説明

ラックピニオン式ステアリング装置

【課題】 ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用した場合でも、ラックガイドのギアケースの円筒部の内周面への衝突による衝突音及びラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音の発生を極力小さくすることを可能とし、運転者に不快感を与えることのないラックピニオン式ステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 ラックピニオン式ステアリング装置Sは、円筒部20及び中空部21を有したアルミニウム合金製のギヤケース22と、ギヤケース22に転がり軸受23及び24を介して回転自在に支承されたステアリング軸25と、中空部21に配されて、ステアリング軸25の軸端部に一体に設けられたピニオン26と、ピニオン26に噛合するラック歯27を有するラックバー28と、ギヤケース22の中空部21に配されて、ラックバー28を摺動支持するラックガイド29と、ラックガイド29をラックバー28に向かって押圧するコイルばね30と、ギヤケース22の円筒部20の開口部を閉塞する蓋部材32とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルの回転動作に連動してピニオンを回転させ、該ピニオンと噛合するラック歯を有したラックバーを往復移動させて操舵を行うようにした、自動車等の車両に用いられるラックピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のラックピニオン式ステアリング装置は、図9に示すように、ギヤケース1と、このギヤケース1にピニオン軸2を介して回転自在に支持されたピニオン3と、このピニオン3に噛合うラック歯4が形成されたラックバー5と、ギヤケース1内に配されて、ラックバー5を摺動自在に支持するラックガイド6と、このラックガイド6をラックバー5に向って押圧するコイルばね7と、ギヤケース1の開口部を閉塞する蓋部材8とを具備している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
斯かるラックピニオン式ステアリング装置においては、ハンドルの回転操作と連動してラックバー5の往復移動を円滑に行わせるべく、鉄系焼結金属あるいは合成樹脂からなるラックガイド6が用いられている。
【0004】
鉄系焼結金属からなるラックガイド6は、ラックバー5からの荷重に対して十分な機械的強度を有する反面、ラックバー5との間の摺動摩擦抵抗が大きいためステアリング系の効率が低下し操舵性に問題を残している。
【0005】
また、合成樹脂からなるラックガイド6は、ラックバー5との間の摺動摩擦抵抗を低減させることができる反面、機械的強度に劣ること、成形収縮などによる寸法のバラツキを生じて寸法精度よく成形し難い上に、成形後の寸法精度を保持し難いこと、さらには、ギヤケース1内に組込まれた後、温度上昇による温度の影響を受けて熱膨張、収縮を来し、熱変形、クリープを生じてラックバー5を長期に亘って円滑に支承し難い、などの問題がある。
【0006】
上記した問題点に鑑み、自己潤滑性を有する合成樹脂あるいは合成樹脂層を具備した複合部材を使用して摺動片9を形成し、斯かる摺動片9を図10及び図11に示すようにラックバー5を支承する摺動面側に配して、この摺動片9と鉄系焼結金属あるいはアルミニウム合金からなるラックガイド基体10とを組合せてラックガイド6としたものが提案されている。
【0007】
図10及び図11に示すラックガイド6は、ハンドルの回転操作と連動してラックバー5の往復移動を円滑に行わせることができることから、近年においては賞用されている。
【0008】
ところで、上記のいずれのラックガイド6でも、ギヤケース1の円筒部11内でのラックガイド6の摺動機能を確保する必要上、ラックガイド6の外周面12とギヤケース1の円筒部11の内周面13との間に20〜50μm程度の摺動隙間(クリアランス)が設けられる。
【0009】
しかしながら、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが比較的小さい場合には、斯かる摺動隙間(クリアランス)に起因して次のような問題が発生することが確認された。すなわち、ピニオン3とラック歯4との噛合で生じる歯のねじれやラックバー5両端の車輪からの作用によりラックガイド6にラジアル方向の負荷が作用すると、ラックガイド6が該ラックガイド6をラックバー5に向って押圧するコイルばね7との接触部位を支点として大きく回転(首振り)し、その際にラックガイド6がギヤケース1の円筒部11の内周面13に衝突して衝突音を発生すること、またラックガイド6の大きな回転により、ラックバー5のラック歯4がピニオン3から離れ、ラックガイド6が当該ラックガイド6の底面14と蓋部材8との間の隙間分だけ移動し、ラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯面間に隙間を生じ、ラックガイド6への負荷方向が逆転する時に、コイルばね7のばね力によってラックバー5が元の位置に戻され、その際にラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯とが衝突して衝突音を発生すること、などである。
【0010】
