説明

ラクリチンの部分ペプチド

【課題】 本発明は、細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進し、且つ水溶液中での安定性に優れた、ラクリチンの部分配列を有するポリペプチドを提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、N末端のグルタミンがピロ化されていることを特徴とする、ラクリチンの特定の部分配列である配列番号1に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。本発明のポリペプチドは、細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進し、且つ水溶液中での安定性に優れているので良好な保存安定性を提供し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液中のタンパク質であるラクリチンの特定の部分配列を有するポリペプチドに関する。特に、本発明は、修飾されたラクリチンの部分ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞と細胞外マトリックスとの接着は、細胞の生存及び運動性などの種々の機能に関与することが知られている。これは個体の正常な発達、組織の維持、あるいは損傷及び感染からの回復を調節するための必須のプロセスである。このような細胞接着に基づいたシグナリング経路の異常が、発達異常、循環器疾患、細胞の形質転換・転移につながる場合もある。
また、細胞−細胞外マトリックス間の接着が阻害された場合、細胞は「アノイキス(anoikis)」と呼ばれる細胞死に陥ることが報告されており、細胞外マトリックスへの接着は細胞の生存にとって重要である(非特許文献1参照)。
【0003】
ラクリチン(Lacritin)は、涙液分泌促進因子または成長因子様タンパク質として同定されたタンパク質である(特許文献1及び2、並びに非特許文献2参照)。ラクリチンについては、以下1)〜5)が報告されている:
1)ラクリチンは、角膜上皮細胞及び涙腺腺房細胞の成長因子としての活性を有していること;
2)ラクリチンは、涙液タンパク質分泌促進効果を有していること;
3)ラクリチンは、涙腺、耳下腺、小唾液腺、顎下腺、甲状腺、乳腺及び角膜上皮等の組織に由来する細胞で発現していること;
4)ラクリチンを含有する点眼剤が、ドライアイ症候群、シェーグレン症候群または角膜上皮創傷等の眼疾患の治療に利用できる可能性があること;
5)ラクリチン受容体を発現させた細胞を用い、ラクリチンに依存するカルシウムのシグナルを指標とすることで、ラクリチン又はラクリチン受容体に結合する化合物を探索できること。
【0004】
また、ラクリチンまたはその両末端の一部分を切断したペプチドが、H−チミジンの取り込みを検出する試験から唾液腺細胞の分裂を促進する作用を有することが報告されている(非特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、ラクリチンまたはそのフラグメント(部分ペプチド)が、細胞と細胞外マトリックス接着との接着に関与することはこれまで報告されていない。
【0006】
一方、通常、N末端にグルタミン又はグルタミン酸を有するポリペプチドが水溶液中で不安定な場合があることが知られている。そして、安定化する方法として、ピロ化など、即ちピログルタミン酸の誘導体を合成する方法などが知られている。しかしながら、ピロ化などの修飾により、本来の活性が損なわれる場合が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第02/065943号パンフレット
【特許文献2】国際公開第05/119899号パンフレット
【特許文献3】特表2003−528112号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Frisch, S. M. et al., Journal of Cell Biology 124, pp.619-626 (1994年)
【非特許文献2】Sanghi, S. et al., Journal of Molecular Biology 310, pp.127-139 (2001年)
【非特許文献3】Wang, J. et al., Journal of Cell Biology 174, pp.689-700 (2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、細胞と細胞外マトリックスとの接着、特に角膜上皮細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進することができ、且つ水溶液中での安定性に優れた物質の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、ラクリチンの特定の部分配列を有するポリペプチドが、角膜上皮細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進し得ること、さらに涙腺腺房細胞からの涙液タンパク質の分泌を促進し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、当該ポリペプチドのN末端のグルタミンを修飾(例、ピロ化)することにより、細胞接着促進効果を維持しつつ水溶液中での安定性を著しく向上させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。
[2]上記[1]記載のポリペプチドを含有する、細胞接着促進剤。
[3]上記[1]記載のポリペプチドの有効濃度を細胞に接触させることを含む、細胞の接着を促進させる方法。
[4]上記[1]記載のポリペプチドを有効成分として含有する、医薬。
[5]水性液剤である上記[4]記載の医薬。
[6]角膜上皮障害の予防又は治療用である、上記[4]記載の医薬。
[7]上記[1]記載のポリペプチドの有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、角膜上皮障害の予防又は治療方法。
[8]細胞の接着を促進させるための、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。
[9]角膜上皮障害の予防又は治療のための、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および添付の図面、ならびに当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞と細胞外マトリックスの接着、特に角膜上皮細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進することができ、且つ、水溶液中で安定な新規ポリペプチドを提供することが可能となる。このような新規ポリペプチドを提供することにより、保存安定性に優れた医薬の提供、特に水性液剤の形態による該医薬の提供が可能になる。
本発明のポリペプチドを、移植用の角膜上皮シートを調製するための培養液に加えることによって、細胞の脱落が防止された長期間安定に機能する角膜上皮シートを調製することもできる。また、本発明のポリペプチドは、角膜上皮障害に対して有用な予防治療薬を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ラクリチン部分ペプチドの水溶液中での安定性に及ぼすピロ化の影響を示したものである。
【図2】図2は、各種ラクリチン部分ペプチドの細胞接着促進効果を調べた結果を示すグラフである。縦軸は、ポリペプチドを加えなかった場合を100%として求めた細胞接着率を示す。横軸は、ペプチドの種類を示す。
【図3】図3は、ラクリチンの部分ペプチドによる、サル涙腺アシナー細胞からの涙液タンパク質(ラクトフェリン)の分泌促進効果を調べた結果を示すグラフである。縦軸は、PBSを100%として求めた、培地中に分泌したラクトフェリン量を示す。横軸は、評価した各種ペプチドを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
本発明のポリペプチドは、以下の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
Pyr Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala
(配列番号1)
(配列中、Pyrはピログルタミン酸を意味する)
【0015】
