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ラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法
説明

ラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法

【課題】電解液中の固体表面における電気化学反応の観察に適したラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るラマン分光測定用反応容器は、透明な窓部(11)を有し、電解液を収容するための中空部(12)が形成された筐体部(10)と、前記電解液中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部(21)が試料を保持するために前記中空部内で前記窓部に対向して配置され、他の一部(22)が外部電源に接続されるために前記筐体部外まで延設された作用極部(20)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法に関し、特に、電気化学反応下のラマン分光測定に関する。
【背景技術】
【0002】
固体表面が関与する化学反応は、電池、触媒、コーティング、微粒子形成、腐食、センサー等の工業的に重要な様々な応用に関連する。しかしながら、固体表面で起こる化学反応は、溶液中又は気体中で起こる均一反応系に比べ、その反応状況を検討することが難しい。
【0003】
そこで、レーザーラマン分光法が利用される。レーザーラマン分光法は、分子の振動状態を測定することで、その化学構造を推定するための手法である。レーザーラマン分光法は、同様の情報を与える赤外分光法とは異なり、水溶液をはじめとする溶液中でも測定を行うことができるという利点がある。したがって、レーザーラマン分光法によれば、溶液に囲まれた固体表面での化学反応過程を分子レベルで追跡することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】表面技術 Vol.57(2006), No.11, pp793-798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電解液中の固体表面において試料の電気化学反応を行う場合には、例えば、当該電解液及び試料を収容する反応容器内において、作用極と外部電源とを電気的に接続する配線等、当該電気化学反応に影響を及ぼし得る部材が当該電解液中に存在することは好ましくない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、電解液中の固体表面における電気化学反応に適したラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るラマン分光測定用反応容器は、透明な窓部を有し、電解液を収容するための中空部が形成された筐体部と、前記電解液中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部が試料を保持するために前記中空部内で前記窓部に対向して配置され、他の一部が外部電源に接続されるために前記筐体部外まで延設された作用極部とを備えたことを特徴とする。本発明によれば、電解液中の固体表面における電気化学反応に適したラマン分光測定用反応容器を提供することができる。
【0008】
また、前記作用極部は、前記窓部に対して平行に延びる部材であることとしてもよい。また、前記導電性材料は、導電性炭素材料、導電性セラミックス、金及び金メッキ導電性材料からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。また、前記反応容器は、顕微ラマン分光測定に使用されることとしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るラマン分光測定方法は、透明な窓部を有し、電解液を収容するための中空部が形成された筐体部と、前記電解液中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部が前記中空部内で前記窓部に対向して配置され、他の一部が前記筐体部外まで延設された作用極部と、を備えた反応容器を準備すること、前記作用極部の前記窓部に対向して配置された前記一部に試料を保持すること、前記作用極部の前記筐体部外まで延設された前記他の一部を外部電源に接続すること、前記中空部に前記電解液を収容すること、及び前記電解液中における前記試料の電気化学反応中のラマン分光測定を行うことを含むことを特徴とする。本発明によれば、電解液中の固体表面における電気化学反応に適したラマン分光測定方法を提供することができる。
