説明

ラフィノースの精製方法

【課題】甜菜製糖工程汁などのラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液から、三糖類であるケストース類を選択的に除去して同じ三糖類であるラフィノースを分離・精製する方法を提供する。
【解決手段】ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて酵素処理することで、三糖類であるラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解し、簡便かつ効率的にラフィノースを精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラフィノースの精製方法に関するものであり、より詳細には、同じ三糖類であるラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液からのラフィノース精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラフィノースは、植物などから抽出、分離・精製して得られる天然のオリゴ糖であり、D−ガラクトース、D−グルコースおよびD−フラクトース各1分子から構成され、ショ糖にガラクトースが結合した形の三糖類である。その特徴は、数あるオリゴ糖のなかで全く吸湿性がない唯一のオリゴ糖であること、ビフィズス菌増殖効果、免疫賦活作用、アトピー性皮膚炎改善効果などの生理機能を有することなどが挙げられ、非常に有用なオリゴ糖として各種利用されている。
【0003】
ラフィノースの製造は、主としてビート(砂糖大根)糖の製糖工程副産物などからクロマトグラフ法等によって取り出され、精製・結晶化して得られる。しかし、例えば甜菜製糖工程汁(三糖類としてラフィノースの他にケストース類(例えば、1−ケストース、ネオケストースなど)が含まれている)からのラフィノースの分離に採用している陽イオン交換樹脂クロマトグラフィーは、同じ三糖類であるケストース類とラフィノースの分離が不良である。
【0004】
このことがラフィノースを製造する場合に障害となり、現状では甜菜製糖工程汁などから効率的にラフィノースを製造することができない。つまり、ラフィノース製造工程において回収率を向上させるために結晶化時のシラップをクロマトグラフィー原料および結晶化原料に混合させ工程中を循環させた場合、ケストース類が工程中に蓄積しラフィノース純度が下がって、それ以上のラフィノースの回収が困難になる。
【0005】
なお、ラフィノースとケストース類の分離精製については、特許文献1に記載の方法が提案されている。これは、Streptomyces属菌由来のエキソ型イヌリン分解酵素を用いてラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解するというものである。しかし、この酵素では、実質的にはラフィノースと1−ケストースの混合液からのラフィノース分離のみしか行えず、例えば、当該酵素はネオケストースが分解できないためラフィノースとネオケストースの分離はできない。また、当該酵素の1−ケストースに対する活性の強さ自体についても、ラフィノース精製という目的で利用するには十分なものではない。
【0006】
ここで、オリゴ糖を分解する酵素については、その基質特異性は様々であり、1−ケストースを分解できる酵素が当然にネオケストースなどの他のケストース類も分解できるとはいえないのが最近の当業界の見解である。例えば、本発明者らが最近見いだしたゴボウ由来のフルクタン加水分解酵素は、1−ケストースは分解するがネオケストースは分解しない(特許文献2)。また、ケストース類全般に対して分解活性を有する酵素では、同じ三糖類であるラフィノースも分解するのが通常である。
【0007】
このように、ラフィノースと他のオリゴ糖の分離精製技術はいくつか提供されているものの、特に甜菜製糖工程汁から製造する場合などにおいては未だ満足できるものではないのが現状である。そのため、当業界において、甜菜製糖工程汁から製造する場合などにも利用することができる新規なラフィノース精製技術の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−42900号公報
【特許文献2】特開2011−50363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、甜菜製糖工程汁などのラフィノースとケストース類(いずれも三糖類)が混在しているラフィノース含有液から、ケストース類を選択的に除去してラフィノースを精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて酵素処理することで、ラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解し、簡便かつ効率的にラフィノースを精製できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて、ラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解し、ラフィノースは残存させること、を特徴とするラフィノースの精製方法。
(2)1−ケストース及びネオケストースを選択的に分解すること、を特徴とする(1)に記載の方法。
(3)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌が、Bifidobacterium longumであること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)Bifidobacterium longumが、JCM1217株であること、を特徴とする(3)に記載の方法。
