説明

ラベル化ヌクレオチドの精製方法及びそれを用いる核酸配列解読装置

【課題】純度の高いラベル化ヌクレオチドを、HPLCを用いるよりも安価に且つ短時間で容易に調製することができる方法を提供する。
【解決手段】ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)との混合物を、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)の相補塩基を含む精製用核酸テンプレート、プライマー及び核酸ポリメラーゼを含む精製用核酸合成系に供する工程を含み、前記精製用核酸合成系において、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)が、前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)に優先して前記核酸ポリメラーゼに取り込まれ伸長鎖に変換されることによって、前記混合物中の前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)の純度を上げる、ラベル化ヌクレオチドの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一分子SBS(合成時解読Sequence by Synthesis)法を用いたDNAシーケンサの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAシーケンス法は、2005年以前においては、超音波でばらばらにしたDNA断片をサンガー法で解析する手法により行われていた(ショットガン法)。
2006年頃を境に技術革新が起こり、http://www.roche-diagnostics.jp/news/06/02/23.html(非特許文献1)に記載されているような、並列処理を行うことによって高スループットを実現した次世代型のゲノムシーケンサが一般的となった。
【0003】
並列処理の方法は、基板上に鋳型DNAを固定し、ヌクレオチド合成の過程を顕微鏡などで同時に観察することで実現している。シグナルの取得や(ポリ)ヌクレオチドの合成方法は各社で異なり、代表的なものとしては、ロシュ・ダイアグノスティックス社454パイロシーケンス、ヘリコス社及びイルミナ社のSBS(sequence by synthesis)、ライフ・テクノロジーズ社のSBH(sequencing by hybridyzation)が挙げられる。
より具体的には、DNAシーケンス法として、米国特許第4863849号(特許文献1)、国際公開第9013666号(特許文献2)(全反射照明蛍光(TIRF)を用いて基板上で合成した信号を得るSBS法の最初の特許)が挙げられる。
【0004】
SBS法を用いたDNAシーケンス方法においては、PCRによりコピーしたDNAテンプレートに対してSBSを行う方法と、一分子を対象としてSBSを行う方法とがある。
コピーしたDNAテンプレートを用いるSBS法においては、基板上において1種類のDNAテンプレートをコピーすることによりクラスター化させ、ラベル化dNTPアナログのラベルを検出することによってシーケンスを行う。この際、クラスターを形成する複数のDNAテンプレートそれぞれにおいてポリメラーゼに取り込まれたラベル化dNTPアナログのラベルがまとめて検出される。このため、たとえ基質に数%程度の非ラベルdNTPが存在することにより、クラスターを形成するDNAテンプレートの一部において前記非ラベルdNTPが取り込まれても、同じクラスターを形成する他のDNAテンプレートにおいてラベル化dNTPが取り込まれるため、検出エラーにはならない。
【0005】
一方、一分子を対象としたSBS法においては、一分子のDNAテンプレートにおいてポリメラーゼに取り込まれた一分子の蛍光ラベルdNTPを検出する。このため、基質に数%の非ラベルdNTPが存在していれば、一分子のDNAテンプレートにおいて前記非ラベルdNTPが取り込まれることが検出エラーに直結する。
【0006】
基質となる蛍光ラベルdNTPは一般的には95%以上の純度のものが市販されている。例えば、GEヘルスケアから出荷されたCy3−dCTPのデータシート(非特許文献2)を参照すると、純度が96.6%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4863849号
【特許文献2】国際公開第9013666号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社「プレスリリース2006革新的なハイスループットDNAシークエンス・システム ゲノムシークエンサー20システムの発売」[online]、[平成22年9月1日検索]、インターネット<URL:http://www.roche-diagnostics.jp/news/06/02/23.html>
【非特許文献2】GEヘルスケア Cy3−dCTPデータシート
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
