説明

ラクトン誘導体及びその製造方法

【課題】新規なラクトン誘導体及びその製造方法の提供。
【解決手段】下記構造式(I)で示されるラクトン誘導体。ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造される。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−ラクトン誘導体、δ−ラクトン誘導体等のラクトン誘導体は、医薬、農薬、ポリマ等の原料や中間体として有用である。ラクトン誘導体の製造方法としては、石油等の化石燃料に由来する原料を出発物質とする様々な製造方法が知られている。
【0003】
一方、林産資源、水産資源、林産残渣、水産残渣、農産残渣等の生物系資源由来の廃棄物・汚泥・残渣などのバイオマス資源を、エネルギや資源として利用することが注目されている。バイオマス資源は、生物由来の有機性の物質であり、様々なものがある。エネルギや化学工業原料などを、環境負荷が大きく廃棄処分の困難な化石燃料からバイオマス資源への転換を図ることで、社会全体の環境負荷を下げることができることから、バイオマス資源は、化石燃料代替エネルギ、化石燃料代替原料の一つとして大きく期待されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−308497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなバイオマス資源の中で、植物系のバイオマス資源としてヘキソース(六炭糖)がある。ヘキソースは単糖の中でも動植物界に最も広く分布し、ヘキソース及びその誘導体をバイオマス資源として化学工業原料への変換が可能であれば、化石燃料代替原料として利用することができる。
【0006】
本発明は、ヘキソースの誘導体である2−デオキシ−アルドヘキソースを出発原料として得られる新規なラクトン誘導体及びその製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記構造式(I)で示されるラクトン誘導体である。
【化1】

【0008】
また、前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを出発原料として製造されることが好ましい。
【0009】
また、前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造されることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、下記構造式(I)及び(II)で示される化合物のうちの少なくとも1つのラクトン誘導体の製造方法であって、
【化2】

前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造される。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、ヘキソースの誘導体である2−デオキシ−アルドヘキソースを出発原料として硫酸中で反応させることにより、新規なラクトン誘導体及びその製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係るラクトン誘導体は、下記構造式(I)で示される。
【化3】

【0014】
また、前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを出発原料として製造されることが好ましい。
【0015】
出発原料の2−デオキシ−アルドヘキソースとしては、例えば、2−デオキシ−D−グルコース、2−デオキシ−L−グルコース、2−デオキシ−D−マンノース、2−デオキシ−L−マンノース、2−デオキシ−D−タロース、2−デオキシ−L−タロース、2−デオキシ−D−ガラクトース、2−デオキシ−L−ガラクトース、2−デオキシ−D−アルトロース、2−デオキシ−L−アルトロース、2−デオキシ−D−グロース、2−デオキシ−L−グロース、2−デオキシ−D−イドース、2−デオキシ−L−イドース、2−デオキシ−D−アロース、2−デオキシ−L−アロース等が挙げられる。
【0016】
これらの2−デオキシ−アルドヘキソースは、ピラノース環構造またはフラノース環構造の環状異性体構造をとってもよい。またその時、それぞれα型、β型のどちらの異性体構造であってもよいし、それらの混合物であってもよい。
【0017】
これらの2−デオキシ−アルドヘキソースは、対応するアルドヘキソースを出発物質として、発酵法等の公知の方法により製造することができる。
【0018】
また、前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造されることが好ましい。
【0019】
溶媒として使用する硫酸の濃度としては、使用する2−デオキシ−アルドヘキソースの反応性等に応じて設定すればよく特に制限されない。溶媒として使用する硫酸は、市販の90%〜98%の濃硫酸を、水道水、イオン交換水、純水等により所定の濃度まで希釈すればよい。
【0020】
反応時の、硫酸に対する2−デオキシ−アルドヘキソースの濃度は、使用する2−デオキシ−アルドヘキソースの溶解性等に応じて設定すればよく特に制限されない。
【0021】
反応温度は、使用する2−デオキシ−アルドヘキソースの反応性等に応じて設定すればよく特に制限されないが、10℃〜30℃の範囲であることが好ましい。10℃以下では、反応が進行しにくく、30℃以上では副生成物が生成する可能性がある。しかし、反応が進行しにくい場合には、加熱してもよい。
【0022】
反応時間は、使用する2−デオキシ−アルドヘキソースの反応性等に応じて設定すればよく特に制限されない。また、反応時間は必要以上に長くする必要はない。
【0023】
出発原料の2−デオキシ−アルドヘキソースを、所定の硫酸濃度、硫酸に対する出発原料の濃度、反応温度、反応時間で反応させた後は、公知の方法で溶媒から反応生成物を分離すればよい。例えば、反応溶液を水で希釈して、反応生成物を析出させた後、減圧ろ過、加圧ろ過、自然ろ過等のろ過;遠心分離等の方法で分離することができる。また、反応溶液を水で希釈しても反応生成物が析出しない場合には、蒸留、エバポレータ等による溶媒除去等の方法で分離することができる。さらに、反応溶液を水で希釈せずにそのまま蒸留、エバポレータ等による溶媒除去等の方法で分離してもよい。
【0024】
分離工程の前に炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリで反応溶液を中和することが好ましい。また、アルカリによる中和は、反応生成物と、中和により生成する塩との分離がしやすいようにpH=3〜7、好ましくはpH=3〜6の弱酸性に中和することが好ましい。pH=7を超えると、中和のために添加したアルカリにより反応生成物が塩となり、中和で生成した硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の塩との分離が困難になる場合がある。また、pH=3未満であると、強酸性のため、装置の腐食、分離操作のしにくさ等の問題が生じる場合がある。
【0025】
反応生成物を溶媒から分離した後は、反応生成物が結晶の場合は、水道水、イオン交換水、純水等の水;メタノール、エタノール等のアルコール等により洗浄を行ってもよい。
【0026】
反応生成物を溶媒から分離した後、または反応生成物を溶媒から分離して水等による洗浄を行った後、反応生成物を公知の方法により精製することが好ましい。反応生成物が結晶の場合には、再結晶、再沈殿等により精製することができる。また、反応生成物が油状の場合には、蒸留等により精製することができる。また、カラムクロマトグラフィ、分取用の液体クロマトグラフィ(LC)、薄層クロマトグラフィ等のクロマトグラフィにより精製を行ってもよい。
【0027】
このようにして得られた反応生成物は、公知の方法により乾燥することができる。乾燥は、例えば、減圧乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、自然乾燥等により行うことができる。
【0028】
本実施形態に係るラクトン誘導体は、下記の経路によって生成すると考えられる。
【化4】

