ラジカル抑制剤
【解決課題】新規なラジカル抑制剤、これを含有する組成物、及び、これを用いたラジカル生成抑制方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るラジカル抑制剤は2価金属のサレン錯体化合物からなる。
【解決手段】本発明に係るラジカル抑制剤は2価金属のサレン錯体化合物からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル抑制剤、当該ラジカル抑制剤を含有した化粧料等の組成物、及び、当該ラジカル抑制剤を用いたラジカル抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「ラジカル」とは、不対電子をもつ原子や分子、あるいはイオンを意味し、フリーラジカルまたは遊離基とも呼ばれている。ラジカルは、通常、反応性が高く、酸化力が強いため、糖質、たんぱく質、脂肪などあらゆる有機化合物と反応する。
【0003】
これら有機化合物を主体とする製品が、ラジカルの生成によりその保存中に劣化し、異臭の発生、変色・退色、硬化、分解、変性や機能低下を起こすことがよく知られている。しかも、ラジカルおよびラジカルの生成に連鎖する化学反応により生じる過酸化物は、細胞、組織に対する障害作用があることから、近年、皮膚の老化、生活習慣病、炎症性疾患、悪性新生物等の各種疾患の発症や増殖の主要原因の一つとされている。
【0004】
ラジカルは、光照射や加温など日常的な環境条下で容易に生成されるため、ラジカルやその反応生成物である過酸化物による製品の劣化やヒトへの悪影響は、食品分野、化粧品分野、医薬品分野、化学工業品分野などの広範な分野で起こりえる。したがって、ラジカル生成を抑制することは、特定の分野に限らず、広く、製品の品質や機能の保持、ヒトの健康維持の上で重要である。
【0005】
この課題を解決するために、現在のところ、各分野においてもっとも汎用されている手段は、一般にラジカルスカベンジャーと呼ばれる物質、すなわち、ラジカルと反応してラジカルの反応性を阻止ないしは抑制する物質を、製品またはその原料に配合することである。しかしながら、ラジカルスカベンジャーによるラジカルの抑制効果は長時間持続するものではないという欠点がある。このような状況下、ラジカル生成抑制効果を有する機能性に優れた材料の更なる開発が望まれている。
【0006】
一方、特許第3556690号公報には、糖質のヒドロキシメチル基および/またはヘミアセタール水酸基を酸化してカルボキシル基としたカルボキシル化誘導体及びその製造方法が開示されている。また、特開平10−251263号公報、特開2002−153294号公報には、α,α―トレハース(α―D−グルコピラノシル―α―D−グルコピラノシド)が有する2個のヒドロキシメチル基を参加して得られる酸化トレハロース(α―D−グルクロノピラノシル―α―D−グルクロノピラノシド)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3556690号公報
【特許文献2】特開平10−251263号公報
【特許文献3】特開2002−153294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なラジカル抑制剤、これを含有した化粧料等の組成物、及び、これを用いたラジカル抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討したところ、2価金属の金属錯体化合物に顕著なラジカル抑制作用があることを見出し、本願発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、第1の本願発明は、2価金属錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤である。活性酸素等のフリーラジカルは、2価金属、例えば、サレンによって配位された2価金属にトラップされる。
【0011】
さらに、第2の本願発明は、2価金属錯体化合物を副成分として含有し、ラジカルによる変性、腐敗等が進まないようにした、化粧料等の外用組成物、医薬組成物、食品組成物等の各種組成物である。当該組成物における2価金属錯体の含有量は、ラジカルに対する抑制効果を発揮する上での必要十分な量であり、好適には、鉄等の金属サレン錯体化合物と混合成分としてのオリゴ糖の一種である含水結晶ネオトレハロース(株式会社林原生物化学研究所)を、例えば、重量比で3〜5:7〜5の割合で混合する。
【0012】
さらに、第3の本願発明は、2価金属錯体化合物を用いたラジカル生成抑制方法である。
【0013】
前記金属錯体化合物の好適な形態を下記(I)式として示す。
(I)
【0014】
X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素である。X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
【0015】
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
【0016】
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
【0017】
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
【0018】
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、
又は
b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。
