説明

ラケット用ガット

【課題】環境による特性変化を起こし難く、ソフトな打球感、優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、ラケットへの張設性にも優れたラケット用ガットを提供する。
【解決手段】直径0.05〜1.0mmのポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用して製紐したポリエステル製ガットであり、張力220N時の伸度が2.0〜5.0%、かつ張力500N時の伸度が8.0〜20%の範囲にあることを特徴とするラケット用ガット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、バドミントン、スカッシュなどに使用するラケット用ガットに関するものであり、さらに詳しくは、環境による特性変化を起こし難く、ソフトな打球感、優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、ラケットへの張設性にも優れたラケット用ガットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からスポーツラケット用ガットとしては羊腸、鯨筋に代表される動物繊維からなる天然ガットが用いられてきた。
【0003】
しかるに、天然ガットは反発性、制球性、耐衝撃性などに優れているが、耐水性に劣ることから使用寿命が短く、しかも高価であるため、近年では耐久性、量産性および経済性などに優れる合成樹脂製ガットが用いられている。
【0004】
これらの合成樹脂製ガットとしては、ソフトな打球感と優れたボールコントロール性などから、ポリアミド製ガットが比較的多く用いられているが、ポリアミド製ガットは気温や湿度など環境変化に対して十分に対応できず、伸び、強力および弾性率などが変化するため、競技者に対して安定したボールコントロール性を与え難いという問題があった。
【0005】
このような状況から、環境変化による特性変化を起こし難く、しかも強伸度曲線が天然ガットに極めて近似しており、制球性に優れるポリエステル製ガットが実用に多く供されている。
【0006】
しかしながら、ポリエステル製ガットは、その剛直性に起因して、反発性、耐衝撃性、ボールコントロール性が必ずしも十分とはいえず、またラケットへの張設性が悪く、さらにフィブリル化しやすく耐久性に劣るという欠点もあることから、これらについての改善要請が高まっている。
【0007】
ポリエステル製ガットのフィブリル化を改善する方法としては、特殊な条件下で熱処理をする方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この方法ではフィブリル化についてはある程度改善されるものの、ラケットへの張設性、反発性、耐衝撃性などは改善されていないことから、ラケット用ガットとしては不十分なものであった。
【0008】
一方、ラケット用ガットの衝撃吸収性を改善する方法としては、3本以上の6角形断面のモノフィラメントの側面を接着させたモノマルチタイプのラケット用ガット(例えば、特許文献2参照)、ポリエステル系樹脂と、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれた1種とを海島複合にする方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されているが、これらの方法では衝撃吸収性は改善されるものの、ラケット用ガットとしての使用時に、接着面が剥離したり、海島複合の海成分と島成分の界面が剥離したりしてしまうため、耐久性の低いものになってしまうという問題が残されていた。
【0009】
また、ラケット用ガットの張設性、反発性、耐衝撃性を改善する方法としては、特定のポリエステル原料を使い、指定のパラメーターをクリアしたモノフィラメントを使用する方法(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、この方法ではモノフィラメントをそのままラケット用ガットとして使用することから、ガット表面が滑らかでボールにスピンを掛け難くなることから、結果としてボールコントロール性が劣ることになる点において、さらに改良の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7―185045号公報
【特許文献2】特開2006―345963号公報
【特許文献3】特開2007―330772号公報
【特許文献4】特開2003―239134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の従来技術における問題点の解消を課題として検討した結果達成されたものである。
【0012】
したがって、本発明の目的は、環境による特性変化を起こし難く、ソフトな打球感、優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、ラケットへの張設性にも優れたラケット用ガットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明によれば、直径0.05〜1.0mmのポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用して製紐したポリエステル製ガットであり、張力220N時の伸度が2.0〜5.0%、かつ張力500N時の伸度が8.0〜20%の範囲にあることを特徴とするラケット用ガットが提供される。
【0014】
なお、本発明のラケット用ガットにおいては、
前記ポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用し、ブレードにより製紐してなること、
前記ポリエステルモノフィラメントがラケット用ガット全体の50%以上であること、
