説明

ラックガイド及びこのラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置

【課題】温度上昇の影響を受けてラックガイド基体に応力緩和を招来した場合であっても、湾曲摺動板片が合成樹脂製のラックガイド基体に強固に固着された状態を維持できるラックガイド及びこのラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置を提供すること。
【解決手段】ラックピニオン式舵取装置1は、ギヤケース3と、ギヤケース3の中空部2に回転自在に支持された操舵軸6と、操舵軸6の軸端に一体的に設けられているピニオン7と、ピニオン7に噛合うラック歯8を有するラックバー10と、ラックバー10を移動自在に案内支持するラックガイド11と、ラックガイド11を介してラック歯8をピニオン7に向かって弾性的に押圧する弾性手段としてのコイルばね12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックガイド及びこのラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックピニオン式舵取装置は、通常、ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛合するラック歯が形成されたラックバーと、ギヤケース内に配されて、ラックバーを摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向かって押圧するコイルばねとを具備している。
【0003】
ラックピニオン式舵取装置において、ラックバーを摺動支持するラックガイドとしては、Fe系焼結金属又は合成樹脂が使用されている。このFe系焼結金属からなるラックガイドは、ラックバーからの衝撃荷重に対して充分な機械的強度を有する反面、摺動摩擦抵抗が大きいため舵取系の効率が低下し、操縦性に問題を有している。また、合成樹脂製のラックガイドは、反対に摺動摩擦抵抗を低減させることができる反面、衝撃荷重に対する機械的強度に劣ること、成形収縮などによる寸法のバラツキを生じ、寸法精度良く成形し難い上に、成形後の寸法精度を保持し難いこと、さらにはケーシング内に組込まれた後、ステアリング装置の温度上昇の影響を受けて熱膨張、収縮をきたし、熱変形、クリープを生じてラックバーを円滑に摺動支持し難いことなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭50−102027号公報
【特許文献2】実公昭64−6382号公報
【特許文献3】実公平1−27495号公報
【特許文献4】特開2000−177604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点を解決する手段として、ラックガイドをFe系焼結金属やアルミニウムなどの金属又はガラス繊維等の補強充填材を含有した合成樹脂製のラックガイド基体とこのラックガイド基体に固着された湾曲摺動板片とから形成することが、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4で提案されている。
【0006】
斯かるラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置においては、ラックガイド基体への湾曲摺動板片の固着は、湾曲摺動板片にバーリング加工等により一体的に形成された円筒状突起を、ラックガイド基体の中央部に形成された貫通孔に圧入嵌合させて行われている。
【0007】
とくに、特許文献3に記載された湾曲摺動板片の円筒状突起は底部を有しているため、円筒状突起の先端部側の縮径等の形状変化の虞を低減でき、該湾曲摺動板片のラックガイド基体の貫通孔への圧入嵌合力を高めて該ラックガイド基体に長期にわたってしっかりと保持でき、摺動抵抗及び摩耗の増大という不都合な事態を回避できる、という効果を発揮するものである。
【0008】
しかしながら、底部を有する円筒状突起であっても、強化充填材を含有した合成樹脂からなるラックガイド基体の場合においては、ラックピニオン式舵取装置のギヤケース内に組込まれた後、当該舵取装置の温度上昇の影響を受けて応力緩和をきたし、該円筒状突起の貫通孔への圧入嵌合力が減少して該貫通孔との間にガタとなって現れ、ラックガイド基体への湾曲摺動板片の固着力の低下により、往々にしてラックバーの円滑な摺動支持に支障をきたすなどの不具合を生じる虞がある。