【0029】
なお、本実施形態において生成するラクトン誘導体は、単離条件によっては、上記構造式(I)の異性体である、上記構造式(II)で示される構造として得られる場合がある。また、上記構造式(I)で示される構造と上記構造式(II)で示される構造との混合物として得られる場合もある。さらに、上記構造式(III)、(IV)として、またはそれらの混合物として得られる場合もある。
【0030】
このように、本実施形態に係るラクトン誘導体の製造方法において、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより、医薬、農薬、ポリマ等の原料や中間体として有用である新規なラクトン誘導体を簡易に得ることができる。出発原料である2−デオキシ−アルドヘキソースは、天然に大量に存在する素材である糖類を原料とするため、化石燃料代替原料の一つとして環境負荷の低減に寄与することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
2−デオキシ−D−グルコース0.164部を、ガラス製反応容器中の31.7%の硫酸3.51部中に添加し、20℃で1時間撹拌した。イオン交換水10部で希釈した後、炭酸カルシウムを添加して、中和した。遠心分離機により、中和により生成した硫酸カルシウムと水溶液とを分離した。水溶液をエバポレータにより濃縮して前記構造式(I)で示される目的物0.142部を得た(収率75.6%)。
【0033】
生成物の構造は、赤外分光光度計によりIRスペクトルを測定して確認した。
【0034】
IR(NaCl板)[cm−1]: 2678.04, 1792.0, 1748.2, 1446.4, 1369.2, 1224.6, 1169.1, 1048.6, 980.1, 907.8, 773.3, 732.8, 602.6, 523.6
【0035】
(実施例2)
溶媒に使用する硫酸を、47.5%の硫酸3.83部とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前記構造式(I)で示される目的物0.0269部を得た(収率14.3%)。
【0036】
(実施例3)
溶媒に使用する硫酸を、63.3%の硫酸4.22部とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。前記構造式(I)で示される目的物0.0015部を得た(収率0.8%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)で示されるラクトン誘導体。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のラクトン誘導体であって、
前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを出発原料として製造されることを特徴とするラクトン誘導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラクトン誘導体であって、
前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造されることを特徴とするラクトン誘導体。
【請求項4】
下記構造式(I)及び(II)で示される化合物のうちの少なくとも1つのラクトン誘導体の製造方法であって、
【化2】

前記ラクトン誘導体は、2−デオキシ−アルドヘキソースを硫酸中で反応させることにより製造されることを特徴とするラクトン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2006−83110(P2006−83110A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270577(P2004−270577)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】