説明

ラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法

【課題】製造を容易に行うことができるラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法を提供する。
【解決手段】ラダーバルブ付き舵3は、少なくとも軸方向の一端部が閉じられた筒状のラダーバルブ5と、推進方向を制御する舵4と、を備えている。そして、舵4における推進用プロペラ2と対向する位置には、ラダーバルブ5の外形に応じた形状の開口部41が設けられており、ラダーバルブ5は、その一端部が推進用プロペラ2と対向するようにして開口部41に接合されている。従って、舵4に応じてラダーバルブ5を成形する必要がなくなり、ラダーバルブ5の形状を簡易化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、推進効率の向上のため、プロペラの後方にラダーバルブを設けたラダーバルブ付き舵が知られている。例えば、下記の特許文献1及び2には、舵の前端部におけるプロペラの回転軸芯線上にラダーバルブがプロペラと対向するよう取り付けられたラダーバルブ付き舵が記載されている。
【0003】
例えば図8に示すように、このような従来のラダーバルブ付き舵30を製造する場合、まず、前後方向に所定の間隔で平行配置した複数の縦リブ101と、上下方向に所定の間隔で平行配置した複数の水平リブ102と、を互いに交差するように組み合わせ、舵40の骨格としての組体103を形成する。このとき、前端部のプロペラに対応する位置に、複数の補強板104を配設する(図8(a)参照)。
【0004】
続いて、組体103の側面を覆うように組体103に外板を貼り付け、舵40を形成する(図8(b)参照)。そして、舵40の前端部のプロペラに対応する位置に舵40の外形に合わせて複数の部材105を組み合わせながら接合し、ラダーバルブ50を舵40に形成する(図8(c),(d)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−299423号公報
【特許文献2】特開平11−139395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記のラダーバルブ付き舵では、前述のように、舵の外形に応じた形状のラダーバルブが必要である。しかし、ラダーバルブは一般的に厚板プレス加工等によって製造されることから、ラダーバルブを舵の外形に応じた形状とする場合には困難な成形作業が要されるため、ラダーバルブの製造ひいてはラダーバルブ付き舵の製造が複雑化するおそれがある。特に、上記のラダーバルブ付き舵では、舵がリアクション舵のような複雑な形状の舵の場合、ラダーバルブの形状が複雑になるため、かかる製造の複雑化は顕著となる。
【0007】
そこで本発明は、製造を容易に行うことができるラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るラダーバルブ付き舵は、少なくとも軸方向の一端部が閉じられた筒状のラダーバルブと、推進方向を制御する舵と、を備え、舵のプロペラと対向する位置には、ラダーバルブの外形に応じた形状の開口部が形成されており、ラダーバルブは、一端部がプロペラと対向するようにして開口部に接合されていることを特徴とする。
【0009】
この本発明のラダーバルブ付き舵では、ラダーバルブの外形に応じた形状の開口部を舵に形成し、この開口部にラダーバルブを接合している。よって、舵に応じてラダーバルブを成形する必要がなくなり、ラダーバルブの形状を簡易化することができ、ラダーバルブの製造を容易化することが可能となる。そして、ラダーバルブを簡易な形状とすることで、舵にラダーバルブを容易に接合することができ、ラダーバルブ取付けの作業性を向上させることが可能となる。従って、本発明によれば、ラダーバルブ付き舵の製造を容易化できる。
【0010】
また、舵は、リアクション舵であるのが好ましい。本発明では、上述したようにラダーバルブの外形に応じた形状の開口部にラダーバルブを接合することから、舵が上下左右非対称の複雑な形状を呈するリアクション舵とされる場合でも、ラダーバルブの形状の簡易化及びラダーバルブ取付けの作業性向上が可能となり、ラダーバルブ付き舵の製造を容易に行うことができる。
【0011】