【0010】
また、前記作用極部は、前記窓部に対して平行に延びる部材であることとしてもよい。また、前記導電性材料は、導電性炭素材料、導電性セラミックス、金及び金メッキ導電性材料からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0011】
また、前記方法において、前記ラマン分光測定は、顕微ラマン分光測定であることとしてもよい。この場合、前記反応容器を、励起光を照射するためのレンズと、前記レンズに対向して配置された顕微鏡ステージとの間に配置して、前記顕微ラマン分光測定を行うこととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電解液中の固体表面における電気化学反応に適したラマン分光測定用反応容器及びこれを用いたラマン分光測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るラマン分光測定用反応容器の一例を斜視で示す説明図である。
【図2】図1に示すラマン分光測定用反応容器を平面視で示す説明図である。
【図3】図2に示すIII−III線で切断したラマン分光測定用反応容器の断面を示す説明図である。
【図4】図2に示すIV−IV線で切断したラマン分光測定用反応容器の断面を示す説明図である。
【図5】図4に示すラマン分光測定用反応容器を使用して顕微ラマン分光測定を行う様子の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る実施例において得られたサイクリックボルタモグラムの一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る実施例において得られたラマンスペクトルの一例を示す説明図である。
【図8】図7に示すラマンスペクトルにおけるDバンド(1358cm−1)の強度を評価した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るラマン分光測定用反応容器(以下、「本反応容器1」という。)の一例を斜視で示す説明図である。図2は、図1に示す本反応容器1を平面視で示す説明図である。図3は、図2に示すIII−III線で切断した本反応容器1の断面を示す説明図である。図4は、図2に示すIV−IV線で切断した本反応容器1の断面を示す説明図である。図5は、本反応容器1を使用して顕微ラマン分光測定を行う様子の一例を示す説明図である。
【0016】
図1〜図5に示すように、本反応容器1は、透明な窓部11を有し、電解液Eを収容するための中空部12が形成された筐体部10と、当該電解液E中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部(以下、「試料台部21」という。)が試料Sを保持するために当該中空部12内で当該窓部11に対向して配置され、他の一部(以下、「延設部22」という。)が外部電源に接続されるために当該筐体部10外まで延設された作用極部20と、を備えている。
【0017】
本反応容器1は、電解液E中の固体表面(具体的には、作用極部20の試料台部21の窓部11に対向する表面21a)における電気化学反応のラマン分光測定に使用される。電気化学反応は、電解液E中の固体表面で起こる電気化学的な反応であれば特に限られないが、例えば、酸化還元反応であることとしてもよい。また、本反応容器1は、例えば、電気化学重合過程、結晶析出過程、電気反応過程、電気化学合成過程、センサー反応過程及び生化学反応過程におけるラマン分光測定にも使用することができる。
【0018】
また、電気化学反応は、例えば、不均一系触媒反応であることとしてもよい。すなわち、この場合、不均一系触媒を含む試料Sを使用する。より具体的に、本反応容器1の作用極部20の試料台部21には、不均一系触媒を含む試料Sが保持される。そして、電解液E中において、作用極部20の試料台部21上における不均一系触媒反応(例えば、不均一系触媒によって触媒される酸化還元反応)のラマン分光測定を行うこととなる。
【0019】
不均一系触媒は、特に限られず、例えば、炭素触媒、金属触媒及び金属化合物触媒等の固定化触媒、及び固定化抗原、固定化抗体、固定化核酸及び固定化酵素等の固定化生体分子(固定化センサーとして働く生体分子)から選択される1種以上を使用することとしてもよい。炭素触媒としては、例えば、有機物と金属(好ましくは遷移金属)とを含む原料を炭素化することにより得られる炭素化材料からなり、酸化還元反応触媒活性(例えば、酸素還元反応触媒活性)を示す炭素触媒を使用することとしてもよい。
