説明

ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド及びその製造法

本発明は化学の分野に関し、かつ、例えば摩擦材料として使用することができるラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド及びその製造法に関する。本発明の課題は、同等の滑り特性で改善された耐摩耗性を有するラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドを規定し、更に、このようなコンパウンドを製造するための容易でかつ効率的な方法を規定することである。前記課題は、放射線化学的及び/又はプラズマ化学的に変性されたPTFE粉末から成り、該PTFE粉末の粒子表面に、オレフィン性不飽和ポリマーが溶融物中で反応によって化学的にラジカル結合しているラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドによって解決される。前記課題は更に、反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心を有するPTFE粉末を、放射線化学的及び/又はプラズマ化学的な変性の後に、溶融物中でオレフィン性不飽和ポリマーの添加下に反応させる、ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドの製造法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学の分野に関し、かつ、例えば摩擦材料として使用することができるラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド及びその製造法に関する。
【0002】
原子炉建築のための適当なポリマー材料を探索した際、PTFEが、 −その高い化学的及び熱的安定性とは対照的に− 極めて放射線に敏感であることが確認された。PTFEは、不活性条件下であっても酸素の存在下であっても、すでに低エネルギー線量で分解され、既に0.2〜0.3kGyで脆性を示し、<100kGyで砕け易くなる。約360℃からは、純粋な放射線化学的な分解に、顕著に熱分解が重なる。
【0003】
放射線化学的な分解の確率過程のために、幅広い多様な鎖長を有する反応生成物が生じる。酸素の存在下にPTFEに照射した場合、まず第一に生じるペルフルオロアルキルラジカルからペルオキシラジカル及びアルコキシラジカルが形成される。アルコキシラジカルの形成の中間体を介して、末端ペルフルオロアルキルラジカルは連鎖短縮及びカルボニルジフルオリドの形成下に徐々に分解される。それに対して、側鎖アルコキシラジカルからは、ペルフルオロアルカン酸フッ化物及び末端ペルフルオロアルキルラジカルが生じる。
【0004】
【化1】

【0005】
未焼結及び未圧縮のPTFE乳化重合体及びPTFE懸濁重合体は繊維状−フェルト状の特性を示す。例えばPTFEの付着防止特性及び滑り特性を、水性又は有機分散液、ポリマー、染料、塗料、樹脂又は滑剤への導入により他の媒体に移行させることは不可能であり、それというのも、このPTFEは均質化が不可能であり、凝固の傾向を示し、凝集し、浮上又は沈殿してしまうためである。
【0006】
約100kGyのエネルギー線量を有するエネルギーに富む放射線の作用により、繊維状−フェルト状のポリマーから、ポリマー鎖の部分的な分解のために流動性の微粉末が得られる。この粉末はなおも脆い凝集物を含有し、該凝集物は容易に粒径<5μmの一次粒子に分割されることができる。反応物の存在下で照射する場合、官能基がポリマー中に組込まれる。照射が空気中で行われる場合、式(9.22)(及び後続の大気湿度による−COF−基の加水分解)によりカルボキシル基が得られる。照射の前に(NHSOを混合した場合、S含有基を得ることができる。この官能基はPTFEの疎水性及び疎有機性を本質的に低下させるため、得られた微粉末を良好に他の媒体と均質化させることができる。このPTFEのプラスの特性、例えば優れた滑り特性、分離特性及び乾燥潤滑特性並びに高い化学的及び熱的安定性は維持される。過フッ素化された鎖が結合しているカルボキシル基及びスルホ基は同様に高い化学的不活性を有する。
【0007】
PTFE及びその分解生成物(極めて低分子である生成物を除く)の不溶性のために、慣用の分子量測定の方法を用いることができない。分子量測定を間接的な方法で行わなければならない[A. Heger et al., Technologie der Strahlenchemie an Polymeren, Akademie-Verlag Berlin 1990]。
【0008】
しばしば、他の材料との非相容性は不利な結果をもたらす。(1)液体アンモニア中のナトリウムアミド及び(2)非プロトン性不活性溶剤中のアルカリアルキル−及びアルカリ−芳香族−化合物を用いた公知の方法によるPTFEの化学的活性化によって変性を達成することができる。この変性を介して、反応によって、又は吸着力によってのみ、改善された界面相互作用を達成することができる。
【0009】
