説明

ラチェット歪算出方法およびプログラム

【課題】
本発明は、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を、比較的簡便に、精度良く算出できる合理的なラチェット歪算出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
軸方向に繰り返し引張圧縮を受ける直管モデルにおいて、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する算定式を設定する第1ステップと、引張圧縮と曲げを繰り返し受ける対象配管において、軸方向膜応力範囲と軸方向曲げ応力範囲と周方向曲げ応力範囲からなる3つの応力範囲を求め、該3つの応力範囲の2乗和の平方根からなる等価応力範囲を算出する第2ステップと、算出した等価応力範囲から前記対象配管の繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する第3ステップとを含むラチェット歪算出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を算出するラチェット歪算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントなどでは、設備機器の中で構造上最も地震の影響を受けやすい配管の地震後の健全性評価が重要な課題となっている。地震時の配管系の挙動を把握するため、国内外で実規模配管系の強度実証試験が行われており、ラチェット疲労が配管系の主な損傷モードであることが明らかになっている(例えば非特許文献1、2参照)。
【0003】
内圧を受ける配管が過大な繰り返し変位を受けると、周方向に膨らむ変形(ラチェット変形)が生じて軸方向の疲労強度が低下し、貫通亀裂が発生しやすくなる(図14参照)。この現象をラチェット疲労と呼んでいる。ラチェット疲労に対する配管の健全性評価を行うためには、ラチェット変形量とラチェット疲労強度の評価手法を確立する必要がある。
このうち、ラチェット疲労強度については、SUS304鋼の単軸ラチェット疲労試験および内圧を受ける配管試験体の繰り返し引張捩り試験を行い、ラチェット疲労寿命を繰返し損傷と延性消耗を組み合わせた式で評価している例がある(非特許文献3、4参照)。
一方、ラチェット変形に関する理論的検討としては、熱ラチェットに対する研究があるが、機械的ラチェットに対する理論的な検討はほとんど行われていない。配管系で特に弱点となりやすいエルボ部の塑性変形特性は理論解明が進んでいるが(非特許文献5参照)、繰り返し作用による機械的ラチェットの解明には至っていない。
【0004】
ラチェット変形を評価するためには、ラチェット歪を算出する必要があるが、塑性変形に起因すること、また、配管系全体の変形に依存すること、さらに弾性追従の影響(特許文献1参照)も受けることから、ラチェット歪の合理的な算出手法も未だ確立されていない。このため、地震後の配管の健全性評価は、おおむね弾性変形を基本とした設計基準(例えば、ASME Section3あるいは、JEAG4601)を流用して評価を行っている状況である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.W.Tagart,Jr.,Y.K.Tang,D.J.Guzy and S.Ranganath,“Piping dynamicreliability and code rule change recommendations”,Nuclear Engineering and Design,Vol.123,pp.373-385,1990
【非特許文献2】K.Suzuki,H.Abe,Y.Sasaki,S.Kanno, T. Sato,H.Yokota and K.Suzuki, “Seismic Proving Test on the Ultimate Strengthof Piping System (Component Tests),JSME 2000 Annual Conference, pp.833-834,2000
【非特許文献3】Y.Asada,“FailureCriterion on Low-Cycle Fatigue with Excessive Progressive Deformation”,HPI ETD Committee, 98ETD1-6,1998
【非特許文献4】J.Namaizawa, K. Ueno,A.Ishikawa ,Y. Asada,“LifePrediction Technique for Ratcheting Fatigue”,PVP-Vol.266,Creep Fatigue,and Leak-Before-Break Assessment,1993
【非特許文献5】A.Suzuki," A Studyof Simplified Inelastic Analysis Method for Piping Systems”,IHI Engineering Review, Vol.23,No.3,1983
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−58224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、弾性変形を基本とした設計基準は比較的大きな安全率を含んだ結果となることが否めない。
さらに、ラチェット歪を正確に算定できても、過度な計算時間や手間を要する方法では、実際の配管の健全性評価に適用するのに現実的ではない。
【0008】
