説明

ラチェット式ステントをガイドカテーテルの妨害から保護するスリーブ

ラチェット機構が設けられたステント(110)を搬送するシステムは、可動弾性スリーブ(310)を有している搬送用カテーテル(301)を備える。弾性スリーブはステントのラチェット機構を被覆し、ラチェット機構がガイドカテーテル(318)または血管壁に接触するのを阻止し、搬送用カテーテルのガイドカテーテルの中への後退を容易にしている。スリーブはステントを配備するために後退させられる。本発明の一実施形態は、湾曲した可撓性の遠位先端部を設けたガイドカテーテルを備え、ステントの配備を容易にするよう図っている。本発明の別な実施形態は、ラチェット機構が設けられているステントを血管内で位置を変えて配備する方法を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、ステントのカテーテル配備に関するものである。より特定すると、本発明は、ラチェット機構を設けたステントを配備すると同時に、ステントとガイドカテーテルまたは血管壁との間の干渉を防止するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルーンカテーテルは、血管内血管形成術などのような多様な医学的治療応用例で利用されている。例えば、バルーンカテーテル装置は、経皮経カテーテル冠動脈形成術(PTCA: percutaneous transluminal coronary angioplasty)中に膨張させられて、狭窄症の血管を拡張する。狭窄症はプラークまたは血栓などのような障害の結果である。膨張後、加圧バルーンは病変部に圧縮力を及ぼすことにより、罹患血管の内径を増大させて血流を向上させる。しかしながら、この処置後まもなく、かなりの割合の治療済み血管が再狭窄と呼ばれるプロセスのせいで再び狭まる。
【0003】
再狭窄を防止するために、ステントとして周知の、金属または多様な重合体から構築された短い可撓性のメッシュ筒状耐体が血管内に移植されて、血管寸法を維持する。バルーンが拡張可能なステントは、配備完了時よりも小さい径でバルーンカテーテルの収縮させたバルーン部の周辺に取付けられる。血管形成術中は、ステントを搬送するバルーンカテーテルが曲がりくねった血管網を通って所望部位まで前進させられる。バルーンは膨張状態になり、ステントを最終径まで拡張させる。ステントは、配備後は、血管内に残留し、バルーンが収縮されて、カテーテルが取り出される。
【0004】
バルーンカテーテルは、広く使用されているが、ステント搬送システムとしてはかなりの制約がある。ステントはバルーンの外部に堅固に装着されなければならないため、カテーテルが血管系を通って標的部位まで通過する際にステントの位置がずれることはない。このため、ステントは十分に小さい直径まで、かしめられて、バルーンをしっかり把持するようにされる。バルーンの形状はステントを固着するのを助けるために利用される。或るカテーテル設計では、ステントの両端を被覆するスリーブが設けられて、血管系を通過する間、ステントを安定させている。
【0005】
平坦シート状の素材を筒状に巻くことにより形成されたステントが既に開示されている。きつく巻かれると、こうして形成されたステントは直径が十分に小さくなるため、カテーテルに取付けられているバルーンを覆って装着することができるようになり、バルーンの外部にステントを、かしめる必要を無くしている。標的部位では、バルーンが膨張させられ、ステントの巻きを一部解いて拡張し、直径を大きくして重なり部分が減らされた筒状コイルにする。ステントの直径を大きいままに保つために、ロック機構またはラチェット機構が利用される。ロック機構はコイルの内側のシート端縁部に複数の歯を設けて、これらが隣接するステントの壁のスロットまたは孔に嵌合する。しかしながら、大半のロック機構は細長い舌状部またはベルトを備えており、これがコイルの内側端縁部に取付けられて、コイルが拡張するにつれて、コイルの内側面に沿って引張られるようになっている。ある構成では、舌状部またはベルトには一連の横方向の隆起部が設けられており、これらがステントの内側壁に設けられた対応する隆起部と噛合して、拡大した直径にステントを維持するラチェット機構を形成している。これに代わる例として、細長い舌状部は一連の穴を有しており、これらがコイルの内部壁に設けられた対応する一連の突起部に嵌合し、固定径にステントを維持するロック機構を形成している。いずれの事例でも、ステントがきつくコイル状に巻かれると、舌状部の一部がステントの外側面を超えて張出していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大半の心臓血管搬送システムは、ステント搬送用カテーテルに加えてガイドカテーテルを備えている。実際には、ガイドカテーテルは患者の血管系に挿入されて、遠位先端部が標的部位に隣接する位置にくるまで、ガイドワイヤ上を伝って前進させられる。次に、ステント搬送用カテーテルがガイドカテーテルの内部管腔を通過させられる。長手方向剛性を幾らか備えており、血管系を通される導管を設けることにより、ガイドカテーテルは搬送用カテーテルの設置を容易にしている。