【0019】
(A)−CO2R,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCH2CH2)2OCH3
(C)
(D)
(R2はアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR1R2(R1、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【0020】
本発明の金属錯体のうち、金属サレン錯体は、サレン(N,N'-ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン)が金属原子に配位した化合物である。本願出願人は、金属錯体化合物としての金属サレン錯体化合物が、磁性のキャリアを含むことなく、自身で磁性を有することと、抗癌効果を有する明らかにした(国際公開第2010/058280号公報)。既述のR3としては、例えば、同公報に記載の置換化合物を用いることができる。同公報の内容は、本願明細書の記載事項をなす。医薬分子等に対する金属錯体化合物の骨格は、医薬分子等の組成物に添加されることにより、また、医薬分子と結合することにより、医薬分子をフリーラジカルから保護する手段を提供する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本願発明によれば、新規なラジカル抑制剤、これを含有する組成物、及び、これを用いたラジカル抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記(I)で示される金属錯体化合物の実施形態は、下記の(II)乃至XIのいずれかである。
(II)
X,Y:6員環構造
(a〜h)=H
【0023】
(III)
X,Y:6員環構造
(c,f)=C(O)H
(a,b,d,e,g,h)=H
【0024】
(IV)
X,Y:5員環構造、(a,c,d,e,f,h)=H
【0025】
(V)
X,Y:6員環構造
(a,b,g,h):H
(e,f),(c,d):フランの一部を構成し、フランは主骨格に縮合している。
M:Fe
【0026】
(VI)
X,Y:6員環構造
(a,h):シクロヘキサンの一部を構成し、シクロヘキサンは主骨格に縮合している。
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe
【0027】
(VII)
X,Y:6員環構造
(a,h):ベンゼンの一部を構成
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe
【0028】
(VIII)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h):H
M:Fe
【0029】
(IX)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h)=H
(V)の異性体
M:Fe
【0030】
(X)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がハロゲン(臭素)である。
(a,b,g,h):H
M:Fe
【0031】
(XI)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がメトキシル基である。
(a,b,g,h):H
M:Fe
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
金属錯体化合物(II)の合成
(第1の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に従って合成した。
【0033】
(化合物1の合成)
グリシン・メチル・エステル一塩酸塩(glycine methyl ester monohydrochloride)(10.0g, 0.079mol)を含むギ酸エチル(ethyl formate)溶液(60mL)にP-TsOH (10 mg)を加えた。そして、その溶液を加熱して沸騰させた。沸騰中にトリエチルアミン(triethylamine)を数滴滴下し、その混合液を24時間還流した。その後、その溶液を室温まで冷却した。白いトリエチルアミン塩酸塩をろ過した。ろ過物を20mLまで濃縮した。得られた溶液をマイナス摂氏5度まで冷却し、ろ過を行った。ろ過物である、赤茶色の濃縮溶液(化合物1)を得た。
【0034】
(化合物2の合成)
化合物1に、CH2Cl2 (20mL)を溶かした。その後に、ethane-1,2-diamine(1.2g)、そして、酢酸(HOAc)(20μL)を加えた。反応させた混合溶液を6時間還流させた。そして、反応混合溶液を室温まで冷却し、4グラムの黄色い油状の濃縮物(化合物2)を得た。得られた化合物2の純度を、シリカゲルを用いたフラッシュコラムクロマトグラフィーによって向上させた。
【0035】
(化合物0の合成)
メタノール(50ml)の中に化合物2、triethylamineを入れ、10mlメタノールの中に、金属塩化物(鉄サレン錯体化合物の合成の際は、FeCl3(4H2O)である。)溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、これを真空中で乾燥した。得られた化合物をジクロロメタン400mLで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、真空中で乾燥させて化合物0(金属錯体化合物(II))を得た。
【0036】
(第2の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0037】
