説明

ラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及びラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置

【課題】ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することができるラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及び評価装置を提供する。
【解決手段】岩盤内部の所定区域と岩盤外部との間で、容量が異なる水を循環させて岩盤1内部の第1孔通路2と第2孔通路7の間の間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の幅wnを求め、第1半径r1及び第2半径r2により間隙の表面積S(=2πr)を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラドンを用いて岩盤の間隙状況(間隙の表面積、広がりの状態)を評価するラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及び間隙状況の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃棄物を地中に隔離処理する場合や二酸化炭素(CO)を地中貯留する場合、地表下の岩石の層や岩石でできている地盤(岩盤)の崩落や崩壊等を検証する場合、更に、岩盤に溜まる天然資源の状況を検証する場合等において、岩盤における間隙状況(間隙の表面積や多きさ等)を検証することは重要な事項となっている。
【0003】
岩盤の間隙を検証するため、地中空間に超音波測定器を挿入し、挿入深度が異なる箇所で超音波速度を測定し、超音波速度の違いから亀裂の大きさを測定することが従来から行われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、亀裂(岩盤の間隙)の表面積や広がりの状態を検出することはできず、岩盤の間隙状況を的確に評価することができないのが現状である。
【0004】
ところで、岩盤の岩石中には微量のウランが含まれ、岩石からは壊変生成物としてのラドンが放出されている。ラドンは所定の半減期で放射線を出して鉛に至る元素である。岩石には間隙があり、ラドンは岩石の流動間隙の表面から放出される。このため、ラドンの放出量を測定することで、岩盤の間隙の表面積を含めた間隙状況を評価することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−318996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することができるラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及びラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法は、岩盤内部の所定区域と岩盤外部との間で、岩盤外部の容量が異なる流体の第1循環経路及び流体の第2循環経路を構築し、岩盤のラドンフラックスの理論値Fnを求め、第1所定期間にわたり第1循環経路に流体を循環させた後に流体に放出された第1のラドン濃度[Rn1]を求め、第1のラドン濃度[Rn1]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況に基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の広がりの第1半径r1を求める一方、第2所定期間にわたり第2循環経路に流体を循環させた後に流体に放出された第2のラドン濃度[Rn2]を求め、第2のラドン濃度[Rn2]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況に基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の広がりの第2半径r2を求め、第1半径r1及び第2半径r2を求めた後、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の所定区域の間隙の幅wnを求めることを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、第1循環経路に流体を循環させた時の第1のラドン濃度[Rn1]と、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況とにより第1半径r1を求める一方、第2循環経路に流体を循環させた時の第2のラドン濃度[Rn2]と、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況とにより第2半径r2を求め、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の所定区域の間隙の幅wnを求めるので、幅wnに基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の状況を評価することができ、第1循環経路と第2循環経路で構築される経路の間隙の広がりに応じて間隙の状況を的確に評価することができる。従って、自然状態における初期のラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、即ち、ボーリング掘削等の影響によりラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、確実に放射平衡状態のラドン濃度を第1のラドン濃度[Rn1]として適用することができる。
