説明

ラップフィルムの製造方法

【課題】製造直後から良好な密着を発現し、夏期の高温下で流通した場合でも良好な密着性を保持し、更に引出性が改良されたポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造方法を提供すること、製造中に誤ってソックが壊れ、ソック液が漏洩した場合にも、ソック液が冷水槽を汚染することのないポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造方法を提供すること、及び上記の条件を満たし、安定にポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】ワックスとポリ塩化ビニリデン系樹脂とからなる樹脂組成物であって、樹脂組成物中にワックスを100〜10,000ppm含む樹脂組成物を、ダイから環状に溶融押出するとともに、その内部に水を注入し、冷却後、インフレーションすることからなるラップフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の簡易包装に用いられるラップフィルムの製造方法に関する。詳しくは、容器などへの優れた密着性を製造直後から発現し、夏期の高温下で流通した場合にも密着性と引出性に優れたポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを安定に製造でき、製造中に溶融押出された環状樹脂が破損して内部に注入された冷媒が漏洩しても冷水槽を汚染させることのないラップフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフレーション製膜方法においては、ダイから環状に押し出された樹脂は、外側を冷水と接触させ、ダイ口とピンチロールとに挟まれた内側をミネラルオイル等の冷媒と接触させることによって冷却して成形される。この時、ダイ口とピンチロールとに挟まれた部分をソック、この内部に封入する冷媒をソック液、ピンチロールによって折り畳まれた筒状の樹脂をパリソンと称する。ダイから環状に押出された樹脂の内側はソック液に触れながらピンチロールに到達し、ピンチロールを通過して筒状に折り畳まれると、内面にソック剤が薄く塗布されたパリソンとなる。
従来の製膜方法では、ソック内部をソック液により冷却した後、一度ピンチロールで圧着し、再度剥離してインフレーションするが、その際ピンチロールにて圧着されたパリソン内面を剥離させるためにソック液として滑剤を添加する方法が用いられる。滑剤の代表的な例としてはミネラルオイルが挙げられる。また、特許文献1では親水性界面活性剤、特許文献2には水溶性多糖類エーテルなどの滑剤の利用が報告されている。
【0003】
しかし、これらの製造方法では、製造中に誤ってソックが壊れて内部のソック液が漏洩した場合には、滑剤を含んだソック液により冷水槽を汚染するという問題である。ソック液が漏洩するとその液で冷水槽が汚染され、冷水槽周辺の洗浄等その後の処理に大変な労力を必要とする。さらに、ラップフィルムの物性面では、夏期高温下で流通したラップフィルムにおいては、フィルム表面に塗布された滑剤が過剰な密着性を誘発し、引出性も悪化するという問題がある。
ここで、密着性とは、ラップフィルム同士やラップフィルムの容器への密着し易さの指標であり、引出性とは、紙管に巻かれたラップフィルムを引出す時の引出し易さの指標である。
【0004】
特許文献3には、ポリ塩化ビニリデン系樹脂と天然ワックスからなる組成物を用いてラップフィルムを製造する方法が開示されている。特許文献3のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムは、夏期、高温下で流通したものでも良好な密着と良好な引出性を有する。しかし、ソック液として滑剤を使用し、インフレーション法でラップフィルムを製造するため、製造中に誤ってソックが壊れてソック液が漏洩した場合、滑剤を含んだソック液により冷水槽が汚染され。物性面でも、滑剤を含んだソック液により滑剤がフィルム表面に塗布されるために、得られたラップフィルムは一定期間の後にしか満足する密着を発現しないという問題がある。
さらに、ラップフィルムの製造に際し、冷水槽の汚染の発生を防止するためにソック液として水を用いると、パリソンは全く開口せずインフレーションすることができない。
【特許文献1】特開昭55−133927号公報
【特許文献2】特表2002−539986号公報