PTFEの分解生成物は多岐に亘る使用分野において利用され、例えば滑り特性又は付着防止特性の達成を目的としてプラスチックに対する添加剤としても利用される。微粉末物質は多少なりとも微細に分散されて充填剤成分としてマトリックス中に存在する[Ferse et al., Plaste u. Kautschuk, 29 (1982), 458; Ferse et al. DD-PS 146 716 (1979)]。マトリックス成分を溶解させた場合、PTFE微粉末は除去可能であるか又は回収される。
【0010】
PTFE微粉末の使用分野において、慣用のフルオロカーボン不含の添加剤と比較して特性の改善が達成されるが、非相容性、不溶性、沈積、更には不均一な分配は多くの使用分野に関して不利である。
【0011】
更に、表面に非単独重合エチレン性不飽和化合物がグラフトされているフッ素含有プラスチック粒子から成る、グラフトされたフッ素含有プラスチック(US5,576,106)は公知である。この場合、非単独重合エチレン性不飽和化合物は酸、エステル又は無水物であってよい。
【0012】
このグラフトされたフッ素含有プラスチックは、フッ素含有プラスチック粉末をエチレン性不飽和化合物の存在下にイオン化放射線の源にさらすことによって製造される。この場合、エチレン性不飽和化合物はフッ素含有プラスチック粒子の表面に結合する。
【0013】
本発明の課題は、ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドであって、同等の滑り特性で改善された耐摩耗性を有し、それにより該コンパウンドから成る構造部材の寿命が延長されるラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドを規定し、更に、このようなコンパウンドを製造するための容易でかつ効率的な方法を規定することである。
【0014】
前記課題は請求項に記載された発明により解決される。他の態様は従属請求項の対象である。
【0015】
本発明によるラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドは放射線化学的又はプラズマ化学的に変性されたPTFE粉末から成り、該PTFE粉末の粒子表面に、オレフィン性不飽和ポリマーが溶融物中で反応によってラジカル結合している。
【0016】
この場合有利に、オレフィン性不飽和ポリマーとPTFE粒子表面との結合箇所はポリマー鎖上でランダムに分布している
有利に、PTFE粉末は放射線化学的に変性されている。
【0017】
同様に有利に、PTFE粉末は50kGyより大きい線量で、有利に100kGyより大きい線量で放射線化学的に変性されている。
【0018】
PTFE粉末が反応物の存在下に、有利に酸素作用下に放射線化学的に変性されていることも有利である。
【0019】
更に有利に、オレフィン性不飽和ポリマーとして、オレフィン性不飽和基を主鎖及び/又は側鎖中に有するポリマーがラジカル結合している。
【0020】
このような有利なオレフィン性不飽和ポリマーは、ラジカル結合SBS、ABS、SBR、NBR、NR並びに他のブタジエン及び/又はイソプレンホモポリマー、ブタジエン及び/又はイソプレンコポリマー又はブタジエン及び/又はイソプレンターポリマーである。
【0021】
本発明によるラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドの製造法において、反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心を有するPTFE粉末を、放射線化学的及び/又はプラズマ化学的な変性の後に、溶融物中でオレフィン性不飽和ポリマーの添加下に反応させる。
【0022】
有利に、放射線化学的に変性されたPTFE粉末が使用される。
【0023】
同様に有利に、50kGyより大きい線量で、有利に100kGyより大きい線量で放射線化学的に変性されたPTFE粉末が使用される。
【0024】
PTFE粉末が反応物の存在下に、有利に酸素作用下に放射線化学的に変性される場合も有利である。
【0025】
更に、PTFE粉末をミクロ粉末として使用する場合が有利である。
【0026】
更に、反応を溶融物中で溶融ミキサー中で、有利に押出機中で実現する場合も有利である。
【0027】
更に有利に、オレフィン性不飽和ポリマーとして、オレフィン性不飽和基を主鎖及び/又は側鎖中に有するポリマーが使用される。
【0028】
このような有利なオレフィン性不飽和ポリマーとして、SBS、ABS、SBR、NBR、NR並びに他のブタジエン及び/又はイソプレンホモポリマー、ブタジエン及び/又はイソプレンコポリマー又はブタジエン及び/又はイソプレンターポリマーが使用される。
【0029】
(溶融)変性反応を介したPTFEミクロ粉末とオレフィン性不飽和ポリマーとの本発明によるラジカル結合により、マトリックス中での相容化及び堅固な結合がもたらされ、このことは有利に摩擦材料に利用することができる。特定の熱可塑性樹脂、エラストマー及び特定の熱硬化性樹脂とPTFEとを反応/金型中での押出によって変性することができるため、純粋な出発物質及びPTFEを含有する物理的混合物と比較して、同等の動摩擦に加え、高められた耐摩耗性が達成される。
【0030】