また、ラダーバルブの内面には、軸回りに沿って延在する第1裏補強部材が設けられているのが好ましい。このように、ラダーバルブの内面に第1裏補強部材を設けることで、水圧によってラダーバルブが変形するのを抑制することができる。
【0012】
また、ラダーバルブの内面には、開口部との接合部分に沿って延在する第2裏補強部材が設けられているのが好ましい。このように、ラダーバルブの内面の開口部との接合部分に第2裏補強部材を設けることで、当該接合部分を補強することが可能となる。
【0013】
また、ラダーバルブは、軸方向の他端部が舵の前端部から舵軸までの間に位置するように開口部に接合されているのが好ましい。この場合、舵軸を上下方向に延びる1つ(一体)の部材で構成でき、ラダーバルブが舵の操舵性能に悪影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る船舶は、上記ラダーバルブ付き舵を具備したことを特徴とする。この本発明の船舶においても、舵に応じてラダーバルブを成形する必要がなくなり、ラダーバルブの形状を簡易化することができ、ラダーバルブの製造を容易化することが可能となる。そして、ラダーバルブを簡易な形状とすることで、舵にラダーバルブを容易に接合することができ、ラダーバルブ取付けの作業性を向上させることが可能となる。従って、船舶を容易に製造することができる。
【0015】
また、本発明に係るラダーバルブは、上記ラダーバルブ付き舵に備えられたことを特徴とする。この本発明のラダーバルブにおいても、舵に応じて成形する必要がなくなり、その形状を簡易化することができ、よって、ラダーバルブを容易に製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係るラダーバルブ付き舵の製造方法は、上記ラダーバルブ付き舵の製造方法であって、複数の板材を組み合わせることにより、開口部を構成する空間が前端部に設けられるよう舵の骨格としての組体を形成する第1工程と、第1工程の後、組体の空間内に位置するよう当該組体にラダーバルブを取り付ける第2工程と、第2工程の後、ラダーバルブが取り付けられた組体の側面に、開口部を構成する切欠きを前端部に有する舵の側面としての外板を接合するとともに、外板における切欠きの縁部にラダーバルブの側面を接合する第3工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
この本発明のラダーバルブ付き舵の製造方法においても、舵に応じてラダーバルブを成形する必要がなくなり、ラダーバルブの形状を簡易化でき、ラダーバルブの製造を容易化することが可能となる。そして、ラダーバルブを簡易な形状とすることで、舵にラダーバルブを容易に接合することができ、ラダーバルブ取付けの作業性を向上させることが可能となる。従って、ラダーバルブ付き舵を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製造を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態のラダーバルブ付き舵を備えた船舶を示す概略側面図である。
【図2】図1の船舶の船尾部を示す拡大側面図である。
【図3】(a)は本実施形態のラダーバルブの側面図、(b)は本実施形態のラダーバルブの上面図、(c)は本実施形態のラダーバルブの正面図である。
【図4】(a)は図3のIV(a)−IV(a)線に沿っての端面図、(b)は図3のIV(b)−IV(b)線に沿っての端面図である。
【図5】本実施形態のラダーバルブ付き舵における製造手順の一例を示す図である。
【図6】リアクション舵を示す概略図である。
【図7】本実施形態のラダーバルブ付き舵における製造手順の他の一例を示す図である。
【図8】従来のラダーバルブ付き舵の製造手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、「前」「後」「左」「右」「上」「下」の語は、船体の前後方向、左右(幅)方向及び上下方向にそれぞれ対応したものである。
【0021】
図1は本実施形態に係るラダーバルブ付き舵を含む船舶を示す概略側面図、図2は図1の船舶の船尾部を示す拡大側面図である。図1に示すように、本実施形態の船舶1は、タンカー等の肥大船であり、船体10、推進用プロペラ2(プロペラ)及びラダーバルブ付き舵3を備えている。
【0022】
