重量%以下である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0107】
1つの実施形態では、本発明の食品がリン酸源化合物を含む場合、この食品中のリン酸源化合物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が、好ましくは約0.1mM以上、より好ましくは約0.5mM以上、さらに好ましくは約1mM以上、特に好ましくは約2mM以上、最も好ましくは約2.5mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約8mM以下、さらに好ましくは約6mM以下、特に好ましくは約5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるに適切な量である。
【0108】
1つの実施形態では、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、リン酸源化合物がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLでリン酸の分子量が約98であるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度を0.1mM〜10mMとするには、1回摂取量として0.0196mg〜1.96mgのリン酸を含めばよい(98×0.1(mM)×0.002(L)=0.0196mg、98×10(mM)×0.002(L)=1.96mg)。それゆえ、ガムの重量をXg、配合量(リン酸として換算)をY%とすると、Y(%)={(0.0196〜1.96(mg))/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、リン酸としての配合量は、0.00098〜0.098重量%である。例えば、ガムの重量が1gであれば、リン酸としての配合量は、0.00196〜0.0000196重量%であり、ガムの重量が10gであれば、リン酸としての配合量は0.000196〜0.00000196重量%である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0109】
(3c.本発明の食品の喫食方法)
本発明の食品は、任意の用途に用いられ得る。本発明の食品は、健常人にも、初期齲蝕の治療を必要とする人にも、用いられ得る。
【0110】
本発明の食品の摂取量、摂取頻度および摂取期間に特に制限はなく、任意に摂取され得る。
【0111】
本発明の食品の摂取量は、好ましくは1回あたり、約0.1g以上であり、より好ましくは約0.2g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上であり、さらにより好ましくは約1g以上である。本発明の食品の摂取量に特に上限はないが、例えば、1回あたり、約1000g以下、約750g以下、約500g以下、約250g以下、約100g以下、約50g以下、約40g以下、約30g以下、約20g以下、約10g以下、約7.5g以下、約5g以下、約4g以下、約3g以下、約2g以下、約1g以下などである。
【0112】
本発明の食品の摂取頻度は、任意に設定され得る。例えば、1週間に1回以上、1週間に2回以上、1週間に3回以上、1週間に4回以上、1週間に5回以上、1週間に6回以上、1週間に7回以上、1日1回以上、1日2回以上、1日3回以上などであり得る。本発明の食品の摂取頻度に上限はなく、例えば、1日3回以下、1日2回以下、1日1回以下、1週間に7回以下、1週間に6回以下、1週間に5回以下、1週間に4回以下、1週間に3回以下、1週間に2回以下、1週間に1回以下などであり得る。
【0113】
本発明の食品の摂取のタイミングは、食前であっても食後であっても食間であってもよいが、食後が好ましい。食前とは、食事の直前から食事を取る約30分前までをいい、食後とは、食事の直後から食事を取った約30分後までをいい、食間とは、食事を取ってから約2時間以上経過した後から次の食事まで約2時間以上前の時間をいう。
【0114】
本発明の食品の摂取期間は、任意に決定され得る。本発明の食品は、好ましくは約1日以上、より好ましくは約3日間以上、最も好ましくは約5日間以上摂取され得る。本発明の食品の摂取期間は、約1ヶ月以下、約2週間以下、約10日間以下であってもよい。口腔内での脱灰は日常的に起こり得るので、本発明の食品は、ほぼ永続的に摂取されることが好ましい。
【0115】
本発明の食品は、摂取の際、すなわち、喫食時にすぐには嚥下せずにある程度の時間にわたって口腔内に滞留させることが好ましい。本発明の食品を口腔内に滞留させる時間は、好ましくは約5分間以上、より好ましくは約10分間以上、さらに好ましくは約15分間以上である。本発明の食品を口腔内に滞留させる時間に特に上限はなく、例えば約1時間以下、約50分以下、約40分以下、約30分間以下、約20分間以下などであり得る。滞留時間が短すぎる場合には、再石灰化効果が得られにくい。
【0116】
本発明の食品がチューインガム類、キャンディー類、錠菓などの場合は、1回に1粒ずつ摂取されてもよく、1回に複数個(例えば、2個〜10個)摂取されてもよい。1回に複数個を摂取する場合、いっぺんに複数個を口に入れて摂取してもよく、1個ずつ順々に複数個を摂取してもよい。本発明の食品がチューインガム類である場合、長時間噛み続けることが好ましく、本発明の食品がキャンディー類または錠菓である場合、噛まずに最後まで舐められることが好ましい。
【0117】
本発明の食品は、通常、包装されて販売される。この包装は、紙、プラスチック、セロハンなどの通常使用される包装であり得る。この包装には、本発明の食品の摂取量、摂取タイミング、摂取方法(例えば、ガムの場合、「2粒を約20分間以上かみ続けることが好ましい」)などについての指示が記載されていることが好ましい。あるいは、このような指示が記載された指示書が挿入されていてもよい。
【0118】
(4.本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物)
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む組成物である。この組成物は、特定の実施形態では、ハイドロキシアパタイト微粒子も、リン酸化糖またはリン酸化糖の塩も含まないことが好ましい。この抗齲蝕用の口腔用組成物は、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム(例えば、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムおよびリン酸三カルシウム)を含有し得る。本発明の初期齲蝕治療用組成物は、フッ化物またはリン酸源化合物をさらに含むことが好ましい。1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、初期齲蝕治療用組成物であることが好ましい。
【0119】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、上記の材料のみからなっていてもよいが、上記以外の他の材料を含んでもよい。本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中に含まれ得る他の材料の例としては、粉末セルロース、デンプン、水、抗菌剤、および殺菌剤が挙げられる。
【0120】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が粉末の場合、この組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩の粉末;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸の粉末と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩の粉末との組み合わせを、従来公知の方法によって必要に応じて従来公知の他の材料と混合することによって製造され得る。
【0121】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が液体の場合、この組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを従来公知の溶媒に添加し、従来公知の方法によって混合することによって製造され得る。
【0122】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩(ラクトビオン酸カルシウムを除く)の含有量の合計は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のラクトビオン酸濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、特に好ましくは約2.0mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のラクトビオン酸濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0123】
口腔用組成物に関して本明細書中で使用する場合、「含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のその濃度が1.0mM以上の濃度となるに適切な量である」とは、本発明の口腔内組成物を使用し始めてから20分間の間に口腔内に生成する液体を採取し、その液体中のその成分の濃度を測定した場合の濃度が1.0mMになるに適切な量をいう。他の濃度の場合についても同様に解釈される。口腔内にたまる液体は、純粋な唾液と、口腔用組成物由来の液体部分と、口腔用組成物由来の各種溶質との混合物である。
【0124】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩(ラクトビオン酸カルシウムを除く)の含有量の合計は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上であり、より好ましくは約1.5mM以上であり、特に好ましくは約2.0mM以上であり、最も好ましくは約3mM以上である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約6mM以下であり、さらに好ましくは約5mM以下であり、特に好ましくは約4.5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。本明細書中では、このような、ほとんど希釈されない口腔用組成物の場合、口腔内に存在する該組成物と少量の唾液との混合物のことを「口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液」とみなす。
【0125】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、特に好ましくは約2.0mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0126】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量の合計は、カルシウム含量に換算して、好ましくは約1.0mM以上であり、より好ましくは約1.5mM以上であり、特に好ましくは約2.0mM以上であり、最も好ましくは約3mM以上である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量の合計は、カルシウム含量に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約6mM以下であり、さらに好ましくは約5mM以下であり、特に好ましくは約4.5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。
【0127】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がフッ化物を含む場合、この口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が好ましくは約0.1ppm以上、より好ましくは約0.5ppm以上、さらに好ましくは約1ppm以上となるのに適切な量である。本発明の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が好ましくは約100ppm以下、より好ましくは約50ppm以下、さらに好ましくは約30ppm以下、さらにより好ましくは約10ppm以下、特に好ましくは約5ppm以下、最も好ましくは約3ppm以下となるのに適切な量である。これらのことは、本発明の全ての抗齲蝕用の口腔用組成物について適用される。
【0128】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、フッ素含量に換算して、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約30ppm以下であり、さらにより好ましくは約10ppm以下であり、特に好ましくは約5ppm以下であり、最も好ましくは約3ppm以下である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量の合計は、フッ素含量に換算して、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約30ppm以下であり、さらにより好ましくは約10ppm以下であり、特に好ましくは約5ppm以下であり、最も好ましくは約3ppm以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。
【0129】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の初期齲蝕治療用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が好ましくは約0.1mM以上、より好ましくは約0.5mM以上、さらに好ましくは約1mM以上、特に好ましくは約2mM以上、最も好ましくは約2.5mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が好ましくは約10mM以下、より好ましくは約8mM以下、さらに好ましくは約6mM以下、特に好ましくは約5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0130】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、リン酸含量に換算して、好ましくは約0.1mM以上であり、より好ましくは約0.5mM以上であり、さらに好ましくは約1mM以上であり、特に好ましくは約2mM以上であり、最も好ましくは約2.5mM以上である。この場合、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、リン酸含量に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約8mM以下であり、さらに好ましくは約6mM以下であり、特に好ましくは約5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。
【0131】
別の実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は以下のように使用され得る。まず、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が所望の歯面(例えば、初期齲蝕の部分または健全な部分)に適用される。この組成物は、コントラ、ローラー、ブラシなどのような器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよく、適用されたカルシウムイオンおよびラクトビオン酸イオンが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じてもよい。唾液との接触を減らすための手段を講じる場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、充分量のリン酸源化合物を含むことが好ましい。この場合には、例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。唾液との接触を減らすための手段を講じることにより、初期齲蝕の再石灰化が顕著に促進され得る。本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物を歯面に適用する前に、有機質除去剤を使用することが好ましい。
【0132】
食品以外の口腔用組成物の形態としては、例えば、歯磨剤、洗口剤(マウスウオッシュともいう)、トローチ剤、ゲル剤等が挙げられ、医薬組成物の剤型としては、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられる。またこれらの液剤を不織布などに含浸させた拭取り布のような形態のものや綿棒のような形態を用いることも可能である。
【0133】
本発明の口腔用組成物は、通常、容器に入れて、または包装されて販売される。この容器は、プラスチックなどの通常使用される容器であり得る。この包装は、紙、プラスチック、セロハンなどの通常使用される包装であり得る。この容器または包装には、本発明の口腔用組成物の摂取量、摂取タイミング、摂取方法(例えば、ガムの場合、「2粒を約20分間以上かみ続けることが好ましい」)などについての指示が記載されていることが好ましい。あるいは、このような指示が記載された指示書が挿入されていてもよい。
【実施例】
【0134】
(1.使用したラクトビオン酸カルシウム塩およびラクトビオン酸)
以下の実験、実施例および試験例に用いたラクトビオン酸カルシウム塩およびラクトビオン酸は、試験例に用いたラクトビオン酸カルシウム塩及びラクトビオン酸カルシウムはFFI Journal Vol.211,No.10,2006 874−881に掲載した方法に準じた方法で調製したものを用いた。
【0135】
(2.表層下脱灰病巣形成)
以下の実験、実施例および試験例においては、以下の方法によって表層下脱灰病巣形成を行った。エナメル質ブロック(10mm×10mm)をウシ切歯の冠部から切り出し、次いで口腔表面部分なしでこのブロックを樹脂に取り付けた。このブロックを、湿らせた研磨紙(#1000および#2000)で研磨して新たで平らなエナメル質表面を露出させた。エナメル質表面の一部(3分の1の部分)にネイルバーニッシュを塗り、その後の脱灰処理から保護した。この部分はコントロールの健全部である。0.1M乳酸溶液(pH4.5)をメチルセルロースゲル上に重層する方法(Lynch RJM,ten Cate JM:The effect of lesion characteristics at baseline on subsequent de and remineralisation behaviour.,Caries Res,2006;40:530−535)により、エナメル質ブロックの表面下病巣を形成させた。このようにして、健全部と脱灰部のあるウシ歯片を調製した。
【0136】
(3.TMRの方法)
以下の実験、実施例および試験例においては、以下の方法によってTMRを行った。再石灰化後、水冷式ダイアモンド鋸を用いて、エナメル質のブロックから薄い平行切片を切り出した。この薄い切片を平行な水平面になるように研磨して150μmの厚さにした。このエナメル質の薄い切片を、高分解能プレートを用い、20kVおよび20mAによって生成されたCu−Kα X線によって13分間にわたってX線撮影し、現像し、顕微鏡解析をした(PW−3830,Philips,The Netherlands)。X線撮影の際には標準物質として種々の既知量のアルミニウムを使用して、同時に撮影し、カルシウム量の検量線を作成するために使用した。顕微鏡で観察されたデジタル画像からミネラルプロファイルを描写し、そしてInspektor Research Systems BV(The Netherlands)のソフトフェアによってミネラルパラメーター(脱灰深度ldおよびミネラル喪失量(ML))を計算した。平均値を標本あたりで計算し、そして統計的に解析した。
【0137】
(実験1および実験2:ラクトビオン酸カルシウムの再石灰化に与える影響評価)
再石灰化を促進する条件は、以下の2点である:
(1)中性pH条件下でカルシウム−リン酸の結合および不溶化を防ぐ;
(2)脱灰患部へカルシウムイオンとリン酸イオンを供給し、ハイドロキシアパタイトの結晶成長へ寄与する。
【0138】
