説明

ラマン散乱光検出装置

【課題】レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無くラマン散乱光を増加させることができるラマン散乱光検出装置を提供する。
【解決手段】試料面11を有する半球状プリズム(透光部材)1へレーザ光源(入射部)2からレーザ光(光ビーム)を入射する。レーザ光は、試料面11で反射し、鏡(反射体)31で反射し、試料面11で再度反射する。鏡31の反射角度は反射の前後で光路が一致しないように調整されてあり、レーザ光は試料面11上の前回とは異なる位置で反射する。以後、レーザ光は、ミラーコーティングが施された球面部12と試料面11との間で反射位置を変えながら反射を繰り返す。レーザ光はレーザ光源2へ入射せず、レーザ光源2でレーザの発振不良は起こらない。レーザ光は試料Sの一点に集中することが無く、試料Sの損傷は起こらない。試料面11でレーザ光が複数回反射することにより、ラマン散乱光が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料が接触される試料面の裏側で励起光を反射させ、試料から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に含まれる物質の同定又は特定物質の分布の推定等を非破壊で行う方法として、ラマン分光分析が利用されている。ラマン分光分析では、透光部材に試料を接触させ、透光部材内において試料との接触面で励起光を反射させ、反射光とは異なる方向へ出射したラマン散乱光を検出する方法が用いられている。特に、試料との接触面で励起光を全反射させ、全反射により発生したエバネッセント光によって試料から発生したラマン散乱光を検出する方法がある。エバネッセント光は試料の表面のみを励起するので、試料表面のラマン分光分析を行うことができる。
【0003】
ところで、ラマン散乱光は微弱であるので、ラマン散乱光を増加させるための技術が開発されている。特許文献1には、励起光としてレーザ光を用い、試料を励起させたレーザ光を反射させて再度試料へ入射する技術が開示されている。励起光が再度試料へ入射することにより、発生するラマン散乱光が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−20841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、励起光として用いたレーザ光が反射されて再度試料へ入射した際、レーザ光の往路と復路とが一致しているので、レーザ光がレーザ光源へ入射し、レーザ光源でレーザの発振不良が発生する虞がある。また、試料上の同一の位置へ励起光が入射され、励起光が試料上の一点に集中して試料が損傷する虞がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光路を変えながら励起光を複数回入射することにより、レーザの発振不良を起こすこと無くラマン散乱光を増加させることができ、しかも試料の損傷を起こし難いラマン散乱光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、任意の試料が接触される平面状の試料面を有する透光部材と、前記試料面で反射するように光ビームを前記透光部材の内部へ入射する入射部と、前記光ビームによって試料に発生するラマン散乱光を検出する手段とを備えるラマン散乱光検出装置において、前記試料面で反射した後の光ビームを、再度反射して前記試料面へ入射し、前記試料面上の前記試料面上で前回反射した位置とは異なる位置で反射させる反射手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、ラマン散乱光検出装置は、試料が接触する試料面を有する透光部材に対して入射部から光ビームを入射し、透光部材内において試料面で光ビームを反射させた後、光ビームを再度反射し、試料面の他の位置で光ビームを反射させる。試料面の他の位置で光ビームが反射するように光ビームが反射されることで、光ビームの光路が変更され、入射部へ光ビームが入射することが無い。また試料面の異なる位置で光ビームが複数回反射するので、光ビームが試料上の一点に集中して照射されることが無い。
【0009】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、前記反射手段は、前記入射部へ向かう光ビームを反射する手段を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、ラマン散乱光検出装置は、試料面で反射した後で入射部に向かう光ビームを反射させる。反射した光ビームは、試料面へ入射され、試料面での光ビームの反射が繰り返される。
【0011】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、前記反射手段は、前記試料面で反射して前記透光部材から出射した光ビームを、光路を変えて前記透光部材へ入射するように反射する反射体を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明においては、ラマン散乱光検出装置は、透光部材から出射した光ビームを、光路を変えて透光部材へ入射されるように反射体で反射する。
