説明

ラジカル重合体の製造方法及び微細化学反応装置

【課題】 ラジカル重合性単量体のラジカル重合において、分子量分布の狭いラジカル重合体を、短時間で効率よく円滑に製造する方法、及び簡単に製作可能な微細化学反応装置を提供すること。
【解決手段】 ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、内径が2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している反応管に導入し、該反応管において均一液状状態で流通形式により重合反応を行うことを特徴とするラジカル重合体の製造方法、並びに温度制御流体を流通させることが可能なジャケットと、該ジャケット内に並列に配置された内径2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している複数の反応管を有し、前記ジャケットに温度制御流体を流通させることにより、複数の反応管内における反応の温度を制御し得る微細化学反応装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合体の製造方法及び微細化学反応装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、内径が2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している反応管中で、ラジカル重合性単量体の重合を流通形式により行うことにより、分子量分布の狭いラジカル重合体を短時間で効率よく円滑に製造する方法、及び容易に入手可能な部材を用いて、高度な加工技術を必要とせずに製作可能な微細化学反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロリアクターに対する関心が非常に高まってきている。このマイクロリアクターは、一般に内部構造が1μm〜1mm程度の微細なマイクロチャンネルの中で反応を行う装置を指し、化学産業に大きな変革をもたらす可能性を有することが期待されている。
上記マイクロリアクターは、有機合成面から、例えば、(1)微小量での合成が可能である、(2)単位体積(流量)当たりの表面積が大きい、(3)温度制御が極めて容易である、(4)界面での反応が効率よく起る、(5)時間、コスト、環境負荷の低減が図れる、(6)密封系での反応が可能であるので、毒性、危険性のある化合物が安全に合成できる、(7)小スケール、閉鎖系によるコンタミネーションの防御が可能である、(8)マイクロチャンネルに特有の層流の活用により、効率的な混合、生成物の分離、精製に適用可能である、などの特徴を有している。
【0003】
また、工業的応用面においては、潜在的に、(a)マイクロチャンネルの大きさを変えずに数を増やすことにより(ナンバーリングアップ)、生産量を増大させることが可能である(従来、実験室で得られた結果を工場に移管する場合に必要であった中間試製のためのステップが省略される。)ため、(b)低コストで生産を早期にスタートすることが可能となり、(c)実験結果を、そのまま素早く生産に移すことが可能となる。また、(d)工業生産のためのプラントが小さくてすむ、という利点も有している。
このようなマイクロリアクターを用いた化学反応の例としては、化学反応実施方法(例えば、特許文献1参照)、微細構造化反応システムを使用するアルドール類の製造(例えば、特許文献2参照)、静止型マイクロミキサー内でのニトロ化(例えば、特許文献3参照)、マイクロリアクターでのアリールホウ素及びアルキルホウ素化合物の製造法(例えば、特許文献4参照)などが開示されている。
【0004】
また、重合反応については、例えば直径1.27mmの流路内にて、層流条件下で、メタロセン触媒を用いた加圧系におけるエチレンの重合反応が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この反応はメタロセン触媒を用いる配位重合であり、本発明に係るラジカル重合とは根本的に異なる技術である。さらに、ラジカル重合性単量体と重合開始剤を、微細な流路を用いて混合するマイクロミキサーにより混合したのち、重合を行うことで、得られる重合体中の高分子量成分の生成が抑制され、管型重合反応器内の沈降物の形成が回避されるラジカル重合体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この技術は、単量体と重合開始剤の混合を微細な空間内で行うもので、重合反応を行う反応器には、直径がcmオーダーの管型反応器が用いられている。
ラジカル重合は、極めて多くの単量体の重合が可能であり、多様な重合体の生産手段として、産業上広く用いられている重要な技術である。しかしながら、このラジカル重合においては、重合時に大きな反応熱が発生するため、反応方式がバッチ式であっても、連続式であっても、反応熱の除去のために、温和な反応条件でゆっくりと時間をかけて行われるのが常であり、生産効率が悪いという問題があった。また、これまでの重合方法では、反応熱のために、反応場における重合温度が不均一になりやすい上、連続式の場合には反応液は層流になりにくいため、部分的に滞留時間に差が生じ、その結果、得られる重合体は、種々の分子量をもつ重合体の混合物になりやすいという問題もあった。
【0005】
本発明者らは、ラジカル重合において、直径1、2mmの流路内にて、層流条件下で重合反応すると、高効率な温度制御ができ、分子量分布の狭い重合体が得られること、および流路の内径が小さいほど分子量分布が狭くなることを知見したが、流路の内径を小さくすることは、圧力損失の増大を招き、流路の閉塞等のリスクも生じるという問題がある。
また、微細化学反応装置(マイクロリアクター)の製作においては、一般に微細流路の作製にフォトリソグラフィー、エッチング、精密機械加工といった高度な加工技術が必要とされ、したがって、マイクロリアクターを用いた化学反応は、簡便に実施することが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特表2001−521816号公報
