説明

ラジカル硬化型成形用樹脂組成物および樹脂成形品

【課題】
発泡することなしに速硬化させることのできるラジカル硬化型成形用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
ラジカル反応性モノマー、ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂、並びに、ラジカル硬化剤を含有するラジカル硬化型成形用樹脂組成物であって、
ラジカル硬化剤として、少なくとも、ラジカル反応性モノマーが蒸発し発泡する温度域である沸点を中心に温度差±20℃以内の温度域で分解する硬化剤Aと、
この硬化剤Aの分解温度よりも20℃以上低い温度で分解する硬化剤Bとを含み、
硬化剤Aと硬化剤Bとの両者の総配合量は、ラジカル反応性モノマーとラジカル硬化型の熱硬化性樹脂との合計量:100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部未満のラジカル硬化型成形用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡することなしに速硬化させることのできるラジカル硬化型成形用樹脂組成物および樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にラジカル硬化型樹脂を速硬化させるには、硬化剤を増量することが知られている。しかし、ただ単純に硬化剤を増量させるだけでは硬化速度を速めることはできるが、急激な発熱を生じるために、部分的にゲル化が起こり、いわゆるプリゲル現象により、成形品の表面に肌荒れやあばたができるなどの表面欠陥が生じることがあった。
【0003】
その改良として、分解温度が少しずれた2つの硬化剤を併用して、成形時の加熱過程で早めに樹脂の硬化をスタートさせて、結果的に速く硬化・成形する手法のラジカル硬化型成形用樹脂組成物が種々試みられてきた。
【0004】
プレス成形法などに於ける加熱過程で、先ず70℃付近で、中低温分解型の有機過酸化物の硬化剤が分解して硬化反応が始まり、次いで、その誘発効果や外部加熱で温度上昇して、100℃前後で、高温分解型の有機過酸化物の硬化剤が分解して、そのラジカルにより樹脂の硬化が更に進むという手法のラジカル硬化型成形用樹脂組成物である。
(特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−145719号公報
【特許文献2】特開平10−158496号公報
【特許文献3】特開2000−238058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した硬化剤併用のラジカル硬化型成形用樹脂組成物では、プリゲル現象の肌荒れや、流動プリゲル現象による流れ模様は抑制できても、微細な表面欠陥の外観不良や、成形サイクル短縮化などの解決課題は、依然として残されたままである。
【0007】
すなわち、ラジカル硬化型樹脂に配合使用されているラジカル反応性モノマーが、加熱成形時にじわじわと蒸発、発泡し、その気泡で外観不良がもたらされる。
ラジカル反応性モノマーは、ラジカル硬化型樹脂の取扱い性向上や、成形作業の便宜のため、ラジカル硬化型樹脂に配合されている必須不可欠な成分であるから、その存在を前提に発泡の抑制を図ることが必要になる。
【0008】
そこで、本発明では、ラジカル反応性モノマーを含むラジカル硬化型樹脂の成形時に、ラジカル反応性モノマーの蒸発・発泡を抑えることができ、成形品の外観向上を図ることのできるラジカル硬化型成形用樹脂組成物および樹脂成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、ラジカル反応性モノマー、ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂、並びに、ラジカル硬化剤を含有するラジカル硬化型成形用樹脂組成物であって、ラジカル硬化剤として、少なくとも、ラジカル反応性モノマーが蒸発し発泡する温度域である沸点を中心に温度差±20℃以内の温度域で分解する硬化剤Aと、
この硬化剤Aの分解温度よりも20℃以上低い温度で分解する硬化剤Bとを含み、
硬化剤Aと硬化剤Bとの両者の総配合量は、ラジカル反応性モノマーとラジカル硬化型の熱硬化性樹脂との合計量:100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部未満であることを特徴としている。
【0010】
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物においては、硬化剤Aと硬化剤Bとの質量比B/Aが、0.5〜5の範囲内であることが好ましい。
また、本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物においては、ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル系樹脂、アリル樹脂、ビニルエステル樹脂の中から選ばれる一つまたは複数の樹脂であり、ラジカル反応性モノマーがスチレン、α−メチルスチレン、フマル酸、メチルメタクリレートの中から選ばれる一つまたは複数のモノマーであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の樹脂成形品は、上記したいずれかのラジカル硬化型成形用樹脂組成物が加熱硬化され成形されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、ラジカル反応性モノマーを含むラジカル硬化型樹脂の成形時に、ラジカル反応性モノマーの蒸発・発泡を抑えることができ、成形品の外観向上を図ることができ、成形サイクルを短縮化できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、発泡することがほとんどなしに速硬化させることのできるラジカル硬化型成形用樹脂組成物を提供する。
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、ラジカル反応性モノマー、ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂、並びに、ラジカル硬化剤を含有するラジカル硬化型成形用樹脂組成物であって、ラジカル硬化剤として、少なくとも、ラジカル反応性モノマーが蒸発し発泡する温度域、即ち、沸点を中心に温度差±20℃以内の温度域で分解する硬化剤Aと、この硬化剤Aの分解温度よりも20℃以上低い温度で分解する硬化剤Bとを含んでいる。
【0014】
[ラジカル反応性モノマー]
