説明

ラダーバルブおよび船舶用舵

【課題】既存の船に対して簡易かつ安価に取り付け可能で、推進性能が向上するようなラダーバルブおよびそのラダーバルブを備えた船舶用舵を提供する。
【解決手段】舵100に取り付けられるラダーバルブ110の基部111は船首側と船尾側の直径が同一である円筒状である。また、基部111の直径はプロペラボスの船首側の直径R1以下、かつ船尾側の直径R2以上である。また、基部111の直径は舵100の最大厚さより小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダーバルブおよび船舶用舵に関し、特に船舶の推進効率を向上させるために取り付けられるラダーバルブおよびそのラダーバルブを備えた船舶用舵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から船舶の舵のスクリュー側にバルブを取り付けることによって、推進効率を向上させる試みがなされている。このバルブを流線型にしたり、バルブに翼を取り付けたりするなどして、より推進効率が上がるような試みがなされている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−299420号公報
【特許文献2】特開2004−299423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スクリューや舵などの大きさ自体も船によって大きさが様々であり、またスクリューと舵との間隔も船によって様々である。したがって、新造船に対してラダーバルブを設計するときには大きな問題とはならないが、特に既存の船に対して後付けでラダーバルブを取り付けようとするとき、それぞれの船にあわせてラダーバルブ自体を設計して取り付けていたため、一定規格のラダーバルブを取り付けるだけとは異なり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、既存の船に対して簡易かつ安価に取り付け可能なラダーバルブおよびそのラダーバルブを備えた船舶用舵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では上記問題を解決するために、船舶の推進効率を向上させるために舵に取り付けられるラダーバルブにおいて、船首側と船尾側の直径が同一である円筒状であることを特徴とするラダーバルブが提供される。
【0007】
また、本発明では、船舶の推進効率を向上させるために取り付けられるラダーバルブを備えた船舶用舵において、前記ラダーバルブの軸線と、スクリューの回転軸が一致し、前記ラダーバルブが、船首側と船尾側の直径が同一である円筒状であることを特徴とする船舶用舵が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラダーバルブおよびそのラダーバルブを備えた船舶用舵によれば、船首側と船尾側の直径が同一である円筒状であるので、ラダーバルブの製作、および舵への取り付けが容易であり、製作・取付コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態にかかるラダーバルブを取り付けた舵の正面図である。
【図2】本実施の形態にかかるラダーバルブを取り付けた舵の底面図である。
【図3】ラダーバルブごとの自航要素の変化を示す比較図である。
【図4】ラダーバルブごとの抵抗係数の変化を示す比較図である。
【図5】ラダーバルブごとの推進効率の変化を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態にかかるラダーバルブを取り付けた舵の正面図である。
図1に示すように、舵100のスクリュー200側端部には、ラダーバルブ110が取り付けられている。ラダーバルブ110は、スクリュー200側端部が半球状になっている。
【0011】
図2は、本実施の形態にかかるラダーバルブを取り付けた舵の底面図である。
図2に示すように、ラダーバルブ110の基部111は円筒状になっている。ラダーバルブ110は、円筒材に半球状の材料を組み合わせることにより容易に作成可能となっている。これにより、ラダーバルブ110先端の突出部112は半球状になっている。
【0012】
ラダーバルブ110は、円筒状の基部111と、半球状の突出部112とが形成されると、舵100のラダーバルブ110取付部分に形成された穴に挿入されることにより一体化する。このように一体化をするので、舵100の厚みのカーブに合わせて流線型に接触線が表れる。
【0013】
ラダーバルブ110は円筒部分の軸線とプロペラボスの軸線が一致するように配置される。ラダーバルブ110の直径はプロペラボスの船首側の直径R1以下、かつ船尾側の直径R2以上である。また、ラダーバルブ110の直径は舵100の最大厚さより小さく設定されている。
【0014】
このような舵に取り付けられるラダーバルブの効果を評価するためには、模型船を用いて行われる水槽試験において、ラダーバルブを取り付けた場合とそうでない場合で推進性能試験を行って、抵抗・自航要素を比較し、最終的に推進性能を比較するのが最も精度の良い方法である。以下、水槽試験における、抵抗・自航要素の比較をグラフを用いて説明する。
【0015】
図3は、ラダーバルブごとの自航要素の変化を示す比較図である。
ラダーバルブを舵に取り付けていない場合を三角で示し、本実施の形態に係るラダーバルブ110を舵に取り付けた場合を丸で示し、従来のラダーバルブを舵に取り付けた場合を四角で示している。
【0016】
水槽試験により求められる自航要素は、プロペラ効率比ηr、伴流係数(1−w)、推力減少係数(1−t)であり、準推進効率はηD=ηr*ηp*(1−t)/(1−w)で表される。ここでηpはプロペラ効率である。
