説明

ラジカル重合性組成物

【課題】優れた帯電防止性に起因した非常に高いレベルの防汚性を有し、かつ、優れた汚染除去性及び耐擦傷性を兼ね備えた高硬度な被膜を形成できるラジカル重合性組成物の提供。
【解決手段】ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)、及び架橋剤(D)を含有してなり、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の活性水素原子含有基と、水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)の水酸基とが、イソシアネート基含有化合物(b)を介して結合したものであることを特徴とするラジカル重合性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば木、紙、ガラス、プラスチック等からなる成形品、フィルムまたはシート等の表面に被膜を形成するラジカル重合性組成物、および、このラジカル重合性組成物からなる被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖骨格にポリシロキサンを有する樹脂は、防汚性や汚染除去性、表面硬度等に優れた硬化物を形成できることから、従来、被覆材に使用されている。
前記被覆材としては、例えば、光硬化性(メタ)アクリレート系樹脂、光硬化性ポリシロキサン系ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、光硬化性シリコーンブロック(メタ)アクリレート系樹脂及び光重合開始剤を含有してなる光硬化性(メタ)アクリレート系樹脂組成物が、汚染除去性に優れた被膜を形成できることが知られている(特許文献1参照)。また、シリコーンの側鎖にエーテル結合を介して反応性二重結合を有する重合体の存在下に、特定の親水性ビニルモノマーと水酸基含有ビニルモノマーとカルボキシル基含有ビニルモノマーとを共重合して得られるグラフト共重合体を含有してなる防汚被覆用組成物が、再塗装性や貯蔵安定性をはじめ、防汚性に優れることが知られている(特許文献2参照)。
また、ポリシロキサン骨格と有機イソシアヌレートからなる多官能のウレタンアクリレート樹脂と不飽和単量体とを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、表面硬度が高く、耐擦傷性に優れた被膜を形成できることが知られている(特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、これらベース樹脂に使用されているポリシロキサン構造は、電気絶縁性に優れているため、形成される被膜は静電気を帯びやすく、その結果、被膜表面に埃が付着しやすいとういう欠点を有する。静電気による埃の付着は、とりわけディスプレイ等の光学分野で問題となっている。具体的には、ディスプレイ等の光学製品を構成する光学部品の僅かな帯電(静電気)が、大気中の埃や微細な塵等の付着を引き起こし、その結果、得られる光学製品の表皮不良等の問題が引き起こされる場合がある。
前記したような非常に高いレベルの帯電防止性を光学部品等に付与する方法としては、例えば前記部品等の表面に帯電防止性を有する被膜を形成する方法が知られており、該被膜としては、例えば、フェノール樹脂と、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン共重合物等とを配合した塗料が知られている(特許文献4参照)。
【0004】
しかし、前記塗料は、比較的良好な防汚性を有する被膜を形成できるものの、前記したような非常に高いレベルの帯電防止性を備えていないため、優れた防汚性を有する塗膜を形成することは困難な場合があった。
以上のように、埃等のごく僅かな付着を防止可能な非常に高いレベルの帯電防止性を有するとともに、仮に前記埃等が付着した場合であっても比較的容易に除去可能なレベルの優れた汚染除去性と前記埃等に起因した擦傷等の発生を防止可能な、高硬度で耐擦傷性に優れた被膜を形成可能なラジカル重合性組成物は、未だ見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−192751号公報
【特許文献2】特開平7−278467号公報
【特許文献3】特開平6−1819号公報
【特許文献4】特開平7−286053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、優れた帯電防止性に起因した非常に高いレベルの防汚性を有し、かつ、優れた汚染除去性及び耐擦傷性を兼ね備えた高硬度な被膜を形成できるラジカル重合性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)、及び架橋剤(D)を含有してなり、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の活性水素原子含有基と、2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)の水酸基とが、イソシアネート基含有化合物(b)を介して結合したものであることを特徴とするラジカル重合性組成物に関する。
また、本発明は、上記本発明のラジカル重合性組成物からなる被覆材に関する。
また、本発明は、上記本発明の被覆材を硬化させて得られる被膜に関する。
また、本発明は、基材表面に上記本発明の被膜を有する複合体に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラジカル重合性組成物によれば、大気中の埃等の付着を非常に高いレベルで防止することができ、かつ、仮に前記埃等が付着した場合であっても優れた汚染除去性と耐擦傷性とを備えた高硬度な被膜を形成できることから、例えば携帯電話のディスプレイ、テレビ、小型ゲーム機、携帯電話、カーナビゲーション、パーソナルコンピューター、デジタルカメラ等で使用するディスプレイやATM、券売機、POS末端、ハンディーターミナル、FA機器、複写機等で使用するタッチパネル、CD、DVD、ブルーレィディスク、HD−DVD等の磁気記録媒体の表層部、建築物の屋根、外壁や防水層などの表面塗装部分、浴槽、浴室、洗面ボウル、鏡、キッチンシンク、トイレの便器等の表層部、カメラ、ビデオカメラ、眼鏡等のプラスチックレンズの表層部等の被覆材に使用することができる。特に、ディスプレイなどの光学フィルム分野、液晶及びPDP等、表示装置の表面保護分野、電子機器の外観部品の保護フィルム分野、レジストフィルム及び偏光フィルム等の雛形フィルム分野、CRT及び液晶の表示体分野等の非常に高いレベルの帯電防止性を必須とする分野に使用することができる。
