説明

ラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメント及びラケット用ストリング

【課題】ラケット用ストリングに好適な、ソフト感、反発性、耐久性に優れた海島型複合延伸モノフィラメント及びそれを用いたラケット用ストリングを提供する。
【解決手段】2成分以上からなる海島型複合延伸モノフィラメントにおいて、前記海島型複合モノフィラメントを構成する島成分の島本数が13本以上であり、島成分が40〜90重量%で、かつ、海成分がJIS K 6253の硬度Dが35〜80の熱可塑性エラストマー10〜60重量%からなるラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バドミントン、テニスなどのラケット用合成ストリング好適な、ソフト感と反発性を有し、耐久性に優れた延伸された海島型複合モノフィラメント及びそれを用いたラケット用ストリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テニス、バドミントン、スカッシュなどのラケット用合成ストリングとして、モノフィラメントタイプとマルチフィラメントタイプがある。モノフィラメントタイプとは芯成分となる比較的太いモノフィラメントのまわりに細いモノフィラメントを側糸として巻きつけたタイプである。一方、マルチフィラメントタイプとしては単糸が5.5〜11dtex(5〜10デニール)の細い繊維を多数本束ねて接着樹脂で集束一体化したものである。一般的にはモノフィラメントタイプは耐久性には優れるが打球感とくに打球時のソフト感に欠ける問題がある。一方、マルチフィラメントタイプは打球感には優れるが耐久性が低いという問題がある。
【0003】
一方、接着用樹脂としては、ポリアミド系モノフィラメントタイプではポリアミド系樹脂をフェノール系、アルコール系の溶剤に溶解した接着剤を使用するのが一般的であり、マルチフィラメントタイプではよりソフトで反発性のあるポリウレタン系樹脂を使用する場合が多い。
【0004】
ポリウレタン系樹脂は溶剤に溶解して付与する例(下記特許文献1参照)、加熱して溶融状態で付与する例(下記特許文献2参照)などが開示されているが、いずれも後加工でマルチフィラメント原糸に樹脂を付与、含浸させる方法であって、樹脂溶液の粘度が高い場合や溶融粘度の高い場合にはマルチフィラメント内部に含浸しにくいことなどから使用する樹脂や加工条件に制限があり、膜強力の高い分子量の高い樹脂が使用できにくいこと、また、加工速度が遅く生産性が低い問題がある。さらにこれらの樹脂は延伸されていないので配向しておらず、しかも連続膜でないのでガットの強力にはほとんど寄与しない。そのため、樹脂成分を増やすと繊維比率が減少しガットの強力が低くなるので樹脂比率を上げることには限界がある。
【0005】
したがって結果として従来のポリウレタン系樹脂を後加工で含浸させる方法で得られたガットは耐久性が必ずしも十分でないこと、ソフトで高反発と耐久性両者を満足できにくい問題がある。また、生産性が低い点でも問題がある。
【0006】
また、鞘成分がエラストマーである芯鞘複合モノフィラメントは知られているが(下記特許文献3参照)ラケット用ストリングへの適用についての可能性は何ら開示されていない。
【特許文献1】特開昭57−128174号公報
【特許文献2】特開平5−154220号公報
【特許文献3】特開2004−176228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は弾性的性質があり、ソフトな打感でかつ高い反発性を有し、かつ耐久性、ストリング張設性にも優れたラケット用ストリングに適したモノフィラメントおよび該モノフィラメントを使用したラケット用ストリングを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、複合延伸モノフィラメントにおいて、島成分の島本数が多島の海島型複合モノフィラメント構造とし、かつ、海成分に比較的硬度の高い熱可塑性エラストマーを特定割合用いることが重要であることを見いだし本発明に到ったものである。
【0009】
すなわち、本発明のラケット用ストリングに適したモノフィラメント、並びに該モノフィラメントを使用したラケット用ストリングは次のものである。
【0010】
(1) 2成分以上からなる海島型複合延伸モノフィラメントにおいて、前記海島型複合モノフィラメントを構成する島成分の島本数が13本以上であり、島成分が40〜90重量%で、かつ、海成分がJIS K 6253の硬度Dが35〜80の熱可塑性エラストマー10〜60重量%からなることを特徴とするラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメント。