【特許文献2】特開2002−155007号公報
【特許文献3】特表2003−506340号公報
【特許文献4】特開2003−128677号公報
【特許文献5】特表2002−512272号公報
【非特許文献1】「Anal.Chem.」、第74巻、第3112頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、微細化学反応装置を用いたラジカル重合性単量体のラジカル重合において、分子量分布の狭いラジカル重合体を短時間で効率よく円滑に製造する方法、及び容易に入手可能な部材を用いて、高度な加工技術を必要とせずに製作可能な微細化学反応装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、リアクターとして、径がある値以下の微細反応管であって、断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している反応管を用いることにより、熱交換の効率が極めて高く、温度制御が容易であると共に、流れが層流支配となり、滞留時間を厳密に制御することができるとともに、圧力損失の増大や流路の閉塞等のリスクを伴わずに、短時間で効率よく、所望の分子量の分布状態を有するラジカル重合体が得られること、及び温度制御流体を流通させることが可能なジャケット内に、複数の該微細反応管を並列に配置してなる装置が、微細化学反応装置としてその目的に適合し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、内径が2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している反応管に導入し、該反応管において均一液状状態で流通形式により重合反応を行うことを特徴とするラジカル重合体の製造方法、
(2)ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、反応管への導入前に混合し、該反応管に導入する上記(1)のラジカル重合体の製造方法、
(3)反応管の内径が1mm以下である上記(1)又は(2)のラジカル重合体の製造方法、
(4)温度制御流体を流通させることが可能なジャケットと、該ジャケット内に並列に配置された内径2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している複数の反応管を有し、前記ジャケットに温度制御流体を流通させることにより、該複数の反応管内における反応の温度を制御し得る微細化学反応装置、
(5)ジャケット部本体と反応管部分が着脱可能な構造を有する上記(4)の微細化学反応装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している内径が2mm以下の微細反応管を用いて、ラジカル重合性単量体の重合を流通形式により行うので、反応量が大きく重合発熱が大きい反応初期に反応管の内径が小さいため熱交換の効率が極めて高く、精度のよい温度制御が容易であり、反応量が減少してゆく反応中期以降は反応管の断面積が段階的に拡大しているので、圧力損失の増大や流路の閉塞等のリスクを伴うことなく、分子量分布の狭いラジカル重合体を効率よく製造することができる。
また、本発明によれば、容易に入手可能な部材を用いて、高度な加工技術を必要とせずに製作可能な微細化学反応装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のラジカル重合体の製造方法においては、リアクターとして、内径が2mm以下の微細反応管、好ましくは1mm以下、より好ましくは10〜500μmであって、その断面積が反応液流通方向に段階的に拡大しているマイクロリアクターが用いられる。このリアクターの長さについては特に制限はないが、通常0.01〜100m、好ましくは0.05〜50m、より好ましくは0.1〜10mの範囲である。また、反応管の断面積が反応液流通方向に段階的に拡大するとは、少なくとも断面積のより小さな始まり部分と断面積のより大きな終わり部分を有し、かつその途中において前の部分よりも小さな断面積となることがない反応管であることをいう。
【0012】
本発明においては、前記微細反応管に、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを導入し、該反応管内において均一液状状態で流通形式により重合反応を行う。
原料のラジカル重合性単量体としては、ラジカル重合可能な単量体であればよく、特に制限されず、様々な単量体を用いることができる。このラジカル重合可能な単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリ酸などの不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ポリカルボン酸類及びその酸無水物類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリ酸メチル、メタクリ酸エチル、メタクリ酸ブチル、メタクリ酸2−エチルヘキシル、メタクリ酸ドデシル、メタクリ酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリ酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、メタクリ酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルp−トルエンスルホン酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルp−トルエンスルホン酸塩などの(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル及びその付加塩;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩、カリウム塩などのスチレン系単量体;その他アリルアミン及びその付加塩、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、さらにはフッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンなどの含フッ素単量体等の油溶性又は水溶性の単量体を挙げることができる。