前記ポリエステルモノフィラメント以外の構成成分が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、およびポリフェニレンサルファイド系樹脂から選ばれた少なくとも1種類以上のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを製紐した疑似モノフィラメントであること、および
前記ポリエステル製ガットが、熱可塑性樹脂系接着剤、光硬化性樹脂系接着剤、および熱硬化性樹脂系接着剤から選ばれた少なくとも1種の接着剤により接着されていること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に説明するとおり、環境による特性変化を起こし難く、ソフトな打球感、優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、ラケットへの張設性にも優れたラケット用ガットを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のラケット用ガットについて説明する。
【0017】
本発明のラケット用ガットは、直径0.05〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.9mmのポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用して製紐すること、ラケット用ガットの張力220N時の伸度が2.0〜5.0%、かつ張力500N時の伸度が8.0〜20%、好ましくは張力220N時の伸度が2.5〜4.5%、かつ張力500N時の伸度が10〜15%の範囲にあることが重要である。
【0018】
ここで、ポリエステルモノフィラメントの直径が0.05mmより細いと、単糸直径が細過ぎてガット同士の摩擦に対して極端に弱くなってしまい、マルチフィラメントを用いたラケット用ガットと同様に、耐久性に劣るガットになってしまうため好ましくない。また、逆にモノフィラメントの直径が1.0mmよりも太いと、ガットの直径が太過ぎて、グロメットにガットが通らなくなるなどの張設性の低下を招くため好ましくない。
【0019】
また、本発明のラケット用ガットの張力220N時および500N時の伸度が上記の範囲より小さい場合には、ボールを打ったときに反発性が悪くなり、スピードの速いサーブが打ち出せなくなるばかりか、ボールを打ち返すときの振動が吸収できずに肘に負担を掛けることになるため好ましくない。一方、張力220N時および500N時の伸度が上記の範囲を超える場合には、ボールコントロール性が悪くなるため好ましくない。
【0020】
本発明のラケット用ガットのもう一つの特徴は、ポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用し、製紐することにあり、ポリエステルモノフィラメントをそのままラケット用ガットとして使用した場合には、ガットの表面が滑らかであることからボールとの摩擦力が低くなり、ボールにスピンをかけたり、スピンのかかったボールのスピンを止めて無回転にしたりする時のスピン性が悪くなるため好ましくない。
【0021】
ここで、ポリエステルモノフィラメントの製紐方法には特に制限がなく、モノフィラメントを引きそろえて側糸でカバーリングする方法、ポリエステルモノフィラメントを撚り合わせる方法、ポリエステルモノフィラメントを組糸のようにブレードする方法などが挙げられるが、でき上がったラケット用ガットの形態が安定しているという理由から、ブレードする方法が好ましく採用される。
【0022】
本発明で素材として使用するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートまたはその2種類以上の共重合またはブレンドなどのポリエステル等が挙げられるが、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましく使用される。
【0023】
本発明のラケット用ガットは、ポリエステルモノフィラメントがラケット用ガット全体の50%以上、好ましくは60%以上であることが望ましい。ポリエステルモノフィラメントがラケット用ガット全体の50%を下回る場合には、ポリエステルガットの特徴である環境による特性変化の起こし難くさを維持できなくなる傾向を生じることがある。
【0024】
ここで、本発明のラケット用ガットを構成するポリエステルモノフィラメント以外の構成成分としては、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂からなるモノフィラメントまたはマルチフィラメントを製紐した疑似モノフィラメントなどが好ましく採用され、柔軟性を求めるプレイヤーはポリアミドモノフィラメントを入れたもの、耐久性を求めるハードヒッターはポリフェニレンサルファイドを入れたものなど、プレイヤーの好みに合わせて適選採用することができる。
【0025】
さらに、本発明のラケット用ガットは、モノフィラメントを製紐加工するとき、または製紐加工後に熱可塑性樹脂系接着剤、光硬化性樹脂系接着剤、熱硬化性樹脂系接着剤から選ばれた接着剤を用いて接着コーティング加工することにより、さらに優れた耐久性を発揮することができる。
【0026】
なお、本発明ラケット用ガットに使用するモノフィラメントには、必要に応じて、例えば顔料、染料、耐候剤、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱剤、蛍光増白剤、結晶化抑制剤、可塑剤、末端基封鎖剤などの各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で、その原料の重合工程や重合後、あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0027】
さらに、本発明のラケット用ガットを構成するモノフィラメントの断面形状は、略円形のほか、三角形、四角形、五角形などの多角形、クローバー形、花びら形、星型など異型断面、トラック形、長方形、や異型断面を繋ぎ合わせた扁平形状など、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜選択することができる。