また、本発明のラジカル重合性組成物は、活性エネルギー硬化、過酸化物と還元剤との併用による常温硬化、過酸化物の使用による加熱硬化、いずれの硬化方法によっても硬化することから、用途に応じた硬化方法を採用することができる。特に、フラットディスプレイパネル用途においては、薄膜化、高硬度化が可能であるため活性エネルギー線硬化が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のラジカル重合性組成物の最良の形態について説明する。
【0010】
本発明のラジカル重合組成物は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)、架橋剤(D)、及び必要に応じてその他の添加剤を含有してなるものである。
【0011】
本発明で使用するウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)が有する活性水素原子含有基と、水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)とが、イソシアネート基含有化合物(b)を介して結合したものである。
【0012】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、優れた防汚性と汚染除去性を有する被膜を形成するうえで、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有することが必須である。
【0013】
また、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)としては、硬化被膜の形成に寄与しうる(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和二重結合を2個以上有するものを使用することが必要であるが、高硬度化かつ耐擦傷性に優れた被膜を形成する観点から、2〜5個有するものを用いることがより好ましい。
【0014】
また、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、例えばポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の有する活性水素原子含有基と、過剰のイソシアネート基含有化合物(b)との反応物である前記ポリシロキサン(a)由来の構造とイソシアネート基とを有する化合物(c)、並びに水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)を反応させることによって生成させることができる。
【0015】
具体的には、例えば前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)とイソシアネート基含有化合物(b)とを、好ましくは前記イソシアネート基含有化合物(b)の有するイソシアネート基(NCO)と、前記ポリシロキサン(a)の有する水酸基等の活性水素原子含有基との当量比(NCO/活性水素原子含有基)が1.5〜1となるように反応させることによって前記化合物(c)を得、次いで前記化合物(c)と、水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)と反応させることによって生成させることができる。
【0016】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造に使用するポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)としては、アルキレンオキサイドの開環反応物からなるポリアルキレンオキサイド鎖が、主鎖としてのポリシロキサン鎖にペンダント状にグラフトしたものを使用することが重要である。
前記ポリシロキサン(a)を使用して得られたウレタン(メタ)アクリレート(A)を使用すれば、汚染除去性に優れた被膜を形成可能なラジカル重合性組成物を得ることができる。
【0017】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖は、本発明のラジカル重合性組成物を用いて形成された被膜の帯電防止性を向上し、該被膜への埃の付着防止効果を向上するうえで必要である。また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖は、前記ポリシロキサン鎖の結晶性を緩和させるので、得られる前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の架橋剤への相溶性を向上させる上でも必要である。
【0018】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドを使用することができ、好ましくはポリエチレンオキサイドである。前記ポリアルキレンオキサイドとしては、アルキレンオキサイドの2〜15モル付加物を使用することが好ましい。
【0019】
また、前記ポリシロキサン鎖としては、例えばポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリエチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等を使用することができる。なかでも、2個以上のアルキル基やフェニル基等が結合した珪素原子から構成されるポリシロキサン鎖を使用することが、汚染除去性を向上させるとともに、ウレタン(メタ)アクリレート(A)を安定的に製造するうえでより好ましく、特にポリジメチルシロキサンを使用することが好ましい。
【0020】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)は、後述するイソシアネート基含有化合物(b)の有するイソシアネート基と反応性を有する活性水素原子含有基を有することが好ましい。ここで、前記活性水素原子含有基としては、水酸基が好ましい。
前記水酸基は、主鎖としてのポリシロキサン鎖を構成するケイ素原子等に直接結合していてもよいが、側鎖としてのポリアルキレンオキサイド鎖を構成する炭素原子等に結合していることが好ましい。
