説明

ラックの片側空間閉塞装置

【課題】ラックの片側に閉塞空間を形成することができ、床面の冷気供給口の位置や通路幅などに対応させて位置調整が可能であり、しかもラックの天井面全体が覆われたり、熱溜りを発生させたりすることのない片側空間閉塞装置を提供する。
【解決手段】ラック1の天井面3と床面2との間に設けられるラックの片側空間閉塞装置であり、一端がラック1の天井面3に支持された天井パネル4と、この天井パネル4の他端に連結された正面パネル5とからなる。天井パネル4を折り畳み構造とし、その奥行き寸法を可変とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データセンター等において列状に配置されたラックの冷却効率を高めるために用いられるラックの片側空間閉塞装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
データセンター等においては、サーバやその付属機器を搭載した多数のラックを列状に配置し、対向するラック列間の床面に設けられた冷気供給口からラック前面側に冷却空気を供給し、ラックの内部を通過させてラック背面側から排熱空気として排気する冷却システムが採用されている。この冷却システムにおいては、冷却効率を高めるために、互いのラック列の冷却空気を取り込む前面側を対向して配置した上、冷却空気と排熱空気とが混ざらないように、ラックの通路間を閉塞するような区画を形成することがある。そこで、例えば特許文献1に示されるように、対向するラック列間の通路の上部に遮蔽板を架け渡すことにより、通路内の空間を閉塞し、その上方空間と区画して空気の流動を規制している。
【0003】
このようにラック列間の通路に冷却空気と排熱空気とを区画するような閉塞空間を形成すれば、多数のラックを効率よく冷却することができ、またこの通路を利用して保守点検作業も行い易いという利点がある。
【0004】
ところが、実際には前述のようにラック前面側が対向して配置されるとは限らない。対向するラック列が存在しない端部のラック列の場合や、対向するラック列の長さが異なる場合、ラック列の前面側が互いに対向して配置されていない場合には、特許文献1のようにラック列間の通路に閉塞空間を形成することができない。そこで、対向するラックの有無に関わりなくラックの片側の空間を閉塞できる構造が求められているのであるが、通路の幅や床面の冷気供給口の配置に合わせた位置調整が可能でなければならない。また、冷却空気の風量に応じ、ラックの片側に形成される閉塞空間の大きさ(容量)も可変であることが望まれる。
【0005】
閉塞空間の大きさを可変とするためには、ラックの天井部にスライド可能な天井パネルを設置することも考えられるが、ラックの天井面を覆ってしまうことでラックの天井面からのケーブルの引き込みの障害になるという問題があるうえ、ラック奥行き寸法が比較的短い場合には、天井パネルの長さがラックの奥行き寸法よりも長くなり、正面パネルをラックの奥行き方向に押し込むと、天井パネルの端部がラックの天井からはみ出してしまい、排熱空気の流動を妨げて熱溜りを形成するなどの問題もあった。しかし、これらの要求を満足できるものはこれまで提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3835615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、対向するラック列の有無や配置状況に関わらず、その片側に閉塞空間を形成することができ、床面の冷気供給口の配置や通路幅などに対応させて位置調整が可能であり、閉塞空間の大きさが可変であり、しかもラックの天井面からのケーブルの引き込みにも支障がなく、熱溜りを発生させたりすることのないラックの片側空間閉塞装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ラック列の片側に冷却空気と排熱空気とを区画する閉塞空間を形成するために、各ラックの天井面と床面との間に設けられるラックの片側空間閉塞装置であって、一端がラックの天井面に支持された天井パネルと、この天井パネルの他端に連結された正面パネルとからなり、この天井パネルの奥行き寸法を可変としたことを特徴とするものである。
【0009】
なお、天井パネルは複数のパネル部材から構成され、これらのパネル部材を重ね合わせることにより天井パネルの奥行き寸法を可変とすることが好ましい。また、伸長時における天井パネルの奥行き寸法が、ラックの天井面の奥行き寸法よりも長くなるような場合に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のラックの片側空間閉塞装置は、一端がラックの天井面に支持された天井パネルと、この天井パネルの他端に連結された正面パネルとからなるものであり、これらのパネルによってラックの片側空間を閉塞し、冷却効率を高めることができる。また天井パネルの奥行き寸法を可変としたので、ラック天井面からの正面パネルの張出し位置を自由に変えることができ、通路幅などに対応させて片側空間を設定することができる。しかも天井パネルの奥行き寸法を可変としたことにより、ラックの天井面が天井パネルによって覆われる部分が少なくなり、ラックの天井面からのケーブルの引き込みにも支障がなくなるうえ、天井パネルの端部がラックの天井からはみ出して熱溜りを形成することも防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】天井パネルの伸長状態を示す斜視図である。
