説明

ラジカル重合性組成物、その重合方法及びその重合物

【課題】ラジカル重合性基を持つアントラセン化合物を重合可能な組成物として提供すること及びその工業的に有用な重合方法を提供すること並びに光学材料として有用な重合物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物、ジエノフィル及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物、及び当該ラジカル重合性組成物においてラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させたのちラジカル重合させる重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物、ジエノフィル及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物に関する。さらに、当該組成物の重合方法及び当該組成物の重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズの分野などにおいてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。たとえば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどがよく知られている。これらプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率の面では無機ガラスより低く、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率プラスチック材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、 TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への応用検討が盛んに行われている。
【0003】
有機化合物の屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く。)や硫黄原子あるいは芳香族環を導入することが有用であることは既に良く知られている。そして、屈折率の高い有機化合物の重合体も高い屈折率を示すことが知られている。たとえば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル骨格にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化によって、耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。 又、ハロゲン以外に高い固有屈折率を示す硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、これらは高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、得られたポリマーの耐光性が著しく劣り、また硫黄特有の不快臭が問題となる欠点があった。
【0004】
一方、芳香族環の導入に関しては、ベンゼン環、ビフェニル環を有する高屈折率材料が知られており、これらは、軽くて透明性に優れ、バランスの良い高屈折率材料となる(特許文献3など)。この導入する芳香族環としては、ベンゼン環より、ビフェニル環がより高屈折率となる。また、縮合度の高い環あるいはさらに多環式の環を導入することにより、さらに、高屈折率の材となることが知られており、フルオレン骨格等の導入(特許文献4)やアントラセン骨格の導入(特許文献5)が検討されている。
【0005】
しかしながら、アントラセン骨格やフルオレン骨格の導入により屈折率の高いポリマーが得られるが、フルオレン骨格を導入した場合は、重合体が紫外領域に吸収を持ち、光照射により着色しやすくなるため、耐光性に問題が生じる場合があった。一方、アントラセン骨格を導入した場合は、アントラセン骨格が蛍光を発するため、光学材料分野によっては用いることが難しい場合があった。
【0006】
一方、芳香族あるいは非芳香族の多環化合物骨格をポリマーに導入する方法として、ラジカル重合性基を持つアントラセン化合物を重合する方法が考えられる。このようなラジカル重合性基を持つアントラセン化合物は、種々合成することが可能である。しかし、例えば、9−ビニルアントラセンなどは、一般的なラジカル重合法では重合あるいは共重合がまったく進行しないか、あるいはきわめて重合速度が小さいことが知られている(非特許文献1など)。そのため、有機アルミニウムハイドライドなどの特殊な金属塩触媒を用いて重合する例が知られているが(特許文献6)、通常のラジカル重合条件で、特殊な構造のモノマーを用いることなく、アントラセン骨格を有するモノマーを重合させる方法で、芳香族あるいは非芳香族の多環化合物骨格をポリマーに導入することは困難であった。これらアントラセン骨格を含有するモノマーのラジカル重合が抑制される原因としては、明白ではないが、アントラセン骨格にラジカルを安定化する作用があり、ラジカル重合の成長段階においてラジカルが安定化するため重合が進行しづらくなるからと考えられる。
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特開2003−064296号公報
【特許文献4】特開2004−083855号公報
【特許文献5】特開2006−312709号公報
【特許文献6】特許2507889号公報
【非特許文献1】E.D.Bergmannet.al.,J.Chem.Soc.,3216(1958)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、かかる状況に鑑み、これらの欠点を排除した技術を提供すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の目的は次のとおりである。
1.ラジカル重合性基を置換基として持つアントラセン化合物を、重合可能な組成物として提供すること。
2.上記組成物の、工業的に有用な重合方法を提供すること。
3.上記組成物及び重合方法を用いて、光学材料として有用で、かつ、重合後においてはアントラセン骨格ではない多環化合物骨格を有する重合物を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的達成するために、請求項1記載の発明は、少なくとも、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物、ジエノフィル及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物を提供した。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、ラジカル重合可能な置換基が、エチレン性不飽和結合を有する置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、エチレン性不飽和結合を有する置換基が、アクリル基又はメタクリル基を有する置換基であることを特徴とする、請求項2に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(1)で示されるアントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化1】

(一般式(1)中、mは0〜10の整数を示し、nは1〜4の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【0012】
また、請求項5記載の発明は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(2)で示される9,10−二置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化2】

(一般式(2)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【0013】
また、請求項6記載の発明は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(3)で示される9−置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化3】

(一般式(3)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【0014】
また、請求項7記載の発明は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(4)で示される9−置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化4】

(一般式(4)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【0015】
また、請求項8記載の発明は、ジエノフィルが無水マレイン酸であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【0016】
また、請求項9記載の発明は、ジエノフィルが下記の一般式(5)で示されるマレイミド化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化5】

(一般式(5)中、pは1又は2であり、pが1の時は、qは1、Wは水素原子を示し、pが2の時は、qは0〜2の整数を示し、Wは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基のいずれかを示す。)
【0017】
また、請求項10記載の発明は、ジエノフィルが下記の一般式(6)で示されるマレイン酸化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化6】

(一般式(6)中、R,Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アリル基、グリシジル基、アリール基のいずれかを示す。)
【0018】
また、請求項11記載の発明は、ジエノフィルが下記の一般式(7)で示されるアクリル酸誘導体であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【化7】