【0021】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)としては、水酸基当量300〜8000のものを使用することが好ましく、700〜3000のものを使用することがより好ましい。この範囲内の水酸基当量を有するポリシロキサン(a)を使用することによって、優れた汚染除去性と非常に優れた帯電防止性を有する被膜を形成可能なラジカル重合性組成物を得ることができる。
【0022】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)としては、前記ポリアルキレンオキサイド鎖部とポリシロキサン鎖部との質量割合が1/0.05〜1/110であるものを使用することが好ましく、1/2〜1/50であるものを使用することがより好ましく、1/2〜1/5であるものを使用することが特に好ましい。前記範囲の質量割合を有する前記ポリシロキサン(a)を使用することによって、架橋剤への溶解性に優れ、優れた汚染除去性と非常に優れた帯電防止性を有する被膜を形成可能なラジカル重合性組成物を得ることができる。
【0023】
また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)は、前記ポリアルキレンオキサイド鎖部とポリシロキサン鎖部に加えて、その他の分子鎖を有していてもよく、例えば前記ポリアルキレンオキサイド鎖部と前記ポリシロキサン鎖部とが、その他の分子鎖や化学結合を介して結合されたものであっても良い。
【0024】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の具体例としては、例えば下記一般式(1)で示されるような構造を有するものが挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
上記式中、Rは炭素原子数1〜6のアルキレン基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して炭素原子数が2〜4のアルキレン基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基またはフェニル基を示す。式中のa及びbは、それぞれ独立して1〜8の整数、m及びnはそれぞれ独立して1〜10の整数を示す。
【0027】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の市販品としては、例えば東レ・ダウコーニング(株)製 FZ−2191やSH−3771、信越化学工業(株)製 KF353A等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
次に、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造に使用するイソシアネート基含有化合物(b)について説明する。
前記イソシアネート基含有化合物(b)とは、分子中にイソシアネート基を2個以上有するものを指し、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、その異性体又はこれら異性体の混合物、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略す)、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等のジイソシアネートや、前記ジイソシアネートとトリメチロールプロパン等の3価以上の脂肪族多価アルコールとのアダクト体、ジイソシアネートの3量体であるイソシアヌレート構造体、ジイソシアネートと水との反応によるビュレット体、もしくは、ポリメリックMDI等を使用することもできる。
【0029】
前記イソシアネート基含有化合物(b)としては、本発明のラジカル重合性組成物の硬化物の経時の変色を防止する観点から、イソシアネート基を2個以上有する脂肪族系のイソシアネート基含有化合物を使用することが好ましく、また、得られる被膜の表面硬度の向上や耐熱性向上、本発明の組成物の相溶性向上の観点から、シクロヘキサン環やノルボルネン環を有するイソシアネート基含有化合物を使用することがより好ましい。
【0030】
次に、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造に使用する水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)について説明する。
前記重合性単量体(d)は、被膜の硬度を高め、耐擦傷性向上効果を付与するうえで必須成分である。前記重合性単量体(d)の代わりに、一般に知られる2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような重合性不飽和二重結合を1個有する単量体のみを用いても、耐擦傷性向上効果を付与することはできない。
【0031】
前記重合性単量体(d)の有する重合性不飽和二重結合は、2〜5個の範囲であることが好ましい。
また、前記重合性単量体(d)は、前記イソシアネート基含有化合物(b)の有するイソシアネート基と反応しウレタン結合を形成しうる水酸基を有する。
【0032】
前記重合性単量体(d)としては、例えばトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンメタクリルレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を単独で又は2種以上併用して使用することができる。なかでも、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンメタクリルレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を使用することが、形成される被膜の表面硬度を一層向上させ、優れた耐擦傷性を付与するうえで好ましい。
【0033】
本発明で使用するウレタン(メタ)アクリレート(A)を製造する際には、前記重合性不飽和二重結合含有単量体(d)の他に、水酸基及び1個の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(e)を併用しても良い。
前記重合性不飽和二重結合含有単量体(e)としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及びそれらのε−カプロラクトン付加物、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、およびε−カプロラクタム付加物からなる群から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。