本発明におけるラジカル反応性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、フマル酸、メチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0015】
[ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂]
本発明におけるラジカル硬化型の熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ビニルエステル樹脂等のラジカル硬化型樹脂であればよく、その平均分子量や分子構造には制限がなく所望する諸物性にあわせて選定することができる。また、ラジカル反応性単官能モノマーや多官能モノマーを希釈剤として含んでいても良い。
【0016】
[ラジカル硬化剤]
本発明におけるラジカル硬化剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンソイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2-メチルシクロヘキサン、t−アルミパーオキシベンソエート、ジクミルパーオキサイド等の有機化酸化物が挙げられる。
【0017】
本発明でいうラジカル硬化剤の分解温度とは、半減期が10時間となる温度、即ち、10時間半減期温度(T10)である。
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、ラジカル反応性モノマーが蒸発し発泡する温度域である沸点を中心に温度差±20℃以内の温度域で分解する硬化剤Aと、この硬化剤Aの分解温度よりも20℃以上低い温度で分解する硬化剤Bとを必ず含んでいる。
【0018】
分解温度差が20℃以下で近似する2種の硬化剤の併用では、ラジカル反応性モノマーの蒸発・発泡を充分に抑制できないし、加熱過程で、両硬化剤の作用により急激に硬化が進む状況が生じ、それを契機に発熱量が大きくなりラジカル反応性モノマーの蒸発・発泡が活発化するので、避けなければならない。
【0019】
硬化剤Aと硬化剤Bとの両者の総配合量は、ラジカル反応性モノマーとラジカル硬化型の熱硬化性樹脂との合計量:100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部未満である。0.5質量部未満では、充分に加熱しても硬化反応にかなり長時間かかって不都合であるし、5.0質量部以上では、急激に硬化反応が進んでラジカル反応性モノマーの発泡が抑制できず成形品表面が荒れることが懸念されるからである。
【0020】
硬化剤Aと硬化剤Bとの質量比B/Aは、0.5〜5の範囲内である。
硬化剤Bが少なくてB/Aが0.5未満では、低中温度域での硬化反応が緩やかにすぎるし、硬化剤Bが多く硬化剤Aが少なくてB/Aが5を越える状況では、高温度域での硬化反応が緩やかに過ぎるし、ラジカル反応性モノマーの蒸発・発泡を充分に抑制できないからである。
なお、上記した留意点が守られれば、必要に応じて、3種類以上の硬化剤を併用することもできる。
【0021】
[無機充填剤]
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、公知の種々の無機充填剤を含有していてもよい。無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、アルミナ、ガラス繊維、珪砂、タルク等の無機充填フイラーなどが挙げられる。必要に応じて単独であるいは2種類以上を併用して使用することもできる。
【0022】
[他の配合成分]
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分の具体例としては、難燃剤、密着性付与剤、着色剤、消泡剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0023】
[適用される成形方法]
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、圧縮成形、トランスファー成形、BMC法、SMC法など種々の成形方法に適用できる。
【0024】
[適用される用途]
本発明のラジカル硬化型成形用樹脂組成物は、上記した種々の成形方法により、バスタブ、クーリングタワー、水タンク、浄化槽、自動車部品、電気機器部品などの用途に適用できる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
スチレンモノマー(沸点145℃)を20〜30%含有する不飽和ポリエステル樹脂「リゴラック158BQT(昭和高分子)」100質量部と、炭酸カルシウム「SS#30(日東粉化工業)」100質量部を混合して熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0026】
ついで、硬化剤として、分解温度(「10時間半減期温度」を意味する。以下、同様。)が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」0.5質量部と、分解温度が70℃であるt−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノネート「トリゴノックス121−50E(化薬アクゾ)」1.0質量部を複合させた樹脂組成物を、成形品の厚みが7mm、型温度が上型130℃、下型150℃である試験用の型内に流し込み、1時間加熱することで成形品を得た。
【0027】
(実施例2)
硬化剤を、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」1.0質量部と、分解温度が159℃であるクメンハイドロパーオキサイド「カヤクメンH(化薬アクゾ)」0.5質量部にした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0028】
(実施例3)
硬化剤を、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」0.5質量部と、分解温度が97℃であるt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート「カヤカルボンBIC-75(化薬アクゾ)」1.0質量部にした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0029】
(実施例4)
