説明

ラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構

【課題】 ラチェット型ワンウェイクラッチを用いることで、エンジンスタータ機構の軸方向長を短縮することで、省スペース化及び低コスト化を図る。
【解決手段】 ラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構は、スタータモータと、スタータモータからの駆動力を受けるためのリングギアと、外輪と、外輪に対して内径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置された内輪と、内輪の外周に設けた凹部に係合し、外輪と内輪との間でトルクを伝達する係止片とを有するラチェット型ワンウェイクラッチとを備え、リングギアは、ラチェット型ワンウェイクラッチの内輪と一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに用いられる、ラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構においては、スタータモータとリングギアを常時噛み合い状態にして、スタータモータの回転力をワンウェイクラッチの外輪に連結したリングギアからワンウェイクラッチを介し、エンジンのクランクシャフト(ワンウェイクラッチの内輪と連結)に伝達し、エンジンを始動させている。エンジン始動後は、クランクシャフトがオーバーランすることで、エンジン回転と同期し、リングギアは停止状態となる。
【0003】
ワンウェイクラッチは、エンジン始動後に、過度の高速でスタータモータが駆動されるのを防止する機能を備えている。このようなエンジンスタータ機構の一例が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2000−274337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構では、ワンウェイクラッチとして、スプラグ型や、ローラ型(特許文献1)を用いることが多かった。
【0006】
しかしながら、スプラグ型ワンウェイクラッチやローラ型ワンウェイクラッチで、高いトルク容量を確保するためには、ワンウェイクラッチが大型化する傾向があり、ワンウェイクラッチの小型化が困難であった。また、スプラグやローラを保持する保持器を設けることが必要であり、軸方向長を短縮することも困難であった。この結果、エンジンスタータ機構の省スペース化も困難であった。
【0007】
更に、ワンウェイクラッチが小型化できないため、オイルシールの径を小さくすることができず、オイルシールによる摺動抵抗を低減することができなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、ラチェット型ワンウェイクラッチを用いることで、エンジンスタータ機構の軸方向長を短縮することで、省スペース化及び低コスト化を図ることができるエンジンスタータ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願発明のワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構は、
ラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構であって、
スタータモータと、
前記スタータモータからの駆動力を受けるためのリングギアと、
外輪と、前記外輪に対して内径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置された内輪と、前記内輪の外周に設けた凹部に係合し、前記外輪と前記内輪との間でトルクを伝達する係止片とを有するラチェット型ワンウェイクラッチと、
を備え、前記リングギアは、前記ラチェット型ワンウェイクラッチの前記内輪と一体化されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
同サイズの他のワンウェイクラッチに比べてトルク容量の高いラチェット型ワンウェイクラッチを用いたことで、ワンウェイクラッチの小型化が可能となる。ワンウェイクラッチの小型化に伴い、オイルシール径が小型化できるため、摺動抵抗を低減できる。また、保持器が不要となるため、ワンウェイクラッチの軸長を短縮できる。これにより、エンジンスタータ機構全体の軸方向長さを短縮化でき、省スペース化が達成できる。
【0011】
ワンウェイクラッチの内輪とリングギアを一体しているため、部品点数が削減できる。また、エンジン始動後、外輪が所定の回転数(約500〜約1200rpm)以上で回転するようになると、ラチェット型ワンウェイクラッチの係止片が遠心力で浮き上がり、内輪と非接触状態となる。これにより、ワンウェイクラッチの摺動摩耗が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示すラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構の軸方向部分断面図である。