前記重合性単量体(d)と前記重合性単量体(e)との質量割合は、(d)/(e)=1/0〜1/1であることが好ましい。
【0034】
また、本発明で使用するウレタン(メタ)アクリレート(A)を製造する際には、本発明のラジカル重合性組成物の空気による硬化阻害を防ぐ目的で、前記重合性単量体(d)の他に、水酸基含有アリルエーテル化合物を使用しても良い。
【0035】
前記水酸基含有アリルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等の多価アルコール類のアリルエーテル化合物等を使用することができ、なかでも1個の水酸基を有するアリルエーテル化合物を使用することが好ましい。
【0036】
次に前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造方法について説明する。
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、次の2段階の反応工程により製造することができる。
第1段目の反応工程は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の有する活性水素原子含有基1当量とイソシアネート基含有化合物(b)のイソシアネート基2当量以上とを反応させることによって、ポリシロキサン(a)由来の構造とイソシアネート基とを有する化合物(c)を得る工程である。
この反応工程は、窒素雰囲気下で、室温〜100℃程度の温度範囲で行うことが好ましい。また、前記反応工程は、無溶剤下で行うこともできるが、必要に応じて有機溶剤や、後述する架橋剤を溶媒として使用することもできる。
また、前記第1段目の反応工程では、必要に応じて触媒を使用しても良い。
触媒としては、例えばテトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラエチルチタネート等の有機チタン化合物、オクチル酸錫、ジブチル錫オキシド、シブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物、さらには、塩化第一錫、臭化第一錫、ヨウ化第一錫等の酸やアルカリ等公知の触媒を用いることができる。これらの触媒の添加量は、全仕込み量に対して10〜10,000ppmであることが好ましい。
【0037】
また、第2段目の反応工程は、前記第1段目の反応工程で生成した化合物(c)の有するイソシアネート基と、分子中に水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)の有する水酸基とを反応させる工程である。
【0038】
前記重合性単量体(d)は、前記化合物(c)のイソシアネート基1当量に対して、重合性単量体(d)の有する水酸基の当量が1〜1.5当量となる範囲で用いることが好ましい。
【0039】
この第2段目の反応工程は、室温〜90℃程度の温度範囲で行うことが好ましい。
また、この第2段目の反応工程は、無溶剤下で行うこともできるが、必要に応じて有機溶剤や、後述する架橋剤を溶媒として使用することもできる。
【0040】
また、この第2段目の反応工程では、必要に応じて前記第1段目の反応工程で使用できるものとして例示した触媒と同様のものを使用しても良い。
また、前記重合性単量体(d)の有する重合性不飽和二重結合のラジカル重合を抑制するために、必要に応じてラジカル重合禁止剤を使用することができる。
【0041】
ラジカル重合禁止剤としては、例えばハイドロキノンモノメチルエーテル、d−tert−ブチルハイドロキノン、p−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン等を使用することができる。
ラジカル重合禁止剤の使用量は、前記重合性単量体(d)の全仕込み量に対して、10〜10,000ppmであることが好ましい。
【0042】
ウレタン(メタ)アクリレート(A)の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、後述するウレタン(メタ)アクリレート(B)と、後述する架橋剤(D)との全量((A)+(B)+(D))に対して、1〜20質量%の範囲であることが好ましい。また、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の質量割合は、後述するウレタン(メタ)アクリレート(B)の全量に対して1/1〜1/50[(A)/(B)]の範囲であることが汚染除去性に優れた被膜を形成するうえで好ましく、1/10〜1/50の範囲であることが特に好ましい。
【0043】
次にウレタン(メタ)アクリレート(B)について説明する。
ウレタン(メタ)アクリレート(B)は、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有さないこと以外は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と同様のものであって、前記イソシアネート基含有化合物(b)と、前記水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)との反応物であることが好ましい。
【0044】
したがって、ウレタン(メタ)アクリレート(B)は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)を用いないこと以外は、上述のウレタン(メタ)アクリレート(A)の生成における反応工程と同様にして、前記イソシアネート基含有化合物(b)と、前記重合性単量体(d)とを、例えば、窒素雰囲気下、室温〜90℃程度の温度範囲で、無溶剤下、有機溶剤下または架橋剤の存在下で反応させることによって生成させることができる。
ウレタン(メタ)アクリレート(B)の生成に用いられるイソシアネート基含有化合物(b)と前記重合性単量体(d)は、上記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造に使用できるものとして例示したものと同様である。
【0045】
また、前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)としては、ウレタン(メタ)アクリレート(A)とは別々に生成したものを使用することができるが、原料の仕込み割合を調整することによって、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と一括して生成させたものを用いることが、生産効率を向上する観点から好ましい。