【0007】
ステントを搬送するために、ステントを運ぶ搬送用カテーテルの遠位部はガイドカテーテルの遠位先端部を通って延長され、ステントは標的部位に設置される。搬送用カテーテルを整復する、または、置換する必要がある場合は、搬送用カテーテルはガイドカテーテルの中に後退させられなければならない。しかしながら、きつく巻かれたコイル形状では、ラチェット機構の舌状部がガイドカテーテルの内径を越えて張り出し、搬送用カテーテルがガイドカテーテルの中へ後退するのを妨げる。目下使用されているガイドカテーテルを用いて遭遇する第2の問題点は、ガイドカテーテルの長手方向の剛性のために、カテーテルは血管系の中で容易に操舵することができず、ガイドカテーテルの遠位先端部が血管に接触する部位に擦傷や切傷を引き起こすことがある。よって、上述のような諸問題点を克服する、ラチェット機構を設けたステントを標的部位に搬送する方法および装置を提供するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの観点は、可動弾性スリーブを有している搬送用カテーテルを備えた、ステント搬送システムを提供することである。ラチェット機構が設けられたステントはカテーテルの遠位部付近に設置され、可動弾性スリーブによって被覆される。第1位置において、弾性スリーブはステントのラチェット機構を被覆し、第2位置において、ラチェット機構は露出状態である。
【0009】
本発明の別な観点は、血管症状を治療する方法を提供し、ラチェット機構が設けられているステントを治療部位で位置を変えて配備することを含んでいる。ガイドカテーテルの遠位先端部は、治療部位に隣接している領域まで前進させられる。ラチェット機構が設けられて、弾性スリーブによって被覆されたステントを運ぶ搬送用カテーテルは、ガイドカテーテルの遠位端の中を前進させられる。処置の最中は、弾性スリーブはステントがガイドカテーテル、または、血管壁に接触するのを阻止している。次に、搬送用カテーテルは逆にドカテーテルの中に後退させられる。弾性スリーブはステントの細長い舌状部がガイドカテーテルの内径を越えて突出するのを防ぎ、搬送用カテーテルガイドカテーテルの中に後退するのを妨げることがないようにする。次に、ガイドカテーテルは最終標的部位に隣接した位置まで、位置を変えられる。続いて、搬送用カテーテルはガイドカテーテルの先端部の中を前進させられて、ステントが最終標的部位に置かれるように位置決めされる。最後に、弾性スリーブは後退させられて、ステントが最終標的部位に厳密に配備される。
【0010】
本発明は、多様な実施形態の添付図面と後段の詳細な説明によって具体例を提示されている。図面は本発明を特別な実施形態に限定するものと解釈されてはならず、説明と理解を助けるためのものであると理解するべきである。詳細な説明と図面は制限するというよりむしろ、本発明の例示にすぎず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲の各請求項とその均等物によって限定される。図面は定尺表示ではない。本発明の前掲の局面とそれらに付随する利点は、添付の図面と関連づけて解釈されれば、詳細な説明によってより容易に正しく認識されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書の全体を通して、同一参照番号は同一構造を照合するものである。
【0012】
図面を参照すると、図1は、先行技術で周知であるような、ラチェット機構が設けられたステント100の具体例である。かかるステントは、平坦なシート状のステント素材を分断してシートを巻いて渦巻きを作ることにより形成される。渦巻きの外側面102は筒状である。ステント100は生体分解性であってよもいし、恒久的なもの(非生体分解性)であってもよく、1種類の生体適合性素材または複数種類の生体適合性素材を組合せた素材から構成されている。適切なステント素材には、各種金属、ステンレス鋼のような金属合金、ニチノールのような形状記憶素材、ポリエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリグリコリド、ポリラクチド、ラクチドとグリコリドの共重合体、ポリアンヒドリド、それ以外の医学的に容認できる各種重合体などを単独または組合せたものが含まれる。ステントは、その内側でバルーンを膨張させてからステントの筒状本体を拡張させて複数の壁部材を互いに交錯して滑動させて直径が前よりも大きくなった筒状体を形成することにより、血管系の内部の標的部位に配備される。ステント素材の性質次第で、ステント100の外側面102がコイル状に巻き戻るのを阻止し、直径が前より大きくなった円筒形状にステントを維持するのに、ラチェット機構またはロック機構が必要になることがある。