【0011】
(2) 島成分の樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上である前記(1)項に記載のモノフィラメント。
【0012】
(3) 島成分1本の平均直径が0.05〜0.2mmである前記(1)〜(2)項のいずれかに記載のモノフィラメント。
【0013】
(4) 海成分の熱可塑性エラストマーが、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーから選ばれる1種以上である前記(1)〜(3)項のいずれかに記載のモノフィラメント。
【0014】
(5) モノフィラメントの強度が3.0〜5.5cN/dtex、伸度が20〜40%である前記(1)〜(4)項のいずれかに記載のモノフィラメント。
【0015】
(6) 島成分がポリアミド系樹脂、海成分がポリウレタン系樹脂である前記(1)〜(5)項のいずれかに記載のモノフィラメント。
【0016】
(7) 前記(1)〜(6)項のいずれかに記載のモノフィラメントよりなるラケット用ストリング。
【0017】
(8) 前記(1)〜(6)項のいずれかに記載のモノフィラメント表面に10〜100μmの厚みで樹脂がコーティングされたラケット用ストリング。
【0018】
(9) 前記(1)〜(6)項のいずれかに記載のモノフィラメントを構成成分とするラケット用ストリング。
【0019】
海島型複合延伸モノフィラメントの構造自体は、すでに知られており、また、鞘成分がエラストマーである芯鞘型複合モノフィラメントは上述したように特許文献3で知られているが、いずれもラケット用ストリングへの適用、更にはどのようにしたらラケット用ストリングに好適な複合モノフィラメントとし得るかについては何ら開示されていないのが現状である。本発明者らは、海成分をエラストマーとし、島成分は13島以上の多島海島型複合延伸モノフィラメント構造がラケット用ストリング用としてきわめて好適であることを見出し、上記本発明に到達したものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば従来困難とされてきた、打感がソフトでかつ反発性が高く、耐久性も高いラケット用ストリング並びにかかるラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメントを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明のモノフィラメントの島成分となる樹脂は好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン9T、ナイロン6T、ナイロンMXD6(メタキシリレンジアミンとアジピン酸から得られるポリアミド)などのポリアミド系樹脂、ナイロン6/66,6/12などの共重合ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT、PTT[別称ポリトリメチレンテレフタレート])などの芳香族ポリエステル系樹脂やこれらを主成分とする共重合ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解ポリエステルとして知られる脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂や共重合ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。本発明において、島成分は好ましくは海成分より硬く、高強力が得られる樹脂が選定される。
【0023】
一方、海成分となる樹脂は島成分より柔軟なJIS K 6253の硬度Dが35〜80の熱可塑性エラストマーが用いられる。具体的には ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーが好ましく用いられる。硬度が35未満の場合、ラケットに張り上げる際にクランプなどで変形しやすく、耐久性や強力が低く実用的でない。また、硬度が80より高い場合はソフト感が不足し本発明の効果が得られない問題がある。これらのエラストマーは種々のものが市販されているので、そのうち、上記硬度に見合うものを選定すればよい。