【0020】
電解液Eは、その中で試料Sの電気化学反応を行うことができるものであれば特に限られない。すなわち、電解液EのpHは特に限られず、酸性の電解液Eを使用することとしてもよく、アルカリ性の電解液Eを使用することとしてもよい。また、電解液Eとしては、腐食性の電解液を使用することとしてもよい。
【0021】
電解液Eが酸性の場合、そのpHは、例えば、0〜5であることとしてもよい。酸性の電解液Eは、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸等の鉱酸、超強酸、有機酸、有機電解質、緩衝液(バッファー)及びイオン液体からなる群より選択されることとしてもよい。
【0022】
筺体部10は、その内部に、少なくとも電解液Eと作用極部20の試料台部21とを収容する、箱状の中空体である。図1〜図5に示す例において、筺体部10は、内部が中空の直方体として形成されている。
【0023】
筺体部10を構成する材料は、絶縁性材料であれば特に限られないが、例えば、樹脂、絶縁ライナーで被覆された金属、セラミックス及びガラスからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0024】
腐食性の電解液E(例えば、酸性の電解液E)を使用する場合には、筺体部10は、耐腐食性の材料から構成されることが好ましい。この場合、樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン及び/又はポリプロピレン)、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びシリコン樹脂からなる群より選択される1種以上を好ましく使用することができる。
【0025】
窓部11は、ラマン分光測定において励起光(レーザー)が透過する、筺体部10の外壁の一部を構成する。図1〜図5に示す例において、窓部11は、透明な材料から構成された板状の部材である。窓部11を構成する材料は、励起光を透過させる透明性を有する材料であれば特に限られず、例えば、ガラス(好ましくは石英ガラス)、透明な合成樹脂及び透明なセラミックスからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。窓部11の厚さは、ラマン分光測定が可能な範囲であれば特に限られない。
【0026】
中空部12は、電解液Eを収容するために筺体部10の内部に形成された空間である。中空部12は、少なくともラマン分光測定時において密閉空間となることが好ましい。
【0027】
作用極部20は、筺体部10の中空部12内に配置される試料台部21と、当該筺体部10外に延設される延設部22とを有している。
【0028】
作用極部20の形状は、当該作用極部20を作用極として使用する電気化学反応のラマン分光測定が可能な範囲であれば特に限られないが、作用極部20は、例えば、窓部11に対して平行に延びる部材(例えば、図1〜図5に示すような板状の部材)であることとしてもよい。
【0029】
この場合、試料台部21及び延設部22は、窓部11に対して平行に延びる部材の一部及び他の一部として形成されるため、本反応容器1の高さ(特に、筺体部10の高さ)を効果的に低減することができる。作用極部20の厚さは特に限られない。
【0030】
作用極部20を構成する導電性材料は、導電性を有し、且つ電解液E中で電気化学的に不活性な材料である。ここで、導電性材料が電気化学的に不活性であるとは、例えば、当該導電性材料に電位を印加したときに当該導電性材料が溶解しないこと、及び当該導電性材料と接触している溶媒(電解液)の電気分解を広い電位範囲で示さないことを含む。すなわち、この導電性材料は、例えば、電解液EのpHにかかわらず、当該電解液E中で、−0.2V〜1.2V(vs.NHE)の範囲において電気化学的に不活性な導電性材料である。
【0031】
導電性材料は、電解液E中で電気化学的に不活性なものであれば特に限られないが、例えば、導電性炭素材料、導電性セラミックス、金及び金メッキ導電性材料からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0032】