氷上の酢酸でpH6に調整しながら無水メタノール(50mL)の中に3.4gの3-メチルアセチルアセトン(化合物2)と0.9gのエチレンジアミン(化合物1)を入れて化合物3を合成した。得られた溶液を15分間還流し、これが半分の体積になるまで蒸発させた。その後、同体積の水を加えて析出させたところ1.4gの白い化合物(化合物3)を合成した。
【0038】
その後、化合物3(1.2g、5mmol)をメタノール(50mL)に入れ、FeSO4・7H2O
(1.4 g, 5 mmol)を加えたところ、青白い緑の溶液が得られた。混合溶液を、8時間、室温、窒素雰囲気で攪拌したところ、色が徐々に茶色になった。その後、溶液を蒸発させてその体積を半分にした後、同体積の水を加えた。次いで、真空引きでメタノールを蒸発させたて茶色の塊を得た。その塊を集めて水で洗浄し、真空引きで乾燥したところ目的の化合物0(鉄錯体化合物(II))が360mg得られた。
【0039】
(第3の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0040】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し1.07gの中間体を得た。
【0041】
窒素雰囲気下、中間体(1.07mg, 3.4 mmol)、配位原子(0.70g, 3.4 mmol)、脱気デカリン30mLを反応容器に仕込み、還流下1時間攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン10mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、0.17gの生成物(鉄錯体化合物(II))を得た。
【0042】
(実施例2)
金属錯体化合物(III)の合成
金属錯体化合物(III)を次の反応式に基づいて合成した。
【0043】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.78g, 4.5mmol)、脱気メタノール20mLを仕込み、アセチルアセトン(0.91g, 9.9mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し0.58gの中間体を得た(収率 67%)。
【0044】
窒素雰囲気下、中間体(240mg, 0.75 mmol)、配位原子(210mg, 0.75 mmol)、脱気デカリン10mLを反応容器に仕込み、還流下30分攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン3mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、101mgの生成物(金属錯体化合物(III))を得た。
【0045】
(実施例3)
金属錯体化合物(IV)の合成
金属錯体化合物(IV)を次の反応式に基づいて合成した。
【0046】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。CH2Cl2(10mL)に溶かした化合物1の溶液(60mg, 1.0 mmol)に化合物2(120mg, 2.0 mmol)とSiO2 (1g)を加えた。得られた溶液を、反応させるため終夜、室温で攪拌したところ化合物3が合成された。その後、得られた化合物を窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを入れ、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、析出した結晶をろ過したところ茶色の目的化合物(金属錯体化合物(IV))を得た。
【0047】
(実施例4)
前記(V)〜(XI)の化合物は、国際公開第2010/058280号公報43〜47頁に記載の方法によって合成する。側鎖である臭素、又は、メトキシル基の主骨格への付加は、サレンに金属錯体の結合を形成する際に、ベンゼン環のOH基とはパラの位置でベンゼン環に結合している保護基(NHBoc)を臭素、又は、メトキシル基で置換する。(c,d),(e,f)がアントラセンを構成する(VIII)及び(IX)の化合物では、出発物質として、パラニトロフェノールに代えて、下記化合物を使用する。
(a,h)がシクロヘキサンを構成する金属サレン錯体(VI)、さらに、(a,h)がベンゼンを構成する金属サレン錯体(VII)の合成については、Journal of
thermal Analysis and Calorimetry, Vol.75(2004)599-606 のExperimental
の600Pに記載の方法によって、金属と配位結合する前の目的のサレンを作成する。
【0048】
(実施例5)
下記(1)の化合物は、鉄の2価のサレン錯体化合物である。本化合物はがん細胞の中に存在する活性酸素と結合して酸素ラジカルをトラップするにより、2価から3価に変化する。ここでは、下記(1)の化合物ががん細胞から発生する酸素ラジカルをトラップする様子を3価の錯体を検出して発色するヘマトキシン(hamatoxylin)を用いて確認した。
(R1,R2,R3,R4は、いずれも「H」である。)
【0049】
最初に皮膚がんであるメラノーマ細胞(clone
M3)を(1)式の鉄サレン錯体化合物(濃度1mM)の存在下で培養した。培養は丸型シャーレを用い、そのシャーレ(直径100mm)の下に磁束密度240mTの丸いボタン状の磁石(直径10mm)を置き、そのシャーレを24時間培養した(培地はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)、培養時間24時間、培養温度37℃)。この培地をヘマトキシリンで染色した。
