説明

ラッキョウの処理方法、および加工ラッキョウ

【課題】ラッキョウは独特の臭気、および食後の口臭が強いことから、生のままで食することを嫌う消費者が多い。そのためラッキョウの用途として甘酢漬けが一般的であるが、甘酢漬け以外の加工はほとんど見られず、ラッキョウの消費量は頭打ちの状況である。本発明は、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を高め、より多くの人々においしく、機能性の高い加工ラッキョウを提供し、ラッキョウの消費量を増加させることを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、ラッキョウを無臭化させ、抗酸化力を高めることを目的に、恒温設備内においてラッキョウを60〜90℃の雰囲気下で、所定期間に渡って温蔵処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラッキョウの処理方法および加工ラッキョウに関する。詳しくは、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させるラッキョウの処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッキョウの原産地は中国とされ、日本では9世紀頃からの書物に記載があり、当初は薬用に供されたとみられる。ラッキョウには水溶性の硫黄化合物や、水溶性食物繊維のフルクタンなどが含まれ、有害な活性酸素を消去する抗酸化効果、血液をサラサラにする抗血栓効果、血糖値の上昇を抑制する効果などが注目されている。しかし、ラッキョウには特有の臭いがあるため、甘酢漬け以外の調理や加工等であまり利用されず、ラッキョウの消費量は頭打ちの状況である。
また、ラッキョウの機能性成分である硫黄化合物やフルクタンは水溶性であり、酢漬け加工の方法によっては漬け液を全部交換してしまうため、これらの機能性成分が大幅に失われている。五訂増補日本食品標準成分表によると、酢漬け加工ラッキョウの水溶性食物繊維の含量は、生のラッキョウの7.5%にまで減少している。
そのため、酢漬け加工以外で、機能性成分を増強あるいは維持したまま、特有の臭いを無くしておいしく食べられる加工技術が確立できれば、ラッキョウを取り巻く各種分野に活況をもたらすこととなり、産業上きわめて有益である。また、その機能性成分によって健康維持という恩恵を受ける人々の日常生活にも、多大な好影響をもたらすものと予想される。
【0003】
ここで、ラッキョウとは異なるが、ニンニクにおいては、臭気を低減させるための技術が、例えば、下記特許文献1〜4に開示されている。また、同じくニンニクにおいて、特定の硫黄化合物の含量を高める技術が、例えば、下記特許文献5に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第4003217号
【特許文献2】特開2004-121113号
【特許文献3】特開2005-341912号
【特許文献4】特開2006-149325号
【特許文献5】特開2005-278635号
【非特許文献1】Chloroplast DNA restriction analysis and the infrageneric grouping of Allium (Alliaceae). Plant Systematics and Evolution, Volume 200, Numbers 3-4, 253-261, 1996年9月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの特許文献に開示されているように、ニンニクにおいて臭気を低減させるための技術は公知である。しかし、これらはすべてニンニクに限定された技術であり、ラッキョウに関するものではない。また、以下に述べるように、ニンニクとラッキョウは種々の点で大きく異なる別の植物である。
具体的には、ニンニクとラッキョウは遺伝的に遠縁であり、ニンニクはAllium亜属に属し、ラッキョウはRhizirideum亜属に属する。例えば、前記非特許文献1において、49種のアリウム属について、葉緑体DNAの制限酵素多型分析を基に、デンドログラムが作成され、Allium亜属に属するニンニクとRhizirideum亜属に属するラッキョウは遺伝的に遠縁であることが示されている。