【0009】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、温度上昇の影響を受けてラックガイド基体に応力緩和を招来した場合であっても、湾曲摺動板片が合成樹脂製のラックガイド基体に強固に固着された状態を維持できるラックガイド及びこのラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるラックガイドは、一方の端面に設けられた円弧凹面、他方の端面に設けられた中空凹所及び一端では円弧凹面の中央部で開口する一方、他端では該中空凹所で開口する貫通円孔を夫々具備している合成樹脂製のラックガイド基体と、ラックバーの円弧状外周面を摺動自在に支持する円弧状凹面、ラックガイド基体の該円弧凹面に密に接触する円弧状凸面、該円弧状凹面で開口する一方、該中空凹所に対して閉鎖された内部を有すると共に該円弧状凸面に一体的に設けられている円筒状の突出部を夫々具備した湾曲摺動板片とを具備しており、突出部は、一端で円弧状凸面に一体的に設けられた円筒部と、この円筒部の他端に配された閉塞底部と、一方では、円筒部に一体的に設けられており、他方では、閉塞底部に一体的に設けられていると共に径方向外方に広がった膨出部とを具備しており、該湾曲摺動板片は、該円筒部を貫通円孔に圧入嵌合すると共に該膨出部を貫通円孔の他端の周りでラックガイド基体に圧接して、当該ラックガイド基体に固着されている。
【0011】
本発明のラックガイドによれば、湾曲摺動板片は、該円筒部を貫通円孔に圧入嵌合すると共に該膨出部を貫通円孔の他端の周りでラックガイド基体に圧接して、当該ラックガイド基体に固着されているので、ラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置の温度上昇の影響を受けてラックガイド基体に応力緩和を招来した場合であっても、湾曲摺動板片がラックガイド基体に強固に固着された状態を維持でき、ラックバーを円滑に摺動支持することができる。
【0012】
好ましい例では、膨出部は、湾曲摺動板片のラックガイド基体への固着における閉塞底部の円形外縁のかしめにより形成されている。
【0013】
このように膨出部を湾曲摺動板片のラックガイド基体への固着における閉塞底部の円形外縁のかしめにより形成することにより、湾曲摺動板片のラックガイド基体への強固な固着状態を更に好ましく維持でき、長期に渡ってラックバーを円滑に摺動支持することができる。
【0014】
本発明のラックガイドにおいて、湾曲摺動板片は、裏金と、該裏金の表面に一体的に被着形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙を充填して該多孔質金属焼結層の表面に被覆された合成樹脂層との少なくとも三層構造からなるものが好ましく、この場合、円弧状凹面は、合成樹脂層の露出面からなる。
【0015】
多孔質金属焼結層は、Fe系に比べて熱伝導性の良好なCu系、例えば青銅合金から形成されるのが好ましく、合成樹脂層には、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などに各種充填剤を含有した自己潤滑性に優れたものが使用されて好適である。
【0016】
好ましい例では、ラックガイド基体の円弧凹面は、平面視略楕円形をなしており、この場合、該円弧凹面に配される湾曲摺動板片は、平面視略楕円形をなしていると共に平面視略楕円形をなす円弧凹面に配されているとよい。
【0017】
他の好ましい例では、ラックガイド基体は、その一方の端面に、一対の平面視略半楕円形凹面と、該一対の平面視略半楕円形凹面に挟まれていると共に円弧凹面が形成されている平面視方形凹所とを具備しており、この場合、湾曲摺動板片は、平面視方形をなしていると共に平面視方形凹所に嵌合固定されているとよい。
【0018】
本発明のラックガイドにおいて、湾曲摺動板片の円弧状凹面は、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を通る中心線から角度方向の両側において角度0°から角度50°までの角度範囲では、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を有すると共にラックバーの円弧状外周面と実質的に同一の曲率半径を有してラックバーの円弧状外周面に接する一方、角度50°を超える角度範囲では、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心に対して偏心した曲率中心を有すると共にラックバーの円弧状外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径を有してラックバーの円弧状外周面に隙間をもっており、前記中心線に関して対称な二つの円弧凹面からなっていてもよい。
【0019】
このように湾曲摺動板片の円弧状凹面が角度0°から角度50°を超えない角度範囲でラックバーの円弧状外周面に接し、角度50°を超える角度範囲ではラックバーの円弧状外周面に隙間をもって対面していると、該湾曲摺動板片の耐摩耗性が向上し、該湾曲摺動板片を固着したラックガイド基体の破壊強度を向上させることができる。
【0020】
湾曲摺動板片の円弧状凹面は、上記に代えて、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を通る中心線の両側において角度0°から角度90°まで、好ましくは30°から60°まで、より好ましくは、30°から45°までの角度範囲内の二部位で夫々ラックバーの円弧状外周面に接し、夫々ラックバーの円弧状外周面の曲率中心に対して偏心した曲率中心をもつと共にラックバーの円弧状外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径をもった前記中心線に関して対称な二つの円弧状凹面からなっていてもよい。