【0050】
染色の手法は次のとおりである。
(1)脱パラフィン、脱キシレン、水洗を行う。
(2)核染色をヘマトキシリンで5-15分行う。
(3)軽く水洗をする。
(4)必要に応じ0.25%−0.5%塩酸水で分別する。
(5)色だしを行うため、流水で水洗10分(冬季15分)する。
(6)水洗5分(アルカリ水にて色だしを行った場合に必要)行う。
(7)細胞質染色(エオシン)1分−1010分行う。
(8)脱水、透徹、封入して、染色を終了する。
【0051】
以上の結果、ボタン状磁石の直下及びその周辺で、培地が青紫色に染色されたことが確認された。これは、化合物(1)ががん細胞から生じる酸素ラジカル原子をトラップすることによって2価から3価に変化してことを示している。また、染色された領域では、メラノーマ細胞が死滅していることを顕微鏡によって確認した。なお、2価金属サレン錯体の抗ラジカル作用の発揮のためには、ボタン状磁石の存在は必須ではない。ボタン状磁石を置いたのは、2価金属サレン錯体の濃度を高めるためである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル抑制剤、当該ラジカル抑制剤を含有した化粧料等の組成物、及び、当該ラジカル抑制剤を用いたラジカル抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「ラジカル」とは、不対電子をもつ原子や分子、あるいはイオンを意味し、フリーラジカルまたは遊離基とも呼ばれている。ラジカルは、通常、反応性が高く、酸化力が強いため、糖質、たんぱく質、脂肪などあらゆる有機化合物と反応する。
【0003】
これら有機化合物を主体とする製品が、ラジカルの生成によりその保存中に劣化し、異臭の発生、変色・退色、硬化、分解、変性や機能低下を起こすことがよく知られている。しかも、ラジカルおよびラジカルの生成に連鎖する化学反応により生じる過酸化物は、細胞、組織に対する障害作用があることから、近年、皮膚の老化、生活習慣病、炎症性疾患、悪性新生物等の各種疾患の発症や増殖の主要原因の一つとされている。
【0004】
ラジカルは、光照射や加温など日常的な環境条下で容易に生成されるため、ラジカルやその反応生成物である過酸化物による製品の劣化やヒトへの悪影響は、食品分野、化粧品分野、医薬品分野、化学工業品分野などの広範な分野で起こりえる。したがって、ラジカル生成を抑制することは、特定の分野に限らず、広く、製品の品質や機能の保持、ヒトの健康維持の上で重要である。
【0005】
この課題を解決するために、現在のところ、各分野においてもっとも汎用されている手段は、一般にラジカルスカベンジャーと呼ばれる物質、すなわち、ラジカルと反応してラジカルの反応性を阻止ないしは抑制する物質を、製品またはその原料に配合することである。しかしながら、ラジカルスカベンジャーによるラジカルの抑制効果は長時間持続するものではないという欠点がある。このような状況下、ラジカル生成抑制効果を有する機能性に優れた材料の更なる開発が望まれている。
【0006】
一方、特許第3556690号公報には、糖質のヒドロキシメチル基および/またはヘミアセタール水酸基を酸化してカルボキシル基としたカルボキシル化誘導体及びその製造方法が開示されている。また、特開平10−251263号公報、特開2002−153294号公報には、α,α―トレハース(α―D−グルコピラノシル―α―D−グルコピラノシド)が有する2個のヒドロキシメチル基を参加して得られる酸化トレハロース(α―D−グルクロノピラノシル―α―D−グルクロノピラノシド)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3556690号公報
【特許文献2】特開平10−251263号公報
【特許文献3】特開2002−153294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なラジカル抑制剤、これを含有した化粧料等の組成物、及び、これを用いたラジカル抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討したところ、2価金属の金属錯体化合物に顕著なラジカル抑制作用があることを見出し、本願発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、第1の本願発明は、2価金属錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤である。活性酸素等のフリーラジカルは、2価金属、例えば、サレンによって配位された2価金属にトラップされる。
【0011】
さらに、第2の本願発明は、2価金属錯体化合物を副成分として含有し、ラジカルによる変性、腐敗等が進まないようにした、化粧料等の外用組成物、医薬組成物、食品組成物等の各種組成物である。当該組成物における2価金属錯体の含有量は、ラジカルに対する抑制効果を発揮する上での必要十分な量であり、好適には、鉄等の金属サレン錯体化合物と混合成分としてのオリゴ糖の一種である含水結晶ネオトレハロース(株式会社林原生物化学研究所)を、例えば、重量比で3〜5:7〜5の割合で混合する。
【0012】
さらに、第3の本願発明は、2価金属錯体化合物を用いたラジカル生成抑制方法である。
【0013】
前記金属錯体化合物の好適な形態を下記(I)式として示す。
(I)
【0014】
X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素である。X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