(5)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子がコードするタンパク質、又は、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子がコードし且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌が、Bifidobacterium sp. NT834株(FERM P−22055)であること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(8)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする(1)〜(2)、(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号4に記載の塩基配列からなる遺伝子がコードするタンパク質、又は、配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子がコードし且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする(1)〜(2)、(7)〜(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)ラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液が、甜菜製糖工程汁であること、を特徴とする(1)〜(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて処理したラフィノース含有液を、更にクロマト処理すること、を特徴とする(1)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、甜菜製糖工程汁などの、いずれも三糖類であるラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液から、ケストース類(1−ケストース、ネオケストース)を選択的に除去し、ラフィノースを簡便かつ効率的に精製することができる。したがって、本発明の精製方法を用いることで、有用な機能性素材である高純度ラフィノースを安価且つ大量に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Bifidobacterium longum JCM1217株由来のβ−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列(一文字記号)を示す。
【図2】Bifidobacterium longum JCM1217株由来のβ−フルクトフラノシダーゼをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【図3】Bifidobacterium sp. NT834株由来のβ−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列(一文字記号)を示す。
【図4】Bifidobacterium sp. NT834株由来のβ−フルクトフラノシダーゼをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、ラフィノース含有液中のケストース類(1−ケストース、ネオケストース)を選択的に分解し、ラフィノースを分離・精製するため、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いる。
【0015】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼは、これに限定されるものではないが、Bifidobacterium longum由来のものが好ましい。一例として、Bifidobacterium longum JCM1217株由来のβ−フルクトフラノシダーゼ(配列番号1及び図1にそのアミノ酸配列を示す)を挙げることができる。
【0016】
また、他の由来の例としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌であるBifidobacterium sp. NT834株由来のβ−フルクトフラノシダーゼ(配列番号3及び図3にそのアミノ酸配列を示す)を挙げることができる。
【0017】
Bifidobacterium longum JCM1217株については、信用できる保存機関である日本国茨城県つくば市高野台3丁目1番地の1の独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンターに保存され、当センターの発行する微生物株カタログにより自由に分譲されうる。
【0018】
また、Bifidobacterium sp. NT834株については、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−22055として平成23年(2011年)1月13日に寄託されている。
【0019】
更には、上記菌株由来のβ−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質、上記菌株由来のβ−フルクトフラノシダーゼをコードする遺伝子と相補的な塩基配列からなるDNAと、例えばこのDNAをプローブとして用いたストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションによってハイブリダイズする遺伝子がコードし、且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質なども用いることができる。
【0020】
なお、ここでいうストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件の一例を示せば、70%以上の相同性を有するDNAどうしがハイブリダイズし、それより相同性が低いDNAどうしがハイブリダイズしない条件、あるいは通常のハイブリダイゼーションの洗浄条件、例えば1×SSCで0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃の温度で洗浄が行われる条件などが挙げられる。
【0021】
上記のようなビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼをケストース類を含むラフィノース含有液に作用させれば、三糖類のうちケストース類(1−ケストース、ネオケストース)のみが選択的に分解され、クロマト処理によってラフィノースと分離されやすい二糖類及び/又は単糖類となる。この場合、当該β−フルクトフラノシダーゼはラフィノースに作用しないため、酵素処理後においてもラフィノースは保存される。なお、当該β−フルクトフラノシダーゼにより、1−ケストースにフルクトースが1分子結合したニストースや2分子結合したフルクトシルニストースもケストース類と同様に分解される。本発明におけるケストース類を含むラフィノース含有液の酵素分解反応において、ケストース類が10〜80重量%程度含まれていても問題なく処理できる。また、酵素分解反応における糖濃度は0.1%〜20%(w/v)が好ましい。
【0022】
酵素反応温度は、好ましくは20〜55℃、より好ましくは30〜50℃である。反応温度が20℃未満では、反応時間がきわめて長くなる。また60℃を超えると酵素活性の失活が早くなる。酵素反応時のpHは、好ましくはpH4.5〜7.5、より好ましくはpH4.5〜6.5である。
