説明

ラック、空気調節システム、空気調節方法

【課題】空気調節装置による冷却気流をラックの内部の高さ方向に対して効率良く供給し、ラック搭載型コンピュータ機器を効率的に冷却する。
【解決手段】内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器1が高さ方向に並べて収納され、空気調節装置5によって床下から内部を通って上方に向かう冷却気流A3が供給されるラック11であって、間隔をあけて配置された他のラック11との間の空間を覆うことで空気調節装置5による気流を制御するための天井パネル15及び側面扉パネル20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック搭載型コンピュータが高さ方向に並べて収納されるラック、及びこのラックに収納されたラック搭載型コンピュータを冷却するための空気調節システム、空気調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器のオープン化が広まってきたことに伴い、コンピュータ機器の小型化が進み、コンピュータ機器をラック内に高密度に実装する傾向が増えてきており、電算室内の局所に熱がこもる熱問題が増えてきた。また、コンピュータ機器がオープン化されたことに伴い、コンピュータ機器ベンダーやラックベンダーが電算室の建築設計や空気調節装置の設計に携わる例は極希であり、電算室の建築設計が完了した後に、電算室に設置されたコンピュータ機器の運用が開始されてから熱問題を認識する例が増えている。
【0003】
このような電算室の熱問題への対応の経験から、高さが2m程度のラックに実装されたコンピュータ機器を冷却するためには、従来の電算室の空気調節装置の設計、つまり発熱量と送風量の計算結果に基づく空気調節装置の選定と機器レイアウトの設定による方法では、適切な冷却効率を得られなかった。空気調節装置の冷却能力や必要風量が充分に設定されていても、空気調節装置によって供給される冷却気流と、コンピュータ機器から排出される排熱気流との経路が適切に形成されていないため、冷却効率を悪化させていた。
【0004】
しかし、このような原因が判明しても、電算室の建築設計や建築施工が完了した後に抜本的な改善を施すことが難しいので、送風ファンや空気調節装置の増設など、追加の設備投資を行うことで対処する例が多い。冷却効率を向上させるためにさらに空気調節装置を追加し、設備投資や電力投資を行わなければならないという従来の対策では、コストの低減を追求する企業にとっては負担が大きく、環境負荷の低減が求められる世界情勢を考えると企業価値の市場評価を低下させる要因にもなりかねない。
【0005】
したがって、電算室の空気調節装置による温度調節は、従来の設計方法や施工方法を抜本的に見直す必要が生じてきている。従来の電算室の工事の中で圧倒的大多数を占めるものが既存の電算室へのコンピュータ機器設置やコンピュータ機器の入れ替えであり、その際に起きる熱問題を解決する必要がある。
【特許文献1】特開2002−61911号公報
【特許文献2】特開2003−56882号公報
【特許文献3】特開2003−166729号公報
【特許文献4】特開2004−55883号公報
【特許文献5】特開2005−172309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、本発明に関連する、電算室の空調方式における問題について、図9〜図12を参照して説明する。
【0007】
コンピュータ機器がメインフレーム型コンピュータ機器100からラック搭載型コンピュータ機器101に移行したことに伴って、従来の電算室の空調方式では気流分布が悪化してしまい、熱溜まり(ホットスポット)が生じる熱問題が発生している。電算室内の気流分布が悪化している原因は主に3つある。
【0008】
1つめの原因は、コンピュータ機器が、図9及び図10に示すように床下空調方式のメインフレーム型コンピュータ機器100から、図11及び図12に示すように雰囲気空調方式のラック搭載型コンピュータ機器101に移行したことに起因している。電算室で用いられている電算室用床下吹き出しパッケージ型空気調節装置105(以下、空気調節装置と称する。)では、上側からコンピュータ機器から排出された機器排熱気流A1を吸い込み、熱交換器105aにおける蒸発で熱交換して、送風ファン105bによって二重床106aと基礎床106bとの間の床下の空調ダクトスペース107に冷却気流A2を供給している。このような空気調節装置105とラック搭載型コンピュータ機器101との気流の整合性が悪くなり、電算室内の温度分布を均一化することが難しくなってきたことにある。