【0015】
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
【0016】
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
【0017】
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
【0018】
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、
又は
b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。
【0019】
(A)−CO2R,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCH2CH2)2OCH3
(C)
(D)
(R2はアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR1R2(R1、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【0020】
本発明の金属錯体のうち、金属サレン錯体は、サレン(N,N'-ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン)が金属原子に配位した化合物である。本願出願人は、金属錯体化合物としての金属サレン錯体化合物が、磁性のキャリアを含むことなく、自身で磁性を有することと、抗癌効果を有する明らかにした(国際公開第2010/058280号公報)。既述のR3としては、例えば、同公報に記載の置換化合物を用いることができる。同公報の内容は、本願明細書の記載事項をなす。医薬分子等に対する金属錯体化合物の骨格は、医薬分子等の組成物に添加されることにより、また、医薬分子と結合することにより、医薬分子をフリーラジカルから保護する手段を提供する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本願発明によれば、新規なラジカル抑制剤、これを含有する組成物、及び、これを用いたラジカル抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記(I)で示される金属錯体化合物の実施形態は、下記の(II)乃至XIのいずれかである。
(II)
X,Y:6員環構造
(a〜h)=H
【0023】
(III)
X,Y:6員環構造
(c,f)=C(O)H
(a,b,d,e,g,h)=H
【0024】
(IV)
X,Y:5員環構造、(a,c,d,e,f,h)=H
【0025】
(V)
X,Y:6員環構造
(a,b,g,h):H
(e,f),(c,d):フランの一部を構成し、フランは主骨格に縮合している。
M:Fe
【0026】
(VI)
X,Y:6員環構造
(a,h):シクロヘキサンの一部を構成し、シクロヘキサンは主骨格に縮合している。
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe
【0027】
(VII)
X,Y:6員環構造
(a,h):ベンゼンの一部を構成
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
(b,g):H
M:Fe
【0028】
(VIII)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h):H
M:Fe
【0029】
(IX)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):アントラセンを構成
(a,b,g,h)=H
(V)の異性体
M:Fe
【0030】
(X)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がハロゲン(臭素)である。
(a,b,g,h):H
M:Fe
【0031】
(XI)
X,Y:6員環構造
(c,d),(e,f):ベンゼンを構成
ベンゼンのメタ位置の側鎖がメトキシル基である。
(a,b,g,h):H
M:Fe
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
金属錯体化合物(II)の合成
(第1の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に従って合成した。
【0033】
(化合物1の合成)
グリシン・メチル・エステル一塩酸塩(glycine methyl ester monohydrochloride)(10.0g, 0.079mol)を含むギ酸エチル(ethyl formate)溶液(60mL)にP-TsOH (10 mg)を加えた。そして、その溶液を加熱して沸騰させた。沸騰中にトリエチルアミン(triethylamine)を数滴滴下し、その混合液を24時間還流した。その後、その溶液を室温まで冷却した。白いトリエチルアミン塩酸塩をろ過した。ろ過物を20mLまで濃縮した。得られた溶液をマイナス摂氏5度まで冷却し、ろ過を行った。ろ過物である、赤茶色の濃縮溶液(化合物1)を得た。
【0034】
(化合物2の合成)
化合物1に、CH2Cl2 (20mL)を溶かした。その後に、ethane-1,2-diamine(1.2g)、そして、酢酸(HOAc)(20μL)を加えた。反応させた混合溶液を6時間還流させた。そして、反応混合溶液を室温まで冷却し、4グラムの黄色い油状の濃縮物(化合物2)を得た。得られた化合物2の純度を、シリカゲルを用いたフラッシュコラムクロマトグラフィーによって向上させた。
【0035】