そこで、本発明は、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を、比較的簡便に、精度良く算出できる合理的なラチェット歪算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を算出するラチェット歪算出方法であって、軸方向に繰り返し引張圧縮を受ける直管モデルにおいて、引張圧縮による軸方向応力範囲と、内圧による周方向応力とから、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する算定式を設定する第1ステップと、引張圧縮と曲げを繰り返し受ける対象配管において、軸方向膜応力範囲と軸方向曲げ応力範囲と周方向曲げ応力範囲からなる3つの応力範囲を求め、該3つの応力範囲のうちから選択される1の応力範囲、または2以上の各応力範囲の2乗和の平方根からなる等価応力範囲を算出する第2ステップと、算出した等価応力範囲を前記軸方向応力範囲に代入して、前記第1ステップで設定された算定式により、前記対象配管の繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する第3ステップと、を含むラチェット歪算出方法である。
【0010】
本構成によれば、内圧と繰り返し軸方向引張圧縮のみが作用するシンプルな直管モデルでラチェット歪算定式を設定した上で、繰り返し曲げも作用する対象配管の複雑な応力状態(応力範囲)を1つの等価な値(等価応力範囲)に置き換えることで、同じ算定式を用いて精度良く対象配管のラチェット歪を算出できる。
【0011】
ここで、前記軸方向応力範囲は、前記直管モデルを弾性体と仮定した場合に作用する応力範囲である軸方向仮想弾性応力範囲ΔσEXXであり、前記繰り返しサイクルあたりのラチェット歪ΔεRYYを算出する算定式は、内圧による周方向応力σYYと降伏応力σyとから求められる、弾塑性サイクル後に弾性挙動を示す弾性シェイクダウンが発生する限界の応力範囲である弾性シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXを用いて、次式の通りに表され、前記3つの応力範囲は、弾性解析により求めることが好ましい。
ΔσSXX=√{σYY2−4(σYY2−σy2)}・・・・・・(1)
ΔεRYY=3σYY×(ΔσEXX/ΔσSXX−1)/E・・・・・(2)
ここに、
√{ }:括弧内の結果の平方根を算出する記号
E:ヤング率
【0012】
本ラチェット歪の算定式によれば、弾性シェイクダウン限界軸方向応力範囲よりも軸方向仮想弾性応力範囲が大きい場合に、その大きさに応じてラチェット歪が発生するとの前提に基づき、少ないパラメータで簡易にラチェット歪を算出できる。さらに、算定式に軸方向仮想弾性応力範囲を用いることで、塑性域でのラチェット現象を、弾性解析で簡易に評価することができる。
【0013】
また、前記対象配管は、エルボ部を有する配管であり、前記第2ステップは、 非弾性解析による前記エルボ部の変形量と、弾性解析による前記エルボ部の変形量との比から求められる弾性追従係数を算出し、算出された弾性追従係数を用いて前記等価応力範囲を補正することを含むことが好ましい。
【0014】
本構成によれば、エルボ部を有する対象配管について、等価応力範囲を弾性追従係数で補正することで、エルボ部の塑性化により変形が集中する影響を簡易かつ適切に反映してラチェット歪を算出できる。
【0015】
ここで、前記補正では、前記周方向曲げ応力範囲に前記弾性追従係数を乗じて修正周方向曲げ応力範囲を算出し、前記軸方向膜応力範囲と前記軸方向曲げ応力範囲と前記修正周方向曲げ応力範囲のうちから、少なくとも前記修正周方向曲げ応力範囲を含むように選択される1の応力範囲、または2以上の各応力範囲の2乗和の平方根からなる修正等価応力範囲を算出してもよい。
【0016】
もしくは、前記補正では、前記等価応力範囲に前記弾性追従係数を乗じて修正等価応力範囲を算出してもよい。
【0017】
エルボ部の中で特に増幅されやすい周方向曲げ応力範囲に弾性追従係数を乗じて補正することで、エルボの形状特性を適切に反映して、より合理的なラチェット歪を算出できる。また、等価応力範囲全体に弾性追従係数を乗じて補正することで、より安全側にラチェット歪を算出できる。
【0018】
また、前記弾性追従係数は、歪硬化により前記対象配管が全体として硬化する全体硬化の影響により、繰り返しサイクルの進展とともに低下し、前記シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXの算出に用いられる降伏応力σyは、歪硬化と歪蓄積により前記エルボ部が局所的に硬化する局所硬化の影響により、繰り返しサイクルの進展とともに増加することが好ましい。
【0019】
本構成によれば、全体硬化と局所硬化の影響を考慮することで、繰り返しサイクルの進展に伴いラチェット歪の増分が変化することを反映して、さらに合理的なラチェット歪を算出できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係わるラチェット歪算出方法によれば、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を、比較的簡便に、精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係わる配管モデルの概要図である。
【図2】ラチェット歪のメカニズムの説明図であり、軸方向応力と周方向歪との関係を表す概要図である。