配列番号1に示すアミノ酸配列は、配列番号5に示す138残基からなるヒト由来全長ラクリチン(GenBank/EBIデータバンクのアクセッション番号NM_033277およびay005150(ゲノミック);AAG32949(extracellular glycoprotein lacritin precursor)参照)の69〜102番の領域においてそのN末端(即ち69番目)のグルタミンがピロ化されたポリペプチドに相当する。
さらに、本発明においては、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて、N末端のピログルタミン酸の代わりにアセチルグルタミンが用いられていてもよい(配列番号6)。すなわち、配列番号5に示す138残基からなるヒト由来全長ラクリチン(GenBank/EBIデータバンクのアクセッション番号NM_033277およびay005150(ゲノミック);AAG32949(extracellular glycoprotein lacritin precursor)参照)の69〜102番の領域においてそのN末端(即ち69番目)のグルタミンがアセチル化されたポリペプチドも本発明では提供される。
Ac-Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala(配列番号6)
(配列中、Ac-Glnはアセチルグルタミンを意味する)
従って、本明細書中では、N末端のグルタミンがピロ化またはアセチル化により修飾されたポリペプチドを「本発明のラクリチン部分ペプチド」とも以下称する。
【0016】
さらに本発明のラクリチン部分ペプチドは、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド及び/又は前記配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと同等の活性、即ち当該ポリペプチドが有する細胞接着促進作用および水溶液中での安定性が維持されている限り、配列番号1及び/又は6に示すアミノ酸配列において1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。但し、本発明は、N末端のグルタミンが修飾(例、ピロ化、アセチル化)されていることを特徴とするので、上記アミノ酸の欠失、置換または付加はN末端以外のアミノ酸において適用される。
【0017】
本明細書において「アミノ酸」とは、通常「天然のアミノ酸」を意味するが、本発明の目的を満たす限り「非天然のアミノ酸」であってもよい。ここで「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。ここで「非天然のアミノ酸」とは、タンパク質中に通常は含有していないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはD−フェニルアラニン、あるいはその他の修飾アミノ酸が挙げられる。
本明細書において「アミノ酸の欠失」とは、アミノ酸配列の任意の位置において、構成アミノ酸が取り除かれることをいう。
本明細書において「アミノ酸の置換」とは、アミノ酸配列の任意の位置において、構成アミノ酸が別のアミノ酸に置き換わることをいう。アミノ酸の置換としては、保存的置換が好ましい。保存的置換とは、アミノ酸が同様の特性を有する別のアミノ酸で置換され、そのためペプチド化学分野の当業者によってポリペプチドの2次構造およびハイドロパシー特性が実質的に変化しないことが予期されるような置換をいう。互いに保存的置換であるアミノ酸の群としては一般に以下のものが知られている:(1)グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニンおよびチロシン;(2)アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファン;(3)グリシン、アラニン、セリン、トレオニンおよびメチオニン;(4)ロイシン、イソロイシンおよびバリン;(5)グルタミンおよびアスパラギン;(6)グルタミン酸およびアスパラギン酸;(7)アルギニン、リジンおよびヒスチジン;(8)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン。
また、当該アミノ酸の置換は、修飾アミノ酸への置換であってもよい。該修飾アミノ酸としては、アミノ基への保護基の付加(例えば、アセチル化、ホルミル化、ブチルオキシカルボニル化(Boc化)、フルオレニルメトキシカルボニル化(Fmoc化))、カルボキシル基のエステル化(エチル化など)などが施されたアミノ酸が挙げられる。
本明細書において「アミノ酸の付加」とは、アミノ酸配列の任意の位置において、任意のアミノ酸が付け加わることをいい、アミノ酸の挿入を含む。
【0018】
本明細書において「ペプチド」とは、2個以上の上記アミノ酸(天然、非天然アミノ酸)がアミノ基とカルボキシル基の間で脱水してペプチド結合を形成した物質の総称である。結合しているアミノ酸の数が2個であればジペプチド、3個であればトリペプチド、数個から十個程度のアミノ酸が結合している場合はオリゴペプチド、それ以上のアミノ酸が結合している場合にはポリペプチドと区別し得る。
本明細書において「ラクリチン部分ペプチド」とは、配列番号5に示されるラクリチンのアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸配列からなるポリペプチドを示す。
【0019】
上述のように、本発明のポリペプチドは、前記配列番号1及び/又は前記配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと同等の活性を有する限り、そのアミノ酸配列において1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換または付加されていてもよく、そのようなポリペプチドも本発明の範疇である。ここで、「同等の活性を有する」とは、アミノ酸が欠失、置換または付加される前のポリペプチドが有する細胞接着促進作用に対して、約80%以上、好ましくは約90%以上の細胞接着促進作用を有することを意味し、且つ、アミノ酸が欠失、置換または付加される前のポリペプチドの水溶液中での安定性に対して、約80%以上、好ましくは約90%以上の安定性を維持していることを意味する。本明細書において、「細胞接着促進作用」とは、細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質間接着)あるいは細胞同士の細胞間接着を促進する作用であり、好ましくは細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進する作用である。ここで、「細胞接着を促進する」とは、例えば細胞−基質間接着を促進する場合であれば、被験ポリペプチド非存在下の場合に比べて被験ポリペプチドを存在させることによって基質に接着した細胞の数を増やすことに相当する。具体的にはこの作用は、後述の実施例に記載のように、適当な細胞外マトリックスをコーティングしたプレート上に被験ポリペプチドを加え、角膜上皮細胞を重層し、所定時間インキュベートした後に接着した細胞の数を測定することによりアッセイすることができる。水溶液中での安定性としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の水溶液中での安定性が例示される。この作用は、後述の実施例に記載のように、PBS等の適当な水溶液中に被験ポリペプチドを加え、所定の条件下で保存した後に該ポリペプチドの残存率をHPLC等により測定することにより評価することができる。
【0020】
本発明のラクリチン部分ペプチドの水溶液中での優れた安定性としては、具体的には、少なくとも4週間の4℃〜40℃での保存、あるいは少なくとも2週間の60℃での保存が可能であることが挙げられる。
【0021】
本発明のポリペプチドは公知の方法により塩の形態であってもよい。ポリペプチドの塩としては、薬理学的に許容される塩基(例えばアルカリ金属)または酸との塩が用いられるが、特に、薬理学的に許容される酸付加塩が好ましい。薬理学的に許容される酸付加塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などを例示することができる。
【0022】
本発明のポリペプチドは、通常の化学的合成法または組換えDNA技術などにより製造することができる。
【0023】
本発明のポリペプチドを化学的合成法で製造する場合には、公知のペプチド合成法に従って製造することができる。ペプチド合成法には、固相合成法、液相合成法等があり、固相合成法が好ましい。固相合成法としては、例えばFmoc法が挙げられる。Fmoc法は、α−アミノ基を9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、側鎖官能基をt−ブチルアルコール系保護基で保護する方法で、Fmoc基を第二級アミンであるピペリジンにより脱保護しつつFmocアミノ酸を縮合し、最後に側鎖保護基をトリフルオロ酢酸のような弱酸により脱保護する。つまり、合成しようとするペプチドのC末端側より、α−アミノ保護基の選択的除去、保護アミノ酸の縮合という一連の操作を繰り返して保護ペプチド鎖を構築し、側鎖官能基の保護基を脱保護することにより、目的のペプチドを得ることができるものである。