(一般式(7)中、Zは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するアルコキシ基のいずれかを示す。)
【0019】
また、請求項12記載の発明は、請求項1〜11のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物において、さらにエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーを含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物を提供した。
【0020】
また、請求項13記載の発明は、ラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【0021】
また、請求項14記載の発明は、ラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を提供した。
【0022】
また、請求項15記載の発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後に、ラジカル重合開始剤の作用により重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法を提供した。
【0023】
また、請求項16記載の発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物を加熱することにより、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、又は反応させながら重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法を提供した。
【0024】
また、請求項17記載の発明は、請求項13に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物の1段階目の加熱によりラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、2段階目の加熱により重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法を提供した。
【0025】
また、請求項18記載の発明は、請求項14に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物を加熱することによりラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、活性エネルギー線を照射することにより重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法を提供した。
【0026】
また、請求項19記載の発明は、活性エネルギー線が、紫外線あるいは可視光線であることを特徴とする、請求項18に記載のラジカル重合性組成物の重合方法を提供した。
【0027】
また、請求項20記載の発明は、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法で重合させて得られる重合物を提供した。
【発明の効果】
【0028】
本発明の請求項1〜14のいずれかに記載のラジカル重合組成物を用いることにより、ラジカル重合性基を持つアントラセン化合物を、重合可能な組成物とすることができ、芳香族あるいは非芳香族の多環化合物基を持つ重合体を合成することが可能となる。また、本発明の請求項15〜19のいずれかに記載の重合方法によれば、本発明のラジカル重合組成物を、工業的に有利に重合させることができる。また、本発明の請求項20に記載の重合物は、重合後においてはもはやアントラセン骨格ではない多環化合物骨格を持つポリマーであり、UV・可視光領域に吸収を持たず、高屈折率を持ち、光学材料として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に記述する。本発明におけるジエノフィルとは、ディールス・アルダー反応においてジエン化合物と反応するエン化合物を称する。アントラセン化合物は、中央のベンゼン環がジエンとして挙動し、ジエノフィルとディールス・アルダー反応を起こし、環状付加物を生成することが知られている。このアントラセン化合物の持つ反応性を利用したのが本発明である。よって、本発明に用いられるラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物は、アントラセン骨格部分がジエノフィルとディールス・アルダー反応するものであれば、以下に説明するラジカル重合可能な置換基以外にどのような置換基を有するものでも、本発明の目的を著しく逸脱することがない限りにおいて、用いることができる。
【0030】
一般に、ディールス・アルダー反応において、アントラセン化合物は中央のジエン部が置換基等により電子密度が高くなっている方が反応しやすく、またジエノフィルが中央ジエン部に近づきやすいように、アントラセンの中央部分が立体的に込み合った構造とならない方が好ましい。従って、アントラセン化合物としては、9,10−二置換アントラセン化合物がよりも、9−置換アントラセン化合物の方が、ディールス・アルダー反応の観点からは好まれる。
【0031】
アントラセン骨格の中央のジエン部分の電子密度を高めるのに好ましい電子供与性の置換基としては、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基などが挙げられる。特に、ディールス・アルダー反応を行う中央のジエン部分に直接影響を及ぼす9,10位に結合する置換基の影響は大きく、この位置に置換基を有する場合は、電子供与性基が結合していることが望ましい。この9,10−位に、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、スルホン酸基などのような電子吸引基が置換した場合は、ディールス・アルダー反応が起こりにくくなるので好ましくない。
【0032】
これらの置換基を有するアントラセン化合物は、アントラセンとハロゲン化アルキルとのフリーデルクラフト反応、種々の酸クロライドなどとのフリーデルクラフト反応後にアシル基を還元してヒドロキシアルキル基とする芳香族置換反応あるいは9−アントロール、9,10−アントラセンジオールなどの水酸基を有するアントラセン化合物のエステル化あるいはエーテル化などの反応及び還元反応など他の反応との組み合わせることなどによって合成する事ができる。
【0033】
ラジカル重合可能な置換基としては、ラジカル重合開始剤の作用により、ラジカル付加重合する結合基を持つものであればよく、付加重合する結合基として、エチレン性不飽和結合基、例えば、アクリル基、メタクリル基、スチリル基、ビニル基、アリル基、などが挙げられる。特に、アクリル基、メタクリル基は、重合速度が早く好ましい。エチレン性不飽和結合基以外のものとしては、例えば、フェノール基、アニリン基、キシリレン基、ジアゾアルカン基などが挙げられる。
【0034】
アントラセン骨格にラジカル重合可能な置換基を結合した化合物として下記に示す一般式(1)の化合物が挙げられる。
【化8】

一般式(1)において、mは0〜10の整数を示し、nは1〜4の整数示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。
【0035】
ここで、Y及びYで示されるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Y及びYで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。Y及びYで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。Y及びYで示されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、トリルオキシ基等が挙げられる。Y及びYで示されるアルキルチオ基としては、炭素数1〜6のアルキルチオ基が好ましく、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられる。Y及びYで示されるアリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
また、Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Rで示されるアルコキシメチル基としては、炭素数2〜9のアルコキシメチル基が好ましく、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキメチルシ基、ブトキシメチル基、2−エチルヘキシルオキシメチル基等が挙げられる。Rで示されるアリルオキシメチル基としては、アリルオキシメチル基、メタクリルオキシメチル基が挙げられる。Rで示されるアリールオキシメチル基としては、フェノキシメチル基等が挙げられる。
【0036】
この一般式(1)の化合物は、次の様にして合成できる。一般に、アントラセン骨格を持つ化合物として、アントラセン骨格の種々の位置に水酸基が置換した化合物が知られている。例えば、9−アントロール、9,10―アントラセンジオール、1,9,10−アントラセントリオールなどの化合物がある。
【0037】
この水酸基が置換したアントラセン化合物と塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルとを塩基存在下又は塩基非存在下に反応させることにより、一般式(1)におけるmが0の化合物が得られる。塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0038】
反応に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0039】
また、9−アントロール、9,10―アントラセンジオール、1,9,10−アントラセントリオール等の化合物に、酸化エチレンや酸化プロピレンなどを付加反応させた後に、塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルと反応させることにより、一般式(1)におけるmが1以上の化合物が得られる。
【0040】
この付加反応は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下、酸化エチレンや酸化プロピレンなどが開環してアントラセンに置換した水酸基と反応するもので、アントラセン骨格と水酸基の間にエチレンオキシ基を導入することができる。
【0041】
付加反応に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなプロトン性溶媒か、もしくはジメチルホルムアミド、ジエチルフォルムアミドのような非プロトン性溶媒、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、さらにはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのような水溶性エーテルを用いる。また、これらの混合溶媒でもよい。
【0042】
この付加反応に際して、酸化エチレンや酸化プロピレンなどを水酸基に対して過剰に用いることにより、mが2以上の化合物が得られるが、酸化エチレンや酸化プロピレンなどの過剰の度合いにより、mがある一定の分布を持った化合物となる。通常の条件ではmが2から4の間の化合物が大部分を占める。
【0043】
上記の一般式(1)について、nが2であり、かつラジカル重合可能な置換基の置換位置が、アントラセン骨格の9,10位である場合は、下記の一般式(2)で示される化合物となる。
【化9】