上記したラックガイド6がギヤケース1の円筒部11の内周面13に衝突して発生する衝突音及びラックバー5のラック歯4とピニオン3の歯とが衝突して発生する衝突音は、自動車を運転する者に不快感を与えることになる。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用した場合でも、ラックガイドのギアケースの円筒部の内周面への衝突による衝突音及びラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音の発生を極力小さくすることを可能とし、運転者に不快感を与えることのないラックピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様のラックピニオン式ステアリング装置は、ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛合するラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支承するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとを具備しており、ここで、ラックガイドは、ラックバーの外周面に摺動自在に当接してラックバーを摺動自在に支持する凹面と、該凹面を挟んで相対向する立壁部とを有しており、ラックガイドの外周面は、ギヤケースの筒状の内周面に摺動自在に接するようになっており、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dは0.6以上であることを特徴とする。
【0013】
第一の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、外周面でギヤケースの筒状の内周面に摺動自在に接するようになっているラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが0.6以上であるので、ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用してラックガイドが該ラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとの接触部位を支点として回転(首振り)しても、その回転角度(首振り角度)を小さくすることができるので、衝突音の発生を極力小さくすることができる。
【0014】
また、ラックガイドの回転角度(首振り角度)を小さくして、ラックバーから離れる方向のラックガイドの移動量(沈み込み量)を小さくすることができるので、ラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音を極力小さくすることができ、運転者に不快感を与えることはない。
【0015】
なお、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dが0.6よりも小さい場合には、上記効果が生じ難いことが確かめられた。
【0016】
ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dは、好ましい例では、本発明の第二の態様の装置のように、0.7以上であり、また回転角度(首振り角度)をより小さくする観点からは、比H/Dは、大きければ大きいほど好ましいのであるが、装置の小型化の観点等から、好ましくは、本発明の第三の態様の装置のように、2.0以下であり、より好ましくは、本発明の第四の態様の装置のように、1.5以下である。
【0017】
本発明の第五の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第四のいずれかの態様の装置において、 ラックガイドの立壁部の夫々は、少なくともラックバーの軸心を通ると共にラックガイドの摺動方向に直交する平面の部位まで延設されている。
【0018】
第五の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、ラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとの接触部位を支点とするラックガイドの回転(首振り)を生じ難くできる。
【0019】
本発明の第六の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第五のいずれかの態様のその装置において、ラックガイドは、ギヤケースの筒状の内周面の両端間に位置している。
【0020】
第六の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの上記の特定の比H/Dによる効果を更に確実に得ることができる。
【0021】
本発明の第七の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第一から第六のいずれかの態様のその装置において、ラックガイドは、一方の端部に凹面座を有するラックガイド基体と、このラックガイド基体の凹面座に嵌着された摺動片とを具備しており、ラックバーを摺動自在に支持する凹面は、摺動片に設けられており、立壁部は、ラックガイド基体に設けられている。
【0022】
斯かる第七の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、摺動片はラックガイド基体の凹面座に嵌着されて、その耐圧強度が高められているので、ラックバーを長期に亘って円滑に支承でき、ラックバーの外周面との摺動においては摩擦抵抗が大幅に低減され、ラックバーの往復移動を円滑に行わせることができる。
【0023】
本発明の第八の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七の態様のその装置において、ラックガイド基体はアルミニウム合金又は鉄系焼結金属から形成されている。
【0024】
第八の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、特に、アルミニウム合金は、軽量であること、加工が容易であることに加えて安価であることから、ラックガイド自体の大幅なコストダウンを図ることができる。