【0009】
これについて詳細に述べると、従来のメインフレーム型コンピュータ機器100では、筐体専用の設計が独立して施されており、筐体100aが設置される床106に設けられたフロアカット106aを介して、筐体100aの底面に設けられた底面吸気口100bから、空気調節された冷却気流A2を筐体100a内に吸い込み、冷却気流A2を送風ファン100dによって機器本体100eを通して上方に送り、筐体100aの天面排気口100cからメインフレーム型コンピュータ機器100の機器排熱気流A1を放出する構造が採られていた。このため、従来のメインフレーム型コンピュータ機器100における気流は、空気調節装置105による気流の向きと十分に整合されており、メインフレーム型コンピュータ機器100を効率良く冷却することができた。
【0010】
これに対して、図11及び図12に示すように、近年のラック搭載型のコンピュータ機器101では、汎用性を有するラック111に搭載される構造が採られており、ラック111の吸気孔付き前面扉112aの通気孔から冷却気流を取り入れ、ラック111の排気孔付き後面扉112bの通気孔や上面112c近傍に配置されたラック送風ファン112dから機器排熱気流A1を排出する冷却構造に変わってきた。
【0011】
空気調節装置105から供給される冷却気流A2は、二重床106aと基礎床106bとの間の床下の空調ダクトスペース107を通過し、通気孔付き床パネル106c(いわゆるガラリ、ギャラリ、グリル、ルーバー等と称される穴あき床パネル)の通気孔を通過して床上に吹き上げられる。しかし、空気調節装置では、高さが2m程度のラック111の上部まで冷却気流が届くような十分な風力が得られないために、ラック111の高さ方向の中段から上段に搭載されたコンピュータ機器101を効率良く冷却することが困難である。したがって、ラックの設置場所やラックの高さなどの条件や、空気調節装置による空調条件、電算室の天井高や、床下の空調ダクトスペースの高さなどの建築条件によって、ラックの内部に温度差が発生してしまう。
【0012】
2つめの原因は、空気調節装置105による空気の流量が大きいため、通気孔付き床パネルからの吹き上げられた冷却気流A3がラック111の前面上部まで吹き上げられて到達する前に、空気調節装置105に引き込まれてしまい、冷却気流A3が冷却のために十分使用されずに空気調節装置105に戻ってしまう、いわゆるショートリターン気流A4が発生するためである。このため、ラック111の下部は冷却されるが、ラック111の高さ方向の中段から上段にかけて冷却気流A2が供給されないので、ラック111の内部における高さ方向の温度差が大きくなっている。加えて、空気調節装置105による冷却効率が悪化するので、空気調節装置105による電力の無駄な消費を招くことになる。
【0013】
3つめの原因は、ラック搭載型コンピュータ機器101が年々小型化され、ユーザが省スペース化を目的として高さがさらに高いラック111を用いることで、ラック111に一層多くのラック搭載型コンピュータ機器101を搭載する傾向にあるためである。このため、ラック111におけるラック搭載型コンピュータ機器101の搭載密度及び電算室内の発熱密度が過密になり、電算室内の温度分布が均一化されなくなってきたことにある。
【0014】
また、ラック111におけるラック搭載型コンピュータ機器101の搭載密度が高密度化するのに伴って必要な冷却気流の供給量も増加するので、ラック111の中段から上段まで、空気調節装置105による冷却気流A2が十分に供給されず、ラック111の背面や上面にラック搭載型コンピュータ機器101からの排熱が滞留してしまう。そして、この滞留している機器排熱が、ラック111の上方を経路にしてラック111の前面に向かって流れ込んでしまい、ラック搭載型コンピュータ機器101がその排熱気流を再度吸気してしまう、いわゆる排熱還流A5が発生する。これにより、ラック111の高さに応じて、ラック111の高さ方向に温度差が生じてしまう。
【0015】
したがって、空気調節装置による気流を改善するためには、抜本的な建築構造や空調構造を設計の段階から見直す必要がある。しかしながら、上述のような熱問題についてコンピュータ機器運用管理者が認識するのは、電算室にコンピュータ機器を設置して運用を開始した後になってしまう。したがって、コンピュータ機器の運用を開始した後に、電算室の抜本的な建築構造の設計変更を行うことは非常に困難である。このため、建築構造や空調構造の設計変更を伴わずに、より効果的な気流改善の対策を図ることが求められている。