蛍光ラベルdNTPの市販品は、そのままの純度でDNAシーケンスに使用されることが通常である。しかしながら、市販物の純度で一分子DNAテンプレートを対象にしたSBS法を行うと、非ラベルdNTPが取り込まれることにより検出エラーが生じる。このため、非ラベルdNTPの混在量に比例して検出エラーが多くなる。蛍光ラベルdNTPの純度を上げることはHPLCを用いることによって可能であるが、この場合は高額なHPLC装置が必要となる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、純度の高いラベル化dNTPを、HPLCを用いるよりも安価に且つ短時間で容易に調製することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、非ラベルdNTPを不純物として含むラベル化dNTPを精製用核酸合成系に供することによって、上記本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の発明を含む。
【0012】
(1)
ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)との混合物から、前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)を精製する方法であって、
ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)との混合物を、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)の相補塩基を含む精製用核酸テンプレート、プライマー及び核酸ポリメラーゼを含む精製用核酸合成系に供する工程を含み、
前記精製用核酸合成系において、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)が、前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)に優先して前記核酸ポリメラーゼに取り込まれ伸長鎖に変換されることによって、前記混合物中の前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)の純度を上げる、ラベル化ヌクレオチドの精製方法。
【0013】
(2)
前記核酸テンプレートが固体表面に固定化されたものである、(1)に記載の方法。
(3)
前記固体表面が、核酸配列解読装置における試薬供給部の、前記混合物が接触する表面である、(2)に記載の方法。
(4)
前記固体が磁気ビーズである、(2)に記載の方法。
(5)
前記ラベル基が蛍光基である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)
(1)〜(5)のいずれかに記載の方法によって得られた、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ精製物。
【0014】
(7)
合成時解読用核酸合成部と、ラベル基を有するヌクレオチドアナログを供給する試薬供給部であって前記合成時解読用核酸合成部に連結する流路を有する試薬供給部とを有し、前記流路の内壁に、(3)に記載の方法を行うための核酸テンプレートが固定化されている、核酸配列解読装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、純度の高い蛍光ラベル化ヌクレオチドを、HPLCを用いるよりも安価に且つ短時間で容易に調製することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によってラベル基を有しないヌクレオチドが精製用テンプレートに取り込まれた態様を模式的に示した図である。
【図2】精製用テンプレートが磁気ビーズ表面に固定化されている場合において、ラベル基を有しないヌクレオチドが精製用DNAテンプレートに取り込まれた態様を模式的に示した図である。
【図3】精製用テンプレートが核酸配列解読装置内の流路内壁に固定化されている場合において、ラベル基を有しないヌクレオチドが精製用DNAテンプレートに取り込まれた態様を模式的に示した図である。
【図4】精製用テンプレートが固定化される精製部を含む試薬供給部を有する核酸配列解読装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.精製に供される対象]
本発明における精製法に供される対象は、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)とを含む混合物である。ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)は、不純物として、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)に混在しているものでありうる。
【0018】
本発明においてヌクレオチドは、核酸塩基、五炭糖、及び1以上(通常1〜3)のリン酸エステル基から構成されるものであれば特に限定されるものではない。
核酸塩基は、相補的な核酸塩基または核酸塩基アナログとワトソンクリック水素結合により塩基対を形成し得る、いかなる窒素含有複素環も許容される。具体的には、プリン、7−デアザプリン、ピリミジン及びそれらの誘導体が挙げられる。代表的な核酸塩基は、天然に存在する核酸塩基であるアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)、チミン(T)、およびこれらの天然に存在する核酸塩基のアナログ(例えば、7−デアザアデニン、7−デアザグアニン、イノシン、ネブラリン、ニトロピロール、ニトロインドール、2−アミノ−プリン、2,6−ジアミノ−プリン、ヒポキサンチン、プソイドウリジン、プソイドシチジン、プソイドイソシチジン、5−プロピニル−シチジン、イソシチジン、イソグアニン、7−デアザ−グアニン、2−チオ−ピリミジン、6−チオ−グアニン、4−チオ−チミン、4−チオ−ウラシル、O6−メチル−グアニン、N6−メチル−アデニン、O4−メチル−チミン、5,6−ジヒドロチミン、5,6−ジヒドロウラシル、4−メチル−インドール、及びエテノアデニン)が挙げられる。