【0023】
本発明の方法において、ケストース類を加水分解したラフィノース溶液からラフィノースを分離・精製する方法として、陽イオンクロマトグラフィーや陰イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、活性炭クロマトグラフィー等のクロマト処理や、結晶化などが挙げられる。クロマト処理はこれらの方法を単独で用いてもよいし、組み合わせてもよい。また、移動床方式や擬似移動床方式、多成分分離循環方式等を利用してもよい。このクロマト処理により、ラフィノースと単糖類及び二糖類(場合によっては4つ以上の糖が結合したオリゴ糖)とを分離でき、また脱塩・脱色も行うことができる。
【0024】
また、ラフィノースの結晶化については、冷却結晶化法(例えば特公昭56−39640、特開平11−75900)や、蒸発結晶化法(例えば特開2009−95281)により行うことができる。
【0025】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0026】
(ビフィドバクテリウム属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼの取得)
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼの取得は、Bifidobacterium longum JCM1217株及びBifidobacterium sp. NT834株を用い、これらから該当する遺伝子を取得し、大腸菌で組換えタンパク質として発現させる方法を用いた。
【0027】
まず、Bifidobacterium longum JCM1217株及びBifidobacterium sp. NT834株をそれぞれGAMブイヨン培地中で37℃、12時間静置培養した。その後、遠心分離処理(1700×g、10分間)を行って菌体を回収し、20mM Tris−HClバッファー(pH8.0)で2回洗浄した。そして、この菌体より、DNeasy Tissue Kit(Qiagen社製品)を用いて、ゲノムDNAを抽出した。
【0028】
このゲノムDNAを鋳型として、当該酵素の部分アミノ酸配列情報から作製した各種プライマーを用いてdegenerate PCR、TAIL−PCR及びinverse PCRを行い、それぞれのβ−フルクトフラノシダーゼ遺伝子をクローニングし定法により塩基配列を決定した。Bifidobacterium longum JCM1217株のβ−フルクトフラノシダーゼ遺伝子の塩基配列は配列番号2及び図2に、そのコードするタンパク質のアミノ酸配列は配列番号1及び図1に示した。また、Bifidobacterium sp. NT834株のβ−フルクトフラノシダーゼ遺伝子の塩基配列は配列番号4及び図4に、そのコードするタンパク質のアミノ酸配列は配列番号3及び図3に示した。
【0029】
これらの遺伝子を、大腸菌発現ベクターpET−32bに挿入し、大腸菌(Escherichia coli Rosetta2(DE3))を形質転換した。得られた形質転換体について、組換えタンパク質発現誘導培養を行い、菌体回収、バッファーによる洗浄(50mM NaHPO,300mM NaCl,pH7.5)、超音波破砕、遠心分離処理(1700×g、10分間)を行って粗酵素液(上清)を調製した。
【0030】
粗酵素液から、TALON CellThru Resin(タカラバイオ社製品、登録商標)で組換えタンパク質を回収し、更にクロマトグラフィー等によって精製し、β−フルクトフラノシダーゼ活性を有することを確認して精製酵素液とした。なお、Bifidobacterium longum JCM1217株由来の酵素液を酵素1、Bifidobacterium sp. NT834株由来の酵素液を酵素2とした。
【0031】
また、当該酵素液のβ−フルクトフラノシダーゼ活性測定については、1−ケストースの末端フルクトースを加水分解する反応を触媒し、フルクトース残基を遊離する活性をβ―フルクトフラノシダーゼ活性とした。
β―フルクトフラノシダーゼ活性測定方法は、20mM 1−ケストース50μL、0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)25μL、酵素液25μLを混合し、37℃で10分間反応させた後、100℃で5分間煮沸して反応を停止させた。反応停止後、反応生成物であるフルクトースを高速液体陰イオン交換クロマトグラフィー(HPLC分析条件、Dionex社 Carbo Pac PA−1、室温、150mM 水酸化ナトリウム溶液1mL/min、パルスドアンペロメトリー検出器)により定量した。酵素活性は、上記条件下で、1分間に1μmolのフルクトースを生成する酵素量を1U(ユニット)とした。
【実施例2】
【0032】
(ラフィノース含有液からのラフィノース精製試験I)
実施例1で取得した酵素1及び酵素2について、以下のラフィノースと1−ケストースが混在しているラフィノース含有液からのラフィノース分離・精製試験を行った。
【0033】
(a)酵素反応
1−ケストースが終濃度で50mM(2.5%w/v)と、ラフィノースが終濃度で50mM(2.5%)となるように、10mMリン酸緩衝液(pH5.7)に溶解した糖液8Lに、各β−フラクトフラノシダーゼ液(酵素1又は酵素2、6400U)を混合し、37℃で1時間酵素反応を行った。反応終了後、沸騰水中で5分間保持することで反応を停止した。反応溶液を高速液体陰イオン交換クロマトグラフィー(HPLC分析条件、Dionex社 Carbo Pac PA−1、室温、150mM 水酸化ナトリウム溶液1mL/min、パルスドアンペロメトリー検出器)で分析した。
【0034】
結果を表1に示す。この結果から、上記酵素を用いて処理することで1−ケストースのみが分解され、ラフィノースは分解されずに保存された。なお、ラフィノースに対する活性を1とした1−ケストースに対する相対活性値の算出式は次の通りである。
【0035】
相対活性値=酵素分解によって分解した1−ケストース量(mol)/
酵素分解によって分解したラフィノース量(mol)
【0036】
【表1】

【0037】
(b)ラフィノースの分離方法
反応溶液を1000mL(糖濃度58%w/w)にまで減圧濃縮する。反応液を陽イオン交換樹脂(ナトリウム型)に負荷し、水にて三糖、二糖類、単糖類の順に溶出させ、三糖溶出画分を集めた。
なお、反応溶液を1000mL(糖濃度77%w/v)にまで減圧濃縮し、温度約80℃で擬似移動床法による多成分分離装置に通液して多成分分離(三糖画分、二糖類画分、単糖類画分)を行うことによっても同様の結果を得ることができた。
【0038】
(c)ラフィノースの結晶化
