説明

ラッチ装置

【課題】ラッチ装置の余裕牽引長さを大きくする。
【解決手段】ベース部材10に回動可能に支持され、ワイヤ70により回動操作される第1リンク20と、ベース部材10に回動可能に支持される第2リンク30と、棒状部91に係合する鉤状部43を有するラッチ40と、第2リンク30の回動動作をラッチ40の回動動作に伝達する伝達機構(作動レバー50)とを備える。第1リンク20は、当該第1リンク20の回動軸線から外向きに延びる第1作動面24Aと、当該第1作動面と連続して設けられ回動軸線を中心とする略円周方向に沿って延びる第2作動面25とを有する。ワイヤ70を牽引すると、第1作動面が当接面33Aを押して第2リンク30が回動し、ワイヤ70の牽引量を大きくしていくにしたがい、第1リンク20の第2リンク30に接触する面が第1作動面24Aから第2作動面25に切り替わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シート等を固定するのに使用するラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体に対し回動可能に設けられたシートは、その脚などにラッチ装置が設けられており、このラッチ装置が車体に固定されたストライカに係合することで車体に固定されている。そして、ラッチ装置を操作するレバーは、使用者が操作しやすいようにラッチ装置から離れた適宜な箇所に設けられ、レバーとラッチ装置の間にワイヤやロッドなどの牽引部材が設けられて、この牽引部材によりレバーの動作をラッチ装置に伝えるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1にはこのようなラッチ装置が開示されている。このラッチ装置は、ストライカに係合するラッチを、ラチェット、オープンレバーおよび作動レバーにより作動させるようになっており、オープンレバーにはワイヤが係合されている。そして、ワイヤを、ラッチ装置から離れた箇所にあるレバーなどで引くことで、ラッチの開閉が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−068262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のラッチ装置においては、ワイヤでオープンレバーを引くと、オープンレバーが回転し、この回転が、オープンレバーに設けられた溝とラチェットの作動腕の係合により、ラチェットに伝わっている。しかし、ラチェットの作動腕は、ワイヤを引く前からめいっぱい引いた後までオープンレバーの溝に係合したままであるので、ラッチが開ききってそれ以上回転できない状態においてもワイヤが引かれる可能性があり、勢い良くワイヤを引かれた場合には、ラッチ機構に大きな負荷が掛かるおそれがある。
【0006】
もっとも、このようなワイヤを引ききってしまうことでワイヤに大きな張力が掛かる、いわゆる引ききりを防止するため、ラッチ機構における牽引可能なワイヤの長さと、手で操作する側のレバーの操作により牽引可能なワイヤの長さとに差を設けるのが通常である。しかし、ラッチ装置をコンパクトに設計する必要もあるので、ラッチ装置側の、手で操作する側に対する余裕の牽引長さ(これを、本明細書において「余裕牽引長さ」という。)を確保するのが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、ラッチ装置の余裕牽引長さを大きくして、牽引部材の引ききりを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する本発明は、牽引部材により牽引することで、棒状部からの離脱が可能なラッチ装置であって、ベース部材と、前記ベース部材に回動可能に支持され、前記牽引部材により回動操作される第1リンクと、前記ベース部材に前記第1リンクと平行な軸線回りで回動可能に支持され、前記第1リンクと係合する第2リンクと、前記棒状部に係合する鉤状部を有するラッチと、前記第2リンクの回動動作を前記ラッチの回動動作に伝達する伝達機構とを備える。前記第1リンクは、当該第1リンクの回動軸線から外向きに延びる第1作動面と、当該第1作動面と連続して設けられ前記回動軸線を中心とする円周方向に沿って延びる第2作動面とを有する。前記第2リンクは、前記牽引部材の牽引前において前記第1作動面に対面する当接面を有する。そして、前記牽引部材の牽引により前記第1作動面が前記当接面を押して前記第2リンクが回動するとともに、前記牽引部材の牽引量を大きくしていくにしたがい、前記第1リンクの前記第2リンクに接触する面が前記第1作動面から前記第2作動面に切り替わるように構成されている。