【0009】
このため、所定の区域の岩盤の間隙の広がりにおける表面の凹凸が加味された状態で間隙の幅wnを求めて間隙の状況(表面積)を評価することができ、所定の区域の岩盤の間隙の広がりや間隙の表面状態を含めて間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0010】
この結果、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法は、請求項1に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法において、循環させる前記流体は水であることを特徴とする。また、請求項3に係る本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法は、請求項2に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法において、第1循環経路及び第2循環経路は水が貯留される容器を含み、第1循環経路の状況は、容器の体積V1、容器の表面積S1、及び、容器のラドンフラックスF1を含み、第2循環経路の状況は、容器の体積V2、容器の表面積S2、及び、容器のラドンフラックスF2を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2、請求項3に係る本発明では、水に放出されたラドンを用いることで、所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することができる。請求項3に係る本発明では、容器の体積V、容器の表面積S、及び、容器のラドンフラックスFを用いて間隙の広がりの半径rを求め、間隙の状況を評価することができる。
【0013】
上記目的を達成するための請求項4に係る本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置は、岩盤外部から岩盤内部にわたり形成され、岩盤外部から水が供給されることにより岩盤内部に水を放出する第1孔通路と、岩盤外部から岩盤内部にわたり形成され、第1孔通路から放出された水が岩盤内部で回収されて岩盤外部に送られる第2孔通路と、第1孔通路と第2孔通路との間、及び、岩盤外部の第1の外部経路の間で水を循環させる第1循環経路と、第1孔通路と第2孔通路との間、及び、岩盤外部の、第1の外部経路とは容量が異なる第2の外部経路の間で水を循環させる第2循環経路と、第1循環経路及び第2循環経路により循環する水を採水して第1孔通路と第2孔通路との間における岩盤の間隙の表面積を評価する評価手段とを備え、評価手段は、岩盤のラドンフラックスの理論値Fnを求める機能と、第1の所定期間にわたり第1循環経路に水を循環させた後に第1循環経路に放出された第1のラドンの濃度[Rn1]を求める機能と、第1のラドン濃度[Rn1]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第1半径r1を求める機能と、第2の所定期間にわたり第2循環経路に水を循環させた後に第2循環経路に放出された第2のラドンの濃度[Rn2]を求める機能と、第2のラドン濃度[Rn2]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第2半径r2を求める機能と、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の第1孔通路と第2孔通路の間の間隙の幅wnを求める機能とを備えていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る本発明では、第1循環経路に流体を循環させた時の第1のラドン濃度[Rn1]と、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況とにより第1半径r1を求める一方、第2循環経路に流体を循環させた時の第2のラドン濃度[Rn2]と、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況とにより第2半径r2を求め、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の所定区域の間隙の幅wnを求めるので、幅wnに基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の状況を評価することができ、第1循環経路と第2循環経路で構築される経路の間隙の広がりに応じて間隙の状況(例えば、表面積)を的確に評価することができる。従って、自然状態における初期のラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、即ち、ボーリング掘削等の影響によりラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、確実に放射平衡状態のラドン濃度を第1のラドン濃度[Rn1]として適用して、間隙の状況(例えば、表面積)を的確に評価することができる。