また、利用する部位の組織形態も異なる。ニンニクの球根は、一つの葉が肥大したひとかたまりの鱗片という組織であり、一方、ラッキョウの球根は、タマネギのように多くの葉が集合した鱗葉という組織である。
さらに、臭気成分である硫黄化合物の成分組成およびその含量も大きく異なる。ニンニクの臭気は主に硫黄化合物のアリインに支配されており、その量はラッキョウの250倍である。一方、ラッキョウの臭気は硫黄化合物のメチインに支配されており、臭気の性質はアリインに支配されるニンニクとは大きく異なる。
このため、ニンニクとラッキョウでは臭気を低減させるための処理条件等が大きく異なる。ニンニクは臭気の基となるアリイン含量が多いため、前記特許文献1や前記特許文献4にあるように、臭気を低減させるため約30日の長期間にわたる高温処理が必要である。一方、ラッキョウにはアリインがほとんど含まれず、メチインのみを低減させればよいため、後述するように、90℃の処理であれば3日程度でほぼ無臭化する。
【0006】
一方、前述のように、ラッキョウは独特の臭気、および食後の口臭が強いことから、生のままで食することを嫌う消費者が多い。そのためラッキョウの用途として甘酢漬けが一般的であるが、甘酢漬け以外の加工はほとんど見られず、ラッキョウの需要は頭打ちの状況である。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を高め、より多くの人々においしく、機能性の高い加工ラッキョウを提供し、ラッキョウの消費量を増加させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のラッキョウの処理方法は、ラッキョウを60〜90℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させる、ラッキョウの処理方法とした。
【0009】
このラッキョウの処理方法によって、ラッキョウ特有の臭気を低減させることができる。また、抗酸化力を増強させることもできる。さらに、甘くて食べやすい加工ラッキョウを提供することもできる。加えて、この処理方法は、酢漬け加工のように漬け液を交換するといった工程を有していないため、水溶性であるラッキョウの機能性成分(硫黄化合物やフルクタン)が溶け出しにくい。
【0010】
このとき、ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で3日以上行われる、ラッキョウの処理方法とすることが好ましい。
【0011】
これによって、ラッキョウ特有の臭気が殆ど感じられない、無臭化された加工ラッキョウを提供することができる。加工ラッキョウを食した後の口臭も気にならない。また、甘みを十分感じることができる加工ラッキョウを提供することもできる。
【0012】
このとき、ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で10日以上行われる、ラッキョウの処理方法とすることが好ましい。
【0013】
これによって、ラッキョウの臭気を支配するメチインの量を最大限に低減でき、ラッキョウ特有の臭気が感じられない無臭化された加工ラッキョウを提供することができる。
また、抗酸化力が処理前(生のラッキョウ)の20倍程度になり、抗酸化力が最大限に増強された加工ラッキョウを提供することもできる。
さらに、食した際、とても甘く感じることのできる加工ラッキョウを提供することもできる。
【0014】
このとき、ラッキョウの温蔵処理が、90℃で相対湿度90%RH以上の雰囲気下において10日以上行われる、ラッキョウの処理方法とすることが好ましい。
【0015】
これによって、ラッキョウが脱水、炭化しにくくなり、原料であるラッキョウの外形がほぼ保持されたままで無臭化され、かつ抗酸化力が最大限に増強された加工ラッキョウを提供することができる。
【0016】
温蔵処理するラッキョウは、5月以降に収穫された、乾物率が25%以上、好ましくは30%以上のものを用いることが好ましい。
【0017】
これによって、乾物重の大部分を占めている機能性成分のフルクタンの含量を高めることができる。また含水率が低くなることで歩留まりが良くなる。さらに、ラッキョウの外形がより一層保持されたままの加工ラッキョウを提供することができる。ラッキョウは、5〜8月に収穫されたものを用いるのが好ましく、6〜7月に収穫されたものを用いることが最も好ましい。
【0018】
温蔵処理するラッキョウは、収穫後、3ヶ月以上冷蔵保存したものを用いることが好ましい。