カルシウムイオンは、リン酸イオンと結合して再石灰化することにより、ハイドロキシアパタイトおよび水素イオンが形成される。この反応は、以下に示すように可逆的である:
10Ca+ + 6HPO4− + 2H2O⇔Ca10(PO4)6(OH)2 + 8H+
それゆえ、カルシウムイオン濃度およびpHを測定することにより、再石灰化反応をモニターできる。さらに、ハイドロキシアパタイトの結晶核を利用することで、再石灰化反応の促進効果を評価できる(Tanaka,T.,et al.,Caries Res.41(4),327(2007))。
【0139】
ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化に与える影響評価のために、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液またはリン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液(コントロール1)またはCaCl2含有再石灰化溶液(コントロール2)中のpHおよびカルシウムイオンの経時変化を調べた。また、ラクトビオン酸カルシウムの代わりにラクトビオン酸ナトリウムと塩化ナトリウムとの組み合わせを用いた場合のpHおよびカルシウムイオンの経時変化もまた調べた。
【0140】
詳細には、表1の実験1の組成のラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液、表1の比較実験1の組成のリン酸化オリゴ糖カルシウム塩(POs−Ca)含有再石灰化溶液、表1の比較実験2の組成のCaCl2含有再石灰化溶液および表1の比較実験3の組成のリン酸化オリゴ糖ナトリウム塩およびCaCl2含有再石灰化溶液を調製した。これらの溶液はいずれも、リン酸源化合物(KH2PO4)を含んでいた。カルシウムの供給源は、実験1においてはラクトビオン酸カルシウム塩であり、比較実験1においてはPOs−Caであり、比較実験2および比較実験3においてはCaCl2であった。この溶液の調製の際、微量の1N塩酸溶液とカルシウム源およびリン酸源化合物を50mlの水に添加して混合した後、緩衝液であるHEPES溶液を添加し、最後に1N水酸化カリウム溶液を加えてpHを中性にした後、この溶液を100mlになるように蒸留水を加えてから、37℃、pH6.5±0.02でインキュベーションを開始した。
【0141】
【表1】
インキュベートしながら、pHの変化およびCa濃度の変化を5分毎に測定した。各時点でのpHおよびCa濃度を、電極により測定した。
【0142】
インキュベート開始後、実験1〜2および比較実験1〜比較実験3のいずれについても60分の時点で結晶核(ハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mg)をそれぞれの溶液に添加し、その後、120分の時点までインキュベーションおよび測定を続けた。実験1の結果を図1に、比較実験1の結果を図2に、比較実験2の結果を図3に、実験2の結果を図4に、そして比較実験3の結果を図5に示す。
【0143】
図1(実験1)に示すように、ラクトビオン酸カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度はやや上昇するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.32 低下し、カルシウムイオンが22.5%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。このように、ラクトビオン酸カルシウムは、リン酸化オリゴ糖と同様に再石灰化を促進する物質であると考えられる。
【0144】
図2(比較実験1)に示すように、リン酸化オリゴ糖カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度はやや低下するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.25低下し、カルシウムイオンが32.2%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。
【0145】
図1と図2の比較により、ラクトビオン酸がPOsCaよりも結晶核存在下でのカルシウム沈着効果に優れることがわかった。
【0146】
一方、図3(比較実験2)に示すように、塩化カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションをすると、カルシウム濃度およびpHの低下が起こり、容器の底には沈澱物の形成が観察された。反応開始60分後には、反応開始時と比較してpH値が0.41低下し、カルシウムイオン23.4%不溶化していた。結晶核を添加しても、カルシウム濃度およびpHの低下の傾向に変化がなかった。これは、結晶核とは無関係にカルシウムが沈澱することを示す。このことから、塩化カルシウムが再石灰化にほとんど寄与しないことが確認された。
【0147】
すなわち、塩化カルシウムは、大量のカルシウムを含有しているが、ハイドロキシアパタイトの存在しない場所においてそのカルシウムを放出してしまい、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを大量に提供することができない。他方、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸化オリゴ糖は、ハイドロキシアパタイトの存在しない場所においてそのカルシウムを放出せずに保持しており、ハイドロキシアパタイトの存在する場所において初めてカルシウムを放出する。そのため、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸化オリゴ糖は、ハイドロキシアパタイトに大量のカルシウムを提供することができる。
【0148】
図4(実験2)に示すように、ラクトビオン酸カルシウムの代わりに、ラクトビオン酸ナトリウムおよびCaCl2を含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度がやや上昇しpHがやや低下するが、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。これは、ラクトビオン酸カルシウムを用いた場合と同様であった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.33低下し、カルシウムイオンが22.1%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。また、ラクトビオン酸カルシウムの代わりに、カルシウム塩以外のラクトビオン酸カルシウムミネラル塩と水溶性カルシウム塩を用いることによっても優れた再石灰化が得られることがわかった。
【0149】
図5(比較実験3)に示すように、リン酸化オリゴ糖ナトリウムおよびCaCl2を含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度がやや上昇するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、カルシウム濃度およびpHの低下が起こることがわかった。この可溶性カルシウムの割合の低下はリン酸化オリゴ糖カルシウムを用いた場合よりも少なかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.197低下し、カルシウムイオンが26.5%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。
【0150】
このように、ラクトビオン酸カルシウムのみ、またはラクトビオン酸ナトリウムとCaCl2の組み合わせを用いた場合、結晶核を添加する前はほぼ一定のpHを保ち、結晶核の添加により可溶性カルシウムの割合が急激に低下した。これは、リン酸化オリゴ糖と同様に、ラクトビオン酸が口腔内に存在する場合、歯面と接触する前はカルシウムイオンを保持する能力を有し、そして歯面と接触すると直ちにカルシウムイオンを放出して再石灰化を促進することを示唆する。
【0151】
(実験3:ミュータンス連鎖球菌によるラクトビオン酸カルシウムの資化性の確認)
実験1および実験2において簡易評価系で調べた結果、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化を促進する効果を有する可能性があることがわかった。本実験では、ミュータンス連鎖球菌によるラクトビオン酸カルシウムの資化性を検討して、ラクトビオン酸カルシウムが脱灰の原因とならないかどうかを評価した。
【0152】
菌株として、Streptococcus mutans MT8148およびStreptococcus sobrinus 6715を使用した。
【0153】
まず、Brain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco社製)4mlに、各菌株のストック溶液(グリセロール:BHI=1:1,−80℃で保存)から白金耳を用いて2回植菌して静置培養を一晩行った。続いて、以下の表2に記載の組成の培養液を用いて本培養を行った。本培養は、Heart Infusion(HI)液体培地(Difco社製)を用い、前培養液を加えて試験管を斜めに倒し、37℃で静置培養を行った。被検サンプルとして1%または10%のラクトビオン酸カルシウム溶液を作製し、終濃度0.1%または1%となるように培養液に加えた。コントロールとして20%スクロース溶液を用いて、終濃度2%となるように培養液に加えた。また、ブランクとして糖質を含まない液体培地を調製した。
【0154】
【表2】
植菌後、37℃で静置培養し、0、4、7、23時間で反応液を800μlずつサンプリングし、そのpHおよびO.D570値(濁度)を測定した。
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
(結果)
スクロースを添加したコントロールにおいては、S.mutansおよびS.sobrinusともに、pH低下および濁度の上昇が観察され、細菌の顕著な増殖およびスクロースの資化が確認された(表3および4)。しかし、ラクトビオン酸カルシウム添加試験区では、1%添加区で僅かにpHの低下(表3)および濁度の上昇(表4)が見られた。ラクトビオン酸カルシウムを0.1%添加した場合、そのpHの低下および濁度の上昇は、ブランク(滅菌水)とほぼ同じであり、pHの低下も濁度の上昇も極めて少なかった。ラクトビオン酸カルシウム添加試験区では、23時間培養後もブランクと同様にpH6.0以上を保っていたため、歯の脱灰を引き起こすレベルの酸は産生していなかった。従って、ラクトビオン酸カルシウムは、口内細菌によってほとんど資化されず、脱灰の原因になりにくいと考えられる。
【0157】
(実施例1および参考例1:ラクトビオン酸カルシウム塩またはリン酸化オリゴ糖カルシウム塩によるウシ歯での再石灰化効果)
実験1および2から、ラクトビオン酸カルシウム含有再石灰化溶液はリン酸化オリゴ糖カルシウム含有再石灰化溶液と同様に再石灰化能力に優れていると考えられたので、それを確認するために、人工的に脱灰したウシ歯片を用いて以下の実験を行った。
【0158】
「2.表層下脱灰病巣形成」に従って牛エナメル質歯片の表層下脱灰病巣を形成した(この時点でエナメル質表面の1/3にネイルバーニッシュが塗られており、表面の2/3の部分が脱灰されていた)。さらにこの脱灰部のうちの1/2にネイルバーニッシュを塗布して脱灰部を保存した。これにより、エナメル質表面の2/3にネイルバーニッシュを塗ったウシ歯片を準備した。次いで次の再石灰化処理を行った。再石灰化処理において、この脱灰後のウシ歯を以下の表5の再石灰化溶液中で37℃で24時間連続浸漬した。浸漬後、ウシ歯片を回収し、ネイルバーニッシュをはがした後、歯の横断面薄片(約150μm)を切り出し、各再石灰化組成の再石灰化度を上記「2.TMRの方法」に従ってトランスバーサルマイクロラジオグラフィー(Transversal Microradiography;TMR)解析により評価した。TMR解析から計算して得たミネラルプロファイルもまた評価した。つまり、歯横断面のマイクロラジオグラフおよびミネラルプロファイルから脱灰および再石灰化度を評価した。
【0159】
【表5】
TMR解析の結果(すなわち、X線撮影結果の顕微鏡写真;マイクロラジオグラフ)を図6に示す。図6の(A)および(B)はラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の結果を示し、図6の(C)および(D)はリン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の結果を示す。それぞれ、DEMは脱灰処理後で再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)の結果を示し、REMは、再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)の結果を示す。
【0160】
図6のTMR解析の結果から計算して得たミネラルプロファイルを図7および図8に示す。図7は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)および再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。
【0161】
図8は、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)および再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。
【0162】
図6において、黒い部分は背景であり、歯面表層が上側に白く見えており、その下側が灰色に、さらにその下側が白く見えている。歯片の厚さは均質であり、カルシウムが多いほどX線が透過しにくいので、カルシウム量が多いほど白く見える。すなわち、この写真の色調によって、その部分のカルシウム量を知ることができる。図6の(A)および(C)の写真から、脱灰後の歯片において、歯面表層にはカルシウムが残っているが、その下の層はカルシウムが抜けていることがわかる。
【0163】
再石灰化処理前である図7の脱灰後を示す細い線を見ると、いずれも脱灰深度(Lesion depth、これは、歯面からの距離、すなわち、サンプル位置を示す)が0ではミネラル喪失量%(Mineral Loss;vol.%)が約15〜25%であり、サンプル位置が約20μmになるまではミネラル量%がほぼ一定かまたは減少しており、そこからミネラル量%が増加しはじめ、Ldが約100μmではミネラル量%が約60%以上にまで増加する。その後、サンプル位置が深くなるとミネラル量%は徐々に増加して約80%となる。
【0164】
再石灰化処理後である図7および8の太い線を見ると、ラクトビオン酸カルシウムで処理した場合もリン酸化オリゴ糖カルシウムで処理した場合も、ミネラル量%が最低でも40%程度まで増加した。これは、図6のREMから視覚的にも確認できる。図6のREMでは歯面表層の下側の部分がかなり白くなっている。
【0165】
標準物質によって検量して、ミネラル損失量を計算し、脱灰部のミネラル損失量(Mineral loss)を100%の損失としたときの、再石灰化部のミネラルの回復率を以下の式に基づいて計算した:
[{(脱灰部のミネラルの損失量)−(再石灰化部のミネラルの損失量)}/(脱灰部のミネラル損失量)]×100=回復率(%)
再石灰化部の脱灰深度(Lesion depth)の回復率を以下の式に基づいて計算した:
[{(脱灰部の脱灰深度)−(再石灰化部の脱灰深度)}/(脱灰部の脱灰深度)]×100=回復率(%)
その結果、ラクトビオン酸カルシウム塩については、脱灰深度(μm)の回復率が4.8%であり、ミネラル損失量(vol%.μm)の回復率が29.8%であった。リン酸化オリゴ糖カルシウム塩については、脱灰深度(μm)の回復率が23.9%であり、ミネラル損失量(vol%.μm)の回復率が36.2%であった。再石灰化能力のない物質では回復率は通常約0%である。このことより、ラクトビオン酸カルシウムも、リン酸化オリゴ糖カルシウムと同様に優れた再石灰化効果を有することが確認された。このように、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化のカルシウム源として、そして再石灰化促進素材として、有効に利用され得ることがわかった。
【0166】
(実施例2:ラクトビオン酸カルシウム含有ガムの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表6に示す配合の材料を混合してセンターガムを調製する。さらに、このセンターガムに、センターガムの重量:糖衣の重量=7:3で糖衣し、光沢剤(シェラック)をコーティングすることにより、糖衣ガムを得た。糖衣としてマルチトールを使用した。このセンターガム2粒を咀嚼し、唾液20mLが出てくると仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.68mMである。このセンターガムの1粒あたりの重量は約1gである。このガムの味にはくせがなく、キシリトールおよびミントオイルの味および風味がそのまま損なわれずに感じられる、良好な味および風味のものである。
【0167】
【表6】
(実施例3:ラクトビオン酸カルシウム含有キャンディーの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って、60:40の重量比のパラチニットおよび還元みずあめの混合物を水分値1.8重量%になるまで煮詰めてキャンディーベースを得る。このキャンディーベースに以下の表7に示す配合でラクトビオン酸カルシウム塩、香料および着色料を加えて混合してシュガーレスキャンディーを調製する。このキャンディーの1個あたりの重量は約3.6gである。このキャンディー一粒を口腔内で溶解したとき分泌される唾液量が20mLと仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.6mMである。
【0168】
【表7】
(実施例4:ラクトビオン酸カルシウム含有タブレットの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表8に示す配合の材料を混合してタブレットを調製する。このタブレットの1個あたりの重量は約1gである。このタブレット1粒を口腔内で溶解した場合に分泌される唾液量を20mLと仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.6mMである。
【0169】
【表8】
(実施例5:練り歯磨きの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表9に示す配合の材料を混合して練り歯磨きを製造する。この歯磨剤の1回あたり使用重量は約1〜3gである。この歯磨剤2gを口腔内で溶解した場合に分泌される唾液量が5分間の歯磨きで10mLと仮定したとき、唾液10mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約5.1mMである。
【0170】
【表9】
(実施例6:種々の濃度のラクトビオン酸カルシウムによる再石灰化効果)
本実施例では、ラクトビオン酸カルシウム由来のカルシウムイオンがイオン化状態でリン酸およびフッ素と共存して再石灰化に利用できる範囲を検討した。
【0171】
口腔内の唾液は中性である。従来のカルシウム素材を用いた場合、口腔内の唾液下ではカルシウムとリン酸との間でリン酸カルシウムの沈殿が形成されやすかったり、フッ素とカルシウムとの間でフッ化カルシウムの沈澱が形成されやすかったりする。そのため、一般的なカルシウム素材(例えば、塩化カルシウム等)を用いた場合、再石灰化効果がほとんど得られず、フッ素による歯質改善効果もなかなか得られなかった。しかしながら、ラクトビオン酸カルシウムに含まれるカルシウムは、中性条件下でイオン化状態でリン酸と共存することができる。上記実施例において我々は、歯エナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイトに再石灰化しやすいように、唾液中に通常含まれる3.6mMのリン酸を利用し、ハイドロキシアパタイトの組成比(Ca/P=1.67)に近づくようにラクトビオン酸カルシウム6mMを供給して再石灰化することを確認した。本実施例では、Ca/P=1.67以外の比率について、どの程度の濃度範囲でラクトビオン酸カルシウムとフッ素ないしリン酸がイオン化状態で共存できるかを検討した。本実施例では、特開2002−325557号公報に記載される簡易再石灰化試験法に準じて実験を行った。
【0172】
実験方法:
