説明

ラッチ装置

【課題】従来対策に比べ、特に無理抜き荷重を用途に応じた大きさに確実・的確に変更できるようにする。
【解決手段】カム溝付きの摺動体2と、摺動体をケース1から突出する方向へ付勢するばね部材4と、摺動体に枢支されて先端爪32を摺動体内から突出して被係脱部材7を係止する係止状態と摺動体内に退避する係止解除状態とに切換可能な係合体3と、トレース部材5とを備え、摺動体がばね部材の付勢力に抗し移動されると移動後の位置にカム溝及びトレース部材を介し係止され、係合体3が係止解除状態から係止状態に切り換えられるラッチ装置において、摺動体2に揺動可能に枢支され、係合体が被係脱部材を係止している係止状態で、被係脱部材の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに係合体の揺動抵抗となって付勢力を蓄積可能な無理抜き荷重増大用の係止補強体6を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材(例えば、本体や基体)に対し第2部材(例えば、蓋や扉などの可動体)を着脱可能に係止するようなときに用いられるラッチ装置のうち、特に最初の押し操作により第2部材側のストライカーを係止し、次の押し操作により係止解除するプッシュ式(これはプッシュ・プッシュ式、プッシュロック・プッシュオープン式、オルタネート式などと称されることもある。以下、同じ)に好適なラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は特許文献1に開示のプッシュ式のラッチ装置を示している。この構造では、ケース2と、ケース内に配置されてばね部材45の付勢力に抗して押圧移動される突当部32及びカム溝5などを有した摺動体30と、先端側爪部39及び後端側凸部38cを有して摺動体30に枢支された係合体37と、トレース部材6とを備えている。ここで、係合体37は、摺動体30の軸穴に対し両側の軸部37aを嵌合枢支され、摺動体30の移動により、爪部39を突当部32上に突出して被係脱部材であるストライカー62を係止する同(b)の係止状態と、爪部39を突当部32上から退行する同(a)の係止解除状態とに切り換えられる。係止解除状態では、摺動体30がばね部材45の付勢力でケース入口側に移動され、係合体37がケース2内に設けられた張出部28に凸部38cを乗り上げることでその状態を保つ。係止状態では、摺動体30がストライカー62の押し力でばね部材45の付勢力に抗して奥側に移動され、該移動後の位置にカム溝5及びトレース部材6の係合を介し係止され、係合体37が凸部38cを張出部28から低くなった部分に移動し、かつ傾動して爪部39を摺動体側の開口33内から突出する。
【0003】
換言すると、以上のラッチ装置は、摺動体30に対するストライカー62の押し力により係合体37を係止解除状態から係止状態に切り換え、摺動体30に対するストライカー62の次の押し力により係止状態から係止解除状態に切り換える。その際、ばね部材45は、上側が係合体37の下中間に設けられた突片部に係止されており、摺動体30が奥へ押圧移動される過程で付勢力を蓄積しながら、係合体37を軸部37aを支点として同図の逆時計回りへ回転し係止解除状態から係止方向へ切換可能とする。
【0004】
使用例としては、本体側にラッチ装置を取り付け、扉側にストライカー62を設けた場合だと、図10(b)が扉を本体に係止(ロック)した状態となり、扉側のストライカー62が本体側のラッチ装置を構成している係合体37により係止される。この係止は、扉が再び本体側へ押されると、トレース部材6がカム溝5の係止溝から外れて同(a)のごとく係止解除される。このような構造は特許文献2や3のラッチ装置でも同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4545711号公報
【特許文献2】特開2008−208684号公報
【特許文献3】特開2010−106478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したラッチ装置では、例えば、扉を閉じた係止状態において、扉を本体から離間する方向の外力が作用すると、係合体37がストライカー62の引き抜き方向の応力を受けて摺動体側開口33を区画している枠部の内面に圧接される。この構造では、そのときに生じる摩擦力により係合体37とストライカー62との間に所定の係止力、つまり係止状態を維持しようとする力(無理抜き荷重)が得られるようにし、扉が不用意に開くという事態を防止している。