導電性炭素材料は、導電性を有する炭素材料であれば特に限られないが、例えば、ガラス状カーボン、等方性カーボン及び黒鉛材料(例えば、HOPG)からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。導電性セラミックスは、導電性を有するセラミックス材料であれば特に限られないが、例えば、酸化チタン、酸化スズ及び酸化インジウムスズ(ITO)からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0033】
試料台部21は、作用極部20の一部であって、筺体部10の中空部12内で窓部11に対向して配置される部分である。試料台部21の窓部11に対向する表面21aには、試料Sが保持される。図1〜図5に示す例において、この表面21aは平面として形成されている。窓部11と試料台部21との距離は、ラマン分光測定が可能な範囲であれば特に限られない。
【0034】
延設部22は、試料台部21とは異なる作用極部20の一部であって、筺体部10の外表面10aから突出するよう設けられている。すなわち、延設部22は、作用極部20の一部を、中空部21内から、筺体部10を貫通させて、当該筺体部10外まで延設することにより形成されている。
【0035】
より具体的に、例えば、作用極部20が窓部11に対して平行に延びる部材である場合、延設部22は、当該部材の一部を、当該窓部11に対して平行に筺体部10外まで延設することにより形成される。図1〜図5に示す例において、延設部22は、作用極部20を構成する板状の部材の一方端部分を、筺体部10外に露出させることにより形成されている。
【0036】
そして、ラマン分光測定の際には、延設部22は、外部電源と電気的に接続される。すなわち、図5に示す例において、延設部22は配線Wを介して外部電源(不図示)と接続されている。
【0037】
本反応容器1においては、外部電源と接続されるターミナルとして、作用極部20の一部を筺体部10外に延設して形成した延設部22を備えることにより、当該外部電源との電気的な接続のための配線Wを電解液E中に配置する必要がない。
【0038】
このため、本反応容器1において電解液E中の電気化学反応に影響を及ぼし得る部材の存在を効果的に低減することができる。また、本反応容器1の構造を簡略化することもできる。
【0039】
また、従来の顕微ラマン分光測定においては、使用する反応容器が、市販の顕微ラマン分光測定システムの対物レンズと顕微鏡ステージとの間の小さなスペースに配置できない場合には、顕微ラマン分光測定を行うにあたって、当該顕微ラマン分光測定システムを改造する必要があった。これに対し、本反応容器1は、上述のような構造を備えることにより、その高さを、従来のラマン分光測定用反応容器に比べて効果的に低減することができる。
【0040】
このため、本反応容器1は、顕微ラマン分光測定に好ましく使用される。すなわち、本反応容器1は、図5に示すように、顕微ラマン分光測定システムにおいて、励起光を照射するためのレンズLと、当該レンズLに対向して配置された顕微鏡ステージMとの間の小さなスペースに配置することができる。したがって、本反応容器1を使用することにより、例えば、市販の顕微ラマン分光測定システムを改造することなく、そのまま使用して、顕微ラマン分光測定を行うことができる。
【0041】
また、本反応容器1は、図1〜図5に示すように、対極30及び参照極40をさらに備えることとしてもよい。対極30としては、例えば、白金(Pt)電極を使用することができる。参照極40としては、例えば、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を使用することができる。
【0042】
図1〜図5に示す例において、対極30の一方の端部32及び参照極40の一方の端部42は、電解液E中に浸漬されるために中空部12内に配置され、当該対極30の他方の端部31及び当該参照極40の他方の端部41は、外部電源と接続されるために筺体部10外に延設されている。
【0043】
また、対極30の端部31及び参照極40の端部41は、作用極部20の延設部22が突出している筺体部10の外表面10aとは異なる向き(図1〜図5示す例では直交する向き)に形成された他の外表面10bから突出することとしてもよい。すなわち、図1〜図5に示す例において、作用極部20の延設部22は、筺体部10の1つの外表面10aから突出し、対極30の端部31及び参照極40の端部41は、当該外表面10aと直交する当該筺体部10の他の外表面10bから突出している。
【0044】
また、筺体部10は、図1〜図5に示すように、作用極部20を窓部11と反対側から支持する棚部13と、当該作用極部20と当該窓部11との距離より大きな距離だけ当該窓部11から離れて当該窓部11と対向する底部14とをさらに有している。
【0045】