上記(b)にて得られた三糖画分(ラフィノース純度90〜98%)を58%(w/w)まで濃縮した後、液温を40時間で最終20℃迄に、時間の経過とともに大略逆比例的に低下させた。また、攪拌機の攪拌速度は10rpmで行った。得られた白下を、分離機で分離して、ラフィノース結晶と振蜜を得た。ラフィノースの結晶化率は60%であった(表2)。これに対し、酵素反応前のケストース:ラフィノース=1:1混合液についても同様に結晶化を行ったが、ラフィノースの結晶化率は35%であった(表2)。なお、ラフィノースの結晶化率の算出式は次の通りである。
【0039】
ラフィノース結晶化率 =
{結晶純度×(白下純度―振蜜純度)}×100/{白下純度×(結晶純度―振蜜純度)}
【0040】
【表2】

【実施例3】
【0041】
(ラフィノース含有液からのラフィノース精製試験II)
実施例1で取得した酵素1及び酵素2について、以下のラフィノースと1−ケストース、ネオケストースが混在しているラフィノース含有液からのラフィノース分離・精製試験を行った。
【0042】
1−ケストースが終濃度で50mM(2.5%w/v)と、ネオケストースが終濃度で50mM(2.5%w/v)、さらにラフィノースが終濃度で50mM(2.5%)となるように、10mMリン酸緩衝液(pH5.7)に溶解した糖液8Lに、各β−フラクトフラノシダーゼ液(酵素1又は酵素2、6400U)を混合し、37℃で1時間酵素反応を行った。反応終了後、沸騰水中で5分間保持することで反応を停止した。反応溶液を高速液体陰イオン交換クロマトグラフィー(HPLC分析条件、Dionex社 Carbo Pac PA−1、室温、150mM 水酸化ナトリウム溶液1mL/min、パルスドアンペロメトリー検出器)で分析した。
【0043】
結果を表3〜5に示す。この結果から、上記酵素を用いて処理することで1−ケストース及びネオケストースが分解され、ラフィノースは分解されずに保存された。なお、ラフィノースに対する活性を1とした1−ケストース、ネオケストースに対する相対活性値の算出式は次の通りである。
【0044】
相対活性値=酵素分解によって分解した1−ケストース又はネオケストース量(mol)
/酵素分解によって分解したラフィノース量(mol)
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
これらを、実施例2と同様にクロマト処理及びラフィノースの結晶化を行い、ラフィノースの結晶化率は実施例2と同じ60%であったのに対し、ケストース類とラフィノースの混合液は35%であった(表6)。なお、ラフィノースの結晶化率の算出については実施例2の方法に準じた。
【0049】
【表6】

【0050】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0051】
本発明は、甜菜製糖工程汁などのラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液から、三糖類であるケストース類を選択的に除去して同じ三糖類であるラフィノースを分離・精製する方法を提供することを目的とする。
【0052】
そして、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて、三糖類であるラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解することで、簡便かつ効率的にラフィノースを精製する。
【受託番号】
【0053】
本発明において寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)Bifidobacterium sp. NT834株(FERM P−22055)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて、ラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液中のケストース類を選択的に分解し、ラフィノースは残存させること、を特徴とするラフィノースの精製方法。
【請求項2】
1−ケストース及びネオケストースを選択的に分解すること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌が、Bifidobacterium longumであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Bifidobacterium longumが、JCM1217株であること、を特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子がコードするタンパク質、又は、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子がコードし且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌が、Bifidobacterium sp. NT834株(FERM P−22055)であること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする請求項1〜2、7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼが、配列番号4に記載の塩基配列からなる遺伝子がコードするタンパク質、又は、配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子がコードし且つβ−フルクトフラノシダーゼ活性を有するタンパク質であること、を特徴とする請求項1〜2、7〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ラフィノースとケストース類が混在しているラフィノース含有液が、甜菜製糖工程汁であること、を特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼを用いて処理したラフィノース含有液を、更にクロマト処理すること、を特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−27359(P2013−27359A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166064(P2011−166064)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(503096591)学校法人酪農学園 (13)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】