【0009】
このような構成によれば、牽引部材を牽引し始めると、第1リンクの第1作動面が第2リンクの当接面に当接し、第2リンクを回動させる。このとき、第1作動面は第1リンクの回動軸線から外向きに延びているので、第1リンクの回転は、効率良く第2リンクに伝わる。つまり、第1リンクの回転量に対する第2リンクの回転量は比較的大きい。
そして、牽引部材の牽引量が大きくなっていくと、第1リンクと当接面との当接が、第1作動面から第2作動面に切り替わる。すると、第2作動面は、第1リンクの回動軸線を中心とする円周方向に沿っているので、第1リンクが回転しても、第2リンクはほとんど回転しない。第2リンクがほとんど回転しない結果、第2作動面が第2リンクの当接面に当接している間は、牽引部材をいくら引いてもラッチはほとんど動かない。このように、本発明のラッチ装置によれば、牽引部材の牽引の前半は、ラッチを効率良く作動させ、後半ではラッチをほとんど作動させないので、この後半部分を利用して牽引部材の余裕牽引長さを大きくすることができる。これにより、牽引部材の引ききりを抑制することができる。
【0010】
前記したラッチ装置において、第2リンクを付勢する付勢部材をさらに備え、前記第2作動面は、表面から曲率円の中心に向かう方向が前記回動軸線に対して一方側にずれていることにより、前記第2作動面が、前記付勢部材に付勢された前記第2リンクから受ける力が、前記第1リンクを前記牽引部材の牽引前の姿勢に向けて回動させようとする力として働くように構成されていることが望ましい。
【0011】
第2作動面の表面から曲率円の中心に向かう方向が第1リンクの回動軸線に向くのではなく、回動軸線から少しずれていることで、バネ力やラッチに掛かる力により当接面から第2作動面に力が掛かったときには、第1リンクを牽引部材の牽引前の姿勢に戻すことができる。
【0012】
前記したラッチ装置において、前記第1リンクは、前記第1作動面に対向する対向面を有し、前記第1作動面と前記対向面とにより溝が形成され、前記第2リンクは、前記当接面を有する操作アームを有し、前記操作アームは、前記牽引部材の牽引前において前記溝に入り込んでいるとともに、前記牽引部材を所定量牽引した後は前記溝から離脱する構成とすることができる。
【0013】
第1リンクが第1作動面に対向する対向面を有すると、第1リンクと第2リンクの係合の遊びを少なくして雑音を低減することができる。また、第2リンクが作動前の姿勢に戻ろうとするときに、第1リンクを作動前に戻すように作用させることもできる。
【0014】
前記したラッチ装置においては、前記第1リンクを樹脂により構成することが望ましい。第1リンクが樹脂により構成されることで、ベース部材や第2リンクとの摺動性が良くなり、雑音を抑制することができる。
【0015】
前記したラッチ装置においては、前記第1作動面と前記第2作動面の裏側は肉抜きされていることが望ましい。
【0016】
第1作動面と第2作動面の裏側が肉抜きされていると、軽量化できるとともに、第1作動面と第2作動面の部分の成形時に収縮によるひけを防止でき、高い精度で第1作動面と第2作動面を形成することができる。
【0017】
前記したラッチ装置においては、前記第1リンクは、回動動作を軸支する軸孔を有し、当該軸孔を囲む軸受部は、軸方向の大きさが前記第1作動面および前記第2作動面を形成する部分よりも大きいことが望ましい。
【0018】
このように構成されていると、軸受部の剛性を十分確保するとともに、第1作動面および第2作動面の部分を軽量化して、全体として軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の構成によれば、牽引部材の余裕牽引長さを大きくして、牽引部材の引ききりを抑制することができる。
【0020】