【0007】
ところが、そのような無理抜き荷重は、係合体側爪部39と開口33とが接する面同士の表面粗さやヒケ度合いなどの外的要因に左右されて一定に維持し難かった。また、従来構造では、無理抜き荷重を高くするため係合体側爪部39の形状にアンダーカット段差やを設けると、爪部39が開口33側に引っかかるなど通常時の正常な作動が損なわれ易くなる。なお、扉に対し無理抜き荷重より大きな外力が作用した場合は、係合体37が爪部39を突当部32上から退行するよう回転、つまり係止状態から係止解除方向に切り換えられるが、カム溝やトレース部材の破壊要因となる。
【0008】
以上のような対策として、本出願人は特許文献2や3に開示されている構成などを開発してきた。本発明の目的は、それらの対策に比べ、特に無理抜き荷重を高くしたり用途に応じた大きさに確実かつ的確に変更可能にして、設計自由度を向上し用途拡大を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、図面を参照して特定すると、ケース1と、前記ケースに配置されたカム溝付きの摺動体2と、前記摺動体を前記ケースから突出する方向へ付勢するばね部材4と、前記摺動体に枢支され先端側爪32を摺動体内から突出して被係脱部材7を係止する係止状態と摺動体内に退避する係止解除状態とに切換可能な係合体3と、前記カム溝を動くトレース部材5とを備え、前記摺動体2が前記ばね部材4の付勢力に抗し移動されると移動後の位置に前記カム溝及びトレース部材を介し係止され、かつ前記係合体3が係止解除状態から係止状態に切り換えられるラッチ装置において、前記摺動体2に揺動可能に枢支されて、前記係合体3が前記被係脱部材7を係止している係止状態で、前記被係脱部材7の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに該係合体の揺動抵抗となって付勢力を蓄積可能な無理抜き荷重増大用の係止補強体6を有していることを特徴としている。なお、以上の係止補強体6は、例えば、上記した蓄えた付勢力を図9に例示するごとく摺動体2のばね部材4の付勢力に抗した動きに伴って解放可能となる。
【0010】
以上の本発明は、請求項2〜6のように具体化されることがより好ましい。すなわち、
(ア)前記係止補強体6は、前記係合体に圧接して付勢力を蓄積可能な弾性片部6cを有している構成である(請求項2)。
(イ)前記係止補強体6及び前記摺動体2は、一方に設けられた凸部21eと、他方に設けられた凹部6bとを有し、前記係合体3が係止状態から係止解除状態に切り換えられる過程で、前記凸部と凹部とが着脱可能に嵌合して前記係止補強体の揺動を規制する構成である(請求項3)。
(ウ)前記係止補強体6は、幅方向の両側に設けられた突起部6dを有し、前記突起部が前記係合体側に設けられた位置決め部33に嵌合した状態に組み付けられる構成である(請求項4)。
【0011】
(エ)前記係合体3は、背面側に設けられた凹所34を有し、前記弾性片部6cが前記凹所内に圧接変形可能に配置されている構成である(請求項5)。
(オ)前記摺動体2及び前記係合体3は、一方に設けられた長穴29と、他方に設けられた軸部35とを有し、前記係合体が前記摺動体に対し前記軸部を前記長穴に移動可能に嵌合した状態に枢支されており、前記係合体が前記被係脱部材の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに前記軸部35が前記長穴29内で移動する構成である(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、係合体が被係脱部材を係止した(トレース部材がカム溝に係止された)係止状態で、図7に示されるごとく被係脱部材を介して無理抜き方向に一定値以上の負荷を受けると、係合体が図8に示されるごとく係止解除方向に回転しようとし、その際に係止補強体の弾性ないしは付勢力に抗し、つまり係止補強体の弾性力ないは付勢力を蓄えつつ回転して被係脱部材を係止解除する。
【0013】