このようなロック機構は、渦巻体に取付けられた少なくとも1個の可撓性の細長い舌状部を備えている。細長い舌状部104はステント100の外側面102に設けられたスリットまたは小穴106に通されており、ステント100がきつくコイル巻きにされると、舌状部104の一部がステント100の外側面102を越えて張出す。ステント100が張出すと、舌状部104が小穴106を通して引出される。或る構成では、舌状部104には一連の隆起部108が設けられており、これらが小穴106の一部に係合して、直径が前より大きくなった状態にステント100を維持するラチェット機構を形成する。
【0013】
ステント100の舌状部104を構成する生体適合性素材は、舌状部104に十分な可撓性を付与してステント100の開口部すなわち小穴106の中を舌状部104に滑り抜けさせるが、血管壁によって及ぼされる圧力が存在している場合には、舌状部に十分な剛性を付与してステントを適所にロックして拡張形状のまま支持する。この結果、ステント100がきつく巻かれた形状を呈している場合は、舌状部104は小穴106を抜けるとステント面102を越えて外側に突出し、舌状部が突出していない状態のステント半径よりも大きな有効直径をステント100に与える。
【0014】
図2は、当該技術で周知のような、搬送システム200を例示している。搬送用カテーテル201は先細り遠位先端部または丸味付けされた遠位先端部204が設けられたカテーテルシャフト202を備えている。図2に例示されている膨張可能なバルーン206は折畳まれた形状で遠位先端部204より近位に在る。ステント100は、きつく巻かれて直径が十分に小さくなった筒状体になり、ステント100は、バルーン206に被せられると、折畳まれたバルーン206の外側面に、しっかりと固着する。図2に例示されているように、ステント100を運ぶ搬送用カテーテル201の遠位部は、ガイドカテーテル208の遠位先端部を抜けて伸張される。ステント100がガイドカテーテル208の外側にくると、ステントラチェット機構の細長い舌状部104がガイドカテーテル208の内径を越えて突出し、搬送用カテーテルをガイドカテーテル208の中に後退させることを不可能にする。
【0015】
図3Aは、本発明の一つの観点による、ラチェット機構が設けられたステントの搬送システム300の側面図を例示している。搬送用カテーテル301は、先細り遠位先端部304が設けられたカテーテルシャフト302を備えている。カテーテルシャフト302は可撓性に富む生体適合性ポリマー材から構成されており、その具体例としては、ポリウレタン、ポリエチレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などがある。或る実施形態では、搬送用カテーテル301には、ガイドワイヤ316を収容することのできる管腔が設けられている。管腔はカテーテル301の中を長手方向に通って延びているため、搬送用カテーテル301はガイドワイヤに被さる状態で滑動させられ、必要なくなれば、ガイドワイヤ316はカテーテル301の管腔の中から引出される。
【0016】
図3に例示されている膨張可能なバルーン306は折畳まれた形状で遠位先端部304より近位に在る。バルーン306は生体適合性素材、追従性に富む素材、半追従性の素材、または、追従性の無い素材から構成されており、それらの具体例としては当該技術で目下周知であるような、ポリアミド、ポリウレタン、低密度のポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドの各種共重合体、ポリウレタンの各種共重合体、熱可塑性エラストマーなどがある。バルーン306は、熱接着、溶融接着、粘着剤、または、それ以外の何か好適な手段によってバルーンの近位端および遠位端でカテーテル本体部に取付けられる。収縮状態のバルーン306は折畳まれて長手方向に複数の襞を作ってからカテーテルシャフトの周囲に巻きつけられる。バルーン306は、搬送用カテーテル301を通って延びて搬送用カテーテル301の近位端に達する管腔312に接続されている。バルーン306は、管腔312の中に流体を汲みあげてバルーンに送り込むことにより、膨張させられるが、これにより、長手方向の襞を開かせてバルーン306を拡張させる。ステント100はきつく巻かれて直径が十分に小さい筒状体にされ、このステント100が、バルーン306に被せて設置されると、折畳まれたバルーン306の外側面にしっかりと貼り付く。
【0017】
本発明の一実施形態では、バルーン306は、ステント100の内径よりも直径が大きい、きつく巻かれた形状の近位端部308を備えている。バルーン306の拡張された近位端部308は、カテーテル本体部の周囲でリングとなり、または、可撓性のポリマー材から構成された枕となる。拡張部308は巻きつけられたバルーン306を覆う適所にステント100を保持し、カテーテルシャフト302に沿って近位方向にステント100が滑るのを阻止する。