【図2】本発明の第2実施例を示すラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構の軸方向部分断面図である。
【図3】本発明の各実施例に用いられるラチェット型ワンウェイクラッチの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。尚、以下説明する実施例は本発明を例示として説明するものであって、本発明を限定するものではないことは言うまでもない。
【0014】
(第1実施例)
図1は、本発明の第1実施例を示すラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構の軸方向部分断面図である。説明の便宜上、以下の説明では「ラチェット型ワンウェイクラッチ」を単に「ワンウェイクラッチ」と称する。
【0015】
図1に示すように、ワンウェイクラッチ20を用いたエンジンスタータ機構50は、不図示の電源からの給電により駆動される電動モータであるスタータモータ1と、スタータモータ1からの駆動力を受けるためのリングギア6と、ワンウェイクラッチ20とを備えている。
【0016】
リングギア6は、スタータモータ1の出力軸2に固定されたピニオンギア3に常時噛合するギア部4とギア部4が固定されたプレート部5を備えている。リングギア6とエンジン(不図示)のクランクシャフト13との間にはワンウェイクラッチ20が配置されている。
【0017】
図3に示すように、ワンウェイクラッチ20は、外輪21と、外輪21に対して内径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置された内輪22と、内輪22の外周に設けた凹部26に係合し、外輪21と内輪22との間でトルクを伝達するラチェット(爪)状の係止片23とを有する。
【0018】
係止片23は、周方向で等配に3箇所設けられているが、3個以外の個数の係止片23を設けることもできる。外輪21には、凹部41と、凹部41より大きな凹部42が設けられ、凹部41にはスプリング40が、また凹部42には係止片23が収容されている。スプリング40は、内輪22の凹部26に係止片23が嵌合するように、係止片23の先端部側を常時付勢している。
【0019】
ワンウェイクラッチ20の外輪21の軸方向の一端部は、係止片23が軸方向に抜けるのを防止するための環状のリテーナ24が設けられている。リテーナ24と軸方向で対向する外輪21の他端には、係止片23に向かって軸方向に突出する突出部25が設けられ、係止片23を支持している。係止片23は、突出部25に側面を支持されているため、揺動時の姿勢が安定する。また、ワンウェイクラッチ20には、係止片23を収容保持する保持器が設けられていないため、ワンウェイクラッチ20の軸長が短縮できる。
【0020】
図1に示すように、リングギア6は、プレート5を介してワンウェイクラッチ20の内輪22と一体化されている。内輪22と径方向で対向して配置される外輪21は内径部28を備えている。内径部28はボルト36によってエンジンのクランクシャフト13に固定されている。内輪22と外輪21の内径部28との間には軸受33が設けられている。また、クランクシャフト13には、フライホイール32が固定されている。
【0021】
リテーナ24の内径側には、環状のオイルシール12が設けられ、リテーナ24と内輪22の外周面との間を封止している。従って、ワンウェイクラッチ20は、外輪21、リテーナ24、オイルシール12、内輪22とで囲まれ、ほぼ密閉された空間が形成される。ワンウェイクラッチ20には、潤滑剤としてグリースを封入する。この結果、ワンウェイクラッチ20は、この空間内にグリースと共に密封され、外部からの潤滑油の供給が不要となる。
【0022】
このようにすることで、従来の潤滑経路が不用となるため、レイアウトの自由化及び省スペース化が可能となる。また、従来、エンジンからの潤滑油を封止するため、ワンウェイクラッチ20の外輪21の外径部に設けられていたオイルシールが不要となり、クランクシャフト13の外径部のオイルシール30に置換えられるため、オイルシール30が小径化され摺動抵抗を低減することができる。
【0023】
外部からの潤滑油の供給無しで、すなわち無潤滑でワンウェイクラッチ20動作させることで、潤滑油によって運ばれてくる異物や成分によってワンウェイクラッチ20が損傷を受けることがなくなり、ワンウェイクラッチ20の寿命が延びる。
【0024】
ワンウェイクラッチ20のオイルシール12と軸方向で反対側には、部材31に固定された部材29が設けられ、部材29とクランクシャフト13の外径部との間にオイルシール30が配置され、エンジンからの潤滑油を封止している。
【0025】