【0015】
このため、所定の区域の岩盤の間隙の広がりにおける表面の凹凸が加味された状態で間隙の幅wnを求めて間隙の状況(表面積)を評価することができ、所定の区域の岩盤の間隙の広がりや間隙の表面状態を含めて間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0016】
この結果、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0017】
そして、請求項5に係る本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置は、請求項4に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置において、第1の外部経路は、岩盤外部で水を貯留する第1の容器と、第1の容器に貯留された水を第1孔通路に圧送する圧送経路と、第2孔通路から送られた水を第1容器に循環させる収容経路とを備え、第2の外部経路は、岩盤外部で水を貯留する第2の容器と、第2の容器に貯留された水を第2孔通路に圧送する圧送経路と、第2孔通路から送られた水を第2の容器に循環させる収容経路とを備え、評価手段における間隙の広がりの第1半径r1を求める機能の第1の循環経路の状況は、第1の容器の体積V1、第1の容器の表面積S1、及び、第1の容器のラドンフラックスF1を含み、評価手段における間隙の広がりの第2半径r2を求める機能の第2の循環経路の状況は、第2の容器の体積V2、第2の容器の表面積S2、及び、第2の容器のラドンフラックスF2を含むことを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る本発明では、水に放出されたラドンを用い、容器の体積V、容器の表面積S、及び、容器のラドンフラックスFを用いて間隙の広がりの半径rを求め、間隙の状況を評価することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及び装置は、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の広がりや表面積を含めた状況を的確に評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態例に係るラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置の全体構成図である。
【図2】間隙の状況評価を説明する概念図である。
【図3】処理フローチャートである。
【図4】ラドン濃度の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には本発明の一実施形態例に係るラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置の全体概念構成、図2には間隙の幅をディスクモデルで評価した際の概念、図3には本発明の一実施形態例に係るラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法の処理フロー、図4にはラドン濃度の経時変化を示してある。
【0022】
図1に基づいてラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置を説明する。
【0023】
図に示すように、岩盤1には外部から流体としての水が供給されることにより岩盤1の内部に水を放出する第1孔通路2が設けられている。第1孔通路2の先端部にはパッカー3で区画された放出空間4が形成され、第1孔通路2の孔口はパッカー6で塞がれている。放出空間4には第1ロッド5を介して岩盤1の外部(パッカー6で塞がれた部分の外側)から水が圧送される。
【0024】
尚、本実施例では、地下水が存在する岩盤1を想定して外部から流体として水を供給する例を挙げて説明したが、地下水が存在しない岩盤に適用する場合には、流体として空気や不活性ガスを用いることも可能である。
【0025】
一方、岩盤1には第2孔通路7が設けられ、第2孔通路7の先端部にはパッカー8で区画された流入空間9が形成され、第2孔通路7の孔口はパッカー10で塞がれている。第1孔通路2の放出空間4から岩盤1に放出された水は岩盤1の間隙ができている部位(割れ目の広がりの領域:図中点線で示してある)を流れて流入空間9に送られ、流入空間9に送られた水は第2ロッド21から岩盤1の外部(パッカー10で塞がれた部分の外側)に送られる。
【0026】