固相ペプチド合成法においては、自動ペプチド合成装置による合成も一般的に用いられている(例えば、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992) 日本生化学会編, 東京化学同人;“The Peptides:Analysis, Synthesis, Biology” Vol.1-5, ed. by E. Gross, J. Meienhofer; Vol. 6-9, ed. by S. Udenfriend, J. Meienhofer, Academic Press, New York (1979-1987))。
【0024】
本発明のポリペプチドを組換えDNA技術で製造する場合には、例えば、N末端がグルタミンであるラクリチン部分ペプチドを組換えDNA技術で製造した後、N末端のグルタミンをピロ化することにより製造することができる。まず、N末端がグルタミンであるラクリチン部分ペプチドをコードするcDNAの塩基配列に基づいてプライマーを設計し、適当なcDNAライブラリーをテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により目的とする配列を増幅することにより、当該ポリペプチドをコードするcDNAを製造することができる。このようなPCR手法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、“PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications”, Academic Press, Michael, et al., eds., 1990に記載されている。次いで、該ポリペプチドをコードするDNAを、適当な発現ベクター中に組み込み、これを真核生物または原核生物細胞のいずれかに導入して、それぞれの鎖を発現させることにより所望のポリペプチドを得ることができる。該ポリペプチドを発現させるために用いることができる宿主細胞の例としては、限定されないが、大腸菌、枯草菌等の原核生物宿主、および酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核生物宿主が挙げられる。ベクターとは、細胞にトランスフェクトすることができ、細胞ゲノム中でまたはそれとは独立に複製しうる一本鎖または二本鎖の核酸分子を表す。発現ベクターは、DNAの発現を駆動するプロモーター領域を含み、さらに転写および翻訳の制御配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列、3’非コード領域、エンハンサー等を含んでいてもよい。プロモーターの例としては、原核生物宿主中で用いる場合には、blaプロモーター、catプロモーター、lacZプロモーター、真核生物宿主中で用いる場合には、マウスメタロチオネインI遺伝子配列のプロモーター、ヘルペスウイルスのTKプロモーター、SV40初期プロモーター、酵母解糖系酵素遺伝子配列プロモーター等が挙げられる。ベクターの例には、限定されないが、pBR322、pUC118、pUC119、λgt10、λgt11、pMAM−neo、pKRC、BPV、ワクチニア、SV40、2−ミクロン等が含まれる。
発現ベクターは、これを含有する宿主細胞を選択することができるように、1またはそれ以上のマーカーを有することが好ましい。マーカーとしては、栄養要求性宿主に対する栄養、抗生物質耐性(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ジェネティシン等)、または重金属耐性(例えば銅)を与えるものを用いることができる。
さらに、シグナル配列を用いて該ポリペプチドを分泌発現させるように、あるいは、該ポリペプチドを別のポリペプチドとの融合ポリペプチドの形で発現させるように、ベクターを構築することができる。融合ポリペプチドを用いることにより、ポリペプチドの安定性を改良し、または精製を容易にすることができる。そのような発現ベクターの構築は当該技術分野においてよく知られている。
該ポリペプチドを発現するよう構築したベクターは、トランスフォーメーション、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈澱、直接マイクロインジェクション等により、適当な宿主細胞中に導入することができる。ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて該ポリペプチドを産生させ、細胞または培地から所望の組換えポリペプチドを回収し、精製することにより、該ポリペプチドを得ることができる。
【0025】
N末端に修飾グルタミンを有するポリペプチドは、修飾グルタミンを原料として化学合成等により合成することもできるが、上記のようにして製造したN末端修飾を受けていないポリペプチドのN末端に存在するグルタミンを修飾することによっても合成することができる。例えばN末端に存在するグルタミンをピロ化する場合には、該グルタミンのアミノ基と、自身が有する遊離のγ−カルボン酸官能基とが分子内縮合し環化することによって実施され得る。ピロ化する方法としては、例えばポリペプチドを加熱する方法、酵素を用いる方法、緩衝液の組成を変える方法、及び塩を加える方法等が挙げられる(Biotechnology and Bioengineering, Vol. 97, No.3, June 15, 2007)。また、N末端に存在するグルタミンをアセチル化する場合には、無水酢酸を用いる方法等が用いられ得る(Molecular Immunology 40 (2003) 943-948; J. Peptide Res. 2001, 57, 528-538)。
【0026】
どのような方法でピロ化されたものであっても本発明において使用することができる。同様にどのような方法でアセチル化されたものであっても本発明において使用することができる。
【0027】
本発明のポリペプチドは、配列番号1及び/又は配列番号6に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドと同等の活性、即ち当該ポリペプチドが有する細胞接着促進作用および水溶液中での安定性が維持されている、該アミノ酸配列において1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む。当該ポリペプチドは、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法により、その欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸位置に該当する改変を施すことにより、当該ポリペプチドをコードするcDNAを得、その遺伝子を用いて上述と同様の組換えDNA技術に付すことにより製造することもできる。遺伝子への変異導入は、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant−K(タカラバイオ株式会社)、Mutant−G(タカラバイオ株式会社))など、あるいは、タカラバイオ株式会社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて行うことができる。
【0028】
上述のようにして得られた本発明のポリペプチドは、公知の方法により単離及び精製することができる。公知の単離及び精製法としては、塩析、溶媒沈殿、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などが挙げられる。
【0029】
また、各ペプチドは、商業的に入手可能なもの、具体的には業者に委託して合成されたものを用いることもできる(例、Bachem、株式会社バイオロジカ、Biosynthesis Inc.等)。
【0030】
このようにして得られる本発明のポリペプチドは、細胞と細胞外マトリックス、特に角膜上皮細胞と細胞外マトリックスの接着を促進するものであり、以下にその具体的用途を説明する。
【0031】
(1)本発明のポリペプチドを含有する角膜上皮シート調製用培養液
本発明のポリペプチドは、角膜上皮細胞と細胞外マトリックスの接着促進効果により、移植用の角膜上皮シートの調製時において特に、角膜上皮細胞と基材との接着を促進し得る。
【0032】