【0021】
このように湾曲摺動板片の円弧状凹面がラックバーの円弧状外周面の曲率中心に対して偏心した曲率中心をもつと共にラックバーの円弧状外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径をもった二つの円弧凹面からなっていると、湾曲摺動板片の円弧状凹面へのラックバーの円弧状外周面の摺接が二か所の部位で線接触又は狭帯状接触になされる結果、ラックバーと湾曲摺動板片との摺動摩擦抵抗を大幅に低減でき、しかも、該貫通円孔の他端の周りでの膨出部のラックガイド基体への圧接による湾曲摺動板片とラックガイド基体との強固な固着が長期にわたって維持されると、この線接触又は狭帯状接触もまた長期にわたって維持されるために、ラックバーの円弧状外周面と湾曲摺動板片との片当り等の不具合を生じることなく摺動摩擦抵抗の増大という不都合な事態も回避される。
【0022】
本発明のラックガイドにおいて、ラックガイド基体は、強化充填材としてガラス繊維、炭素繊維、ガラス粉末などの無機物質を30〜50質量%含有した熱可塑性合成樹脂から形成されているとよく、熱可塑性合成樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル樹脂及びポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などから選択されたものが使用されて好適である。
【0023】
本発明のラックピニオン式舵取装置は、中空部を有するギヤケースと、このギヤケースの中空部に回転自在に配されていると共に操舵により回転されるピニオンと、このピニオンに噛合うラック歯を有するラックバーと、ギヤケースの中空部に移動自在に配されていると共にラックバーを移動自在に案内支持する上記のいずれかの態様のラックガイドと、ギヤケースの中空部に配されていると共にラックガイドを介してラックバーのラック歯をピニオンに弾性的に押圧する弾性手段とを具備している。
【0024】
本発明のラックピニオン式ステアリング装置によれば、ラックバーを摺動自在に案内支持するラックガイドは、上述の通り、ラックピニオン式舵取装置の温度上昇の影響を受けてラックガイド基体に応力緩和を来した場合であっても、湾曲摺動板片がラックガイド基体に強固に固着された状態を維持できる結果、片当り等の不具合を生じることなくラックバーを長期にわたって円滑に摺動支持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、温度上昇の影響を受けてラックガイド基体に応力緩和を招来した場合であっても、湾曲摺動板片が合成樹脂製のラックガイド基体に強固に固着された状態を維持できるラックガイド及びこのラックガイドを具備したラックピニオン式舵取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明のラックピニオン式舵取装置の実施の形態の例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例のラックガイドの平面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例のラックガイドの拡大断面説明図である。
【図4】図4は、図3に示す例のラックガイドの一部拡大断面説明図である。
【図5】図5は、図2のV−V線矢視断面説明図である。
【図6】図6は、図2に示すラックガイドの底面説明図である。
【図7】図7は、図2に示すラックガイドにおけるラックガイド基体の斜視説明図である。
【図8】図8は、図2に示すラックガイドにおける摺動板片素材の平面説明図である。
【図9】図9は、湾曲摺動板片を形成する複層板の断面説明図である。
【図10】図10は、本発明のラックガイドの他の実施の形態の平面説明図である。
【図11】図11は、図10に示すラックガイドにおけるラックガイド基体の斜視説明図である。
【図12】図12は、ラックガイドの他の例の拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態を、図に示す例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0028】
図1から図8において、本例のラックピニオン式舵取装置1は、中空部2を有するギヤケース3と、ギヤケース3の中空部2にころがり軸受4及び5を介して軸心の回りでR方向に回転自在に支持された操舵軸6と、操舵軸6の軸端に一体的に設けられて支持されていると共に操舵軸6を介してギヤケース3の中空部2にR方向に回転自在に配されたピニオン7と、ピニオン7に噛合うラック歯8を有すると共にラック歯8に対して背面に所定の曲率半径の円弧状外周面9を有したラックバー10と、ギヤケース3の中空部2に移動自在に配されていると共にラックバー10を軸方向Aに移動自在に案内支持するラックガイド11と、ギヤケース3の中空部2に配されていると共にラックガイド11を介してラックバー10のラック歯8をピニオン7に向かって弾性的に押圧する弾性手段としてのコイルばね12とを備えている。