【0018】
本発明の一実施形態では、円筒状の弾性スリーブ310は搬送用カテーテル301の先細り遠位部304の近位端から延びて、搬送用カテーテル301のステント搭載部を包囲するが、この部分にはステント100と巻きつけられたバルーンとの少なくとも一部が含まれている。弾性スリーブ310は、最適な伸び指数と可撓性を示す熱可塑性エラストマー、ラテックス、天然ゴムまたは合成ゴム、または、これ以外の何らかの好適な素材で構成されている。弾性スリーブ310は、舌状部が設けられたステント100の外部を覆ってわずかだけ伸張されて、ステント100の外側面を圧迫する状態に舌状部を保持するような寸法にされ、また、そのように位置決めされる。その結果、弾性スリーブ310は舌状部がステント100から離れる方向に延びるのを阻止し、搬送用カテーテル301がガイドカテーテル318の中に後退するのを妨げることがないようにしている。しかしながら、カテーテル301はまた、ラチェット機構が設けられていないステントを搬送するために使用することもできる。例えば、本発明の一実施形態では、弾性スリーブ310の外側面は、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または、親水性被膜剤などの潤滑性物質で被膜されている。この実施形態では、弾性スリーブ310により、搬送用カテーテル301の外側面は低プロファイルで、均一かつ滑らかな潤滑性に富むものとなり、多様な設計のステントに有利な搬送システムを提供している。
【0019】
本発明の一実施形態では、管状スリーブ310は搬送用カテーテル301の近位端まで延びている。この実施形態では、スリーブ310の近位端314を引張ってスリーブが後退させられると、ステント100が血管の内部で露出状態となる。弾性スリーブ310が引き出されると、拡張部308はステント100が弾性スリーブ310によってカテーテルシャフト302に沿って近位方向に引張られるのを阻止する。本発明の一実施形態では、弾性スリーブ310の内側面は、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜剤などの潤滑剤で被膜されている。弾性スリーブ310の潤滑性内側面はスリーブ310の後退を容易にし、スリーブはカテーテルシャフト302から位置ずれすることなく、ステント100の上を容易に滑るようになる。
【0020】
図3Bは搬送システム300の遠位部の外側側面図である。搬送用カテーテル301の遠位部は、先端部304とそこに隣接するステント搭載領域とが設けられているが、ガイドカテーテル318の遠位端の中に既に進入させられている。巻き付けられたバルーン306の一部と、ラチェット機構が設けられているステント100の一部は、弾性スリーブ310によって被覆されている。ステント100の細長い舌状部104は弾性スリーブ310の内側に保持されており、ガイドカテーテル318の内径を超えて張出すことはない。本発明のこの実施形態では、搬送カテーテル301はガイドカテーテル318の中に容易に後退させることができる。
【0021】
図4Aは、本発明の一実施形態で図3に例示されている搬送用カテーテル300と関連して使用されるガイドカテーテル400の側面図である。カテーテル400の本体部402は、可撓性のある生体適合性のポリマー材から構成されている中空の管状構造体であり、上述のポリマー材の具体例には、ポリウレタン、ポリエチレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、それ以外の何らかの好適な素材がある。一実施形態では、ガイドカテーテル400カテーテル本体部402の中を長手方向の延びて、ガイドワイヤを収容することができる。ガイドカテーテル400はガイドワイヤの上を滑らされて、血管経路に沿って案内されて、最終的には、ガイドワイヤとガイドカテーテル400の遠位部がそれぞれの所望の標的部位に至る。次に、ステント搬送カテーテル300はガイドカテーテル400の内部管腔の中を通り、治療部位まで前進させられる。ガイドカテーテル本体部402は血管系の中の急峻な折れ曲がりに適合するのに十分な可撓性を備えているが、幅が狭くなった狭窄病変部をカテーテル本体部が通り抜けることができるようにするのに十分なだけの長手方向の剛性も備えている。
【0022】