【0025】
本発明の第九の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七又は第八の態様のその装置において、摺動片は、薄鋼板と該薄鋼板上に一体に被着形成された多孔質金属焼結層と該金属焼結層に含浸被覆されていると共に自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂層とからなり、合成樹脂層は、ラックバーを摺動自在に支持する凹面を形成している。
【0026】
第九の態様のラックピニオン式ステアリング装置によれば、摺動片に設けられた凹面は、自己潤滑性及び耐摩耗性を有した合成樹脂層で形成されているので、ラックバーの外周面との摺動においては摩擦抵抗が大幅に低減され、ラックバーの往復移動を更に円滑に行わせることができ、しかも、合成樹脂層に摩耗が生じた場合でも、凹面には多孔質金属焼結層中に含浸された合成樹脂が露出するため、摺動摩擦抵抗の低減は長期に亘って維持される。
【0027】
多孔質金属焼結層に含浸被覆される合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はこれに鉛、ポリイミド樹脂などの充填材を含有したポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂又はこれに潤滑油剤を含有させた含油ポリアセタール樹脂等の自己潤滑性、耐摩耗性に優れた合成樹脂を使用し得る。
【0028】
本発明の第十の態様のラックピニオン式ステアリング装置では、第七又は第八の態様の装置において、摺動片は、ラックガイド基体の凹面座に着座する凸面及びラックバーを摺動自在に支持する凹面の夫々が自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂からなる。
【0029】
第十の態様のラックピニオン式ステアリング装置において、合成樹脂としては、例えば、ポリアセタール樹脂又はこれに潤滑油剤を含有させた含油ポリアセタール樹脂等の自己潤滑性、耐摩耗性に優れた合成樹脂を挙げることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ラックガイドにラジアル方向の負荷が作用した場合でも、ラックガイドのギアケースの円筒部内周面への衝突による衝突音及びラックバーのラック歯とピニオンの歯との衝突による衝突音の発生を極力小さくすることを可能とし、運転者に不快感を与えることのないラックピニオン式ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明のラックピニオン式ステアリング装置の好ましい実施の態様の一例の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す例のラックガイドの平面図である。
【図3】図3は、図2に示す例のラックガイドのIII−III線矢視断面図である。
【図4】図4は、図2に示す例のラックガイドのIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図5は、ラックガイドの他の態様の断面図である。
【図6】図6は、ラックガイドの他の態様の平面図である。
【図7】図7は、摺動片の他の態様の断面図である。
【図8】図8は、図7に示す摺動片の背面図である。
【図9】図9は、従来技術のラックピニオン式ステアリング装置を示す断面図である。
【図10】図10は、他の従来技術のラックピニオン式ステアリング装置を示す断面図である。
【図11】図11は、図10に示す従来技術のラックガイドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明及びその実施の形態の例を、図を参照して更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0033】
図1から図4において、本例のラックピニオン式ステアリング装置Sは、円筒部20及び中空部21を有したアルミニウム合金製のギヤケース22と、ギヤケース22に転がり軸受23及び24を介して回転自在に支承されたステアリング軸25と、中空部21に配されて、ステアリング軸25の軸端部(ピニオン軸)に一体に設けられたピニオン26と、ピニオン26に噛合するラック歯27を有するラックバー28と、ギヤケース22の中空部21に配されて、ラックバー28を摺動支持するラックガイド29と、ラックガイド29をラックバー28に向かって押圧するコイルばね30と、ギヤケース22の円筒部20の開口部を閉塞する蓋部材32とを具備している。
【0034】
ラックバー28は、ステアリング軸25の軸心に対して直角な方向においてギヤケース22を貫通して当該直角な方向に移動自在に配されており、ラック歯27が形成された面に対向する裏面側に円弧状の外周面34を有している。
【0035】
ラックガイド29は、アルミニウム合金からなるラックガイド基体35と、摺動片36とを具備している。
【0036】
ラックガイド基体35は、円筒部20の円筒状の内周面41に摺動自在に接するようになった円筒状の外周面42と、一方の端部に配されている円弧状の凹面座43と、凹面座43を挟んで相対向して一方の端部に配されている立壁部44、44と、該凹面座43の底部周縁に該凹面座43に沿って相対向して形成された突条部45、45と、他方の端部に配されている凹部46と、他方の端部に配されていると共に、凹部46に連通して凹面座43に開口する貫通円孔47とを有している。
【0037】