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)と前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)とを一括して製造する方法としては、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の使用量に対して、イソシアネート基含有化合物(b)及び前記重合性単量体(d)を過剰に混合、反応させる方法が挙げられる。
【0046】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ウレタン(メタ)アクリレート(B)と、後述する架橋剤(D)との全量((A)+(B)+(D))に対して20〜50質量%の範囲であることが、高硬度で耐擦傷性に優れた被膜を形成する観点から好ましい。
【0047】
次に、本発明で使用する帯電防止剤(C)について説明する。
前記帯電防止剤(C)としては、各種のものを使用することができるが、導電性フィラーや界面活性剤を使用することが好ましい。
前記導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、ATO、ITO、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、五酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛等の無機系帯電防止剤を使用することができる。
また、前記界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜3級アミノ基等のカチオン性官能基を有する各種のカチオン性界面活性剤;スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性官能基を有するアニオン系界面活性剤;アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性界面活性剤;アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性の界面活性剤を使用することができる。
また、前記帯電防止剤(C)としては、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有し、電離放射線により重合可能なモノマーやオリゴマー、例えば、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、それらの第4級化合物等の重合性帯電防止剤等の有機帯電防止剤を使用しても良い。
前記帯電防止剤(C)としては、表面抵抗値をより小さくする観点から五酸化アンチモンを使用することが好ましい。
前記帯電防止剤(C)は、単独で又は2種以上併用して使用することができる。
前記帯電防止剤(C)の含有量は、本発明のラジカル重合性組成物の有効成分の全量に対して、1〜80質量%の範囲であることが、帯電防止性に優れた被膜を形成し、かつ防汚性が良好なラジカル重合性組成物を得るうえで好ましい。なお、ここで「有効成分の全量」とは、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ウレタン(メタ)アクリレート(B)と、帯電防止剤(C)と、後述する架橋剤(D)との全量((A)+(B)+(C)+(D))を指す。
【0048】
次に、本発明で使用する架橋剤(D)について説明する。
前記架橋剤(D)としては、硬化塗膜の硬度調整を目的として、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等、より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ポリテトラメチレングリコールのジメタアクリーレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等を使用することができる。
【0049】
また、得られる被膜表面の硬度や、防汚性や防汚除去持続性、耐摩耗性、耐擦傷性、耐煽動性、耐薬品性等を向上させる観点から、多官能不飽和モノマー、好ましくは、3官能以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましく使用される。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタルトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性(n=3)トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド(n=3)・ε−カプロラクトン変性トリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ、および、ヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の重合性単量体を、単独で使用または併用することもできる。
前記架橋剤(D)の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)と、ウレタン(メタ)アクリレート(B)と、架橋剤(D)との全量((A)+(B)+(D))に対して、40〜80質量%の範囲であることが、硬化性及び耐擦傷性に優れた被膜を形成し、かつ塗布作業性が良好なラジカル重合性組成物を得るうえで好ましい。また、前記3官能以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを使用する場合には、架橋剤(D)の全量に対して5〜100質量%の範囲で使用することが、硬化性及び耐擦傷性に優れた被膜を形成するうえで好ましい。
【0050】
本発明では、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)及び架橋剤(D)の他に、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
前記添加剤としては、例えば、消泡剤、レベリング剤、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、安定剤等を使用することができる。
【0051】