【0019】
これによって、保管時にラッキョウを腐敗させるラッキョウ乾腐病の発生を防ぐことができる。また、長期間冷蔵保存することで、高温処理後、機能性の高いシクロリインに変化するイソアリインの含量を増加させることができる。
【0020】
また、前記課題を解決するためには、ラッキョウを90℃の雰囲気下で1日温蔵処理した後、60℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させる、ラッキョウの処理方法としてもよい。
【0021】
ラッキョウを90℃で長期間処理する場合、高価な設備を用いて厳密な温湿度管理をしないと、ラッキョウが脱水、炭化して商品価値が落ちてしまうことがある。一方で60℃の比較的低温処理では、このような現象が生じにくいものの、十分に臭気を低減させたり抗酸化力を増強させるためには長期間の温蔵処理が必要になる。そこで、上記処理方法とすることで、臭気が低減され抗酸化力も増強された加工ラッキョウを、設備にコストをかけずに安価で簡易的に、かつ比較的短期間の処理で提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させることができ、また、ラッキョウの甘みを引き出すことができるラッキョウの処理方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のラッキョウの処理方法、および加工ラッキョウを詳細に説明する。温蔵処理の対象とするラッキョウは、品種、生産地および収穫時期の別なく採用可能である。しかし、生育期のラッキョウは含水量が多い(含水率が高い)ため、ラッキョウ投入重量に対する加工ラッキョウの重量割合が低くなってしまう(歩留まりが悪くなる)。一方で、5月以降に収穫されたラッキョウは含水量が少なく(含水率が低く)、乾物率が25%以上となっている。よって、前記課題を解決するためには、5月以降に収穫された、乾物率が25%以上、好ましくは30%以上のラッキョウを用いることが好適である。また、乾物率が25%以上であると、ラッキョウをまるごと温蔵処理した場合において、ラッキョウの外形が加工後に保持されやすくなる。
【0024】
収穫後のラッキョウの性状、形態については、鱗葉のまま(いわゆる、まるごとのラッキョウ)にこだわらず、例えば生ラッキョウをペースト状にすりおろしたものを採用することは、抗酸化力を増強させる又は無臭化させるための処理としては、実質的に大きな左右因子にはならない。
【0025】
収穫後の貯蔵温度は常温、冷蔵の別なく採用可能である。しかし、5℃で冷蔵保存したラッキョウは、高温処理後、機能性の高いシクロリインに変化するイソアリインの含量が増加するため、冷蔵品を用いることが好ましい。
【0026】
ラッキョウを無臭化する目的であれば、90℃の場合3日以上の高温処理(温蔵処理)期間が望ましく、さらに抗酸化力を最大に増強させる目的であれば、90℃で10日以上の高温処理期間が望ましい。なお、90℃で長期間処理する場合、ラッキョウが脱水、炭化して商品価値を落とすケースがあるため、厳密な温度と湿度の管理が可能な設備が必要である。設備にコストをかけずに安価で簡易的に加工するために、短期間の90℃程度の高温処理と長期間の90℃以下〜60℃以上の高温処理とを組み合わせてもよい。
【0027】
以下は、ラッキョウに含まれており、臭気に関わりのある主要な硫黄化合物の化学構造を示してある。これらの種類と含量により、臭気の性質と強度が支配される。
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
具体的実施例に先立ち、ラッキョウの処理前の貯蔵条件の比較、およびラッキョウとニンニクの臭気に関わる成分を比較する予備実験を行ったので、以下に記載する。
供試したラッキョウは、鳥取県鳥取市福部町で栽培されたラクダ系統を用いた。6月に収穫した乾物率が30%以上のラッキョウを冷蔵庫で保管し、一部は20℃に設定した恒温器で保管した。比較として供試したニンニク(中国産)は、鳥取県内のスーパーで購入した。成分分析に供したラッキョウおよびニンニクは、1球重を秤量後、300mlの抽出液(50%メタノール、0.1N HCl)を加え、ラボラトリーブレンダー(ワーリング製、model 7010)で2分間破砕し抽出した。抽出液は約10分間以上静置させた後、上澄1mlを2mlマイクロチューブに分取した。冷却機能付高速遠心機(日立製)を用いて15,000rpmで5分間遠心後、上澄を1mlシリンジで1ml分取し、0.45μmフィルター(ミリポア製、13mm径、PVDF膜)で濾過した。