【0016】
電算室内における温度分布を改善する対策として、空気調節装置105による冷却気流A2の温度をより低く設定することが最も簡単な方法として考えられる。しかしながら、空気調節装置105が供給する冷却気流A2の温度を下げた場合であっても、冷却気流A2がラック111の上部まで十分に吹き上げられない。このため、この方法では、ラック111の上部の温度が変わらずに、ラック111の下部の温度が下がることになり、ラック111の上部と下部との温度差をかえって大きくさせる結果を招いてしまう。
【0017】
また、他の対策としては、空気調節装置105の送風ファンを高速回転させたり、通気孔付き床パネル106cの通気孔の開口面積を広げたりすることで、雰囲気へ供給する風量を増やす方法が考えられる。しかしながら、このような対策を採った場合であっても、ラック111の上部まで吹き上がるのに十分な風力が得られない。そのため、ラック111の上部と下部との温度分布をかえって大きくさせる結果になってしまう。
【0018】
そこで、従来、有効性が最も高いと考えられた対策は、気流を改善するために送風機をラックの周囲に設置したり、ラック搭載型の空気調節装置をラックの内部に配置したり、電算室内に空気調節装置を追加したりといったように、新たな冷却装置を追加する方法である。しかし、空気調節装置を追加する場合は、空気調節装置を設置できる場所や電力が制限されるために、空気調節装置を設置できないこともあり、追加設置できたとしても、電算室内の局所的な対策が採られるのに過ぎないため、電算室全体の改善を図ることが困難である。
【0019】
さらに、上述した従来の対策のように、温度上昇を抑えるために空気調節装置の設定温度を低く設定したり、空気調節装置を追加設置したりする方法では、コンピュータ機器運用管理者の設備投資や電力負担が増大し、消費エネルギーの削減にも反することになり、地球環境への配慮を欠く結果となる。
【0020】
つまり、上述した従来の方法では、ラックに搭載されたラック搭載型コンピュータ機器を冷却する冷却効率が乏しく、ラック搭載型コンピュータ機器の使用電力以上の空調電力が必要となり経済性を悪化させてしまうことが、ラック搭載型コンピュータ機器を冷却する上での問題点である。
【0021】
そこで、本発明は、上述した課題を解決し、気流調節部材によってラックの高さ方向の途中から空気調節装置に引き込まれる気流を遮断することを可能にし、ラック搭載型コンピュータ機器の冷却効率を向上することができるラック、空気調節システム、空気調節方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した目的を達成するため、本発明に係るラックは、内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納され、空気調節装置によって床下から内部を通って上方に向かう冷却気流が供給されるラックであって、間隔をあけて配置された他のラックとの間の空間を覆うことで空気調節装置による気流を制御するための気流調節部材が設けられている。
【0023】
また、本発明に係る空気調節システムは、内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納された複数のラックと、
複数のラックが配置された室内の床下からラックの内部を通ってラックの上方に向かう冷却気流を供給し、ラックから天井に抜けた排熱気流を引き込んで循環させて、ラックに収納された複数のラック搭載型コンピュータ機器を冷却する空気調節装置と、
を備え、複数のラックが配列されてなる第1のラック列と第2のラック列とが間に空間をあけて配置されている空気調節システムであって、第1及び第2のラック列の各ラックには、空間を覆うための気流調節部材が設けられている。
【0024】
また、本発明に係る空気調節方法は、内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納された複数のラックが配列されてなる第1のラック列及び第2のラック列と、
複数のラックが配置された室内の床下からラックの内部を通ってラックの上方に向かう冷却気流を供給し、ラックから天井に抜けた排熱気流を引き込んで循環させて、ラックに収納された複数のラック搭載型コンピュータ機器を冷却する空気調節装置が配置され、第1のラック列と第2のラック列が間に空間をあけて配置された室内の空気調節方法であって、