岩盤1の外部には第1孔通路2と第2孔通路7との間で水を循環させる循環路11が備えられている。循環路11には、岩盤1の外部で水を貯留する第1容器12及び第2容器22が備えられている。そして、第1容器12に貯留された水を第1孔通路2にそのまま送る第1経路25、及び、第1容器12に貯留された水と第2容器22に貯留された水を合わせて送る第2経路26が備えられ、第1経路25と第2経路26は図示しない切換え機構により切り換えられるようになっている。
【0027】
第1経路25と第2経路26の合流部の後流にはポンプ13が接続され、圧送管14(圧送経路)を介して水が第1孔通路2に圧送される。また、第2孔通路7から送られた水を容器12に循環させる収容管15(収容経路)が備えられている。即ち、第1経路25を経由する経路が第1の容器(第1容器12)を備えた第1循環経路(第1の外部経路:ポンプ13、圧送管14、収容管15)とされ、第2経路26を経由する経路が第2の容器(第1容器12及び第2容器22)を備えた第2循環経路(第2の外部経路:ポンプ13、圧送管14、収容管15)とされている。
【0028】
尚、第1の容器及び第2の容器として、第1容器12の容量を可変に構成することも可能である。また、第1の容器及び第2の容器として、容量が異なる第1容器12及び第2容器22を並列に接続することも可能である。
【0029】
循環路11、第1孔通路2、第2孔通路7を循環する水は、第1循環経路を循環した後、及び、第2循環経路を循環した後に採水され、水に放出されたウランの濃度や岩盤の岩石のウランフラックスの理論値Fn等に基づいて、評価手段16で間隙の状況が評価される。即ち、第1孔通路2の放出空間4と第2孔通路7流入空間9との間で区画された所定の区域における岩盤1の間隙の状況(割れ目の広がり、割れ目の幅、割れ目の表面積)が評価手段16で評価される。
【0030】
評価手段16は、岩盤のラドンフラックスの理論値Fnを求める機能(予め求められた理論値Fnを記憶する機能)と、第1の所定期間(例えば1年間)にわたり第1循環経路(第1経路25を経由する経路)に水を循環させた後に第1循環経路に放出された第1のラドンの濃度[Rn1]を求める機能と、第1のラドン濃度[Rn1]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第1半径r1を求める機能を備えている。
【0031】
また、評価手段16は、第2の所定期間(例えば、第1の所定期間が終了した後の一定時間経過後から1年間)にわたり第2循環経路(第2経路26を経由する経路)に水を循環させた後に第2循環経路に放出された第2のラドンの濃度[Rn2]を求める機能と、第2のラドン濃度[Rn2]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第2半径r2を求める機能を備えている。
【0032】
そして、評価手段16では、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の第1孔通路2と第2孔通路7の間の間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の幅wnを求め、幅wnに基づいた間隙の状況が評価される。
【0033】
図2に基づいて、割れ目の幅wの導出について説明する。岩盤R1と岩盤R2との間に幅wnの割れ目cが存在しているとし、幅wnの割れ目cを半径rのディスクモデルの範囲に広がっているものとする。このような岩盤R1、岩盤R2の表面から割れ目cにラドンが放出されるが、放出されたラドンと割れ目cの大きさとには次のような関係がある。
【数1】

【0034】
は平衡に達したラドン原子の数、Aは時刻tにおけるラドン原子の数、λはラドンの壊変定数、Fは割れ目表面におけるラドンフラックスである。ここで、tが半減期(222Rは3.8日)より十分に大きければ(例えば、半減期の10倍程度)ラドンは平衡に達するので、次式の関係が成り立つ。
【数2】

【0035】
したがって、数1と数2とから、割れ目の幅wは次式のように表せる。
【数3】

【0036】
つまり、ラドンフラックスと、岩盤R1、R2から割れ目に放出されたラドンの濃度から割れ目の幅wが推定できる。なお、ラドンフラックスは、岩盤R1、R2から取得した試料に基づいて理論上の値を求めることができる。また、放出されたラドンの濃度は、例えば、割れ目内のラドンを含む水を採取し、固体放射線センサ等を用いてラドンの量(放射線のトラック数)を計測することにより行うことができる。
【0037】
評価手段16では、第1循環経路(第1経路25を経由する経路)に水を循環させた後(第1循環後)に水を採水し、第1循環経路に放出されたラドンの濃度[Rn1]を求め、数式3に説明した計算により、ラドンの濃度[Rn1]とラドンフラックスの理論値Fnとから岩盤1の間隙(割れ目)の幅wn1(理論値)を導出する。
【0038】
そして、このラドン濃度[Rn1]、割れ目(間隙)の幅wn1及び第1経路25の状況に基づいて間隙の広がりの第1半径r1を求めるようになっている。第1半径r1を求める際の第1経路25の状況は、第1容器12の体積V1、第1容器12の表面積S1、及び、第1容器12のラドンフラックスF1を含んでいる。