PTFEからPTFEミクロ粉末への有利な放射線化学的な変性において、有利に持続的な(寿命の長い)反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心が生じ、これは驚異的にも、反応において重合性オレフィン性不飽和ポリマーと結合し得る。プラズマ処理の場合、表面的に類似の反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心を生じさせ、前記の結合反応のために使用することができるが、この反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心は放射線化学的に製造された反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心と比較してその分布及び密度が最適でない。IR分光法により、実験室用混練機中での溶融変性の後で、SBS、ABS、更にはオレフィン性不飽和エラストマー、例えばSBR、NBR、NR、ポリブタジエンないし放射線化学的に変性されたPTFE(ミクロ)粉末に関して、未結合のマトリックスの分離後に、化学結合を検出することができ、即ち、PTFEを不変のまま定量的に分離することができた物理的混合物と比較して、ポリマーはPTFE(ミクロ)粉末の抽出によってはもはや分離不可能であった。
【0031】
PTFEの本発明によるラジカル結合及びそれにより生じたマトリックスへの結合/相容化は、未変性の出発材料及びPTFEを含有する物理的混合物と比較して、材料特性及び動摩擦特性の改善並びに耐摩耗性の向上をもたらす。耐摩耗性の改善のために、化学結合したPTFE粒子を同時に、ポリマーマトリックスと非相容性であり、かつ、摩擦係数を低下させ、同時に耐摩耗性を向上させるのに役立つPFPE添加剤(PFPE=ペルフルオロポリエーテル)のための貯蔵媒体として利用することは更に有利である。
【0032】
本発明によれば、例えばPTFE乳化重合体(Dyneon TF 2025)に200kGyで照射し、PTFE懸濁重合体(Dyneon TF1750)に空気中で500kGyで照射することによって、ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドが製造される。50kGyでの照射工程の間に、PTFEミクロ粉末への分解下に反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心が生じ、これは空気の存在下に部分的に比較的安定な/寿命の長いペルオキシラジカルに変換される。
【0033】
先行技術によれば、このPTFE(ミクロ)粉末を温度処理することができることは公知である。それにより、反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心は特に温度の上昇と共に分解される[K. Schierholz u. a., J. Polym. Sci. Part B, Polymer Physics, Vol. 37, 2404-2411 (1999)]。
【0034】
本発明による方法の場合、生じる反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心を有するPTFE(ミクロ)粉末が使用される。ラジカル結合を介した溶融変性反応/反応的な押出成形において化学結合したPTFEポリマーコンパウンドを生じさせることにより、反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心は意図的にオレフィン性不飽和ポリマーとの結合のために利用される。PTFE粉末粒子の表面へのオレフィン性不飽和ポリマーのこのような結合は、本発明の以前にはまだ実現が不可能であった。
【0035】
化学結合により、前記生成物は改善された機械的及び摩擦学的特性を有する。前記生成物は特に動摩擦プロセスにおいて重要である。ラジカル変性/PTFE粒子とマトリックス材料との相容化により、良好な結合及び耐摩耗性の改善が達成され、それというのも、PTFE粒子は機械的応力によってマトリックス材料から摩耗により脱離することができないためである。PTFE粒子はマトリックスと直接相互作用するため、物理的混合物と比較して、結合度に応じて改善された材料特性も認められる。
【0036】
マトリックス中でのPTFEの化学結合により、同等の動摩擦係数の際に改善された耐摩耗性、即ち適用における高められた寿命を有する新規の材料が得られる。更に、PFPEの添加により、動摩擦係数の更なる低下及び耐摩耗性の顕著な改善が達成され、その際、化学結合したPTFEは付加的に貯蔵媒体として機能する。
【0037】
更に、本発明を複数の実施例で詳説する。
【0038】
実施例
比較例1:未照射のPTFEミクロ粉末を用いたSBSの溶融変性
SBS(Cariflex TR 1102 S、安定化されたもの)40gを160℃で実験室用混練機中で60r.p.m/分で溶融させる。3分後、熱分解されたPTFE重合体(Dyneon TF 9205、未照射)20gを添加する。PTFEを添加した5分後に、試験を中断し、材料を混練機室から取り出す。SBSマトリックス材料を塩化メチレン中への溶解及び遠心分離によりPTFE固体生成物から分離する。固体生成物/残分を再度塩化メチレンを用いてスラリー化する。溶解/抽出及び遠心分離を4回繰り返し、その後PTFE固体生成物を分離し、乾燥させた。