これらの単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明においては、微細反応管内において均一液状状態で重合反応を行うために、所望により重合溶媒を用いることができる。この重合溶媒は使用するラジカル重合性単量体の種類に応じて、水性溶媒や各種の有機溶媒の中から適宜選択して用いられる。水性溶媒としては、水、又は水及びそれと混和性のある有機溶剤(ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなど)との混合物などを挙げることができる。
一方、有機溶媒としては、前記の水との混和性有機溶剤;その他のエステル類、ケトン類、アルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族・脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素類等を挙げることができる。これらの有機溶剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、従来ラジカル重合において使用されている公知のラジカル重合開始剤の中から、原料のラジカル重合性単量体や重合溶媒の種類などに応じて適宣選択して用いることができる。このようなラジカル重合開始剤としては、例えば有機過酸化物、アゾ化合物、ジスルフィド化合物、レドックス系開始剤、過硫酸塩などが挙げられる。一般的には、重合溶媒が水性媒体である場合には、水溶性有機過酸化物、水溶性アゾ化合物、レドックス系開始剤、過硫酸塩などが好ましく用いられ、重合溶媒が有機溶媒である場合には、油溶性有機過酸化物及び油溶性アゾ化合物などが好ましく用いられる。
上記水溶性有機過酸化物の例としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。また、水溶性アゾ化合物の例としては、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾプロパン・一塩酸塩、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾブタン・一塩酸塩、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾペンタン・一塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチル−4−ジエチルアミノ)ブチロニトリル・塩酸塩などが挙げられる。
【0015】
レドックス系開始剤としては、例えば過酸化水素と還元剤との組合わせなどを挙げることができる。この場合、還元剤としては、二価の鉄イオンや銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、バナジウムイオンなどの金属イオン、アスコルビン酸、還元糖などが用いられる。過硫酸塩としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
これらの水溶性ラジカル重合開始剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、油溶性有機過酸化物の例としては、ジベンゾイルペルオキシド、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネートなどのペルオキシジカーボネート類;t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオデカノエートなどのペルオキシエステル類;あるいはアセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、ジサクシニックアシッドペルオキシドなどが挙げられる。また、油溶性アゾ化合物の例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。これらの油溶性ラジカル重合開始剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明においては、前記ラジカル重合開始剤の使用量は、用いる原料のラジカル重合性単量体やラジカル重合開始剤の種類、得られる重合体の所望分子量などに応じて適宜選定されるが、通常ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.0001〜0.5質量部、好ましくは0.001〜0.1質量部の範囲で選定される。