(化合物0の合成)
メタノール(50ml)の中に化合物2、triethylamineを入れ、10mlメタノールの中に、金属塩化物(鉄サレン錯体化合物の合成の際は、FeCl3(4H2O)である。)溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、これを真空中で乾燥した。得られた化合物をジクロロメタン400mLで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、真空中で乾燥させて化合物0(金属錯体化合物(II))を得た。
【0036】
(第2の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0037】
氷上の酢酸でpH6に調整しながら無水メタノール(50mL)の中に3.4gの3-メチルアセチルアセトン(化合物2)と0.9gのエチレンジアミン(化合物1)を入れて化合物3を合成した。得られた溶液を15分間還流し、これが半分の体積になるまで蒸発させた。その後、同体積の水を加えて析出させたところ1.4gの白い化合物(化合物3)を合成した。
【0038】
その後、化合物3(1.2g、5mmol)をメタノール(50mL)に入れ、FeSO4・7H2O
(1.4 g, 5 mmol)を加えたところ、青白い緑の溶液が得られた。混合溶液を、8時間、室温、窒素雰囲気で攪拌したところ、色が徐々に茶色になった。その後、溶液を蒸発させてその体積を半分にした後、同体積の水を加えた。次いで、真空引きでメタノールを蒸発させたて茶色の塊を得た。その塊を集めて水で洗浄し、真空引きで乾燥したところ目的の化合物0(鉄錯体化合物(II))が360mg得られた。
【0039】
(第3の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0040】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し1.07gの中間体を得た。
【0041】
窒素雰囲気下、中間体(1.07mg, 3.4 mmol)、配位原子(0.70g, 3.4 mmol)、脱気デカリン30mLを反応容器に仕込み、還流下1時間攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン10mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、0.17gの生成物(鉄錯体化合物(II))を得た。
【0042】
(実施例2)
金属錯体化合物(III)の合成
金属錯体化合物(III)を次の反応式に基づいて合成した。
【0043】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.78g, 4.5mmol)、脱気メタノール20mLを仕込み、アセチルアセトン(0.91g, 9.9mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し0.58gの中間体を得た(収率 67%)。
【0044】
窒素雰囲気下、中間体(240mg, 0.75 mmol)、配位原子(210mg, 0.75 mmol)、脱気デカリン10mLを反応容器に仕込み、還流下30分攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン3mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、101mgの生成物(金属錯体化合物(III))を得た。
【0045】
(実施例3)
金属錯体化合物(IV)の合成
金属錯体化合物(IV)を次の反応式に基づいて合成した。
【0046】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。CH2Cl2(10mL)に溶かした化合物1の溶液(60mg, 1.0 mmol)に化合物2(120mg, 2.0 mmol)とSiO2 (1g)を加えた。得られた溶液を、反応させるため終夜、室温で攪拌したところ化合物3が合成された。その後、得られた化合物を窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを入れ、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、析出した結晶をろ過したところ茶色の目的化合物(金属錯体化合物(IV))を得た。
【0047】
(実施例4)
前記(V)〜(XI)の化合物は、国際公開第2010/058280号公報43〜47頁に記載の方法によって合成する。側鎖である臭素、又は、メトキシル基の主骨格への付加は、サレンに金属錯体の結合を形成する際に、ベンゼン環のOH基とはパラの位置でベンゼン環に結合している保護基(NHBoc)を臭素、又は、メトキシル基で置換する。(c,d),(e,f)がアントラセンを構成する(VIII)及び(IX)の化合物では、出発物質として、パラニトロフェノールに代えて、下記化合物を使用する。
(a,h)がシクロヘキサンを構成する金属サレン錯体(VI)、さらに、(a,h)がベンゼンを構成する金属サレン錯体(VII)の合成については、Journal of
thermal Analysis and Calorimetry, Vol.75(2004)599-606 のExperimental
の600Pに記載の方法によって、金属と配位結合する前の目的のサレンを作成する。
【0048】
(実施例5)