【図3】ラチェット歪のメカニズムの説明図であり、繰り返しサイクルごとの周方向歪の推移を表す概要図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係わるラチェット歪の算出方法を表すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係わるラチェット歪の算定式の説明図であり、塑性域での周応力応力と軸方向応力との関係を表す概要図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係わるラチェット歪の算定式により求められたラチェット歪線図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係わるラチェット歪の算出方法を表すフロー図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係わるエルボ管の3次元FEM弾性解析で用いられるモデルの一例を表すメッシュ図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係わるエルボ管の簡易非弾性解析で用いられる梁モデルの一例を表す概要図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係わるエルボ管の簡易非弾性解析で用いられる部材特性を表す線図である。
【図11】実施例1と比較例1によるラチェット歪の算出結果を比較した散布図である。
【図12】実施例3の簡易非弾性解析による支点反力Nとエルボ中央断面での曲率kとの関係を表す線図である。
【図13】実施例3、実施例4、比較例3について繰り返しサイクル数の進展に伴うラチェット歪の推移を表す線図である。
【図14】ラチェット疲労を説明するための多軸ラチェット疲労試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0023】
本発明は、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を算出するラチェット歪算出方法である。ここでいう配管とは、図1の配管モデルの概要図に示すとおり、図1(a)の直管だけでなく、図1(b)のエルボ管等の異形管も含まれる。また、繰り返し作用とは、図1(a)のような軸方向の引張圧縮変形だけでなく、軸方向および周方向の曲げ変形も含まれる。なお、これ以降、添字のXXは管の軸方向を、YYは管断面の周方向をそれぞれ示すものとする。
【0024】
図2、図3に示す説明図を用いてラチェット歪のメカニズムを簡単に説明する。図2は、縦軸を軸方向応力σXX(引張を正)とし、横軸を周方向歪εYY(引張を正)とし、図1(a)に示すように直管モデルに内圧Pと軸方向繰り返し変位2δaが作用した場合の関係を示している。また、図3は繰り返しサイクルごとの周方向歪εYYの推移を示している。図2(a)、図3(a)は、弾性挙動の場合であり、図2(b)、図3(b)は非弾性挙動の場合をそれぞれ表している。
1つの繰り返しサイクルは、次の4ステップから構成されている。
1/4サイクル:引張変位δa1 が作用
2/4サイクル:δa1の戻り変位δa2 が作用
3/4サイクル:圧縮変位δa3が作用
4/4サイクル:δa3の戻り変位δa4が作用
【0025】
まず、弾性挙動の場合について説明する。図2(a)に示すとおり、最初に内圧Pにより周方向歪ε0が発生し、初期点P0に移動する。その後、軸方向繰り返し変位δaに相当する軸方向応力σa(=δa×E、E:ヤング率)が引張側、圧縮側の順で作用し、ポアソン効果でそれぞれ引張側、圧縮側の周方向歪が発生する。弾性挙動であるため、1サイクル終了後は再び初期点P0に戻り、残留歪は生じない。図3(a)も同様である。
【0026】
次に、非弾性挙動の場合について説明する。図2(b)に示すとおり、最初に初期点P0に移動し、その後、軸方向引張変位δa1に対応した軸方向引張応力が作用し、P1までは弾性挙動をする。P1で軸引張塑性開始点σb1に到達し、P2まで塑性変形して、周方向に引張塑性歪ε1が生じる。その後、戻り変位δa2によりP3に移動する。さらに、軸方向圧縮変位δa3に対応した軸方向圧縮応力が作用し、P4までは弾性挙動する。P4で軸圧縮塑性開始点σb2に到達し、P5まで塑性変形して、周方向に圧縮塑性歪ε2が生じる。
【0027】
この際、内圧Pが作用して周方向引張応力が生じている影響で、軸引張塑性開始点σb1は軸圧縮塑性開始点σb2よりも大きくなる(詳細は後述する)。そのため、周方向引張塑性歪ε1は周方向圧縮塑性歪ε2よりも大きくなり、繰り返しサイクル完了した時点(P6)で残留歪が生じる。この残留歪がラチェット歪εRである。図3(b)も同様である。
【0028】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態では、主として薄肉直管に対するラチェット歪の算出方法を対象とする。なお、エルボ管等の異形管に対する算出方法は第2の実施形態で詳述する。
【0029】
図4に、本実施形態に係わるラチェット歪の算出方法を表すフロー図を示す。本フローは、まず内圧と軸引張圧縮を受ける直管モデルでラチェット歪を算出する算定式を設定する第1ステップS10と、内圧と引張圧縮と曲げを受ける対象配管について等価応力範囲を算出する第2ステップS20と、算出された等価応力範囲を用いて算定式にて対象配管のラチェット歪を算出する第3ステップS30とを含んでいる。以下、第1ステップS10から第3ステップS30まで順を追って詳細に説明する。
【0030】
第1ステップS10では、内圧と軸方向に繰り返し引張圧縮を受ける直管モデルを用意する(S11)。次に引張圧縮による軸方向応力範囲と、内圧による周方向応力σYYとから、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する算定式を設定する(S12)。例えば、算定式は次の通りに設定できる。
【0031】
まず、Misesの降伏条件は、次の(1)式で与えられる。
【数1】