【0032】
ラッキョウおよびニンニクの中の硫黄化合物の含量は、以下のHPLC法で実施した。高速液体クロマトグラフ装置(日立製、LaChrom Elite)を用い、分析カラムはAsahipak Colum NH2P-50(昭和電工製、長さ250mm、直径4.6mm)を用い、カラム温度は25℃に設定した。流出は、84%アセトニトリル、0.2%リン酸を移動相として用い、流速は1.5ml/minで分析を行った。比較定量用の標準溶液は標準品を入手し、溶解、希釈して調整した。
成分分析は、濾過したサンプル液10μlをHPLC装置に注入し、溶出時間でピークを同定し、UV210nmの面積を定量した。サンプルは3反復で抽出し、HPLC分析を行った。その結果を表1に示す。含量は、生体重1gあたりに含有されている量(mg)で示してある。なお、本明細書において生体重とは、新鮮重(fresh weight)ともいい、乾燥していない生の重量を示すものである。
【0033】
【表1】

【0034】
表1において、ラッキョウの硫黄化合物は、20℃で3ヶ月間貯蔵した場合、対照と比較してほとんど変化はないが、5℃で冷蔵保存した場合、対照と比較してイソアリイン含量が約1.7倍に増加する。イソアリインは機能性が高いシクロアリインの前駆物質であり、イソアリインが多く含まれるほど、高温処理後にシクロアリイン含量が増加するため、高温処理するラッキョウは冷蔵保存する方がよい。
【0035】
図1に、表1に示した対照の収穫直後のラッキョウと購入直後のニンニクの主要な硫黄化合物の含量の比較を示す。
【0036】
図1において、ニンニクの硫黄化合物の70%以上はアリインであり、その量はラッキョウの約250倍と格段に多く、ニンニク独特の臭気はこのアリインに支配される。また、これら硫黄化合物の総量もラッキョウの約4倍と多い。一方、ラッキョウにはほとんどアリインは含まれず、硫黄化合物の約65%はメチインである。なおシクロアリインは、イソアリインより生成された無味無臭の成分であり、イソアリインは、高温処理によりほぼすべてが無味無臭のシクロアリインに変化するため、ラッキョウ独特の臭気はメチインに支配される。
【0037】
以上より、ニンニクの臭気はアリインに支配されており、ラッキョウの臭気はメチインに支配されていることから、両者の臭気の性質は大きく異なる。また、これら硫黄化合物の総量もニンニクがラッキョウの約4倍多いことから、ニンニクの臭気の強度はラッキョウと比べて非常に強い。
従って、前述した先行文献のニンニクの無臭化加工処理はアリインをターゲットとした技術であり、本発明のラッキョウの無臭化加工処理はメチインをターゲットとした技術である。また、臭気の強度もニンニクよりラッキョウは弱いため、ラッキョウの方が無臭化のための高温処理期間が短いことなど、ニンニクとラッキョウの無臭化処理技術の構成は異なる。
【実施例1】
【0038】
実施例1は、ラッキョウの臭気に関わるメチイン含量の変化を捕らえ、無臭化の高温処理条件を明らかにしようとするものである。供試したラッキョウは、前記予備実験と同様であり、6月に収穫された乾物率が30%以上のラッキョウを、5℃で3ヶ月間冷蔵保存したものを用いた。
ラッキョウを無臭化させるための高温処理実験は、各ラッキョウの生体重を計測後、90℃または60℃に設定した恒温器(タイテック製恒温恒湿器)に入れ、処理中のラッキョウを適宜抜き取って、前記予備実験と同様に成分分析を行った。また、簡易的で安価な処理法を想定して、90℃の恒温器に入れたラッキョウの一部を処理1日後に、60℃の恒温器に移しかえる処理実験を行った。その結果を表2に示す。なお、いずれの高温処理においても、恒温器(恒温恒湿器)内の相対湿度を90%RH以上(90〜98%RH)に保った。
さらに、高温処理したサンプルを試食して官能調査を行った。官能調査は、咀嚼後の臭いについて、強く臭う、臭う、ほぼ臭わない、臭わないの4段階で評価した。さらに、咀嚼時の甘みについても、とても甘い、甘い、少し甘い、甘くないの4段階で評価した。3人の被験者が試食を行い、多数を占めた評価をそのサンプルの評価とした。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2において、イソアリインについては高温処理後に検出されなかった。また、シクロアリインは高温処理のごく初期段階で最大値に達していた。これは、イソアリインが90℃または60℃の高温処理により短期間でシクロアリインに変化したことを示す。