第1のラック列及び第2のラック列のラックに設けられた気流調節部材によって空間を覆った状態で、空気調節装置によって空気を循環させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、間隔をあけて配置された他のラックとの空間を覆って空気調節装置による気流を制御するための気流調節部材がラックに設けられることで、ラック搭載型コンピュータ機器から排出された排熱気流がラック搭載型コンピュータ機器に引き込まれる排熱還流と、ラックの高さ方向の途中から空気調節装置に引き込まれるショートリターン気流の発生を抑制し、空気調節装置から供給された冷却気流をラックの内部の高さ方向に効率良く供給することを可能にし、ラック搭載型コンピュータ機器を効率的に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
(実施例の構成)
本実施形態の空気調節システムについて、図1〜図8を参照して説明する。
【0028】
本実施形態の空気調節システムは、図1及び図2に示すように、電算室用床下吹き出しパッケージ型の空気調節装置5(いわゆる電算室用パッケージ型エアコンディショナ、以下、空気調節装置と称する。)が設置された電算室に適用される。
【0029】
この空気調節システムは、内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納された複数のラック11と、複数のラック11が配置された室内の床下からラック11の内部を通ってラック11の上方に向かう冷却気流A3を供給し、ラック11から天井に抜けた排熱気流A1を引き込んで循環させて、ラック11に収納された複数のラック搭載型コンピュータ機器1を冷却する空気調節装置5と、を備えている。
【0030】
また、電算室内には、複数のラック11が配列されてなる第1のラック列13と、この第1のラック列13に間隔をあけて複数のラック11が配列されてなる第2のラック列14とがそれぞれ配置されている。なお、ラック11としては、例えば19インチ程度のものが用いられている。
【0031】
空気調節装置5は、上部からラック搭載型コンピュータ機器1の機器排熱気流A1を引き込み、空気調節装置5の内部に設けられた熱交換器105aで空気の熱交換を行い、送風ファン5bを回転駆動させることで下部から冷却気流A2を供給する。空気調節装置5から供給される冷却気流A2は、二重床6aの床下の空調ダクトスペース7を通って、電算室全体に供給される。
【0032】
ラック11の前面扉12a側の二重床6aの一部には、通気孔付きパネルが設けられており、冷却気流A2が通気孔を通過して二重床6aの床上に供給される。
【0033】
図3(a),(b)及び図4(a),(b)に示すように、ラック11(11a,11b)の天井面には、第1の気流調節部材としての天井パネル15と、この天井パネル15を移動可能に支持する天井フレーム16とが設けられている。天井フレーム16は、天井スライドレール17によって、第1のラック列13と第2のラック列14との間の空間に対して進退する方向である図3,4中の矢印S方向にスライド可能に構成されている。また、天井パネル15は、光透過性を有する材料によって形成されており、電算室内の照明光を透過可能にされている。
【0034】
本実施形態のように複数のラック11が設置される場合には、ラック列13,14の配列方向の両端部に設置される各ラック11bの片側の側面には、図5(a),(b)及び図6(a),(b)に示すように、天井パネル15、天井フレーム16、天井スライドレール17に加えて、第2の気流調節部材としての側面扉パネル20、及びこの側面扉パネル20を支持する側面扉フレーム21が設けられている。側面扉フレーム21の上部には、通気孔付き側面パネル23が取り付けられている。側面扉フレーム21は、側面扉スライドレール22によって、図5,6中の矢印S方向にスライド可能に構成にされている。側面扉パネル20は、光透過性を有する材料によって形成されており、電算室内の照明光を透過可能にされている。
【0035】
図7に示すように、ラック11a,11bの内部には、複数のラック搭載型コンピュータ機器1がそれぞれ搭載されている。ラック搭載型コンピュータ機器1は、ラック11の吸気孔付き前面扉12aの通気孔から空気調節された冷却気流A2を吸入し、機器送風ファン1aによってラック11の背面12bに向かって排熱気流を放出する。
【0036】
ラック搭載型コンピュータ機器1からの排熱気流をラック11の上面に排出するために、ラック11a,11bの天板12cには、所定の個数のラック送風ファン12dが取り付けられている。