薄鋼板と該薄鋼板上に一体に被着形成された多孔質金属焼結層と該金属焼結層に含浸被覆されていると共に自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂層とからなる摺動片36は、ラックバー28の外周面34に摺動自在に当接してラックバー28を摺動自在に支持すると共に、合成樹脂層によって形成された円弧状の凹面51と、補強部としての先端閉塞部52が一体に形成された中空の円筒状の突起部53とを有しており、当該突起部53が貫通円孔47に嵌着されて、円弧状の凹面座43に密に着座するようにラックガイド基体35に当該突起部53を介して固着されている。
【0038】
該円弧状の凹面座43に固着された摺動片36は、その底部側が円弧状の凹面座43の底部周縁に形成された突条部45、45によって該円弧状の凹面座43上で回転しないように拘束されている。
【0039】
ラックガイド29は、円筒部20の内周面41の環状の両端48及び49間に位置して、而してその全体がギヤケース22の円筒部20内に該円筒部20の内周面41との間に摺動隙間を保持して配され、ラックガイド基体35の凹部46において一端がラックガイド基体35に当接し、他端がギヤケース22の円筒部20の端部に螺合固定され、該円筒部20の開口部を閉塞する蓋部材32に当接して配されたコイルばね30によって、ラックガイド基体35を介して摺動片36をラックバー28に向かって押圧するようになっている。
【0040】
円筒部20の内周面41との間に摺動隙間を保持して全体がギヤケース22の円筒部20内に配されたラックガイド基体35を有した以上のラックガイド29において、ラックガイド基体35の一方の端部に形成された円弧状の凹面座43を挟んで相対向する立壁部44、44の夫々は、ラックガイド29の円弧状の凹面座43に嵌着された摺動片36に摺動自在に支承されたラックバー28の軸心Oを通ると共に、ラックガイド29の摺動方向に直交する平面Aの部位まで延設されており、ラックガイド29の高さHとラックガイド22の外径Dとの比H/D、本例では、ラックガイド基体35の高さHとラックガイド基体35の外径Dとの比H/Dは、略0.8である。
【0041】
ラックガイド29は、ステアリング軸25の回転において、ラック歯27のピニオン26への噛合を確保して、しかも、当該噛合によるステアリング軸25の軸心に対して直角な方向のラックバー28の移動を案内する。
【0042】
そして、ラックピニオン式ステアリング装置Sによれば、ラックガイド基体35の高さHとラックガイド基体35の外径Dとの比H/Dが略0.8であるので、ラックガイド29にラジアル方向の負荷が作用してラックガイド29が該ラックガイド29をラックバー28に向って押圧するコイルばね30との接触部位を支点として回転(首振り)しても、その回転角度(首振り角度)を小さくすることができ、衝突音の発生を極力小さくすることができる。
【0043】
また、ラックガイド29の回転角度(首振り角度)を小さくし、ラックガイド29の蓋部材32側への移動量(沈み込み量)を小さくすることができるので、ラックバー28のラック歯27とピニオン26の歯との衝突による衝突音を極力小さくすることができ、しかも、これら衝突音の発生を極力少なくすることができるので、運転者に不快感を与えることはない。
【0044】
更に、ラックピニオン式ステアリング装置Sによれば、円弧状の凹面座43に湾曲状の摺動片36を固着したラックガイド基体35の立壁部44、44がそれぞれ湾曲状の摺動片36に摺動自在に支承されたラックバー28の軸心Oを含む平面Aの部位まで延設されているので、ラックガイド22をラックバー28に向って押圧するコイルばね30との接触部位を支点とするラックガイド22の回転(首振り)を生じ難くできる。
【0045】
図5は、湾曲状の摺動片36の他の実施例を示すもので、摺動片36は、二つの円弧状の凹面61及び62からなる円弧状の凹面63を具備しており、円弧状凹面61及び62でラックバー28の円弧状の外周面34に部分的に摺動自在に接してラックバー28を摺動自在に支承している。二つの円弧状の凹面61及び62からなる円弧状凹面63の裏側の面である摺動片36の円弧状の凸面64及び65はラックガイド基体35の円弧状の凹面座43に密に接触している。
【0046】
円弧状の凹面61は、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率中心Oを通る中心線66の一方側における角度範囲α°(但し、0°<α°<90°)内の部位で、本例では、角度α1°=40°の部位67でラックバー28の円弧状の外周面34に外接し、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率中心Oに対して偏心した曲率中心O1をもつと共に、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率半径よりも大きな曲率半径をもった円弧状凹面からなり、円弧状の凹面62は、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率中心Oを通る中心線66の他方側における角度範囲α°(但し、0°<α°<90°)内の部位で、本例では、角度α1°=40°の部位68でラックバー28の円弧状の外周面34に外接し、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率中心Oに対して偏心した曲率中心O2をもつと共に、ラックバー28の円弧状の外周面34の曲率半径よりも大きな曲率半径であって、円弧状凹面61の曲率半径と同一の曲率半径をもった円弧状凹面からなり、二つの円弧状凹面61及び62は、中心線66に関して対称に形成されている。
【0047】
このように二つの円弧状凹面61及び62からなる円弧状凹面63を具備する摺動片36は、ラックバー28の円弧状の外周面34との摺接が線または狭い帯状接触となるため、ラックバー28との摺動摩擦抵抗をより小さくすることができる。