次に、本発明のラジカル重合性組成物の製造方法について説明する。
本発明のラジカル重合性組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)及び架橋剤(D)等を混合することによって製造することができる。
とりわけ、前記帯電防止剤(C)が前記導電性フィラーである場合、前記ラジカル重合性組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)、ウレタン(メタ)アクリレート(B)、架橋剤(D)及び必要に応じて有機溶媒等を予め混合して得た混合物と、導電性フィラーとを混合することによって製造することができる。
また、前記導電性フィラーを有機溶媒に分散したものと、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)、ウレタン(メタ)アクリレート(B)及び架橋剤(D)を含む混合物とを混合することによって製造することもできる。
前記混合方法としては、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントミル、三本ロール等を使用する方法を適用することができる。
【0052】
また、前記帯電防止剤(C)が前記界面活性剤である場合、前記ラジカル重合性組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)、ウレタン(メタ)アクリレート(B)、界面活性剤、及び必要に応じて前記架橋剤を、温度60℃以下で一括して混合、攪拌することによって製造することができる。また、前記架橋剤を、ウレタン(メタ)アクリレート(A)やウレタン(メタ)アクリレート(B)を生成する際の溶媒として使用する場合には、架橋剤は、予め(A)や(B)に混合されていても良い。
また、前記したようにウレタン(メタ)アクリレート(A)とウレタン(メタ)アクリレート(B)とを一括して生成させた場合には、それらの混合物と界面活性剤、必要に応じて架橋剤とを混合、攪拌することによって、製造することができる。
【0053】
本発明のラジカル重合性組成物は、活性エネルギー線による硬化、過酸化物の使用による加熱硬化、過酸化物と還元剤の使用による常温硬化、のいずれの硬化方法によっても硬化させることが可能であるが、より高硬度な被膜が形成できることから活性エネルギー線による硬化が最も好ましい。
【0054】
活性エネルギー線によって硬化させる際には、硬化剤として光重合開始剤を使用することが好ましい。
前記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;メチルオルソベンゾイルベンゾエート;tert−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート;1,7−ビスアクリジニルヘプタン;9−フェニルアクリジンの群より選ばれる1種または2種以上が用いられる。
【0055】
本発明のラジカル重合性組成物を、活性エネルギー線によって硬化させる場合には、必要に応じて光重合開始剤とともに、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノンなどの公知の光増感剤が用いられる。
【0056】
本発明のラジカル重合性組成物を、過酸化物を使用して加熱硬化させる際には、硬化剤として例えばジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系などの過酸化物が用いられる。
【0057】
また、本発明のラジカル重合性組成物を常温硬化させる際には、上記過酸化物と硬化促進剤としてナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルトなどの有機金属塩やジメチルアニリン、ジエチルアニリン、パラトルイジンなどの芳香族アミン化合物とを組み合わせて用いられる。
【0058】
硬化剤の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物の100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲であることが好ましく、1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。
【0059】
また、本発明のラジカル重合性組成物は、必要に応じて重合禁止剤を使用しても良い。
重合禁止剤としては、例えば、トリハイドロキノン、ハイドロキノン、1,4−ナフトキノン、パラベンゾキノン、トルハイドロノン、p−tert−ブチルカテコール、2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノールなどが用いられる。
重合禁止剤の使用量は、本発明のラジカル重合性組成物中、10〜1,000ppmが好ましい。
【0060】
また、本発明のラジカル重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、一般に知られている不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂類、アルキッド樹脂類、尿素樹脂類、メラミン樹脂類、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル系共重合体、ポリジエン系エラストマー、飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエーテル類、セルロース類およびその誘導体、油脂類、その他の慣用の天然および合成高分子化合物を添加することができる。
【0061】
また、本発明のラジカル重合性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種溶剤を使用しても良い。溶剤としては、特に限定することはないが、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソプチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族化合物類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類等を挙げることができる。
【0062】
本発明のラジカル重合性組成物は、各種基材に対する密着性に優れていることから、各種基材の表面保護等を目的とした被覆材として用いることができる。該被覆材は硬化させることで被膜とすることができる。