請求項2に記載の構成によれば、当接面から第2作動面に力が掛かったときに、第1リンクを牽引部材の牽引前の姿勢に戻すことができる。
【0021】
請求項3に記載の構成によれば、第1リンクと第2リンクの係合の遊びを少なくして雑音を低減することができる。
【0022】
請求項4に記載の構成によれば、雑音を抑制することができる。
【0023】
請求項5に記載の構成によれば、軽量化できるとともに、高い精度で第1作動面と第2作動面を形成することができる。
【0024】
請求項6に記載の構成によれば、軸受部の強度を十分確保するとともに、第1作動面および第2作動面の部分を軽量化して、全体として軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ラッチ装置が設けられた乗物用シートの側面図である。
【図2】ロック状態におけるラッチ装置の構造を示す図(a)と、第1リンクの拡大図(b)である。
【図3】第1リンクの拡大斜視図である。
【図4】ワイヤを少し牽引して第1作動面が操作アームを回動させる状態を示す図である。
【図5】ワイヤをさらに牽引して、操作アームに第2作動面が滑りながら当接している状態を示す図である。
【図6】ワイヤを戻してラッチが開いた状態を示す図である。
【図7】ストライカがラッチを押して閉じ始めた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係るラッチ装置の一実施形態について説明する。一実施形態のラッチ装置は、例えば図1に示すように、自動車などの乗物用シートSの脚S1などに設けられる。一例として、ここでの脚S1は、ラッチ装置1そのものである。ラッチ装置1は、乗物のフロアFに固定されたストライカ90に係合することで乗物用シートSをフロアFに固定し、ストライカ90から離脱することで乗物用シートSをフロアFから解放するようになっている。
【0027】
図2(a)に示すように、ラッチ装置1は、主に、ベース部材10と、第1リンク20と、第2リンク30と、ラッチ40と、作動レバー50とを備えて構成されており、牽引部材の一例としてのワイヤ70を牽引して第1リンク20を回動操作することで動作するようになっている。なお、以下の説明において、便宜上、図2(a)を基準にして上下左右を用いて説明するがラッチ装置1は、いかなる向きでも使用することができる。また、理解を容易にするため、図面において第1リンク20、第2リンク30、ラッチ40および作動レバー50の線種を異ならせている。
【0028】
ベース部材10は、板金をプレス成形して形成された長尺の板状の部材であり、本実施形態では乗物用シートSの脚S1の構造部品としての役割も果たしている。ベース部材10には、図示は省略するが、板状部分であるベース部11に第1リンク20、第2リンク30およびラッチ40を組み付けるための孔が形成されている。また、ベース部材10の下端には、下方に開口する溝12が設けられている。溝12はストライカ90の棒状部91が入り込む案内部であるとともに、その底部(上縁)でストライカ90と当接して乗物用シートSの荷重をストライカ90で支持する部分である。
【0029】
第1リンク20は、ワイヤ70により操作してラッチ装置1の動作の起点となる部品である。第1リンク20は、リベット21のカシメによりベース部材10に支持されている。これにより、第1リンク20は、ベース部材10のベース部11に対し直交する回動軸線21Aを中心に回動可能である。第1リンク20は、回動軸線21Aから左に延びるアーム22と、下縁において下方に開口する溝24とを有する。図3に詳細に示すように、第1リンク20は、リベット21が挿入される軸孔21Bを有し、この軸孔21Bを円筒状の軸受部26が囲んでいる。軸孔21Bの縁には、面取り26Aが形成されており、これによりリベット21を挿入するのが容易となっている。アーム22には、ワイヤ70の末端の係止ボール71が挿入されるボール穴27Aと、このボール穴27Aから側面に開口するワイヤ差込口27Bと、ワイヤ差込口27Bの開口端と繋がり、厚み方向の中央部において軸線21に直交する平面に沿って開口したワイヤ通過口27Cとが形成されている。そして、このワイヤ差込口27Bを利用して、図2に示すようにボール穴27Aにワイヤ70の係止ボール71が係止されている。ワイヤ差込口27Bは、図2の作動前の姿勢においてワイヤ70と略反対側の下方に開いており、第1リンク20の作動角度(約60度程度。図2と図5を参照。)の範囲では、ワイヤ70がワイヤ通過口27Cを通過して自由に動けるが、ワイヤ差込口27Bには到達しないようになっている。すなわち、作動中にワイヤ70が第1リンク20から外れるのが防止されている。