【0029】
ギヤケース3は、ころがり軸受4及び5を支持した本体部13と、本体部13に一体的に形成された円筒部14と、円筒部14の開口部15を閉塞するように円筒部14に固着された蓋部材16とを有している。
【0030】
操舵軸6の軸心に対して直角な方向である軸方向Aにおいて、ギヤケース3を貫通していると共に当該軸方向Aに移動自在に配されたラックバー10は、ラック歯8が形成された面に対向する裏面側(背面)に円弧状外周面9を有している。
【0031】
ラックガイド11は、一方の端面17にラックバー10の円弧状外周面9に対面して設けられていると共に平面視略楕円形をなした円弧凹面18、他方の端面19に設けられた中空凹所20、一端では円弧凹面18の中央部で開口する一方、他端では中空凹所20で開口する貫通円孔21を夫々具備している合成樹脂製のラックガイド基体22と、ラックバー10の円弧状外周面9を摺動自在に支持する円弧状凹面23、ラックガイド基体22の円弧凹面18に密に接触する円弧状凸面24、円弧状凸面24に一体的に設けられている円筒状の突出部25を夫々具備していると共に平面視略楕円形をなす円弧凹面18に配されている湾曲摺動板片26とを具備している。
【0032】
端面19で開口した中空凹所20は、ラックガイド基体22の円筒状の内周面28と、ラックガイド基体22の円環状の天井面29とによって規定されており、内周面28には円周方向に等間隔に離間して一体的に複数個の補強用の縦リブ30が形成されており、天井面29には、各縦リブ30に連接されて複数個の補強用の横リブ31が円周方向に等間隔に離間して一体的に形成されており、貫通円孔21は、天井面29において中空凹所20に開口している。
【0033】
ラックガイド基体22は、好ましくは、強化充填材としてガラス繊維、炭素繊維、ガラス粉末の少なくとも一つの無機物質を30〜50質量%含有する熱可塑性合成樹脂から形成されており、該熱可塑性合成樹脂は、好ましくは、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンフタレート(PET)を含むポリエステル樹脂及びポリフェニレンサルファイド樹脂から選択される。
【0034】
ラックガイド基体22は、その円筒状の外面34でギヤケース3の円筒部14の内面35に軸方向Aに対して直角な方向であって且つ操舵軸6の軸心に対して直角な方向であるB方向に摺動自在に接しており、これによりラックガイド11は、B方向に移動自在となっている。
【0035】
突出部25は、一端で円弧状凸面24に一体的に設けられた円筒部41と、円筒部41の他端に設けられた閉塞底部42と、円筒部41及び閉塞底部42の夫々に一体的に設けられていると共に円筒部41及び閉塞底部42から径方向外方に広がった膨出部43とを具備しており、膨出部43は、一端では円筒部41に、他端では閉塞底部42に夫々一体的に連接されている。
【0036】
平面視略楕円形であって全体として湾曲状に曲げられた湾曲摺動板片26は、円筒部41を貫通円孔21に圧入嵌合して、膨出部43を貫通円孔21の他端の周りでラックガイド基体22の天井面29に圧接して、ラックガイド基体22に固着されており、膨出部43は、湾曲摺動板片26のラックガイド基体22への固着における閉塞底部42の円形外縁のかしめにより形成されている。
【0037】
湾曲摺動板片26は、図8に示すように、裏金としての薄鋼板51と、薄鋼板51の表面に一体的に被着形成された多孔質金属焼結層52と、多孔質金属焼結層52の孔隙を充填して多孔質金属焼結層52の表面に被覆された合成樹脂層53とからなる三層の複層板54から打ち抜き加工により、図7に示すように、略楕円形の摺動板片素材55を形成し、摺動板片素材55に、合成樹脂層53の露出面からなる円弧状凹面23を得るようにしてプレス曲げ加工を施すと共に、先端に閉塞底部42を一体的に有した突出部25を得るようにして絞り成形を施して形成される。
【0038】
湾曲摺動板片26の円弧状凹面23は、円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62とを具備しており、円弧状凹面61でラックバー10の円弧状外周面9に摺動自在に接してラックバー10を軸方向Aに移動自在に支持しており、円弧状凹面62の夫々で円弧状外周面9に接することなしにラックバー10の円弧状外周面9に隙間をもって対面しており、円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62とを具備した円弧状凹面23の裏側の面(背面)である湾曲摺動板片26の円弧状凸面24もまた円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62とに相似の円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64とを具備している。