(1)以下の表12に記載のNo.1〜12のカルシウム濃度、リン酸濃度およびフッ素濃度になるように溶液を調製した。次いで、この溶液を用いて表11の組成に従ってアパタイト非添加群Aおよびアパタイト添加群Bの各種溶液を調製した。
【0173】
(2)(1)で調製した溶液をそれぞれ37℃で24時間反応させた。
【0174】
(3)反応24時間後、サンプルを12000rpmで3分間遠心分離した。
【0175】
(4)それぞれ、上澄み900μlに1Nの塩酸100μlを添加して攪拌し、測定用混合物を得た。
【0176】
(5)(4)で得られた測定用混合物をサンプルとして使用して、カルシウム濃度およびリン酸濃度を測定した。カルシウム濃度の測定には、カルシウムEテストワコーを使用した。リン酸濃度の測定には、ホスファC−テストワコーを使用した。
【0177】
(6)アパタイト非添加群の試験管の反応後上澄みのカルシウム濃度(C非添加)から、対応するアパタイト添加群の試験管の反応後の上澄みのカルシウム濃度(C添加)を差し引きすることにより、再石灰化に利用できるカルシウム濃度(C利用可能)を求めた(C非添加−C添加=C利用可能(濃度))。この再石灰化に利用できるカルシウムの濃度を、アパタイト非添加群の試験管の反応後の上澄みのカルシウム濃度で除算して100をかけることにより、再石灰化に利用できるカルシウムの割合を求めた({(C非添加−C添加)/C非添加}×100=C利用可能(%))。結果を以下の表12および図9〜11に示す。
【0178】
【表11】
【0179】
【表12】
一般に、唾液中のリン酸濃度は2〜6mMである。唾液中のリン酸濃度を3.6mMと想定した場合、ハイドロキシアパタイト組成に近いCa/P=1.67になるカルシウム濃度は6mMである(実験No.1〜4)。実験No.1〜4の結果、Ca/P=1.67の条件では、0〜50mMのフッ素濃度で、カルシウム、リン酸およびフッ素が遊離していることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。同様に、唾液中のリン酸(2〜3.6mM)を利用した場合、Ca/P=1.67〜3でフッ素が0〜50ppmのときにカルシウム、リン酸およびフッ素が遊離していることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。
【0180】
(実施例7:種々の濃度のラクトビオン酸カルシウムによる再石灰化効果)
表12に記載の組成の代わりに以下の表13に記載の組成を用いたこと以外は同様にして、カルシウム濃度が1.5mMの場合の再石灰化効果を調べた。結果を以下の表13および図12〜16に示す。
【0181】
【表13】
これらの結果、カルシウム濃度が1.5mMであって、カルシウムとリン酸との比率(Ca/P)が0.50〜3.00である場合、フッ素濃度が0〜100ppmのときにカルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンが遊離イオンとして共存することが可能であることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。
【0182】
実施例6〜7の結果をまとめると、カルシウムとリン酸との比率(Ca/P)が1〜3で、添加されるカルシウム濃度(Ca)が1mM以上10mM以下であることが好ましく、1.5mM以上6mM以下であることがより好ましい。さらに、リン酸イオンが0mM以上6mM以下であることが好ましく、2mM以上5mM以下であることがより好ましい。フッ素濃度(F)は、0ppm以上100ppm未満であることが好ましく、0.5ppm以上50ppm以下であることがより好ましい。これらのイオンの濃度がこの範囲にあれば、口腔内の唾液のような中性の溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンが共存することが可能である。そのため、高い再石灰化効果および歯質改善効果が得られると考えられる。
【0183】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、従来得ることができなかったレベルの再石灰化を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合(soluble calcium)(%)の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図2】図2は、リン酸化オリゴ糖カルシウムおよびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図3】図3は、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図4】図4は、ラクトビオン酸ナトリウム、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合(%)の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図5】図5は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図6】図6は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液またはリン酸化オリゴ糖カルシウム含有再石灰化溶液を用いた場合の再石灰化処理のTMRによる歯片分析の結果を示す。DEMは脱灰処理後で再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)のマイクロラジオグラフを示し、REMは、再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のマイクロラジオグラフを示す。図6(A)は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合のDEMのマイクロラジオグラフである。図6(B)は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合のREMのマイクロラジオグラフである。図6(C)は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム含有再石灰化溶液を用いた場合のDEMのマイクロラジオグラフである。図6(D)は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム含有再石灰化溶液を用いた場合のREMのマイクロラジオグラフである。
【図7】図7は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前および再石灰化処理後のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。再石灰化処理前については、脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分の結果であり、再石灰化処理後については、脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分の結果である。再石灰化処理前のミネラルプロファイルを細い線で示し、再石灰化処理後のミネラルプロファイルを太い線で示す。
【図8】図8は、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前および再石灰化処理後のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。再石灰化処理前については、脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分の結果であり、再石灰化処理後については、脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分の結果である。再石灰化処理前のミネラルプロファイルを細い線で示し、再石灰化処理後のミネラルプロファイルを太い線で示す。
【図9】図9は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.67でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図10】図10は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が2.0でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図11】図11は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が3.0でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図12】図12は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が0.5でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図13】図13は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図14】図14は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.67でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図15】図15は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が2.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図16】図16は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が3.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトビオン酸またはその塩(例えば、ラクトビオン酸カルシウム)を含む、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品に関する。より詳細には、歯の再石灰化などにより齲蝕の発生を低下させるような、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕とは、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された有機酸によって歯質が脱灰されて起こる実質欠損のことであり、一般にむし歯として知られる。近年、齲蝕が起こる前に初期齲蝕といわれる現象が生じることがわかった。初期齲蝕とは、歯質の実質欠損は生じておらず、歯面表層は保持されているが、歯面の表層下からカルシウムとリン酸が失われている状態をいう。初期齲蝕になるとカルシウムとリン酸が失われたことにより、歯の結晶状態が変化するために歯面が白く見える。齲蝕は実質欠損であるため自然修復が不可能であり、歯科医による治療を受けなければ欠損部を埋めることができない。それに対し、初期齲蝕は、時間はかかるが、自然修復が可能である。これは、口腔内で通常、歯質の脱灰と再石灰化という事象が起こることによる。
【0003】
一般に、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された有機酸が何らかの障害物のために拡散を妨げられることにより歯が高濃度の有機酸にさらされ、その結果、齲蝕が形成される。この意味では、代謝により有機酸を産生する糖発酵能を持つすべての口腔内細菌が齲蝕の原因となり得る。有機酸産生に好都合な基質は糖類であり、これにはグルコース、スクロースなどの単糖類および少糖類、単糖の重合体であるデンプンなどの多糖類がある。
【0004】
有機酸の拡散が妨げられる要因は、以下の2つに大きく分けられる:(1)食事により摂取されたデンプンが歯頸部および歯根部へ滞留すること;および(2)スクロースなどの分解されやすい糖(すなわち、発酵性の糖)を基質として細菌が産生した不溶性グルカンが歯面へ固着すること。
【0005】
上記要因(1)は、乳酸桿菌等の、口腔内に存在する糖発酵能を持つすべての細菌が原因菌であると考えられる。この場合の齲蝕の進行は一般的に遅いことが公知である。
【0006】
現代の食品にはスクロース含有食品が多いため、上記要因(2)は、現代の齲蝕の主要因であると考えられる。この要因(2)の原因菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンスおよびストレプトコッカス・ソブリヌスが考えられている。これらの細菌は直径0.6μm程度の球状の個々の菌が数珠状に連鎖した形態の連鎖球菌である。これらの細菌はスクロースの存在下で、非水溶性のα−グルカンを活発に産生する。このグルカンは、歯の表面に極めて強く付着する性質を持つ。これらの細菌は、スクロースを速やかに代謝することにより、酸産生能を発揮する。これらの細菌は強い耐酸性を有するため、他の細菌が生育できないような酸性下でも生存することができる。非水溶性α−グルカンは粘着性が強いため、歯の表面等に細菌を強固に結合することができる。細菌が産生した有機酸は、歯面に付着した非水溶性グルカンによって拡散を妨げられ、その結果、歯面には高濃度の有機酸が蓄積し、その結果、歯面は高濃度の有機酸にさらされる。この場合の齲蝕の進行は要因(1)に比べて速い。
【0007】
歯の健康を考える上で歯質の脱灰と再石灰化というミクロ的なレベルから齲蝕予防への新たなアプローチも実践されてきている(非特許文献1)。歯は象牙質の部分とエナメル質の部分とからなっており、象牙質をエナメル質が覆っている。エナメル質の約97%は、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO4)6(OH)2]によって構成されている。ハイドロキシアパタイトは主にカルシウムとリン酸との結晶構造物である。エナメル質は歯の中で最も硬い部分であり、歯垢中の細菌が作り出す有機酸、食品に含まれる酸などによってエナメル質の内側から大切なカルシウムまたはリン酸が溶け出す(脱灰)のを防御している。有機酸は、水分で満たされたエナメル小柱間空隙からエナメル質に浸透し、ハイドロキシアパタイトを脱灰と呼ばれるプロセスにより溶解する。このエナメル質組織からのカルシウムとリン酸塩の喪失が、結果的にエナメル質表層下の初期齲蝕となる。初期齲蝕は修復可能であり、カルシウムおよびリン酸塩イオンが表層下の齲蝕部分に浸透し、再石灰化と呼ばれるプロセスによって、喪失したアパタイトを元に戻すことができる。
【0008】
食事や間食をとることにより、口腔内でプラーク(歯垢)が形成され、有機酸が産生され、pHが低下し、エナメル質が溶解する。これが脱灰である。脱灰の程度が表層下にとどまっていて歯表面が残存している場合が初期齲蝕であり、脱灰が進んで歯面の陥没などが生じるとう窩が形成され、齲蝕となる。プラークのpHは、発酵性炭水化物を含む飲食物を摂取するたびに酸性に傾き、脱灰の始まる臨界pHを越える。これはプラーク中の酸産生細菌の働きによるものである。齲蝕は、齲蝕細菌のほか、歯列状態、加齢などの様々な要因が関与する。酸性の食べ物および飲み物も齲蝕のリスクを高める。酸性の食べ物および飲み物による脱灰は非細菌性であり、酸蝕症と呼ばれる。酸蝕症とは、齲蝕細菌の関与なしに酸またはキレート化により歯の表面が化学的に溶ける現象をいう。酸蝕症も齲蝕の1種である。近年では、主に乳幼児および若者の炭酸飲料やスポーツドリンクによる酸蝕症、ならびに主に成人および高齢者のアルコール飲料または健康飲料による酸蝕症およびこれに伴う歯牙破折および咬耗症が注目を集めている。エナメル質の臨界pHは5.5であり、市販されている多くの飲み物のpH値は5.5よりも低い。通常、唾液には、歯の表面の汚れを洗い流す洗浄効果と、酸を中和する酸緩衝効果がある。この2つの働きにより、エナメル質が保護される。しかし、pH値の低い飲み物を頻繁かつ過剰に摂取するとこれらの効果が充分に発揮されない。しかも、眠っている間は唾液の分泌量が減少する。従って、pH値の低い飲み物を飲んだあとに口腔内を充分に洗浄せずに眠ると口腔内が酸性環境にさらされる時間が長くなり、酸蝕症が起きやすくなる。
【0009】
他方、初期齲蝕の段階で唾液の緩衝作用を受けるなどして口腔内のpHが上昇して中性に戻り、カルシウムイオンおよびリン酸イオンが供給されると、エナメル質が再形成される。これが再石灰化である。
【0010】
従って、齲蝕を予防および処置するための手段として、齲蝕の原因である口腔内細菌の栄養源にならず、有機酸を生成させないこと;齲蝕の原因であるミュータンス菌の栄養源にならず、非水溶性のグルカンおよび有機酸を生成させないこと;脱灰の始まるpHを越えないように、この有機酸によるpHの低下を防ぐこと(例えば、緩衝作用を有し、pHの低下を防ぐこと);再石灰化を促進することなどが重要であると考えられる。
【0011】
再石灰化を利用して初期齲蝕を治療するための口腔用組成物、食品などは種々研究されている。
【0012】
例えば、特許文献1は、抗齲蝕機能を有する飲食用組成物および口腔用組成物であって、リン酸化オリゴ糖などの緩衝剤を含む口腔用組成物を開示している。
【0013】
しかしながら、これらの従来の方法を用いても、初期齲蝕の脱灰部の再石灰化を完全な状態に回復することはできずその効果は限定的なものであった。
【0014】
また、特許文献2は、β−ガラクトシド結合を有する特定アルドビオナミドを含む歯磨剤組成物を開示している。特許文献2に記載の発明は、β−ガラクトシド結合を含有する特異的アルドビオナミド(例えば、ラクトビオナミド)が、口腔内で、抗菌剤として、細菌の結合ないし作用を崩壊させる事によって、抗歯垢効果を示すとした発見に基づいている。特許文献2の表1および表2には、比較対照としてラクトビオン酸が記載されている。しかし、表1は、細菌共凝集試験の結果を示しており、表2は、細菌−ラテックスビーズ凝集抑制についての結果を示しており、いずれもラクトビオン酸に抗菌機能がないことを示しているだけである。
【0015】
特許文献3は、ラクトビオン酸含有乳飲料の製造方法を開示している。特許文献3は、0009段落において、「ラクトビオン酸含有乳飲料を、カルシウムや鉄などのミネラルを含む飲食品の経口摂取時、あるいはその前後に摂取することで、飲食品に由来するミネラルの吸収を促進することができる。」と記載している。特許文献3は、0010段落において「ラクトビオン酸含有乳飲料自体に含まれるカルシウムもラクトビオン酸の存在により吸収が促進されるため、普通の乳中のカルシウムよりもその吸収効率が高くなる。」と記載している。しかし、特許文献3は、ラクトビオン酸が歯の再石灰化を促進する作用を有することに関しては開示していない。さらに、特許文献3は、その実施例において、乳飲料の製造方法を記載するが、カルシウムの吸収が促進されることを示す実施例は記載されていない。
【特許文献1】特開2002−325557号公報
【特許文献2】特開平6−80543号公報
【特許文献3】特開2008−245587号公報
【非特許文献1】飯島洋一,熊谷崇;カリエスコントロール 脱灰と再石灰化のメカニズム、医歯薬出版株式会社、1999、p.21−51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、抗齲蝕用の口腔用組成物および食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化を促進する作用を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含む、組成物。
【0019】
(項目2)
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、項目1に記載の組成物。
【0020】
(項目3)
前記組成物の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、項目1または2に記載の組成物。
【0021】
(項目4)
リン酸源化合物をさらに含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【0022】
(項目5)
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、項目4に記載の組成物。
【0023】
(項目6)
フッ化物をさらに含む、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【0024】
(項目7)
前記組成物のフッ素含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、項目6に記載の組成物。
【0025】
(項目8)