【特許文献3】特開平11−199735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、製造直後から良好な密着を発現し、夏期の高温下で流通した場合でも良好な密着性を保持し、更に引出性が改良されたポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造方法を提供すること、製造中にソックが破損してソック液が漏洩した場合にも、ソック液が冷水槽を汚染することのないポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造方法を提供すること、及び上記の条件を満たし、安定にポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、塩化ビニリデン系樹脂にワックスを添加することにより目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、ワックスとポリ塩化ビニリデン系樹脂とからなる樹脂組成物であって、樹脂組成物中にワックスを100〜10,000ppm含む樹脂組成物を、ダイから環状に溶融押出するとともに、その内部に水を注入し、冷却後、インフレーションすることからなるラップフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
ワックスを添加した塩化ビニリデン系樹脂を用いることによって、ラップフィルムの製造に際して、ソック液として水を用いることが可能となり、製造直後から良好な密着を発現し、夏期の高温下で流通したものでも良好な密着性を保持し、引出性が改良されたラップフィルムを安定に製造することができる。
また、ソック液として水を用いるので、製造中にソックが破損してソック液が漏洩した場合にも冷水槽を汚染することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる樹脂組成物は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂とワックスとからなり、ワックスは、樹脂組成物中に100〜10,000ppm含まれる。樹脂組成物中に、可塑剤、安定剤など、ラップフィルムの性能を改善するための添加剤が含まれていてもよい。
代表的な樹脂組成物の組成は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂89〜99.39重量%、ワックス100〜10,000ppm、可塑剤0.1〜7重量%、安定剤0.5〜3重量%からなる。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン重合体、及び塩化ビニリデン85〜97重量%と、これと共重合可能な単量体、例えば塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の1種又は2種以上15〜3重量%からなる共重合体である。
【0009】
可塑剤として、ジブチルセバケート(以下、DBS、という)、ジオクチルアジペート、アセチルトリブチルサイトレート(以下、ATBC、という)、アセチル化モノグリセライド(以下、ACGL、という)などが挙げられる。
安定剤としては、エポキシ化大豆油(以下、ESO、という)、エポキシ化アマニ油(以下、ELO、という)等のエポキシ化植物油などが挙げられる。
さらに、本発明の効果を損なわない範囲において、樹脂組成物に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料、顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加してもよい。
【0010】
ソック液として水を用いて、安定に塩化ビニリデン系ラップフィルムを製造するためには、樹脂組成物中にワックスが100〜10,000ppm、好ましくは2,000〜4,000ppm含まれていることが極めて重要である。
樹脂組成物中にワックスが100〜10,000ppm含まれていることによって、製造直後から良好な密着を発現し、夏期の高温下で流通した場合でも良好な密着性を保持し、更に引出性が改良されたポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造が可能になる。そして、ソック液として水を用いて安定にラップフィルムを製造することができる。
特に、ワックスの含有量が100ppm未満の場合は、パリソンが安定に剥離しない。ワックスの含有量が10,000ppmを超えると、結晶化が進み延伸性が悪くなり、安定な製膜が困難になる。また、得られたラップフィルムの密着性が不充分となる。
【0011】
ワックスとしては、合成ワックス、天然ワックス等が挙げられる。合成ワックスとしては、例えば合成パラフィン、微小ワックス、ポリエチレンワックス等、石油由来の化学合成品が挙げられる。天然ワックスとしては、例えばカルナウバワックス、スパームアセチワックス(鯨油)、モンタンワックス、蜜ロウ、木ロウ、ラノリン(羊毛)、ライスワックス、ホホバ油等、天然物由来のものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