【0039】
円弧状凹面61は、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1を通る中心線65の角度方向の一方側及び他方側において夫々角度0°から角度50°を超えない角度範囲66でラックバー10の円弧状外周面9に接するように、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1と実質的に同一の曲率中心O1を有すると共にラックバー10の円弧状外周面9の曲率半径と同一の曲率半径をもっており、円弧状凹面62は、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1を通る中心線65の角度方向の一方側及び他方側において夫々角度50°を超える角度範囲67でラックバー10の円弧状外周面9に当該円弧状外周面9に接することなしに隙間を有するように、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1に対して偏心した曲率中心O2及びO3を有すると共に、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率半径よりも大きな曲率半径をもっており、円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62とは、中心線65に関して対称に形成されている。
【0040】
円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64との夫々は、好ましくは、対応の円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62との夫々の曲率半径よりも大きな曲率半径の相似形状をもっていると共に中心線65に関して対称に形成されている。
【0041】
ラックガイド基体22の円弧凹面18は、湾曲摺動板片26の円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64とぴったりと密接するように、当該円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64との形状に相補的な形状をもった円弧凹面71と一対の円弧状凹面72とをもって形成されている。
【0042】
ラックガイド基体22の中空凹所20において縦リブ30の側面74に囲まれて配されたコイルばね12は、一端で横リブ31の下面75に当接し、他端でギヤケース3の円筒部14の開口部15を閉塞する蓋部材16に当接して、ラックガイド基体22を介して湾曲摺動板片26をラックバー10に向かって押圧している。
【0043】
以上のラックピニオン式舵取装置1において、ラックガイド11は、コイルばね12の弾性力によるラックバー10への湾曲摺動板片26の押し付けでラック歯8のピニオン7への噛合いを確保し、しかも、操舵軸6のR方向の回転において当該噛合いによる軸方向Aのラックバー10の摺動移動をラックバー10の円弧状外周面9での湾曲摺動板片33の円弧状凹面61への滑り接触で案内する。
【0044】
ラックピニオン式舵取装置1においては、湾曲摺動板片26がその膨出部43で貫通円孔21の他端の周りでラックガイド基体22の天井面29に圧接してラックガイド基体22に固着されているため、ラックピニオン式舵取装置1の温度上昇の影響を受けてラックガイド基体22に応力緩和を招来して、ラックガイド基体22への円筒部41での圧入嵌合力が低下した場合であっても、湾曲摺動板片26のラックガイド基体22への固着を長期にわたって維持できる結果、湾曲摺動板片26をラックガイド基体22に長期にわたって同じくしっかりと保持でき、ラックバー10が、角度範囲66において湾曲摺動板片26と面接触を初期設定の状態のまま長期にわたって維持でき、加えて、湾曲摺動板片26へのラックバー10の角度範囲66での面接触の結果、ラックガイド基体22の破壊強度が向上されると共に、湾曲摺動板片26の耐摩耗性が向上される。
【0045】
上記では、平面視略楕円形であって全体として湾曲状に曲げられた湾曲摺動板片26を用いたが、これに代えて、図9及び図10に示すように、湾曲摺動板片26として、三層の複層板54を方形に打ち抜き加工又は切断して方形の摺動板片素材55を形成し、これを前記と同様に曲げ加工及び絞り成形して平面視方形をなしている湾曲摺動板片81を形成する一方、ラックガイド基体22の一方の端面17に、一対の平面視略半楕円形凹面82と、一対の平面視略半楕円形凹面82に挟まれていると共に平面視方形の円弧凹面18が形成されている平面視方形凹所83とを形成し、湾曲摺動板片26としての湾曲摺動板片81を平面視方形凹所83に嵌合固定してラックガイド11を形成してもよく、このように、一方の端面17に、一対の平面視略半楕円形凹面82と、一対の平面視略半楕円形凹面82に挟まれていると共に円弧凹面18が形成されている平面視方形凹所83とを有しているラックガイド基体22と、ラックガイド基体22の平面視方形凹所83に嵌合固定された湾曲摺動板片81とを具備したラックガイド11を用いたラックピニオン式舵取装置1でも、湾曲摺動板片81の円筒部41を貫通円孔21に圧入嵌合して、湾曲摺動板片81の膨出部43を貫通円孔21の他端の周りでラックガイド基体22の天井面29に圧接して、湾曲摺動板片81がラックガイド基体22に固着されているために、前記と同様の効果を得ることができる上に、更に、湾曲摺動板片81が平面視方形凹所83に嵌合固定されているために、斯かる効果をよりよく得ることができる。