【0032】
塑性歪増分が降伏曲面の法線成分に比例すると仮定すると、塑性歪増分dεPijは次の(2)式で与えられる。
【数2】

【0033】
内圧が一定で周方向応力および径方向応力が変化しないと考えると、dεPijは次の(3)式で与えられ、軸方向の歪増分dεXXは、(4)式で与えられる。その結果、軸方向応力増分dσXXは(5)式で与えられる。
【数3】

【数4】

【数5】

【0034】
(5)式を(3)式に代入して整理すると、最終的に周方向塑性歪増分dεPYY
は(6)式で与えられる。また, 全歪増分dεYYは(7)式で与えられる。
【数6】

【数7】

【0035】
ここで、材料は弾完全塑性体と仮定し、軸方向に引張圧縮の繰返しを与えた場合の応力状態を考える。径方向応力を無視すると、塑性変形状態での引張側および圧縮側での軸方向応力σXXは(8)式で与えられる。
【数8】

【0036】
次に、ラチェット変形が起こる条件を考える。軸応力範囲が(8)式で与えられる引張りと圧縮での軸方向応力の差よりも小さければ、弾塑性サイクル後に弾性挙動を示すシャイクダウンを起こし、ラチェット変形は生じない。したがって、シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXは、(9)式で与えられる。
【数9】

【0037】
ここで、(8)式と(9)式の関係を図に示すと、図5の通りとなる。図5は、縦軸に周応力応力σYY(引張を正)を、横軸に軸方向応力σXX(引張を正)をそれぞれ降伏応力σyで正規化した値をとっている。(8)式の結果は右側に傾斜した楕円(ミーゼスの楕円と呼ばれる)となり、(9)式の結果は縦軸を固定した場合の横軸の範囲として表される。
例えば、図中にはσYY/σy=0.5とした場合のσXX/σyの範囲(-0.65〜1.15)を示している。(8)式の値は、前述の塑性開始点に該当し、これより、降伏応力比で0.5の周方向引張応力を生じさせる内圧Pが作用する場合には、引張側塑性開始点σb1(降伏応力比1.15)は圧縮側塑性開始点σb2(降伏応力比0.65)よりも大きくなることが分かる。
【0038】
一方、(6)式から軸方向の仮想弾性応力範囲σEXXと引張圧縮での1サイクルあたりの周方向ラチェット歪ΔεRYYの関係は、ヤング率Eを用いて最終的に(10)式で与えられる。ここで、仮想弾性応力範囲σEXXとは、弾性体と仮定した場合に作用する応力範囲のことである。軸方向仮想弾性応力範囲σEXXを用いることで、塑性域でのラチェット現象を、弾性解析で簡易に評価することができる。
【数10】

【0039】
また、この(10)式中の応力と歪をそれぞれ降伏応力と降伏歪で正規化すると(11)式の通りとなる。正規化した値には上側に〜を表記した。
【数11】

【0040】
図6に(11)式から求めたラチェット歪線図を示す。縦軸は内圧による軸方向仮想弾性応力範囲σEXXを、横軸は内圧による周応力σYYをとり、それぞれ降伏応力σyで正規化している。図中のεRは降伏歪で正規化した1サイクルあたりのラチェット歪ΔεRYYである。図中のElasticと表示された領域は弾性範囲であり、Shakedownと表示された領域では塑性領域であっても弾性シェイクダウンが発生する範囲であり、それぞれラチェット歪は発生しない。
Ratchetingと生じされた領域ではラチェット歪が発生することになる。例えば、横軸が0.5(内圧による周応力σYYが降伏応力σyの0.5倍)の時に、縦軸が3.0(軸方向仮想弾性応力範囲σEXXが降伏応力σyの3倍)であれば、εR=1.0となり、降伏歪εy相当のラチェット歪εRが発生することが読み取れる。
【0041】
(10)式、(11)式のラチェット歪算定式の妥当性についてはFEM弾塑性解析により検証済みである。よって、本算定式によれば、シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXよりも軸方向仮想弾性応力範囲ΔσEXXが大きい場合に、その大きさに応じてラチェット歪εRが発生するとの前提に基づき、少ないパラメータで簡易かつ高精度でラチェット歪εRを算出できる。
【0042】
なお、ラチェット歪の算定式は、以上説明した通り、いくつかの仮定を設けて理論式より設定するだけでなく、実験結果や解析結果の重回帰分析により設定しても良い。
【0043】
次に、第2ステップS20では、まず、ラチェット歪εRの算出対象である対象配管を特定し、その仕様を確認する(S21)。ここで、主に確認すべき仕様としては、管厚t、内径dや、配管の拘束条件である。
【0044】
さらに、対象配管に作用する荷重変位条件を設定する(S22)。第1ステップS10では内圧と軸方向の繰り返し引張圧縮のみを考慮したが、第2ステップS20では現実の配管を対象とするため、軸方向や周方向の繰り返し曲げも考慮して荷重変位条件を設定する。
【0045】
設定された荷重変位条件を反映して解析を行い、配管に作用する応力範囲(1サイクル中の最大応力と最小応力の差)を応力の種類ごとに算出する(S23)。算出するのは次の3つの応力範囲である。なお、ここでの応力範囲の算出には弾性解析を用いる。前述の通り、第1ステップの算定式では、構造計算の簡便化のため弾性解析での結果を用いてラチェット歪εRが評価できるようになっているためである。
ΔX:軸方向膜応力範囲
ΔXb:軸方向曲げ応力範囲
ΔYb:周方向曲げ応力範囲
【0046】
このうち、軸方向膜応力範囲ΔXが、第1ステップの算定式で対象とした軸引張圧縮による応力範囲に該当する。つまり、対象配管に軸方向膜応力範囲ΔXのみが作用する場合には、第1ステップで設定した算定式を直接適用してラチェット歪εRを算出できる。しかし、軸方向曲げ応力範囲ΔXbや周方向曲げ応力範囲ΔYbが作用する場合には、配管に作用する応力状態が異なるため、この算定式を直接適用することが出来ない。
【0047】
そこで、3つの応力範囲を1つの等価応力範囲ΔXeqを置き換える(S24)。ここで、等価応力範囲ΔXeqは(12)式で与えられる。2乗和の平方根を用いたのは、応力のベクトル和を求める際等に一般的に用いられているためである。
【数12】