このため、本発明では、係止補強体が図7及び図8の無理抜き時に弾性的に撓んで係合体の揺動抵抗として作用し、また、無理抜きを伴わない通常の作動時だと図5及び図6から推察されるごとく係止補強体が撓まないため係止補強体のないときと同様スムーズに作動する。これにより、本発明では、係止補強体又はその一部を変更することで無理抜き荷重を高くしたり用途に応じて確実かつ的確に変更でき、その結果、設計自由度を向上し用途拡大に寄与できる。
【0014】
請求項2の発明では、係止補強体が係合体に圧接する弾性片部を有しているため、例えば弾性片部の太さ、長さ、傾きなどを変更するだけで、用途に応じた大きさの無理抜き荷重を容易に設定可能となる。
【0015】
請求項3の発明では、図8に示されるごとく係合体が係止状態から係止解除状態に切り換えられる途中で、摺動体との間に設けられた凸部と凹部とが嵌合することにより係止補強体の揺動を規制して対応部を撓み易くしたり弾性力を効率よく得られるようにする。
【0016】
請求項4の発明では、係止補強体が幅方向の両側に設けられた突起部を有し、各突起部が係合体側に設けられた位置決め部に嵌合していると、摺動体に枢支された状態で係止補強体の係合体に対する正確な位置関係を保ち、それにより対応部を常に同じ値だけ撓ませたり弾性力を得られるようにする。
【0017】
請求項5の発明では、係止補強体の弾性片部が係合体の凹所に配置されているため弾性片部の配置空間を確保し易く、かつ安定した圧接変形も得られるようにする。
【0018】
請求項6の発明では、係合体が摺動体に対し軸部を長穴に移動可能に嵌合した状態に枢支され、係合体が被係脱部材の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに軸部が長穴内で移動するため、例えば、無理抜きに伴う過剰の負荷を緩和したり緩衝音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】形態のラッチ装置及びストライカーの関係を示し、(a)はストライカーを係止解除した状態で前方より見た概略図、(b)はストライカーを係止した状態で後方より見た概略図である。
【図2】上記ラッチ装置を分解した概略的な構成図である。
【図3】(a)は上記ラッチ装置の要部を拡大して示す斜視図、(b)は係止補強体の単品図である。
【図4】上記ラッチ装置の使用例を示し、(a)は図1(a)に対応した側面図、(b)は図1(b)に対応した側面図である。
【図5】上記ラッチ装置を図4(a)に対応した状態で示し、(a)は模式縦断面図、(b)はトレース部材とカム溝との模式関係図である。
【図6】上記ラッチ装置を図4(b)に対応した状態で示し、(a)は模式縦断面図、(b)はトレース部材とカム溝との模式関係図である。
【図7】上記ラッチ装置の無理抜き作動を模式的に示し、(a)はストライカーを係止した状態での要部拡大図、(b)は無理抜きを説明するための要部拡大図である。
【図8】(a)上記ラッチ装置の無理抜き初期態様図、(b)は無理抜き最終態様図である。
【図9】(a)と(b)は上記ラッチ装置を無理抜き後に初期態様に復帰させる際の操作を示し、(c)はトレース部材とカム溝との模式関係図である。
【図10】(a),(b)は特許文献1のラッチ装置を係止解除状態及び係止状態で示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。図1〜図3はラッチ装置の構造を示し、図4はラッチ装置の使用例を示し、図5〜図9はラッチ装置の作動を示している。なお、図面では作図上の制約から細部を模式化したり簡略化ている。以下の説明では、装置構造、組立要領を明らかにした後、作動について詳述する。
【0021】
(装置構造)図1〜図4に開示のラッチ装置は、偏平容器状のケース1と、被係脱部材であるストライカー7と当接する突当部22及びカム溝27を有してケース1に対し進退可能に配置された摺動体2と、摺動体2に対し揺動可能に枢支されて、爪部32を突当部22の上に突出してストライカー7を係止可能にする係止状態及び突当部22の上から退行する係止解除状態に切り換えられる係合体3と、摺動体2をケース1から突出する方向へ付勢しているばね部材4と、カム溝27を旋回するトレース部材5と、無理抜き加重増大用の係止補強体6とを備えている。そして、このラッチ装置は、摺動体2がストライカー7で後方へ押圧されてばね部材4の付勢力に抗して移動されると、その移動後の位置にカム溝27及びトレース部材5を介して係止され、かつ係合体3が係止解除状態から係止状態に切り換えられるプッシュ式からなる。
【0022】