【図2】天井パネルの伸長状態を示す背面からの斜視図である。
【図3】天井パネルの折り畳み状態を示す斜視図である。
【図4】天井パネルの伸長状態を示す断面図である。
【図5】天井パネルの伸長状態を示す斜視断面図である。
【図6】天井パネルの折り畳み状態を示す断面図である。
【図7】天井パネルの部分断面図である。
【図8】固定部材への取り付け状態を示す斜視図である。
【図9】正面パネルの角度調節機構を示す斜視図である。
【図10】他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1、図2はラック1の正面側に閉塞空間を形成した状態を示す斜視図である。図面では単一のラック1のみを示しているが、実際にはラック1は左右方向に密接配置されてラック列を構成し、以下に説明するラックの片側空間閉塞装置も左右方向に密接配置されて左右方向に連続する閉塞空間を形成するものである。また2は通路の床面であり、床下から供給される冷却空気の供給口が配設されている(不図示)。
【0013】
本発明のラックの片側空間閉塞装置は、一端がラック1の天井面3に水平に支持された天井パネル4と、この天井パネル4の他端に連結された正面パネル5とからなるものである。天井パネル4はポリカーボネート樹脂等の透明板をアルミニウム等の金属製の枠部6で囲って形成されたもので、透明としたのは内部が暗くなることを防止するためである。
【0014】
この天井パネル4は複数枚に分割された構造であり、本実施形態では3枚のパネル部材4a〜4cに分割されている。図4以下に示すように、各パネル部材4a〜4cは側面および後面がコ字状となった枠部6a〜6cと、その内部にはめ込まれた透明板7a〜7cから構成され、入れ子構造となっている。すなわち、図示されるように基端側の第1のパネル部材4aの内部に中間の第2のパネル部材4bが配置され、この第2のパネル部材4bの内部に、先端側の第3のパネル部材4cが配置されている。4a〜4cは、それぞれ所要の引き出し位置で枠部6に設けた固定ボルト18により固定できるようになっている。
【0015】
また図7に示されるように、第1のパネル部材4aの先端と第2のパネル部材4bの先端には下向屈曲部8が形成され、第2のパネル部材4bと第3のパネル部材4cの基端には上向屈曲部9が形成され、相互間の脱落を防止している。また下向屈曲部8の内側にはパッキン10が設けられ、冷気の漏れを防止している。このように、3枚のパネル部材4a〜4cは伸縮可能な入れ子構造となっている。3枚のパネル部材4a〜4cの奥行き寸法を揃えておけば、図3に示すように最小寸法に折り畳むことができる。また図4に示すように伸長させることもできる。このような折り畳み構造を採用することにより、最大伸長時における天井パネル4の奥行き寸法を、ラック1の天井面3の奥行き寸法よりも長くすることができる。
【0016】
第1のパネル部材4aの基端側は、図8に示されるようにラック1の天井面3に取付けられた固定金具11に制震部材12を介して固定されている。制震部材12は硬質ゴム板などの弾性材料からなり、固定金具11にねじ止めされている。また第1のパネル部材4aの基端が、制震部材12の上半部にねじ止めされている。このように固定金具11との間に制震部材12を介在させることにより、地震震動によるラック1の変位量と、天井パネル4及び正面パネル5からなる閉塞装置との変位量の違いを吸収する制震機能を備えることができる。
【0017】
図1などに示されるように、固定金具11はラック1の端部に近い位置に設けておくことが好ましい。これによってラック1の天井面3が天井パネル4によって覆われる部分が少なくなり、ラック1の天井面3からのケーブルの引き込みにも支障がなくなる。
【0018】
第3のパネル部材4cの先端には、正面パネル5が接続されている。正面パネル5もポリカーボネート樹脂等の透明板をアルミニウム等の金属枠13で囲って形成されたものである。この実施形態では正面パネル5は第3のパネル部材4cの先端に垂直下向きに取付けられているが、ヒンジ機構によって回動可能とするとともに、図9に示すように角度調節部材14によって、天井パネル4に対する正面パネル5の角度を任意に設定できるようにすることもできる。なお図9の角度調節部材14は、正面パネル5の上側コーナー部の円弧状板15と、天井パネル4のコーナー部の三角板16とを重ね合わせ、2本のボルト17により止める構造である。正面パネル5の下端は床面2に達している。
【0019】
図1に示すように、この実施形態においては、正面パネル5の下端にスライド可能な閉塞部材30が設けられている。この閉塞部材30は硬質ゴム板からなる遮蔽部材31と、この遮蔽部材31を正面パネル5の下端にスライド可能に取付けるスライド部材32とからなる。スライド部材32は正面パネル5の金属枠13の裏側の縦溝にナットをスライド自在に挿入しボルトにより固定されるもので、ボルトを緩めることにより上下方向にスライド可能である。これにより正面パネル5の下端を通路2の床面に密着させることができる。なお、スライド部材32の下端部にキャスター33を取付けることができる。これにより正面パネル5の位置調整が容易になり、震動吸収効果も高めることができる。