このため、中空部12内では、作用極部20を窓部11に近接して配置するとともに、当該窓部11と底部14との間において、当該窓部11と作用極部20との間に比べて多い量の電解液Eを収容することができる。また、図1〜図5に示す例において、対極30の一方端32及び参照極40の一方端42は、窓部11と底部14との間に配置されている。
【0046】
本実施形態に係るラマン分光測定方法(以下、「本方法」という。)は、上述した本反応容器1を使用して、ラマン分光測定を行う方法である。すなわち、本方法は、透明な窓部11を有し、電解液Eを収容するための中空部12が形成された筐体部10と、当該電解液E中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部(試料台部21)が当該中空部12内で当該窓部11に対向して配置され、他の一部(延設部22)が当該筐体部10外まで延設された作用極部20と、を備えた反応容器(本反応容器1)を準備すること、当該試料台部21に試料Sを保持すること、当該延設部22を外部電源に接続すること、当該中空部12に当該電解液Eを収容すること、及び当該電解液E中における当該試料Sの電気化学反応のラマン分光測定を行うことを含む。
【0047】
なお、ここでは、図5に示すように、顕微ラマン分光測定を行う場合を例として説明する。すなわち、この例においては、本反応容器1を、励起光を照射するためのレンズLと、当該レンズLに対向して配置された顕微鏡ステージMとの間に配置して、顕微ラマン分光測定を行う。
【0048】
具体的に、図5に示すように、窓部11がレンズLに対向するように(試料Sが窓部11を介してレンズLに対向するように)、本反応容器1を顕微鏡ステージM上に設置する。レンズL及び顕微鏡ステージMを備える顕微ラマン分光システムとしては、市販のものを使用することとしてもよい。
【0049】
試料台部21に試料Sを保持する方法は、当該試料Sを当該試料台部21の表面21aに固定できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、バインダー(例えば、Nafion(登録商標))を使用して、試料Sを含むスラリーを試料台部21の表面21aに塗布する方法、又は当該試料Sを当該試料台部21の表面21aに直接成膜する方法を使用することにより、当該試料Sを当該表面21aに固定することができる。
【0050】
延設部22を外部電源に接続する方法は、当該延設部22と当該外部電源とを電気的に接続できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、図5に示すように、延設部22に、外部電源と電気的に接続された配線Wを取り付けることにより、当該延設部22と当該外部電源とを電気的に接続することができる。
【0051】
外部電源は、作用極部20に電位を印加できるものであれば特に限られず、例えば、ポテンショスタットを好ましく使用することができる。
【0052】
中空部12への電解液Eの収容は、作用極部20の試料台部21が当該電解液Eに浸漬されるように行われれば特に限られない。すなわち、例えば、密閉された中空部12に、実質的に気相が形成されないように電解液Eを満たすこととしてもよい。
【0053】
そして、ラマン分光測定においては、まず、外部電源から延設部22を介して作用極部20に電位を印加して、試料台部20に保持された試料Sの電気化学反応を開始する。さらに、ラマン分光測定システムのレンズLから窓部11を介して当該試料Sに励起光を照射するとともに、試料台部21の表面21a上における当該試料Sの電気化学反応に伴い放たれたラマン散乱光を、後方散乱モードで当該システムの光学系に取り込み、ラマンスペクトルを得る。
【0054】
こうして、本方法においては、本反応容器1を使用することにより、電解液E中の固体表面(試料台部21の表面21a)における電気化学反応のin situラマン分光測定(図5に示す例では、in situ顕微ラマン分光測定)を効果的に行うことができる。すなわち、例えば、試料Sが不均一系触媒を含む場合には、電解液E中の固体表面における不均一系触媒反応の過程をin situで観察することができる。
【0055】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0056】
[炭素触媒の調製]
不均一系触媒として、有機物と金属とを含む原料を炭素化して得られる炭素化材料からなる炭素触媒を調製した。
【0057】