【0046】
更に上記では、湾曲摺動板片26の円弧状凹面23及び円弧状凸面24において、角度0°から角度50°を超えない角度範囲66でラックバー10の円弧状外周面9に全体的に接し、角度50°を超える角度範囲67でラックバー10の円弧状外周面9に当該円弧状外周面9に接することなしに隙間を有するように円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62とを中心線65に関して対称に形成し、円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64との夫々を対応の円弧状凹面61と一対の円弧状凹面62との夫々の曲率半径よりも大きな曲率半径の相似形状をもって中心線65に関して対称に形成し、円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64とぴったりと密接するように、当該円弧状凸面63と一対の円弧状凸面64との形状に相補的な形状をもった円弧凹面71と一対の円弧状凹面72とをもってラックガイド基体22の円弧凹面18を形成したが、これに代えて、図12に示すように、二つの円弧状凹面85及び86を具備して湾曲摺動板片26の円弧状凹面23を形成し、円弧状凹面85及び86でラックバー10の円弧状外周面9に部分的に摺動自在に摺接してラックバー10を軸方向Aに移動自在に支持し、二つの円弧状凹面85及び86を具備した円弧状凹面23の裏側の面(背面)である湾曲摺動板片26の円弧状凸面24もまた二つの円弧状凸面87及び88を具備して形成してもよい。
【0047】
図12に示す湾曲摺動板片26において、円弧状凹面85は、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1を通る中心線65の角度方向の一方側において0°から90°までの角度範囲89内の部位、本例では、角度45°の部位90でラックバー10の円弧状外周面9に外接するように、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1に対して偏心した曲率半径O2を有すると共にラックバー10の円弧状外周面9の曲率半径よりも大きな曲率半径をもっており、円弧状凹面86は、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1を通る中心線65の角度方向の他方側において0°から90°までの角度範囲91内の部位、本例では、角度α=45°の部位92でラックバー10の円弧状外周面9に外接するように、ラックバー10の円弧状外周面9の曲率中心O1に対して偏心した曲率中心O3を有すると共にラックバー10の曲率半径よりも大きな曲率半径であって、円弧状凹面部85の曲率半径と同一の曲率半径をもっており、二つの円弧状凹面85及び86は、中心線65に関して対称に形成されており、二つの円弧状凸面87及び88の夫々は、好ましくは、対応の二つの円弧状凹面85及び86の夫々の曲率半径よりも大きな曲率半径の相似形状をもっており、この場合、図12に示すように、ラックガイド基体22の円弧凹面18は、湾曲摺動板片26の二つの円弧状凸面87及び88にぴったりと密接するように、当該二つの円弧状凸面87及び88の形状に相補的な形状をもった二つの円弧凹面93及び94をもって形成されるとよい。
【0048】
図12に示す例によれば、湾曲摺動板片26をラックガイド基体22に長期にわたって同じくしっかりと保持でき、部位90及び92での湾曲摺動板片26へのラックバー10の線接触又は狭帯状接触を初期設定の状態のまま長期にわたって維持できる上記の効果と相俟って、湾曲摺動板片26へのラックバー10の部位90及び92での線接触又は部位90及び92を含む部位90及び92の近傍における狭帯状接触の結果、ラックバー10と湾曲摺動板片26との摺動摩擦抵抗を大幅に低減し得る。
【符号の説明】
【0049】
9 円弧状外周面
10 ラックバー
11 ラックガイド
17 端面
18 円弧凹面
19 端面
20 中空凹所
21 貫通円孔
22 ラックガイド基体
23 円弧状凹面
24 円弧状凸面
25 突出部