下記(1)の化合物は、鉄の2価のサレン錯体化合物である。本化合物はがん細胞の中に存在する活性酸素と結合して酸素ラジカルをトラップするにより、2価から3価に変化する。ここでは、下記(1)の化合物ががん細胞から発生する酸素ラジカルをトラップする様子を3価の錯体を検出して発色するヘマトキシン(hamatoxylin)を用いて確認した。
(R1,R2,R3,R4は、いずれも「H」である。)
【0049】
最初に皮膚がんであるメラノーマ細胞(clone
M3)を(1)式の鉄サレン錯体化合物(濃度1mM)の存在下で培養した。培養は丸型シャーレを用い、そのシャーレ(直径100mm)の下に磁束密度240mTの丸いボタン状の磁石(直径10mm)を置き、そのシャーレを24時間培養した(培地はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)、培養時間24時間、培養温度37℃)。この培地をヘマトキシリンで染色した。
【0050】
染色の手法は次のとおりである。
(1)脱パラフィン、脱キシレン、水洗を行う。
(2)核染色をヘマトキシリンで5-15分行う。
(3)軽く水洗をする。
(4)必要に応じ0.25%−0.5%塩酸水で分別する。
(5)色だしを行うため、流水で水洗10分(冬季15分)する。
(6)水洗5分(アルカリ水にて色だしを行った場合に必要)行う。
(7)細胞質染色(エオシン)1分−1010分行う。
(8)脱水、透徹、封入して、染色を終了する。
【0051】
以上の結果、ボタン状磁石の直下及びその周辺で、培地が青紫色に染色されたことが確認された。これは、化合物(1)ががん細胞から生じる酸素ラジカル原子をトラップすることによって2価から3価に変化してことを示している。また、染色された領域では、メラノーマ細胞が死滅していることを顕微鏡によって確認した。なお、2価金属サレン錯体の抗ラジカル作用の発揮のためには、ボタン状磁石の存在は必須ではない。ボタン状磁石を置いたのは、2価金属サレン錯体の濃度を高めるためである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価金属の錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤であって、
前記金属錯体化合物は、下記(I)式からなる、ラジカル抑制剤。
(I)
X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、
Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素であり、
X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、
さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、
又は
b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。
(A)−CO2R,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCH2CH2)2OCH3
(C)
(D)
(R2はアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR1R2(R1、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【請求項2】
前記(I)が下記化合物(II)である、請求項1記載のラジカル抑制剤。
(II)
【請求項3】
前記(I)が下記化合物(III)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
【請求項4】
前記(I)が下記化合物(IV)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
【請求項5】
前記(I)が下記化合物(V)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(V)
【請求項6】
前記(I)が下記(VI)又は(VII)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(VI)
(VII)
【請求項7】
前記(I)が、下記(VIII)又は(IX)である、請求項1記載のラジカル抑制剤。
(VIII)
(IX)
【請求項8】
前記(I)が下記(X)又は(XI)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(X)
(XI)
【請求項9】
金属サレン錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のラジカル抑制剤を含有する、抗ラジカル作用を備えた組成物。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れか1項記載のラジカル抑制剤を利用した、ラジカル抑制方法。
【請求項1】
2価金属の錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤であって、
前記金属錯体化合物は、下記(I)式からなる、ラジカル抑制剤。
(I)
X及びYは、NとMとの間の配位結合を含む5員環構造、又は、その6員環構造であり、
Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdからなる2価の金属元素であり、
X及びYが共に前記5員環構造の場合、b,gは無く、
さらに、前記(I)は、下記(i)〜(iv)のいずれかである。
(i)a〜hのそれぞれは、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