【0037】
図1に示すように、複数のラック11(11a,11b)は、空気調節装置5側に臨む正面を隣接させて配置されている。電算室内の容積と空気調節装置5の冷却性能とに応じて、所望の個数のラック11が設置されている。図1〜図8に示す構成例では、5つのラック11からなるラック列13,14が間隔をあけて対向させて2列で配置された一例を示している。第1のラック列13の各ラック11と第2のラック列14の各ラック11は、前面扉12a側を対向させて配置されている。
【0038】
ラック11の天井パネル15は、天井スライドレール17に沿ってラック11の前面扉12a側に移動され、向かい合うラック11の互いの天井フレーム16を当接させて係合され、天井フレーム16が天井スライドレール17に固定される。
【0039】
複数のラック11が設置されている場合、ラック列13,14の両端部に配置されるラック11bの片側の側面に設けられている側面扉パネル20は、側面扉スライドレール22に沿ってラック11bの前面扉12a側に移動され、向かい合う他のラック11bの側面扉フレーム21を互いに当接させて係合され、側面扉フレーム21が側面扉スライドレール22に固定される。また、第1のラック列13と第2のラック列14との間の空間に人が出入りするときには、側面扉パネル20を側面扉スライドレール22に沿ってラック11bの背面12b側に移動させることで、進入可能になる。
【0040】
以上のように構成された空気調節システムについて、空気調節装置5が電算室内の空気を循環させる動作を、図1、図2、図7及び図8を参照して説明する。
【0041】
空気調節装置5から供給される冷却気流A3は、二重床6aの床下の空調ダクトスペース107を通って電算室全体に供給される。ラック11の前面扉12a側の二重床6aに設置された通気孔付き床パネル6cの通気孔を空気調節された冷却気流A3が通過し、ラック11の前面扉12a側の床上に冷却気流A3が供給される。
【0042】
従来の構成であれば、二重床106aの床下から通気孔付き床パネル106bの通気孔を通過して床上に供給される冷却気流A2の一部は、ラック搭載型コンピュータ機器101に供給されずに、ラック111の前面扉112a側の空間から空気調節装置105側に向かって通過し、冷却に使用されずに空気調節装置105に短絡的に戻る空気の流れ(還流)されるショートリターン気流A4が発生する。
【0043】
一方、本実施形態によれば、ラック搭載型コンピュータ機器1に供給されずに空気調節装置5に引き込まれていた冷却気流を、側面扉パネル20で遮断することで、冷却気流A2の供給量のほとんど全てをラック11に供給することが可能になる。
【0044】
ラック搭載型コンピュータ機器1は、ラック11の前面扉12aの通気孔から冷却気流A3を取り入れ、ラック搭載型コンピュータ機器1の機器送風ファン1aと、ラック11のラック送風ファン12dによって、機器排熱気流をラック11の背面12b側と上部に向けて排気する。従来の構成であれば、このように排気された気流の一部が電算室の天井とラック11の天板との間の空間を通過して、ラック11の前面扉12a側に回り込み、ラック搭載型コンピュータ1は自身の排熱気流を吸気するという、好ましくない排熱気流の循環経路が形成される。
【0045】
一方、本実施形態によれば、ラック11に設けられた天井パネル15によって、ラック11の上方を流れて前面扉12a側に回り込む排熱気流をも遮断することができ、通気孔付き床パネル6cの通気孔を通過して床上に吹き上げられる冷却気流A3をラック11の下部から上部からに至るまでの高さ方向の全体に効率良く供給することができる。
【0046】
また、側面扉パネル20の上部には、空気調節装置5が停止したときに、ラック11の、第1のラック列13の前面扉12a側と第2のラック列14の前面扉12a側との間の空間に空気を供給するための通気孔付き側面パネル23が設けられている。
【0047】
上述したように、本実施形態の空気調節システムによれば、第1のラック列13及び第2のラック列14の各ラック11に、これら第1のラック列13と第2のラック列14との間の空間を覆うための天井パネル15及び側面扉パネル20がそれぞれ設けられている。この構成によって、ランク11から放出された排熱気流がラック11の上方を回ってラック11の前面扉12a側からコンピュータ機器1に引き込まれることを防ぐと共に、ラック11の高さ方向の途中から空気調節装置5に引き込まれる冷却気流を遮断することができる。すなわち、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0048】