【0048】
次に第3ステップS30で、この等価応力範囲ΔXeqを、(10)式の仮想弾性応力範囲σXXに代入して、同式を用いてラチェット歪Δεを算出する(S31)。
なお、(12)式の通り3つの応力範囲を用いて等価応力範囲ΔXeqを算出するだけでなく、1または2以上の応力範囲を選択して、選択された応力範囲を用いて等価応力範囲ΔXeqを算出しても良い。一部の応力範囲が卓越している場合には、卓越した応力範囲のみを用いても、算出精度に大差がないためである。
【0049】
最後に、繰り返しのサイクルの終了判定を行い(S32)、サイクルがまだ継続する場合にはS22に戻り、荷重変位条件を更新し、他の第2ステップS20の処理および第3ステップS30の処理を行う。なお、S31では各サイクルでのラチェット歪の増分とそれまでの累積値を算出する。サイクルが終了と判定された場合にはフローが完了する。
【0050】
以上説明の通り、本実施形態によれば、内圧と繰り返し軸方向引張圧縮のみが作用するシンプルな直管モデルでラチェット歪算定式を設定した上で、繰り返し曲げも作用する対象配管の複雑な応力状態(応力範囲)を1つの等価な値(等価応力範囲)に置き換えることで、同じ算定式を用いて比較的簡便に精度良く対象配管のラチェット歪を算出できる。
【0051】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態では、主としてエルボ管等の異形管に対するラチェット歪εRの算出方法を対象とする。ここでは代表的にエルボ管を例にして説明するが、本実施形態の方法はT字管など他の異形管にも適用可能であることは言うまでもない。
【0052】
図7に第2の実施形態に係わるラチェット歪の算出フローを示す。図4に示す第1の実施形態とは、第1ステップS10と第3ステップS30は共通であるが、第2ステップS20が一部異なっている。よって、第1ステップS10の説明は省略し、第2ステップS20以降について説明する。
【0053】
本実施形態の第2ステップS20では、ラチェット歪の算出対象である対象エルボ管を特定し、その仕様を確認する(S21)。ここで、確認すべき仕様としては、管厚t、内径dだけでなく、エルボ曲げ半径Rも含まれる。さらに、対象エルボ管に作用する荷重変位条件を設定する(S22)。
【0054】
次に、設定された荷重変位条件を反映して、弾性解析にて前述した3つの応力範囲(軸方向膜応力範囲ΔX、軸方向曲げ応力範囲ΔXb、周方向曲げ応力範囲ΔYb)を算出する(S23)。なお、エルボ部は、軸方向の曲げが作用した場合にエルボ中央部で周方向曲げが卓越するなど、通常の梁理論とは異なる挙動を示す。このため、図8に示すようなモデルを用いて3次元FEM弾性解析を行い、エルボ部の応力集中を反映して応力範囲を算出するのが好ましい。
【0055】
次に、設定された荷重変位条件を反映して簡易非弾性解析を行い、この非弾性解析によるエルボ部の変形量と、弾性解析によるエルボ部の変形量との比から求められる弾性追従係数qを算出する(S25)。
【0056】
簡易非弾性解析は、図9に示すように梁モデルを用いて行うことができる。このモデルの部材特性(曲げ剛性EI)は、図10に示すように直管部とエルボ部とで別々の特性をバイリニアで設定する。本実施形態では、図10(a)に示す弾完全塑性体による部材特性を対象とする。このうち、直管の部材特性は梁理論を用いて設定することができる。
【0057】
一方、エルボ部の部材特性は次の方法で設定する。エルボ部の初期曲げ剛性(EI’)は、後述するパイプ係数λを用いて直管部の初期曲げ剛性(EI)を低減した値を用いる。この低減は公知の理論を用いればよく、ここでは詳細は省略する(非特許文献5等参照)。
【0058】
次にエルボ部の塑性開始点を求める。ここでは、面内曲げモーメントMiと内圧Pが作用するエルボ部を対象として、その手順を説明する。
【0059】
まず、(13)式によりエルボ部の参照応力σR(面内曲げモーメントMiによる参照応力σRMi、内圧Pによる参照応力σRP)を求め、(14)式により相当参照応力を求める(非特許文献5参照)。次に、(1)式のMises応力に相当参照応力を代入して、降伏の判定を行い、降伏に至った時点を塑性開始点として設定する。
【数13】

