説明

ラジアルタービンインペラ

【課題】翼高さ方向(スパン方向)への速度分布を有する流入ガスについて、前縁にガスが入射するときの衝突による損失増加を抑えた形状を有するラジアルタービンインペラを提供する。
【解決手段】流体が回転軸11に対し垂直に流入し軸方向に流出するラジアルタービンインペラ10であって、回転軸11周りに配置される複数のタービン翼12を備え、タービン翼12は、回転軸11に平行な平行部13aと、回転軸11に対して傾斜した傾斜部13bと、からなる前縁13を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に垂直に流入する流体を軸方向に流出させるラジアルタービンインペラに関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアルタービンのインペラ(羽根車)は、マイクロガスタービン、エキスパンダタービン、過給機等に用いられる。かかるインペラは、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
図1は、従来の過給機において可変ノズルを有する場合の模式的断面図であり、図2は、従来のインペラの説明図である。図2において、(A)は子午面投影図(半断面)、(B)はB−B断面図である。
【0004】
図1において、1は可変ノズル、2はインペラであり、可変ノズル1でインペラ2に流入する流体流量を可変制御するようになっている。
【0005】
図2(A)において、3はインペラを構成するタービン翼であり、タービン翼3の上流端を「前縁」、下流端を「後縁」、翼3の内方端を「ハブ」、外方端と「チップ」と呼ぶ。
【0006】
図2(B)において、従来のインペラ2では、タービン翼3の軸方向断面形状が、半径方向外方に放射状に2次元で延びている。このような翼形状をラジアルエレメントと呼ぶ。すなわち従来のインペラ2は、ラジアルエレメントで定義されるタービン翼3を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−100701号公報、「ラジアルタービンの動翼」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のインペラ2は、ラジアルエレメントで定義されるタービン翼3を備えている。この場合、インペラの前縁形状は入口径が一定又は斜流の形状であり、いずれの場合も子午面に投影したときに直線となる。
このようなラジアルエレメントに基づいて羽根角が設定されるタービン翼においては、ある一箇所(例えばチップ)の羽根角が決定されれば、チップからハブまでのすべての箇所の羽根角が回転軸からの距離に応じて一義的に決定される。
【0009】
しかし、ラジアルエレメントで定義されるタービン翼3を備えている従来のインペラ2の場合、流入ガスの翼高さ方向(スパン方向)への分布に合わせたインペラ形状を作ることができないという問題点があった。
この場合、インペラ2の前縁において、ガスが入射するときの衝突による損失増加が生じていた。
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、翼高さ方向(スパン方向)への速度分布を有する流入ガスについて、前縁にガスが入射するときの衝突による損失増加を抑えた形状を有するラジアルタービンインペラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、流体が回転軸に対し垂直に流入し軸方向に流出するラジアルタービンインペラであって、
前記回転軸周りに配置される複数のタービン翼を備え、
前記タービン翼は、前記回転軸に平行な平行部と、
前記回転軸に対して傾斜した傾斜部と、からなる前縁を有する、ことを特徴とするラジアルタービンインペラが提供される。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記平行部の長さは、前記前縁の全長に対する比率が40%以上60%以下であり、
前記回転軸から前記傾斜部までの最短の長さは、前記回転軸から前記平行部までの長さに対する比率が94%以上97%以下である。
【発明の効果】
【0013】
前縁側において、流入ガスの流れを悪化させていたチップ側の径のみを一部下げることによって、前縁にガスが入射するときの衝突による損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のインペラを備えた過給機の模式的断面図である。
【図2】従来のインペラの説明図である。
【図3】本発明によるインペラの子午面投影図(半断面)である。
【図4】本発明によるインペラを用いた場合の効率予測結果表である。
【図5】本願発明によるb/b0又はr/r0に対するタービン効率についての表である。
【図6】本願発明によるrをr4に近づけた場合のインペラの子午面投影図(半断面)である。
【図7】本発明による翼後縁における流体の流出速度の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
図3は、本発明によるインペラの子午面投影図(半断面)である。
本発明のインペラ10は、流体が回転軸11に対し垂直に流入し軸方向に流出するラジアルタービンインペラであり、回転軸11まわりに配置される複数のタービン翼12を備える。
このタービン翼12は3次元形状を有しており、この図において、13は前縁、13aは前縁の平行部、13bは前縁の傾斜部、14は後縁、15はハブ、16はチップである。
【0017】
この図に示すように、以下の説明において、回転軸11から前縁の平行部13aまでの翼高さ方向(スパン方向)の長さをr0、回転軸11から前縁の傾斜部13bまでの翼高さ方向(スパン方向)の長さにおいて最短距離の長さをr、回転軸11からチップ16までの翼高さ方向(スパン方向)の長さにおいて最短距離の長さをr4と定義する。
また、以下の説明において、タービン翼12の上流端12aから前縁の傾斜部13bまでの軸方向の長さにおいて最短距離の長さをb、最長距離までの長さをb0と定義する。
【0018】