一般式(2)において、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。なお、Y、Y及びRの好ましい態様は、一般式(1)において記載したものと同じである。
【0044】
一般式(2)において、Y又はYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n―プロポキシ基,n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基,o−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、n−デシルチオ基、n−ドデシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、p−トリルチオ基、m−トリルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。また、一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、Rで表されるアルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、アリルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基等が挙げられ、Rで表されるアリールオキシメチル基としては、フェノキシメチル基、p−トリルオキシメチル基、1−ナフチルオキシメチル基等が挙げられる。
【0045】
この一般式(2)の化合物は、9,10位に水酸基を持つ9,10−アントラセンジオール化合物より合成できる。
9,10−アントラセンジオール化合物は、対応する9,10−アントラキノン化合物を還元することにより合成することができるため、水酸基が置換されたアントラセン化合物群の中でも工業的に入手容易な化合物である。
【0046】
一般に、9,10−アントラキノン化合物の還元に用いられる還元剤としてはハイドロサルファイト、過酸化チオ尿素等が挙げられる。また、パラジウム/カーボンを触媒とする接触水素還元などによっても還元することができる。また、工業的な方法として、ナフトキノンとブタジエンのディールス・アルダー反応物のアルカリ金属塩とアントラキノンとの反応により、より簡便に得ることができる。即ち、1,4−ナフトキノンとブタジエンとの反応により得られる1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを、水性媒体中、アルカリ金属水酸化物のようなアルカリ性化合物の存在下にアントラキノンと反応させることにより9,10−アントラセンジオールのアルカリ金属塩の水溶液を得ることができる。
【0047】
この9,10−アントラセンジオール化合物と塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルとを塩基存在下又は塩基非存在下に反応させることにより、一般式(2)におけるmが0の化合物が得られる。
塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0048】
反応に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0049】
9,10−アントラセンジオール化合物に対する塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルの添加量は、2モル倍から3モル倍、好ましくは2.2モル倍から2.4モル倍である。反応温度は0℃から80℃、好ましくは0℃から20℃である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。反応時間は15分から60分程度である。反応終了後、水又はメタノールを加えて未反応の塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルを水和した後、塩酸塩を濾過して除去し、次いで濾液に水を添加して晶析し、析出した結晶を濾過することにより、結晶を単離することが出来る。
【0050】
また、9,10−アントラセンジオール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの付加反応した後に、塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルと反応させることにより、一般式(2)におけるmが1以上の化合物が得られる。
【0051】
この付加反応は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物存在下に、酸化エチレンや酸化プロピレンなどが開環して9,10−アントラセンジオール化合物と付加反応するもので、上記9,10−アントラセンジオールのアルカリ金属塩の水溶液を用いる場合、アルカリ金属水酸化物を新たに添加することなく付加が進行するので好適である。
【0052】
付加反応に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなプロトン性溶媒か、もしくはジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドのような非プロトン性溶媒、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、さらにはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのような水溶性エーテルを用いる。また、これらの混合溶媒でもよい。
【0053】
9,10−アントラセンジオールとして上記の9,10−アントラセンジオールのアルカリ金属塩の水溶液を用いる場合、これらの溶媒を新たに用いずに溶液のまま反応させてもよいし、さらにこれらの溶媒を添加して反応させてもよい。
【0054】
9,10−アントラセンジオール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの反応は、添加するアルカリの種類や量、及びその他の条件にもよるが、一般的には反応温度は10℃以上、80℃以下、反応時間は1時間以上、5時間以下、反応圧力は0.2MPa以上、0.5MPa以下で行うのが好ましい。
【0055】
一般式(2)で表される化合物としては、たとえば次のものが挙げられる。9,10−ジアクリロイルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、9、10−ジ(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等である。また、2−メチル−9,10−ジアクリロイルオキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9,10−ジアクリロイルオキシアントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−エチルチオ−9,10−ジアクリロイルオキシアントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン等も挙げられる。さらにまた、2−フェニルチオ−9,10−ジアクリロイルオキシアントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン9,10−ジメタクリロイルオキシアントラセン等も挙げられる。一方、メタクリロイル基を有する化合物としては、次のような化合物が挙げられる。9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、9、10−ジ(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等である。また、2−メチル−9,10−ジメタクリロイルオキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9,10−ジメタクリロイルオキシアントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−クロル−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−エチルチオ−9,10−ジメタクリロイルオキシアントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン等が挙げられる。さらにまた、2−フェニルチオ−9,10−ジメタクリロイルオキシアントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジ(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセンなどが挙げられる。
【0056】
一般式(1)について、nが1であり、かつラジカル重合可能な置換基の置換位置が、アントラセン骨格の9位である場合は、下記の一般式(3)で示される化合物となる。
【化10】

一般式(3)において、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。なお、Y、Y及びRの好ましい態様は、一般式(1)において記載したものと同じである。
【0057】
一般式(3)において、Y又はYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n―プロポキシ基,n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基,o−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、n−デシルチオ基、n−ドデシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、p−トリルチオ基、m−トリルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。また一般式(3)において、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、Rで表されるアルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、アリルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基等が挙げられ、Rで表されるアリールオキシメチル基としては、フェノキシメチル基、p−トリルオキシメチル基、1−ナフチルオキシメチル基等が挙げられる。
【0058】
この一般式(3)の化合物は、アントラセンの9位に水酸基を持つ9−アントロール化合物より合成できる。9−アントロール化合物は、対応するアントラキノン化合物を還元することにより合成できるアントロン化合物の異性体である。メタノール等のアルコール性溶媒に溶かした対応する構造を持つアントロンに、アルカリ金属水酸化物のようなアルカリ性化合物を加えて加熱することにより9−アントロール化合物のアルカリ金属塩の溶液が容易に得られる。
【0059】
この9−アントロール化合物と塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルとを塩基存在下又は塩基非存在下に反応させることにより、一般式(3)におけるmが0の化合物が得られる。
【0060】
塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0061】
反応に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0062】
9−アントロール化合物に対する塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルの添加量は、1モル倍から3モル倍、好ましくは1.1モル倍から2モル倍である。反応温度は0℃から80℃、好ましくは0℃から40℃である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。反応時間は15分から60分程度である。反応終了後、水又はメタノールを加えて未反応の塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルを水和した後、塩酸塩を濾過して除去し、次いで濾液に水を添加して晶析し、析出した結晶を濾過することにより、結晶を単離することが出来る。
【0063】
また、9−アントロール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの付加反応した後に、塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルと反応させることにより、一般式(3)におけるmが1以上の化合物が得られる。
【0064】
この付加反応は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下、酸化エチレンや酸化プロピレンなどが開環して9−アントロールと付加反応するもので、9−アントロール化合物のアルカリ金属塩の溶液を用いる場合、アルカリ金属水酸化物を新たに添加することなく付加が進行するので好適である。
【0065】
付加反応に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなプロトン性溶媒か、もしくはジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドのような非プロトン性溶媒、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、さらにはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのような水溶性エーテルを用いる。また、これらの混合溶媒でもよい。
【0066】
9−アントロール化合物として上記の9−アントロール化合物のアルカリ金属塩の溶液を用いる場合、これらの溶媒を新たに用いずに溶液のまま反応させてもよいし、さらにこれらの溶媒を添加して反応させてもよい。
【0067】
9−アントロール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの反応は、添加するアルカリの種類や量、及びその他の条件にもよるが、一般に反応温度は10℃以上、80℃以下、反応時間は1時間以上、5時間以下、反応圧力は0.2MPa以上、0.5MPa以下で行うのが好ましい。
【0068】
一般式(3)で表される化合物としてはたとえば次のものが挙げられる。9−アクリロイルオキシアントラセン、9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、9−(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等である。また、2−メチル−9−アクリロイルオキシアントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9−アクリロイルオキシアントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。さらにまた、2−エチルチオ−9−アクリロイルオキシアントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−フェニルチオ−9−アクリロイルオキシアントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−アクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−(2−アクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。一方、メタクリロイル基を有する化合物としては、次のような化合物が挙げられる。9−メタクリロイルオキシアントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、9−(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等である。また、2−メチル−9−メタクリロイルオキシアントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9−メタクリロイルオキシアントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−クロル−9−(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。また、2−エチルチオ−9−メタクリロイルオキシアントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−エチルチオ−9−(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセン等が挙げられる。さらにまた、2−フェニルチオ−9−メタクリロイルオキシアントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシブトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−n−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−メタクリロイルオキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(2−(2−メタクリロイルオキシプロポキシ)プロポキシ)アントラセンなどが挙げられる。
【0069】
アントラセン骨格の9位に、ラジカル重合可能な置換基がメチレン基を介して置換した化合物として、下記に示す一般式(4)の化合物が挙げられる。
【化11】