【0017】
図3に示すように、ηrにおいては、三角で示すラダーバルブを舵に取り付けていない場合のみ数値が低いことがわかる。また、1−wにおいては、三角で示すラダーバルブを舵に取り付けていない場合のみ数値が高いことがわかる。また、ラダーバルブごとの数値はほぼ同一であることがわかる。
【0018】
ラダーバルブを付けた場合、ηrはラダーバルブが取り付けられていないときに比べて高くなり、1−tはラダーバルブが取り付けられているときといないときとでほとんど同一であり、1−wはラダーバルブが取り付けられていないときに比べて低くなっている。したがって、準推進効率ηDはラダーバルブが取り付けられていないときにくらべて高くなることがわかる。なお、ηpはこの程度の自航要素の差では両者ほとんど同じ値である。
【0019】
図4は、ラダーバルブごとの抵抗係数の変化を示す比較図である。
本実施の形態に係るラダーバルブ110を舵に取り付けた場合を丸で示し、従来のラダーバルブを舵に取り付けた場合を四角で示している。
【0020】
図4に示すように、フルード数Fnが変化してもどちらのラダーバルブを使っても抵抗係数はほぼ同一であることがわかる。つまり、流線型の大きなラダーバルブを用いなくとも十分に推進効率が向上することがわかる。
【0021】
図5は、ラダーバルブごとの推進効率の変化を示す比較図である。
ラダーバルブを舵に取り付けていない場合を菱形で示し、本実施の形態に係るラダーバルブ110を舵に取り付けた場合を丸で示し、従来のラダーバルブを舵に取り付けた場合を三角で示している。
【0022】
図5に示す図においては、18ノット以上の船に備え付けられた舵にラダーバルブを付けない場合、および2種類のラダーバルブを付けた場合の推進効率を比較した実験結果を示している。
【0023】
従来のラダーバルブはスクリューのボス近傍の強い回転流によるエネルギー損失を防ぐために、プロペラボスの直径より大きなラダーバルブを舵に取り付けていた。これはタンカーなどの低速船の場合にはラダーバルブによる推進効率の上昇量が、ラダーバルブ自体による抵抗増より大きくなるので、全体として船の推進効率の上昇に寄与する。これは低速船ほど顕著である。
【0024】
しかし、コンテナ船や自動車船などの高速船においてはラダーバルブによる抵抗増が著しく大きくなり無視できない大きさになる。したがって、図5に示すようにたとえば18ノットのときは従来のラダーバルブを取り付けたとき、ラダーバルブを取り付けていないときより推進効率がやや低下している。
【0025】
一方で、本実施の形態に係るラダーバルブ110の直径はプロペラボスの船首側の直径R1以下、かつ船尾側の直径R2以上である。また、ラダーバルブ110の直径は舵100の最大厚さ以下に設定されている。
【0026】
したがって、高速船においてもラダーバルブ110自体の抵抗増は限定的であって、ラダーバルブを取り付けていないときより推進効率が高いのはもちろんのこと、従来の大きなラダーバルブを取り付けているときよりも推進効率が高いことがわかる。
【0027】
以上より、本実施の形態に係るラダーバルブ110を舵100に取り付けることにより、低速域においては従来のラダーバルブと同等の推進効率の上昇が望める。また、高速域においては従来のラダーバルブ以上の推進効率の上昇が望める。
【0028】
なお、本実施の形態において、ラダーバルブ110の突出部112は、半球状に突出する旨の説明をしたが、これは半球状のものであれば容易に作成することや調達することが可能であることに基づいている。つまり、容易に調達等できるのであれば半球状以外のより流線型に近い突出としてもよいのは言うまでもない。また、プロペラボスのキャップが平坦であるとき、突出部112自体がなく、ラダーバルブ110のスクリュー側端部が平坦になるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
100 舵
110 ラダーバルブ
111 基部
112 突出部
200 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進効率を向上させるために舵に取り付けられるラダーバルブにおいて、
船首側と船尾側の直径が同一である円筒状であることを特徴とするラダーバルブ。
【請求項2】
スクリュー側端部がスクリュー方向に突出している突出部を備えることを特徴とする請求項1記載のラダーバルブ。
【請求項3】
前記突出部は半球状であることを特徴とする請求項2記載のラダーバルブ。
【請求項4】
前記直径が、プロペラボスの船首側の直径以下、かつ船尾側の直径以上であることを特徴とする請求項1記載のラダーバルブ。
【請求項5】
前記直径が、前記舵の最大厚さ以下であることを特徴とする請求項1記載のラダーバルブ。
【請求項6】
スクリュー側端部が平坦であることを特徴とする請求項1記載のラダーバルブ。
【請求項7】
船舶の推進効率を向上させるために取り付けられるラダーバルブを備えた船舶用舵において、
前記ラダーバルブの軸線と、スクリューの回転軸が一致し、
前記ラダーバルブが、船首側と船尾側の直径が同一である円筒状であることを特徴とする船舶用舵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107522(P2013−107522A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254747(P2011−254747)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(502298192)流体テクノ有限会社 (11)