推進用プロペラ2は、船舶1を推進させるものであり、例えばプロペラシャフトが用いられている。この推進用プロペラ2は、その回転軸であるシャフト2aが前後方向に沿うように船尾部11に配設されている。ラダーバルブ付き舵3は、推進用プロペラ2の後方に位置するように船尾部11に設けられている。
【0023】
図2に示すように、ラダーバルブ付き舵3は、舵4と、ラダーバルブ5と、舵軸6と、を含んで構成されている。舵4は、船舶1の推進方向を制御するものであり、推進用プロペラ2の後方に設けられている。舵4は、上下方向に延びる舵軸6によって船体10に取り付けられており、舵軸6回りに揺動可能(回動可能)とされている。この舵4は、推進用プロペラ2の回転軸C上の推進用プロペラ2に対向する位置に、ラダーバルブ5を取り付けるための開口部41を備えている。
【0024】
開口部41は、ラダーバルブ5に応じた形状を有するものであり、舵4の側面から見た形状が前方に開口するV字状とされている。この開口部41は、前後方向において舵4の前端から舵軸6よりも前側の位置に設けられている。舵軸6は、船尾垂線APを中心として舵4を揺動可能に船体10に接続するものであり、舵4を上下方向に貫くように延びる部材である。また、舵軸6は、後述する縦リブ421及び縦リブ422の間に配設されている。
【0025】
ラダーバルブ5は、推進用プロペラ2の後方側で発生する渦を抑制するものであり、舵4の開口部41に設けられている。すなわち、ラダーバルブ5は、推進用プロペラ2で発生する後方に向けた流れをラダーバルブ5の表面に沿わせて流すことにより渦の回転を弱め、渦抵抗を減らして推進効率を向上させる。
【0026】
図3(a)は本実施形態に係るラダーバルブの側面図、図3(b)は本実施形態に係るラダーバルブの上面図、図3(c)は本実施形態に係るラダーバルブの正面図である。図4(a)は図3のIV(a)−IV(a)線に沿っての端面図、図4(b)は図3のIV(b)−IV(b)線に沿っての端面図である。
【0027】
図3及び図4に示すように、ラダーバルブ5は、軸方向の前端部(一端部)が閉じられた筒状の形状を有している。このラダーバルブ5は、前部51、後部52、第1裏補強部材53、第2裏補強部材54、及び取付用部材55を備えている。前部51は、ラダーバルブ5の前側に位置し、前方向に凸の椀状の部材である。後部52は、ラダーバルブ5の後側に位置し、軸Cを中心軸として前後方向に延在する筒状の部材である。後部52の前端部は、前部51の後端部と溶接により接合されている。
【0028】
第1裏補強部材53は、軸C回り回転方向に沿ってラダーバルブ5の内面に設けられた環状の板材であって、前部51と後部52との接合部分にてラダーバルブ5の内面に対し略垂直に立設されている。この第1裏補強部材53は、水圧によりラダーバルブ5の形状が変形することを抑制するために設けられたものであり、前部51と後部52との接合時の補強部材としての機能を有している。
【0029】
第2裏補強部材54は、ラダーバルブ5を舵4に取付けた後において当該ラダーバルブ5と舵4との当接部分の内面に設けられた板材である。ここでの第2裏補強部材54は、前部51の内面の当接部分のみに溶接により接合されている。取付用部材55は、軸Cに沿って前後方向に略水平に延在する板材である。取付用部材55は、その前端部が前部51の内面に溶接により接合され、その側端部が前部51の内面及び後部52の内面に溶接により接合されている。また、取付用部材55は、その後端部が後部52の後端部より後側に突出している。
【0030】
図2に戻り、このラダーバルブ5は、推進用プロペラ2の回転軸Cと略同軸になるように、舵4の開口部41内に取り付けられている。また、ラダーバルブ5の前端部は、舵4の前端部より前側に突出していると共に、ラダーバルブ5の側面は、舵4の開口部41の開口縁に滑らかに連なるように接合されている。
【0031】
次に、ラダーバルブ付き舵の製造方法について説明を行う。図5は、本実施形態に係るラダーバルブ付き舵の製造手順を示す図である。まず、図5(a)に示すように、複数の縦リブ42と複数の水平リブ43とを準備する。縦リブ42は、舵4の前後方向を厚さ方向にして上下方向に延在する略矩形状の板材である。この縦リブ42は、舵4の上下方向の長さに対応する長さを有するとともに、舵4の左右方向の幅に対応する幅を有している。
【0032】