また、以上のラッチ装置は、例えば、図4に示した機器類の本体8側に取り付けられ、扉9に取り付けられたストライカー9を係脱する使用例だと、扉9が不図示の付勢手段の付勢力に抗して閉位置方向へ押されると、扉9をストライカー7を介して係止し、更に扉9を同方向へ押して押し力を解放すると、ストライカー7に対する係止を解除する。勿論、使用方法としては、ラッチ装置を扉等の可動体側に取り付けて、機器類の本体側に取り付けられる被係脱部材を係脱する構成でもよい。また、材質は、ケース1、摺動体2、係合体3、係止補強体6は樹脂成形品であるが、樹脂以外でも差し支えない。
【0023】
ここで、ケース1は、図1及び図2並びに図5に示されるごとく内部が上下壁10,11と、両側壁12と、後側の底壁13とで区画形成された略筒形となっている。このうち、上壁10の内面には、細部を省いたが、トレース部材5の揺動範囲を規制する不図示のガイド部や摺動体2の前後動を案内する左右略中間部のガイド溝10aなどが設けられている。下壁11には、前後中間に位置して摺動体2の移動範囲を規制する貫通されたスリット11aと、出入口側からスリット11aの手前に延びている内面の浅いガイド溝11bと、内面両側に突設されて係合体3を係止解除方向へ回転可能にする張出部16と、後側に設けられてばね部材4を保持する支持軸40を位置決めする不図示の位置決め部などが設けられている。両側壁12には、後下側に突設されている孔17a付きの取付部17と、対向して設けられて前後方向に延びているガイド溝14などが設けられている。
【0024】
底壁13は、トレース部材5を揺動可能に取り付ける保持部として構成されている。この保持部は、両側壁12の内面に連結支持された状態に設けられた略凹状となっている。該凹状の対向面には、後述するトレース部材側取付部5aの嵌合穴5eに嵌合する不図示の突起、取付部5aの端面に設けられた凸部5dに嵌合する不図示の孔などが設けられている。
【0025】
摺動体2は、図2及び図3のごとくケース1の出入口側に配置される略矩形容器状の本体20と、本体20の後方に突設されて本体20より幅細になっている後延長部25とからなる。本体20の外面には、上記ガイド溝10aに嵌合する上面の突起20aや上記ガイド溝14に嵌合する両側面の突起20bと、両側面を同軸線上に貫通して係止補強体6を枢支する軸孔23と、下面側に設けられた矩形状の開口21aとが設けられている。本体の内部24は、奥側端面の突当部22と、途中から外上側に向かって広がるように傾斜した上面21bと、開口21a側より外下側に向かって広がるように傾斜した下面21cと、対向している両側面21dとで概略区画されていると共に、開口21aからも出入り可能となっている。下面21cの外面には、図7のごとく幅方向に延びた凸部20cが設けられている。
【0026】
後延長部25は、ハート形のカム溝27を形成している上側部分と共にその上側部分と同方向に延びる下側の筒部26で構成されている。上側のカム溝27は、図5(b)のごとく凸状カム島28の周りに設けられて、後側から前側へ延びる誘導溝27aと、誘導溝27aの前側に位置して左右に別れている係止用誘導溝27b及び解除用誘導溝27dと、誘導溝27b,27dの間でかつ後側に位置した凹状係止溝27cと、誘導溝27dから後側へ延びる復帰溝27eなどで構成されている。これに対し、筒部26は、筒内が上記したばね部材4の上側を遊嵌可能な筒孔を形成しており、筒下側に突設されて上記ガイド溝11aと嵌合される突起26aと、筒両側に設けられて係合体3を枢支する長穴29などを有している。
【0027】
係合体3は、図2及び図3のごとく前板部30と、前板部30から後方向へ突設した両側の後片部と31,31とからなる。前板部30には、上側に突出した爪部32と、両側に設けられて前方ないしは上方に開口されている凹部33と、背面側に設けられた矩形窪み状の凹所34と、後端面の左右中間に突出されて上記筒部26の筒内に入る突片部38とが設けられている。爪部32は、摺動体側開口21aから内部24に自在に進入されたり退行される大きさである。各後片部31には、前板部30側に枢支用軸部35と、後端側の凸部36とが対向内面にそれぞれ突出形成されている。
【0028】
ばね部材4は、コイルスプリングが用いられており、後端側が支持軸40を介してケース1の対応部に保持される。そして、ばね部材4は、摺動体2がケース1の奥へ押圧移動される過程で付勢力を増大し、該付勢力によって係合体3を軸部35を支点として係止方向へ回転可能にする。