【0019】
五炭糖は、置換されていても置換されていなくてもよく、置換された五炭糖は、例えば、3’炭素が−R基、−OR基、−NRR基、及びハロゲン基から選ばれる置換基を有しうる(RはC1〜C6のアルキル基)。従って、五炭糖は、2’−デオキシリボースやリボースに代表されるが、2’,3’−ジデオキシリボース、3’−ハロリボース、3’−フルオロリボース、3’−クロロリボース、および3’−アルキルリボースなども許容される。
【0020】
リン酸エステル基には、置換されていても置換されていなくてもよく、置換されたリン酸エステル基としては、酸素が硫黄に置換されたもの(例えば、α−チオヌクレオチド5’−トリホスフェート)を含んでよい。
【0021】
ヌクレオチドアナログは、上記ヌクレオチドにおける原子または原子団が別の原子または原子団に置換された構造を持つ、ヌクレオチドとは別の物質をいう。
【0022】
本発明において精製されるべき対象は、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)である。ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)であれば、単一物であってもよいし、複数種(ヌクレオチド部が異なるもの及び/又はラベル基が異なるもの)の混合物であってもよい。
ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)は、上記ヌクレオチドにおける原子または原子団がラベル基に置換された構造を持つ、ヌクレオチドとは別の物質である。
【0023】
一方、本発明において除去されるべき対象(不純物)は、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)(以下、ラベル基を有しないヌクレオチド等(N)と記載する)である。このうち、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドにおける原子または原子団が上記のラベル基ではない別の原子または原子団に置換された構造を持つ、ヌクレオチドとは別の物質である。
ラベル基を有しないヌクレオチド等(N)の具体例としては、例えば、ラベル基を有するヌクレオチドを調製するためのヌクレオチドラベル化反応によって得られた反応生成物から除去しきれなかった未反応ヌクレオチドや、ラベル基を有するヌクレオチドからラベル基が完全に又はラベル基の一部が不完全に脱落して生じたラベル抜けヌクレオチドでありうる。
【0024】
後述するように、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)とは、核酸ポリメラーゼへの取り込み活性が異なるものである。このように両者に上記取り込み活性の差が生じうる限り、ラベル基としてはどのようなものであっても良い。
本発明においては、ラベル基としては蛍光基であることが好ましい。蛍光基としては特に限定されない。蛍光基を与える蛍光物質のいくつかの例として、CascadeBlue、Coumarine、Dimethylcoumarine、BODIPY FL、BODIPY TMR、Fluorescein、Fluorescein Chlorotriazinyl、OregonGreen488、Alexa−5、Alexa−14、Alexa Fluor488、Alexa Fluor532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor594、Rohdamine Green、Lissamine Rohdamine B、Tetramethylrohdamine、Rohdamine6G、Texas Red、BODIPY630/650、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Naptofluorescein等が挙げられる。
【0025】
上記の混合物中、不純物(N)の濃度としては特に限定されない。ラベル基を有するヌクレオチドアナログの市販品や、ヌクレオチドのラベル化反応によって得られた反応生成物又はその粗精製物などにおいて可能性のあるいかなる濃度であってもよい。本発明においては、例えば95〜99%(モル基準)のように比較的高純度のラベル基を有するヌクレオチド混合物であっても、さらに純度を上げることが可能である。
【0026】
[2.精製用核酸合成系]
上述の精製に供される対象である混合物は、精製用核酸合成系に供される。精製用核酸合成系は、上記不純物(N)を基質とし、精製用核酸テンプレート、プライマー、核酸ポリメラーゼ、及びMgCl、KClなどの塩類を緩衝液中に含む核酸合成反応液を、核酸合成を可能にする条件下に付して構築されるものである。精製用核酸合成系は、核酸テンプレート及びプライマーとして精製専用のものを用意して用い、上記不純物(N)を基質として用いることを除いては、ラベル基を有するヌクレオチドアナログを用いた合成時解読における核酸合成系と同様のものを構築することができる。