カルナウバワックスを用いると、ラップフィルムに過剰に熱が加わった場合にも、優れた密着性と引出性を有するため、単独又は他のワックスと併用することが好ましい。カルナウバワックスを他のワックスと併用する場合、カルナウバワックスは、樹脂組成物中に2,000〜4,000ppm含まれることが好ましい。
【0012】
本発明によると、インフレーション製膜方法にしたがって、ダイから環状に押出された樹脂の外側と内側を冷水に接触させることによってソックが成形される。一度ピンチロールで圧着されたパリソンを再度剥離してインフレーションする際、樹脂組成物中に存在するワックス成分の効果により、パリソン内面を剥離するための滑剤を用いることなく水のみで剥離させることが可能である。その後は通常のインフレーション製膜方法により、安定にラップフィルムを製造することができる。製造されたラップフィルムは、製造直後から良好な密着性を発現し、夏期の高温下で流通したものでも良好な密着性を保持し、引出性も良好である。
【0013】
本発明の目的達成に支障がない範囲で、ソック液として用いる水に、他の物質を混合してもよいが、製造中にソックが破損して冷水槽が汚染されるのを防止する上で、ソック液として水のみを用いることが好ましい。
本発明によると、上記の添加剤は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の重合前、あるいは重合時に組成物を得るまでのいずれかの工程で添加してもよいが、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂に、ワックス、必要により添加剤を添加し、必要に応じてリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等で均一に混合し、24時間程度熟成させてもよい。このようにして得られた該樹脂組成物をダイから環状に溶融押出し、パリソンの内外両側を冷水に接触させて冷却してソックを成形する。ピンチロールを通過して筒状に折り畳まれたパリソンは、ワックスの効果により一度ピンチロールで圧着された後でも容易に剥離して内部にエアを注入することでチューブ状となる。このようにして得られたチューブ状のパリソンは再加熱した後、さらにエアを注入することで連続的にインフレーション延伸成形が可能となる。延伸フィルムは通常の巻取機にて巻き取り、スリット、リワインド工程を経て、ラップフィルムを得る。
このとき、樹脂組成物中にワックスが存在することによって、溶融押出時にワックスがブリードし、ピンチロールにて圧着されたパリソンを剥離することができ、ソック液として滑剤を用いないで水を用いることが可能となる。
【0014】
ラップフィルムは、その商品的特性から、製造直後から夏期の高温下で流通したものまで一定の密着性が満足されることが求められる。後述の方法で測定される密着仕事量は、製造直後、28℃1ヶ月、40℃1ヶ月いずれにおいても1.2mJ以上2.5mJ未満であることがより好ましい。密着仕事量が1.2mJを下回ると密着仕事量が低く容器等につきにくくなる場合があり、逆に2.5mJを上回ると密着仕事量の高さからラップフィルム同士がまとわりつく場合があり、いずれも使い勝手性が低下する場合がある。
更に、引出力は、真夏の保管倉庫内に長期間にわたって置かれた際の熱履歴を想定して、後述の方法で測定される40℃で1ヶ月保管後の引出力は10cN以上100cN以下であることが好ましく、10cN以上70cN以下が更に好ましい。引出力が10cNを下回ると必要以上に引出されることがあり、また、引出力100cNを上回ると途中切れ等の問題が生じる場合がある。
本発明のラップフィルムの厚さには制限はないが、一般には5〜20μmである。
上記のようにして得られたラップフィルムは、製造直後、また28℃、40℃で1ヶ月エージング後でも、1.2〜2.5mJの範囲の満足する密着を発現し、10〜70cNの範囲内の良好な引出性を有する。
【実施例】
【0015】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
本発明により得られるフィルムの評価方法は以下の通りである。
1.製膜性
ダイから環状に溶融押出し、ソック内に水を注入後、パリソンが長時間開口し続けてラップフィルムが得られるかどうかについて、以下の3段階の評価を行なう。
評価記号 判定
○ パリソンが長時間安定に開口し続け、ラップフィルムが得られ、製造可能
△ ラップフィルムは得られるが、パリソンは短時間しか開口せず、製造不可
× パリソンは全く開口せず、製造不可
【0016】
2.密着性
ラップフィルムを家庭で使用することを想定し、ラップフィルム同士の密着性を評価する。製膜直後から様々な流通過程を経た後まで、良好な密着性を維持するかどうかを評価する。そのため、製膜直後のラップフィルム、及び28℃と40℃に設定した恒温槽にて事前に一定期間(1ヶ月間)保管したラップフィルムを用いる。