【0029】
トレース部材5は、図2のごとく概略逆L形からなり、垂直状の取付部5aと、取付部5aの上端に連結した水平状の腕部5b、腕部5bの先端下面に突出されたピン部5cとからなる。このうち、取付部5aは、下端の凸部5dと、両側の凹部5eと、下内周側の凸状の受け部5fとを形成しており、上記したケース底壁13の凹状保持部に対し、凸部5dが保持部側の不図示の穴に嵌合され、保持部側の不図示の突片部が各凹部5eに嵌合した状態で左右に揺動可能に保持される。ピン部5cは、断面が小さな矩形状をなし、腕部5bから直角に下設されている。以上のトレース部材5は、受け部5fに上記したばね部材4を支持ている支持軸40が位置決め係止されることで常に後方向に付勢され、それによりがたつきが吸収されたり、センタリング可能となっている。
【0030】
係止補強体6は、図3のごとく係合体側前板部30の背面上部分を覆う概略形状であり、両側面に突設されて摺動体側の軸孔23に嵌合される軸部6aと、前上側に設けられて上記した摺動体側凸部20cと係脱する凹部6bと、後下側に設けられて上記した係合体側の凹所34に遊嵌ないしは挿入される複数の弾性片部6cと、両側から弾性片部6cとほぼ同じ方向に突設されて上記した係合体側の凹部33に嵌合される突起部6dと、両側に位置しかつ突起部6dの反対側に湾曲形成されて前板部30の背面側を覆う円弧部6eとを有している。
【0031】
(組立)以上の各部材は、まず、係合体3及び係止補強体6が摺動体2に組み付けられる。この作業において、例えば、係止補強体6は、図3(a)のごとく係合体3に対し各弾性片部6cを対応する凹所34に挿入すると共に、各突起部6dを対応する凹部33に嵌合することにより組み付けられる。この状態から、この構造では、係止補強体6が摺動体2の各軸孔23に対し両側の軸部6aを嵌合枢支され、係合体3が摺動体2の各長穴29に対し両側の軸部35を嵌合枢支される。
【0032】
次に、ケース1に対して以上の係合体3及び係止補強体6付きの摺動体2が組み込まれる。この作業では、例えば、予めばね部材4が支持軸40を介して、また、トレース部材5が上記した底壁13の保持部に揺動可能に支持した状態にしてそれぞれケース1内に配置しておく。そして、係合体3及び係止補強体6付きの摺動体2は、突起20aをガイド溝10aに、突起20bをガイド溝14にそれぞれ嵌合した状態で、ケース1内に押し入れられると、突起26aがガイド溝11bからガイド溝11aに落ち込んで嵌合されたときに、ケース1に対し抜け止めされて組み付けられる。
【0033】
この押し入れ過程では、ばね部材4の上側が筒部26内に入り、係合体3の突片部34に当接する。そして、ばね部材4は、摺動体2がケース1の奥へ押圧移動される過程で付勢力を増大し、該付勢力によって係合体3を軸部35を支点として係止状態の方向へ回転可能にする。また、トレース部材のピン部5cは、対応するカム溝27の溝入口に入る。一方、係止補強体6は、図8のごとくストライカー7の引き抜き方向への引き力により係合体3が係止解除方向へ揺動されるときにその係合体3の揺動抵抗となって付勢力を蓄え、かつ、ストライカー7を係合体3から引き抜くと蓄えた付勢力により係合体3を再び係止状態に切り換える。
【0034】
(作動)以上のラッチ装置は、使用態様として、図4に例示したごとく扉9に取り付けられたストライカー7に対応して、機器類側本体8に位置決めされてねじなどにより取り付けられる。取付状態において、ラッチ装置は、通常、図5のごとく摺動体2がばね部材4により突出方向へ付勢移動(この移動は突起26aがガイド溝11aの前端面に当たることで規制される)されると共に、係合体3が爪部32を本体内部24から外へ退行する方向へ回転(この回転は凸部36が張出部16の最も高くなった箇所に乗り上げる)されている。この状態が係合体3の係止解除状態である。
【0035】
扉9が閉方向である図4(a)の左矢印方向に押し操作されると、摺動体2はストライカー7によりばね部材4の付勢力に抗してケース1内に没する方向へ押圧移動される。その移動過程では係合体3が軸部35を支点として係止状態の方向へ回転される。すると、係合体3は、凸部36が張出部16の低い側へ移行し、同時にストライカーの先端7aの手前に設けられた凹部7cに爪部32を係合し抜け止めする。このとき、係合体3は、図6のごとくトレース部材のピン部5cが摺動体2及び係合体3の後方移動によって上記した誘導溝27aから係止用誘導溝27bに入り、図5の左矢印方向の押圧力を解放したときに、係止溝27cに係止される。この係止により、扉9が閉状態にロック保持される。