特に限定するものではないが、ポリウレタン系エラストマーは、説明を加えるなら、通常、分子中にウレタン結合を有し、ポリオールセグメント(長鎖ジオールセグメント)、ジイソシアネートセグメント、短鎖ジオールセグメントの分子間反応によって生成される。長鎖ジオールセグメントがソフトセグメントであり、ジイソシアネートセグメントと短鎖ジオールセグメントがハードセグメントとされている。ポリエステル系エラストマーは、ハードセグメントに芳香族ポリエステルセグメント、ソフトセグメントにポリエーテルセグメントあるいは脂肪族ポリエステルセグメントなどで構成されているエラストマーが挙げられる。ポリアミド系エラストマーとしては、結晶性のポリアミドをハードセグメントとし、非晶性でガラス転移点の低めのエーテルないしエステルをソフトセグメントにしたブロック共重合体などが代表的である。ポリオレフィン系エラストマーとしては、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレンセグメントを用い、ソフトセグメントにエチレン・プロピレンゴムセグメントやエチレン・プロピレン・ジエンゴムセグメントなどを用いたものが代表的である。熱可塑性エラストマーの詳細については、例えば、「プラスチック・データブック」(編者:旭化成アミダス株式会社、「プラスチック」編集部、発行者:株式会社工業調査会1999年12月1日初版第1刷発行、第853頁〜910頁)などが参照できる。
【0024】
本発明の海島型複合モノフィラメントを構成する島成分、海成分の樹脂には必要に応じて、染顔料、耐熱剤、耐光剤、平滑剤、などの添加剤や改質剤を添加することができる。また、他の樹脂をブレンドすることもできる。
【0025】
本発明の複合モノフィラメントは複合比率が島成分が40−90重量%、海成分が10−60重量%である。特に好ましくは島成分が50−80重量%、海成分が20−50重量%である。海成分が10重量%未満の場合、海成分の弾性体が少ないためソフト感、高反発の効果が少なくなる。一方、海成分が60重量%を超えると(島成分の比率が40重量%未満になると)、ガット強力が低くなり耐久性が低くなる問題がある。
【0026】
また、海島型複合モノフィラメントは本発明においては多島複合とすることを特徴とする。島成分の好ましい島本数は13本以上が必要である。多島化する効果としては、硬質成分である島成分1本1本の直径が小さくなる効果、海成分が断面全体に分散する効果および島成分と海成分の境界接着面積が増加する効果があり、結果として、手触り、ラケット用ストリングとしての張りやすさの改善、ソフト感、振動吸収性などが改善され、ラケット用ストリングとしての総合性能が向上すると推定される。好ましい島成分1本当たりの平均直径は0.05〜0.2mm程度である。個々の島成分の太さについては均一な太さであっても良いが、太い島と細い島など太さを変化させることも可能である。ここで平均直径は島成分全体の量(デシテックス:dtex)を島成分の数で割った平均の太さ(デシテックス:dtex)から、島成分の断面形状が円形と仮定して換算される値である。島成分の本数の上限についてはとくに限定されないが、紡糸口金の精度、価格、品質の安定などから約200島程度までが好ましい。
【0027】
複合する樹脂の組み合わせについては、前記の樹脂の中からから、界面の接着性、複合紡糸の製造のしやすさ、得られたモノフィラメントの物性などの点から選択することができる。たとえば、島成分がポリアミド系樹脂の場合、海成分としては、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカプロラクトン系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系エラストマー(一般的には、ソフトセグメントとして用いられるポリオールセグメントの種類により上記のような一般名称で呼ばれている)やポリアミド系エラストマーなどが好ましい。
【0028】
また、島成分がポリエステル系樹脂の場合、海成分はポリエステル系エラストマーが好ましく用いられる。また、これら以外の組み合わせでも改質剤の使用などで接着性、流動性、耐熱性などを改善することにより使用することができる。
【0029】
そして本発明者らの検討によれば、一般的には海成分の硬度が高くなる方が、反発性、耐久性は向上するが、ソフト感が低下する傾向であり、必要な特性から樹脂の硬度を選択することができる。
【0030】
モノフィラメントの太さについては特に限定されないが、テニス用として単独で用いる場合や表面コーティングして製品化する場合、直径は1.0〜1.4mm程度、芯糸として使用する場合は直径0.6〜1.0mm程度が好ましく用いられる。