水平リブ43は、舵4の上下方向を厚さ方向にして前後方向に延在する板材である。水平リブ43は、上方から見て左右対称の流線形形状を有している。具体的には、水平リブ43は、上方視において後端部が鋭角に形成されており、前端部に向かうにつれ左右方向の幅が滑らかに広がり、その後滑らかに狭くなるように形成されている。複数の水平リブ43は、ラダーバルブ5が取り付けられる位置の水平リブである取付用水平リブ433を除いて、略同一の形状を有している。取付用水平リブ433は、水平リブ43の前端部をラダーバルブ5の前後方向の長さに応じて切り落とした形状を有している。また、各水平リブ43には、縦リブ421及び縦リブ422が組み付けられる位置の間に、舵軸6を配設するための孔(不図示)が形成されている。この縦リブ421及び縦リブ422は、舵軸6が設けられる位置の前後に配置されている。また、縦リブ42及び水平リブ43の少なくともいずれかには、これらを互いに組み付けるためのものとして所定の間隔でスリット(不図示)が形成されている。
【0033】
続いて、複数の水平リブ43を上下方向に所定の間隔で平行配置する。この際、複数の水平リブ43の後端部を前後方向で揃える。また、取付用水平リブ433は、ラダーバルブ5を取り付ける位置に配置される。すなわち、取付用水平リブ433は、上下方向において推進用プロペラ2の回転軸Cに対応する位置に配置される。そして、複数の縦リブ42を、複数の水平リブ43と交差するように組み合わせる。
【0034】
具体的には、縦リブ42及び水平リブ43の少なくともいずれかに形成されたスリットを利用して縦リブ42と水平リブ43とを嵌合し、縦リブ42と水平リブ43とを溶接により接合する。このようにして、舵4の骨格としての組体45を形成する(第1工程)。このとき、組体45には、最も前側に配置された縦リブ42と、取付用水平リブ433の両側に配置された水平リブ43の前端部と、によって開口部41を構成する空間Sが設けられる。この空間Sは、ラダーバルブ5を舵4に取り付けるための空間である。
【0035】
次に、図5(b)に示すように、ラダーバルブ5を組体45に対して取り付ける(第2工程)。具体的には、組体45に形成された空間S内にラダーバルブ5が位置するようにラダーバルブ5の後端部(他端部)を組体45の前側から挿入する。そして、取付用水平リブ433の前端部にラダーバルブ5の取付用部材55の後端部を溶接により接合する。このとき、ラダーバルブ5の後端部は、舵4の前端部から舵軸6までの間に位置するように組体45に取り付けられる。
【0036】
次に、図5(c)に示すように、舵4の側面を構成する外板44を準備する。外板44は、流線形に湾曲する板形状を有し、舵4の右側面を構成する右外板と舵4の左側面を構成する左外板とからなる。右外板及び左外板は、いずれも上下方向に一定の長さを有している。右外板は、後端部から前端部に進むにつれ、右側に凸の形状を有するように滑らかに湾曲している。左外板は、後端部から前端部に進むにつれ、左側に凸の形状を有するように滑らかに湾曲している。外板44の前端部における推進用プロペラ2の回転軸Cに対応する位置には、空間Sとともに舵4の開口部41を構成するものとして、ラダーバルブ5の外形に応じた側面視V字状に開口する切欠き441が形成されている。
【0037】
続いて、ラダーバルブ5が取り付けられた組体45に外板44を貼り付ける(第3工程)。具体的には、右外板の内面及び左外板の内面のそれぞれを、組体45の縦リブ42の端部及び水平リブ43の端部に溶接により接合する。そして、外板44に形成された切欠き441の縁部442をラダーバルブ5の側面に当接し、滑らかに連なるように溶接によって接合する。すなわち、ラダーバルブ5にあっては、外板44の切欠き441と組体45の空間Sとによって形成される舵4の開口部41内において、舵4の左右両側面に滑らかに連なるように接合されることとなる。以上の手順により、図5(d)に示すようにラダーバルブ付き舵3が完成する。
【0038】
以上、本実施形態のラダーバルブ付き舵3によれば、ラダーバルブ5を舵4の外形に応じた形状とする必要がなく、ラダーバルブ5の形状の簡易化、及び製造の容易化が可能となり、ラダーバルブ5の加工費用を低減できる。そして、ラダーバルブ5を簡易な形状とすることで、舵4にラダーバルブ5を容易に接合することが可能となり、ラダーバルブ5を取り付ける作業性が向上する。従って、ラダーバルブ付き舵3の製造を容易化することができ、ラダーバルブ付き舵3を低コスト化することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、上述したように、ラダーバルブ5に第1裏補強部材53を設けることで、ラダーバルブ5自体の補強と、前部51と後部52との接合時の裏補強とを、1つの部材で行うことができる。このため、ラダーバルブ5の製造費用を低減することができる。さらに、舵4の開口部41に接合されたラダーバルブ5は、その前側に比較的大きい負荷が掛かるため、上述したようにラダーバルブ5の前部51に第2裏補強部材54を設けることで、ラダーバルブ5の舵4との接合部分を好適に補強することができる。