【0036】
また、以上の扉保持状態から図5の解除状態に切り換えるときは、扉9を閉じ方向へ少し押した後、該押し力を解放する。すると、トレース部材のピン部5cは、図6(b)のごとく上記した係止溝27cから解除用誘導溝27d、復帰溝27eを経て再び溝入口に戻り、同時に、係合体3が当初の解除位置に切り換えられる。このラッチ装置は、以上のような通常の作動において従来と同様であるが、次の点で改良されている。
【0037】
すなわち、以上のラッチ装置では、通常時の作動を従来と同様に維持しながら、無理抜き荷重、つまり図7(a)に示される係合体3の係止状態において、上記した扉9に対し同(b)のごとく扉開方向に外力が作用したとき、係合体3が爪部32を本体内部24から外へ退行するよう回転、つまり無理抜きにより係止解除状態に切り換えられる際の荷重ないしは強度を係止補強体6によって高めることができ、更には係止補強体6として弾性片部6cの太さ、硬さ、長さなどによって変形度合いを変えるだけで、用途に応じた最適な無理抜き荷重に変更できる。この点を図7〜図9を参照し明らかにする。
【0038】
(1)図7(b)は同(a)のごとく係合体3の係止状態において、上記した扉9に対し扉開方向である同図の矢印方向に外力が作用した初期態様を示している。この初期態様では、係合体3が外力により前方へ引っ張られると、摺動体側長穴29に嵌合している軸部25を支点として時計回りの方向へ動こうとする。その際、係合体3は同(a)に示された爪部32と開口21aの対応部との隙間aを吸収し、また、軸部35が軸穴29内で前側から後側へ動き、また、摺動体側本体20に対し軸部6a及び軸孔23を介して枢支された係止補強体6は係合体3に近づくため同(b)のごとく係合体側凹所34内において弾性片部6cがb寸法だけ撓む。なお、係止補強体6は、係合体3に対し突起部6dが係合体側凹部33に嵌合されているため軸部6aを支点とした回転が規制されている。
【0039】
(2)図8(b)は図7(b)及び図8(a)から矢印方向の外力が更に作用し、係合体3が爪部32を本体内部24から退行、つまり係止解除方向へ回転して、爪部32を本体内部24からほぼ完全に退行した態様を示している。これらの過程では、係合体3が爪部32を開口21aの対応端面を摺接しながら軸部35を支点として時計回りに回転される。係止補強体の弾性片部6cは、その回転により凹所34内に対する圧接度合いを強めて付勢力を蓄積する。
【0040】
以上のような付勢力の蓄積は、係合体3が図8(b)の係止解除状態に達し、ストライカー7の先端7aが開口21aを横切って外へ移動される直前で最大となる。換言すると、この構造では、係合体3が軸部35を支点とし係止状態から係止解除状態に回転して切り換えられるときに、弾性片部6cの変形抵抗を受けることにより課題に記載した無理抜き荷重ないしは強度を高くすることができる。この無理抜き荷重ないしは強度は、例えば、弾性片部6cの太さなどを変えた複数の係止補強体6を用意しておき、それらを選択することにより用途に応じた任意の大きさに簡単に変更できる。なお、係止補強体6は、図8(a)の途中態様から図8(b)の係止解除状態に達する過程において、凹部6bが摺動体側凸部20cに弾性係合することにより不用意に揺動しないように規制される。
【0041】
(3)図9は上記のごとく無理抜きした後のラッチ装置を再び使用するときの操作例を示している。この操作では、図9(a)のごとく図5の操作と同様に扉側ストライカー7を付勢力に抗して同図の矢印方向に押して動かし、摺動体2を同(b)のごとくばね部材4の付勢力に抗してケース1内に若干押し入れた後、同(a)の矢印方向への(扉側ストライカー7に対する)押し力を解放する。
【0042】
(4)すると、この構造では、まず、摺動体2がケース1に対して同(b)のごとく左側(ケース内部側)へ押されて動かされると、トレース部材のピン部5cが同(c)のごとく係止溝27cから解除用誘導溝27dに移行し、また、係止補強体6が(凹部6bと凸部20cとの係合を解除し)上記した弾性片部6cに蓄積した付勢力により軸部6aを支点とし時計回りの方向に回転、つまり付勢力を解放する方向に回転する。続いて、同(a)の矢印方向への(扉側ストライカー7に対する)押し力が解放されると、摺動体2が同(b)の一点鎖線に示されるごとくばね部材4の付勢力によりケース1から突出方向へ移動され、それによりラッチ装置として再び図5の状態に切り換えられる。