精製用核酸合成系を構築する核酸合成反応液は、上述の精製に供される対象である混合物が10nM〜0.1mM、好ましくは50nM〜0.1mMの濃度で含まれるように調製することができる。
【0027】
精製用核酸テンプレートは、上記の混合物から除去されるべき対象であるラベル基を有しないヌクレオチド等(N)を構成する塩基の相補塩基を含むものである。例えば、精製に供される対象がラベル基を有するdATPアナログ及び不純物としてラベル基を有しないdATP等を含む混合物である場合、核酸テンプレートは、チミンのみで構成されたポリチミンであってよい。また例えば、精製に供される対象が、ラベル基を有するdATPアナログ、dGTPアナログ、dCTPアナログ、及びdUTPアナログ、及び、不純物としてラベル基を有しないdATP等、dGTP等、dCTP等、及びdUTP等を含む混合物である場合、核酸テンプレートは、アデニン、グアニン、シトシン及びチミンが混在した配列を有するものであってもよいし、ポリアデニン、ポリグアニン、ポリシトシン及びポリチミンの混合物であってもよい。精製用核酸テンプレートは、精製用核酸合成系を構築する核酸合成反応液中1μM〜1mM、平均的には100μM程度の濃度で使用することが好ましい。
【0028】
精製用核酸テンプレートは、固体表面に固定化されていてよい。そのような固体の一例としては、磁気ビーズが挙げられる。精製用核酸テンプレートが固定化される固体表面の他の一例としては、核酸配列解読装置における試薬供給部の内壁が挙げられる。
固体表面への固定化方法としては、生化学的な結合を用いる方法及び化学的な結合を用いる方法を問わず、当業者によって適宜選択される。
生化学的な結合力を用いる方法としては、タンパク質と抗体との結合を用いる方法が挙げられ、そのような結合としては、アビジンとビオチンとの結合、ジゴキシゲニンとジゴキシゲニン抗体との結合などが挙げられる。また、生化学的な結合力を用いる方法の他の例として、一本鎖核酸に特異的な親和性を有する一本鎖核酸結合タンパク質(single-stranded nucleic acid binding protein;SSB、具体的には米国公開第2006/0024678号公報に記載のタンパク質)と精製用核酸テンプレートとの結合を用いる方法も挙げられる。
化学的な結合を用いる方法としては、官能基間でリンカー試薬を用いることにより形成される結合などを用いる方法が挙げられ、そのような結合としては、アミノ基とカルボキシル基とをEDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride)やNHS(N-hydroxysuccinimide)を介した共有結合が挙げられる。
また、精製用核酸テンプレートの固定化においては、精製用核酸テンプレートと固体表面との間に10〜200bp程度のリンカー配列を介してもよい。
【0029】
精製用プライマーは核酸合成の開始点として働くオリゴヌクレオチドである。精製用プライマーは、上記精製用核酸テンプレートに相補結合する配列を有し、当業者によって適宜決定されるサイズ、GC含量及びTm等を有していればよい。プライマーの濃度は、精製用核酸合成系を構築する核酸合成反応液中において、精製用核酸テンプレートと等量であってよい。
【0030】
核酸ポリメラーゼは、ラベル基を有するヌクレオチド(L−N)より、ラベル基を有しないヌクレオチド等(N)の認識能力(取り込み活性)が高いものである。当業者に通常用いられる核酸ポリメラーゼは、精製されるべき対象であるラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)よりも、除去されるべき対象であるラベル基を有しないヌクレオチド等(N)のほうを優先的に取り込むことができるため、当業者に通常用いられる核酸ポリメラーゼを特に限定されることなく使用することができる。
【0031】
具体的には、ラベル基を有しないヌクレオチド等(N)の核酸ポリメラーゼによる取り込み速度がラベル基を有するヌクレオチド(L−N)の核酸ポリメラーゼによる取り込み速度に比べて大きければよく、1,000倍以上、好ましくは1,500倍以上、例えば10,000倍〜100,000倍でありうる。

一例を挙げると、同じ組成を有する核酸合成反応液中において、蛍光ラベル基を有するヌクレオチドの核酸ポリメラーゼへの取り込み速度は10分間で2塩基又は3塩基である(Ramanathan, L. Pape and D. C. Schwartz, High-density polymerase-mediated incorporation of fluorochrome-labeled nucleotides, Anal. Biochem. 337 (2005), pp. 1-11)ことに対し、蛍光ラベル基を有しないヌクレオチドの核酸ポリメラーゼへの取り込み速度は〜300塩基/秒である(GEヘルスケアジャパン株式会社、「Sequenase Version 2.0 T7 DNA Polymerase」[平成22年9月3日検索]、インターネット<URL:http://www.gelifesciences.co.jp/catalog/0583.asp>)ことから、蛍光ラベル基を有しないヌクレオチド等の核酸ポリメラーゼによる取り込み速度は60,000〜90,000倍に達する場合がある。
【0032】