【0040】
ところで、船舶の推進方向を制御する舵としては、上記舵4の他に、推進用プロペラ2の回転流エネルギーを効率的に回収するリアクション舵が知られている。図6は、リアクション舵を示す概略図である。舵4Aは、リアクション舵であって、前端部が推進用プロペラ2の回転軸Cに対応する位置を境として上部と下部とに分かれており、上部の下端と下部の上端とが互いに左右方向に離れるよう湾曲している。具体的には、舵4Aは、前後方向において前端部に向かうにつれ、また、上下方向において回転軸C高さの位置に向かうにつれ、舵4Aの上部と下部とが左右逆方向に湾曲している。このようなリアクション舵に対してラダーバルブを取り付ける場合、従来、その製造が特に複雑化していた。
【0041】
これに対し、本発明では、舵4Aにラダーバルブ5の外形に応じた開口部41Aを形成することから、ラダーバルブ5の形状を簡易化することができ、ラダーバルブ5の取付けの作業性を向上させることが可能となる。以下にその具体的な説明を行う。
【0042】
図7は、本実施形態に係るラダーバルブ付き舵の製造手順を示す図である。まず、図7(a)に示すように、複数の縦リブ42Aと複数の水平リブ43Aとを準備する。縦リブ42Aは、舵4Aの前後方向を厚さ方向にして上下方向に延在する略矩形状の板材である。この縦リブ42Aは、舵4Aの上下方向の長さに対応する長さを有するとともに、舵4Aの左右方向の幅に対応する幅を有している。
【0043】
水平リブ43Aは、舵4Aの上下方向を厚さ方向にして前後方向に延在する板材である。水平リブ43Aは、上方から見て流線形形状を有しており、配置される位置によって形状が異なっている。具体的には、水平リブ43Aは、上方視において後端部が鋭角に形成されており、前端部に向かうにつれ左右方向の幅が滑らかに広がり、その後滑らかに狭くなるように形成されている。舵4Aの上面に位置する水平リブ431A及び下面に位置する水平リブ435Aは、左右対称の形状を有している。ラダーバルブ5が取り付けられる位置の水平リブである取付用水平リブ433Aは、水平リブ431Aの前端部をラダーバルブ5の前後方向の長さに応じて切り落とした形状を有している。
【0044】
舵4Aの上面とラダーバルブ5の取付位置との間に配置される水平リブ432Aは、ラダーバルブ5の取付位置側に向かうにつれ、水平リブ431Aの前端部を右側に傾けた形状を有している。換言すると、水平リブ432Aの頂部P2は、水平リブ431Aの頂部P1に対して右側へずれている。舵4Aの下面とラダーバルブ5の取付位置との間に配置される水平リブ434Aは、ラダーバルブ5の取付位置側に向かうにつれ、水平リブ435Aの前端部を左側に傾けた形状を有している。換言すると、水平リブ434Aの頂部P4は、水平リブ431Aの頂部P1に対して左側へずれている。また、各水平リブ43Aには、縦リブ421及び縦リブ422が組み付けられる位置の間に、舵軸6を配設するための孔(不図示)が形成されている。この縦リブ421及び縦リブ422は、舵軸6が設けられる位置の前後に配置されている。また、縦リブ42A及び水平リブ43Aの少なくともいずれかには、これらを互いに組み付けるためのものとして所定の間隔でスリット(不図示)が形成されている。
【0045】
続いて、複数の水平リブ43Aを上下方向に所定の間隔で平行配置する。この際、複数の水平リブ43Aの後端部を前後方向で揃える。また、取付用水平リブ433Aは、ラダーバルブ5を取り付ける位置に配置される。すなわち、取付用水平リブ433Aは、上下方向において推進用プロペラ2の回転軸Cに対応する位置に配置される。そして、複数の縦リブ42Aを、複数の水平リブ43Aと交差するように組み合わせる。
【0046】