【0031】
バドミントン用としては、直径0.5〜0.8mm程度が好ましく用いられる。
【0032】
断面形状については通常の丸型断面のほか、必要に応じ適宜異型断面形状とすることもできる。また、島成分の配置、個々の断面形状、太さなどについても必要に応じ、本発明の範囲内で適宜設計することができる。
【0033】
また、本発明のモノフィラメントを直径0.1〜0.3mmとして側糸として用いることもできるが、本発明の効果を十分発揮するにはガット構造全体に、あるいはもっとも太い糸を用いる部分に本発明のモノフィラメントを用いるのが好ましい。
【0034】
つぎに本発明において、モノフィラメントの強度は3.0〜5.5cN/dtex、伸度(破断伸度)は20〜40%が好ましい。強度が3.0cN/dtex未満の場合は耐久性が低下する傾向になる。一方強度が5.5cN/dtex以上の場合はソフト感が低下する傾向となる。伸度は20%未満の場合、条件によっては張り切れ(ストリングを張る時に張力をかけた際に切れる現象)、角切れ(ストリングをラケットに張る際にラケットのストリングを通す穴の縁などの角ばったところで切れる現象)が生じやすくなる傾向になりやすく、40%以上の場合は、張り上げの際、伸びが大きくなり、張り上げ性が悪くなる傾向となる。本発明においては海成分となるエラストマーも連続的な海構造として分子が配向するため、海成分も強力に寄与するので耐久性も高くなると推定される。このため前述のように、含浸、接着などの後加工法では困難とされる30重量%以上のエラストマー量においても、耐久性のあるガットが得られる特徴がある。
【0035】
つぎに本発明のモノフィラメントの製造方法について述べるがこれに限定されるものではない。
【0036】
本発明において、海島型複合延伸モノフィラメントを製造するための方法は、特開昭62−45712号公報などをはじめ、従来から公知の方法が採用できる。複合モノフィラメント紡糸設備および多島海島型複合形状を得るための紡糸パック構造についても、従来から公知であり、得ようとするモノフィラメント径と島本数、断面形状などから紡糸口金を設計することができる。
【0037】
紡糸の条件については使用する個々の樹脂の押出し条件と複合吐出後の紡糸、延伸条件を検討し適正化することで本発明の要件を満足するモノフィラメントを得ることができる。
【0038】
通常2台の押出し機で、海成分となる樹脂と島成分となる樹脂をそれぞれ溶融押出しして、紡糸パック内に導入し、所定の複合断面形状になるように合流複合して口金から押出しされる。
【0039】
紡糸口金から押し出された樹脂は水などの液体中で冷却固化した後、常法通り延伸、熱処理し巻き取られる。
【0040】
冷却および延伸条件は、樹脂成分および複合比などにより適宜、適正な条件を選定すればよい。樹脂の種類にもよるが通常冷却温度は10−80℃、延伸は湿熱および/または乾熱中で3〜8倍程度延伸される。延伸温度は素材にもよるがガラス転移点以上融点以下の温度が通常である。さらに必要に応じ定長または弛緩熱処理を行い巻き取る。
【0041】
複合する樹脂の組み合わせが不適切で、親和性が小さい樹脂の場合、海島界面の接着不足となり、ガットとしての耐久性などが低下する場合がある。また、海成分と島成分の樹脂の溶融特性(温度、粘度)が大きく異なる場合あるいは冷却条件・延伸特性が大きく異なる場合には安定製造困難、物性不十分、耐久性不十分などの問題が発生することがあるので、樹脂の選定と適正紡糸延伸条件の設定をこれらの問題が生じないように適宜選定すればよい。
【0042】
海成分と島成分との接着性が悪い場合、公知の各種樹脂改質剤を添加することで改善を図ることも可能である。改質剤としては、特に限定されるものではないが、エポキシ基その他の反応基を含有する樹脂として、「エポフレンド」(ダイセル化学社製)、「アルフォン」(東亞合成社製)、「モディックAP」(三菱化学社製)など、カルボジイミド樹脂としては、「カルボジライト」(日清紡社製)、グラフトポリマーとしては、「モディパー」(日本油脂社製)などが挙げられる。
【0043】
また、海成分と島成分と溶融粘度が大きく異なる場合は可塑剤などの流動特性を変える添加剤の使用や、溶融温度差が大きい場合、低温側の樹脂の分解防止のため耐熱剤を添加することなど、公知の種々の改良を行うことができる。
【0044】