【0039】
また、評価手段16では、第2の所定期間にわたり第2循環経路(第2経路26を経由する経路)に水を循環させた後(第2循環後)に水を採取し、第2循環経路に放出されたラドンの濃度[Rn2]を求め、数式3に説明した計算により、ラドンの濃度[Rn2]とラドンフラックスの理論値Fnとから岩盤1の間隙(割れ目)の幅wn2(理論値)を導出する。
【0040】
そして、このラドン濃度[Rn2]、割れ目(間隙)の幅wn2及び第2経路26の状況に基づいて間隙の広がりの第2半径r2を求めるようになっている。つまり、容量が異なる循環経路に水を循環させて間隙の広がりの第2半径r2を求めている。第2半径r2を求める際の第2経路26の状況は、第1容器12と第2容器22を加えた状態の容器の体積V2、第1容器12と第2容器22を加えた状態の容器の表面積S2、及び、第1容器12と第2容器22のラドンフラックスF2を含んでいる。
【0041】
そして、評価手段16では、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとし、第1半径r1及び第2半径r2を求める式(後述する)に基づいて岩盤1の間隙(割れ目)の幅wnが求められる。つまり、理論値としての幅wn1、幅wn2に基づいて第1半径r1及び第2半径r2を求めた後、各経路での容器の体積、表面積、ラドンフラックスの情報を加味し、岩盤内部の第1孔通路2と第2孔通路7の間の間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の幅wnが求められるようになっている。求められたwnに基づいて間隙の状況が評価される。
【0042】
第1循環により間隙の広がりの第1半径r1を求め、循環する水の容量が異なる第2循環により同じ間隙での広がりの第2半径r2を求め、第1半径r1と第2半径r2が等しいとして岩盤内部の第1孔通路2と第2孔通路7の間の間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の幅wnを求めている。このため、第1半径r1及び第2半径r2により間隙の表面積S(=2πr)を評価することができ、所定の区域の岩盤の間隙の幅wnを的確に求めることができる。
【0043】
従って、自然状態における初期のラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、即ち、ボーリング掘削等の影響によりラドン濃度が放射平衡状態になっていない場合であっても、確実に放射平衡状態のラドン濃度を第1のラドン濃度[Rn1]として適用し、間隙の状況(例えば、表面積)を的確に評価することができる。このため、自然状態における初期のラドン濃度に拘わらず、間隙面に凹凸があっても、表面の凹凸が加味された状態で表面積Sを的確に評価することができると共に、所定の区域の岩盤の間隙の幅wnを求めることができ、所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0044】
図3、図4に基づいて上述したラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置により間隙(割れ目)の状況を評価する方法を具体的に説明する。
【0045】
ステップS1で岩盤1の岩石のラドンフラックスを室内で測定し、ラドンフラックスの理論値Fn(Bq/m)とする。
【0046】
第1経路25により水の循環を開始する(第1循環)。所定量の水をポンプ13により第1ロッド5から第1孔通路2の放出空間4に圧送し、岩盤1に通水して第2孔通路7の流入空間9に流入させる。流入空間9に流入した水を第1容器12に収容すると共に、ポンプ13により第1容器12内の水を第1孔通路2に循環させる。第1孔通路2、第2孔通路7、循環路11(第1経路25)の経路に対して、例えば、1年間水を循環させる。
【0047】
図4に示すように、自然状態のラドン濃度[Rnn](Bq/m)に対し(□印)、水の循環を開始すると、ラドンの放出がない循環路11(第1容器12だけを流通する流路)の容積により、ラドン濃度は時間の経過と共に低下する。所定期間(例えば、1年間)にわたり循環路11(第1経路25)に水を循環させた後、ラドン濃度は[Rn1](Bq/m)となる(○印:[Rnn]>[Rn1])。循環を終了すると、ラドン濃度が徐々に高くなり自然状態のラドン濃度[Rnn](Bq/m)になる(■印)。
【0048】
第1循環の後に水を注水し、図3のステップS2に示すように、ラドン濃度[Rn1](Bq/m)及びラドンフラックスの理論値Fnにより間隙幅wn1(理論値)を求める(数式3)。ステップS3で間隙(割れ目)の第1半径r1を算出する。割れ目の第1半径r1(m)は、注水した循環後の水のラドン濃度[Rn1](Bq/m)、第1容器12の体積V1(m)、第1容器12の表面積S1(m)、及び、第1容器12のラドンフラックスF1(Bq/m)に基づいて以下の数式4により求める。
【数4】

【0049】