【数14】

【0060】
設定された部材特性を用いて、図9に示す梁モデルに強制変位を作用した非弾性解析を行い、エルボ部の曲率kPを求める。さらに、直管部とエルボ部の部材特性をそれぞれ初期剛性とした弾性解析も行い、同様にエルボ部の曲率kEを求める。その結果を用いて、(15)式により弾性追従係数qを算出する。
(数15)
q=kP/kE ------------------------------- (15)式
【0061】
図10(a)に示すように、直管部よりもエルボ部の塑性開始点は低くなるため、直管部よりも先にエルボ部が塑性化することが分かる。塑性化した後は、エルボ部の曲げ剛性が低下するため、エルボ部のみに変形が集中することになる。この影響を反映するため、算出された弾性追従係数qを用いて、処理S23で求められた応力範囲を補正する。
【0062】
この補正法としては、周方向曲げ応力範囲ΔYbに弾性追従係数qを乗じて修正周方向曲げ応力範囲ΔYb’(=ΔYb×q)を算出し(S26)、(16)式により修正等価応力範囲ΔXeq’を算出する方法がある(S24)。この補正によれば、エルボ部の中で特に増幅されやすい周方向曲げ応力範囲に弾性追従係数を乗じて補正することで、エルボの形状特性を適切に反映して、より合理的なラチェット歪を算出できる。
【数16】

【0063】
なお、(16)式の通り3つの応力範囲を用いて修正等価応力範囲ΔXeq’を算出するだけでなく、少なくとも修正周方向曲げ応力範囲ΔYb’を含むように1または2以上の応力範囲を選択して、選択された応力範囲を用いて修正等価応力範囲ΔXeq’を算出しても良い。
【0064】
別の補正法として、(12)式で求められた等価応力範囲ΔXeqに弾性追従係数qを乗じて修正等価応力範囲ΔXeq’(=ΔXeq×q)を算出する方法もある(図示せず)。等価応力範囲全体に弾性追従係数qを乗じて補正することで、より安全側にラチェット歪を算出できる。
【0065】
算出された修正等価応力範囲ΔXeq’を用いて、第3ステップS30でラチェット歪を算出する(S31)。これ以降の処理は第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0066】
以上説明の通り、第2の実施形態によれば、エルボ部を有する対象配管について、等価応力範囲を弾性追従係数qで補正することで、エルボ部の塑性化により変形が集中する影響を簡易かつ適切に反映してラチェット歪を算出できる。
【0067】
〔第3の実施形態〕
第2の実施形態では弾完全塑性体を対象としていたため、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪ΔεRは変化せず、繰り返しサイクルに比例してラチェット歪εRが増加する結果となる。しかし、実際には歪硬化の影響により、ラチェット歪εRは繰り返しサイクルの進展に伴い一定値に収束していくことが知られている(独立行政法人原子力安全基盤機構、「原子力施設耐震信頼性実証試験配管系終局強度耐震実証試験」(平成10〜15年)参照)。
【0068】
そこで、第3の実施形態では、第2の実施形態に加えて、歪硬化の影響を考慮できるように改良した。ここでは、歪硬化により対象配管が全体として硬化する全体硬化の影響と、歪硬化と歪み蓄積によりエルボ部が局所的に硬化する局所硬化の影響を考慮する。
【0069】
まず、全体硬化の影響を考慮する方法について説明する。ここでは歪硬化の影響を反映したエルボ部の部材特性を設定し、設定された部材特性を用いて簡易非弾性解析を行い、繰り返しサイクルごとに弾性追従係数qを算出する(S25)。
面内曲げモーメントMiと内圧Pが作用するエルボ部を対象として、歪硬化の影響を反映した簡易非弾性解析の方法は次の通りである。
【0070】
最初に、第2の実施形態と同様に、(13)式のエルボ部の参照応力σRの結果から(14)式により相当参照応力を求め、(1)式のMises応力に相当参照応力を代入して、降伏の判定を行い、降伏に至った時点を塑性開始点として設定する。
【0071】
塑性化以降は、次の(17)式により参照塑性歪増分ΔεPRMiを求める。さらに、参照塑性歪増分ΔεPRMiを用いて、(18)式より塑性曲率増分ΔkPMiを求める。
【数17】