図2に、表2の各処理のメチイン含量の変動を示す。90℃処理の場合、3日後に臭わなくなり、メチイン含量は無処理の約1/8である0.3mg/生体重gまで減少した。90℃1日処理後60℃処理の場合、3週後にほぼ臭わなくなり、メチイン含量は無処理の約1/7である0.36mg/生体重gまで減少した。60℃処理の場合、4週後でも少し臭い、メチイン含量は無処理の約半分の0.96mg/生体重gまでしか減少しなかった。
以上の結果から、高温処理によりラッキョウを臭わなくさせるためには、メチイン含量を0.3mg/生体重g程度まで減少させる必要があること、そしてそのためには、90℃処理の場合3日以上、90℃1日処理後60℃処理の場合なら3週間以上の高温処理期間が必要であることが分かった。
さらに高温処理後の甘みについては、90℃処理の場合、3日後から甘いと感じるようになり、10日後ではとても甘いと感じることが分かった。60℃処理の場合は、4週後に甘いと感じることが分かった。90℃1日処理後60℃処理の場合、2週後(90℃で1日処理の後、60℃で13日処理)から甘いと感じ、4週後(90℃で1日処理の後、60℃で27日処理)ではとても甘いと感じることが分かった。この甘みはラッキョウに含まれるフルクタンが、高温処理により果糖に分解されることで生じる。
【実施例2】
【0041】
実施例2は、ラッキョウの高温処理が抗酸化力の増強に及ぼす影響を明らかにしようとするものである。供試したラッキョウは、前記予備実験と同様であり、6月に収穫された乾物率が30%以上のラッキョウを、5℃で3ヶ月間冷蔵保存したものを用いた。高温処理後、処理前に計測した各ラッキョウ重量の100倍量の抽出液(50%メタノール)を加え、ラボラトリーブレンダーで2分間破砕し抽出した。抽出液1mlを2mlマイクロチューブに分取し、冷却機能付高速遠心機を用いて15,000rpmで5分間遠心後、上澄を1mlシリンジで1ml分取し、0.45μmフィルター(ミリポア製、13mm径、PVDF膜)で濾過した。なお、いずれの高温処理においても、実施例1同様、各高温処理において、相対湿度を90%RH以上(90〜98%RH)に保った。
抗酸化力の測定は、DPPH(2,2-ジフェニル1-ピクリルヒドラジル)法を用いて実施した。1/10に希釈した抽出液0.4mlに対して、DPPH溶液(250μM DPPH、0.1N Tris、pH7.4、5%トリトンX-100)1.6mlを加え、30分間反応させた。反応後、分光光度計(日立製)を用いて、530nmの吸光度を測定した。換算標準試薬として抗酸化物質であるアスコルビン酸を用いて検量線を求め、各サンプルの減少吸光度をアスコルビン酸濃度に換算した。その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3において、ラッキョウの抽出液(1g生体重/l)の抗酸化力(アスコルビン酸換算濃度)は、生のラッキョウで6.8μMであり、90℃処理の場合、13日後に無処理の約20倍に相当する134.2μMまで抗酸化力が増強した。90℃1日処理後60℃処理の場合、4週後に無処理の約11倍に相当する73.2μMまで抗酸化力が増強した。60℃処理の場合、4週後に無処理の約6倍に相当する43.6μMまで抗酸化力が増強した。ここで、1g生体重/lとは、1lのラッキョウの抽出液(サンプル抽出液)に1g生体重のラッキョウから抽出した成分が含まれていることを示す。

図3に、表3の90℃で高温処理した場合の抗酸化力の変動を示す。90℃処理期間が10日後までは抗酸化力は順調に増強するが、13日後の抗酸化力は、10日後とほぼ同等であり頭打ちとなっている。従って、ラッキョウの抗酸化力を最大値にまで増強させるためには、90℃の高温処理を最低10日間行うとよい。
【0044】
このような高温でラッキョウを処理した場合、外観は褐色〜黒色に変化する。これは、メイラード反応と呼ばれ、高温処理によりラッキョウに含まれるフルクタンおよびタンパク質等が分解されて果糖およびアミノ酸等が生成され、これらが化学反応することにより褐色色素のメラノイジンが生み出されることで黒色化する。メラノイジンはフリーラジカルを消去する能力を持つため、このメラノイジンの生成が抗酸化力の増強に関わっていると考えられる。