角膜上皮シートとは、角膜混濁に対する視力回復などを治療目的とした生体角膜の代用物であり、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学外傷など、難治性角膜上皮疾患の治療に用いられる。角膜上皮シートは、例えば、血清培地中において羊膜およびコラーゲンシート等の基材上に角膜上皮細胞等の細胞を加えて培養し、その後、3T3線維芽細胞との共培養、またはair−liftingなどの方法で重層化することにより調製される(眼科、第42巻、第3号、245〜250頁、2000年)。角膜上皮シートの調製方法としては、WO03/043542号、特開2004−298447号、特開2004−261533号、特開2002−331025号などに記載されている公知の方法が適用される。
【0033】
当該角膜上皮シートの製造方法において、基材としては、角膜上皮シート製造に用いられる公知のものが使用でき、生体由来の基材及び人工的に作製される基材のいずれもが使用できる。具体的には、生体由来の基材としては羊膜、人工由来の基材としてはコラーゲンシートが挙げられる。なお、羊膜は、子宮と胎盤の最表層を覆う膜で、出産時に胎盤とともに体外へ出される膜である。
細胞の培養に用いられる培養液としては、角膜上皮シートの製造に使用される公知の培養液、例えば、EpiLife培地(Cascade Biologics Inc.製)、DMEM/F12培地(Invitrogen Corporation製)、DMEM培地(Invitrogen Corporation製)などが使用でき、培養液には公知の血清を含有させることができる。培養温度は、上記細胞が良好に生育できる温度であれば特に限定されず、通常15〜45℃程度である。培養時間は、上記細胞が良好に生育できる期間であれば特に限定されず、通常1〜30日程度である。
【0034】
本発明のポリペプチドは、該角膜上皮シートを調製するための培養液に加えられ、角膜上皮細胞と基材との接着を促進するための有効成分となり得る。培養液中のポリペプチドの濃度は、通常、0.0001w/v%〜0.1w/v%、好ましくは0.001w/v%〜0.01w/v%である。本発明のポリペプチドは、基材の細胞外マトリックスと角膜上皮細胞との定着を促進し、細胞の脱落が防止された強固で長期間安定に機能する角膜上皮シートの調製を可能とすることができる。
【0035】
(2)本発明のポリペプチドを含有する医薬
本発明のポリペプチドは、細胞接着、特に細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進する作用を有するため、細胞接着促進剤として有用である。本明細書において、「細胞接着促進剤」とは、上記「細胞接着促進作用」を有する物質であることを意味し、特に細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進する物質であることを意味する。ここで、細胞接着を促進する程度は、例えば細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進する為の剤であれば、本発明のポリペプチドを添加することによって、有意に基質に接着する細胞が増えればよい。本発明の接着促進剤は、哺乳動物(例、ラット、マウス、モルモット、トリ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒト等)由来の細胞(例えば、角膜上皮細胞、角膜内皮細胞、結膜細胞など)に対して用いられ、好ましくはヒト由来の角膜上皮細胞に対して用いられる。細胞外マトリックスとは、細胞と接着し得る細胞外マトッリクスであれば特に限定されず、(1)コラーゲン、エラスチン等の繊維性タンパク質、(2)フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン等の細胞接着性糖タンパク質、(3)ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸を含むグリコサミドグリカン等の複合糖質等が含まれ、また、これらの細胞外マトリックスから構成される基底膜(例えば、ボーマン膜、デスメ膜、羊膜など)も含むものである。
【0036】
本発明のポリペプチドを含有する細胞接着促進剤は、それが有する細胞接着促進作用により後述のように種々の臨床用医薬としての適用が企図されるが、研究用試薬としての用途もまた、本発明によって提供される。本発明のポリペプチドを含有する細胞接着促進剤は、研究用試薬として、細胞外マトリックスの研究、接着が関与する細胞シグナル伝達の研究等に用いられ得る。
【0037】
細胞の生存には、細胞外マトリックスへの細胞接着が重要であることが報告されている(Frisch, S. M. et al., J. Cell Biol. 1994, 124, 619., Porcu, M., et al., Cornea 2007, 26, 73.)。また、角膜において、細胞外マトリックスの一つであるラミニン5の消失による細胞接着阻害が、角膜上皮細胞の細胞死を促進することも報告されている。本発明のポリペプチドは、細胞外マトリックスから構成されている角膜上皮の基底膜(ボーマン膜など)への角膜上皮細胞の接着を促進することにより、眼表層における角膜上皮細胞の細胞死を抑制する。また、角膜上皮の修復には、分裂、移動(伸展)、接着からなる細胞の運動が関与することが知られている(Suzuki, K. et al., Prog. Retin. Eye Res. 2003, 22, 113)。本発明のポリペプチドは、この細胞運動における接着過程を促進することによって、角膜上皮の損傷(すなわち、創傷または欠損)の修復を促進する。
【0038】
従って、本発明のポリペプチドを含有する医薬は角膜上皮障害の治療に有用である。角膜上皮障害を引き起こす具体的疾患としては、物理的・化学的刺激、アレルギー、細菌・真菌・ウイルス感染等による角膜炎のほか、角膜潰瘍、角膜上皮剥離(角膜糜爛)、角膜上皮浮腫、角膜熱傷、化学物質等による角膜腐蝕、ドライアイ、眼球乾燥症、慢性表層角膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮糜爛、遷延性角膜上皮欠損等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のポリペプチドはこれらの疾患に伴う角膜上皮障害の治療に特に有用である。
【0039】
また、本発明のポリペプチドは、涙腺腺房細胞からの涙液分泌促進作用を有する。涙液は、角膜および結膜からなる眼球表面を覆って角結膜の湿潤性を保持し、乾燥を防いでいる。しかしながら、近年、涙液減少症に伴う角結膜表面の乾燥、コンタクトレンズ装用時の眼の乾燥、あるいはOA機器の操作中に起きる眼の乾燥等により、疲労感、異物感を始めとした種々の症状、すなわち、ドライアイ症状を訴える人が増えている。ドライアイは、しばしば角膜上皮細胞の障害による角膜上皮障害および角膜上皮糜爛等を伴い、重篤な場合は角膜潰瘍および眼感染症を発症させることもある。これらの乾燥に伴うさまざまな症状を緩和するために、塩化ナトリウム等の塩類を主剤とした人工涙液、ヒドロキシエチルセルロース、コンドロイチン硫酸又はヒアルロン酸を含む点眼剤等が使用されているが、未だ満足すべきものがないのが現状である。しかしながら、これらの対症療法によって症状を軽減することはできるが、根本的に治療するための原因療法とはならない。涙液にはその本来の機能によりドライアイによる角結膜障害を治癒する効果があると考えられるので、涙腺に直接作用し、涙液分泌を促進する物質は、ドライアイおよびドライアイを伴う疾病に対して有用な予防治療薬となることが期待される。
【0040】
本発明のポリペプチドを含有する医薬品の投与剤型は特に制限されないが、好ましくは点眼剤、洗眼剤、眼軟膏、錠剤等の投与剤型で提供される。特に、水溶液中での安定性が著しく改善されていることから、水性液剤の形態、具体的には点眼剤として投与されることが好ましい。ここで「水性液剤」とは、水性溶剤を使用した液剤であり、該水性溶剤としては、注射用蒸留水、イオン交換樹脂又は蒸留によって精製された精製水、該精製水を滅菌した滅菌精製水等が挙げられる。また、本発明のポリペプチドを含有する医薬品は、溶解後室温で保存可能な、用時溶解型製剤の形態で提供されることも好ましい。これらは汎用されている技術を用いて調製することができる。例えば、点眼剤は、添加物として、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、保存剤等を適宜配合して調製することができる。また、pH調整剤、増粘剤、分散剤などを添加し、薬物を懸濁化させることによって、安定な点眼剤を得ることもできる。
【0041】
等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、ホウ酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