本発明の一実施形態では、可撓性の管状部材406がカテーテル本体部402の遠位端に取付けられている。管状部材406は、変形可能なエラストマー、シリコーンゴム、ポリエステル繊維、それ以外の好適な素材などのような、可撓性に富み柔軟な素材から構成されている。本発明の一実施形態では、管状部材406の外側面は、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜材などのような潤滑性に富む素材で被膜されている。管状部材406は、血管系の急峻な折れ曲がり部、分岐点、腔口などをガイドカテーテル400が通過するのを容易にする。ガイドカテーテル400が血管系の中を前へ押されると、湾曲した管状部材406が血管内の障害部に引っ掛かった場合でも、管状部材はその障害部を越えて滑り、または、屈曲してガイドカテーテルが障害部を迂回することができるようにする。本発明の一実施形態では、管状部材406の内側面は、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜剤などで被膜されている。搬送用カテーテル上に取付けられた弾性スリーブ310の潤滑性に富む外側面と組合わさって、管状部材406の潤滑面は管状部材406の中で搬送用カテーテル300の遠位部が後退するのを容易にしている。図4Aは、ステント配備前に搬送用カテーテル300がガイドカテーテル400の遠位部に設置されたのを例示している。
【0023】
図4Bは、搬送用カテーテルが管状部材406の中を前進させられている際のガイドカテーテル400の外側を例示した図である。管状部材406は、その中を搬送用カテーテルが通されている間に、搬送用カテーテルのバルーンに被さって拡張するのに十分な弾性を備えており、搬送用カテーテルの遠位部を血管内の搬送部位へと配備することができる。
【0024】
図5は、ラチェット機構が設けられたステントを血管系の標的部位に搬送する方法500を例示しているフローダイヤグラムである。この方法はまず、ガイドカテーテルの遠位端が血管系の中に進入させられて、標的部位に隣接する部位に設置されることから始まる(ブロック502)。ガイドワイヤは血管系の中でカテーテルを案内するために使用される。ガイドワイヤは大腿部静脈、頸静脈、鎖骨下静脈、それ以外の接近点などに挿入されるが、その接近点は、治療されるべき病変部の部位で決まる。ガイドカテーテル400は、図4に例示されているが、その遠位先端部が標的部位に到達するまで、ガイドワイヤの上を滑らされて、血管系の中を案内される。ガイドカテーテル400の遠位先端部の可撓性の管状部材406は血管系の中をガイドカテーテルが通過するのを容易にしている。この処置は、X線透視法、超音波心臓検査法、血管内超音波法、血管形成術、または、それ以外の視認手段を利用して視認することができる。
【0025】
次に、図3に例示されている搬送用カテーテル301は、その遠位先端部がガイドカテーテルの遠位端に隣接した位置にくるまで、ガイドカテーテル400の中を通される。搬送用カテーテルの遠位先端部の付近で、図1に例示されているタイプのきつく巻かれたステントは、バルーンの外側面に搭載される。ステントはそのラチェット機構の舌状部も含めて一緒に、ステントの外側面の上に張り渡される弾性スリーブによって被覆される。搬送用カテーテルの遠位部は、ガイドカテーテルの遠位端の中を通して前進させられる(ブロック504)。ステントは弾性スリーブによって被覆されているので、ラチェット機構の舌状部はステントに近接した位置に保持され、舌状部が血管壁に接触することはあり得ない。
【0026】
標的部位に厳密にステントを設置することができずに、搬送用カテーテルをガイドカテーテルの中に後退させてから(ブロック506)、搬送用カテーテルの位置を変える(ブロック508)ことを必要とすることが時にはある。ステントの細長い舌状部は弾性スリーブの内側に維持されるため、ラチェット機構の舌状部がガイドカテーテルの内径を越えて張出すことは無く、舌状部がガイドカテーテルの後退を妨げることも無い。更に、ステントを被覆している弾性スリーブの滑らかな潤滑性に富んだ外側面とガイドカテーテルの潤滑性に富んだ内側面により、後退プロセスが促進される。
【0027】
ステントが正しい寸法ではなく、または、病変部を治療するのに最適な設計とは言えないことが、処置の途中で看破されることが、たまにある。このような状況では、搬送用カテーテルは引出されて置換され(ブロック510)、更に、患者により好適なステントと取り替えられるが、これは、そうするのが適切である場合に限られる。
【0028】
次に、搬送用カテーテルはガイドカテーテルの遠位端の中を、再度、前進させられる(ブロック512)。搬送用カテーテルは、ステントが標的部位に厳密に設置されるように操作される。搬送用カテーテルの操作は、搬送用カテーテルの遠位部の低プロファイルで滑らかな潤滑性に富む外側面によって容易にされるが、このような特性の外側面はバルーンおよびステントを覆って、きつく貼り付いてステントのラチェット機構を被覆している弾性スリーブがもたらしたものである。
【0029】