図4に示すように、第1循環が終了した後、自然状態のラドン濃度[Rnn](Bq/m)になった際に(■印)、第2経路26により第2循環を開始する。図1に示すように、所定量の水をポンプ13により第1ロッド5から第1孔通路2の放出空間4に圧送し、岩盤1に通水して第2孔通路7の流入空間9に流入させる。流入空間9に流入した水を第1容器12及び第2容器22に収容すると共に、ポンプ13により第1容器12内及び第2容器22内の水を第1孔通路2に循環させる。第1孔通路2、第2孔通路7、循環路11(第2経路26)の経路に対して、例えば、1年間水を循環させる。
【0050】
図4に示すように、自然状態のラドン濃度[Rnn](Bq/m)に対し(■印)、水の循環を開始すると、ラドンの放出がない循環路11(第1容器12及び第2容器22を流通する流路)の容積により、ラドン濃度は時間の経過と共に低下する。所定期間(例えば、1年間)にわたり循環路11(第2経路26)に水を循環させた後、ラドン濃度は[Rn2](Bq/m)となる(●印:[Rn1]>[Rn2])。
【0051】
第2循環の後に水を注水し、図3のステップS4に示すように、ラドン濃度[Rn2](Bq/m)及びラドンフラックスの理論値Fnにより間隙幅wn2(理論値)を求める(数式3)。ステップS5で間隙(割れ目)の第2半径r2を算出する。割れ目の第2半径r2(m)は、注水した循環後の水のラドン濃度[Rn2](Bq/m)、第1容器12及び第2容器22の合計の体積V2(m)、第1容器12及び第2容器22の合計の表面積S2(m)、及び、第1容器12及び第2容器22のラドンフラックスF2(Bq/m)に基づいて以下の数式5により求める。
【数5】

【0052】
割れ目の第1半径r1(m)、第2半径r2(m)が算出されることで、第1半径r1(m)、第2半径r2(m)に基づいて(割れ目の広がりに応じた)表面積S(m)がS=2πrにより算出される。
【0053】
第1半径r1(m)、第2半径r2(m)が算出された後、図3のステップS6に示すように、第1半径r1(m)及び第2半径r2(m)が等しいとされ、各経路での容器の体積、表面積、ラドンフラックスの情報が加味されて、岩盤1の間隙(割れ目)の幅wn(評価値)が求められる。この場合、間隙幅wn1及び間隙幅wn2も等しいとされ、経路の状況が反映された岩盤1の間隙(割れ目)の幅wnが求められる。
【0054】
即ち、経路の状況が反映された岩盤1の間隙(割れ目)の幅wnは、以下の数式6により求める。
【数6】

【0055】
上述したように、容量が異なる水を循環させて岩盤内部の第1孔通路2と第2孔通路7の間の間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の幅wnを求めているので、第1半径r1及び第2半径r2により間隙の表面積S(=2πr)を評価することができ、自然状態における初期のラドン濃度に拘わらず、所定の区域の岩盤の間隙の幅wnを的確に求めることができる。このため、間隙の広がりにおける表面の凹凸が加味された状態で割れ目の表面積Sを評価することができ、所定の区域の岩盤の間隙の表面状態を含めて間隙の表面積を評価することができ、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況を的確に評価することが可能になる。
【0056】
尚、上述した実施例では、第1経路25の状態として、第1容器12の体積V1、第1容器12の表面積S1、及び、第1容器12のラドンフラックスF1に基づいて演算し、第2経路26の状況は、第1容器12と第2容器22を加えた状態の容器の体積V2、第1容器12と第2容器22を加えた状態の容器の表面積S2、及び、第1容器12と第2容器22のラドンフラックスF2に基づいて演算しているが、実際に体積・表面積、フラックスを評価する際には、例えば、間隙(所定の区域の岩盤の間隙)以外の、配管やポンプ13、パッカーで区切った区間の第1孔通路2、第2孔通路7の体積・表面積、フラックスを含める必要があることも考えられる。これらの分は、便宜上、間隙(所定の区域の岩盤の間隙)の体積・表面積、フラックスに比べて微々たる値として0とみなすことができる。実際に求める場合、タンクと配管等の状況により、実際の体積・表面積、フラックスを加味して演算を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ラドンを用いて所定の区域の岩盤の間隙の状況(幅、表面積)を評価するラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法及び評価装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 岩盤
2 第1孔通路
3、6、8、10 パッカー
4 放出空間
5 第1ロッド
7 第2孔通路
9 流入空間
11 循環路
12 第1容器
13 ポンプ
14 圧送管
15 収容管
16 評価手段
21 第2ロッド
22 第2容器
25 第1経路
26 第2経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤内部の所定区域と岩盤外部との間で、岩盤外部の容量が異なる流体の第1循環経路及び流体の第2循環経路を構築し、
岩盤のラドンフラックスの理論値Fnを求め、