一般式(4)において、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子またはメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。なお、Y、Y及びRの好ましい態様は、一般式(1)において記載したものと同じである。
【0070】
一般式(4)において、Y又はYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n―プロポキシ基,n−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基,o−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、n−デシルチオ基、n−ドデシルチオ基等が挙げられ、アリールチオ基としては、フェニルチオ基、p−トリルチオ基、m−トリルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。また一般式(4)において、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、Rで表されるアルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、アリルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基等が挙げられ、Rで表されるアリールオキシメチル基としては、フェノキシメチル基、p−トリルオキシメチル基、1−ナフチルオキシメチル基等が挙げられる。
【0071】
この一般式(4)の化合物は、9−アントラセンメタノール化合物より合成できる。9−アントラセンメタノール化合物は、対応する9−アントラセンカルボン酸化合物を還元することにより合成できる。
【0072】
この9−アントラセンメタノール化合物と塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルとを塩基存在下又は塩基非存在下に反応させることにより、一般式(4)におけるmが0の化合物が得られる。
【0073】
塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン等が挙げられる。
【0074】
反応に用いる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのような芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレンのようなハロゲン化炭素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのようなエーテル系溶媒が好適に用いられる。
【0075】
9−アントラセンメタノール化合物に対する塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルの添加量は、1モル倍から3モル倍、好ましくは1.1モル倍から2モル倍である。反応温度は0℃から80℃、好ましくは0℃から40℃である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。反応時間は15分から60分程度である。反応終了後、水又はメタノールを加えて未反応の塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルを水和した後、塩酸塩を濾過して除去し、次いで濾液に水を添加して晶析し、析出した結晶を濾過することにより、結晶を単離することが出来る。
【0076】
また、9−アントラセンメタノール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの付加反応した後に、塩化アクリロイル又は塩化メタクリロイルと反応させることにより、一般式(4)におけるmが1以上の化合物が得られる。
【0077】
この付加反応は酸化エチレンや酸化プロピレンなどが水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物存在下に開環して9−アントラセンメタノールと付加反応するものである。
【0078】
付加反応に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールのようなプロトン性溶媒か、もしくはジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドのような非プロトン性溶媒、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、さらにはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンのような水溶性エーテルを用いる。また、これらの混合溶媒でもよい。
【0079】
9−アントラセンメタノール化合物と酸化エチレンや酸化プロピレンなどとの反応は、添加するアルカリの種類や量、及びその他の条件にもよるが、一般的には反応温度は10℃以上、80℃以下、反応時間は1時間以上、5時間以下、反応圧力は0.2MPa以上、0.5MPa以下で行うのが好ましい。
【0080】
一般式(4)で表される化合物としてはたとえば次のものが挙げられる。9−(アクリロイルオキシメチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−メチル−9−(アクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9−(アクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−エチルチオ−9−(アクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−フェニルチオ−9−(アクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−アクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−(2−アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。一方、メタクリロイル基を有する化合物としては、次のような化合物が挙げられる。9−(メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、9−((2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等である。また、2−メチル−9−(メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−メチル−9−((2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−クロル−9−(メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−クロル−9−((2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−エチルチオ−9−(メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−エチルチオ−9−((2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセン等が挙げられる。また、2−フェニルチオ−9−(メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシエトキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシブトキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−アリルオキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−ブトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−メタクリロイルオキシ−3−メトキシプロポキシ)メチル)アントラセン、2−フェニルチオ−9−((2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エトキシ)メチル)アントラセンなどが挙げられる。
【0081】
上記述べてきた、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物に、さらにエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーを配合することも可能である。
【0082】
エチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の側鎖アルキル置換スチレン、ビニルトルエン等の核アルキル置換スチレン、ブロモスチレン、クロルスチレン等のハロゲン化スチレン、 ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン等を挙げることができる。シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、マレオニトリル、α−クロロアクリロニトリル等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピレンメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレー ト、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等を挙げることが出来る。また多官能アクリレーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1、6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート等が挙げられる。オリゴマーとしては、これらエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及びそれらを組み合わせたオリゴマーが挙げられる。
【0083】
ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤共に使用可能である。
【0084】
熱ラジカル重合開始剤としては、中温分解型及び高温分解型の有機過酸化物やアゾ系化合物を使用するのがよい。有機過酸化物としては、例えばt− ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t− ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート類等のパーオキシエステル類、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5− トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド 類等を挙げることができる。またアゾ系化合物の開始剤 としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリルや、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビ (シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾニトリル類を挙げることができる。
【0085】
このような熱ラジカル重合開始剤は、1 種類のみを単独に、あるいは2 種類以上を組合せて使用される。
【0086】
次に、光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−イソプロピルチオキサントン、2−t−ブチルアントラキノン等が挙げられる。実際の工業製品としてはチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア651、イルガキュア184、ダロキュア1173、イルガキュア907、イルガキュア369、ダロキュアTPO、イルガキュア819が挙げられる(イルガキュア、ダロキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)。
【0087】
本発明のラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物、ジエノフィル及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物あるいはこれらとエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーとからなる組成物には、製造される重合物が本発明の目的を著しく逸脱しない限りにおいて、必要に応じて、酸化防止剤、種々の安定剤、種々の充填成分、帯電防止剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、着色剤などを添加することができる。
【0088】
上記述べてきた、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とラジカル重合開始剤あるいはこれらとエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーとからなる組成物は、このものだけではラジカル重合を起こしづらく、過酷な条件で重合させたとしても、着色などの問題を生じ、光学材料として有用な重合物を得る事は困難であった。その理由の詳細は明らかでないが、ラジカル重合開始剤の分解により生じたラジカルかあるいはエチレン基上に生じた成長ラジカルがアントラセン骨格と相互作用し、安定化され失活するのではないかと考えられる。
このアントラセン骨格のラジカル重合禁止作用は、アントラセン骨格の電子密度が高くなっているほうが、より顕著に現れる。
【0089】
しかし、このラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物あるいはこれらとエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーとからなる組成物に、さらにジエノフィルを共存させ、ディールス・アルダー反応させることにより、ラジカル重合開始剤の作用により、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物あるいはこれらとエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーとからなる組成物は、ラジカル重合させることが出来るようになる。
【0090】
そして、得られる重合物は、アントラセン骨格を含むモノマーを用いているが、アントラセン骨格がジエノフイルと反応して環状付加物となるため、アントラセン骨格ではない芳香族を含む多環化合物基が導入されることになり、蛍光を発する等の問題もなく、高屈折を示す材となる。
【0091】
ここで用いられるジエノフィルは、一般にディールス・アルダー反応においてジエンと反応する二重結合を含む化合物であればよく、二重結合の電子密度が低いことが好ましく、その意味で二重結合に電子吸引基が置換していることが好ましい。ジエノフィルとしては、たとえば無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル類、マレイン酸ジエステル類、マレイミド類、フマル酸、イタコン酸、アクロレイン、アクリル酸、メタクリル酸、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、1,4−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン等が挙げられる。マレイン酸モノエステル類としては、たとえばマレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等が挙げられ、マレイン酸ジエステル類としては、たとえばマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジアミル、マレイン酸ジグリシジル、マレイン酸ジフェニル等が挙げられる。マレイミド類としては、たとえばN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、4,4’−ジフェニルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4’−ジフェニルジスルフィドビスマレイミド等が挙げられる。アクリル酸エステル類としては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられ、メタクリル酸エステル類としては、たとえばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシルが挙げられ、アクリル酸アクリロイルオキシアルキル化合物としてはトリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。無水マレイン酸、マレイン酸エステル類及びマレイミド類は、二重結合に電子吸引基であるケトン基が二個結合し、かつ、シス型で置換していることから、電子的にも立体的にもジエンとの反応性が高いので好ましい。また、マレイミド類、マレイン酸エステル類、アクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類は、その置換基を種々変えることにより生成した重合物の他種モノマー及び溶媒に対する相溶性などの物性を調整できるので好ましい。
【0092】
これらのジエノフィルのなかで、マレイミド化合物としては、好ましくは下記の一般式(5)で示されるマレイミド化合物が用いられる。
【化12】