具体的には、縦リブ42A及び水平リブ43Aの少なくともいずれかに形成されたスリットを利用して縦リブ42Aと水平リブ43Aとを嵌合し、縦リブ42Aと水平リブ43Aとを溶接により接合する。このようにして、舵4Aの骨格としての組体45Aを形成する(第1工程)。このとき、組体45Aには、最も前側に配置された縦リブ42Aと、取付用水平リブ433Aの両側に配置された水平リブ43Aの前端部と、によって開口部41Aを構成する空間SAが設けられる。この空間SAは、ラダーバルブ5を舵4Aに取り付けるための空間である。
【0047】
次に、図7(b)に示すように、ラダーバルブ5を組体45Aに対して取り付ける(第2工程)。具体的には、組体45Aに形成された空間SA内にラダーバルブ5が位置するようにラダーバルブ5の後端部を組体45Aの前側から挿入する。そして、取付用水平リブ433Aの前端部にラダーバルブ5の取付用部材55の後端部を溶接により接合する。このとき、ラダーバルブ5の後端部は、舵4Aの前端部から舵軸6までの間に位置するように組体45Aに取り付けられる。
【0048】
次に、図7(c)に示すように、舵4Aの側面を構成する外板44Aを準備する。外板44Aは、流線形に湾曲する板形状を有し、舵4Aの右側面を構成する右外板と、舵4Aの左側面を構成する左外板とからなる。外板44Aの前端部における推進用プロペラ2の回転軸Cに対応する位置には、空間SAとともに舵4Aの開口部41Aを構成するものとして、ラダーバルブ5の外形に応じた側面視V字状に開口する切欠き441Aが形成されている。
【0049】
右外板は、上下方向に一定の幅を有し、右側に凸の形状となるように滑らかに湾曲している。右外板の前端部は、切欠き441Aを境として上部と下部とに分かれており、上部の下端と下部の上端とがそれぞれ右方向及び左方向に離れるよう湾曲している。左外板は、上下方向に一定の幅を有し、左側に凸の形状となるように滑らかに湾曲している。左外板の前端部は、切欠き441Aを境として上部と下部とに分かれており、上部の下端と下部の上端とがそれぞれ右方向及び左方向に離れるよう湾曲している。
【0050】
続いて、ラダーバルブ5が取り付けられた組体45Aに外板44Aを貼り付ける(第3工程)。具体的には、右外板の内面及び左外板の内面のそれぞれを、組体45Aの縦リブ42Aの端部及び水平リブ43Aの端部に溶接により接合する。そして、外板44Aに形成された切欠き441Aの縁部442Aをラダーバルブ5の側面に当接し、滑らかに連なるように溶接によって接合する。すなわち、ラダーバルブ5にあっては、外板44Aの切欠き441Aと組体45Aの空間SAとによって形成される舵4Aの開口部41Aにおいて、舵4Aの左右両側面に滑らかに連なるように接合されることとなる。以上の手順により、図7(d)に示すようにラダーバルブ付き舵3Aが完成する。
【0051】
このようなラダーバルブ付き舵3Aにおいても、ラダーバルブ5を舵4Aの外形に応じた複雑な形状とする必要がなく、また、ラダーバルブ5を取り付ける作業性が向上するため、ラダーバルブ付き舵3Aの製造を容易化できる。
【0052】
また、ラダーバルブ5の外形に応じた形状の開口部41Aにラダーバルブ5を接合することから、複雑な形状を呈するリアクション舵としての舵4Aを備えた場合であっても、ラダーバルブ5の形状の簡易化及びラダーバルブ5の取付けの作業性向上が可能となり、ラダーバルブ付き舵3Aの製造を容易に行うことができる。
【0053】
なお、船級規則上、舵4の回転する中心の位置である舵心には、舵を上下方向に貫く1本(一体)の部材を有する必要がある。この点、本実施形態では、上述したように、舵4,4Aの前端部から舵軸6までの位置にラダーバルブ5の後端部(他端部)が位置するため、舵心を通る1本の部材を有することができ、船級規則に則ったラダーバルブ付き舵3,3Aを得ることができ、ラダーバルブ5が操舵性能に悪影響を及ぼすのを防止することが可能となる。
【0054】
以上、本発明に係るラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法は、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る上記ラダーバルブ付き舵、船舶、及びラダーバルブ、並びにラダーバルブ付き舵の製造方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0055】
例えば、第2裏補強部材54は、前部51の内面においてラダーバルブ5と舵4の開口部41との接合部分に設けられているが、後部52の内面の接合部分に設けられてもよい。つまり、第2裏補強部材54は、ラダーバルブ5と舵4の開口部41との接合部分の全体に設けられてもよいし、接合部分の一部に設けられてもよい。