以上のような構成のエンジンスタータ機構50は、以下のように動作する。先ず、イグニッション操作により、スタータモータ1が駆動されると、その回転力はピニオンギア3を介して、ピニオンギア3と常時噛み合っているリングギア6に伝達される。リングギア6は、ワンウェイクラッチ20の内輪22と一体であるため、内輪22も同時に図3において時計方向に回転する。係止片23が内輪22の凹部26に係合すると共に、外輪21の凹部42の内壁に当接することで、内輪22の回転力は、外輪21に伝達される。
【0026】
外輪21の回転力は、クランクシャフト13に固定された内径部28を介して、クランクシャフト13に伝達され、不図示のエンジンが始動される。エンジンの始動後は、クランクシャフト13がオーバーランしてエンジン回転と同期するため、リングギア6は停止状態となる。
【0027】
エンジン始動後、外輪21が所定の回転数(約500〜約1200rpm)以上で回転を始めると、スプリング40の付勢力に抗して係止片23が遠心力で浮き上がり、内輪22の凹部26から離脱し、内輪22と非接触(非係合)状態となる。すなわち、内輪22に対して外輪21がオーバーランするようになり、外輪21から内輪22への回転トルクの伝達が遮断される。これにより、過度の高速でスタータモータが駆動されることが防止される。
【0028】
凹部26への嵌合や外輪21及び内輪22との摺擦によって摩耗することを防止するため、ワンウェイクラッチ20の係合片23の表面の全体または一部に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの硬質皮膜を形成してもよい。また、同様の理由で、固体潤滑剤コーティングを形成してもよい。
【0029】
(第2実施例)
図2は、本発明の第2実施例を示すラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構の軸方向部分断面図である。基本的な構成及び動作は、第1実施例と同様なので、異なる部分について以下説明する。
【0030】
第2実施例では、第1実施例で設けられたオイルシール12が設けられていない。その代わりに、リテーナ24の径方向の長さを大きくし、内輪22の外周面に接近させる。内輪22にリテーナ24の内径部が動作中に接触しない程度の僅かなクリアランスを設けている。
【0031】
第2実施例では、ワンウェイクラッチ20にグリースの封入はしない。従って、ドライで無潤滑の状態でワンウェイクラッチ20が動作する。本実施例においても、ワンウェイクラッチ20を潤滑するための潤滑油路や潤滑経路のためのスペースを確保する必要がないので、レイアウトの自由化及び省スペース化が可能となる。
【0032】
第2実施例においても、ワンウェイクラッチ20の係合片23の表面の全体または一部に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの硬質皮膜を形成することができる。また、同様の理由で、固体潤滑剤コーティングを形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 スタータモータ
6 リングギア
12 オイルシール
13 クランクシャフト
20 ラチェット型ワンウェイクラッチ
21 外輪
22 内輪
23 係止片
26 内輪の凹部
33 軸受
50 エンジンスタータ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチェット型ワンウェイクラッチを用いたエンジンスタータ機構であって、
スタータモータと、
前記スタータモータからの駆動力を受けるためのリングギアと、
外輪と、前記外輪に対して内径方向に離間され、相対回転自在に同心状に配置された内輪と、前記内輪の外周に設けた凹部に係合し、前記外輪と前記内輪との間でトルクを伝達する係止片とを有するラチェット型ワンウェイクラッチと、
を備え、前記リングギアは、前記ラチェット型ワンウェイクラッチの前記内輪と一体化されていることを特徴とするエンジンスタータ機構。
【請求項2】
前記係止片は硬質皮膜を有することを特徴とする請求項1に記載のエンジンスタータ機構。
【請求項3】
前記係止片は固体潤滑剤のコーティングを有することを特徴とする請求項1に記載のエンジンスタータ機構。
【請求項4】
前記ラチェット型ワンウェイクラッチは、オイルシールにより封止されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジンスタータ機構。
【請求項5】
前記ラチェット型ワンウェイクラッチには、グリースが充填されていることを特徴とする請求項4に記載のエンジンスタータ機構。
【請求項6】
前記ラチェット型ワンウェイクラッチには、前記ワンウェイクラッチを封止するため軸方向の一端にリテーナが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジンスタータ機構。
【請求項7】
前記ラチェット型ワンウェイクラッチは、無潤滑状態で動作することを特徴とする請求項6に記載のエンジンスタータ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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