【0048】
図6は、湾曲状の摺動片36の他の実施例を示すもので、摺動片36を短冊状に形成したものである。この短冊状の摺動片36を、薄鋼板と該薄鋼板上に一体に被着形成された多孔質金属焼結層と該金属焼結層に含浸被覆された合成樹脂層とからなる複層材料で形成する場合において、材料歩留まりの点で有効である。
【0049】
図7及び図8は、ラックガイド基体35の凹面座43に着座する凸面71及びラックバー28を摺動自在に支持する円弧状の凹面72の夫々が自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂からなる湾曲状の摺動片36を示すもので、摺動片36の凸面71には、方形状の中空部73を規定し、相対向する平面部74、74と該平面部74、74の端部に相対向する凸曲面部75、75とを有する係合突出部76が一体に形成されている。この摺動片36を使用したラックガイド29においては、ラックガイド基体35に該係合突出部76に相補的な形状の貫通孔が設けられる。
【0050】
上記図6並びに図7及び図8に示した湾曲状の摺動片36においても、その円弧状の凹面51及び72を前記図5に示す二つの円弧状の凹面61及び62からなる円弧状凹面63としてもよい。また、上記の好ましい例では、立壁部44、44の夫々を平面Aの部位まで延設したが、これに代えて、平面Aの部位以上に立壁部44、44の夫々を延設してもよい。
【符号の説明】
【0051】
S ラックピニオン式ステアリング装置
22 ギヤケース
26 ピニオン
27 ラック歯
28 ラックバー
29 ラックガイド
30 コイルばね
41 内周面
42 外周面
44 立壁部
51、63、72 凹面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤケースと、このギヤケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛合するラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支承するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向って押圧するばねとを具備しており、ラックガイドは、ラックバーの外周面に摺動自在に当接してラックバーを摺動自在に支持する凹面と、該凹面を挟んで相対向する立壁部とを有しており、ラックガイドの外周面は、ギヤケースの筒状の内周面に摺動自在に接するようになっており、ラックガイドの高さHとラックガイドの外径Dとの比H/Dは0.6以上であることを特徴とするラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
比H/Dが0.7以上である請求項1に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
比H/Dが2.0以下である請求項1又は2に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
比H/Dが1.5以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
ラックガイドの立壁部の夫々は、少なくともラックバーの軸心を通ると共にラックガイドの摺動方向に直交する平面の部位まで延設されている請求項1から4のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項6】
ラックガイドは、ギヤケースの筒状の内周面の両端間に位置している請求項1から5のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項7】
ラックガイドは、一方の端部に凹面座を有するラックガイド基体と、このラックガイド基体の凹面座に嵌着された摺動片とを具備しており、ラックバーを摺動自在に支持する凹面は、摺動片に設けられており、立壁部は、ラックガイド基体に設けられている請求項1から6のいずれか一項に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項8】
ラックガイド基体は、アルミニウム合金又は鉄系焼結金属からなる請求項7に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項9】
摺動片は、薄鋼板と該薄鋼板上に一体に被着形成された多孔質金属焼結層と該金属焼結層に含浸被覆されていると共に自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂層とからなり、合成樹脂層は、ラックバーを摺動自在に支持する凹面を形成している請求項7又は8に記載のラックピニオン式ステアリング装置。
【請求項10】
摺動片は、ラックガイド基体の凹面座に着座する凸面及びラックバーを摺動自在に支持する凹面の夫々が自己潤滑性及び耐摩耗性を有する合成樹脂からなる請求項7又は8に記載のラックピニオン式ステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−17102(P2012−17102A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195503(P2011−195503)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【分割の表示】特願2000−399540(P2000−399540)の分割
【原出願日】平成12年12月27日(2000.12.27)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】