まず、炭素化の対象となる原料を調製した。すなわち、フェノール樹脂(紡糸用、群栄化学工業株式会社製)と、コバルトフタロシアニン(純度90%、東京化成工業株式会社製)とを、当該フェノール樹脂に対するコバルトの重量割合が3wt%となるようにアセトン中で混合した。得られた混合物を超音波で30分撹拌し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。その後、混合物を70℃で一晩減圧乾燥し、原料を得た。
【0058】
次に、原料の炭素化を行った。すなわち、原料1gを石英ボートに載せ、当該石英ボートを石英反応管(φ23.5mm×600mm)の中央に設置した。次いで、石英反応管に高純度窒素ガスを500mL/分の流速で20分間パージした。その後、赤外線イメージ炉(RHL410P、真空理工株式会社製)を用いて、高純度窒素ガスの流通下(500mL/分)、石英反応管を加熱して、その温度を昇温速度10℃/分で1000℃まで上げた。そして、石英反応管を1000℃で1時間保持して原料の炭素化を行うことにより、炭素化材料を得た。
【0059】
さらに、この炭素化材料を乳鉢で粉砕し、粉砕された当該炭素化材料500mgと、粉砕ボール10個とを容器に入れ、遊星型ボールミルを用いて回転速度750rpmで90分間の粉砕処理を行った。その後、粉砕した炭素化材料を目開き106μmの篩にかけ、当該篩を通過した炭素化材料を回収した。
【0060】
また、炭素化材料と、濃塩酸と、撹拌子とをバイアルに入れ、マグネチックスターラーを用いて、2時間撹拌し、さらに吸引ろ過を行った。この操作を3回繰り返した後、炭素化材料を80℃で一晩減圧乾燥した。そして、乾燥後の炭素化材料を炭素触媒として得た。なお、この炭素触媒は、酸素還元触媒活性等の酸化還元触媒活性を示すことが確認されている。
【0061】
[反応容器の組立]
まず、炭素触媒を含むスラリー(触媒スラリー)を調製した。すなわち、炭素触媒 約5.0 mgをプラスチック製のバイアルに入れた。次いで、このバイアルに、ガラスビーズ(BZ−1、φ0.991〜1.397mm、アズワン株式会社製)をミクロスパチュラ一杯分、5%Nafion(登録商標)分散溶液50μL、エタノール(特級試薬)150μL、超純水150μLを加えた。得られた組成物を超音波で15分処理することにより、触媒スラリーを得た。
【0062】
次に、触媒スラリーを作用極部20の試料台部21に塗布した。作用極部20としては、ガラス状カーボン製の板状体(30mm×10mm×0.5mm、日清紡ケミカル株式会社製)を使用した。このガラス状カーボン板の一方端側の一部である試料台部21の表面21aに、触媒スラリーを19.8μL塗布し、湿潤条件下のデシケーター内で乾燥させることにより、当該表面21aの面積1.4cmの範囲に、炭素触媒を含む試料Sを固定した。
【0063】
そして、図1〜図5に示すような本反応容器1を製造した。すなわち、まず、厚さ1mmの石英ガラス板からなる窓部11を有し、内部に電解液Eを収容可能な中空部12が形成された、当該窓部11以外の部分が塩化ビニル樹脂製の直方体(25mm×25mm×25mm)である筺体部10を準備した。
【0064】
そして、上述のようにして試料Sが保持された作用極部20と、対極30(Pt線)と、Ag/AgCl参照極40(RE−3VP ねじ込み式参照電極、BAS株式会社製)とを、図1〜図5に示すように、筺体部10に取り付けた。
【0065】
さらに、筺体部10の中空部12には、気相が形成されないように、電解液E(硫酸水溶液、0.5MHSO)を満たし、当該中空部12を密閉した。なお、電解液Eは、本反応容器1の中空部12に充填する前に、窒素ガスを30分バブリングすることにより、溶存酸素をパージした。
【0066】
また、窓部11と作用極部20の試料台部21との距離は2mmであった。すなわち、窓部11と試料台部21との間には、厚さが2mmの電解液Eの層が形成された。また、本反応容器1は、作用極部20の試料台部21に固定された試料Sが、後述する市販の顕微レーザラマン分光測定システムが備える光学系の焦点の位置に配置されるように設計された。
【実施例2】
【0067】
[サイクリックボルタンメトリー]
上述のようにして準備した本反応容器1が、電気化学装置として正常に作動することを確認するため、ポテンショスタット(ALS700シリーズ電気化学アナライザー、BAS株式会社製)を使用して、サイクリックボルタンメトリー(CV)を実施した。電解液Eとしては、窒素を飽和させた硫酸溶液(0.5MHSO)を使用した。
【0068】
そして、初期電位を自然電位とし、走査範囲を0〜1.0V(vs.NHE)とし、走査速度を50mV/sとし、サイクル数を5cyclesとして、CV測定を行い、サイクリックボルタモグラムを得た。