【0056】
また、船級規則上、舵心には舵を上下方向に貫く1本の部材を有する必要があり、上記実施形態では、舵軸6が舵4を上下方向に貫く1本の部材として設けられているが、これに代えて、例えば縦リブ421及び縦リブ422の少なくともいずれかを舵心に配置するようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、ラダーバルブ5は前端部が閉じられた筒状を呈しているが、前端部及び後端部が閉じられた筒状を呈していてもよい。また、上記実施形態では、前部51と後部52とを接合することによりラダーバルブ5を製造しているが、これに代えて、例えば鋳造によりラダーバルブ5を一体的に製造してもよい。また、上記実施形態では、前部51及び後部52のそれぞれを一体的に構成しているが、複数の要素部材を接合することにより前部51及び後部52のそれぞれを構成してもよい。なお、上記実施形態の船舶1は、肥大船に限定されるものでなく、その他の如何なる船であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…船舶、2…推進用プロペラ、3,3A…ラダーバルブ付き舵、4,4A…舵、5…ラダーバルブ、41,41A…開口部、44,44A…外板、45,45A…組体、53…第1裏補強部材、54…第2裏補強部材、441,441A…切欠き、442,442A…縁部、S,SA…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軸方向の一端部が閉じられた筒状のラダーバルブと、
推進方向を制御する舵と、を備え、
前記舵のプロペラと対向する位置には、前記ラダーバルブの外形に応じた形状の開口部が形成されており、
前記ラダーバルブは、前記一端部が前記プロペラと対向するようにして前記開口部に接合されていることを特徴とするラダーバルブ付き舵。
【請求項2】
前記舵は、リアクション舵であることを特徴とする請求項1に記載のラダーバルブ付き舵。
【請求項3】
前記ラダーバルブの内面には、前記軸回りに沿って延在する第1裏補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のラダーバルブ付き舵。
【請求項4】
前記ラダーバルブの内面には、前記開口部との接合部分に沿って延在する第2裏補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のラダーバルブ付き舵。
【請求項5】
前記ラダーバルブは、前記軸方向の他端部が前記舵の前端部から舵軸までの間に位置するように前記開口部に接合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のラダーバルブ付き舵。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラダーバルブ付き舵を具備した船舶。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラダーバルブ付き舵に備えられたラダーバルブ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラダーバルブ付き舵の製造方法であって、
複数の板材を組み合わせることにより、前記開口部を構成する空間が前端部に設けられるよう前記舵の骨格としての組体を形成する第1工程と、
前記第1工程の後、前記組体の前記空間内に位置するよう当該組体に前記ラダーバルブを取り付ける第2工程と、
前記第2工程の後、前記ラダーバルブが取り付けられた前記組体の側面に、前記開口部を構成する切欠きを前端部に有する前記舵の側面としての外板を接合するとともに、前記外板における前記切欠きの縁部に前記ラダーバルブの側面を接合する第3工程と、を含むことを特徴とするラダーバルブ付き舵の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162110(P2012−162110A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22056(P2011−22056)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)