なお、第1リンク20は、樹脂により構成されており、これにより、ベース部材10や第2リンク30との摺動が滑らかとなり、不要な雑音を低減することができる。
【0030】
溝24は、回動軸線21Aから外側へ向けて延び、図における溝24の右側の壁を構成する第1作動面24Aと、第1作動面24Aに対向する対向面24Bとを有する。そのため、第1作動面24Aと対向面24Bもおよそ回動軸線21Aから外側に向けて延びている。
【0031】
第1作動面24Aの右側には、第1作動面24Aに連続して第2作動面25が設けられている。第2作動面25は、回動軸線21Aの方向から見て、回動軸線21Aを中心とする円周方向に沿って延びている。より詳細には、図2(b)に示すように、第2作動面25は、その表面から曲率円の中心に向かう方向(図2(b)の矢印参照)が回動軸線21Aに対して右側(表面から回動軸線21Aの方を見て回動軸線21Aの右側)にずれている。このずれは、後述する、操作アーム33の当接面33Aと接する全範囲において同様であり、その全範囲において右側にずれている。また、このずれ方からも分かるように、第2作動面25は、反時計回り方向の先に位置する表面(図中右上に位置する表面)ほど回動軸線21Aからの距離が大きくなっている。
【0032】
図3に示すように、軸受部26は、その軸方向の大きさが第1作動面24A、第2作動面25およびアーム22を形成する部分よりも大きくなっている。これにより、軸受部26の剛性を十分確保できるとともに、第1作動面24Aおよび第2作動面25の部分を軽量化して、全体として軽量化を図ることができる。なお、第1作動面24Aおよび第2作動面25は、第2リンク30と摺動するときに過度な面圧が掛からない程度の十分な幅(軸受部26の軸方向の大きさ)を有している。これにより、繰り返しの作動によっても第1作動面24Aおよび第2作動面25が変形や摩耗をするのが抑制されている。
【0033】
また、第1作動面24Aおよび第2作動面の裏側や、対向面24Bの裏側は、肉抜き28が設けられている。これにより、第1リンク20を軽量化できるとともに、第1作動面24A、第2作動面25および対向面24Bの部分の成形時に収縮によるひけを防止でき、高い精度で第1作動面、第2作動面および対向面24Bを形成することができる。
【0034】
第2リンク30は、リベット31のカシメによりベース部材10に支持されている。これにより、第2リンク30は、回動軸線21Aと平行な回動軸線31Aを中心に回動可能である。第2リンク30は、図2(a)において回動軸線31Aから右向きに延びる本体アーム32と、本体アーム32の右端付近から上に延びる操作アーム33とを有している。操作アーム33は、細長く延びた形状をしており、図2(a)のワイヤ70の牽引前の状態においては、その先端が第1リンク20の溝24に入り込んでいる。図2(a)の作動前の姿勢において、操作アーム33の先端と溝24の底との間には十分な隙間が設けられており、これにより、操作アーム33と溝24の底とが当接することによる第1リンク20と第2リンク30のスタックが防止されている。また、操作アーム33の右側の縁部は、ワイヤ70の牽引前において第1作動面24Aと対面しており、ワイヤ70の牽引による操作時に第1リンク20と当接する当接面33Aを構成している。操作アーム33の先端部には、ピン34が圧入されている。ピン34は、図2(a)において紙面手前側に突出しており、付勢部材の一例としての引張バネ60の左端が引っ掛けられている。
【0035】
本体アーム32の右端の下端は、やや下方に突出しており、後述するラッチ40のロック凹部44に入り込んでラッチ40のロック状態を維持するロック係止部35となっている。本体アーム32における、ロック係止部35よりも少し回動軸線31A寄りの部分には、ピン36が圧入されている。ピン36は、図2(a)の紙面手前側に突出している。