(一般式(5)中、pは1又は2であり、pが1の時、qは1、Wは水素原子を示し、pが2の時、qは0〜2の整数を示し、Wは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基のいずれかを示す。)
【0093】
また、これらのジエノフィルのなかで、マレイン酸化合物としては、好ましくは下記の一般式(6)で示されるマレイン酸化合物が用いられる。
【化13】

(一般式(6)中、R,Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アリル基、グリシジル基、アリール基のいずれかを示す。)
ここで、一般式(6)におけるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0094】
さらにまた、これらのジエノフィルのなかで、アクリル酸誘導体としては、好ましくは、下記の一般式(7)で示されるアクリル酸誘導体が用いられる。
【化14】

(一般式(7)中、Zは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するアルコキシ基のいずれかを示す。)
ここで、一般式(7)におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。
【0095】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルの組成比は、モル比で通常1:1から1:15であり、より好ましくは1:2から1:9である。ジエノフィルが少ないと、アントラセン骨格の持つラジカル重合抑制作用を充分抑えることができず、多すぎると、重合物がべとつくなど重合物の物性に悪影響を及ぼす。
【0096】
ラジカル重合開始剤のラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物に対する添加量は通常0.1重量%から10重量%で有り、好ましくは0.3重量%から7重量%である。この添加量が多すぎると重合反応が急激に進行して、重合物の色相などが悪化する傾向にあり、また硬化収縮が大きすぎて割れやすくなる傾向があり、一方、少なすぎると充分に硬化させることができない。
【0097】
エチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーを添加する場合には、ラジカル重合開始剤のラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーの合計に対する添加量は通常0.1重量%から10重量%で有り、好ましくは0.3重量%から7重量%である。この場合も添加量が多すぎると重合反応が急激に進行して、重合物の色相などが悪化する傾向にあり、少なすぎると充分硬化させることができない。
【0098】
本発明の組成物の重合方法としては、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後にラジカル重合開始剤の作用によりラジカル重合することが挙げられる。
【0099】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルをディールス・アルダー反応させることにより、アントラセン骨格にジエノフィルが環状付加し、アントラセン骨格が崩れ、電子的あるいは立体的にラジカル重合を阻害する作用が減少し、この結果ラジカル重合開始剤の作用でラジカル重合可能となると推測される。
【0100】
ディールス・アルダー反応は、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルの混合物に熱を加えることにより進行する。加熱方法は任意であるが、加熱温度としては、50〜150℃の範囲が一般的であり、加熱時間は、5分〜3時間の範囲が一般的である。このとき、ルイス酸などのディールス・アルダー反応触媒を添加することも可能である。触媒をさらに添加することで、より低温で環状付加反応を進行させることが可能となる。
【0101】
ディールス・アルダー反応触媒としては、三フッ化ホウ素、二塩化亜鉛、三塩化アルミニウム、四塩化スズ、四塩化チタン等が挙げられるが、特に三フッ化ホウ素が好まれる。
【0102】
ラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤の場合は、ラジカル重合性組成物を予め加熱し、アントラセン化合物とジエノフィルをディールス・アルダー反応させ、その後にさらに加熱してラジカル重合開始剤を分解させ、当該ラジカル重合性組成物を重合させることができる。予熱温度としては、50〜150℃の範囲が一般的であり、予熱時間は、5分〜3時間の範囲が一般的である。その後の加熱温度としては、50〜150℃の範囲が一般的であり、加熱時間は、1分〜1時間の範囲が一般的である。
【0103】
当該混合物の加熱により、熱ラジカル重合開始剤が分解してラジカルを発生するが、生じたラジカルあるいはラジカル重合の成長ラジカルがアントラセン化合物によって安定化されることにより、重合が進行しづらくなっていると推測される。よって、加えられた熱によって、先に、アントラセン化合物とジエノフィルがディールス・アルダー反応を起こす。この反応により、アントラセン骨格は崩れ、ラジカルを安定化する能力を失い、当該混合物の重合が開始される。
【0104】
ディールス・アルダー反応は、重合反応時に必ずしも完結している必要はなく、ディールス・アルダー反応と重合反応が並行して進行してもよい。
【0105】
なお、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物及びジエノフィルの混合物を加熱等することによりラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後あるいは反応させながら、ラジカル重合開始剤を添加してラジカル重合性組成物として、重合物を得ることもできる。
【0106】
ラジカル重合開始剤が光ラジカル重合開始剤の場合は、ラジカル重合性組成物を加熱した後、活性エネルギー線を照射することにより、ラジカル重合性組成物を重合させることができる。
【0107】
照射する活性エネルギー線としては、光ラジカル重合開始剤を分解させラジカルを発生させることが可能であれば、特に種類を選ばない。可視光線、紫外線、電子線、X線、α線、β線、γ線などが挙げられる。これらの中で、経済性および効率の観点から、紫外線および可視光線が望ましい。これら活性エネルギー線を発生させるために用いるランプとしては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線LED、青色LD、白色LED、フュージョン社製のHランプ、Dランプ、Vランプ等が挙げられる。太陽光の使用も可能である。
【0108】
重合は,フィルム状で行うことも出来るし、塊状で行うことも可能である。たとえば、当該ラジカル重合組成物を所定の型に仕込んだ後、加熱あるいは活性エネルギー線を照射することにより、所望の形状の重合体を得ることができる。
【0109】
また、フィルム状に硬化させる場合は、当該ラジカル重合組成物を必要に応じ溶媒等に溶かし、液状の組成物をたとえばポリエステルフィルムの基材にバーコーター用いて塗布し、乾燥後、加熱あるいは活性エネルギー線を照射することにより、基材上に硬化膜を形成することができる。ラジカル重合性置換基がアクリレートの場合は酸素非存在下で実施することが望ましい。酸素存在下では酸素阻害のためフィルム表面のべたつきがなかなか取れず、開始剤の大量添加が必要となる。酸素非存在下での硬化方法としては、窒素ガス、ヘリウムガス等の雰囲気で行うことが挙げられる。また、酸素非透過性の膜をかぶせて硬化させる方法も有効である。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
得られた重合物の物性測定は、下記の方法に従った。
【0111】
「UVスペクトルの測定方法」
UVスペクトルは、島津製作所製UVメーター UV−Vis RECORDING SPECTROMETER UV−2200により求めた。
【0112】
「屈折率の測定方法」
屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製 屈折率計1T) を用いて20℃にて測定した。試料が樹脂の場合、縦×横×厚み=20mm×8mm×3mmの試験片を作製し、中間液として硫黄−ヨウ化メチレン溶液を用いて測定した。試料が常温で固体粉末である場合、外挿法により屈折率を求めた。
【0113】
「活性エネルギー線重合における重合性の判定方法」
重合性の判定は、タックフリーテスト(指触テスト)に基づいて行った。すなわち、ポリエステルフィルム表面に塗布した重合性組成物を活性エネルギー線の照射により重合させてその表面のタック(べたつき)が取れるまでに要した照射時間を硬化時間とし、重合性を判定した。
【0114】
(実施例1)9−アクリロイルオキシアントラセン(化学式(8))の合成
攪拌機、温度計付の500mlの三ッ口フラスコにアントロン10g(52mmol)とアセトニトリル80ml、トリエチルアミン9g(89mmol)を仕込んだ後、バス温80℃で2時間加熱した。ついで反応液を冷却し、氷水バスで冷却しつつ、塩化アクリロイル7g(77mmol)のo−キシレン24ml溶液を1時間かけて添加し、さらに室温で1時間攪拌した。
水50g加えてよく攪拌した後静置し、分離した水層を捨てた。同様にして水洗いを3回繰り返し、薄カーキ色のキシレン溶液を得た。次に、キシレン溶液を濃縮し、析出した結晶を吸引ろ過した。得られたウェットケーキをメタノール20ml中にリスラリーした後、吸引ろ過・乾燥し黄色の粉末9.1g得た。
【0115】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IRより、このものは9−アクリロイルオキシアントラセンであることが確認された。収率:71mol%。
融点 :157−158℃
IR(KBr、cm−1): 3050,1732,1660,1622,1395,1340,1290,1235,1140,1060,980,882,772,730,540.
H−NMR(CDCl,ppm):δ6.22(d、J=10Hz,1H,ビニル基),6.64(dd、J=10Hz,J=17Hz、1H,ビニル基),6.86(d、J=17Hz、1H,ビニル基)、7.42−7.53(m、4H,アントラセン環),7.89−7.98(m、2H,アントラセン環),7.98−8.06(m、2H,アントラセン環),8.38(s、1H,アントラセン環).
【0116】
【化15】