緩衝剤としては、例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸、ε−アミノカプロン酸、トロメタモール、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸、グルタミン、炭酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
可溶化剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等が挙げられるが、これらに限定されない。
増粘剤、分散剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が、また、安定化剤としては、例えばエデト酸、エデト酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
汎用される保存剤としては、汎用のソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ホウ酸、エデト酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
本発明のポリペプチドを含有する点眼剤は、そのpHを4〜8に設定することが望ましく、また、浸透圧比を1付近に設定することが望ましい。
【0043】
本発明のポリペプチドを含有する医薬品において、本発明のポリペプチドの濃度は症状、年齢等に応じて設定すればよく、特に限定する必要はないが、例えば本発明のポリペプチドを点眼剤、洗眼剤等に含める場合、通常、約0.00003w/v%〜約5w/v%、好ましくは約0.00001w/v%〜約0.5w/v%、約0.0001w/v%〜約0.0005w/v%、約0.001w/v%〜約0.005w/v%、約0.01w/v%〜約0.05w/v%、より好ましくは約0.003w/v%〜約0.5w/v%、最も好ましくは約0.001w/v%〜約0.5w/v%である。投与量としては、点眼剤を例にすれば1回1滴〜数滴、1日1〜数回点眼すればよい。点眼剤は、通常の点眼液のほか、用時溶解型の点眼液でもよい。
【0044】
本発明のポリペプチドを有効成分として含有する医薬品は、例えば、哺乳動物(例、ラット、マウス、モルモット、トリ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒト等)などに使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1 ポリペプチド1の合成(Pyr Lac50−83)
ポリペプチド1の合成は、固相合成法を用いて行った。すなわち、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基を導入したアミノ酸を樹脂に担持し、溶媒としてジクロロメタンを用い、カップリング試薬として2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム(HBTU)及びN−メチルピロリドン(NMP)を用いてアミド結合形成反応を行った。保護基の脱離は、DMF/20%ピペリジンを用いて行った。得られた生成物を高速液体クロマトグラフィー(カラム:ODS、溶媒:水/アセトニトリル/0.05%TFA)を用いて精製し、以下のアミノ酸配列から成るポリペプチド1を得た。
ポリペプチド1:Pyr Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala(配列番号1)
(配列中、Pyrはピログルタミン酸を意味する)
Bachem(製造販売元):Product番号 4064390
白色粉末 MALDI−TOF−MS Calcd.:3636.20;Found:3636.89;Purity(HPLC A/A%)>92%
【0047】
比較例1 ポリペプチド2の合成(Lac50−83)
実施例1と同様にして以下のアミノ酸配列から成るポリペプチド2を得た。
ポリペプチド2:Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala(配列番号2)
Biosynthesis Inc.(製造元)
白色粉末 MALDI−TOF−MS Calcd.:3653.27;Found:3652.28;Purity(HPLC A/A%)99.26%
【0048】
比較例2 ポリペプチド3の合成(Pyr Lac50−94)
実施例1と同様にして以下のアミノ酸配列から成るポリペプチド3を得た。
ポリペプチド3:Pyr Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala Gly Lys Gly Met His Gly Gly Val Pro Gly Gly(配列番号3)
(配列中、Pyrはピログルタミン酸を意味する)
Bachem(製造販売元):Product番号 4064388
白色粉末 MALDI−TOF−MS Calcd.:4571.28;Found:4571.40;Purity(HPLC A/A%):>90%
【0049】
比較例3 ポリペプチド4の合成(Lac50−94)
実施例1と同様にして以下のアミノ酸配列から成るポリペプチド4を得た。
ポリペプチド4:Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala Gly Lys Gly Met His Gly Gly Val Pro Gly Gly(配列番号4)
Biosynthesis Inc.(製造元)
白色粉末 MALDI−TOF−MS Calcd.:4588.35;Found:4590.14;Purity(HPLC A/A%)96.88%
【0050】
比較例4 ポリペプチド5の合成(Lac49−83)
実施例1と同様にして以下のアミノ酸配列から成るポリペプチド5を得た。
ポリペプチド5:Val Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu Lys Ser Ile Val Glu Lys Ser Ile Leu Leu Thr Glu Gln Ala Leu Ala Lys Ala(配列番号9)
Biosynthesis Inc.(製造元)
白色粉末 MALDI−TOF−MS Calcd.:3752.4;Found:3751.38;Purity(HPLC A/A%)96.13%
【0051】
試験例1 ラクリチンの部分ペプチドの水溶液中での安定性に対するピロ化の影響
本発明のラクリチンの部分ペプチドを医薬、特に、水性液剤の形態で提供される医薬とする場合、その水溶液中での安定性が望まれる。そこで、本発明において、N末端のグルタミンをピロ化することにより水溶液中での安定性にどのような影響を与えるのかを調べた。
実施例1で製造したPyr Lac50−83と、比較例1で製造したLac50−83とを用いて、PBS(Phosphate−Buffered Salines pH7.2(Invitrogen);成分(/100mL):KHPO 0.021g、NaHPO 0.0726g、NaCl 0.9g)中、保管条件を種々に変えて、そのペプチド含量の残存率(%)を測定した。各ペプチドの濃度は、10−4Mとした。Pyr Lac50−83とLac50−83とは、上記アミノ酸配列からも明らかなように、N末端のグルタミンがピロ化している(Pyr Lac50−83)かしていないか(Lac50−83)の点のみで異なるポリペプチドである。
[保管条件]
温度:4℃、25℃、40℃、60℃
期間:7日間、14日間、21日間、28日間
各保管条件で両ポリペプチドを保存した後、HPLCクロマトグラフィーによりペプチド含量を測定し、それらの残存率を算出した。また、残存率は、可能な限り、保存容器からの水分蒸発量を考慮して、下記式1により算出した。
[式1]
残存率(水分補正)(%)=水分補正前の残存率(%)×(100−容器の水分透過率(%))/100
式中、「容器の水分透過率」は、保存容器空(風袋)重量、保存前及び保存後の検体重量を測定後、下記式2に従って算出する。
(ここで、検体重量とは、保存容器及び溶液重量を足し合わせたものである。)
[式2]
容器の水分透過率(%)=(保存前の検体重量(g)−各条件保存後の検体重量(g))/(保存前の検体重量(g)−保存容器空重量(g))×100
[HPLCクロマトグラフィー条件]
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に平均粒子径5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんした市販のカラムを使用した。
(Capcel pak C18 UG120Å、S5μm 4.6mm×150mm、資生堂)