ステントが標的部位に厳密に位置決めされると、弾性スリーブの近位端を引張ることにより、弾性スリーブが後退させられる(ブロック514)。後退プロセスは弾性スリーブの潤滑性に富んだ内側面によって促進される。弾性スリーブがステントの上を滑ると、ステントはバルーンの近位端で拡張した枕によって適所に保持される。次に、搬送用カテーテルに搭載されたバルーンを膨張させることにより、ステントは最終的な標的部位で配備される(ブロック516)。ステントはバルーンによって拡張され、ラチェット機構によって拡張形状に保たれる。最後に、搬送用カテーテルとガイドカテーテルの両方が体内から外へ引出される。
【0030】
特定の実施形態に言及しながら本発明を説明してきたが、様式と細部について本発明の精神および範囲から逸脱せずに、多数の変更および修正が行われることが当業者なら分かるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】先行技術で従来公知であるような、ラチェット機構が設けられたステントを例示した図である。
【図2】先行技術で従来公知であるような、ガイドカテーテルおよびラチェット機構が設けられたステントを運ぶ搬送用カテーテルを例示した図である。
【図3A】本発明の一つの観点による、ラチェット機構が設けられたステントの搬送システムを例示した図である。
【図3B】本発明の一つの観点による、図3Aに描かれている搬送システムの遠位部を例示した図である。
【図4A】本発明の一つの観点による、ガイドカテーテルがその遠位先端部に隣接して可撓性の管状部材を備えているのを例示した側面図である。
【図4B】本発明の一つの観点による、可撓性の管状部材を備えているガイドカテーテルであって、ステントを装着した搬送用カテーテルが可撓性の管状部材の中を前進させられているのを例示した図である。
【図5】本発明の一つの観点による、ラチェット機構が設けられたステントを血管内で整復して展開する方法を例示したフローダイヤグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内の標的部位にステントを搬送するシステムであって、
搬送用カテーテルと、
前記搬送用カテーテルの遠位部に配置されたステントとを備え、前記ステントは、ラチェット機構を有しており、
さらに、前記ステントの上を覆って設置される弾性スリーブを備え、前記弾性スリーブは、第1位置から第2位置まで移動させることができ、前記第1位置において、前記ラチェット機構が前記弾性スリーブによって覆われ、前記第2位置において、前記ラチェット機構が露出状態である、
ことを特徴とする、ステント搬送システム。
【請求項2】
前記ステントは、1種類以上の重合体素材で構成されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ラチェット機構は、前記ステントの細長い舌状部を含んでおり、前記舌状部は前記ステントの小穴を通り抜けて配置されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記ステントの前記細長い舌状部は、標的部位に前記ステントを配備する前に、前記弾性スリーブの内側に保持されることを特徴とする、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記弾性スリーブは、前記ステントの少なくとも一部を覆って、ぴったり貼り付くことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記弾性スリーブは、標的部位に前記ステントを配備する前に、後退させることができることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記弾性スリーブは、前記ステントを配備する前に、前記搬送用カテーテルに滑らかな外側面を設けることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記搬送用カテーテルの前記滑らかな外側面は、ガイドカテーテルに関連して搬送用カテーテルを長手方向に容易に移動させることができるようにすることを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記弾性スリーブの前記外側面は潤滑性に富む素材で被膜されており、潤滑性に富む素材はシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜剤などと、これら素材の何らかの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記弾性スリーブは、熱可塑性エラストマー、ゴム、ラテックスからなるグループから選択される1種類以上の素材で構成されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記弾性スリーブの前記内側面は潤滑性に富む素材で被膜されており、潤滑性に富む素材はシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜剤などと、これら素材の何らかの