【0028】
かくして得られる本発明のラケット用ガットは、ポリエステルガットの環境による特性変化の起こし難くさと、ナイロンガットのソフトな打球感と優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、さらにはラケットへの張設性も改善されたものであることから、テニス、バドミントン、スカッシュなどに使用するラケット用ガットとしての適用が大いに期待される。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明のラケット用ガットを実施例に基づいてさらに詳しく説明する。なお、実施例におけるラケット用ガットの評価は以下の方法で行った。
【0030】
[中間伸度]
JIS L1013の定義によった。すなわち、綛状に取った試料を20℃、65%RHの温湿度調整室に24時間放置した後、オリエンテック社製”テンシロン”RTM500型引張試験機を用い、糸長:250mm引張速度:300mm/分の条件で破断までの強力伸度曲線を測定し、220N時の伸度(%)、500N時の伸度(%)をそれぞれ強力伸度曲線から読み取った。
【0031】
[直径]
デジタルマイクロメーター(MITUTOMO製)でモノフィラメントの直径をランダムに5点測定しその平均値で表示した。
また、ガットの直径については長径、短径を各5点測定してその平均で表示した。
【0032】
[ラケット用ガットの耐久性評価]
本発明のラケット用ガットを実際にテニス用ラケットに50ポンドの張力で張設した。
そして、テニス用ラケットのフェースに、時速100km、打ちだし間隔15回/分、打ち出し距離50cm、かつ打ち出し角度40°の条件でテニスボールを衝突させ、ガットが切断するまでのテニスボールの打ち出し回数で耐久性を評価した。(単位:回)
【0033】
[ラケット用ガットの打球性評価]
上級レベルのテニスプレーヤーに実際にテニスボールを試打してもらい、天然ガットおよび従来の合成樹脂ガットを使用した場合と比較しての反発性、ボールコントロール性、耐衝撃性、環境による特性変化の起こし難くさ、について次の2段階で評価した。
○:天然ガットと同等もしくは天然ガットに近い打球性であった、
×:従来の合成樹脂ガットと同等もしくはそれ以下であった。
【0034】
[ラケット用ガットの張設性評価]
ラケット用ガットを実際に50ポンドの張力でラケットに張設した際の張設のしやすさについて、天然ガットを張設した場合と比較して、次の2段階で評価した。
○:天然ガットと同等もしくは天然ガットより張設し易かった、
×:張設途中で切れてしまったまたは張設できなかった。もしくは天然ガットより張設しにくかった。
【0035】
[実施例1]
三井化学製ポリエチレンテレフタレート樹脂(J055:極限粘度1.37)をエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸温度290℃で溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して円形断面糸用紡糸ノズルから紡出し、ただちに75℃の温水浴中で冷却固化させたポリエステル未延伸糸を得た。引き続き、得られた未延伸糸を90℃の温水浴で3.0倍に一次延伸し、次いで180℃の乾熱雰囲気下で1.8倍に二次延伸を行ってトータル延伸倍率5.4倍とし、さらに、240℃の乾熱雰囲気下、0.95倍で弛緩処理することにより、直径0.205mmのポリエステルモノフィラメントを製造した。
【0036】
作成したモノフィラメントを16打ち製紐機により製紐し、外径1.26mmのブレードガットを作成した。作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1で作成したポリエステルモノフィラメント4本をSZ撚りにて4本撚りの疑似モノフィラメント作成し、その疑似モノフィラメント4本をさらにSZ撚りで製紐することにより、外形1.25mmの撚り糸ガットを作成した。作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
東レ製ポリフェニレンサルファイド樹脂(E2080:MFR=90)をエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸機温度330℃にて溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して円形断面糸用紡糸ノズルから紡出しただちに80℃の温水中で冷却固化させたポリフェニレンサルファイド未延伸糸を得た。
【0039】
引き続き、得られた未延伸糸を95℃の温水浴で3.0倍に一次延伸し、次いで130℃の乾熱雰囲気下で1.25倍に二次延伸を行ってトータル延伸倍率を3.75倍とし、さらに150℃の乾熱雰囲気下で定張力条件にて熱セットを行ない、直径0.205mmのポリフェニレンサルファイドモノフィラメントを製造した。
【0040】
実施例1で作成したポリエステルモノフィラメント12本と、上記ポリフェニレンサルファイドモノフィラメント4本とを、均等に配置して16打ち製紐機により製紐し、外径1.27mmのブレードガットを作成した。作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
東レ製共重合ポリアミド樹脂(M6021H4:相対粘度4.65)を、エクストルーダー型紡糸へ供給し、紡糸温度270℃で溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して円形断面糸用紡糸ノズルから紡出し、ただちに10℃の温水浴中で冷却固化させたポリアミド未延伸糸を得た。
【0042】
引き続き得られた未延伸糸を100℃の水蒸気延伸浴中で3.8倍に一次延伸し、次いで180℃の乾熱雰囲気下で1.74倍に二次延伸を行ってトータル延伸倍率6.6倍とし、さらに、170℃の乾熱雰囲気下で0.9倍の弛緩熱処理することにより、直径0.205mmのポリアミドモノフィラメントを製造した。