【0117】
(実施例2)9−メタクリロイルオキシアントラセン(化学式(9))の合成
攪拌機、温度計付の500mlの三ッ口フラスコにアントロン15g(77mmol)とアセトニトリル90ml、トリエチルアミン39g(386mmol)を仕込んだ後、バス温80℃で2時間加熱した。ついで反応液を冷却し、氷水バスで冷却しつつ、塩化メタクリロイル12g(115mmol)のo−キシレン35ml溶液を1時間かけて添加し、さらに室温で1時間攪拌した。水80g加えてよく攪拌した後静置し、分離した水層を捨てる。同様にして水洗いを3回繰り返し、薄カーキ色のキシレン溶液を得た。次に、キシレン溶液を濃縮し、生成する結晶を吸引ろ過した。得られたウェットケーキをメタノール35ml中リスラリーし、次いで吸引ろ過・乾燥し黄色の粉末12gを得た。
【0118】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IRより、このものは9−メタクリロイルオキシアントラセンであることが確認された。収率:60mol%。
融点 : 131−132℃
IR(KBr、cm−1): 3050,1732,1660,1620,1440,1400,1340,1308,1290,1128,1044,950,880,828,770,718,538.
H−NMR(CDCl,ppm):δ2.23(s、3H,メチル基),5.95(s,1H,ビニル基),6.67(s,1H,ビニル基),7.39−7.52(m.4H,アントラセン環),7.86−8.04(m,4H,アントラセン環),8.36(s,1H,アントラセン環).
【0119】
【化16】

【0120】
(実施例3)9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン(化学式(10))の合成
窒素ボックス中、攪拌機を付したオートクレーブ中でアントロン49g(250mmol)をメタノールに溶かし、水酸化ナトリウムの水溶液(水酸化ナトリウム12g、300mmol)を入れ密閉した。60℃で20分間加熱してアントロンを9−アントロールとした後、反応液の温度を45℃
で下げた。そこに酸化エチレン55g(1250mmol)を温度50℃以下、かつ圧力を0.3MPa以下に保ちつつ60分要して導入した。更に、反応温度を40℃に保持しながら反応を3時間続けた。反応終了後、得られた結晶を濾別して水洗した。80℃で乾燥することで9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンを35g得た。(
収率60mol%)
9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン2.0g(8.4mmol)とアセトニトリル40ml、トリエチルアミン2.3g(22.7mmol)を混合した後、室温で塩化アクリロイル1.9g(21.0mmol)のアセトニトリル10ml溶液を添加して1時間攪拌した。さらに、純水10mlを加え10分間攪拌した後、飽和食塩水10mL、酢酸エチル40mlを加え、純水10mlで3回洗浄した。洗浄後の有機層を濃縮後、得られた油状物質をヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、橙色油状物1.5gを得た。
【0121】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンであることが確認された。収率:61mol%。
H−NMR(CDCl,ppm):δ=4.44−4.47(m,2H,メチレン),4.66−4.68(m,2H,メチレン),5.92(dd,1H,ビニル基),6.26(dd,1H,ビニル基),6.48(dd,1H,ビニル基),7.38−7.54(m,4H,アントラセン環),7.90−8.36(m,5H,アントラセン環).
IR(neat,cm−1):730,1060,1094,1161,1188,1265,1290,1335,1402,1720.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=292(M
【0122】
【化17】

【0123】
(実施例4)9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン(化学式(11))の合成
実施例3で得た9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン2.0g(8.4mmol)とアセトニトリル40ml、トリエチルアミン2.3g(23mmol)を混合した後、室温で塩化メタクリロイル2.2g(21mmol)のアセトニトリル10ml溶液を添加して1時間攪拌した。純水10mlを加え10分攪拌した後、飽和食塩水10ml、酢酸エチル40mlを加え、純水10mlで3回洗浄した。洗浄後の有機層を濃縮後、得られた油状物質をヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、黄色結晶1.3gを得た。
【0124】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセンであることが確認された。収率:50mol%。
融点:49℃
H−NMR(CDCl,ppm):δ=2.04(s,3H,メチル基),4.43−4.50(m,2H,メチレン),4.66−4.69(m,2H,メチレン),5.66−5.82(m,1H,ビニル基),6.19−6.26(m,1H,ビニル基),7.39−7.54(m,4H,アントラセン環),7.77−8.37(m,5H,アントラセン環).
IR(KBr,cm−1):731,1085,1155,1292,1318,1339,1383,1715.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=306(M
【0125】
【化18】

【0126】
(実施例5)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン(化学式(12))の合成
アントラキノンと1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンより得られたアントラヒドロキノンのナトリウム塩水溶液154g(アントラヒドロキノンとして148mmol含有)を窒素ボックス中で攪拌機を付したオートクレーブに入れ密閉した。そこに酸化エチレン65g(1480mmol)を温度50℃以下、かつ圧力を0.3MPa以下に保ちつつ60分要して導入した。更に、反応温度を40℃に保持しながら反応を3時間続けた。反応終了後、得られた結晶を濾別して水洗した。80℃で乾燥することで9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンを28g得た。(収率64mol%)
攪拌機、温度計付きの500ml三ツ口フラスコ中、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン5.0g(16.8mmol)とアセトン200ml、トリエチルアミン8.0g(79.2mmol)を混合した後、40℃に加熱し塩化アクリロイル6.8g(75.1mmol)を添加して1時間攪拌した。メタノール2mlを加え、10℃まで反応液を冷却して析出したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去した。濾液を濃縮したのちヘキサン、酢酸エチルを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色結晶4.7gを得た。
【0127】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IR,マススペクトルより、このものは9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンであることが確認された。収率:69mol%。
融点: 87−89℃
H−NMR(CDCl,ppm):δ=4.42−4.46(m,4H,メチレン),4.67−4.70(m,4H,メチレン),5.94(dd,2H,ビニル基),6.28(dd,2H,ビニル基),6.53(dd,2H,ビニル基),7.45−7.52(m,4H,アントラセン環),8.29−8.36(m,4H,アントラセン環).
IR(KBr,cm−1):933,976,1045,1068,1192,1294,1346,1379,1408,1726.
マススペクトル:(EI−MS)m/z=406(M
【0128】
【化19】