26 湾曲摺動板片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端面に設けられた円弧凹面、他方の端面に設けられた中空凹所及び一端では円弧凹面の中央部で開口する一方、他端では該中空凹所で開口する貫通円孔を夫々具備している合成樹脂製のラックガイド基体と、ラックバーの円弧状外周面を摺動自在に支持する円弧状凹面、ラックガイド基体の該円弧凹面に密に接触する円弧状凸面、該円弧状凹面で開口する一方、該中空凹所に対して閉鎖された内部を有すると共に該円弧状凸面に一体的に設けられている円筒状の突出部を夫々具備した湾曲摺動板片とを具備しており、突出部は、一端で円弧状凸面に一体的に設けられた円筒部と、この円筒部の他端に配された閉塞底部と、一方では、円筒部に一体的に設けられており、他方では、閉塞底部に一体的に設けられていると共に径方向外方に広がった膨出部とを具備しており、該湾曲摺動板片は、該円筒部を貫通円孔に圧入嵌合すると共に該膨出部を貫通円孔の他端の周りでラックガイド基体に圧接して、当該ラックガイド基体に固着されていることを特徴とするラックガイド。
【請求項2】
膨出部は、湾曲摺動板片のラックガイド基体への固着における閉塞底部の円形外縁のかしめにより形成されている請求項1に記載のラックガイド。
【請求項3】
湾曲摺動板片は、裏金と、該裏金の表面に一体的に被着形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙を充填して該焼結層の表面に被覆された合成樹脂層とを具備しており、円弧状凹面は、合成樹脂層の露出面からなる請求項1又は2に記載のラックガイド。
【請求項4】
円弧凹面は、平面視略楕円形をなしている請求項1から3のいずれか一項に記載のラックガイド。
【請求項5】
湾曲摺動板片は、平面視略楕円形をなしていると共に平面視略楕円形をなす円弧凹面に配されている請求項4に記載のラックガイド。
【請求項6】
ラックガイド基体は、その一方の端面に、一対の平面視略半楕円形凹面と、該一対の平面視略半楕円形凹面に挟まれていると共に円弧凹面が形成されている平面視方形凹所とを具備している請求項1から3のいずれか一項に記載のラックガイド。
【請求項7】
湾曲摺動板片は、平面視方形をなしていると共に平面視方形凹所に嵌合固定されている請求項6に記載のラックガイド。
【請求項8】
湾曲摺動板片の円弧状凹面は、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を通る中心線から角度方向の両側において角度0°から50°を超えない角度範囲では、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を有すると共にラックバーの円弧状外周面と実質的に同一の曲率半径を有してラックバーの円弧状外周面に接する一方、角度50°を超える角度範囲では、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心に対して偏心した曲率中心を有すると共にラックバーの円弧状外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径を有してラックバーの円弧状外周面に隙間をもっており、前記中心線に関して対称な二つの円弧凹面からなっている請求項1から7のいずれか一項に記載のラックガイド。
【請求項9】
湾曲摺動板片の円弧状凹面は、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心を通る中心線の両側において0°から90°までの角度範囲内の二部位で夫々ラックバーの円弧状外周面に接し、ラックバーの円弧状外周面の曲率中心に対して偏心した曲率中心をもつと共にラックバーの円弧状外周面の曲率半径よりも大きな曲率半径をもった前記中心線に関して対称な二つの円弧状凹面からなる請求項1から7のいずれか一項に記載のラックガイド。
【請求項10】
角度範囲は、30°から60°又は30°から45°である請求項9に記載のラックガイド。
【請求項11】
ラックガイド基体は、強化充填材としてガラス繊維、炭素繊維、ガラス粉末のうちの少なくとも一つの無機物質を30〜50質量%含有する熱可塑性合成樹脂からなる請求項1から10のいずれか一項に記載のラックガイド。
【請求項12】
熱可塑性合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂及びポリフェニレンサルファイド樹脂から選択される請求項11に記載のラックガイド。
【請求項13】
中空部を有するギヤケースと、このギヤケースの中空部に回転自在に配されていると共に操舵により回転されるピニオンと、このピニオンに噛合うラック歯を有するラックバーと、ギヤケースの中空部に移動自在に配されていると共にラックバーを移動自在に案内支持する請求項1から12のいずれか一項に記載のラックガイドと、ギヤケースの中空部に配されていると共にラックガイドを介してラックバーのラック歯をピニオンに弾性的に押圧する弾性手段とを具備したラックピニオン式舵取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−28285(P2013−28285A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165933(P2011−165933)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)