初期齲蝕の治療のために用いられる、項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0026】
(項目9)
健常人の歯質強化のために用いられる、項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0027】
(項目10)
歯磨剤、洗口剤、トローチ剤またはゲル剤である、項目1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【0028】
(項目11)
抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品。
【0029】
(項目12)
チューインガム類、キャンディー類、錠菓または冷菓である、項目11に記載の食品。
【0030】
(項目13)
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、項目11または12に記載の食品。
【0031】
(項目14)
前記食品の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、該食品が口腔内で存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が1.5〜6.0mMとなるのに適切な量である、項目13に記載の食品。
【0032】
(項目15)
リン酸源化合物をさらに含む、項目11〜14のいずれか1項に記載の食品。
【0033】
(項目16)
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、項目15に記載の食品。
【0034】
(項目17)
フッ化物をさらに含む、項目11〜16のいずれか1項に記載の食品。
【0035】
(項目18)
前記食品のフッ素含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、項目17に記載の食品。
【0036】
(項目19)
前記食品がチューインガム類であり、1回摂取量に含まれるラクトビオン酸カルシウム塩の重量が、カルシウムの重量として、1.2mg〜4.8mgである、項目11〜18のいずれか1項に記載の食品。
【0037】
(項目20)
前記チューインガム類が、1回に1〜3g喫食される、項目19に記載の食品。
【発明の効果】
【0038】
本発明の食品および組成物は、初期齲蝕の治療用に、すなわち、C1〜C4と評価される齲蝕になる前の初期齲蝕の状態の歯を有する人に適切である。
【0039】
本発明により、従来と同様に優れた再石灰化効果を有し、かつ齲蝕の可能性が従来よりも低く、メイラード反応のおそれがなく、味および匂いにくせがないというさらなる利点を有する、口腔用組成物および食品が提供される。
【0040】
ラクトビオン酸カルシウム塩は、口腔においてエナメル質にカルシウムを供給して再石灰化を促進する。ラクトビオン酸のカルシウム塩の挙動は、他のカルシウム塩と異なり、特徴的である、すなわち、ラクトビオン酸カルシウム塩は、中性条件下で無機リン酸と結合して不溶化せずに、溶解性を保つ。また、通常の環境下ではカルシウムを放出せず、ハイドロキシアパタイトが存在する場所(すなわち、歯面)に到達するとカルシウムを放出する。さらに、カルシウム塩以外のラクトビオン酸は、カルシウムイオンとともに存在する場合にも、カルシウムをエナメル質特異的に放出する役割を果たす。そのため、ラクトビオン酸とカルシウムイオンとが存在すると、ハイドロキシアパタイトに多量のカルシウムが提供され、再石灰化が顕著に促進される。つまり、初期齲蝕における再石灰化促進物質に必要な以下の2点をリン酸化糖は満たしている:
(1)中性pH条件下でカルシウム−リン酸の不溶化を防ぐ;ならびに
(2)カルシウムイオンおよびリン酸イオンが患部に到達して再石灰化に供される。
【0041】
他方、例えば、塩化カルシウムなどのカルシウム塩は、非常に容易にカルシウムを放出する。そのため、塩化カルシウムがハイドロキシアパタイトの存在する場所に到達する前にカルシウムが放出されてしまい、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを提供することができない。逆に、CPP(カゼインホスフォペプチド)とカルシウムとは、強固にカルシウムを結合していて、容易にカルシウムを放出しない。そのため、ハイドロキシアパタイトの存在する場所に到達しても、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを少量しか提供しない。
【0042】
従って、ラクトビオン酸とカルシウムイオンとの組合せは、ハイドロキシアパタイトに対して、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩同様に、他のカルシウム化合物と顕著に異なる優れたカルシウム提供効果を奏するものである。
【0043】
さらに、ラクトビオン酸およびその塩は、リン酸化オリゴ糖よりも優れた特性を有する。リン酸化オリゴ糖は通常、口腔内細菌のうち、S.mutansによってはほとんど資化されず、齲蝕の原因にならない。しかし、口腔内には、S.mutans以外の様々な細菌が存在し、その中には、ホスファターゼを有するかまたは産生する細菌が存在する場合があり得る。その場合には、このホスファターゼによってリン酸化オリゴ糖のリン酸基の部分が遊離してオリゴ糖が生成される。オリゴ糖は口腔内細菌によってよく資化されて齲蝕の原因となる。そのため、リン酸化オリゴ糖には、資化されるリスクがわずかとはいえ存在する。他方、ラクトビオン酸およびその塩は、口腔内細菌によってほとんど資化されず、齲蝕の原因にならない。ラクトビオン酸およびその塩にはリン酸基は結合していないので、ホスファターゼが存在していてもラクトビオン酸の性能が低下する懸念はない。このように、ラクトビオン酸およびその塩は、口腔内にホスファターゼが存在しても、資化されて齲蝕の原因となるリスクが極めて低い物質である。
【0044】
また、リン酸化オリゴ糖は還元末端を有するので、タンパク質とメイラード反応により反応して褐変を生じる。食品にはタンパク質を含むことが多いので、メイラード反応を生じないことが好ましい。他方、ラクトビオン酸およびその塩は還元末端を有さず、メイラード反応を生じない。そのため、ラクトビオン酸およびその塩は、タンパク質を含む食品であっても褐変の懸念なく配合され得る。
【0045】
さらに、ラクトビオン酸およびその塩は、味や香りにくせがないという利点を有する。そのため、各種の食品および口腔用組成物に配合した場合に、それぞれの本来の味や香りを損なわない、すなわち、味や香りの面において高品質の食品および口腔用組成物を容易に得ることができるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0047】
(1.定義)
本明細書において、抗齲蝕機能とは、齲蝕予防機能と齲蝕治療機能との両方を含む。齲蝕治療機能とは、いったん齲蝕により失われた歯の一部を修復する機能をいう。本明細書中において「抗齲蝕機能」を有するとは、以下の1つ以上の性質を有することを意味する:(1)pH緩衝作用を有し、口腔内細菌の産生する酸によるpH低下を抑制する能力を有する;(2)口腔内細菌のつくる不溶性グルカンの形成を抑制する能力を有する;(3)初期齲蝕の歯の再石灰化を促進する能力を有する。好ましくは、上記の性質の2つを有し、最も好ましくは、上記の全ての性質を有する。
【0048】
本発明の組成物および食品によれば、齲蝕された歯に対して、リン酸およびカルシウムを安定的に提供することができる。リン酸およびカルシウムが提供された歯は再石灰化されるので、齲蝕により失われた歯の一部を修復することができる。
【0049】
特に本発明によれば、口腔内に緩衝剤が添加されるので、口腔内においてpH緩衝作用を得ることができると期待される。口腔内のpH緩衝作用により、口腔内の唾液などに存在するリン酸およびカルシウムが安定的に歯の再石灰化に使用される。従って、従来は困難もしくは不可能であると考えられていた歯の修復が可能になる。
【0050】
齲蝕の初期症状である脱灰性病変は、口腔内の条件が整えば、脱灰したエナメル質部分にカルシウムやリン酸が再補充され(再石灰化)、健全な状態に修復される。歯が健全状態を維持するためには、唾液の働きにより脱灰病変患部にミネラルが供給されミクロのレベルでの脱灰と再石灰化が均衡していることが必要である。一般に、飲食後には歯垢内pHが低下傾向となり、「脱灰−再石灰化」の均衡関係がくずれ、「脱灰>再石灰化」となった場合に病変が進行するのである。また逆に「再石灰化>脱灰」の関係では脱灰病変が回復に向かい、歯が再石灰化する。このような脱灰と再石灰化のバランスには、口腔内環境、特に唾液と歯垢中のpH、カルシウム、およびリン酸濃度の果たす役割は非常に大きい(飯島洋一,熊谷 崇;カリエスコントロール 脱灰と再石灰化のメカニズム.医歯薬出版株式会社;21−51,1999)。本発明によれば、口腔内環境を再石灰化の生じ易い環境に整え得るので、齲蝕を予防し、かつ齲蝕の初期症状である脱灰性病変を治療でき、歯を健康で丈夫にすることができる。
【0051】
(2.本発明で使用される材料)
本発明においては、ラクトビオン酸またはその塩が使用される。また、必要に応じて他の材料もまた使用され得る。
【0052】
(2a.ラクトビオン酸およびラクトビオン酸の塩)
本発明において使用されるラクトビオン酸は、乳糖を酸化させることにより得られる酸性オリゴ糖であり、以下の構造を有する:
【0053】
【化1】
本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸の塩」とは、ラクトビオン酸の任意の塩をいう。本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸無機塩」とは、ラクトビオン酸の任意の無機塩をいう。本明細書で用いる場合、用語「ラクトビオン酸カルシウム塩」とは、ラクトビオン酸のカルシウム塩をいう。
【0054】
ラクトビオン酸は、酸の形態(すなわち、カルボキシル基に水素が結合している)である。本発明においては、ラクトビオン酸の電離形態(すなわち、カルボキシル基の水素が解離して離れてカルボン酸イオンになっている)を用いてもよく、塩の形態(すなわち、カルボン酸イオンと塩基の陽イオンが結合している)を用いてもよい。特定の実施形態では、好ましくは、ラクトビオン酸の無機塩が使用される。ラクトビオン酸の無機塩は、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、鉄塩またはナトリウム塩である。
【0055】
ラクトビオン酸およびその塩としては、高純度のものを用いてもよく、低純度のものを用いてもよい。例えば、ラクトビオン酸およびその塩は、その製造の際の原料の一部との混合物として用いられてもよい。なお、本明細書中でラクトビオン酸およびその塩の含有量について言及する場合、この含有量は、純粋なラクトビオン酸およびその塩の量に基づいて計算される。それゆえ、ラクトビオン酸およびその塩以外の物を含む混合物を用いた場合、含有量は、混合物全体の量ではなく、混合物中のラクトビオン酸およびその塩の量に基づいて計算される。
【0056】
ラクトビオン酸およびラクトビオン酸塩は、市販のものを使用し得る。例えば、ラクトビオン酸カルシウムはReliable Biopharmaceutical Corporation(St.Louis,USA)社から商品名CALCIUM LACTOBIONATEとして市販されており、ラクトビオン酸は同社から商品名LACTOBIONIC ACIDとして市販されている。ラクトビオン酸の製造方法は公知であり、例えば、Yang, B.Y., et al.,Carbohydrate Research,340,2698−2705(2005)に記載されている。
【0057】
(2b.水溶性カルシウム塩)
本発明の特定の実施形態では、水溶性カルシウム塩が用いられる。本明細書中では、「水溶性カルシウム塩」とは、20℃の水中での溶解度が1重量%以上であるカルシウム塩をいう。本発明で用いられる水溶性カルシウム塩の20℃の水中での溶解度は、好ましくは約2重量%以上であり、より好ましくは約3重量%以上であり、さらに好ましくは約4重量%以上であり、特に好ましくは約5重量%以上である。水溶性カルシウム塩の定義には、ラクトビオン酸カルシウム塩も含む。このような水溶性カルシウム塩の他の例としては、塩化カルシウム、有機酸カルシウム塩(例えば、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、醗酵カルシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸・リンゴ酸カルシウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、など)、コロイド性炭酸カルシウム、ポリオールリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、乳清カルシウム、カゼインホスホペプチドカルシウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。
【0058】
(2c.リン酸源化合物)
歯のエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイト(これは、Ca10(PO4)6(OH)2で表される)のCa/P比は約1.67であり、歯のエナメル質を構成する組成物においては、Ca/P比は約1.0〜約1.67(P/Ca比=0.6〜1.0)である。従って、Ca/P比を約1.0〜約1.67(P/Ca比=0.6〜1.0)、好ましくは約1.67(P/Ca比=0.6)に近づけるように、リン酸イオンおよびカルシウムイオンを供給することにより、エナメル質の再石灰化を促進できる。
【0059】
本発明においてラクトビオン酸カルシウムのみを用いると、またはカルシウム塩以外のラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と水溶性カルシウム塩との組合せのみを用いると、カルシウムイオンのみが供給され、そのままでは、より効率の高い再石灰化のためには、リン酸イオンが不足する。
【0060】
唾液中には多量のリン酸が存在することが公知である。正常な人体の場合、唾液におけるカルシウム:リン酸のモル比(以下、「Ca/P比」と称する)は、一般的に約0.25〜約0.67(P/Ca=約1.45〜約3.9)であり、リン酸が過多に存在する(すなわち、ほぼリン酸3モル対カルシウム2モル〜リン3.9モル対カルシウム1モル)。そのため、チューインガム類のような口腔内でよく咀嚼される食品の場合にはリン酸を添加しなくとも、リン酸が不足することはほとんどない。
【0061】
しかし、ジュースのように唾液を洗い流してしまう食品、歯面に直接塗布される組成物などの場合は、より効率の高い再石灰化のためには、リン酸イオンが不足する場合があり得る。そのため、本発明の組成物および食品においては、リン酸イオンの供給源もまた同時に用いることが好ましい。本明細書では、リン酸イオンの供給源をリン酸源化合物という。リン酸源化合物とは、リン酸化合物を意味する。
【0062】
本発明において用いられ得るリン酸源化合物は、水に溶けることによってリン酸イオンを放出する化合物であれば任意の化合物であり得る。リン酸源化合物は好ましくは水溶性のリン酸塩または無機リン酸である。このようなリン酸源化合物の例としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸およびその塩、環状リン酸およびその塩などが挙げられる。リン酸ナトリウムの例としては、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。リン酸カリウムの例としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。ポリリン酸は、2以上のリン酸が縮合して形成される化合物である。ポリリン酸中の重合度は2以上であれば任意であり、例えば、2以上であり、10以下である。ポリリン酸の例としては、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、シクロポリリン酸などが挙げられる。これらのポリリン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩またはマグネシウム塩である。環状リン酸の例としては、ヘキサメタリン酸などが挙げられる。これらの環状リン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩またはマグネシウム塩である。
【0063】
このリン酸源化合物は、Ca/P比を約1.0〜約1.67(P/Ca比=約0.6〜約1.0)、好ましくは約1.67(P/Ca比=約0.6)に近づけるように、単独で、または組み合わせて、本発明の組成物および食品中に添加され得る。
【0064】
(2d.フッ化物)
本発明においては、フッ化物も好適に使用できる。フッ化物イオンはカルシウムイオンと反応して沈澱しやすいが、リン酸化糖が存在することにより、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンの状態が保持されることが知られている(特許文献1(特開2002−325557号公報))。本発明においては、ラクトビオン酸カルシウムもまた、リン酸化糖と同様に、カルシウムイオンおよびフッ化物イオンの状態を保持する性質を有することがわかった。よって、フッ化物もカルシウムイオンおよびリン酸イオンと同時に供給することで、脱灰患部の再結晶化を促すことができる。さらに、フッ化物イオンが結晶に取り込まれることで耐酸性の獲得が期待できる。本発明においては、フッ化物が水溶性カルシウム塩と同時または水溶性カルシウム塩よりも後に放出されるように設計されることが好ましい。また、本発明においては、フッ化物がラクトビオン酸もしくはその塩と同時またはそれよりも後に放出されるように設計されることが好ましい。
【0065】
従来、フッ化物は1000ppm以上の高濃度で使用される場合が多い。しかし、高濃度のフッ化物を摂取した場合、歯牙フッ素症となり軽度には歯面に白斑を生じたり、重度になると褐色の斑点や染みを生じたりする場合があり、それゆえ、高濃度のフッ化物は毒性が問題になる場合がある。本発明においては、ラクトビオン酸をフッ化物と同時に使用することにより、従来よりも低濃度のフッ化物を用いても充分なフッ化物イオン量を確保できるため、低濃度のフッ化物の使用で、従来の高濃度と同等以上の効果が得られるようになる。本発明によれば、例えば、約100ppm以下のフッ化物の添加、好ましくは約10ppm以下の使用でも十分な効果が得られ得る。フッ化物の濃度は、好ましくは約0.01ppm以上であり、より好ましくは約0.1ppmであり、さらに好ましくは約0.5ppm以上であり、最も好ましくは約2ppm以上である。フッ化物の濃度は、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約10ppm以下であり、最も好ましくは約5ppm以下である。フッ化物は好ましくは、水に溶けてフッ化物イオンを放出する化合物である。フッ化物は好ましくは、食品、医薬品または医薬部外品への配合が認められているフッ化物である。このようなフッ化物の例としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸、フッ化カルシウム、氷晶石、モノフルオロ酢酸などが挙げられる。本発明のフッ化物として、食品として使用可能なお茶、井戸水、海水、魚介類、海草等由来のフッ素を用いることもできる。例えば、フッ素の濃度が極めて高く、かつ茶ポリフェノールの濃度が極めて低い茶抽出物を使用してもよい。
【0066】
(2e.他の材料)
本発明の組成物および食品においては、ラクトビオン酸およびカルシウムによる作用を妨害しない限り、目的とする組成物および食品において通常用いられる任意の材料が用いられ得る。
【0067】
本発明の食品が例えば、チューインガム類である場合、ガムベース、甘味料、ゼラチン、香料、光沢剤、着色料、増粘剤、酸味料、pH調整剤などを含み得る。ガムベースの例としては、チクル、酢酸ビニール、エステルガム、ポリイソブチレンおよびスチレンブタジエンラバーが挙げられる。甘味料は、糖、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。甘味料は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性であることが好ましい。甘味料は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。チューインガム類の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0068】