本発明においては、必要に応じ連鎖移動剤を用いることができる。該連鎖移動剤としては、重合反応を阻害せず、生成する重合体の分子量を調節し得るものであればよく、特に制限はないが、メルカプタン類やα−メチルスチレン二量体などが好ましく用いられる。ここで、メルカプタン類としては、例えば、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、2−メチル−2−ヘプタンチオール、2−メチル−2−ウンデカンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、メルカプト酢酸とそのエステル、3−メルカプトプロピオン酸とそのエステル、2−メルカプトエタノールとそのエステルなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明は、内径が2mm以下であって、その断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している微細反応管を均一な一つの反応帯域としたラジカル重合を行うことを特徴とする。すなわち、反応量が大きく重合発熱が大きい反応初期は反応管の内径が小さいため、熱交換の効率が極めて高く、温度制御が容易であり、また、重合時の発熱反応に伴うホットスポット(局所加熱)ができにくく、全反応帯域の温度を均一に保持することができるので、分子量分布の狭いラジカル重合体を得ることができる。また、重合体量が増えて、反応液の粘度が大きい反応中期以降は反応管の断面積が段階的に拡大しているので、圧力損失の増大や流路の閉塞等のリスクを伴うことがない。
なお、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体の微細反応管への導入様式としては、ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、微細反応管への導入直前に混合し、該微細反応管に導入するのが好ましい。原料液として、ラジカル重合開始剤、ラジカル重合性単量体及び必要に応じて用いられる重合媒体や連鎖移動剤を、予め均質に混合して微細反応管に導入することもできるが、原料液中の単量体の一部が重合反応を起こして、重合体が生成することがあり、その結果、分子量分布においてブロードなピークが生ずることがある。
【0018】
このような本発明の方法を実施するための反応装置として、例えば図1に示す反応装置を用いることができる。反応装置10は、ジャケット1a内に入口2からフィードされた原料液を8本の流路に分岐させる分岐管3を収める第1反応器ユニット4aと、各ジャケット(1b,1c,1d)内に、内径が2mm以下で反応液流通方向に順次内径の大きい微細反応管(5b,5c,5d)を各8本並列に設置した構造の第2〜第4反応器ユニット(4b,4c,4d)と、ジャケット1e内に、流路を1本に束ねるとともに、冷却により重合を停止させ出口6に至る収束管7を収める第5反応器ユニット4eと、各反応管等を接続する8×4個のユニオンからなる並列化マイクロリアクターである。
そして、ラジカル重合開始剤、ラジカル重合性単量体及び必要に応じて用いられる重合媒体や連鎖移動剤は入口2から導入され、8本の流路に分岐されて、微細反応管5b,5c,5d内を通って重合反応を行い、重合液が収束されて出口6から排出される。一方、各ジャケット内を流れる温度制御流体(以下、熱媒体と称すことがある。)の温度は、ジャケット1b,1c,1dでは重合反応を行える高温に一定に制御され、ジャケット1a,1eでは、重合反応が生起しない/あるいは重合反応を停止させる低温に制御される。
【0019】
本発明はまた、温度制御流体を流通させることが可能なジャケットと、該ジャケット内に並列に配置された内径が2mm以下であって、その断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している複数の微細反応管を有し、前記ジャケットに温度制御流体を流通させることにより、複数の微細反応管内における反応の温度を制御し得る微細化学反応装置を提供する。
このような微細化学反応装置としては、前記図1に示すような構造を有する反応装置を例示することができる。該微細化学反応装置は、フォトリソグラフィー、エッチング、精密機械加工といった高度な加工技術を要することなく、市販品として入手可能な内径2mm以下の円管を用いて容易に製作することができる。円管の材質としては、例えば各種の金属や合金、ガラス、プラスチックなどが用いられる。
また、本発明の微細化学反応装置におけるジャケットは、前記図1に示すように微細反応管の長さ方向に沿って複数に分割され、かつ分割されたそれぞれのジャケットに温度制御流体を独立して流通させることが可能な構造を有していてもよい。
さらに、本発明の微細化学反応装置においては、ジャケット本体と微細反応管部分が着脱可能な構造を有することが好ましい。これにより、微細反応管内部で詰まりなどを生じた際や、微細反応管の内径を変更する際に、微細反応管の交換が可能となる。
なお、本発明の微細化学反応装置において、微細反応管の管形状、配置、本数等は、本発明の効果を奏することができるものであれば特に制限されない。ジャケットの形状等も同様である。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
比較例1
トルエン100ミリリットルに対して、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル1.15gを溶解し、ラジカル重合開始剤溶液を調製した。トルエンは、脱水グレードをアルゴンで30分以上バブリングしたものを用いた。アクリル酸ブチルは、1モル/リットル水酸化ナトリウム水溶液で3回、蒸留水で3回洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ過した後にアルゴンバブリングを30分以上行ったものを用いた。ラジカル重合開始剤溶液、アクリル酸ブチルをそれぞれ別々のシリンジポンプにアルゴン雰囲気下で充填し、それらをユニオンティーによって1:1の体積比で合流させたのちに、内径が1.76mmのステンレス製反応管に導入するようにした。反応管は、長さ1.3mで、始めの0.8mを恒温槽に浸して恒温槽の温度を100℃とし、残りの0.5mを氷浴に浸し、管の出口にメスシリンダーを置いて重合溶液を回収した。