【数18】

【0072】
エルボ部に作用するモーメントの増分ΔMと、求められた塑性曲率増分ΔkPMiとの関係から、エルボ部の塑性域での接線曲げ剛性を設定する。その結果、図10(b)に示すようにエルボ部では塑性化後も曲げ剛性が増加することになる。よって、全体硬化の影響を考慮した図10(b)の部材特性を用いると、弾完全塑性による図10(a)の部材特性を用いたよりも、エルボ部の曲率kPは小さくなり、弾性追従係数qも小さくなる。その結果、応力範囲の割り増し係数である弾性追従係数qが繰り返しサイクルの進展とともに低下することになり、ラチェット歪εRも減少する。
【0073】
次に、局所硬化の影響を考慮する方法について説明する。エルボ部には繰り返しサイクルの進展とともにラチェット歪εRが蓄積するが、歪硬化を考慮すれば、次のサイクルでは降伏応力σyは増加する。その影響で、(9)式で求められるシェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXも増加し、(10)式で求められる繰り返しサイクルあたりのラチェット歪ΔεRが減少する。
【0074】
以上説明の通り、第3の実施形態によれば、全体硬化と局所硬化の影響を考慮することで、繰り返しサイクルの進展に伴いラチェット歪の増分ΔεRが変化することを反映して、さらに合理的なラチェット歪εを算出できる。
【0075】
なお、以上の記載では、第1の実施形態から第3の実施形態までのラチェット歪算出方法を詳細に説明しているが、同様の技術的思想をコンピュータのプログラムに適用し、コンピュータに処理を行わせてもよい。コンピュータのCPU等の計算領域において、上述のラチェット歪算出のための演算処理を行うことで、より簡便にかつ正確なラチェット歪εを算出することが可能となる。なお、コンピュータの利用は、これら実施形態に係わるラチェット歪算出方法に必ずしも必要ではなく、部分的にコンピュータを利用し、又は可能な限りその利用を少なくしても構わない。
【実施例】
【0076】
次に、本発明を実施例により図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
〔実施例1、比較例1〕
実施例1では、第1の実施形態の方法を用いて、直管のラチェット歪を算出した。また、比較例1では、三次元FEM弾塑性解析により同じ直管のラチェット歪を算出した。それぞれ、応力範囲を変化させた計22ケースについて検討した。
【0077】
図11に、実施例1と比較例1によるラチェット歪を比較する。これより、ほとんどのケースで実施例1の結果は比較例1の結果を若干上回っており、第1の実施形態の方法は、直管においてほぼ安全側で近似のよいラチェット歪評価法であるといえる。
【0078】
なお、一部のケースで実施例1の結果は比較例1の結果を下回っており、不安全側の結果が認められるが、これは3つの応力範囲がすべて降伏応力の16倍となる場合の結果である。これらが同時にこのような大きな値になることはないと考えられるため、ラチェット歪評価法としては問題ない。
【0079】
〔実施例2、比較例2〕
実施例2は、第2の実施形態の方法を用いて、次の仕様の90度エルボ管のラチェット歪を算出した。また、比較例2では、三次元FEM弾塑性解析により同じエルボ管のラチェット歪を算出した。
エルボ管の仕様)
構造寸法 管半径r 104mm, 厚さt 8.2mm
エルボ曲げ半径R 305mm
負荷条件 内圧P 21.67MPa
繰り返し変位D ±57.5mm
材料特性 ヤング率E 195Gpa
降伏応力σy 550MPa(弾完全塑性体)
【0080】
実施例2において、弾性解析により応力範囲(降伏応力σyで正規化)を算出した結果は次の通りである。周方向曲げ応力範囲ΔYbが他に比べて2倍以上になっていることが分かる。
正規化軸方向膜応力範囲 :0.98
正規化軸方向曲げ応力範囲:2.45
正規化周方向曲げ応力範囲:5.74
【0081】
簡易非弾性解析を行った結果、弾性追従係数は4.02と求められ、(16)式より正規化修正等価応力範囲は降伏応力σy比で23.23となった。また、内圧による周方向応力は降伏応力σy比で0.5であった。その結果、ラチェット歪は降伏歪εy比で17.7となり、約5.0%と算出された。
【0082】
一方、比較例2では、ラチェット歪は4.8%と算出された。よって、実施形態2の方法は、弾完全塑性体のエルボ部において安全側で近似のよいラチェット歪評価法であるといえる。
【0083】
〔実施例3、実施例4、比較例3〕
実施例3は、第3の実施形態の方法を用いて、実施例2と同じエルボ管のラチェット歪を算出した。実施例4は参考として局所硬化の影響を無視した場合(つまり全体硬化の影響のみ考慮した場合)についてラチェット歪を算出した。また、比較例3では、三次元FEM弾塑性解析により同じエルボ管のラチェット歪を算出した。
材料は直線的に等方硬化するとし、歪硬化係数Hは5Gpaとした。
【0084】
図12は、実施例3の簡易非弾性解析による支点反力Nとエルボ中央断面での曲率kとの関係を示す。エルボの曲率は全体硬化により繰り返しサイクルの進展とともに減少している。この解析により得られたサイクル毎の弾性追従係数を用いて,(16)式により各サイクルの修正等価応力範囲を算定し、ラチェット歪を求めた。ただし、参照応力法においては引張・圧縮を区別せず、2サイクルの解析で配管の1サイクルの引張・圧縮を表すものと考えた。
【0085】
図13は、実施例3、実施例4、比較例3について繰り返しサイクル数の進展に伴うラチェット歪の推移を示す。実施例3,実施例4とも、繰り返しサイクル毎のラチェット歪の増加分が減少していることが分かる。また、実施例4(全体硬化のみ考慮)よりも、実施例3(全体硬化と局所硬化を考慮)の方が比較例3に近い。よって、第3の実施形態の方法は、歪硬化するエルボ部において安全側で近似のよいラチェット歪評価法であるといえる。