カラム温度:20℃付近の一定温度
移動相A:トリフルオロ酢酸溶液(0.5→1000)(溶媒:精製水)
移動相B:トリフルオロ酢酸溶液(0.5→1000)(溶媒:アセトニトリル)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて直線濃度勾配制御した。
【0052】
【表1】

【0053】
流量:0.5mL/min
オートサンプラー温度:4℃付近の一定温度
インジェクター洗浄液:アセトニトリル水溶液(50→100)(溶媒:精製水)
結果を図1に示す。
ピロ化することにより、水溶液中でのより長期間の保存が可能となり、また、より高温での保存が可能になることがわかった。
【0054】
試験例2 ラクリチンの部分ペプチドによる、細胞外マトリックスへのヒト角膜上皮細胞の接着促進効果
試験例1で、N末端のグルタミンをピロ化することにより、水溶液中での該ポリペプチドの安定性が著しく向上することがわかった。そこで、ラクリチンの部分ペプチドが有する本来の特性、即ち、細胞接着促進効果がピロ化により影響を受けないか否かを調べた。
なお、ネガティブコントロールとして、ラクリチンペプチドの、本発明とは異なる配列を有するペプチド(Lac24−56,Lac50−65)を用いた。これらのペプチドは、上述のペプチドと同様の方法を用いて作製した。
・ポリペプチド Lac24−56
Glu Ile Ser Gly Pro Ala Glu Pro Ala Ser Pro Pro Glu Thr Thr Thr Thr Ala Gln Glu Thr Ser Ala Ala Ala Val Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr (配列番号7)
Bachem(製造販売元):Product番号 4064384
・ポリペプチド Lac50−65
Gln Gly Thr Ala Lys Val Thr Ser Ser Arg Gln Glu Leu Asn Pro Leu (配列番号8)
Biosynthesis Inc.(製造元)
96ウェルプレート(岩城硝子株式会社、カタログ番号:3860−096)に、10μg/mLの濃度の細胞外マトリックス溶液(コラーゲンタイプIV:Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:354245)を加えた。それを37℃で1時間インキュベートし、プレートに細胞外マトリックスをコーティングした。余分な細胞外マトリックス溶液を除去し、細胞外マトリックスでコーティングされなかった領域をブロッキングするために、0.1%のBSA溶液(Sigma-Aldrich Co.、カタログ番号:A3803)を加えた。続いて、BSA溶液を除去し、PBSで2回洗浄後、実施例1(Pyr Lac50−83)および比較例1〜3(Lac50−83、Pyr Lac50−94、Lac50−94)で合成したポリペプチド1〜4(濃度100μg/mL)及びネガティブコントロールのポリペプチド(Lac24−56、Lac50−65)を1ウェル当たり50μLずつ加えた。さらに、このウェルに予め無血清の状態で一晩培養した株化ヒト角膜上皮細胞(HCE−T:Invest Ophthalmol Vis Sci. 1995, 36, 614に記載された方法にて調製した)を2×10個/100μL DMEM/F12培地/ウェルになるように加えた。それを37℃で25分間インキュベートし、細胞をプレートに接着させた。
その後、細胞を10%の中性緩衝ホルムアルデヒド液(ナカライテスク株式会社、カタログ番号:37152−51)により固定し、1%のクリスタルバイオレット染色液(Sigma-Aldrich Co.、カタログ番号:C3886)によって染色した。染色された細胞の写真は、倒立型顕微鏡(オリンパス株式会社、IX71)を用いて取り込み、接着した細胞のエリアをImage−Pro Plus Ver.4.5(株式会社日本ローパー)を用いて、測定した。ポリペプチドを加えなかった場合を100%として求めた細胞接着率を図2に示す。
図2から明らかなように、ポリペプチド1(Pyr Lac50−83)は、角膜上皮細胞と細胞外マトリックスとの細胞接着を促進する活性を有することが確認され、Lac50−83ではN末端グルタミンのピロ化の影響を受けないことが確認された。一方、ポリペプチド2(Pyr Lac50−94)は、ピロ化する前のポリペプチド(ポリペプチド4:Lac50−94)に比べてその活性が低くなり、Lac50−94のN末端グルタミンのピロ化は、細胞接着促進効果を減弱させることがわかった。
以上の結果から、本発明のラクリチン部分ポリペプチドは、細胞接着促進効果を維持しつつ水溶液中での安定性が改善されている、という点で優れていることが確認された。
【0055】
試験例3 ラクリチンの部分ペプチドによる、サル涙腺アシナー細胞からの涙液タンパク質分泌促進効果
(アシナー細胞の調製)
3頭分のサル涙腺(カニクイザル)を、株式会社イブバイオサイエンスから入手し、実験に使用した。使用したサル涙腺の詳細は、下記のとおりである。
9歳6ヶ月(雄性、ベトナム)
10歳9ヶ月(雄性、中国)
10歳8ヶ月(雄性、ベトナム)
これらの涙腺を0.1mg/mL Trypsin inhibitor(Sigma、カタログ番号:T9003)を含むDMEM/F12(Invitrogen Corporation、カタログ番号:11330)中で細切した。続いて、涙腺に0.76mg/mL EDTA(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:345−01865)を含むHBSS(Invitrogen株式会社、カタログ番号:14175)を添加して、37℃で7−12分間緩やかに振盪処理した。その後、遠心処理により上清を除き、200U/mL collagenase A(Roche、カタログ番号:11088785103),698 U/mL Hyarulonidase(Worthington、カタログ番号:LS002592)、10U/mL DNase(Roche、カタログ番号:4536282)(CHD)を含むDMEM/F12培地を加え、37℃で10−40分間緩やかに振盪した。上記の工程を2度行った。その後、20%FBS(Invitrogen Corporation、カタログ番号:10082−147)を添加して酵素反応を止め、さらにピペッティング操作により細胞を分散させた。100μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352360)及び40μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352340)のセルストレーナーで残渣を除いた。その後、細胞を10%,30%,60%パーコール(Sigma、カタログ番号:P4937)で分離し、30%と60%の間に集まった細胞をアシナー細胞とした。
(培地中に分泌された涙液タンパク質ラクトフェリンの検出)
本試験例で調製したサルアシナー細胞を、rat collagen,Type I(0.01mg/cm;BD Biosciences、カタログ番号:354236)をコートしたプレートへ播き、10ng/ml dexamethasone(Sigma、カタログ番号:D2915),1mM putrescine(Sigma、カタログ番号:P5780),50ng/ml EGF(Invitrogen Corporation,PHG0311),25μg/ml L−ascorbic acid(Sigma、カタログ番号:A4544),1xInsulin−transferrin−sodium selenite media supplement(Sigma、カタログ番号:I1884)、10μg/mL Glutathione(Sigma、カタログ番号:G6013)および50μg/ml gentamicin(Invitrogen Corporation、カタログ番号:15750)を含むDMEM/F12培地を用いて、1日間培養した。翌日、サプリメントの含まないDMEM/F12培地で30分間のプレインキュベートを行った。その後、ラクリチン部分ペプチドを含むDMEM/F12を加え、37℃で10分間のインキュベートを行い、培地を回収した。
ラクリチンポリペプチドとしてはポリペプチド1(Pyr Lac50−83)及びポリペプチド2(Lac50−83)を用いた。また、対照群にはポリペプチドの代わりにPBSを用いた。