【0036】
ラッチ40は、ストライカ90の棒状部91に係合してラッチ装置1のロック状態を形成する部材である。ラッチ40は、リベット41のカシメによりベース部材10に支持されている。これにより、ラッチ40は、回動軸線21Aと平行な回動軸線41Aを中心に回動可能である。
【0037】
ラッチ40は、図2(a)の姿勢において、その左端に左側に開口する係合溝42を有している。係合溝42の下側の部分が、ロック状態において棒状部91を抱え込んでラッチ装置1が上方に外れるのを規制する鉤状部43となっている。ラッチ40は、回動軸線41Aの上方に膨出した形状を有し、上縁部にロック凹部44と、ロック凹部44の右側に連続する開放当接面45を有している。
ロック凹部44には、図2(a)の作動前においてロック係止部35が入り込んでいる。
開放当接面45は、その法線方向が略回動軸線41Aを向く円弧に沿って形成されている。詳細には、この法線方向は、図において回動軸線41Aの左に少しずれている。
【0038】
作動レバー50は、第2リンク30の回動動作をラッチの回動動作に伝達する伝達機構の一例である。作動レバー50は、リベット51のカシメによりラッチ40に支持されている。これにより、作動レバー50は、回動軸線21Aと平行な回動軸線51Aを中心に回動可能である。作動レバー50は、回動軸線21Aの左側に延びる本体部52と、上方に延びるアーム53とを有する。アーム53の先端には、ピン54が圧入されている。ピン54は、図2(a)において手前側に突出しており、引張バネ60の右端が引っ掛けられている。
作動レバー50の本体部52には、上方に頂点を持つ略三角形のガイド孔55が形成されている。ガイド孔55には、前記した第2リンク30のピン36が入り込んで係合している。本体部52の左下の端部は若干下方に突出している。この突出部は、ラッチ40の開放時においてリベット31に当接して作動レバー50の姿勢を決める規制部56である。
【0039】
なお、上述のラッチ装置1において、第1リンク20の第1作動面24Aは、ラッチ40を開放させるのに十分な範囲で設けられ、第2作動面25は、ラッチ40をロック状態から開放させるためではなく、ワイヤ70の余裕牽引長さを確保するために設けられている。すなわち、ラッチ40をロック状態から開放させるときに第1リンク20の回動により第2リンク30の当接面33Aと当接する面が第1作動面24Aから第2作動面25に切り替わるのは、第2リンク30のロック係止部35がロック凹部44から離脱して開放当接面45に対面した後となるように第1作動面24Aと第2作動面25が形成されている。
【0040】
以上のように構成されたラッチ装置1の動作について説明する。
図2(a)の作動前の状態において、ストライカ90の棒状部91は、ベース部材10の溝12の最も奥に入り込んでおり、ラッチ40の鉤状部43が棒状部91を下から抱え込んでいる。作動レバー50は、その先端がリベット31に当接して反時計回りに回転するのが規制されており、これによりラッチ40が反時計回り、つまり、開く方向へ回動するのが規制されている。また、引張バネ60は引張力を発生しており、第2リンク30のロック係止部35がロック凹部44の底に当接している。
【0041】
図2(a)の作動前の状態から、ワイヤ70を牽引すると、ラッチ装置1は、まず、図4に示すように、第1リンク20が時計回りに回動し、第1リンク20の第1作動面24Aが操作アーム33の右側の当接面33Aを押し、第2リンク30を反時計回りに回動させる。第2リンク30が反時計回りに回動すると、ピン36がガイド孔55の内周のうち左上縁を押して、引張バネ60を引き伸ばしながら作動レバー50を時計回りに回動させる。図4においては、図2からほとんど変化が無いが、この作動レバー50に掛かる力がリベット51を介してラッチ40を少しずつ反時計回りに回転させようとする。
ここでの動作において、第1作動面24Aは、第1リンク20の回動軸線21Aから外側に延びているので、第1リンク20の回動は、効率良く第2リンク30を回動させる。すなわち、第1リンク20の回動角に対する第2リンク30の回動角は、比較的大きい。
【0042】