【0039】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験により、化学結合したPTFE−SBS−材料は検出されなかった。IRスペクトル中でSBS吸収は検出されない。この物理的PTFE−SBS−混合物を、摩擦学的試験の範囲内において動摩擦係数及び耐摩耗性の測定のための基準として利用する。
【0040】
実施例1:500kGyで照射したPTFE乳化重合体を用いたSBSの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例1と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE乳化重合体(Dyneon TF 2025)20gを使用した。
【0041】
分離及び精製されたPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−SBS−材料の検出として、PTFEに加えて、極めて強度のSBS吸収が検出された。比較例1(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0042】
摩擦学的試験によって、化学結合したPTFE−SBS−材料は物理的混合物と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。化学結合した材料を用いたブロック/リング試験の際の摩耗は、物理的混合物(比較例1)と比較して35%への低下を示す。
【0043】
実施例2:500kGyで照射したPTFE懸濁重合体を用いたSBSの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例1と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE懸濁重合体(Dyneon TF 1750)20gを使用した。
【0044】
分離及び精製されたPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−SBS−材料の検出として、PTFEに加えて、強度のSBS吸収が検出された。比較例1(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0045】
摩擦学的試験によって、化学結合したPTFE−SBS−材料は物理的混合物と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。化学結合した材料を用いたブロック/リング試験の際の摩耗は、物理的混合物(比較例1)と比較して48%への低下を示す。
【0046】
比較例2:未照射のPTFEミクロ粉末を用いたSBRの溶融変性
SBRエラストマー40gを細かく切断し、140℃で実験室用混練機中で60r.p.m/分で可塑化させる。2分後、熱分解されたPTFE重合体(Dyneon TF 9205、未照射)20gを添加する。PTFEを添加した5分後に、試験を中断し、材料を混練機室から取り出す。SBRマトリックス材料を塩化メチレン中への溶解及び遠心分離によりPTFE固体生成物から分離する。固体生成物/残分を再度塩化メチレンを用いてスラリー化する。溶解/抽出及び遠心分離を4回繰り返し、その後PTFE固体生成物を分離し、乾燥させた。
【0047】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験により、化学結合したPTFE−SBR−材料は検出されなかった。IRスペクトル中でSBR吸収は検出されない。この物理的PTFE−SBR−混合物を、加硫の後に、摩擦学的試験の範囲内において動摩擦係数及び耐摩耗性の測定のための基準として利用する。
【0048】
実施例3:500kGyで照射したPTFE乳化重合体を用いたSBRの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例2と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE乳化重合体(Dyneon TF 2025)20gを使用した。
【0049】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−SBR−材料の検出として、PTFEに加えて、極めて強度のSBR吸収が検出された。比較例2(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0050】
摩擦学的試験を加硫した試験体に関して実施し、この試験により、化学結合したPTFE−SBR−材料が物理的混合物(比較例2)と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、30%への低下を示していた。
【0051】
更なる摩擦学的試験として、実験室用混練機試験の中断の直前に更にPFPE(ペルフルオロポリエーテル、DuPont)0.5質量%を添加し、これにより、加硫した試験体は物理的混合物(比較例2)と比較して約30%だけ低い値の動摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性の増加が認められることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、15%への低下を示していた。
【0052】