基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、硬質塩化ビニル、軟質塩化ビニル、ABS樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂やエポキシ樹脂からなるFRPなど公知のプラスチックや木材、金属、コンクリート、アスファルト、ガラス、紙などが用いられる。
【0063】
前記基材の表面に前記被覆材を用いて被膜を形成する方法としては、例えばロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、リバースグラビアコート法、バーコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ダイコート法などの任意の塗布方法で前記被覆材を塗布して塗膜を形成した後、これを硬化する方法が挙げられる。前記塗布方法は、適宜、単独または組み合わせて適用してもよい。
被膜の厚み(平均)は、目的・要求性能に応じて広範囲にわたり(例えば0.5μmまたはそれ以下〜15μmまたはそれ以上)変えることができるが、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmである。
前記したような優れた帯電防止性を備えた被膜は、摩擦等で発生する帯電による埃やゴミ等の付着を防止可能であって、その表面抵抗値は概ね1014〜1015Ω/cm程度であることが通常である。しかし、近年、ごく僅かな汚れの付着等が製品物性に影響を与えうるディスプレイ等の精密光学部材の製造が盛んに行われるなかで、前記した以上の非常に高いレベルの帯電防止性が求められている。本願発明のラジカル重合性組成物によれば、表面抵抗値が1011Ω/cm以下という非常に高いレベルの帯電防止性を備えた被膜を形成することが可能である。
上記基材表面に上記被膜を有する複合体は、防汚性と帯電防止性が優れることから、例えば、各種ディスプレイやタッチパネル、磁気記録媒体、プラスチックレンズなどの光学材料として使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明する。
【0065】
(合成例1)
<ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A−1)と、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B−1)との混合物(I)の調製>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を備えた2リットルの四つ口フラスコに、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(FZ−2191 東レ・ダウコーニング(株)製、水酸基価45.9)を37質量部(0.03mol)仕込み、ノルボルネンジイソシアネートを206質量部(1mol)加え、発熱を抑制しながら80℃で2時間反応させた。
NCO当量が、前記ポリシロキサンの有する水酸基が全てイソシアネート基と反応した場合の理論値とほぼ同じ123となったのを確認した後、50℃に冷却し、ペンタエリスリトールトリアクリレートを375質量部(1.26mol)、2−ヒドロキシエチルアクリレートを122質量部(1.05mol)加え、反応促進触媒としてスズ触媒を0.02質量部添加し、空気雰囲気下90℃で7時間反応させた。
NCO%が0.3質量%以下となった後、ハイドロキノン0.1質量部を加えることによって、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A−1)と、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B−1)との質量割合[(A−1)/(B−1)]が3/37である混合物(I)を得た。
【0066】
(比較合成例1)
<ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A−2)と、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B−2)との混合物(II)の調製>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を備えた2リットルの四つ口フラスコに、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(FZ−2191 東レ・ダウコーニング(株)製、水酸基価45.9)を55.5質量部(0.045mol)仕込み、ノルボルネンジイソシアネートを309質量部(1.5mol)加え発熱を抑制しながら80℃で2時間反応させた。NCO当量が理論値とほぼ同じ123となり安定した後、50℃に冷却し、2−ヒドロキシエチルアクリレートを365質量部(3.15mol)加え、反応促進触媒としてスズ触媒を0.02質量部添加し、空気雰囲気下90℃で7時間反応させた。NCO%が0.3質量%以下となった後、ハイドロキノン0.1質量部を加えることによって、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A−2)と、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B−2)との質量割合[(A−2)/(B−2)]が3/37との混合物(II)を得た。
【0067】
(比較合成例2)
<ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(III)の調製>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を備えた2リットルの四つ口フラスコに、ノルボルネンジイソシアネートを206質量部(1mol)、ペンタエリスリトールトリアクリレートを375質量部(1.26mol)、2−ヒドロキシエチルアクリレートを122質量部(1.05mol)加え、反応促進触媒としてスズ触媒を0.02質量部添加し、空気雰囲気下90℃で7時間反応させた。
NCO%が0.3質量%以下となったのを確認した後、ハイドロキノン0.1質量部を加えることによって、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(III)を得た。
【0068】
(実施例1)