得られた複合モノフィラメントが本発明の要件を満たせば、そのままラケット用ストリングとして使用することができる。また、表面に樹脂をコーティングしてラケット用ストリング製品とすることもできる。コーティングは溶融コーティング、溶液コーティングいずれも可能である。コーティング樹脂成分についてはとくに限定されず。従来使用されているポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが用いられる。好ましいコーティング厚みは10〜100μm程度である。
【0045】
コーティングにより色、外観、手触りの改善、耐久性の向上などが可能である。
【0046】
また、本発明の複合モノフィラメントに撚り加工(捻り加工)を施すこともできる。これによりソフト感が向上する場合が多い。
【0047】
さらに本発明のモノフィラメントを芯成分として、側糸の巻き付け加工や、製紐(組み紐)を行うこともできる。さらに必要に応じ、染色、延伸、熱処理、印字、油剤付与などを行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下実施例、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
各実施例、比較例においてガットの評価は下記の方法で行った。
【0050】
<耐久性>
ガット(ストリング)を硬式テニス用ラケットに60ポンド(27.2kg)で張上げ、1昼夜放置後、ラケットが動かないように枠に固定した後、硬式ボールを100km/hrの速度で、ガット面の直角方向に対し40度の方向から打ち付け、次に反対方向で40度の角度でボールを衝突させ、ガットが切れるまでの衝突回数で表わす。
【0051】
<ソフト感、反発性>
ガット1本を50ポンド(22.7kg)の張力をかけ固定する、ガットの直角方向から振り子式のハンマーでガットに衝突させ、その時のガットの変位量と応力を測定する。
【0052】
ソフト感を示す測定量として剛性率(=最大応力/最大変位量、単位ポンド/インチ)を求めた。数字が小さい方がソフト感が高いことを示す。
【0053】
反発性を示す尺度として衝突後の変位量と応力の曲線から、衝突後最大変位量となるまでの仕事量と最大変位量から元の位置にもどるまでの仕事量の比率を反発率とした。
数値が大きい方が高反発であることを示す。
【0054】
<伸度>
破断伸度をJIS L1013の規定に従い測定した。すなわち綛状に取った試料を20℃、65%RHの温湿度の雰囲気下で24時間放置した後、島津製作所社製の「オートグラフ」AGS−1kNG型引張り試験機を用い、糸長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定し、試料が切断した時の伸びを測定した。
【0055】
以下実施例を用いて具体的に説明する。
【0056】
(実施例1〜5、比較例1,2)
島成分としてナイロン6樹脂(三菱エンプラ社 “ノバミド” 1020)、海成分としてポリエーテル系ポリウレタン(BASFジャパン社 “エラストラン”)を用い、37島の海島型複合モノフィラメントを紡出した。紡糸温度はナイロン側240〜270℃、ポリウレタン側200〜210℃である。紡出した糸状はただちに20℃の水中で冷却し、連続して95℃の熱水中で3.5倍の倍率で延伸し、続いて175℃の乾熱で延伸して、トータル延伸倍率5.0倍とした。ついで175℃で5%弛緩熱処理して巻き取り、直径約1.30mmのモノフィラメントを得た。ポリウレタンについては硬度の異なる樹脂4種と海島比率を変えて紡糸し、基本物性とガットとしての基本特性を測定し、結果を表1に示した。
【0057】
さらにこのモノフィラメントにシリコーン油剤を付与し、ラケットに張り実際に試打して評価した結果を表1下欄に示した。表中の評価結果において、◎は、非常に良好、○は良好、△は普通、×は不良を示している。
【0058】
表から明らかなように、海成分の樹脂硬度が低い場合、張上げた場合にモノフィラメントが偏平になり、ラケットに張上げる際のクランプでつかむと変形するため耐久性が低くなり実用的でない。また、本発明の海島型複合延伸モノフィラメントを用いたガットは、市販のポリウレタンタイプのガット(ナイロンからなる扁平モノフィラメント2本、丸断面のモノフィラメント4本及びマルチフィラメントがポリウレタン樹脂で収束・接着され、その表面が更にポリウレタン樹脂でコーティングされてなるガット)と比較して耐久性、反発性が優れる特徴がある。
【0059】
また、本発明において海成分の樹脂硬度が高いと反発性、耐久性に優れるがソフト感がやや劣る(硬い)傾向があるので、プレーヤーの好みやプレースタイルタイプに応じ適正なガット設計が可能となる。尚、表1の比較例1の海成分の硬度31は、上述したJIS K 6253の硬度Dによる硬度であるがカッコ内の「(JIS A 80)」とは、JIS K 6253の硬度Aによる硬度が80であることを示している。