第1の効果は、ラック11の下部から上部に至るまでの高さ方向に対して、均一の温度の冷却気流を供給することができる。その理由は、ラック11周囲においてラック搭載型コンピュータ機器1の排熱気流の回り込みを抑制し、ラック11の下部から上部までの高さ方向に対する温度分布を小さくすることができるからである。
【0049】
第2の効果として、空気調節装置の送風による冷却気流の到達距離が伸び、電算室内を均一に冷却できる。その理由は、従来は通気孔付き床パネルからの吹き上げられた冷却気流A3の一部が、コンピュータ機器を冷却するために使われずに直接空気調節装置に還流される無駄な気流が発生していた。しかしながら、本実施形態によれば、冷却気流のほとんど全ての供給量をラック11内のコンピュータ機器1に供給することができるので、冷却気流の無駄な還流が抑制され、冷却気流の到達距離を伸ばすことができるからである。
【0050】
第3の効果として、空気調節装置の設定温度を従来よりも高く設定することが可能になり、空気調節装置の消費エネルギーを抑えて運転を行うことができる。その理由は、空気調節装置から供給される冷却気流をラックの下部から上部までを一定の温度にさせるように供給することできるので、従来の電算室のように床下の温度を極端に下げる必要がなくなるためである。例えば、従来の電算室では、空気調節装置の給気温度を18℃程度に設定することで、ラックへ供給される冷却気流の温度が20℃〜28℃程度にされていた。一方、本実施形態では、空気調節装置によって供給する冷却気流の温度を23℃程度に設定することで、ラックへ供給される冷却気流の温度をコンピュータ機器に推奨される動作温度である23℃〜25℃程度の一定の温度に設定することが可能になる。つまり、この例では空気調節装置の設定温度を5℃程度高く設定して運用できるので、空気調節装置による消費電力を抑えることができる。さらに、本発明によれば、コンピュータ機器1の使用温度を低く抑えることが可能になり、コンピュータ機器1を安定的に使用することが可能になる。
【0051】
第4の効果として、電算室における空気調節装置の設置数を削減することが可能になり、過剰な設備投資や電力費用を抑制することが可能になる。その理由は、電算室内の暖気が空気調節装置によって効率良く換気されるので、空気調節装置による冷却効率が向上する。その結果、最小限の個数の空気調節装置によって十分に冷却することが可能になり、従来のように電算室全体を冷却するために、電算室内の熱負荷よりも過剰な空気調節装置を設置する必要がなくなるためである。従来は電算室内における風量不足を補うための対策として、空気調節装置の個数を増やしたり、別途に送風ファンを設置したりといった対策に伴って供給電力を追加する必要があったが、本実施形態によれば、ラック11に天井パネル15、側面扉パネル20が設けられる簡素な構成を採ることで、追加の供給電力が不要となり、消費エネルギーの低減を図ると共に最適な冷却と排熱処理を行うことができ、地球環境にも配慮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態の空気調節システムが電算室に設置された構成例と、空気の流れの概略を示す斜視図である。
【図2】実施形態の空気調節システムが電算室に設置された構成例とその空気の流れを示す、空気調節装置の側面から見た断面図である。
【図3】実施形態における第1のラック列のラックを示す斜視図であって、(a)に天井パネルが収納された状態を示し、(b)に天井パネルが引き出された状態を示す。
【図4】実施形態における第2のラック列のラックを示す斜視図であって、(a)に天井パネルが収納された状態を示し、(b)に天井パネルが引き出された状態を示す。
【図5】実施形態におけるラックを示す斜視図であって、(a)に側面扉パネルと天井パネルが収納された状態を示し、(b)に側面扉パネルと天井パネルが引き出された状態を示す。
【図6】実施形態におけるラックを示す斜視図であって、(a)に側面扉パネルと天井パネルが収納された状態を示し、(b)に側面扉パネルと天井パネルが引き出された状態を示す。
【図7】実施形態におけるラックが電算室に設置された構成例とその空気の流れを示す、ラックの側面から見た断面図である。
【図8】実施形態におけるラックが電算室に設置された構成例とその空気の流れを示す、19インチラックの上方から見た平面図である。