実施例4:500kGyで照射したPTFE懸濁重合体を用いたSBRの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例2と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE懸濁重合体(Dyneon TF 1750)20gを使用した。
【0053】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−SBR−材料の検出として、PTFEに加えて、強度のSBR吸収が検出された。比較例2(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0054】
摩擦学的試験を加硫した試験体に関して実施し、この試験により、化学結合したPTFE−SBR−材料が物理的混合物(比較例2)と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、43%への低下を示していた。
【0055】
更なる摩擦学的試験として、実験室用混練機試験の中断の直前に更にPFPE(ペルフルオロポリエーテル、DuPont)0.5質量%を添加し、これにより、加硫した試験体は物理的混合物(比較例2)と比較して約30%だけ低い値の動摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性の増加が認められることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、18%への低下を示していた。
【0056】
比較例3:未照射のPTFEミクロ粉末を用いたABSの溶融変性
ABS40gを210℃で実験室用混練機中で80r.p.m/分で溶融させる。3分後、熱分解されたPTFE重合体(Dyneon TF 9205、未照射)20gを添加する。PTFEを添加した5分後に、試験を中断し、材料を混練機室から取り出す。ABSマトリックス材料を塩化メチレン中への溶解及び遠心分離によりPTFE固体生成物から分離する。固体生成物/残分を再度塩化メチレンを用いてスラリー化する。溶解/抽出及び遠心分離を4回繰り返し、その後PTFE固体生成物を分離し、乾燥させた。
【0057】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験により、化学結合したPTFE−ABS−材料は検出されなかった。IRスペクトル中でABS吸収は検出されない。この物理的PTFE−ABS−混合物を、摩擦学的試験の範囲内において動摩擦係数及び耐摩耗性の測定のための基準として利用する。
【0058】
実施例5:500kGyで照射したPTFE乳化重合体を用いたSBRの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例3と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE乳化重合体(Dyneon TF 2025)20gを使用した。
【0059】
分離及び精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−ABS−材料の検出として、PTFEに加えて、極めて強度のABS吸収が検出された。比較例3(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0060】
摩擦学的試験によって、化学結合したPTFE−ABS−材料は物理的混合物と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。化学結合した材料を用いたブロック/リング試験の際の摩耗は、物理的混合物(比較例3)と比較して50%への低下を示す。
【0061】
実施例6:500kGyで照射したPTFE懸濁重合体を用いたABSの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例3と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE懸濁重合体(Dyneon TF 1750)20gを使用した。
【0062】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−ABS−材料の検出として、PTFEに加えて、強度のABS吸収が検出された。比較例3(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0063】
摩擦学的試験によって、化学結合したPTFE−ABS−材料は物理的混合物と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。化学結合した材料を用いたブロック/リング試験の際の摩耗は、物理的混合物(比較例3)と比較して55%への低下を示す。
【0064】
比較例4:未照射のPTFEミクロ粉末を用いたNBRの溶融変性
NBRエラストマー40gを細かく切断し、140℃で実験室用混練機中で50r.p.m/分で可塑化させる。2分後、熱分解されたPTFE重合体(Dyneon TF 9205、未照射)20gを添加する。PTFEを添加した5分後に、試験を中断し、材料を混練機室から取り出す。NBRマトリックス材料を塩化メチレン中への溶解及び遠心分離によりPTFE固体生成物から分離する。固体生成物/残分を再度塩化メチレンを用いてスラリー化する。溶解/抽出及び遠心分離を4回繰り返し、その後PTFE固体生成物を分離し、乾燥させた。