第1所定期間にわたり第1循環経路に流体を循環させた後に流体に放出された第1のラドン濃度[Rn1]を求め、
第1のラドン濃度[Rn1]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況に基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の広がりの第1半径r1を求める一方、
第2所定期間にわたり第2循環経路に流体を循環させた後に流体に放出された第2のラドン濃度[Rn2]を求め、
第2のラドン濃度[Rn2]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況に基づいて岩盤内部の所定区域の間隙の広がりの第2半径r2を求め、
第1半径r1及び第2半径r2を求めた後、第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の所定区域の間隙の幅wnを求める
ことを特徴とするラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法において、
循環させる前記流体は水である
ことを特徴とするラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法において、
第1循環経路及び第2循環経路は水が貯留される容器を含み、
第1循環経路の状況は、容器の体積V1、容器の表面積S1、及び、容器のラドンフラックスF1を含み、
第2循環経路の状況は、容器の体積V2、容器の表面積S2、及び、容器のラドンフラックスF2を含む
ことを特徴とするラドンによる岩盤の間隙状況の評価方法。
【請求項4】
岩盤外部から岩盤内部にわたり形成され、岩盤外部から水が供給されることにより岩盤内部に水を放出する第1孔通路と、
岩盤外部から岩盤内部にわたり形成され、第1孔通路から放出された水が岩盤内部で回収されて岩盤外部に送られる第2孔通路と、
第1孔通路と第2孔通路との間、及び、岩盤外部の第1の外部経路の間で水を循環させる第1循環経路と、
第1孔通路と第2孔通路との間、及び、岩盤外部の、第1の外部経路とは容量が異なる第2の外部経路の間で水を循環させる第2循環経路と、
第1循環経路及び第2循環経路により循環する水を採水して第1孔通路と第2孔通路との間における岩盤の間隙の表面積を評価する評価手段とを備え、
評価手段は、
岩盤のラドンフラックスの理論値Fnを求める機能と、
第1の所定期間にわたり第1循環経路に水を循環させた後に第1循環経路に放出された第1のラドンの濃度[Rn1]を求める機能と、
第1のラドン濃度[Rn1]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第1循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第1半径r1を求める機能と、
第2の所定期間にわたり第2循環経路に水を循環させた後に第2循環経路に放出された第2のラドンの濃度[Rn2]を求める機能と、
第2のラドン濃度[Rn2]、ラドンフラックスの理論値Fn及び第2循環経路の状況に基づいて間隙の広がりの第2半径r2を求める機能と、
第1半径r1及び第2半径r2が等しいとして岩盤内部の第1孔通路と第2孔通路の間の間隙の幅wnを求める機能とを備えている
ことを特徴とするラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載のラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置において、
第1の外部経路は、
岩盤外部で水を貯留する第1の容器と、
第1の容器に貯留された水を第1孔通路に圧送する圧送経路と、
第2孔通路から送られた水を第1の容器に循環させる収容経路とを備え、
第2の外部経路は、
岩盤外部で水を貯留する第2の容器と、
第2の容器に貯留された水を第2孔通路に圧送する圧送経路と、
第2孔通路から送られた水を第2の容器に循環させる収容経路とを備え、
評価手段における間隙の広がりの第1半径r1を求める機能の第1の循環経路の状況は、
第1の容器の体積V1、第1の容器の表面積S1、及び、第1の容器のラドンフラックスF1を含み、
評価手段における間隙の広がりの第2半径r2を求める機能の第2の循環経路の状況は、
第2の容器の体積V2、第2の容器の表面積S2、及び、第2の容器のラドンフラックスF2を含む
ことを特徴とするラドンによる岩盤の間隙状況の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32956(P2013−32956A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168843(P2011−168843)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度経済産業省「平成23年度地層処分技術調査等事業(地層処分共通技術調査:岩盤中地下水移行評価技術高度化開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】