硬化剤を、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤプチルD(化薬アクゾ)」0.5質量部と、97℃であるt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート「カヤカルボンBIC−75(化薬アクゾ)」0.4質量部と、分解温度が70℃であるt−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノネート「トリゴノックス121−50E(化薬アクゾ)」0.6質量部にした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0030】
(比較例1)
硬化剤を、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」1.5質量部のみにした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
(比較例2)
硬化剤を、分解温度が117℃であるジクミルパーオキサイド「カヤクミルD(化薬アクゾ)」1.5質量部のみにした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0031】
(比較例3)
硬化剤を、分解温度が97℃であるt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート「カヤカルボンBIC-75(化薬アクゾ)」1.5質量部のみにした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
(比較例4)
硬化剤として、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」0.5質量部と、分解温度が117℃であるジクミルパーオキサイド「カヤクミルD(化薬アクゾ)」1.0質量部にした以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0032】
[各実施例・比較例の配合組成と評価の結果]
各実施例・比較例の配合組成と評価の結果を表1にまとめて示す。
実験の結果欄の「樹脂の発熱ピーク時間」は、樹脂組成物の加熱開始から樹脂組成物の発熱ピークに至る時間(分)を示す。
【0033】
ラジカル硬化型成形用樹脂組成物を加熱して成形する場合、発熱ピークに至るまでの時間が短いと、所望の硬化状態になるまでの時間が短くなるため、硬化速度が速くなる。
硬化速度の判定として、この発熱ピークに至るまでの時間の値が、15分以下のものには「速硬化」として○印を付した。その目安時間の半分以下のもの(実施例4)、(7分)には◎印を付した。他方、15分を超え20分以下のものには△印を、さらに20分を超えたものには×印を付した。
【0034】
なお、ラジカル硬化型熱成形では、硬化反応に起因する硬化収縮などで一時的に応力が発生し、変形したり反り返って成形不良となるのを回避するため、型内での加熱を更にしばらく継続することが常である。
【0035】
評価の結果欄の「成形品の外観」は、成形品の表面について、モノマーの発泡による細かな凹凸や、プリゲル現象による肌荒れや、流動プリゲル現象による流れ模様が無いかを子細に目視観察した結果を示す。○印はそれらの外観不良が一切無いものであり、外観不良があるものについては、その程度や内容をコメントした。
【0036】
表1より、各実施例では、いずれも、成形品の表面は、モノマーの発泡による細かな凹凸や、プリゲル現象による肌荒れや、流動プリゲル現象による流れ模様が無い優れた外観であり、且つ、発熱ピークに至るまでの時間も15分以下で「速硬化」できた。
【0037】
特に、実施例4は、硬化剤A(分解温度126℃)、硬化剤B(分解温度70℃)に第3の硬化剤C(分解温度97℃)を加えた3種の併用であるが、相互に分解温度差が20℃以上有り、配合量も分散されており、加熱過程で、併用剤により急激に硬化が進む状況は避けられているので、モノマーの蒸発・発泡は充分に抑制され、かつ、硬化速度も早い結果となっている。([ラジカル硬化剤]欄の留意点を参照のこと。)
【0038】
対して、比較例では、硬化速度と外観の両方で好評価を兼ね備えたものが無い。
比較例4では、分解温度が126℃であるジ−t−ブチルパーオキサイド「カヤブチルD(化薬アクゾ)」0.5質量部と、分解温度が117℃であるジクミルパーオキサイド「カヤクミルD(化薬アクゾ)」1.0質量部を複合させた樹脂組成物を加熱成形しているが、両硬化剤の分解温度の差が20℃未満で近似しているため、モノマーの蒸発・発泡が充分に抑制できず、発泡に起因する外観不良が生じている。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル反応性モノマー、ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂、並びに、ラジカル硬化剤を含有するラジカル硬化型成形用樹脂組成物であって、
ラジカル硬化剤として、少なくとも、ラジカル反応性モノマーが蒸発し発泡する温度域である沸点を中心に温度差±20℃以内の温度域で分解する硬化剤Aと、
この硬化剤Aの分解温度よりも20℃以上低い温度で分解する硬化剤Bとを含み、
硬化剤Aと硬化剤Bとの両者の総配合量は、ラジカル反応性モノマーとラジカル硬化型の熱硬化性樹脂との合計量:100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部未満であることを特徴とするラジカル硬化型成形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化剤Aと硬化剤Bとの質量比B/Aが、0.5〜5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のラジカル硬化型成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ラジカル硬化型の熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル系樹脂、アリル樹脂、ビニルエステル樹脂の中から選ばれる一つまたは複数の樹脂であり、
前記ラジカル反応性モノマーが、スチレン、α−メチルスチレン、フマル酸、メチルメタクリレートの中から選ばれる一つまたは複数のモノマーであることを特徴とする、請求項1または2に記載のラジカル硬化型成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のラジカル硬化型成形用樹脂組成物が加熱硬化され成形されてなることを特徴とする樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−224775(P2012−224775A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94688(P2011−94688)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】