【符号の説明】
【0086】
εRYY 周方向ラチェット歪
ΔεRYY 繰り返しサイクルあたりの周方向ラチェット歪
ΔσEXX 軸方向仮想弾性応力範囲
ΔσSXX 弾性シェイクダウン限界軸方向応力範囲
σYY 周方向応力
σy 降伏応力
E ヤング率
ΔX 軸方向膜応力範囲
ΔXb 軸方向曲げ応力範囲
ΔYb 周方向曲げ応力範囲
ΔXeq 等価応力範囲
ΔXeq’ 修正等価応力範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を算出するラチェット歪算出方法であって、
軸方向に繰り返し引張圧縮を受ける直管モデルにおいて、引張圧縮による軸方向応力範囲と、内圧による周方向応力とから、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する算定式を設定する第1ステップと、
引張圧縮と曲げを繰り返し受ける対象配管において、軸方向膜応力範囲と軸方向曲げ応力範囲と周方向曲げ応力範囲からなる3つの応力範囲を求め、該3つの応力範囲のうちから選択される1の応力範囲、または2以上の各応力範囲の2乗和の平方根からなる等価応力範囲を算出する第2ステップと、
算出した等価応力範囲を前記軸方向応力範囲に代入して、前記第1ステップで設定された算定式により、前記対象配管の繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する第3ステップと、を含むラチェット歪算出方法。
【請求項2】
前記軸方向応力範囲は、前記直管モデルを弾性体と仮定した場合に作用する応力範囲である軸方向仮想弾性応力範囲ΔσEXXであり、
前記繰り返しサイクルあたりのラチェット歪ΔεRYYを算出する算定式は、内圧による周方向応力σYYと降伏応力σyとから求められる、弾塑性サイクル後に弾性挙動を示す弾性シェイクダウンが発生する限界の応力範囲である弾性シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXを用いて、次式の通りに表され、
前記3つの応力範囲は、弾性解析により求めることを特徴とする請求項1に記載のラチェット歪算出方法。
ΔσSXX=√{σYY2−4(σYY2−σy2)}・・・・・・(1)
ΔεRYY=3σYY×(ΔσEXX/ΔσSXX−1)/E・・・・・(2)
ここに、
√{ }:括弧内の結果の平方根を算出する記号
E:ヤング率
【請求項3】
前記対象配管は、エルボ部を有する配管であり、
前記第2ステップは、
非弾性解析による前記エルボ部の変形量と、弾性解析による前記エルボ部の変形量との比から求められる弾性追従係数を算出し、
算出された弾性追従係数を用いて前記等価応力範囲を補正することを含むことを特徴とする請求項2に記載のラチェット歪算出方法。
【請求項4】
前記補正では、
前記周方向曲げ応力範囲に前記弾性追従係数を乗じて修正周方向曲げ応力範囲を算出し、
前記軸方向膜応力範囲と前記軸方向曲げ応力範囲と前記修正周方向曲げ応力範囲のうちから、少なくとも前記修正周方向曲げ応力範囲を含むように選択される1の応力範囲、または2以上の各応力範囲の2乗和の平方根からなる修正等価応力範囲を算出することを特徴とする請求項3に記載のラチェット歪算出方法。
【請求項5】
前記補正では、
前記等価応力範囲に前記弾性追従係数を乗じて修正等価応力範囲を算出することを特徴とする請求項3に記載のラチェット歪算出方法。
【請求項6】
前記弾性追従係数は、歪硬化により前記対象配管が全体として硬化する全体硬化の影響により、繰り返しサイクルの進展とともに低下し、
前記シェイクダウン限界軸方向応力範囲ΔσSXXの算出に用いられる降伏応力σyは、歪硬化と歪蓄積により前記エルボ部が局所的に硬化する局所硬化の影響により、繰り返しサイクルの進展とともに増加することを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のラチェット歪算出方法。
【請求項7】
コンピュータにおいて、内圧を受ける配管が繰り返し作用を受けた場合に配管に蓄積するラチェット歪を算出するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記コンピュータの記憶領域に、軸方向に繰り返し引張圧縮を受ける直管モデルにおいて、引張圧縮による軸方向応力範囲と、内圧による周方向応力とから、繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する算定式を記憶する第1ステップと、
引張圧縮と曲げを繰り返し受ける対象配管において、軸方向膜応力範囲と軸方向曲げ応力範囲と周方向曲げ応力範囲からなる3つの応力範囲を求め、該3つの応力範囲のうちから選択される1の応力範囲、または2以上の各応力範囲の2乗和の平方根からなる等価応力範囲を算出する第2ステップと、
算出した等価応力範囲を前記軸方向応力範囲に代入して、前記第1ステップで記憶された算定式により、前記対象配管の繰り返しサイクルあたりのラチェット歪を算出する第3ステップと、を実行させるラチェット歪を算出するためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−27484(P2011−27484A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171686(P2009−171686)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】