核酸ポリメラーゼは、プライマー付加による核酸合成を可能にする酵素であり、化学合成系も含む。具体的には、E.coliのDNAポリメラーゼ、E.coliのDNAポリメラーゼのクレノーフラグメント、T4DNAポリメラーゼ、T7DNAポリメラーゼ、TaqDNAポリメラーゼ、T.litoralisDNAポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼ、Hot Start Taqポリメラーゼ、KODDNAポリメラーゼ、EX TaqDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、T7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ及びSP6RNAポリメラーゼ等が挙げられる。核酸ポリメラーゼは、精製用核酸合成系を構築する核酸合成反応液中0.1Unit〜5unitsの濃度で使用することが好ましい。(なお、unitは酵素単位であり、至適条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1μmolの基質を変化させることができる酵素量(1μmol/分)である。)
【0033】
緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸とを組み合わせたもの、及び、その他種々のpH緩衝液を用いることができる。緩衝液のpHは例えば6〜8(25℃)でありうる。pH調整された緩衝液は、精製用核酸合成系を構築する核酸合成反応液中10mM〜100mMの濃度で使用することが好ましい。
【0034】
[3.精製用核酸合成反応]
核酸合成反応における条件、例えば温度条件などは当業者によって適宜決定される。ラベル基が蛍光基である場合は、核酸合成反応は遮光条件下で行う。
図1に、本発明によってラベル基を有しないヌクレオチドが精製用テンプレートに取り込まれた態様を模式的に示す。図1が示すように、精製用核酸合成系において、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)混合物(精製前の不純物(N)を含む混合物)に混在していたラベル基を有しないヌクレオチド等(N)が、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)に優先して前記核酸ポリメラーゼに取り込まれ、プライマーの3’末端側にラベル基を有しないヌクレオチド等(N)が結合することによって伸長反応が進行する。このように、精製用核酸合成系中のラベル基を有しないヌクレオチド等(N)が、上記伸長反応によって伸長鎖に変換されるため、系中のラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)の純度を上げることができる。
【0035】
ラベル基を有しないヌクレオチド等(N)から変換された伸長鎖は、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と分離される。分離を達成するための手段としては、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と分離されることが可能な固体の表面に精製用核酸テンプレートを固定化することが挙げられる。
【0036】
図2に、精製用核酸テンプレートが磁気ビーズの表面に固定化された態様の一例を示す。この場合、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物を収容したチューブなどの容器内に前記の磁気ビーズを入れることによって精製することができる(図2)。ラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物に混在していたラベル基を有しないヌクレオチド等(N)は、磁気ビーズに固定化された精製用核酸テンプレートに取り込まれ伸長鎖に変換される。その後、伸長鎖はテンプレートと共に磁石に引き寄せられ、伸長鎖を伴った磁石を系外に分離することによって、伸長鎖は、より高純度のラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)を含む液と容易に分離される。
【0037】
図3に、精製用核酸テンプレートが核酸配列解読装置における試薬供給部の、混合物が接触する表面に固定化された態様の一例を示す。
核酸配列解読装置は、試薬供給部と合成時解読用核酸合成部とを有する。ラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物は、試薬供給部によって供給される。試薬供給部は、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物を保持するリザーバ、及びリザーバと合成時解読用核酸合成部とを連結する流路を有することができる。この流路の内壁に、前記の精製用核酸テンプレートを固定化することができる。
【0038】
図4に、核酸配列解読装置のより具体的な例を示す。図4に示す核酸配列解読装置は、試薬供給部と、合成時解読用核酸合成部と、検出部と、制御部と、データ解析部とを有する。
試薬供給部は、試薬を保持するリザーバと、流路内壁に精製用核酸テンプレートが固定化された試薬精製部と、合成時解読用核酸合成部への送液を制御するバルブとを有する。
合成時解読用核酸合成部は、TIRF観察に適した厚さのガラス基板と、観察視野を移動するXYステージと、試薬の送液のためのポンプとを有する。