本発明の食品が例えば、キャンディー類である場合、ショ糖、水飴などの糖類、小麦粉、練乳、食塩、寒天、ゼラチン、ナッツ類(ピーナッツなど)、ショートニング、バター、酸味料、香料、pH調整剤、着色料などを含み得る。糖類は、糖、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。糖類は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性の糖類であることが好ましい。糖類は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。キャンディー類の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0069】
錠菓(タブレットともいう)とは、粉末または顆粒を圧縮成形することによって形成され、口中で徐々に溶解または崩壊させて、口腔に長時間持続して作用するように設計された食品をいう。錠菓が口腔内で溶け始めてから溶け終わるまでにかかる時間は、錠菓の大きさおよび原料に依存する。当業者は、錠菓が溶け始めてから溶け終わるまでの所望の時間を達成するに適切な錠菓を任意に設計し、製造し得る。錠菓に使用される原料の例としては、以下が挙げられる:糖類、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、粉末セルロース、乳化剤、酸味料、香料、pH調整剤および着色料。糖類は、齲蝕を防ぐために、非齲蝕性の糖類であることが好ましい。糖類は、糖(ショ糖、水飴、乳糖、ブドウ糖、デンプンなど)、糖アルコールまたは高甘味度甘味料などであり得る。糖類は、より好ましくは、マルチトール、還元パラチノース、パラチノース、ラクチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテームL−フェニルアラニン化合物、トレハロースおよびマンニトールから選択される。錠菓の配合は当該分野で公知の配合に従い得る。
【0070】
一方、齲蝕は細菌が引き起こす疾患である。よって、本発明の組成物および食品においては、抗菌剤またはプラーク形成阻害剤との併用も効果的である。ハイドロキシアパタイトが齲蝕原性細菌を吸着することも知られている。殺菌剤および抗菌剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジウム、パラペン、安息香酸、エタノールなどのアルコール類などが挙げられる。比較的安全性の高い物質として、キチンキトサン、キトサンオリゴ糖、ラクトフェリン、ポリフェノールなどとの組み合わせが挙げられる。また、細菌によって発症した炎症を抑える策も併用できる。主な抗炎症剤としては、ゲニステイン、ナリンゲニンなどのフラボノイド類、ポリアミン、β−グルカン、アルカロイド、ヘスペリジン、ヘスペレチン、糖転移ヘスペリジンなどが挙げられる。これらの種々の薬剤は、本発明の組成物および食品中に必要に応じて含まれ得る。
【0071】
本発明の組成物および食品は、特定の実施形態では、リン酸化オリゴ糖またはその塩およびハイドロキシアパタイトを含まないことが好ましい。このリン酸化オリゴ糖およびその塩は、特開平8−104696号公報に記載のリン酸化オリゴ糖およびその塩である。
【0072】
(3.本発明の食品)
1つの実施形態では、本発明の食品は、抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する。
【0073】
(3a.本発明の食品の製造方法)
本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含むように、当該分野で公知の任意の方法によって製造され得る。
【0074】
上記(ii)の場合、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを本発明の食品中に実質的に均一に含むことが好ましい。これらを均一に含む食品は、製造が容易であるという利点がある。
【0075】
上記(ii)の場合、ラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含む部分と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む部分とを分けてもよい。この場合には、本発明の食品においては、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸が放出されるのと同時またはそれよりも後にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩が食品から放出されるように設計されるべきである。ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩の方がラクトビオン酸またはその塩よりも早く放出されると、カルシウムイオンが歯面に無秩序に沈着してしまい、好ましくないからである。
【0076】
本発明の食品においては、フッ化物もまた使用され得、その場合には、フッ化物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されるべきである。
【0077】
本発明の食品においては、リン酸源化合物もまた使用され得、その場合には、リン酸源化合物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されることが好ましい。
【0078】
これらのことは、本発明の全ての食品および組成物について適用される。
【0079】
(3b.本発明の食品)
本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む、任意の食品であり得る。本発明の食品がラクトビオン酸カルシウム塩を含む場合は、本発明の食品は他にラクトビオン酸またはその塩を含む必要はないが、含んでもよい。
【0080】
本発明の食品は、必要に応じて、フッ化物を含み得る。本発明の食品がフッ化物を含む場合には、フッ化物がラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸と同時に、またはラクトビオン酸塩またはラクトビオン酸よりも後に放出されるように設計されるべきである。これらのことは、本発明の全ての食品について適用される。
【0081】
本発明の食品の例としては、例えば、チューインガム類;キャンディー類;錠菓;複合飲料;ヨーグルトなどの半流動性食品;ビスケット、せんべいなどの焼き菓子;アイスクリームなどの冷菓;ゼリーなどのゲル状の食品;および麺が挙げられる。チューインガム類、キャンディー類および錠菓は、有効成分を口腔内に長時間にわたって滞留させることが可能であることから、本発明の食品として好適である。刺激唾液には予めカルシウムイオンが約1〜1.5mM濃度含まれていることが知られており、商品設計時に考慮することが望ましい。
【0082】
本発明の食品がチューインガム類である場合、チューインガム類は、糖衣ガムまたは板ガムであり得る。チューインガム類は、そのいずれの部分もが、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ、を含むことが好ましい。ガムが糖衣ガムであって、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、糖衣部分はラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、ガム部分はラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。チューインガム類が板ガムの場合であって、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、このチューインガム類は、マイクロカプセルを含む板ガムであり、ガム部分がラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、マイクロカプセルがラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。どちらの場合も、ラクトビオン酸はラクトビオン酸含有部分、カルシウム含有部分のどちらか、あるいは両方に含まれていてもよい。
【0083】
本発明の食品がキャンディー類である場合、キャンディー類は、単層のキャンディーであっても、複数層キャンディーであってもよい。キャンディー類とは、ショ糖および水飴などの糖類を主原料とし、糖類を煮詰める工程を含む方法によって製造される食品をいう。キャンディー類は、ソフトキャンディーとハードキャンディーとに分類される。ソフトキャンディーの例としては、ソフトキャラメル、ハードキャラメル、ヌガーおよびマシュマロが挙げられる。ハードキャンディーの例としては、ドロップ、タフィおよびブリットルが挙げられる。
【0084】
本発明の食品が単層キャンディーである場合、このキャンディーは、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。単層キャンディーは複数層キャンディーよりも製造が容易であるという利点を有する。
【0085】
複数層キャンディーがセンター層とそれを取り囲むコーティング層との2層からなるキャンディーである場合、例えば、センター層およびコーティング層の両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、センター層およびコーティング層のいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。1つの実施形態では、センター層は、ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含んでおり、コーティング層はラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでいることが好ましい。センター層は、硬質キャンディーであっても、軟らかいキャンディーであっても、またはクリームであってもよい。コーティング層は、硬質キャンディーであっても、軟らかいキャンディーであっても、糖衣であっても、または粉末の層であってもよい。本発明のキャンディー類は1層キャンディーおよび2層キャンディーに限定されず、さらなる層が設けられてもよい。
【0086】
1つの実施形態では、本発明の食品は、キャンディーによってガムが包まれた菓子(糖衣キャンディー・ガムともいう)であってもよい。この場合、例えば、キャンディーおよびガムの両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、キャンディーおよびガムのいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品が糖衣キャンディー・ガムであって、(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、キャンディー部分にラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含み、キャンディー部分にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む構成としてもよい。
【0087】
本発明の食品が錠菓である場合、錠菓は、単層錠菓であっても、複数層錠菓であってもよい。本発明の食品が単層錠菓である場合、この錠菓は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。単層錠菓は複数層錠菓よりも製造が容易であるという利点を有する。
【0088】
本発明の食品が複数層錠菓である場合、例えば、全ての層に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、いずれか1つまたは2つの層にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品が3層からなる3層錠菓であって(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、2つの層に挟まれた真ん中の層がラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含んでおり、この層を挟んでいる2つの層がラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含まむことが好ましい。
【0089】
本発明の食品がアイスクリームなどの冷菓である場合、本発明の食品は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを実質的に均一に含むことが好ましい。
【0090】
別の実施形態では、本発明の食品は、ベースとなる冷菓中に固体食品を含む冷菓であり得る。この場合、例えば、ベースとなる冷菓および固体食品の両方に(i)ラクトビオン酸カルシウム塩、または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含んでもよく、あるいは、ベースとなる冷菓および固体食品のいずれか一方にのみこれらを含んでもよい。本発明の食品がベースとなる冷菓中に固体食品を含む冷菓であって、(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む場合、ベースとなる冷菓中にラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸を含み、固体食品中にラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩を含む構成としてもよい。
【0091】
本発明の冷菓またはこのようなベースとなる冷菓の例としては、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスおよび氷菓が挙げられる。このような固体食品は例えば、ゲルであり得る。このような固体食品の例としては、例えば、タピオカ、ナタデココ、寒天、ゼリー、ババロア、ジャムなどが挙げられる。このような固体食品は任意の大きさであり得るが、好ましくは直径2mm以上、より好ましくは直径3mm以上である。固体食品の直径は、例えば、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上または10mm以上であってもよい。固体食品の直径は、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは14mm以下であり、さらに好ましくは13mm以下である。固体食品の直径は、例えば、12mm以下、11mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下または5mm以下であってもよい。
【0092】
本発明の食品の重量は、任意の重量であり得る。本発明の食品の重量は、好ましくは約0.05g以上であり、より好ましくは約0.1g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上である。本発明の食品の重量は、好ましくは約5g以下であり、より好ましくは約4g以下であり、さらに好ましくは約3g以下である。
【0093】
本発明の食品がチューインガム類である場合、チューインガム類の重量は、好ましくは約0.05g以上であり、より好ましくは約0.1g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上である。チューインガム類の重量は、好ましくは約3g以下であり、より好ましくは約2g以下であり、さらに好ましくは約1g以下である。
【0094】
本発明の食品がキャンディー類の場合、キャンディー類の重量は、好ましくは約0.5g以上であり、より好ましくは約1g以上であり、さらに好ましくは約1.5g以上である。キャンディー類の重量は、好ましくは約5g以下であり、より好ましくは約4g以下であり、さらに好ましくは約3g以下である。
【0095】
本発明の食品が錠菓である場合、錠菓の重量は、好ましくは約0.05g〜約10g、より好ましくは約0.1g〜約5gであり、さらに好ましくは約0.2g〜約3gである。
【0096】
本発明の食品は、任意の形状であり得る。例えば、本発明の食品がチューインガム類、キャンディー類および錠菓の場合、円盤状、球状、ラグビーボール状、ハート型などであり得る。例えば、本発明の食品が複合飲料、ヨーグルトなどの場合はもちろん、特に決まった形状はない。
【0097】
1つの実施形態では、本発明の食品がラクトビオン酸またはその塩(ただし、カルシウム塩を除く)を含む場合、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上の濃度となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下の濃度となるに適切な量である。
【0098】
食品に関して本明細書中で使用する場合、「含有量が、該食品が口腔内に存在する際に、該口腔内の唾液中のその濃度が1.0mM以上の濃度となるに適切な量である」とは、本発明の食品を喫食し始めてから20分間の間に口腔内に生成する液体を採取し、その液体中のその成分の濃度を測定した場合の濃度が1.0mMになるに適切な量をいう。例えば、1分ごとに20回採取を行う方法が可能であり、その場合、20回採取された液体を合わせたものを測定サンプルとすることができる。当該20分間の間、その食品は飲み込まないで口腔内で保持しておくことが好ましい。あるいは、20分間の間に食品を少しずつ口の中に入れて咀嚼してもよい。そして、喫食者が、唾液が口腔内に溜まって来たと感じるごとにその唾液を吐き出してもらい、その吐き出された液体を収集する方法などが可能である。ただし、唾液を吐き出すさいには食品を吐き出さないように注意させる。他の濃度の場合についても同様に解釈される。本明細書中では、用語「唾液」とは、口腔腺から分泌される純粋な唾液ではなく、口腔内で食物を咀嚼した場合に口腔内にたまる液体を唾液と呼ぶ。この場合、口腔内にたまる液体は、純粋な唾液と、食品由来の液体部分と、食品由来の各種溶質との混合物である。食品への各成分の配合量は、食品の重量、大きさなどによって変化する。食品の1回摂取量が大きい場合、摂取量が小さい場合よりも低い含有量になるように配合される。例えば、同じ使用量を達成するためには、2gの食品中の配合量(%)は、1gの食品中の配合量(%)の約0.5倍になる。人間の唾液は、20分間で平均約20mL分泌される。そのため、食品への配合量は、20mLの唾液に対してどれだけ溶出するかを考慮して設定される。このような配合量の設定は、当業者によって容易に実施され得る。
【0099】
食品がラクトビオン酸またはその塩を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのラクトビオン酸およびその塩が唾液中に溶出する。
【0100】
食品がリン酸源化合物を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのリン酸源化合物が唾液中に溶出する。
【0101】
食品がフッ化物を含有するチューインガムである場合、このガムを口腔内で約20分間咀嚼すると、20分間のうちに、このガムに含まれるほぼ全てのフッ化物が唾液中に溶出する。
【0102】
1つの実施形態では、本発明の食品がラクトビオン酸またはその塩(ただし、カルシウム塩を除く)を含む場合、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸およびその塩の含有量(合計)は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上の濃度となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中のラクトビオン酸またはその塩の含有量は、口腔内で使用する際に、カルシウム含量に換算して、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下の濃度となるに適切な量である。
【0103】
1つの実施形態では、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、さらに好ましくは約2.0mM以上、特に好ましくは約2.5mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるに適切な量である。例えば、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるに適切な量である。