回収した培地を、ReadyPrep 2D clean up kit(Bio-Rad Laboratories, Inc.、カタログ番号:163−2130)で精製し、NuPAGE LDS sample buffer(Invitrogen Corporation、カタログ番号:NP0007)に溶解後、70℃で10分間の熱変性を行った。等量のサンプルを4−12% NuPAGE Novex Bis Tris gel(Invitrogen Corporation、カタログ番号:NP0322BOX)、MES buffer(Invitrogen Corporation、カタログ番号:NP0002)中で200V、35分間の電気泳動の後、トランスブロットミニセル(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を用いて、PVDFメンブレン(日本ミリポア株式会社、カタログ番号:IPVH00010)に100Vで60分間のブロッティングを行った。メンブレンを、0.5%スキムミルク(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:198−10605)入りTTBS(Bio-Rad Laboratories, Inc.、カタログ番号:170−6435)で室温30分間のブロッキングした後、終夜4℃で10000倍希釈のラクトフェリン抗体(Sigma-Aldrich Co.、カタログ番号:L−3263)と反応させた。TTBSで洗浄後、抗rabbit HRPの2次抗体を10000倍に希釈し、室温60分間の反応を行った。次いで、ECL plus(GE healthcare、カタログ番号:RPN2132)を用いてバンドを検出し、測定した。
結果を図3に示す。なお、本試験例において使用したサルは3頭であり、1頭目及び2頭目のサルからは1つのサンプルを採取し、3頭目のサルからは2つのサンプルを採取し、合計4サンプルを使用した。
【0056】
試験例4 ラクリチンの部分ペプチドによる、ラットおよびウサギの涙腺アシナー細胞からの涙液タンパク質分泌促進効果(アシナー細胞の調製)
ラットおよびウサギの涙腺を、0.1mg/mL Trypsin inhibitor(Sigma、カタログ番号:T9003)を含むDMEM/F12(Invitrogen Corporation、カタログ番号:11330)中で細切する。続いて、0.76mg/mL EDTA(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:345−01865)を含むHBSS(Invitrogen Corporation、カタログ番号:14175)を添加して、37℃で15−20分間緩やかに振盪処理する。その後、遠心処理により上清を除き、200U/mL collagenase A(Roche、カタログ番号:11088785103),698 U/mL Hyarulonidase(Worthington、カタログ番号:LS002592)、10U/mL DNase(Roche、カタログ番号:4536282)(CHD)を含むDMEM/F12培地を加え、37℃で15−50分間緩やかに振盪する。上記の工程を2度行い、その後、20%FBS(Invitrogen Corporation、カタログ番号:10082−147)を添加して酵素反応を止め、さらにピペッティング操作により細胞を分散させる。100μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352360)及び40μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352340)のセルストレーナーで残渣を除く。その後、細胞を10%,30%,60%パーコール(Sigma、カタログ番号:P4937)で分離し、30%と60%の間に集まった細胞をアシナー細胞とする。
(培地中に分泌された涙液タンパク質ラクトフェリンの検出)
ラットおよびウサギのアシナー細胞を、rat collagen,Type I(0.01mg/cm;BD Biosciences、カタログ番号:354236)をコートしたプレートへ播き、10ng/ml dexamethasone(Sigma、カタログ番号:D2915),1mM putrescine(Sigma、カタログ番号:P5780),50ng/ml EGF(Invitrogen Corporation,PHG0311),25μg/ml L−ascorbic acid(Sigma、カタログ番号:A4544),1xInsulin−transferrin−sodium selenite media supplement(Sigma、カタログ番号:I1884)、10μg/mL Glutathione(Sigma、カタログ番号:G6013)および25μg/ml gentamicin(Invitrogen Corporation、カタログ番号:15750)を含むDMEM/F12培地を用いて、1日間COインキュベータ中で培養する。翌日、サプリメントの含まないDMEM/F12培地で30分間のプレインキュベートを行う。その後、ラクリチン部分ペプチドを含むDMEM/F12を加え、37℃で30分または60分間のインキュベートを行い、培地を回収する。
培地中に分泌された涙液タンパク質の量は、ペルオキシダーゼ活性をAmplex Red Hydrogen Peroxide/Peroxidase Assay Kitキット(Invitrogen Corporation、カタログ番号:A22188)、アルブミン量をRat Albumin ELISA Quantitation Set(Bethyl Laboratories Inc.、カタログ番号:E100−125−12)、IgA量をRat IgA ELISA Quantitation Set(Invitrogen Corporation、カタログ番号:E100−102)を用いて測定することができる。
【0057】
試験例5 ラクリチンの部分ペプチドによる、サイトカイン存在下でのサル涙腺アシナー細胞からの涙液タンパク質分泌促進効果
サイトカインは、アシナー細胞からの涙液タンパク質の分泌作用を減少させる働きを有する。本実施例では、サイトカインにより涙液分泌機能が低下したアシナー細胞において、ラクリチンの部分ペプチドが涙液タンパク質を分泌促進する効果を有するか否かを検討することができる。
サル涙腺を0.1mg/mL Trypsin inhibitor(Sigma、カタログ番号:T9003)を含むDMEM/F12(Invitrogen Corporation、カタログ番号:11330)中で細切する。続いて、0.76mg/mL EDTA(Sigma,カタログ番号:E−5134)を含むHBSS(Invitrogen Corporation、カタログ番号:14175)を添加して、37℃で7−20分間緩やかに振盪処理を行う。その後、遠心処理により上清を除き、200U/mL collagenase A(Roche、カタログ番号:11088785103),698 U/mL Hyarulonidase(Worthington、カタログ番号:LS002592)、10U/mL DNase(Roche,カタログ番号:4536282)(CHD)を含むDMEM/F12培地を加え、15−50分間37℃インキュベータ中で緩やかに振盪する。上記の工程を2度行う。その後、20%FBS(Invitrogen Corporation、カタログ番号:10082−147)を添加して酵素反応を止め、さらにピペッティング操作により細胞を分散させる。100μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352360)及び40μm(Becton, Dickinson and Company、カタログ番号:352340)のセルストレーナーで残渣を除いた後、細胞を10%,30%,60%パーコール(Sigma、カタログ番号:P4937)で分離し、30%と60%の間に集まった細胞をアシナー細胞とする。