測定は23℃、50%RHの雰囲気中で行なう。まず底面積25cm2、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の治具を2個用意し、双方の治具の底面に底面積と同面積の濾紙を貼り付ける。双方の治具の濾紙を貼り付けた底面に皺が入らないようにラップフィルムを被せて輪ゴムで抑えて固定する。このラップフィルムを被せた2個の治具を、ラップフィルムを被せた側の底面が重なり合うように2個の治具を合わせて、加重500gで1分間圧着する。次いで、引張圧縮試験機にて5mm/分の速度で双方のラップフィルム面を相互に面に垂直に引き剥がすときに必要な仕事量を測定する(単位 mJ/25cm2)。
【0017】
ラップフィルムの密着性は、測定した数値をもとに、以下の4段階で評価する。
<初期、28℃1ヶ月保管後、40℃1ヶ月保管後の密着仕事量>
評価記号 密着仕事量(mJ) 判定
◎ 2.0以上2.5未満 バランスの取れた満足する密着性を有し、
優れたレベルにある
○ 1.2以上2.0未満 密着性を有し、実用レベルにある
△ 0.8以上1.2未満 僅かに密着性を有すが、実用上問題がある
2.5以上3.2未満 密着性が高すぎ、取扱性に劣る
× 0.8未満 密着性が非常に小さすぎ、実用不可
3.2以上 密着性が非常に高すぎ、取扱性が著しく劣る
【0018】
3.引出性
密着性と同様に、様々な流通過程を経たラップフィルムを家庭で使用することを想定し、ラップフィルム同士の引出性を評価する。そのため、密着性評価のために事前準備として、保管した同じ条件の巻回ラップフィルムを使用する。引出力は100cNを上回ると途中切れ等の問題が生じる場合があるため、真夏の保管倉庫内に長期間にわたって置かれた際の熱履歴を受けることを想定し、事前準備として、40℃に設定した恒温槽にて事前に一定期間(1ヶ月間)巻回ラップフィルムを保管する。
測定は23℃、50%RHの雰囲気中で行なう。長さ約310mmで直径を巻回ラップフィルムの紙管内径に合わせた駆動部と、長さ330mmの支点軸とからなるプラスチック製フリーロールを、巻回ラップフィルムの幅方向中央とフリーロール駆動部の長さ方向中央とが合うように、巻回ラップフィルムの紙管中に装着する。この巻回ラップフィルムと一体となったフリーロールを、引張圧縮試験機上部のロードセル側につり下げたハンガーとその支点軸が平行に、かつそのハンガー中央の鉛直方向に巻回ラップフィルムの幅方向中央が位置するよう、上記試験機下部に設置した軸受けにその支点軸を入れて固定し、さらに、フリーロールと一体になった巻回ラップフィルムを、引き剥がして上記試験機上部のロードセル側につり下げたハンガーに皺のないよう両面テープで固定する。
【0019】
次いで、引張圧縮試験機にて1000mm/分の速度で巻回ラップフィルムを紙管から垂直に引き剥がす。このとき、巻回ラップフィルムを紙管から引き剥がすのに必要な力のピーク値をもって、引出性の測定値とする。(単位 cN/30cm幅)巻回ラップフィルムの引出性は、測定した数値をもとに、以下の4段階で評価する。
評価記号 ピーク値(cN) 判定
◎ 10以上70未満 非常に引出性が良く、優れたレベルにある
○ 70以上80未満 引出性が良く、実用レベルにある
△ 80以上100未満 引出性に劣り、実用上問題あり
× 10未満 引出性が軽すぎ、実用不可
100以上 引出性が非常に劣り、実用不可
【0020】
4.総合評価
製膜性、密着性及び引出性の評価結果をもとに総合的に判断し、以下の3段階の評価を行なう。
【0021】
評価記号 基準 判定
○ △、×がない 製膜性、各物性のバランスが良い
△ ×がない 製膜性、各物性のバランスが悪い
× ×がある 製膜性、各物性のバランスが非常に悪い
【0022】
[実施例1]
重量平均分子量10万の塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)(塩化ビニリデンが90重量%、塩化ビニルが10重量%、)に、ATBC及びELOをそれぞれ4.5重量%及び1.5重量%の割合で混ぜた塩化ビニリデン系樹脂組成物10Kg中に、粉末状のカルナウバワックスを40g(4000ppm)加え、常温で高速ミキサーによって5分間混合させて、40μmのメッシュを通した。
こうして得られたワックス含有塩化ビニリデン樹脂組成物を環状ダイ出口の温度が170℃になるよう押出機の加熱条件を調節しながら、溶融押出機にて12.5Kg/hrの押出し速度で溶融押出し、ソック内に水を注入し、パリソンを過冷却した後、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。この筒状フィルムをピンチして扁平に折り畳み、折幅320mm、厚み10μmの2枚重ねフィルムを巻取り速度16m/minで巻き取った。