ワイヤ70をさらに牽引すると、第1リンク20の第1作動面24Aは第2リンク30の当接面33Aをさらに押し、第2リンク30を反時計回りに大きく回動させる。ワイヤ70を所定量牽引したことで第2リンク30が所定角度回動すると、図5に示すように、操作アーム33が溝24から離脱し、第1リンク20の、当接面33Aに当接する面が第1作動面24Aから第2作動面25に切り替わる。第2作動面25は、回動軸線21Aを中心とする円弧から少しずれており、反時計回りの先の位置ほど回動軸線21Aからの距離が大きくなっているので、ワイヤ70を引いていくに従い、第2作動面25が当接面33Aを押して第2リンク30を僅かに反時計回りに回動させる。それでも、第2作動面25は、回動軸線21Aを中心とする円周方向に略沿っているので、第2リンク30の回動量は僅かであり、ほとんど第1リンク20だけが空回りするのに近い動作となる。すなわち、第1作動面24Aが当接面33Aを押しているときと比べると、第2作動面25が当接面33Aを押しているときは、第1リンク20の回動量に対する第2リンク30の回動量は非常に小さい。第2リンク30の反時計回りの回動は、それまでと同様にして引張バネ60を引き伸ばしながら作動レバー50を時計回りに回動させ、ラッチ40を反時計回りに回動させて徐々に開いていく。また、第2リンク30が大きく反時計回りに回動したことでロック係止部35はロック凹部44から離脱し、さらに、ラッチ40が少し反時計回りに回動したことで第2リンク30の、ロック係止部35より回動軸線31Aに近い側の下縁が開放当接面45に対面する。
【0043】
図5の状態から、引張バネ60の引張力にまかせてワイヤ70を戻していくと、図6に示すように、第2リンク30の下縁がラッチ40の開放当接面45に当接し押していくことでラッチ40を大きく反時計回りに回動させる。そして、ラッチ40がベース部材10の縁に当たることで回動が規制され、開放状態となる。これにより、ストライカ90の棒状部91はラッチ装置1から完全に離脱し自由になる。
【0044】
ストライカ90をラッチ装置1に係合させる場合、図6の状態から乗物用シートSを下方に押し下げるなどにより、棒状部91を開放状態のラッチ40の係合溝42に押し付ける。すると、ラッチ40は、時計回りに回動し、図7に示すように開放当接面45が第2リンク30の下縁を滑っていく。このとき、第2リンク30は僅かに反時計回りに回動し、操作アーム33が第1リンク20の対向面24Bに当接して第1リンク20を少し反時計回りに回動させる。この図7の状態からさらに棒状部91を係合溝42に押し付けると、ロック係止部35がロック凹部44に入り込んで図2の状態に戻る。
【0045】
以上のように、本実施形態のラッチ装置1によれば、ワイヤ70を牽引し始めた当初は第1リンク20の第1作動面24Aが第2リンク30の当接面33Aを押して、ラッチ40を開放させるための第2リンク30の必要な回動を効率良く行うことができる。そして、ラッチ40を開放可能な程度に第2リンク30を回動させた後は、第2リンク30の当接面33Aに対して当接する第1リンク20の面が第1作動面24Aから第2作動面25に切り替わることで、第1リンク20の回動可能角を大きくし、これにより、ワイヤ70の牽引可能な長さを大きくし、余裕牽引長さを長くすることができる。
【0046】
そして、ラッチ装置1は、第2作動面25が、その使用範囲において、その表面から曲率円の中心に向かう方向が回動軸線21Aに対して図中右側にずれていることで、第2作動面25が操作アーム33から受ける力により第1リンク20を作動前の姿勢に向けて戻すことができる。すなわち、引張バネ60の引張力を利用して第1リンク20を作動前の姿勢に向けて戻すことができ、使用者が操作途中で不意にワイヤ70を戻すことがあったとしても、予期せぬ姿勢で各リンクが停止してしまうことがなく、作動前の状態に戻すことができる。
【0047】
また、ラッチ装置1は、第1作動面24Aに対向する対向面24Bを備えているので、第1リンク20と第2リンク30の係合の遊びが少なく、雑音を小さくすることができる。さらに、第2リンク30が作動前の姿勢に戻ろうとするときに、第1リンク20を作動前の姿勢に戻させることができる。
【0048】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