【0020】
このように構成された本発明のラックの片側空間閉塞装置は、図1に示すように天井パネル4を伸長させてラック1からの突出量を大きくしたり、あるいは図3に示すように天井パネル4を折り畳んでラック1からの突出量を小さくしたりして使用することができる。このため、正面パネル5の下端位置を通路の幅や床面2の冷却空気の供給口の位置に対応させて自由に設定することができる。これによりラック列の片側に閉塞空間を形成することができるので、対向するラック列がない場合やラック列の前面側が互いに対向して配置されていない場合にも、冷却空気と排熱空気とが混ざることがなくなり、冷却効率を高めることが可能となる。
【0021】
また本発明のラックの片側空間閉塞装置は、天井パネル4の奥行き寸法を可変としたので、一時的に折り畳めばその前面で作業をしたり、前面にラックがあるような場合にその扉を開いたりする場合に正面パネル5が邪魔になることがない。またラックの奥行き寸法が短い場合であっても、ラック1の奥行き寸法以上の通路の幅の閉塞空間を形成することも可能である。しかも天井パネル4を大型化しても、ラック1の反対側に天井パネル4が突出することもなく、熱溜りが発生することがない。
【0022】
以上に説明した実施形態では、天井パネル4を複数のパネル部材4a〜4cから構成し、これらのパネル部材4a〜4cを重ね合わせることにより天井パネル4の奥行き寸法を可変とした。しかし図10に示すように天井パネル4を複数のパネル部材4d、4eから構成し、それらをヒンジ40により接続することもできる。この場合には、ラック1の天井面3の左右両側にガイドレール42を設け、下側のパネル部材4d及び上側のパネル部材4eをこのガイドレール42の上面に位置調節自在に固定できる構造としておく。
【0023】
具体的には、ガイドレール42の前端部に支持腕部41を設けておき、パネル部材4d、4eをボルト等の締結手段によって任意の位置で固定できるようにしておく。正面パネル5を手前側に引き出したい場合には、図10に示すように、上側のパネル部材4eをパネル部材4dと同一平面となるように180度に開き、上側のパネル部材4eを支持腕部41に固定し、下側のパネル部材4dをラック1の端面から完全に引き出す。このような構造とすれば、ラック1の奥行き寸法よりも大きく天井パネル4を引き出すことができるので、ラック1の奥行き寸法が短い横長のラックにも適用可能である。また、正面パネル5をラック1の奥行き方向に押し込む場合には、パネル部材4eを回転させてパネル部材4dと重ね合わせれば、ラック1の背面側の天井面より配線を引き込む場合においても障害となることはない。
【0024】
なお、上記実施形態の変形例として、天井パネルの枠部6をレール部材で構成し、パネル部材同士をスライド自在に接続したものとしてもよい。さらに、パネル部材4dからパネル部材4eを着脱自在として天井パネルの奥行き寸法を可変とする構造としてもよい。
【0025】
以上に説明したように、本発明のラックの片側空間閉塞装置によれば、ラック1の片側空間を閉塞し、冷却効率を高めることができる。また天井パネル4の奥行き寸法を可変としたので、ラック1の天井面3からの正面パネル5の張出し位置を自由に変えることができ、通路幅に対応させて片側空間を設定することができるうえ、ラック1の天井面3が天井パネル4によって覆われる部分が少ないため、ラック1の天井面3からのケーブルの引き込みにも支障がなくなり、また天井パネル4の端部がラック1の天井面3からはみ出して熱溜りを形成することもないなどの多くの利点がある。
【符号の説明】
【0026】
1 ラック
2 床面
3 天井面
4 天井パネル
5 正面パネル
6 枠部
7 透明板
8 下向屈曲部
9 上向屈曲部
10 パッキン
11 固定金具
12 制震部材
13 金属枠
14 角度調節部材
15 円弧状板
16 三角板
17 ボルト
18 固定ボルト
30 閉塞部材
31 遮蔽部材
32 スライド部材
33 キャスター
40 ヒンジ
41 支持腕部
42 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック列の片側に閉塞空間を形成するために、各ラックの天井面と床面との間に設けられるラックの片側空間閉塞装置であって、一端がラックの天井面に支持された天井パネルと、この天井パネルの他端に連結された正面パネルとからなり、この天井パネルの奥行き寸法を可変としたことを特徴とするラックの片側空間閉塞装置。
【請求項2】
天井パネルは複数のパネル部材から構成され、これらのパネル部材を重ね合わせることにより天井パネルの奥行き寸法を可変としたことを特徴とする請求項1記載のラックの片側空間閉塞装置。
【請求項3】
伸長時における天井パネルの奥行き寸法が、ラックの天井面の奥行き寸法よりも長いものであることを特徴とする請求項1または2に記載のラックの片側空間閉塞装置。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−221297(P2012−221297A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87426(P2011−87426)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000227401)日東工業株式会社 (374)