予め前記合成例1で調製したポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A−1)と、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B−1)との混合物(I)22質量部と架橋剤であるペンタエリスリトールトリアクリレート32質量部とを攪拌機を用いて混合し、次いで帯電防止剤として五酸化アンチモンゾル(70質量%メチルイソブチルケトン混合液)を153質量部を加え攪拌機で混合し均一にした後、ペイントシェ−カ−を用いて分散処理することによってラジカル重合性組成物を調製した。
【0069】
(実施例2〜3及び比較例1〜3)
表1に記載の組成割合に変更したこと以外は、上記実施例1と同様の方法でラジカル重合性組成物を調製した。
【0070】
(被膜作製方法)
前記方法で得られたラジカル重合性組成物にイルガキュアー184(チバ・ジャパン(株)製)を5質量%溶解したものを、バーコ−ト法によりガラス上に塗工後、乾燥機で90℃、90秒にて乾燥、UVランプ120Wメタルハライド1灯(UV照射量1000mJ/cm)を用いて紫外線を照射し、硬化させることによって厚み約3μmの被膜を得た。
【0071】
(被膜性能の評価方法)
上記で得られた被膜の性能は、以下の方法で評価した。
【0072】
[塗膜外観]
前記方法で得た被膜表面を目視で観察し、被膜の透明性を判断した。結果を表1に示す。
【0073】
[表面硬度]
被膜表面の鉛筆硬度をJISK5600(1000g荷重)に準拠して測定した。鉛筆硬度が5H以上のものを表面硬度に優れると評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[汚染除去性]
被膜表面に油性マジック(ぺんてるペン 油性 中字黒色)を用いて字を書き、それを乾いた布で拭き取った後の被膜表面外観を観察した。油性マジックのインクが被膜表面に全く残っていなかったものを「○」、一部インクが残っていたものの実用上使用可能なものを「△」、被膜に半分以上のインク残りがみられたものを「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[防汚性(帯電防止性)]
被膜表面の表面抵抗値をDSM−8103(東亜電波工業株式会社製)を用い、印加電圧100V、1分値で測定した。測定温湿度:TR=25℃、RH=60%。
前記表面抵抗値が、1011以下程度のものであれば、ディスプレイなどの光学フィルム分野用途にも使用可能な非常に高いレベルの帯電防止性を有する被膜であるといえる。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(A)、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)由来の構造を有さないウレタン(メタ)アクリレート(B)、帯電防止剤(C)、及び架橋剤(D)を含有してなり、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)は、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の活性水素原子含有基と、水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)の水酸基とが、イソシアネート基含有化合物(b)を介して結合したものであることを特徴とするラジカル重合性組成物。
【請求項2】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)が、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリシロキサン(a)の有する活性水素原子含有基と、過剰のイソシアネート基含有化合物(b)とを反応させることによって、ポリシロキサン(a)由来の構造とイソシアネート基とを有する化合物(c)を得、次いで前記化合物(c)と水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)を反応させて得られるものである、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項3】
前記ポリシロキサン(a)が、主鎖としてのポリシロキサン鎖に側鎖としてアルキレンオキサイドの2〜15モル付加物からなるポリアルキレンオキサイド鎖がグラフトしたものである、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項4】
前記ポリシロキサン(a)が、2個以上のアルキル基またはフェニル基が結合した珪素原子から構成されるものである、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項5】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)の全量に対する前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の質量割合が[(A)/(B)]=1/1〜1/50の範囲である、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項6】
前記ウレタン(メタ)アクリレート(B)が、イソシアネート基含有化合物(b)と、水酸基及び2個以上の重合性不飽和二重結合を有する重合性単量体(d)との反応物である、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項7】
前記帯電防止剤(C)が、導電性フィラー及び界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載のラジカル重合性組成物からなる被覆材。
【請求項9】
請求項8に記載の被覆材を硬化させて得られる被膜。
【請求項10】
表面固有抵抗値が1×1011Ω/cm以下である請求項9に記載の被膜。
【請求項11】
基材表面に請求項10記載の被膜を有する複合体。

【公開番号】特開2010−229370(P2010−229370A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81268(P2009−81268)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(505273017)ディーエイチ・マテリアル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】