このフィルムを230mm幅にスリットし、1枚のフィルムになるように剥がしながら、外径36.6mm、長さ305mmの紙管に20m巻取り、厚み10μm巻回ラップフィルムを製造した。
製膜性、ラップフィルムの密着性、引出性について評価した結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1]
実施例1と同様の塩化ビニリデン樹脂組成物に、カルナウバワックスを0.5g(50ppm)加え、それ以外は実施例1に準じた操作で溶融押出し、ソック内に水を注入し、パリソンを過冷却した後、インフレーション延伸を試みたところ、製膜できなかった。これについて、製膜性について評価した結果を表1に示す。
【0024】
[比較例2]
実施例1と同様の塩化ビニリデン樹脂組成物にカルナウバワックスを150g(15000ppm)加え、それ以外は実施例1に準じた操作で厚み10μmの巻回ラップフィルムを製造した。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0025】
[比較例3]
実施例1と同様の塩化ビニリデン樹脂組成物にワックスを加えないで、それ以外は実施例1に準じた操作で溶融押出し、ソック内に水を注入し、パリソンを過冷却した後、インフレーション延伸を試みたところ、製膜できなかった。これについて、製膜性について評価した結果を表1に示す。
【0026】
[比較例4]
実施例1と同様の塩化ビニリデン樹脂組成物にワックスを加えないで、環状ダイ出口の温度が170℃になるよう押出機の加熱条件を調節しながら、溶融押出機にて12.5Kg/hrの押出し速度で溶融押出し、ソック内に滑剤(ミネラルオイル)と水を1:4の割合で注入し、パリソンを過冷却した後、インフレーション延伸して筒状フィルムとし、それ以外は実施例1に準じた操作で厚み10μmの巻回ラップフィルムを製造した。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0027】
[比較例5]
実施例1と同様の塩化ビニリデン樹脂組成物に、カルナバワックスを40g(4000ppm)加え、それ以外は比較例4に準じた操作で厚み10μmの巻回ラップフィルムを製造した。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0028】
以上の結果より、下記のことがわかる。
本発明の範囲のワックスを含むラップフィルム(実施例1)では、ダイから環状に溶融押出するとともに、その内部に水のみを注入し冷却後、インフレーションすることにより、安定的にラップフィルムを得ることが可能であるため、製造中にソック破れが発生した場合にもソック液が冷水槽を汚染することが無い。さらに、こうして得られたラップフィルムは、製造直後から良好な密着性を発現し、エージング後でも優れた密着性と引出性のバランスを有する。
これに対して、ワックスの添加量が少なすぎる場合(比較例1)、ピンチロールにて圧着されたパリソンの剥離が困難なために安定製膜が難しく、一方、添加量が多すぎると(比較例2)、結晶化が進んで延伸性が悪くなるため安定した製膜が難しく、また密着性の発現が不十分である。
さらに、ワックスを添加しない場合(比較例3)、ピンチロールにて圧着されたパリソンを剥離できないため、フィルムの製造は不可能である。
滑剤を含んだソック液を用いる場合(比較例4〜5)、製造中にソック破れが発生することにより、滑剤を含んだソック液が冷水槽を汚染する。得られたラップフィルムは、カルナウバワックスを添加したもの(比較例5)については引出力低減の効果が見られるが、滑剤がラップフィルム表面に塗布されるため、製造から一定期間経過後にしか良好な密着性を発現しない。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により得られるフィルムは、ラップ用途のフィルムとして好適であり、製造直後から良好な密着性を発現し、夏期の高温下で流通したものでも良好な密着性を保持し、引出性も改良されている。そして、製造中にソック破れが発生した場合にも、ソック液が冷水槽を汚染することのない製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスとポリ塩化ビニリデン系樹脂とからなる樹脂組成物であって、樹脂組成物中にワックスを100〜10,000ppm含む樹脂組成物を、ダイから環状に溶融押出するとともに、その内部に水を注入し、冷却後、インフレーションすることからなるラップフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−253530(P2007−253530A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83031(P2006−83031)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】