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記搬送用カテーテルの前記遠位部に取付けられる拡張可能なバルーンを更に備え、前記バルーンは標的部位で前記ステントを配備するために拡張させられることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記バルーンの近位部の直径は前記ステントの内径よりも大きく、そのため、前記ステントを配備する前に、前記搬送用カテーテルの前記遠位部に前記ステントを保持するようにしたことを特徴とする、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記標的部位は冠動脈の心門であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
可撓性の管状部材が遠位先端部に隣接して設置されているガイドカテーテルを更に備えており、可撓性の管状部材は血管内を搬送システムが容易に通れるようにしていることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記可撓性の管状部材の前記内側面は潤滑性に富む素材で被膜されており、潤滑性に富む素材はシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、親水性被膜剤などと、これら素材の何らかの組合せからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
血管内にラチェット式ステントの位置を変えて配備する方法であって、
血管内の標的部位に隣接している位置までガイドカテーテルの遠位端を前進させる段階と、
ラチェット式ステントが遠位部に配置されているとともに前記ステントに被せるように弾性スリーブが設置されている搬送用カテーテルに、ガイドカテーテルの遠位端の中を前進させる段階であって、弾性スリーブがステントの舌状部をガイドカテーテルの内径の内側に維持するようにした段階と、
搬送用カテーテルをガイドカテーテルの中に後退させる段階と、
最終標的部位に隣接する位置まで、搬送用カテーテルの位置を変える段階と、
ガイドカテーテルの遠位端の中に搬送用カテーテルを再度前進させる段階と、
弾性スリーブを後退させる段階と、
ステントを最終標的部位に配備する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
血管系内の領域で標的部位に隣接している位置まで前記ガイドカテーテルの前記遠位端を前進させる前記段階は、ガイドカテーテルの遠位端に隣接している可撓性の管状部材によって促進されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記搬送用カテーテルに可撓性の管状部材の中を前進させて、前記ガイドカテーテルの前記遠位端に隣接している位置まで進入させる段階を更に含んでいる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ステントを配備する前記段階は、前記搬送用カテーテルの遠位部に隣接している位置で拡張可能なバルーンを膨張させる段階を更に含んでいることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ガイドカテーテルの前記遠位端に隣接している可撓性の管状部材の中を、前記搬送用カテーテルに後退させる段階を更に含んでいる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記標的部位は冠動脈の心門であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記ステントの細長い舌状部は、最終標的部位にステントを配備する前に、前記弾性スリーブの内側に保持されていることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記ガイドカテーテルの前記遠位端の中を前記搬送用カテーテルに前進させる前記段階は、前記弾性スリーブの滑らかで潤滑性に富む外側面によって促進されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−517727(P2008−517727A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539106(P2007−539106)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/038764
【国際公開番号】WO2006/047676
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(502129357)メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】