本発明によるインペラ10は、前縁13の子午面形状は、傾斜部13bとチップ16との交点が上流側(図で上方向)に膨らんだ形状となっている。
なお、この図において、前縁13の形状は折れ線であるが、本発明はこれに限定されず曲線であってもよい。
【0019】
従来は、前縁13の上方に位置するノズル(図示しない)から流体ガスが回転軸11方向に流れてくる際、ラジアルタービンの形状から前縁13において、ハブ15側よりもチップ16側の方がより前縁羽根角が大きいという特性があるために、チップ16側の方がガス入射の際の衝突による損失が大きい状態になっていた。
この問題に対し、本発明によって、チップ16側の径を下げることによって、上記損失を軽減させることができるという効果を得ることができる。
また、これによって、チップ16側の流体ガスについて流入角度を制御することが可能になる。
【0020】
図4は、本発明によるインペラ10を用いて、b/b0を0.5及びr/r0を0.97とした場合の効率予測結果表である。本発明のインペラ10を使用したことによって、図の通り小流量及び大流量において従来のものよりも効率が上がっている。
本発明において、b/b0は0.4以上0.6以下であり、r/r0は0.94以上0.97以下であることが望ましい。
かかる範囲内で各長さを設定することによって、上述した本発明の効果をより効果的に得ることができる。
ここで、小流量領域は効率が流量に対して増加する領域であり、大流量領域は効率が流量に対して低下する領域である。
【0021】
図5(A)は、b/b0に対するタービン効率についての表であり、図5(B)は、r/r0に対するタービン効率についての表である。
図5(A)において、小流量はb/b0が大きくなるに従ってタービン効率が下がっており、大流量はb/b0が0.4以上0.7以下近辺においてタービン効率は最大値を取っている。そのため、小流量と大流量の両方で高い改善効率を有するのは、b/b0が0.4以上0.6以下のときであると考えられる。
また、図5(B)において、小流量はr/r0が0.96以上0.98以下近辺においてタービン効率の最大値を取っており、大流量はr/r0が大きくなるに従ってタービン効率が上がっている。そのため、小流量と大流量の両方で高い改善効率を有するのは、r/r0が0.94以上0.97以下のときであると考えられる。
なお、図3において、図6のように、rがr4に近くなるほど、チップ16と前縁の傾斜部13bの交点付近において、チップ16の円弧部分が小さくなることになる。かかる場合、円弧部分を小さくするに従って、流れを後縁14方向に急激に変化させることになり、損失増加の要因となってしまう。よって、かかる形状(具体的には、r/r0が0.94以下である形状)を選定すると性能向上が期待できなくなるため、このような形状を選定することはできないということになる。
【0022】
図7は、翼前縁における流体の流出速度の説明図である。
図7(A)は、従来技術における前縁13の上流側における速度三角形であり、図7(B)は、本発明における前縁13の上流側における速度三角形を示している。この図において、Wは流体の相対速度、uは翼の旋回速度、Cは流体の絶対速度、β0は相対流入角度である。
【0023】
従来は、タービン翼12の前縁13において、相対流入角度β0が所定角度よりも大きい場合、図7(A)に示すようにインペラへの流入後に、流体ガスが隣接するタービン翼12との間において剥離渦17を発生させてしまい、ガス入射の際における衝突による損失を増加させる一因となっていた。
この点に対し、上記チップ側16の径を下げることによって、相対流入角度がβに縮小させることで、上記のような剥離渦17の発生を抑えることができるという効果を得ることが可能になる。
【0024】
具体的には、図7(A)と図7(B)を比較した場合に、本発明についての図7(B)においては、前縁13の一部の径を下げているため、その分だけインペラ10の前縁側において旋回速度uが減少している(図7(B)におけるu´は減少後の旋回速度)。
また、インペラ前縁へ流入する流体は、質量保存および各運動量保存が成り立つと仮定すると、前縁の径を下げた部分へ流入する流体の絶対速度Cは増加することになる(図7(B)におけるC´は増加後の絶対速度)。
この結果、相対流入角度は減少することとなる(図7(B)のβ´は減少後の相対流入角度)。
【0025】
よって、チップ16の径を下げることによって、流体ガスのインペラ流入後における剥離渦17の発生を抑えるという効果を得ることができる。
さらに、その結果として、ガス入射の際における衝突による損失を減少させることができるという効果を有する。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0027】
10 インペラ、
11 回転軸、12 タービン翼、
12a 上流端、13 前縁、13a 平行部、13b 傾斜部、
14 後縁、15 ハブ、16 チップ、17 流入ガスの剥離渦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が回転軸に対し垂直に流入し軸方向に流出するラジアルタービンインペラであって、
前記回転軸周りに配置される複数のタービン翼を備え、
前記タービン翼は、前記回転軸に平行な平行部と、
前記回転軸に対して傾斜した傾斜部と、からなる前縁を有する、ことを特徴とするラジアルタービンインペラ。
【請求項2】
前記平行部の長さは、前記前縁の全長に対する比率が40%以上60%以下であり、
前記回転軸から前記傾斜部までの最短の長さは、前記回転軸から前記平行部までの長さに対する比率が94%以上97%以下である、ことを特徴とするラジアルタービンインペラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36783(P2012−36783A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176128(P2010−176128)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】