【0065】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験により、化学結合したPTFE−NBR−材料は検出されなかった。IRスペクトル中にはNBR吸収は検出されない。この物理的PTFE−NBR−混合物を、加硫の後に、摩擦学的試験の範囲内において動摩擦係数ないし耐摩耗性の測定のための基準として利用する。
【0066】
実施例7:500kGyで照射したPTFE乳化重合体を用いたNBRの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例4と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE乳化重合体(Dyneon TF 2025)20gを使用した。
【0067】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−NBR−材料の検出として、PTFEに加えて、極めて強度のNBR吸収が検出された。比較例4(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0068】
摩擦学的試験を加硫した試験体に関して実施し、この試験により、化学結合したPTFE−SBR−材料が物理的混合物(比較例4)と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、35%への低下を示していた。
【0069】
更なる摩擦学的試験として、実験室用混練機試験の中断の直前に更にPFPE(ペルフルオロポリエーテル、DuPont)0.5質量%を添加し、これにより、加硫した試験体は物理的混合物(比較例4)と比較して約40%だけ低い値の動摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性の増加が認められることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、15%への低下を示していた。
【0070】
実施例8:500kGyで照射したPTFE懸濁重合体を用いたNBRの溶融変性
試験の実施及びポリマーマトリックスの分離を比較例4と同様に行ったが、但し500kGyで照射したPTFE懸濁重合体(Dyneon TF 1750)20gを使用した。
【0071】
分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、化学結合したPTFE−NBR−材料の検出として、PTFEに加えて、強度のNBR吸収が検出された。比較例4(物理的混合物)では、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0072】
摩擦学的試験を加硫した試験体に関して実施し、この試験により、化学結合したPTFE−SBR−材料が物理的混合物(比較例4)と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、42%への低下を示していた。
【0073】
更なる摩擦学的試験として、実験室用混練機試験の中断の直前に更にPFPE(ペルフルオロポリエーテル、DuPont)0.5質量%を添加し、これにより、加硫した試験体は物理的混合物(比較例4)と比較して約30%だけ低い値の動摩擦係数を有し、かつ耐摩耗性の増加が認められることが判明した。ブロック/リング試験の際の摩耗は、18%への低下を示していた。
【0074】
実施例9:プラズマ変性されたPTFEミクロ粉末を用いたSBSの溶融変性
SBS(Cariflex TR 1102 S、安定化されたもの)40gを実験室用混練機中で160℃で60r.p.m/分で溶融させる。3分後、プラズマ処理されたPTFE(TF 9205、熱分解されたもの、Dyneon、酸素プラズマで変性されたもの)20gを添加する。PTFEを添加した5分後に、試験を中断し、材料を混練機室から取り出す。SBSマトリックス材料を塩化メチレン中への溶解及び遠心分離によりPTFE固体生成物から分離する。固体生成物/残分を再度塩化メチレンを用いてスラリー化する。溶解/抽出及び遠心分離を4回繰り返し、その後PTFE固体生成物を分離し、乾燥させた。分離し精製したPTFEミクロ粉末のIR分光試験によって、PTFEに加えて、SBS吸収が検出され、これは化学結合したPTFE−SBS−材料の検出である。比較例1において、即ち未照射のPTFEミクロ粉末(物理的混合物)を用いた試験において、純粋なPTFEのみがIRスペクトル中で検出可能であった。
【0075】
摩擦学的試験によって、前記実施例の化学結合したPTFE−SBS−材料は、物理的混合物と同等の動摩擦係数を有するが、本質的により高い耐摩耗性を認めることができることが判明した。化学結合した材料を用いたブロック/リング試験の際の摩耗は、物理的混合物(比較例1)と比較して20%〜35%だけの摩耗の低下を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドにおいて、放射線化学的及び/又はプラズマ化学的に変性されたPTFE粉末から成り、該PTFE粉末の粒子表面に、オレフィン性不飽和ポリマーが溶融物中で反応によって化学的にラジカル結合していることを特徴とする、ラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項2】