シリンジポンプによりラジカル重合開始剤溶液とアクリル酸ブチルそれぞれを等量になるように反応管内に導入し、反応部での滞留時間が2分となる流速で反応液を流通させ、2.5分間で2.5mLの重合溶液を回収した。回収溶液から溶媒、および未反応のアクリル酸ブチルを留去し、アクリル酸ブチル重合体を含む0.82gの固形物を得た。得られた固形分の質量を、流通させたアクリル酸ブチルの質量(比重0.894g/mLで計算)と重合開始剤の質量の合計で割った数値を収率として算出したところ、74%であった。
数平均分子量(Mn)と分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定にて決定した。Shodex製GPCガラム LF−804を2本直列に配置し、40℃、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いて、RI検出器にて市販のメタクリル酸メチル重合体を標準サンプルとしてキャリブレーションを行い、試料を測定、分析した。また、シリンジポンプの出口に圧力計を設置し、反応時の圧力(反応系の圧力損失)を測定した。結果を第1表に示す。
【0021】
比較例2
比較例1において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、4分間で2.6ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む0.94gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0022】
比較例3
比較例1において、内径が1.0mm、長さ3.0mのステンレス製反応管を用い、始めの2.5mを恒温槽に浸して恒温槽の温度を100℃とし、残りの0.5mを氷浴に浸し、反応部での滞留時間が2分となる流速で反応液を流通させ、5分間で4.9ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む1.58gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0023】
比較例4
比較例3において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、8分間で5.2ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例3と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む1.87gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0024】
比較例5
比較例1において、内径が0.5mm、長さ10.5mのステンレス製反応管を用い、始めの10mを恒温槽に浸して恒温槽の温度を100℃とし、残りの0.5mを氷浴に浸し、反応部での滞留時間が2分となる流速で反応液を流通させ、5分間で4.9ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む1.81gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0025】
比較例6
比較例5において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、8分間で5.2ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例5と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む2.11gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0026】
比較例7
比較例1において、内径が0.25mm、長さ10.5mのステンレス製反応管を用い、始めの10mを恒温槽に浸して恒温槽の温度を100℃とし、残りの0.5mを氷浴に浸し、反応部での滞留時間が2分となる流速で反応液を流通させ、8分間で2.0ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む0.70gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0027】
比較例8
比較例7において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、13分間で2.1ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例7と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む0.78gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0028】
実施例1
比較例1において、内径0.25mm、長さ2mのステンレス製反応管、内径0.5mm、長さ2mのステンレス製反応管、内径1.0mm、長さ2.5mのステンレス製反応管を2個のユニオンによって順番に直列に接続し、内径0.25mm側からの6mを恒温槽に浸して恒温槽の温度を100℃とし、残りの内径1.0mm反応管の0.5mを氷浴に浸し、反応部での滞留時間が2分となる流速で反応液を流通させ、2分間で2.1ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、比較例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む0.69gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0029】
実施例2
実施例1において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、3分間で2.1ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、実施例1と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む0.81gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0030】