【0129】
(実施例6)9−(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセンの合成(化学式(13))の合成
攪拌機、温度計付きの300ml三ツ口フラスコに9−アントラセンメタノール9.3g(45mmol)、塩化メチレン60ml、塩化メタクリロイル8g(77mmol)を仕込み、該スラリーを氷水で冷やしつつ、トリエチルアミン6.0g(59mmol)の塩化メチレン10ml溶液を滴下した。滴下終了後、スラリーは均一溶液となった。 氷水で冷やしつつ一晩静置した。液面に浮いたトリエチルアミンの塩酸塩を、水30ml加えて十分に攪拌し溶解させた。再度水30mlで洗浄し、得られた塩化メチレン溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、ろ過した塩化メチレン溶液にメタノールを100ml加え、冷蔵庫に保存し再結晶させた。2日後析出した結晶を吸引濾過、乾燥し、7.1gの薄黄色の微結晶を得た。
【0130】
得られた物質の分析結果は以下に示すとおりであり、1H−NMR,IRより、このものは9−(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセンであることが確認された。収率 58mol%。
融点: 59−60℃
IR(KBr、cm−1): 1715,1624,1450,1320,1296,1164,1150,1060,1008,964,946,892,740,700,640,600,568,500.
H−NMR(CDCl,ppm):δ1.92(s,3H,メチル基),5.50(s,1H,ビニル基),6.05(s,1H,ビニル基),6.22(s,2H,メチレン基),7.44−7.60(m、4H,アントラセン環),8.03(d,J=10Hz,2H,アントラセン環),8,38(d,J=10Hz,2H,アントラセン環),8.51(s,1H,アントラセン環).
【0131】
【化20】

【0132】
(実施例7)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、無水マレイン酸及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを含有するラジカル重合性組成物による熱重合反応
実施例5に準じた方法で合成した9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン15g(36.9mmol)、無水マレイン酸30g(306.5mmol)にo−キシレン100gを加えて溶解し、窒素雰囲気下、125℃で1時間加熱した。ついで該混合物を冷却し、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを1g加え、このものを106℃に加熱したところ、3分でゲル化が開始し、5分後には全体が固化した。
【0133】
(比較例1)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
無水マレイン酸を添加しないこと以外は、実施例7と同様にして、重合性組成物を調製し、106℃のバスにつけて加熱したところ、60分たってもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンは、アクリル基を有しているにもかかわらず、ラジカル重合しないことがわかる。
【0134】
(実施例8)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、無水マレイン酸、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応
実施例5に準じた方法で合成した9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)を15g(36.9mmol)、無水マレイン酸25g(255.1mmol)にトリメチロールプロパンアクリレート100g(337.8mmol)を加え、125℃で30分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、その後、トルエン400g加えて溶解させ、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1g加え、このものを、106℃のバスに浸漬した、加熱したところ、1.5分後ゲル化し始め、2分後には全体が固化した。
【0135】
(比較例2)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
無水マレイン酸を添加しないこと以外は実施例8と同様にして、重合性組成物とし、106℃のバスに浸漬したが、7分加熱してもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートもラジカル重合しないことがわかる。これは、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンのアントラセン骨格が、ラジカル重合を抑制しているためと推測された。
【0136】
(実施例9) 9―アクリロイルオキシアントラセン、無水マレイン酸、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応
実施例1に準じた方法で合成した9−アクリロイルオキシアントラセン15g(60.5mmol)、無水マレイン酸20g(204.1mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、115℃で30分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、その後、トルエン400g加えて溶解させ、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1gを加え、このものを、106℃のバスに浸漬し、加熱したところ浸漬1分後ゲル化し始め、2分後には全体が固化した。
【0137】
(比較例3)9―アクリロイルオキシアントラセン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
無水マレイン酸を添加しないこと以外は、実施例9と同様にして重合性組成物とし、106℃のバスに浸漬したが、50分加熱してもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9―アクリロイルオキシアントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートもラジカル重合しないことがわかる。これは、9―アクリロイルオキシアントラセンのアントラセン骨格が、ラジカル重合を抑制しているためと推測された。
【0138】
(比較例4)2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱重合反応(アントラセン化合物不存在)
9−アクリロイルオキシアントラセンを添加しないこと以外には比較例3と同様にして、加熱したところ、1.5分後には全体がゲル化・固化した。この結果より、9−アクリロイルオキシアントラセンがトリメチロールプロパントリアクリレートの重合を阻害していることがわかる。
【0139】
(実施例10)9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、無水マレイン酸、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応
実施例3に準じた方法で合成した9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンを5g(17.1mmol)、無水マレイン酸10g(102.0mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、105℃で15分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、その後、トルエン400g加えて溶解させ、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1gを加え、このものを、106℃のバスに浸漬し、加熱したところ、2分後にはゲル化し始め、2.3分後には全体が固化した。
【0140】
(比較例5)9―(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
無水マレイン酸を添加しないこと以外は実施例10と同様にして重合性組成物とし、106℃のバスに浸漬したが、20分加熱してもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9―(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートもラジカル重合しないことがわかる。
【0141】
(実施例11)9−(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、無水マレイン酸、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応
実施例6に準じた方法で合成した9−(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセンを15g(54.5mmol)、無水マレイン酸15g(153.1mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、105℃で30分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、その後、トルエン300g加えて溶解させ、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1gを加え、このものを、106℃のバスに浸漬し、加熱したところ、1分後には全体が固化した。
【0142】
(比較例6)9―(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
無水マレイン酸を添加しないこと以外は実施例11と同様にして重合性組成物とし、106℃のバスに浸漬したが、40分加熱してもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9―(2−メタクリロイルオキシメチル)アントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートもラジカル重合しないことがわかる。
【0143】
(実施例12) 9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、N−フェニルマレイミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応
実施例3で合成した9−(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンを15g(51.4mmol)、N−フェニルマレイミド40g(231.2mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、105℃で30分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、その後、トルエン300g加えて溶解させ、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1gを加え、このものを、106℃のバスに浸漬し、加熱したところ、1分後にはゲル化し始め、1.5分後には全体が固化した。
【0144】
(比較例7)9―(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
N−フェニルマレイミドを添加しないこと以外は実施例12と同様にして重合性組成物とし、106℃のバスに浸漬したが、40分加熱してもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルであるN−フェニルマレイミドが存在しないと、9―(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートもラジカル重合しないことがわかる。
【0145】
(実施例13)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、アクリル酸ブチル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びディールス・アルダー反応触媒である三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体を含有するラジカル重合性組成物による熱重合反応
実施例5に準じた方法で合成した9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン15g(36.9mmol)、アクリル酸ブチル38g(296.9mmol)、三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体1gを窒素雰囲気下、120℃で1時間加熱した。ついで該混合物を冷却し、溶剤としてトルエンを80g、開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを1g加え、このものを106℃に加熱したところ、1分でゲル化が開始し、1.5分後には全体が固化した。
【0146】
(比較例8)9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセン及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを含有するラジカル重合性組成物による熱共重合反応(ジエノフィル不存在)
アクリル酸ブチルおよび三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体を添加しないこと以外は、実施例13と同様にして、重合性組成物を調製し、106℃のバスにつけて加熱したところ、60分たってもゲル化しなかった。この結果より、ジエノフィルであるアクリル酸ブチルと三フッ化ホウ素エチルエーテル錯体の混合物が存在しないと、9,10−ジ(2−アクリロイルオキシエトキシ)アントラセンは、アクリル基を有しているにもかかわらず、ラジカル重合しないことがわかる。
【0147】
(実施例14)9−アクリロイルオキシアントラセン、無水マレイン酸、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応
実施例1で合成した9−アクリロイルオキシアントラセン15g(60.5mmol)、無水マレイン酸20g(204.1mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、115℃で30分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、開始剤としてイルガキュア184(イルガキュア:チバスペシャリティケミカルズ社登録商標、以下同じ)を1g加え、光重合性組成物とした。このものを、ポリエステルフィルム上、バーコーターを用いて塗布し、膜厚12μmの塗布物とした後、高圧水銀ランプを用いて照射した。指触試験を行い硬化に要する時間を測定した結果、タックフリータイムは1.5分であった。得られたフィルムのUVスペクトルを測定した結果、320nm以上の波長領域に吸収が無い透明性に優れたものであった。
【0148】
(比較例9)9−アクリロイルオキシアントラセン、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応
無水マレイン酸を添加しないこと以外は、実施例14と同様にして、光重合性組成物を調製し、同様に塗布後、光照射したが、タックフリータイムは18分ときわめて長く、得られたフィルムは、黄褐色に着色していた。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9−アクリロイルオキシアントラセンにより、9−アクリロイルオキシアントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートのラジカル重合性も阻害され、重合が極端に遅くなると同時に、得られたフィルムは、黄褐色に着色し光学材料としては適さないものであった。
【0149】
(実施例15)9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、無水マレイン酸、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応
実施例4に準じた方法で合成した9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン5g(16.3mmol)、無水マレイン酸10g(102.0mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、105℃で15分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、開始剤としてイルガキュア184を1g加え、光重合性組成物とした。このものを、ポリエステルフィルム上、バーコーターを用いて塗布し、膜厚12μmの塗布物とした後、高圧水銀ランプを用いて照射した。指触試験を行い硬化に要する時間を測定した結果、タックフリータイムは1分であった。得られたフィルムのUVスペクトルを測定した結果、320nm以上の波長領域に吸収が無い透明性に優れたものであった。
【0150】
(比較例10)9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセン、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応
無水マレイン酸を添加しないこと以外は、実施例15と同様にして、光重合性組成物を調製し、同様に塗布後、光照射したが、タックフリータイムは10分と長く、得られたフィルムは、黄褐色に着色していた。この結果より、ジエノフィルである無水マレイン酸が存在しないと、9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセンにより、9−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アントラセンのみならず、易重合性のトリメチロールプロパントリアクリレートのラジカル重合性も阻害され、重合が極端に遅くなると同時に、得られたフィルムは、黄褐色に着色し光学材料としては適さないものであった。
【0151】
(実施例16)9−アクリロイルオキシアントラセン、無水マレイン酸、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応とポリマーの屈折率測定
実施例1に準じた方法で合成した9−アクリロイルオキシアントラセン100g(403mmol)、無水マレイン酸100g(1020mmol)にトリメチロールプロパントリアクリレート100g(337.8mmol)を加え、120℃で60分加熱した。ついで、該混合物を冷却し、開始剤としてイルガキュア819を1g加え、光重合性組成物とした。このものを、ポリエステルフィルム上、バーコーターを用いて塗布し、膜厚600μmの塗布物とした後、高圧水銀ランプを用いて光照射した。指触試験を行い硬化に要する時間を測定した結果、タックフリータイムは5分であった。また、ここで得られたフィルムの屈折率を測定した結果、屈折率は1.565と高いものであった。
【0152】
(比較例11)無水マレイン酸、光ラジカル重合開始剤及びトリメチロールプロパントリアクリレートを含有するラジカル重合性組成物による光共重合反応とポリマーの屈折率測定
9−アクリロイルオキシアントラセンを添加しないこと以外は、実施例16と同様にして、光重合性組成物を調製し、同様に塗布後、光照射し、厚さ600μmのフィルムを得た。このものの屈折率を測定したところ、1.514と低いものであった。これからわかるように、9−アクリロイルオキシアントラセンを共重合させることにより、得られるポリマーの高屈折率化を図ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0153】
工業的に有用な重合方法で芳香族を含む多環化合物基をポリマーに導入することができるため、光学材料として有用な重合物を得る方法として価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物、ジエノフィル及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物。
【請求項2】
ラジカル重合可能な置換基が、エチレン性不飽和結合を有する置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和結合を有する置換基が、アクリル基又はメタクリル基を有する置換基であることを特徴とする、請求項2に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項4】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(1)で示されるアントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【化1】