【図9】メインフレーム型コンピュータ機器が電算室に設置された構成例と、空気の流れの概略を示した斜視図である。
【図10】メインフレーム型コンピュータ機器が電算室に設置された構成例における、空気の流れを示す、空気調節装置の側面から見た断面図である。
【図11】ラック搭載型コンピュータ機器が搭載されたラックが電算室に設置された構成例における、空気の流れを示す斜視図である。
【図12】ラック搭載型コンピュータ機器が搭載されたラックが電算室に設置された構成例と空気の流れを示す、空気調節装置の側面から見た断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ラック搭載型コンピュータ機器
5 電算室用床下吹き出しパッケージ型の空気調節装置
11(11a,11b) ラック
13 第1のラック列
14 第2のラック列
15 天井パネル
20 側面扉パネル
23 通気孔付き側面パネル
A1 機器排熱気流
A3 冷却気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納され、空気調節装置によって床下から前記内部を通って上方に向かう冷却気流が供給されるラックであって、
間隔をあけて配置された他のラックとの間の空間を覆うことで前記空気調節装置による気流を制御するための気流調節部材が設けられていることを特徴とするラック。
【請求項2】
前記気流調節部材は、前記空間を覆った状態で、前記他のラックに設けられた前記気流調節部材と係合されている、請求項1に記載のラック。
【請求項3】
前記気流調節部材は、前記空間に対して進退する方向にスライド可能に設けられている、請求項1または2に記載のラック。
【請求項4】
内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納された複数のラックと、
前記複数のラックが配置された室内の床下から前記ラックの前記内部を通って前記ラックの上方に向かう冷却気流を供給し、前記ラックから天井に抜けた排熱気流を引き込んで循環させて、前記ラックに収納された前記複数のラック搭載型コンピュータ機器を冷却する空気調節装置と、
を備え、前記複数のラックが配列されてなる第1のラック列と第2のラック列とが間に空間をあけて配置されている空気調節システムであって、
前記第1及び第2のラック列の各前記ラックには、前記空間を覆うための気流調節部材が設けられていることを特徴とする空気調節システム。
【請求項5】
前記第1及び第2のラック列における配列方向の両端に配置された前記ラックは、前記空間の天面を覆う第1の気流調節部材と、該第1の気流調節部材に連結されて前記空間の側面を覆う第2の気流調節部材とを有し、
前記第1及び第2のラック列における配列方向の両端以外に配置された前記ラックは、前記第1の気流調節部材を有し、
前記第1のラック列の前記第1及び第2の気流調節部材と、前記第2のラック列の前記第1及び第2の気流調節部材とが連結されることで前記空間が覆われている、請求項4に記載の空気調節システム。
【請求項6】
前記第1の気流調節部材及び前記第2の気流調節部材は、各前記ラックの天面及び側面に、前記空間に対して進退する方向にスライド可能に設けられている、請求項5に記載の空気調節システム。
【請求項7】
内部に複数のラック搭載型コンピュータ機器が高さ方向に並べて収納された複数のラックが配列されてなる第1のラック列及び第2のラック列と、
前記複数のラックが配置された室内の床下から前記ラックの前記内部を通って前記ラックの上方に向かう冷却気流を供給し、前記ラックから天井に抜けた排熱気流を引き込んで循環させて、前記ラックに収納された前記複数のラック搭載型コンピュータ機器を冷却する空気調節装置が配置され、前記第1のラック列と前記第2のラック列が間に空間をあけて配置された室内の空気調節方法であって、
前記第1のラック列及び前記第2のラック列の前記ラックに設けられた気流調節部材によって前記空間を覆った状態で、前記空気調節装置によって空気を循環させる空気調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−282753(P2009−282753A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134144(P2008−134144)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000232140)NECフィールディング株式会社 (373)
【Fターム(参考)】