【0043】
なお、本発明は以上の形態に何ら制約されることなく、請求項で特定される要件を備えておれば、必要に応じて種々変更可能なものである。その例として、係合体3を摺動体2に枢支する構造としては、摺動体2には軸穴29に代えて軸部を設け、係合体3には軸部35に代えて軸穴を設けて、係合体3を摺動体2に対しそれら軸部及び軸穴の嵌合を介して枢支するようにしたり、更に摺動体2及び係合体3に共に軸穴を設けて、係合体3を摺動体2に対しそれら軸穴同士に挿通されるシャフトを介して枢支する構成でもよい。また、トレース部材及びカム溝としては図10のような構成でも差し支えない。
【符号の説明】
【0044】
1…ケース(11aはカイド溝、16は張出部、18は支持軸)
2…摺動体(20は本体、22は突当部、23は軸穴、24は内部、29は長穴)
3…係合体(31は後片部、32は爪部、34は凹所、35は軸部)
4…ばね部材(40は支持軸)
5…トレース部材(5aは取付部、5bは腕部、5cはピン部)
6…係止補強体(6aは軸部、6bは凹部、6cは弾性片部、6dは突起部)
7…ストライカー(被係脱部材、7aは爪部、7bは凹部、70はベース)
8…本体
9…扉
25…後延長部(26は筒部)
27…カム溝(28はハート形島、27cは係止溝)
33…位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケースに配置されたカム溝付きの摺動体と、前記摺動体を前記ケースから突出する方向へ付勢するばね部材と、前記摺動体に枢支され先端側爪を摺動体内から突出して被係脱部材を係止する係止状態と摺動体内に退避する係止解除状態とに切換可能な係合体と、前記カム溝を動くトレース部材とを備え、前記摺動体が前記ばね部材の付勢力に抗し移動されると移動後の位置に前記カム溝及びトレース部材を介し係止され、かつ前記係合体が係止解除状態から係止状態に切り換えられるラッチ装置において、
前記摺動体に揺動可能に枢支されて、前記係合体が前記被係脱部材を係止している係止状態で、前記被係脱部材の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに該係合体の揺動抵抗となって付勢力を蓄積可能な無理抜き荷重増大用の係止補強体を有していることを特徴とするラッチ装置。
【請求項2】
前記係止補強体は、前記係合体に圧接して付勢力を蓄積可能な弾性片部を有していることを特徴とする請求項1に記載のラッチ装置。
【請求項3】
前記係止補強体及び前記摺動体は、一方に設けられた凸部と、他方に設けられた凹部とを有し、前記係合体が係止状態から係止解除状態に切り換えられる過程で、前記凸部と凹部とが着脱可能に嵌合して前記係止補強体の揺動を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載のラッチ装置。
【請求項4】
前記係止補強体は、幅方向の両側に設けられた突起部を有し、前記突起部が前記係合体側に設けられた位置決め部に嵌合した状態に組み付けられることを特徴とする請求項2又は3に記載のラッチ装置。
【請求項5】
前記係合体は、背面側に設けられた凹所を有し、前記弾性片部が前記凹所内に圧接変形可能に配置されていることを特徴とする請求項2から4の何れかに記載のラッチ装置。
【請求項6】
前記摺動体及び前記係合体は、一方に設けられた長穴と、他方に設けられた軸部とを有し、前記係合体が前記摺動体に対し前記軸部を前記長穴に移動可能に嵌合した状態に枢支されており、前記係合体が前記被係脱部材の引き抜き方向への引き力により係止解除方向へ揺動されるときに前記軸部が前記長穴内で移動することを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−19222(P2013−19222A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155001(P2011−155001)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)