【0060】
(実施例6、比較例3、4)
島成分としてナイロン6樹脂(三菱エンプラ社 “ノバミド” 1020)、海成分としてポリカプロラクトン系ポリウレタン(日本ミラクトラン社 “ミラクトラン E564”)を用い、37島の海島型複合モノフィラメントを紡出した。紡糸温度はナイロン側240〜270℃、ポリウレタン側200〜215℃である。紡出した糸状はただちに20℃の水中で冷却し、連続して95℃の熱水中で3.5倍の倍率で延伸し、続いて 175℃の乾熱で延伸して、トータル延伸倍率5.0倍とした。ついで175℃で5%弛緩熱処理して巻き取り、直径約1.25mmのモノフィラメントを得た。
【0061】
比較として同じ樹脂組成と比率で口金を替え3島の海島型複合モノフィラメントと芯鞘型の複合モノフィラメント(1島に相当)で同様にモノフィラメントを紡糸した。
【0062】
さらにこのモノフィラメントにシリコーン油剤を付与し、ラケットに張り実際に試打して評価した結果を表2に示した。本発明の多島複合の海島型延伸モノフィラメントは耐久性とソフト感に優れる特徴がある。表中の評価結果において、◎は、非常に良好、○は良好、△は普通、×は不良を示している。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば従来困難とされてきた、打感がソフトでかつ反発性が高く、耐久性も高いラケット用ストリングを得ることができる。従って、本発明のラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメントは、バドミントン、テニス、スカッシュなどのラケット用合成ストリングに好適なモノフィラメントを提供できる。また、本発明のラケット用ストリングは、バドミントン、テニス、スカッシュなどのラケット用ストリングとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2成分以上からなる海島型複合延伸モノフィラメントにおいて、前記海島型複合モノフィラメントを構成する島成分の島本数が13本以上であり、島成分が40〜90重量%で、かつ、海成分がJIS K 6253の硬度Dが35〜80の熱可塑性エラストマー10〜60重量%からなることを特徴とするラケット用ストリングに適した海島型複合延伸モノフィラメント。
【請求項2】
島成分の樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上である請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】
島成分1本の平均直径が0.05〜0.2mmである請求項1〜2のいずれかに記載のモノフィラメント。
【請求項4】
海成分の熱可塑性エラストマーが、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーから選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のモノフィラメント。
【請求項5】
モノフィラメントの強度が3.0〜5.5cN/dtex、伸度が20〜40%である請求項1〜4のいずれかに記載のモノフィラメント。
【請求項6】
島成分がポリアミド系樹脂、海成分がポリウレタン系樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のモノフィラメント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のモノフィラメントよりなるラケット用ストリング。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のモノフィラメント表面に10〜100μmの厚みで樹脂がコーティングされたラケット用ストリング。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のモノフィラメントを構成成分とするラケット用ストリング。

【公開番号】特開2007−282661(P2007−282661A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110004(P2006−110004)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(504094660)株式会社ゴーセン (11)