(一般式(1)中、mは0〜10の整数を示し、nは1〜4の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【請求項5】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(2)で示される9,10−二置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【化2】

(一般式(2)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【請求項6】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(3)で示される9−置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【化3】

(一般式(3)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【請求項7】
ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物が、下記の一般式(4)で示される9−置換アントラセン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【化4】

(一般式(4)中、mは0〜10の整数を示す。また、Y及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示し、Rは水素原子又はメチル基のいずれかを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシメチル基、アリルオキシメチル基、アリールオキシメチル基のいずれかを示す。)
【請求項8】
ジエノフィルが無水マレイン酸であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項9】
ジエノフィルが下記の一般式(5)で示されるマレイミド化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【化5】

(一般式(5)中、pは1又は2であり、pが1の時、qは1、Wは水素原子を示し、pが2の時、qは0〜2の整数を示し、Wは酸素原子、硫黄原子又はメチレン基のいずれかを示す。)
【請求項10】
ジエノフィルが下記の一般式(6)で示されるマレイン酸化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【化6】

(一般式(6)中、R,Rは同一であっても異なっていても良く、水素原子、アルキル基、アリル基、グリシジル基、アリール基のいずれかを示す。)
【請求項11】
ジエノフィルが下記の一般式(7)で示されるアクリル酸誘導体であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【化7】

(一般式(7)中、Zは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有するアルコキシ基のいずれかを示す。)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物において、さらにエチレン性不飽和結合を有する共重合性単量体及び/又はそれらのオリゴマーを含有することを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
【請求項13】
ラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項14】
ラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後に、ラジカル重合開始剤の作用により重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物を加熱することにより、ラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、又は反応させながら重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法。
【請求項17】
請求項13に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物の1段階目の加熱によりラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、2段階目の加熱により重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法。
【請求項18】
請求項14に記載のラジカル重合性組成物を重合させる際に、当該ラジカル重合性組成物を加熱することによりラジカル重合可能な置換基を有するアントラセン化合物とジエノフィルを反応させた後、活性エネルギー線を照射することにより重合させることを特徴とする、ラジカル重合性組成物の重合方法。
【請求項19】
活性エネルギー線が、紫外線あるいは可視光線であることを特徴とする、請求項18に記載のラジカル重合性組成物の重合方法。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法で重合させて得られる重合物。

【公開番号】特開2009−67971(P2009−67971A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241070(P2007−241070)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】