【0069】
また、比較のために、従来法として、本反応容器1に代えて、三極式電気化学セルを使用したこと以外は同様にして、サイクリックボルタンメトリーを実施した。具体的には、上述の実施例1と同様にして調製した触媒スラリーをディスク電極(グラッシーカーボン、φ6mm)に4μL塗布し、湿潤条件下デシケーター内で乾燥させた。乾燥後、このディスク電極を回転リングディスク電極測定装置に取り付けた。電解液として硫酸水溶液(0.5MHSO)を使用し、参照電極として可逆水素電極(RHE)を使用し、対極としてカーボン電極を使用した。測定装置に取り付ける前に、電解セル中の電解液への窒素ガスのバブリングを30分間行った。その後、ポテンショスタット(ALS700シリーズ電気化学アナライザー、BAS株式会社製)を使用して、初期電位を自然電位とし、走査範囲を0〜1.0V(vs.NHE)とし、走査速度を50mV/sとし、サイクル数を5cyclesとして、CV測定を行い、サイクリックボルタモグラムを得た。
【0070】
図6には、得られたサイクリックボルタモグラムを示す。図6において、実線は本反応容器1を使用して得られた結果を示し、破線は従来法により得られた結果を示す。図6に示すように、本反応容器1を使用することにより、従来法で得られるものと実質的に同一のサイクリックボルタモグラムが得られた。
【0071】
また、図示はしていないが、本反応容器1を使用したクロノアンペロメトリーによっても、従来法によるクロノアンペロメトリーと実質的に同一の結果が得られた。すなわち、本反応容器1は、電気化学装置として正常に作動することが確認された。
【実施例3】
【0072】
[ラマン分光測定]
市販の顕微レーザラマン分光測定システム(顕微レーザラマンシステム Nicolet Almega XR、Thermo Fisher Scientific株式会社製)と本反応容器1とを使用して、in situ顕微レーザラマン分光測定を行った。
【0073】
すなわち、上述のようにして準備した本反応容器1を、顕微レーザラマン分光測定システムが備える光学顕微鏡において、対物レンズ(図5に示すレンズLに相当)の直下、試料ステージ(図5に示す顕微鏡ステージMに相当)上に配置した。なお、本反応容器1は、その高さが十分に小さいので、上記市販の顕微レーザラマン分光測定システムを何ら改造することなく使用することができた。
【0074】
そして、本反応容器1をポテンショスタットと接続し、2.0V(vs.NHE)での電位保持を行うことにより、電解液E中での電気化学反応を開始するとともに、窓部11を介して試料S上に励起光(レーザー)を照射し、後方散乱モードにて、当該電気化学反応のin situ顕微レーザラマン分光測定を行った。
【0075】
なお、励起光源としては、波長532nmのArレーザーを使用した。励起光の出力は、試料Sの表面で2mWとなるように設定した。対物レンズとしては、倍率50倍の長焦点レンズを使用した。露光時間は60秒とし、露光回数は4回とし、バックグラウンド露光回数は16回とし、アパーチャーを25μmピンホールとした。測定は、試料S上のランダムに選択された6箇所で行った。
【0076】
図7には、得られたラマンスペクトルを示す。図7において、実線(未処理)は電位を印加していない状態で得られた結果を示し、点線(60s)は電位を60秒保持した時点で得られた結果を示し、破線(600s)は電位を600秒保持した時点で得られた結果を示し、太い破線(1800s)は電位を1800秒保持した時点で得られた結果を示す。
【0077】
図7に示すように、ラマンシフトが1700〜1250cm−1である範囲内に2つのラマンバンドが検出された。これら2つのラマンバンドは、いずれも炭素構造(すなわち、試料Sに含まれる炭素触媒の炭素構造)に由来するバンドであり、1350cm−1付近にピークトップがあるバンドはDバンド、1600cm−1付近にピークトップがあるバンドはGバンドとそれぞれ呼ばれる。そして、2つのラマンバンドの強度は、電位を保持する時間が経過するにつれて増加した。
【0078】
図8には、図7に示すラマンスペクトルにおけるDバンドの強度(1358cm−1におけるピーク強度)を評価した結果を示す。図8において、横軸は電位を保持した時間(秒)を示し、縦軸はDバンドの強度を示す。図8に示すように、Dバンドの強度は、電位印加前において1.64であったのに対し、電位印加を開始してから60秒後に2.13となり、600秒後に2.91となり、1800秒後には3.34となった。すなわち、Dバンドの強度は、電位を保持する時間が1800秒までは、経時的に増加した。
【0079】