実施例3
図1に示されるような、流路を8本並列化した反応器ユニットを用いて、ラジカル重合を実施した。反応器ユニットは、温度制御流体を流通させることが可能な5つのジャケットを、反応管等を接続する8×4個のユニオンによって連結してある。第1ジャケットでは1本の流路を8本に分岐させ、第2ジャケットから第4ジャケットでの反応管内においてラジカル重合を行う。第2ジャケットの反応管は内径0.25mm、長さ2m、第3ジャケットの反応管は内径0.5mm、長さ2m、第4ジャケットの反応管は内径1.0mm、長さ2mであり、実施例1,2の反応管の構成と同一である。最後のジャケットにおいて流路を1本に束ねるとともに、冷却により重合を停止させる。
比較例1と同様に調製した重合開始剤のトルエン溶液とアクリル酸ブチルをユニオンティーで1:1の体積比で合流させた後、上述の流路並列化反応器ユニットに導入し、重合を実施した。第1ジャケットは25℃、第2〜第4ジャケットは100℃、第5ジャケットは0℃の温度制御流体を流した。反応部(第2〜第4ジャケット)での滞留時間が2分になる流速で流通させ、出口につないだチューブから30秒で4.0mLの反応液を採取した。
回収溶液から溶媒、および未反応のアクリル酸ブチルを留去し、アクリル酸ブチル重合体を含む1.42gの固形物を得た。得られた固形分の質量を、流通させたアクリル酸ブチルの質量(比重0.894g/mLで計算)と重合開始剤の質量の合計で割った数値を収率として算出したところ、78%であった。比較例1と同様に分子量、分子量分布を測定した。結果を第1表に示す。
【0031】
実施例4
実施例3において、反応部での滞留時間が3分となる流速で反応液を流通させ、1分間で5.4ミリリットルの重合溶液を回収した以外は、実施例3と同様に実施した。アクリル酸ブチル重合体を含む2.06gの固形物を得た。結果を第1表に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
第1表から明らかなように、反応管の内径を小さくするほど分子量分布の小さい重合体を得ることができるが、圧力損失は増大し、異物の混入等による閉塞のリスクも高まると考えられる。これに対して実施例1,2では、圧力損失の増大を抑えたまま、分子量分布の小さい重合体を得ることができていることが明らかである。
また、流路を8本並列化して反応管の体積を実施例1,2の8倍に拡大した実施例3,4は、実施例1,2と同等の収率、分子量、分子量分布が得られており、反応成績を変化させることなく、生産性の向上が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のラジカル重合体の製造方法によれば、内径が2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している微細反応管を用い、ラジカル重合性単量体の重合を流通形式により行い、かつ重合温度を所定の温度に精密に制御することにより、分子量分布の狭いラジカル重合体を短時間で効率よく製造することができる。
また、本発明によれば、容易に入手可能な部材を用いて、高度な加工技術を必要とせずに製作可能な微細化学反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の方法を実施するための反応装置の一例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1a、1b、1c、1d、1e ジャケット
2 原料液の入口
3 原料液の分岐管
4a、4b、4c、4d、4e 反応器ユニット
5b、5c、5d 微細反応管
6 重合液の出口
7 重合液の収束管
10 反応装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、内径が2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している反応管に導入し、該反応管において均一液状状態で流通形式により重合反応を行うことを特徴とするラジカル重合体の製造方法。
【請求項2】
ラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体とを、反応管への導入前に混合し、該反応管に導入する請求項1記載のラジカル重合体の製造方法。
【請求項3】
反応管の内径が1mm以下である請求項1又は2記載のラジカル重合体の製造方法。
【請求項4】
温度制御流体を流通させることが可能なジャケットと、該ジャケット内に並列に配置された内径2mm以下であって断面積が反応液流通方向に段階的に拡大している複数の反応管を有し、前記ジャケットに温度制御流体を流通させることにより、該複数の反応管内における反応の温度を制御し得る微細化学反応装置。
【請求項5】
ジャケット部本体と反応管部分が着脱可能な構造を有する請求項4記載の微細化学反応装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−199767(P2006−199767A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11125(P2005−11125)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新的部材産業創出プログラム「マイクロ分析・生産システムプロジェクト」)、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの。
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】