(ii)(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、ヘテロ環式構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記ヘテロ環式構造との縮合体を構成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、又は、
下記(A)〜(G)、及び、−C(=O)m(mは水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。)の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造は、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、ピラゾロン、イミダゾール、2−イソイミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、1,2−ピラン、チアジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトキサジン(orthoxazine)、オキサジン、ピペリジン、ピペラジン、トリアジン、デオキサン(Dioxane)、モルフォリン、を含む、3−7員環式構造の何れかであり、
前記ヘテロ環式構造の側鎖は、ハロゲン、−R、−O−R(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iii)
(c,d)、及び、(f,e)は、それぞれ、
ベンゼン、又は、ナフタレン、及び、アントラセンを含む縮合環式構造の一つの一部を形成して、前記(I)化合物と前記縮当環式構造との縮合体を形成させるものであり、
a、b、g、hは、それぞれ、
水素であるか、下記(A)〜(G)の何れかであり、
前記縮合環式構造の側鎖は、ハロゲン、R−O−:(Rはメチル基を含む炭化水素基から選択された一つの官能基である。)、又は、水素であり、
(iv)
a,hは下記化合物を含む環状炭化水素構造の一部を形成して、前記(I)化合物と前記環状炭化水素構造の縮合体を形成するものであり、
又は
b〜g、及び、前記環状炭化水素構造の側鎖は、それぞれ、水素であるか、又は、下記(A)〜(G)の何れかである。
(A)−CO2R,−C(=O)R(Rは、水素、又は、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素である。)
(B)−CO(OCH2CH2)2OCH3
(C)
(D)
(R2はアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ないし、ウラシルからなる核酸の一つ又は複数が結合されたものである。)、
(E)−NHCOH、又は、−NR1R2(R1、R2は、水素、同一又は異なる、C1〜C6の飽和構造、又は、不飽和構造(アルケン、又は、アルキン)からなる鎖状又は環状炭化水素)
(F)−NHR3−、−NHCOR3、−CO2−R3、−S−S−R3、又は、−R3(R3は、水素、又は、水酸基等の脱離基が脱離して縮合した置換化合物であり、当該置換化合物は、酵素、抗体、抗原、ペプチド、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、核酸、及び、医薬分子の少なくとも一つからなる機能性分子である。)
(G)塩素、臭素、弗素などのハロゲン原子
【請求項2】
前記(I)が下記化合物(II)である、請求項1記載のラジカル抑制剤。
(II)
【請求項3】
前記(I)が下記化合物(III)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
【請求項4】
前記(I)が下記化合物(IV)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
【請求項5】
前記(I)が下記化合物(V)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(V)
【請求項6】
前記(I)が下記(VI)又は(VII)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(VI)
(VII)
【請求項7】
前記(I)が、下記(VIII)又は(IX)である、請求項1記載のラジカル抑制剤。
(VIII)
(IX)
【請求項8】
前記(I)が下記(X)又は(XI)である請求項1記載のラジカル抑制剤。
(X)
(XI)
【請求項9】
金属サレン錯体化合物をラジカル抑制成分として含有するラジカル抑制剤。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のラジカル抑制剤を含有する、抗ラジカル作用を備えた組成物。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れか1項記載のラジカル抑制剤を利用した、ラジカル抑制方法。
【公開番号】特開2013−95760(P2013−95760A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236486(P2011−236486)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505328683)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505328683)
【Fターム(参考)】
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