サルアシナー細胞を、rat collagen,Type I(0.01mg/cm;BD Biosciences、カタログ番号:354236)をコートしたプレートへ播き、10ng/ml dexamethasone(Sigma、カタログ番号:D2915),1mM putrescine(Sigma、カタログ番号:P5780),50ng/ml EGF(Invitrogen Corporation,PHG0311),50μg/ml L−ascorbic acid(Sigma、カタログ番号:A4544),1xInsulin−transferrin−sodium selenite media supplement(Sigma、カタログ番号:I1884)、10μg/mL Glutathione(Sigma、カタログ番号:G6013)および25μg/ml gentamicin(Invitrogen Corporation、カタログ番号:15750)を含むDMEM/F12培地(Cell culture培養液)を用いて、1日間COインキュベータ中で培養する。翌日、培地を10ng/mLのTNF−alpha(R&D systems、カタログ番号:210−TA)および10ng/mLのIFN−gamma(R&D systems、カタログ番号:285−IF)を含むCell culture培養液へと交換し、さらに1日間COインキュベータ中で培養する。その後にラクリチン部分ペプチドを含むDMEM/F12を加え、10分間COインキュベータ中で刺激し、培地を回収する。回収した培地を、ReadyPrep 2D Cleanup Kit(Bio-Rad Laboratories, Inc.、カタログ番号:163−2130)により脱塩、濃縮し、NuPAGE LDS sample buffer(Invitrogen Corporation、カタログ番号:NP0007)に溶解後、70℃で10分間の熱変性を行う。等量のサンプルを4−12% NuPAGE Bis−Tris gel、MES buffer中で200V,35分間室温で分離後、トランスブロットミニセル(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を用いてPVDFメンブレンに100Vで60分間のブロッティングを行う。メンブレンを、0.5%スキムミルク入りTTBSを用いて、室温30分間のブロッキングに供し、その後、終夜4℃で5000倍希釈のラクトフェリン抗体(Sigma、カタログ番号:L3262)と反応させる。TTBSで洗浄後、抗ラビットHRPの2次抗体(Santa Cruz Biotechnology Inc.、カタログ番号:sc−2054)を10000倍に希釈し、室温60分間の反応を行う。次いで、ECL plus(GE Healthcare、カタログ番号:RPN2132)を用いてラクトフェリンを検出する。
【0058】
試験例6 前眼部刺激性試験
本試験例では、各ポリペプチドを含む点眼液を点眼して、前眼部における刺激性を評価した。
ポリペプチド1(Pyr Lac50−83)点眼液およびポリペプチド5(Lac49−83)点眼液は、各ポリペプチドを、PBS[(塩化ナトリウム0.9g(ナカライテスク株式会社、カタログ番号:31320−05)、リン酸二水素一ナトリウム0.1g(ナカライテスク株式会社、カタログ番号:31718−15)を蒸留水で全量100ml(pH7.0)に溶解したもの)]により、1mM濃度に希釈することによって調製した。
日本白色種雄性ウサギ(北山ラベス株式会社、体重約2.0kg;ポリペプチド1投与群はN=1、ポリペプチド5投与群はN=2)に、ポリペプチド1点眼液、ポリペプチド5点眼液またはPBS(対照群)を1回100μL、1時間間隔で8回点眼した。前眼部の観察とフルオレセイン(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:213−00092)による角膜染色斑の観察を点眼前と最終点眼の30分後に行い、McDonald−Shadduk法(Hackett, R. B. and McDonald, T. O., Chapter 44:Assessing Ocular Irritation, Dermatotoxicology fifth edition, Francis N. Marzulli and Howard I. Maibach, Taylor & Francis, U.S.A.:557-567, 1996)により、前眼部の刺激性を評価した。
点眼後の前眼部の観察を、角膜、虹彩、結膜について行った。その結果、角膜については、透明度は正常であり、混濁や実質内の血管新生は認められなかった。また、フルオレセインによる角膜染色斑も観察されなかった。虹彩については、光応答は正常であり、充血は認められなかった。結膜についても、結膜の充血や浮腫は認められず、正常であった。また、異常な分泌物も観察されなかった。これらの結果は、McDonald−Shadduk法(下記参照)に準じるとスコア0の判定を示し、ポリペプチド1点眼液とポリペプチド5点眼液のいずれにおいても異常は認められなかった。また、角膜染色斑の観察においても両点眼液で異常は認められなかった。このことから、ポリペプチド1点眼液及びポリペプチド5点眼液の安全性は高いことが明らかとなった。
スコア0の判定基準
A)結膜の充血:正常、充血なし。時々、12、6時方向のリンバス周辺部や眼瞼・球結膜の血管が観察される
B)結膜の浮腫:正常、浮腫なし。
C)分泌物:正常、分泌物なし。
D)虹彩の光応答:正常な瞳孔応答。
E)虹彩の充血:正常。時々、12〜1時、6〜7時方向の瞳孔縁にわずかに充血した直径約1−2mmの部位が存在する。
F)角膜の透明度:正常。
G)角膜混濁の範囲:混濁のない正常な角膜。
H)角膜実質への血管新生:血管新生なし。
I)フルオレセイン染色による角膜染色: フルオレセイン染色なし。
【0059】
製剤例1 角膜上皮シート調製用培養液
4mLのHCGS増殖添加剤(内容物:mEGF、ハイドロコーチゾン、インスリン、トランスフェリンおよびBPE、倉敷紡績株式会社、カタログ番号:KC−6150)および15mgのポリペプチド1にEpiLife培地(角膜上皮細胞基礎培地 Cascade Biologics、カタログ番号:M−EPI−500−CA)を加え、全量500mLの培養液を調製する。
【0060】
製剤例2 ラクリチン部分ペプチドを含有する点眼剤
常法により下に示す点眼剤を調製する。
ポリペプチド1 0.5g
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量100mL(pH7)
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、細胞と細胞外マトリックスとの接着、特に角膜上皮細胞と細胞外マトリックスとの接着を促進し、且つ、水溶液中で安定なる新規ポリペプチドを提供することが可能となる。本発明のポリペプチドは、角膜上皮細胞と細胞外マトリックスの接着を促進することができ、且つ水溶液中で安定であるので、保存安定性に優れた医薬の提供、特に水性液剤の形態による該医薬の提供が可能になる。
(配列表の説明)
配列番号1:ピロ化されたラクリチン部分ペプチド(Pyr Lac50−83)のアミノ酸配列
配列番号2:ラクリチン部分ペプチド(Lac50−83)のアミノ酸配列
配列番号3:ピロ化されたラクリチン部分ペプチド(Pyr Lac50−94)のアミノ酸配列
配列番号4:ラクリチン部分ペプチド(Lac50−94)のアミノ酸配列
配列番号5:ヒト由来全長ラクリチンのアミノ酸配列
配列番号6:アセチル化されたラクリチン部分ペプチドのアミノ酸配列
配列番号7:ラクリチン部分ペプチド(Lac24−56)のアミノ酸配列
配列番号8:ラクリチン部分ペプチド(Lac50−65)のアミノ酸配列
配列番号9:ラクリチン部分ペプチド(Lac49−83)のアミノ酸配列
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1:Xaaはピログルタミン酸を示す。
配列番号3:Xaaはピログルタミン酸を示す。
【0063】
本出願は、日本で出願された特願2009−215030を基礎としておりそれらの内容は本明細書に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドを含有する、細胞接着促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のポリペプチドの有効濃度を細胞に接触させることを含む、細胞の接着を促進させる方法。
【請求項4】
請求項1記載のポリペプチドを有効成分として含有する、医薬。
【請求項5】
水性液剤である請求項4記載の医薬。
【請求項6】
角膜上皮障害の予防又は治療用である請求項4記載の医薬。
【請求項7】
請求項1記載のポリペプチドの有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、角膜上皮障害の予防又は治療方法。
【請求項8】
細胞の接着を促進させるための、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項9】
角膜上皮障害の予防又は治療のための、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−504519(P2013−504519A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513804(P2012−513804)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際出願番号】PCT/JP2010/066611
【国際公開番号】WO2011/034207
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】