【0104】
1つの実施形態では、本発明の食品中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLでカルシウムの分子量が約40であるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度を1.5mM〜6mMとするのには、1回摂取量として1.2mg〜4.8mgのカルシウムを含めばよい(40×1.5(mM)×0.002(L)=1.2mg、40×6(mM)×0.002(L)=4.8mg)。それゆえ、ガムの重量をXg、配合量(カルシウムとして換算)をY%とすると、Y(%)={(1.2〜4.8(mg))/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、カルシウムとしての配合量は、0.06〜0.24重量%である。例えば、ガムの重量が1gであれば、カルシウムとしての配合量は、0.12〜0.48重量%であり、ガムの重量が10gであれば、カルシウムとしての配合量は0.012〜0.048重量%である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0105】
1つの実施形態では、本発明の食品がフッ化物を含む場合、この食品中のフッ化物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のフッ化物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が、好ましくは約0.1ppm以上、より好ましくは約0.5ppm以上、さらに好ましくは約1ppm以上、特に好ましくは約2ppm以上となるのに適切な量である。本発明の食品中のフッ化物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が、好ましくは約100ppm以下、より好ましくは約50ppm以下、さらに好ましくは約30ppm以下、さらにより好ましくは約10ppm以下、特に好ましくは約5ppm以下、最も好ましくは約3ppm以下となるのに適切な量である。
【0106】
1つの実施形態では、本発明の食品中のフッ化物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、フッ化物がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLであるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度を50ppm以下とするのには、1回摂取量として1mg以下のフッ素を含めばよい(20(g)×50×10−6=1(mg))。それゆえ、ガムの重量をXg、フッ化物の配合量(フッ素として換算)をY%とすると、Y(%)={1(mg)/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、フッ素としての配合量は、0.05重量%以下である。例えば、ガムの重量が1gであれば、フッ素としての配合量は、0.1重量%以下であり、ガムの重量が10gであれば、フッ素としての配合量は0.01重量%以下である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0107】
1つの実施形態では、本発明の食品がリン酸源化合物を含む場合、この食品中のリン酸源化合物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が、好ましくは約0.1mM以上、より好ましくは約0.5mM以上、さらに好ましくは約1mM以上、特に好ましくは約2mM以上、最も好ましくは約2.5mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約8mM以下、さらに好ましくは約6mM以下、特に好ましくは約5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるに適切な量である。
【0108】
1つの実施形態では、本発明の食品中のリン酸源化合物の含有量は、食品の形態、摂食の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、リン酸源化合物がチューインガムに配合される場合、20分間の咀嚼中に出る唾液の量が20mLでリン酸の分子量が約98であるので、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度を0.1mM〜10mMとするには、1回摂取量として0.0196mg〜1.96mgのリン酸を含めばよい(98×0.1(mM)×0.002(L)=0.0196mg、98×10(mM)×0.002(L)=1.96mg)。それゆえ、ガムの重量をXg、配合量(リン酸として換算)をY%とすると、Y(%)={(0.0196〜1.96(mg))/(X(g)×1000)}×100によって配合量が決定される。例えば、ガムの重量が2gの場合、リン酸としての配合量は、0.00098〜0.098重量%である。例えば、ガムの重量が1gであれば、リン酸としての配合量は、0.00196〜0.0000196重量%であり、ガムの重量が10gであれば、リン酸としての配合量は0.000196〜0.00000196重量%である。ガムの重量が他の重量である場合についても同様に計算される。ガム以外の食品についても同様に設計され得る。
【0109】
(3c.本発明の食品の喫食方法)
本発明の食品は、任意の用途に用いられ得る。本発明の食品は、健常人にも、初期齲蝕の治療を必要とする人にも、用いられ得る。
【0110】
本発明の食品の摂取量、摂取頻度および摂取期間に特に制限はなく、任意に摂取され得る。
【0111】
本発明の食品の摂取量は、好ましくは1回あたり、約0.1g以上であり、より好ましくは約0.2g以上であり、さらに好ましくは約0.5g以上であり、さらにより好ましくは約1g以上である。本発明の食品の摂取量に特に上限はないが、例えば、1回あたり、約1000g以下、約750g以下、約500g以下、約250g以下、約100g以下、約50g以下、約40g以下、約30g以下、約20g以下、約10g以下、約7.5g以下、約5g以下、約4g以下、約3g以下、約2g以下、約1g以下などである。
【0112】
本発明の食品の摂取頻度は、任意に設定され得る。例えば、1週間に1回以上、1週間に2回以上、1週間に3回以上、1週間に4回以上、1週間に5回以上、1週間に6回以上、1週間に7回以上、1日1回以上、1日2回以上、1日3回以上などであり得る。本発明の食品の摂取頻度に上限はなく、例えば、1日3回以下、1日2回以下、1日1回以下、1週間に7回以下、1週間に6回以下、1週間に5回以下、1週間に4回以下、1週間に3回以下、1週間に2回以下、1週間に1回以下などであり得る。
【0113】
本発明の食品の摂取のタイミングは、食前であっても食後であっても食間であってもよいが、食後が好ましい。食前とは、食事の直前から食事を取る約30分前までをいい、食後とは、食事の直後から食事を取った約30分後までをいい、食間とは、食事を取ってから約2時間以上経過した後から次の食事まで約2時間以上前の時間をいう。
【0114】
本発明の食品の摂取期間は、任意に決定され得る。本発明の食品は、好ましくは約1日以上、より好ましくは約3日間以上、最も好ましくは約5日間以上摂取され得る。本発明の食品の摂取期間は、約1ヶ月以下、約2週間以下、約10日間以下であってもよい。口腔内での脱灰は日常的に起こり得るので、本発明の食品は、ほぼ永続的に摂取されることが好ましい。
【0115】
本発明の食品は、摂取の際、すなわち、喫食時にすぐには嚥下せずにある程度の時間にわたって口腔内に滞留させることが好ましい。本発明の食品を口腔内に滞留させる時間は、好ましくは約5分間以上、より好ましくは約10分間以上、さらに好ましくは約15分間以上である。本発明の食品を口腔内に滞留させる時間に特に上限はなく、例えば約1時間以下、約50分以下、約40分以下、約30分間以下、約20分間以下などであり得る。滞留時間が短すぎる場合には、再石灰化効果が得られにくい。
【0116】
本発明の食品がチューインガム類、キャンディー類、錠菓などの場合は、1回に1粒ずつ摂取されてもよく、1回に複数個(例えば、2個〜10個)摂取されてもよい。1回に複数個を摂取する場合、いっぺんに複数個を口に入れて摂取してもよく、1個ずつ順々に複数個を摂取してもよい。本発明の食品がチューインガム類である場合、長時間噛み続けることが好ましく、本発明の食品がキャンディー類または錠菓である場合、噛まずに最後まで舐められることが好ましい。
【0117】
本発明の食品は、通常、包装されて販売される。この包装は、紙、プラスチック、セロハンなどの通常使用される包装であり得る。この包装には、本発明の食品の摂取量、摂取タイミング、摂取方法(例えば、ガムの場合、「2粒を約20分間以上かみ続けることが好ましい」)などについての指示が記載されていることが好ましい。あるいは、このような指示が記載された指示書が挿入されていてもよい。
【0118】
(4.本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物)
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを含む組成物である。この組成物は、特定の実施形態では、ハイドロキシアパタイト微粒子も、リン酸化糖またはリン酸化糖の塩も含まないことが好ましい。この抗齲蝕用の口腔用組成物は、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム(例えば、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムおよびリン酸三カルシウム)を含有し得る。本発明の初期齲蝕治療用組成物は、フッ化物またはリン酸源化合物をさらに含むことが好ましい。1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、初期齲蝕治療用組成物であることが好ましい。
【0119】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、上記の材料のみからなっていてもよいが、上記以外の他の材料を含んでもよい。本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中に含まれ得る他の材料の例としては、粉末セルロース、デンプン、水、抗菌剤、および殺菌剤が挙げられる。
【0120】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が粉末の場合、この組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩の粉末;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸の粉末と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩の粉末との組み合わせを、従来公知の方法によって必要に応じて従来公知の他の材料と混合することによって製造され得る。
【0121】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が液体の場合、この組成物は、(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせを従来公知の溶媒に添加し、従来公知の方法によって混合することによって製造され得る。
【0122】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩(ラクトビオン酸カルシウムを除く)の含有量の合計は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のラクトビオン酸濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、特に好ましくは約2.0mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のラクトビオン酸濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0123】
口腔用組成物に関して本明細書中で使用する場合、「含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のその濃度が1.0mM以上の濃度となるに適切な量である」とは、本発明の口腔内組成物を使用し始めてから20分間の間に口腔内に生成する液体を採取し、その液体中のその成分の濃度を測定した場合の濃度が1.0mMになるに適切な量をいう。他の濃度の場合についても同様に解釈される。口腔内にたまる液体は、純粋な唾液と、口腔用組成物由来の液体部分と、口腔用組成物由来の各種溶質との混合物である。
【0124】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩(ラクトビオン酸カルシウムを除く)の含有量の合計は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約1.0mM以上であり、より好ましくは約1.5mM以上であり、特に好ましくは約2.0mM以上であり、最も好ましくは約3mM以上である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のラクトビオン酸またはその塩の含有量の合計は、ラクトビオン酸に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約6mM以下であり、さらに好ましくは約5mM以下であり、特に好ましくは約4.5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。本明細書中では、このような、ほとんど希釈されない口腔用組成物の場合、口腔内に存在する該組成物と少量の唾液との混合物のことを「口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液」とみなす。
【0125】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約1.0mM以上、より好ましくは約1.5mM以上、特に好ましくは約2.0mM以上、最も好ましくは約3mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が、好ましくは約10mM以下、より好ましくは約6mM以下、さらに好ましくは約5mM以下、特に好ましくは約4.5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0126】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩(ラクトビオン酸カルシウムを含む)の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量の合計は、カルシウム含量に換算して、好ましくは約1.0mM以上であり、より好ましくは約1.5mM以上であり、特に好ましくは約2.0mM以上であり、最も好ましくは約3mM以上である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中の水溶性カルシウム塩の含有量の合計は、カルシウム含量に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約6mM以下であり、さらに好ましくは約5mM以下であり、特に好ましくは約4.5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。
【0127】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がフッ化物を含む場合、この口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が好ましくは約0.1ppm以上、より好ましくは約0.5ppm以上、さらに好ましくは約1ppm以上となるのに適切な量である。本発明の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のフッ素濃度が好ましくは約100ppm以下、より好ましくは約50ppm以下、さらに好ましくは約30ppm以下、さらにより好ましくは約10ppm以下、特に好ましくは約5ppm以下、最も好ましくは約3ppm以下となるのに適切な量である。これらのことは、本発明の全ての抗齲蝕用の口腔用組成物について適用される。
【0128】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量は、フッ素含量に換算して、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約30ppm以下であり、さらにより好ましくは約10ppm以下であり、特に好ましくは約5ppm以下であり、最も好ましくは約3ppm以下である。またこの場合、例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のフッ化物の含有量の合計は、フッ素含量に換算して、好ましくは約100ppm以下であり、より好ましくは約50ppm以下であり、さらに好ましくは約30ppm以下であり、さらにより好ましくは約10ppm以下であり、特に好ましくは約5ppm以下であり、最も好ましくは約3ppm以下である。口腔用組成物が口腔内で薄められて使用されることが意図される組成物である場合、その希釈倍率を考慮して、成分が配合される。例えば、約20倍に希釈されることが意図される口腔用組成物の場合、20倍の濃度で配合される。
【0129】
1つの実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。例えば、本発明の初期齲蝕治療用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が好ましくは約0.1mM以上、より好ましくは約0.5mM以上、さらに好ましくは約1mM以上、特に好ましくは約2mM以上、最も好ましくは約2.5mM以上となるのに適切な量である。例えば、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の唾液中のリン酸濃度が好ましくは約10mM以下、より好ましくは約8mM以下、さらに好ましくは約6mM以下、特に好ましくは約5mM以下、最も好ましくは約4mM以下となるのに適切な量である。
【0130】
本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物がリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、口腔用組成物の形態、使用の際の希釈率などを考慮して、任意に設定され得る。口腔用組成物が歯磨剤および洗口剤などのように口腔内でほとんど薄められることなくそのままの濃度で作用するような形態で使用される場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、リン酸含量に換算して、好ましくは約0.1mM以上であり、より好ましくは約0.5mM以上であり、さらに好ましくは約1mM以上であり、特に好ましくは約2mM以上であり、最も好ましくは約2.5mM以上である。この場合、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物中のリン酸源化合物の含有量は、リン酸含量に換算して、好ましくは約10mM以下であり、より好ましくは約8mM以下であり、さらに好ましくは約6mM以下であり、特に好ましくは約5mM以下であり、最も好ましくは約4mM以下である。
【0131】
別の実施形態では、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は以下のように使用され得る。まず、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物が所望の歯面(例えば、初期齲蝕の部分または健全な部分)に適用される。この組成物は、コントラ、ローラー、ブラシなどのような器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよく、適用されたカルシウムイオンおよびラクトビオン酸イオンが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じてもよい。唾液との接触を減らすための手段を講じる場合には、本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物は、充分量のリン酸源化合物を含むことが好ましい。この場合には、例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。唾液との接触を減らすための手段を講じることにより、初期齲蝕の再石灰化が顕著に促進され得る。本発明の抗齲蝕用の口腔用組成物を歯面に適用する前に、有機質除去剤を使用することが好ましい。