【0043】
実施例1で作成したポリエステルモノフィラメント12本と、上記ポリアミドモノフィラメント4本とを、均等に配置して16打ち製紐機により製紐し、外径1.20mmのブレードガットを作成した。作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
三井化学製ポリエチレンテレフタレート樹脂(J055:極限粘度1.37)をエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸温度290℃で溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して円形断面糸用紡糸ノズルから紡出し、ただちに75℃の温水浴中で冷却固化させたPET未延伸糸を得た。引き続き、得られた未延伸糸を90℃の温水浴で3.0倍に一次延伸し、次いで180℃の乾熱雰囲気下で1.8倍に二次延伸を行いトータル延伸倍率5.4倍とし、さらに、240℃の乾熱雰囲気下で0.95倍の弛緩処理することにより、直径1.25mmのPETモノフィラメントを製造した。
【0045】
上記モノフィラメントをガットとしてそのまま使用した時の評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例4で製造した直径0.205mmのポリアミドモノフィラメントを、16打ち製紐機により製紐し、外径1.25mmのブレードガットを作成した。作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
東レ製ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(1100T−72−702C)4本を、SZよりにて4本よりの疑似モノフィラメント作成し、その疑似モノフィラメント4本をさらにSZよりで製紐することにより、外形1.31mmのマルチフィラメントガットを作製した。
【0048】
作成したガットをラケット用ガットとして使用した時の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たしたラケット用ガット(実施例1〜4)は、いずれもポリエステル製ガットの環境による特性変化の起こし難くさと、ポリアミド製ガットのソフトな打球感と優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、さらにラケットへの張設性をも改善したきわめて実用性の高いラケット用ガットであることがわかる。
【0051】
一方、本発明の条件を満たさないラケット用ガット(比較例1〜3)は、ラケット用ガットとしての効果を十分に発揮することができないものばかりであった。
【0052】
例えば、ポリエステルモノフィラメントの直径を1.25mmとして、製紐工程を省いたラケット用ガット(比較例1)は、500N時の伸度が低くガットの反発性が悪くなりることから、打球性評価、衝撃吸収性が悪くなるばかりか、ボールの回転をコントロールするスピン性も悪くなり、実用性に欠けるものであった。また、ガットの素材をポリアミドモノフィラメントに変更したラケット用ガット(比較例2)は、220N時の伸度、500N時の伸度ともに大きくなり、ラケットに張設するときに張力が安定しなかったばかりか、打球性、耐久性も悪くなり、さらに、環境による特性変化を起こしてしまい実用性に欠けるものであった。さらに、ポリエステルモノフィラメントの代わりにポリエステルマルチフィラメントを使用したラケット用ガット(比較例3)は、張設性、打球性は良好であったが、単糸の細さからガット同士の擦過により単糸が切れてしまい、結果として耐久性が悪く実用性に欠けるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上、説明したとおり、本発明のラケット用ガットは、ポリエステルガットの環境による特性変化の起こし難くさ、とナイロンガットのソフトな打球感と優れたボールコントロール性、優れた耐久性を併せ持ち、さらにはラケットへの張設性も改善されたものであることから、テニス、バドミントン、スカッシュなどに使用するラケット用ガットとしての実用が大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.05〜1.0mmのポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用して製紐したポリエステル製ガットであり、張力220N時の伸度が2.0〜5.0%、かつ張力500N時の伸度が8.0〜20%の範囲にあることを特徴とするラケット用ガット。
【請求項2】
前記ポリエステルモノフィラメントを少なくとも一部に使用し、ブレードにより製紐してなることを特徴とする請求項1に記載のラケット用ガット。
【請求項3】
前記ポリエステルモノフィラメントが、ラケット用ガット全体の50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のラケット用ガット。
【請求項4】
前記ポリエステルモノフィラメント以外の構成成分が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、およびポリフェニレンサルファイド系樹脂から選ばれた少なくとも1種類以上のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを製紐した疑似モノフィラメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のラケット用ガット。

【公開番号】特開2011−206177(P2011−206177A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75313(P2010−75313)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)