このような炭素構造に特有のラマンバンドの強度の経時的な増加は、電解液E中において、試料Sに含まれる炭素触媒の炭素構造が酸化される過程を反映したものと考えられた。すなわち、一般的に、炭素構造の結晶性が高くなるほどラマン活性が高くなり、大きなラマンピークが得られることから、例えば、炭素触媒の炭素構造中に存在する結晶性の低い部分が酸化によって減少し、結晶性の高い部分が増加することによって、ラマン活性が増加したと考えられた。
【0080】
また、例えば、電解液E中での電位の印加により炭素触媒を酸化させ、次いで当該炭素触媒を当該電解液Eから取り出してその炭素構造を解析する場合には、解析された当該炭素構造の酸化が、当該電位の印加によるものなのか、それとも当該炭素触媒を電解液から取り出して空気と接触させたことによるものなのか、区別することはできない。
【0081】
これに対し、本実施例では、電解液E中における電位の印加による炭素触媒の炭素構造の変化をin situラマン分光測定により解析したため、当該電位の印加による酸化過程を直接反映した有用な結果としてラマンスペクトルを得ることができた。
【符号の説明】
【0082】
1 ラマン分光測定用反応容器、10 筺体部、10a 外表面、10b 外表面、11 窓部、12 中空部、13 棚部、14 底部、20 作用極部、21 試料台部、21a 表面、22 延設部、30 対極、31 一方の端部、32 他方の端部、40 参照極、41 一方の端部、42 他方の端部、E 電解液、L レンズ、M 顕微鏡ステージ、S 試料、W 配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な窓部を有し、電解液を収容するための中空部が形成された筐体部と、
前記電解液中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部が試料を保持するために前記中空部内で前記窓部に対向して配置され、他の一部が外部電源に接続されるために前記筐体部外まで延設された作用極部と
を備えた
ことを特徴とするラマン分光測定用反応容器。
【請求項2】
前記作用極部は、前記窓部に対して平行に延びる部材である
ことを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定用反応容器。
【請求項3】
前記導電性材料は、導電性炭素材料、導電性セラミックス、金及び金メッキ導電性材料からなる群より選択される1種以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のラマン分光測定用反応容器。
【請求項4】
顕微ラマン分光測定に使用される
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のラマン分光測定用反応容器。
【請求項5】
透明な窓部を有し、電解液を収容するための中空部が形成された筐体部と、
前記電解液中で電気化学的に不活性な導電性材料から構成され、その一部が前記中空部内で前記窓部に対向して配置され、他の一部が前記筐体部外まで延設された作用極部と、
を備えた反応容器を準備すること、
前記作用極部の前記窓部に対向して配置された前記一部に試料を保持すること、
前記作用極部の前記筐体部外まで延設された前記他の一部を外部電源に接続すること、
前記中空部に前記電解液を収容すること、及び
前記電解液中における前記試料の電気化学反応中のラマン分光測定を行うこと
を含む
ことを特徴とするラマン分光測定方法。
【請求項6】
前記作用極部は、前記窓部に対して平行に延びる部材である
ことを特徴とする請求項5に記載のラマン分光測定法。
【請求項7】
前記導電性材料は、導電性炭素材料、導電性セラミクス、金及び金メッキ導電性材料からなる群より選択される1種以上である
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のラマン分光測定方法。
【請求項8】
前記ラマン分光測定は、顕微ラマン分光測定である
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のラマン分光測定方法。
【請求項9】
前記反応容器を、励起光を照射するためのレンズと、前記レンズに対向して配置された顕微鏡ステージとの間に配置して、前記顕微ラマン分光測定を行う
ことを特徴とする請求項8に記載のラマン分光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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