【0132】
食品以外の口腔用組成物の形態としては、例えば、歯磨剤、洗口剤(マウスウオッシュともいう)、トローチ剤、ゲル剤等が挙げられ、医薬組成物の剤型としては、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられる。またこれらの液剤を不織布などに含浸させた拭取り布のような形態のものや綿棒のような形態を用いることも可能である。
【0133】
本発明の口腔用組成物は、通常、容器に入れて、または包装されて販売される。この容器は、プラスチックなどの通常使用される容器であり得る。この包装は、紙、プラスチック、セロハンなどの通常使用される包装であり得る。この容器または包装には、本発明の口腔用組成物の摂取量、摂取タイミング、摂取方法(例えば、ガムの場合、「2粒を約20分間以上かみ続けることが好ましい」)などについての指示が記載されていることが好ましい。あるいは、このような指示が記載された指示書が挿入されていてもよい。
【実施例】
【0134】
(1.使用したラクトビオン酸カルシウム塩およびラクトビオン酸)
以下の実験、実施例および試験例に用いたラクトビオン酸カルシウム塩およびラクトビオン酸は、試験例に用いたラクトビオン酸カルシウム塩及びラクトビオン酸カルシウムはFFI Journal Vol.211,No.10,2006 874−881に掲載した方法に準じた方法で調製したものを用いた。
【0135】
(2.表層下脱灰病巣形成)
以下の実験、実施例および試験例においては、以下の方法によって表層下脱灰病巣形成を行った。エナメル質ブロック(10mm×10mm)をウシ切歯の冠部から切り出し、次いで口腔表面部分なしでこのブロックを樹脂に取り付けた。このブロックを、湿らせた研磨紙(#1000および#2000)で研磨して新たで平らなエナメル質表面を露出させた。エナメル質表面の一部(3分の1の部分)にネイルバーニッシュを塗り、その後の脱灰処理から保護した。この部分はコントロールの健全部である。0.1M乳酸溶液(pH4.5)をメチルセルロースゲル上に重層する方法(Lynch RJM,ten Cate JM:The effect of lesion characteristics at baseline on subsequent de and remineralisation behaviour.,Caries Res,2006;40:530−535)により、エナメル質ブロックの表面下病巣を形成させた。このようにして、健全部と脱灰部のあるウシ歯片を調製した。
【0136】
(3.TMRの方法)
以下の実験、実施例および試験例においては、以下の方法によってTMRを行った。再石灰化後、水冷式ダイアモンド鋸を用いて、エナメル質のブロックから薄い平行切片を切り出した。この薄い切片を平行な水平面になるように研磨して150μmの厚さにした。このエナメル質の薄い切片を、高分解能プレートを用い、20kVおよび20mAによって生成されたCu−Kα X線によって13分間にわたってX線撮影し、現像し、顕微鏡解析をした(PW−3830,Philips,The Netherlands)。X線撮影の際には標準物質として種々の既知量のアルミニウムを使用して、同時に撮影し、カルシウム量の検量線を作成するために使用した。顕微鏡で観察されたデジタル画像からミネラルプロファイルを描写し、そしてInspektor Research Systems BV(The Netherlands)のソフトフェアによってミネラルパラメーター(脱灰深度ldおよびミネラル喪失量(ML))を計算した。平均値を標本あたりで計算し、そして統計的に解析した。
【0137】
(実験1および実験2:ラクトビオン酸カルシウムの再石灰化に与える影響評価)
再石灰化を促進する条件は、以下の2点である:
(1)中性pH条件下でカルシウム−リン酸の結合および不溶化を防ぐ;
(2)脱灰患部へカルシウムイオンとリン酸イオンを供給し、ハイドロキシアパタイトの結晶成長へ寄与する。
【0138】
カルシウムイオンは、リン酸イオンと結合して再石灰化することにより、ハイドロキシアパタイトおよび水素イオンが形成される。この反応は、以下に示すように可逆的である:
10Ca+ + 6HPO4− + 2H2O⇔Ca10(PO4)6(OH)2 + 8H+
それゆえ、カルシウムイオン濃度およびpHを測定することにより、再石灰化反応をモニターできる。さらに、ハイドロキシアパタイトの結晶核を利用することで、再石灰化反応の促進効果を評価できる(Tanaka,T.,et al.,Caries Res.41(4),327(2007))。
【0139】
ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化に与える影響評価のために、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液またはリン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液(コントロール1)またはCaCl2含有再石灰化溶液(コントロール2)中のpHおよびカルシウムイオンの経時変化を調べた。また、ラクトビオン酸カルシウムの代わりにラクトビオン酸ナトリウムと塩化ナトリウムとの組み合わせを用いた場合のpHおよびカルシウムイオンの経時変化もまた調べた。
【0140】
詳細には、表1の実験1の組成のラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液、表1の比較実験1の組成のリン酸化オリゴ糖カルシウム塩(POs−Ca)含有再石灰化溶液、表1の比較実験2の組成のCaCl2含有再石灰化溶液および表1の比較実験3の組成のリン酸化オリゴ糖ナトリウム塩およびCaCl2含有再石灰化溶液を調製した。これらの溶液はいずれも、リン酸源化合物(KH2PO4)を含んでいた。カルシウムの供給源は、実験1においてはラクトビオン酸カルシウム塩であり、比較実験1においてはPOs−Caであり、比較実験2および比較実験3においてはCaCl2であった。この溶液の調製の際、微量の1N塩酸溶液とカルシウム源およびリン酸源化合物を50mlの水に添加して混合した後、緩衝液であるHEPES溶液を添加し、最後に1N水酸化カリウム溶液を加えてpHを中性にした後、この溶液を100mlになるように蒸留水を加えてから、37℃、pH6.5±0.02でインキュベーションを開始した。
【0141】
【表1】
インキュベートしながら、pHの変化およびCa濃度の変化を5分毎に測定した。各時点でのpHおよびCa濃度を、電極により測定した。
【0142】
インキュベート開始後、実験1〜2および比較実験1〜比較実験3のいずれについても60分の時点で結晶核(ハイドロキシアパタイト(和光純薬製)100mg)をそれぞれの溶液に添加し、その後、120分の時点までインキュベーションおよび測定を続けた。実験1の結果を図1に、比較実験1の結果を図2に、比較実験2の結果を図3に、実験2の結果を図4に、そして比較実験3の結果を図5に示す。
【0143】
図1(実験1)に示すように、ラクトビオン酸カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度はやや上昇するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.32 低下し、カルシウムイオンが22.5%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。このように、ラクトビオン酸カルシウムは、リン酸化オリゴ糖と同様に再石灰化を促進する物質であると考えられる。
【0144】
図2(比較実験1)に示すように、リン酸化オリゴ糖カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度はやや低下するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.25低下し、カルシウムイオンが32.2%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。
【0145】
図1と図2の比較により、ラクトビオン酸がPOsCaよりも結晶核存在下でのカルシウム沈着効果に優れることがわかった。
【0146】
一方、図3(比較実験2)に示すように、塩化カルシウムを含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションをすると、カルシウム濃度およびpHの低下が起こり、容器の底には沈澱物の形成が観察された。反応開始60分後には、反応開始時と比較してpH値が0.41低下し、カルシウムイオン23.4%不溶化していた。結晶核を添加しても、カルシウム濃度およびpHの低下の傾向に変化がなかった。これは、結晶核とは無関係にカルシウムが沈澱することを示す。このことから、塩化カルシウムが再石灰化にほとんど寄与しないことが確認された。
【0147】
すなわち、塩化カルシウムは、大量のカルシウムを含有しているが、ハイドロキシアパタイトの存在しない場所においてそのカルシウムを放出してしまい、ハイドロキシアパタイトにカルシウムを大量に提供することができない。他方、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸化オリゴ糖は、ハイドロキシアパタイトの存在しない場所においてそのカルシウムを放出せずに保持しており、ハイドロキシアパタイトの存在する場所において初めてカルシウムを放出する。そのため、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸化オリゴ糖は、ハイドロキシアパタイトに大量のカルシウムを提供することができる。
【0148】
図4(実験2)に示すように、ラクトビオン酸カルシウムの代わりに、ラクトビオン酸ナトリウムおよびCaCl2を含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度がやや上昇しpHがやや低下するが、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、ただちにカルシウム濃度およびpHの急激な低下が起こることがわかった。これは、ラクトビオン酸カルシウムを用いた場合と同様であった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.33低下し、カルシウムイオンが22.1%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。また、ラクトビオン酸カルシウムの代わりに、カルシウム塩以外のラクトビオン酸カルシウムミネラル塩と水溶性カルシウム塩を用いることによっても優れた再石灰化が得られることがわかった。
【0149】
図5(比較実験3)に示すように、リン酸化オリゴ糖ナトリウムおよびCaCl2を含有する再石灰化溶液の場合、結晶核を添加せずにインキュベーションを続けると、カルシウム濃度がやや上昇するがpHはほとんど変化せず、カルシウムイオンの溶解性が保たれていた。そして、60分後に結晶核を添加することにより、カルシウム濃度およびpHの低下が起こることがわかった。この可溶性カルシウムの割合の低下はリン酸化オリゴ糖カルシウムを用いた場合よりも少なかった。反応開始120分後には、反応開始時と比較してpH値が0.197低下し、カルシウムイオンが26.5%不溶化した。これは、結晶核が存在することによりカルシウム沈着が促進され、再石灰化が起こることを示す。
【0150】
このように、ラクトビオン酸カルシウムのみ、またはラクトビオン酸ナトリウムとCaCl2の組み合わせを用いた場合、結晶核を添加する前はほぼ一定のpHを保ち、結晶核の添加により可溶性カルシウムの割合が急激に低下した。これは、リン酸化オリゴ糖と同様に、ラクトビオン酸が口腔内に存在する場合、歯面と接触する前はカルシウムイオンを保持する能力を有し、そして歯面と接触すると直ちにカルシウムイオンを放出して再石灰化を促進することを示唆する。
【0151】
(実験3:ミュータンス連鎖球菌によるラクトビオン酸カルシウムの資化性の確認)
実験1および実験2において簡易評価系で調べた結果、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化を促進する効果を有する可能性があることがわかった。本実験では、ミュータンス連鎖球菌によるラクトビオン酸カルシウムの資化性を検討して、ラクトビオン酸カルシウムが脱灰の原因とならないかどうかを評価した。
【0152】
菌株として、Streptococcus mutans MT8148およびStreptococcus sobrinus 6715を使用した。
【0153】
まず、Brain Heart Infusion(BHI)液体培地(Difco社製)4mlに、各菌株のストック溶液(グリセロール:BHI=1:1,−80℃で保存)から白金耳を用いて2回植菌して静置培養を一晩行った。続いて、以下の表2に記載の組成の培養液を用いて本培養を行った。本培養は、Heart Infusion(HI)液体培地(Difco社製)を用い、前培養液を加えて試験管を斜めに倒し、37℃で静置培養を行った。被検サンプルとして1%または10%のラクトビオン酸カルシウム溶液を作製し、終濃度0.1%または1%となるように培養液に加えた。コントロールとして20%スクロース溶液を用いて、終濃度2%となるように培養液に加えた。また、ブランクとして糖質を含まない液体培地を調製した。
【0154】
【表2】
植菌後、37℃で静置培養し、0、4、7、23時間で反応液を800μlずつサンプリングし、そのpHおよびO.D570値(濁度)を測定した。
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
(結果)
スクロースを添加したコントロールにおいては、S.mutansおよびS.sobrinusともに、pH低下および濁度の上昇が観察され、細菌の顕著な増殖およびスクロースの資化が確認された(表3および4)。しかし、ラクトビオン酸カルシウム添加試験区では、1%添加区で僅かにpHの低下(表3)および濁度の上昇(表4)が見られた。ラクトビオン酸カルシウムを0.1%添加した場合、そのpHの低下および濁度の上昇は、ブランク(滅菌水)とほぼ同じであり、pHの低下も濁度の上昇も極めて少なかった。ラクトビオン酸カルシウム添加試験区では、23時間培養後もブランクと同様にpH6.0以上を保っていたため、歯の脱灰を引き起こすレベルの酸は産生していなかった。従って、ラクトビオン酸カルシウムは、口内細菌によってほとんど資化されず、脱灰の原因になりにくいと考えられる。
【0157】
(実施例1および参考例1:ラクトビオン酸カルシウム塩またはリン酸化オリゴ糖カルシウム塩によるウシ歯での再石灰化効果)
実験1および2から、ラクトビオン酸カルシウム含有再石灰化溶液はリン酸化オリゴ糖カルシウム含有再石灰化溶液と同様に再石灰化能力に優れていると考えられたので、それを確認するために、人工的に脱灰したウシ歯片を用いて以下の実験を行った。
【0158】
「2.表層下脱灰病巣形成」に従って牛エナメル質歯片の表層下脱灰病巣を形成した(この時点でエナメル質表面の1/3にネイルバーニッシュが塗られており、表面の2/3の部分が脱灰されていた)。さらにこの脱灰部のうちの1/2にネイルバーニッシュを塗布して脱灰部を保存した。これにより、エナメル質表面の2/3にネイルバーニッシュを塗ったウシ歯片を準備した。次いで次の再石灰化処理を行った。再石灰化処理において、この脱灰後のウシ歯を以下の表5の再石灰化溶液中で37℃で24時間連続浸漬した。浸漬後、ウシ歯片を回収し、ネイルバーニッシュをはがした後、歯の横断面薄片(約150μm)を切り出し、各再石灰化組成の再石灰化度を上記「2.TMRの方法」に従ってトランスバーサルマイクロラジオグラフィー(Transversal Microradiography;TMR)解析により評価した。TMR解析から計算して得たミネラルプロファイルもまた評価した。つまり、歯横断面のマイクロラジオグラフおよびミネラルプロファイルから脱灰および再石灰化度を評価した。
【0159】
【表5】
TMR解析の結果(すなわち、X線撮影結果の顕微鏡写真;マイクロラジオグラフ)を図6に示す。図6の(A)および(B)はラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の結果を示し、図6の(C)および(D)はリン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の結果を示す。それぞれ、DEMは脱灰処理後で再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)の結果を示し、REMは、再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)の結果を示す。
【0160】
図6のTMR解析の結果から計算して得たミネラルプロファイルを図7および図8に示す。図7は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)および再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。
【0161】
図8は、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)および再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。
【0162】
図6において、黒い部分は背景であり、歯面表層が上側に白く見えており、その下側が灰色に、さらにその下側が白く見えている。歯片の厚さは均質であり、カルシウムが多いほどX線が透過しにくいので、カルシウム量が多いほど白く見える。すなわち、この写真の色調によって、その部分のカルシウム量を知ることができる。図6の(A)および(C)の写真から、脱灰後の歯片において、歯面表層にはカルシウムが残っているが、その下の層はカルシウムが抜けていることがわかる。
【0163】
再石灰化処理前である図7の脱灰後を示す細い線を見ると、いずれも脱灰深度(Lesion depth、これは、歯面からの距離、すなわち、サンプル位置を示す)が0ではミネラル喪失量%(Mineral Loss;vol.%)が約15〜25%であり、サンプル位置が約20μmになるまではミネラル量%がほぼ一定かまたは減少しており、そこからミネラル量%が増加しはじめ、Ldが約100μmではミネラル量%が約60%以上にまで増加する。その後、サンプル位置が深くなるとミネラル量%は徐々に増加して約80%となる。
【0164】
再石灰化処理後である図7および8の太い線を見ると、ラクトビオン酸カルシウムで処理した場合もリン酸化オリゴ糖カルシウムで処理した場合も、ミネラル量%が最低でも40%程度まで増加した。これは、図6のREMから視覚的にも確認できる。図6のREMでは歯面表層の下側の部分がかなり白くなっている。
【0165】
標準物質によって検量して、ミネラル損失量を計算し、脱灰部のミネラル損失量(Mineral loss)を100%の損失としたときの、再石灰化部のミネラルの回復率を以下の式に基づいて計算した:
[{(脱灰部のミネラルの損失量)−(再石灰化部のミネラルの損失量)}/(脱灰部のミネラル損失量)]×100=回復率(%)
再石灰化部の脱灰深度(Lesion depth)の回復率を以下の式に基づいて計算した:
[{(脱灰部の脱灰深度)−(再石灰化部の脱灰深度)}/(脱灰部の脱灰深度)]×100=回復率(%)
その結果、ラクトビオン酸カルシウム塩については、脱灰深度(μm)の回復率が4.8%であり、ミネラル損失量(vol%.μm)の回復率が29.8%であった。リン酸化オリゴ糖カルシウム塩については、脱灰深度(μm)の回復率が23.9%であり、ミネラル損失量(vol%.μm)の回復率が36.2%であった。再石灰化能力のない物質では回復率は通常約0%である。このことより、ラクトビオン酸カルシウムも、リン酸化オリゴ糖カルシウムと同様に優れた再石灰化効果を有することが確認された。このように、ラクトビオン酸カルシウムが再石灰化のカルシウム源として、そして再石灰化促進素材として、有効に利用され得ることがわかった。
【0166】