【0045】
また、高温処理後の加工ラッキョウは、褐色〜黒色に変化したものの、脱水や炭化が殆どみられず、原料ラッキョウの外形がほぼ保持されたままであった。90℃の高温で13日間の長期間処理を行ったものについても同様であった。このように、90℃の高温処理条件においても、脱水や炭化が殆どみられず、原料ラッキョウの外形がほぼ保持されているのは、主に、温蔵処理に用いた恒温器(恒温恒湿器)内の相対湿度を90%RH以上(90〜98%RH)に保っているためと考えられる。
【0046】
以上、特定の実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能であるとの点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ラッキョウとニンニクの硫黄化合物の構成および含量を比較するグラフである。
【図2】各高温処理期間がメチイン含量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】90℃の高温処理がラッキョウの抗酸化力に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッキョウを60〜90℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させる、ラッキョウの処理方法。
【請求項2】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で3日以上行われる、請求項1記載のラッキョウの処理方法。
【請求項3】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で10日以上行われる、請求項2記載のラッキョウの処理方法。
【請求項4】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃で相対湿度90%RH以上の雰囲気下において10日以上行われる、請求項3記載のラッキョウの処理方法。
【請求項5】
5月以降に収穫された、乾物率が25%以上、好ましくは30%以上のラッキョウを温蔵処理する、請求項1〜4のいずれか記載のラッキョウの処理方法。
【請求項6】
収穫後、3ヶ月以上冷蔵保存したラッキョウを温蔵処理する、請求項1〜5のいずれか記載のラッキョウの処理方法。
【請求項7】
ラッキョウを90℃の雰囲気下で1日温蔵処理した後、60℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させる、ラッキョウの処理方法。
【請求項8】
ラッキョウを60〜90℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させた、加工ラッキョウ。
【請求項9】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で3日以上行われた、請求項8記載の加工ラッキョウ。
【請求項10】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃の雰囲気下で10日以上行われた、請求項9記載の加工ラッキョウ。
【請求項11】
ラッキョウの温蔵処理が、90℃で相対湿度90%RH以上の雰囲気下において10日以上行われた、請求項10記載の加工ラッキョウ。
【請求項12】
5月以降に収穫された、乾物率が25%以上、好ましくは30%以上のラッキョウを温蔵処理した、請求項8〜11のいずれか記載の加工ラッキョウ。
【請求項13】
収穫後、3ヶ月以上冷蔵保存したラッキョウを温蔵処理した、請求項8〜12のいずれか記載の加工ラッキョウ。
【請求項14】
ラッキョウを90℃の雰囲気下で1日温蔵処理した後、60℃の雰囲気下で所定期間に渡って温蔵処理して、ラッキョウ特有の臭気を低減させるとともに抗酸化力を増強させた、加工ラッキョウ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284838(P2009−284838A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142224(P2008−142224)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(592072791)鳥取県 (19)
【Fターム(参考)】