【0013】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、前記反射体は、光の反射角度を調整可能に構成してあることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、光ビームを反射する反射体は、光ビームの光路を適切に変更できるように、反射角度を適宜調整可能となっている。
【0015】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、前記反射体は、光の反射角度が連続的に変化するように揺動可能に構成してあり、前記反射体を揺動させる駆動部を更に備えることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、光ビームを反射する反射体は、揺動することによって、反射する高速の光路を変更させる。
【0017】
本発明に係るラマン散乱光検出装置は、前記透光部材は、平面部を前記試料面とした半球状プリズムであり、前記反射手段は、前記半球状プリズムの内部で光が反射するように、一部を除いて前記半球状プリズムの球面部をミラーコーティングしたミラーコーティング部を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、透光部材は半球状プリズムであり、半球状プリズムの球面部にミラーコーティング部を設けてあり、試料面とミラーコーティング部との間で光ビームを繰り返し反射させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、光ビームの反射を繰り返して試料へ光ビームを複数回入射することにより、光ビームの強度を大きくせずにラマン散乱光の強度を増大させることができる。また、入射部へ光ビームが入射することが無いので、入射部でレーザ光の発振不良が起こることが無い。また、光ビームが試料上の一点に集中することに起因する試料の損傷が発生しない。従って、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、試料からラマン散乱光を複数回発生させ、検出可能なラマン散乱光を増加させることができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態2に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図3】実施の形態3に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図4】実施の形態4に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図5】実施の形態5に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図6】実施の形態6に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図7】実施の形態7に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【図8】実施の形態8に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。ラマン散乱光検出装置は、試料Sを載置される半球状プリズム(hemispherical prism)1と、レーザ光(光ビーム)Lを発光するレーザ光源(入射部)2と鏡(反射体)31とを備えている。半球状プリズム1は、石英ガラス等の透光性の材料からなり、球中心を通る平面で球体を切断した半球体の形状に形成してある。半球状プリズム1は、本発明における透光部材に対応する。また半球状プリズム1は、平面部を上側にして配置されており、平面部は試料Sを載置される試料面11である。試料面11は、半球状プリズム1の球面部12の球中心を含み、球中心を円の中心とする円形となっている。半球状プリズム1の三次元形状は、球中心を通り試料面11に直交する軸を中心に図1に示す半球状プリズム1の断面図を回転させた形状となっている。
【0022】
レーザ光源2は、半球状プリズム1の球面部12に交差するようにレーザ光を半球状プリズム1へ入射する位置に配置されている。例えば、レーザ光源2は、試料面11の中心と球面部12上の一点とを結んだ直線上に配置されている。半球状プリズム1へ入射したレーザ光は、半球状プリズム1の内部において試料面11で反射する。図1中には、レーザ光を矢印付きの実線で示す。レーザ光源2は、試料面11でレーザ光が全反射する条件を満たしながらレーザ光を半球状プリズム1へ入射するように配置されていることが望ましい。なお、ラマン散乱光検出装置の構成は、レーザ光源2からのレーザ光が光学系を経由して半球状プリズム1へ入射される構成であってもよい。
【0023】