例えば、前記実施形態において牽引部材の一例としてワイヤ70を例示したが、牽引部材は、ロッドであってもよい。
【0049】
また、伝達機構として作動レバー50を例示したが、伝達機構は公知の他の機構を採用することができる。
【0050】
さらに、ラッチ装置1は、車両などの乗物用シートSの脚S1に適用される場合だけでなく、乗物用シートSの着座部や背もたれに設けられていてもよく、車両のトランクなどの開閉部分をロックする装置として使用することもできる。そのため、ベース部材10は、乗物用シートSの脚S1に限らず、ラッチ装置1が適用される装置に応じて適宜な部材とすることができる。乗物用シートSも、車両以外の船舶や飛行機のシートであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 ラッチ装置
10 ベース部材
20 第1リンク
21 リベット
21A 回動軸線
24 溝
24A 第1作動面
24B 対向面
25 第2作動面
30 第2リンク
33 操作アーム
33A 当接面
40 ラッチ
43 鉤状部
50 作動レバー
60 引張バネ
70 ワイヤ
90 ストライカ
91 棒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引部材により牽引することで、棒状部からの離脱が可能なラッチ装置であって、
ベース部材と、
前記ベース部材に回動可能に支持され、前記牽引部材により回動操作される第1リンクと、
前記ベース部材に前記第1リンクと平行な軸線回りで回動可能に支持され、前記第1リンクと係合する第2リンクと、
前記棒状部に係合する鉤状部を有するラッチと、
前記第2リンクの回動動作を前記ラッチの回動動作に伝達する伝達機構とを備え、
前記第1リンクは、当該第1リンクの回動軸線から外向きに延びる第1作動面と、当該第1作動面と連続して設けられ前記回動軸線を中心とする円周方向に沿って延びる第2作動面とを有し、
前記第2リンクは、前記牽引部材の牽引前において前記第1作動面に対面する当接面を有し、
前記牽引部材の牽引により前記第1作動面が前記当接面を押して前記第2リンクが回動するとともに、前記牽引部材の牽引量を大きくしていくにしたがい、前記第1リンクの前記第2リンクに接触する面が前記第1作動面から前記第2作動面に切り替わるように構成したことを特徴とするラッチ装置。
【請求項2】
第2リンクを付勢する付勢部材をさらに備え、
前記第2作動面は、表面から曲率円の中心に向かう方向が前記回動軸線に対して一方側にずれていることにより、前記第2作動面が、前記付勢部材に付勢された前記第2リンクから受ける力が、前記第1リンクを前記牽引部材の牽引前の姿勢に向けて回動させようとする力として働くことを特徴とする請求項1に記載のラッチ装置。
【請求項3】
前記第1リンクは、前記第1作動面に対向する対向面を有し、前記第1作動面と前記対向面とにより溝が形成され、
前記第2リンクは、前記当接面を有する操作アームを有し、
前記操作アームは、前記牽引部材の牽引前において前記溝に入り込んでいるとともに、前記牽引部材を所定量牽引した後は前記溝から離脱することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラッチ装置。
【請求項4】
前記第1リンクを樹脂により構成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のラッチ装置。
【請求項5】
前記第1作動面と前記第2作動面の裏側は肉抜きされていることを特徴とする請求項4に記載のラッチ装置。
【請求項6】
前記第1リンクは、回動動作を軸支する軸孔を有し、当該軸孔を囲む軸受部は、軸方向の大きさが前記第1作動面および前記第2作動面を形成する部分よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2178(P2013−2178A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135620(P2011−135620)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】