検出部は、全反射照明のためのレーザーと、照明のON及びOFFを切り替えるシャッターと、対物レンズに光を入射するためのダイクロイックミラーと、基板表面を撮影するCCDカメラと、対物レンズからの光をCCDカメラへ折り返すためのミラーと、シャッターやダイクロイックミラーを移動させるための移動機構(モーター)とを有する。
制御部においては、ポンプ、基板を保持しているXYステージ、バルブ、ダイクロイックミラー、ミラーの移動用モータ、及びCCDカメラの撮影を制御する。
データ解析部においては、データ解析部は、CCDカメラで撮影した画像を元に、DNA配列をアセンブルするとともに、データ精度の検証及び他の配列との比較などを行う。
【0039】
リザーバに保持されていたラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物は流路内を通り、精製部において、流路内壁に固定化されていた精製用核酸テンプレートにラベル基を有しないヌクレオチド等(N)が取り込まれ伸長鎖に変換される。このように、リザーバから合成解読用核酸合成部へ試薬(ラベル基を有するヌクレオチドアナログ混合物)を流す途中に設けられた精製部において不純物(N)をトラップすることができる。その後、より高純度のラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)を含む液が精製部から流路へ流れ出る一方で伸長鎖は精製部にとどまるため、伸長鎖は、流路内の流れによって容易に分離される。流路へ流れ出たより高純度のラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)を含む液は、合成時解読用核酸合成部へ供給される。
【0040】
なお、本発明においては、以下のように、精製工程を行う都度、使用済みの精製用核酸テンプレートの再生や、新しい精製用核酸テンプレートの準備を行うことができる。
使用済みの精製用核酸テンプレートの再生には、アルカリ(例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、特にNaOH等)で2本鎖DNAが1本鎖になることを利用することができる。具体的には、精製用核酸テンプレートが流路内壁などの固体表面に固定化されている場合は、アルカリ溶液を流すことで伸長したプライマーを洗い流すことによって再生させることができる。再度プライマーを流して、精製用核酸テンプレートにハイブリダイズさせれば再利用が可能である。
また、精製用核酸テンプレートが固定されていない場合は、使用済みの精製用核酸テンプレートをリンス液と一緒に洗い流すことによって除去し、新しい精製用核酸テンプレートを新規にリザーバから流し入れることによって、次の精製工程に用いられる精製用核酸テンプレートを準備することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)との混合物から、前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)を精製する方法であって、
ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)と、ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)との混合物を、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)の相補塩基を含む精製用核酸テンプレート、プライマー及び核酸ポリメラーゼを含む精製用核酸合成系に供する工程を含み、
前記精製用核酸合成系において、前記ラベル基を有しないヌクレオチドアナログ及び/又はヌクレオチド(N)が、前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)に優先して前記核酸ポリメラーゼに取り込まれ伸長鎖に変換されることによって、前記混合物中の前記ラベル基を有するヌクレオチドアナログ(L−N)の純度を上げる、ラベル化ヌクレオチドの精製方法。
【請求項2】
前記核酸テンプレートが固体表面に固定化されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体表面が、核酸配列解読装置における試薬供給部の、前記混合物が接触する表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体が磁気ビーズである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ラベル基が蛍光基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって得られた、ラベル基を有するヌクレオチドアナログ精製物。
【請求項7】
合成時解読用核酸合成部と、ラベル基を有するヌクレオチドアナログを供給する試薬供給部であって前記合成時解読用核酸合成部に連結する流路を有する試薬供給部とを有し、
前記試薬供給部は、前記流路の内壁に請求項3に記載の方法を行うための核酸テンプレートが固定化された試薬精製部を有する、核酸配列解読装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−90546(P2012−90546A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239305(P2010−239305)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】