レーザ光源2から半球状プリズム1へ入射して試料面11で反射したレーザ光は、球面部12と交差し、半球状プリズム1から出射する。鏡31は、半球状プリズム1から出射したレーザ光が入射する位置に配置されている。鏡31へ入射したレーザ光は、鏡31で反射し、半球状プリズム1へ再度入射し、試料面11で再度反射する。鏡31は、半球状プリズム1に対するレーザ光の反射角度を使用者の操作により調整することが可能な構成となっている。鏡31は、反射前後のレーザ光の往路と復路とが一致しないように反射角度が予め調整されている。鏡31で反射するレーザ光の往路と復路とが一致しないので、鏡31で反射して半球状プリズム1へ入射するレーザ光は、出射時とは異なる角度で異なる位置に入射される。このため、半球状プリズム1内でのレーザ光の光路も出射時とは異なり、レーザ光は、試料面11上の前回反射した位置とは異なる位置で反射する。
【0024】
半球状プリズム1の球面部12の外側には、ミラーコーティングが施されることにより、ミラーコーティング部13が形成されている。但し、レーザ光源2からレーザ光が入射される入射口14と、鏡31で反射するレーザ光が出射する出射口15とには、ミラーコーティングが施されていない。鏡31で反射したレーザ光は、出射口15から半球状プリズム1内へ入射する。ミラーコーティング部13は、半球状プリズム1の内部においてレーザ光を反射させるためのものである。試料面11で再度反射したレーザ光は、球面部12へ入射され、ミラーコーティング部13によって球面部12で反射する。レーザ光が直前に試料面11で反射した位置は、試料面11の中心からずれた位置であるので、球面部12で反射する前後のレーザ光の往路と復路とは一致しない。このため、球面部12で反射したレーザ光は、試料面11上の前回反射した位置とはまた異なった位置で反射する。このようにして、レーザ光は、試料面11と球面部12との間で反射を複数回繰り返す。特に、試料面11でレーザ光が全反射する条件が満たされている場合は、レーザ光が試料面11から出射せずに高効率で反射が繰り返される。試料面11上でレーザ光が反射する位置は、毎回異なっている。最終的に、レーザ光は半球状プリズム1内で減衰するか、又は試料面11から半球状プリズム1外へ出射する。鏡31及びミラーコーティング部13は、本発明における反射手段に対応する。
【0025】
試料Sは、半球状プリズム1の試料面11上に載置される。例えば、試料Sは試料面11の中心に載置される。また試料Sは透明な物質であるとする。レーザ光は試料Sから見て試料面11の裏側で反射する。半球状プリズム1内においてレーザ光が試料面11で反射する際に、レーザ光の一部が試料Sへ浸入し、浸入したレーザ光は励起光として試料Sに作用し、ラマン散乱光が発生する。例えば、レーザ光が試料面11で全反射する場合、試料面11でエバネッセント光が発生し、エバネッセント光は試料面11に接触した試料S内に浸透し、エバネッセント光と試料Sとの相互作用によりラマン散乱光が発生する。発生したラマン散乱光は、透明な試料Sを透過して試料S外へ放出される。図1中には、ラマン散乱光を矢印付きの破線で示している。
【0026】
ラマン散乱光検出装置は、更に、試料Sを透過して放出されたラマン散乱光を集光する集光レンズ41と、集光されたラマン散乱光を検出する検出部42とを備えている。なお、半球状プリズム1と検出部42の間には、集光レンズ41以外にも、各種のレンズ及びミラー等の光学部品が備えられていてもよい。検出部42は、分光器及び光センサ等からなり、試料Sで発生したラマン散乱光の波長及び強度を検出する。検出部42での検出結果は、電気信号となって外部へ出力され、図示しない分析装置で試料Sのラマン分光分析が行われる。特に、レーザ光が試料面11で全反射する場合は、試料Sの表層部分のラマン分光分析を行うことができる。
【0027】
以上の構成でなるラマン散乱光検出装置は、半球状プリズム1の試料面11に試料Sを載置させた状態で、半球状プリズム1の内部においてレーザ光を試料面11で複数回反射させ、レーザ光と試料Sとの相互作用により発生したラマン散乱光を測定する。レーザ光が試料面11で反射する都度、ラマン散乱光が発生するので、ラマン散乱光は複数回発生する。従って、一回だけレーザ光を試料面11で反射させる方法に比べて、ラマン散乱光検出装置で検出するラマン散乱光が増加する。レーザ光は、試料面11で二回より多い回数反射することが容易であり、試料へ励起光が二回入射される従来技術に比べても、ラマン散乱光が増加する。また本実施の形態では、レーザ光源2から入射されて試料面11で反射したレーザ光は、鏡31で反射する前後で異なる光路を通るので、試料面11で再度反射した後でも異なる光路を通り、レーザ光源2へ入射することが無い。このため、レーザ光源2で発振不良が発生せず、ラマン散乱光検出装置は安定した動作が可能である。
【0028】
また本実施の形態では、試料面11へレーザ光を複数回入射することによってラマン散乱光を増加させるので、ラマン散乱光を増加させることを目的としてレーザ光の強度を大きくする必要が無い。このため、試料Sの損傷が発生し難くなる。また本実施の形態では、レーザ光が試料面11で複数回反射するときの反射位置は毎回異なるので、試料S上の一点に集中してレーザ光が複数回照射されることが無い。このため、試料S上の一点にレーザ光が複数回照射されることに起因する試料Sの損傷が発生しない。従って、本実施の形態に係るラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させることができる。検出可能なラマン散乱光が増加することにより、ラマン散乱光の検出感度が向上し、より高精度な試料Sのラマン分光分析が可能となる。また、発生するラマン散乱光が微弱であるために従来の方法ではラマン散乱光を検出できなかった試料Sについても、本発明を用いてラマン散乱光を増加させることにより、ラマン分光分析が可能となる。