(実施例2:ラクトビオン酸カルシウム含有ガムの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表6に示す配合の材料を混合してセンターガムを調製する。さらに、このセンターガムに、センターガムの重量:糖衣の重量=7:3で糖衣し、光沢剤(シェラック)をコーティングすることにより、糖衣ガムを得た。糖衣としてマルチトールを使用した。このセンターガム2粒を咀嚼し、唾液20mLが出てくると仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.68mMである。このセンターガムの1粒あたりの重量は約1gである。このガムの味にはくせがなく、キシリトールおよびミントオイルの味および風味がそのまま損なわれずに感じられる、良好な味および風味のものである。
【0167】
【表6】
(実施例3:ラクトビオン酸カルシウム含有キャンディーの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って、60:40の重量比のパラチニットおよび還元みずあめの混合物を水分値1.8重量%になるまで煮詰めてキャンディーベースを得る。このキャンディーベースに以下の表7に示す配合でラクトビオン酸カルシウム塩、香料および着色料を加えて混合してシュガーレスキャンディーを調製する。このキャンディーの1個あたりの重量は約3.6gである。このキャンディー一粒を口腔内で溶解したとき分泌される唾液量が20mLと仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.6mMである。
【0168】
【表7】
(実施例4:ラクトビオン酸カルシウム含有タブレットの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表8に示す配合の材料を混合してタブレットを調製する。このタブレットの1個あたりの重量は約1gである。このタブレット1粒を口腔内で溶解した場合に分泌される唾液量を20mLと仮定したとき、唾液20mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約4.6mMである。
【0169】
【表8】
(実施例5:練り歯磨きの製造)
当該分野で通常行われる方法に従って以下の表9に示す配合の材料を混合して練り歯磨きを製造する。この歯磨剤の1回あたり使用重量は約1〜3gである。この歯磨剤2gを口腔内で溶解した場合に分泌される唾液量が5分間の歯磨きで10mLと仮定したとき、唾液10mL中のラクトビオン酸カルシウム塩の含有量は、カルシウム濃度として約5.1mMである。
【0170】
【表9】
(実施例6:種々の濃度のラクトビオン酸カルシウムによる再石灰化効果)
本実施例では、ラクトビオン酸カルシウム由来のカルシウムイオンがイオン化状態でリン酸およびフッ素と共存して再石灰化に利用できる範囲を検討した。
【0171】
口腔内の唾液は中性である。従来のカルシウム素材を用いた場合、口腔内の唾液下ではカルシウムとリン酸との間でリン酸カルシウムの沈殿が形成されやすかったり、フッ素とカルシウムとの間でフッ化カルシウムの沈澱が形成されやすかったりする。そのため、一般的なカルシウム素材(例えば、塩化カルシウム等)を用いた場合、再石灰化効果がほとんど得られず、フッ素による歯質改善効果もなかなか得られなかった。しかしながら、ラクトビオン酸カルシウムに含まれるカルシウムは、中性条件下でイオン化状態でリン酸と共存することができる。上記実施例において我々は、歯エナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイトに再石灰化しやすいように、唾液中に通常含まれる3.6mMのリン酸を利用し、ハイドロキシアパタイトの組成比(Ca/P=1.67)に近づくようにラクトビオン酸カルシウム6mMを供給して再石灰化することを確認した。本実施例では、Ca/P=1.67以外の比率について、どの程度の濃度範囲でラクトビオン酸カルシウムとフッ素ないしリン酸がイオン化状態で共存できるかを検討した。本実施例では、特開2002−325557号公報に記載される簡易再石灰化試験法に準じて実験を行った。
【0172】
実験方法:
(1)以下の表12に記載のNo.1〜12のカルシウム濃度、リン酸濃度およびフッ素濃度になるように溶液を調製した。次いで、この溶液を用いて表11の組成に従ってアパタイト非添加群Aおよびアパタイト添加群Bの各種溶液を調製した。
【0173】
(2)(1)で調製した溶液をそれぞれ37℃で24時間反応させた。
【0174】
(3)反応24時間後、サンプルを12000rpmで3分間遠心分離した。
【0175】
(4)それぞれ、上澄み900μlに1Nの塩酸100μlを添加して攪拌し、測定用混合物を得た。
【0176】
(5)(4)で得られた測定用混合物をサンプルとして使用して、カルシウム濃度およびリン酸濃度を測定した。カルシウム濃度の測定には、カルシウムEテストワコーを使用した。リン酸濃度の測定には、ホスファC−テストワコーを使用した。
【0177】
(6)アパタイト非添加群の試験管の反応後上澄みのカルシウム濃度(C非添加)から、対応するアパタイト添加群の試験管の反応後の上澄みのカルシウム濃度(C添加)を差し引きすることにより、再石灰化に利用できるカルシウム濃度(C利用可能)を求めた(C非添加−C添加=C利用可能(濃度))。この再石灰化に利用できるカルシウムの濃度を、アパタイト非添加群の試験管の反応後の上澄みのカルシウム濃度で除算して100をかけることにより、再石灰化に利用できるカルシウムの割合を求めた({(C非添加−C添加)/C非添加}×100=C利用可能(%))。結果を以下の表12および図9〜11に示す。
【0178】
【表11】
【0179】
【表12】
一般に、唾液中のリン酸濃度は2〜6mMである。唾液中のリン酸濃度を3.6mMと想定した場合、ハイドロキシアパタイト組成に近いCa/P=1.67になるカルシウム濃度は6mMである(実験No.1〜4)。実験No.1〜4の結果、Ca/P=1.67の条件では、0〜50mMのフッ素濃度で、カルシウム、リン酸およびフッ素が遊離していることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。同様に、唾液中のリン酸(2〜3.6mM)を利用した場合、Ca/P=1.67〜3でフッ素が0〜50ppmのときにカルシウム、リン酸およびフッ素が遊離していることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。
【0180】
(実施例7:種々の濃度のラクトビオン酸カルシウムによる再石灰化効果)
表12に記載の組成の代わりに以下の表13に記載の組成を用いたこと以外は同様にして、カルシウム濃度が1.5mMの場合の再石灰化効果を調べた。結果を以下の表13および図12〜16に示す。
【0181】
【表13】
これらの結果、カルシウム濃度が1.5mMであって、カルシウムとリン酸との比率(Ca/P)が0.50〜3.00である場合、フッ素濃度が0〜100ppmのときにカルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンが遊離イオンとして共存することが可能であることが確認された。そのため、これらの遊離したイオンが再石灰化および歯質改善に有効に利用され得ることが確認された。
【0182】
実施例6〜7の結果をまとめると、カルシウムとリン酸との比率(Ca/P)が1〜3で、添加されるカルシウム濃度(Ca)が1mM以上10mM以下であることが好ましく、1.5mM以上6mM以下であることがより好ましい。さらに、リン酸イオンが0mM以上6mM以下であることが好ましく、2mM以上5mM以下であることがより好ましい。フッ素濃度(F)は、0ppm以上100ppm未満であることが好ましく、0.5ppm以上50ppm以下であることがより好ましい。これらのイオンの濃度がこの範囲にあれば、口腔内の唾液のような中性の溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンが共存することが可能である。そのため、高い再石灰化効果および歯質改善効果が得られると考えられる。
【0183】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、従来得ることができなかったレベルの再石灰化を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、ラクトビオン酸カルシウムおよびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合(soluble calcium)(%)の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図2】図2は、リン酸化オリゴ糖カルシウムおよびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図3】図3は、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図4】図4は、ラクトビオン酸ナトリウム、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合(%)の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図5】図5は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム、CaCl2およびリン酸源化合物を含有する再石灰化溶液中のpHおよび可溶性カルシウムの割合の経時変化を示す。黒色の三角は、結晶核添加の時点を示す。白丸は可溶性カルシウムの割合(%)(Caイオン(%))を示し、黒丸はpHを示す。
【図6】図6は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液またはリン酸化オリゴ糖カルシウム含有再石灰化溶液を用いた場合の再石灰化処理のTMRによる歯片分析の結果を示す。DEMは脱灰処理後で再石灰化処理前(脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分)のマイクロラジオグラフを示し、REMは、再石灰化処理後(脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分)のマイクロラジオグラフを示す。図6(A)は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合のDEMのマイクロラジオグラフである。図6(B)は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合のREMのマイクロラジオグラフである。図6(C)は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム含有再石灰化溶液を用いた場合のDEMのマイクロラジオグラフである。図6(D)は、リン酸化オリゴ糖ナトリウム含有再石灰化溶液を用いた場合のREMのマイクロラジオグラフである。
【図7】図7は、ラクトビオン酸カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前および再石灰化処理後のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。再石灰化処理前については、脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分の結果であり、再石灰化処理後については、脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分の結果である。再石灰化処理前のミネラルプロファイルを細い線で示し、再石灰化処理後のミネラルプロファイルを太い線で示す。
【図8】図8は、リン酸化オリゴ糖カルシウム塩含有再石灰化溶液を用いた場合の、再石灰化処理前および再石灰化処理後のTMR解析から計算して得たミネラルプロファイルを示す。再石灰化処理前については、脱灰処理を施したが再石灰化処理の際にはマニキュアで保護されていた部分の結果であり、再石灰化処理後については、脱灰処理を受け、その後再石灰化処理を受けた部分の結果である。再石灰化処理前のミネラルプロファイルを細い線で示し、再石灰化処理後のミネラルプロファイルを太い線で示す。
【図9】図9は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.67でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図10】図10は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が2.0でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図11】図11は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が3.0でフッ素濃度が0〜50ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、および50ppmである。
【図12】図12は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が0.5でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図13】図13は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図14】図14は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が1.67でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図15】図15は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が2.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【図16】図16は、ラクトビオン酸カルシウムによるカルシウムとリン酸との濃度比率(Ca/P)が3.0でフッ素濃度が0〜100ppmの場合に再石灰化に利用できるカルシウム濃度を示すグラフである。添加したフッ素濃度は、左から、0ppm、0.5ppm、5ppm、50ppm、および100ppmである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含む、組成物。
【請求項2】
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
リン酸源化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
フッ化物をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物のフッ素含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
初期齲蝕の治療のために用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
健常人の歯質強化のために用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
歯磨剤、洗口剤、トローチ剤またはゲル剤である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品。
【請求項12】
チューインガム類、キャンディー類、錠菓または冷菓である、請求項11に記載の食品。
【請求項13】
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、請求項11または12に記載の食品。
【請求項14】
前記食品の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
リン酸源化合物をさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の食品。
【請求項16】
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、請求項15に記載の食品。
【請求項17】
フッ化物をさらに含む、請求項11〜16のいずれか1項に記載の食品。
【請求項18】
前記食品のフッ素含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、請求項17に記載の食品。
【請求項19】
前記食品がチューインガム類であり、1回摂取量に含まれるラクトビオン酸カルシウム塩の重量が、カルシウムの重量として、1.2mg〜4.8mgである、請求項11〜18のいずれか1項に記載の食品。
【請求項20】
前記チューインガム類が、1回に1〜3g喫食される、請求項11〜19のいずれか1項に記載の食品。
【請求項1】
抗齲蝕用の口腔用組成物であって、該組成物は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含む、組成物。
【請求項2】
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
リン酸源化合物をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
フッ化物をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物のフッ素含有量が、口腔内で該組成物を使用する際の該口腔内の該組成物と唾液との混合物中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
初期齲蝕の治療のために用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
健常人の歯質強化のために用いられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
歯磨剤、洗口剤、トローチ剤またはゲル剤である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
抗齲蝕用食品であって、該食品は、
(i)ラクトビオン酸カルシウム塩;または
(ii)ラクトビオン酸カルシウム塩以外のラクトビオン酸塩もしくはラクトビオン酸と、ラクトビオン酸カルシウム塩以外の水溶性カルシウム塩との組み合わせ
を含み、該食品は、喫食時に5分間以上口腔内に滞留する、食品。
【請求項12】
チューインガム類、キャンディー類、錠菓または冷菓である、請求項11に記載の食品。
【請求項13】
前記ラクトビオン酸カルシウム塩を含む、請求項11または12に記載の食品。
【請求項14】
前記食品の前記ラクトビオン酸カルシウム塩含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のカルシウム濃度が1.5mM〜6mMとなるのに適切な量である、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
リン酸源化合物をさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の食品。
【請求項16】
前記リン酸源化合物がリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸および環状リン酸塩からなる群より選択される、請求項15に記載の食品。
【請求項17】
フッ化物をさらに含む、請求項11〜16のいずれか1項に記載の食品。
【請求項18】
前記食品のフッ素含有量が、該食品が口腔内に存在する際の該口腔内の唾液中のフッ化物イオン濃度が50ppm以下となるのに適切な量である、請求項17に記載の食品。
【請求項19】
前記食品がチューインガム類であり、1回摂取量に含まれるラクトビオン酸カルシウム塩の重量が、カルシウムの重量として、1.2mg〜4.8mgである、請求項11〜18のいずれか1項に記載の食品。
【請求項20】
前記チューインガム類が、1回に1〜3g喫食される、請求項11〜19のいずれか1項に記載の食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図6】
【公開番号】特開2010−126510(P2010−126510A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305701(P2008−305701)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
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