オレフィン性不飽和ポリマーとPTFE粒子表面との結合箇所がポリマー鎖上でランダムに分布している、請求項1記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項3】
PTFE粉末が放射線化学的に変性されている、請求項1記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項4】
PTFE粉末が50kGyより大きい線量で放射線化学的に変性されている、請求項3記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項5】
PTFE粉末が100kGyより大きい線量で放射線化学的に変性されている、請求項4記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項6】
PTFE粉末が反応物の存在下に放射線化学的に変性されている、請求項1記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項7】
PTFE粉末が酸素作用下に放射線化学的に変性されている、請求項6記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項8】
ポリマーがオレフィン性不飽和基を主鎖及び/又は側鎖中に有する、請求項1記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項9】
オレフィン性不飽和ポリマーとして、SBS、ABS、SBR、NBR、NR並びに他のブタジエン及び/又はイソプレンホモポリマー、ブタジエン及び/又はイソプレンコポリマー又はブタジエン及び/又はイソプレンターポリマーがラジカル結合している、請求項1記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンド。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドの製造法において、反応性ペルフルオロアルキル−(ペルオキシ−)ラジカル中心を有するPTFE粉末を、放射線化学的及び/又はプラズマ化学的な変性の後に、溶融物中でオレフィン性不飽和ポリマーの添加下に反応させることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載のラジカル結合PTFEポリマーコンパウンドの製造法。
【請求項11】
放射線化学的に変性されたPTFE粉末を使用する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
PTFE粉末を50kGyより大きい線量で放射線化学的に変性させる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
PTFE粉末を100kGyより大きい線量で放射線化学的に変性させる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
PTFE粉末を反応物の存在下に放射線化学的に変性させる、請求項10記載の方法。
【請求項15】
PTFE粉末を酸素作用下に放射線化学的に変性させる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
PTFE粉末をミクロ粉末として使用する、請求項10記載の方法。
【請求項17】
反応を溶融物中で溶融ミキサー中で実現する、請求項10記載の方法。
【請求項18】
反応を溶融物中で押出機中で実現する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
主鎖及び/又は側鎖中にオレフィン性不飽和基を有するポリマーを使用する、請求項10記載の方法。
【請求項20】
オレフィン性不飽和ポリマーとして、SBS、ABS、SBR、NBR、NR並びに他のブタジエン及び/又はイソプレンホモポリマー、ブタジエン及び/又はイソプレンコポリマー又はブタジエン及び/又はイソプレンターポリマーを使用する、請求項10記載の方法。

【公表番号】特表2007−510027(P2007−510027A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537283(P2006−537283)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052619
【国際公開番号】WO2005/042599
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(500525405)ライプニッツ−インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ (8)
【氏名又は名称原語表記】Leibniz−Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D−01069 Dresden,Germany
【Fターム(参考)】