【0029】
(実施の形態2)
実施の形態1に係るラマン散乱光検出装置は、試料Sを透過したラマン散乱光を測定する構成となっているので、試料Sは透明である必要がある。実施の形態2においては、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができるラマン散乱光検出装置を示す。
【0030】
図2は、実施の形態2に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。本実施の形態においては、半球状プリズム1には、球面部12の球中心を含む試料面11に平行な切頭面16が形成されている。球面部12は、半球面の一部をなす。半球状プリズム1の三次元形状は、球中心を通り試料面11及び切頭面16に直交する軸を中心に図2に示す半球状プリズム1の断面図を回転させた形状となっている。球面部12には、実施の形態1と同様に、入射口14及び出射口15を除いてミラーコーティング部13が設けられている。集光レンズ41は、半球状プリズム1の切頭面16に対向する位置に配置されており、検出部42は、集光レンズ41が集光するラマン散乱光を検出できる位置に配置されている。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態1と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。なお、半球状プリズム1と検出部42の間には、集光レンズ41以外にも各種の光学部品が備えられていてもよい。
【0031】
本実施の形態でも、レーザ光は半球状プリズム1内において試料面11で複数回反射し、試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光が試料面11で二回より多い回数反射することは容易である。発生したラマン散乱光は、不透明な試料Sを透過できないので、半球状プリズム1内を透過し、切頭面16から出射する。出射したラマン散乱光は、集光レンズ41で集光され、検出部42で検出される。本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。なお、ラマン散乱光検出装置は、試料面11側と切頭面16側との両方に検出部42を配置した形態であってもよい。
【0032】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。鏡31は所定の軸を中心にして揺動自在の構成となっている。鏡31には、鏡31をモータで揺動させる駆動部32が連結されている。鏡31が揺動することにより、レーザ光が反射する反射角度が変動し、反射後のレーザ光の光路も変動する。鏡31の揺動可能な範囲は、反射後のレーザ光が試料面11で反射する角度が全反射の条件を満たすことができる範囲内であることが望ましい。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態1と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
【0033】
本実施の形態に係るラマン散乱光検出装置は、駆動部32で鏡31を揺動させながら、レーザ光源2でレーザ光を半球状プリズム1へ入射する。鏡31が揺動することにより、鏡31で反射した後のレーザ光が半球状プリズム1へ入射する光路が変動し、レーザ光は、試料面11上の前回反射した位置とは異なった位置で再度反射する。試料面11で再度反射したレーザ光は、実施の形態1と同様に、レーザ光源2へ入射されること無く、球面部12で反射する。以後は、実施の形態1と同様に、レーザ光は反射位置を変更しながら試料面11で複数回反射し、試料Sでラマン散乱光が発生し、ラマン散乱光は検出部42で検出される。レーザ光が試料面11で二回より多い回数反射することは容易である。特に、全反射の条件が満たされる範囲内で鏡31が揺動することにより、確実に、複数回の全反射が行われる。本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。なお、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態2と同様に、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる形態であってもよい。
【0034】
(実施の形態4)
図4は、実施の形態4に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。本実施の形態においては、ミラーコーティング部13には、実施の形態1にあったような出射口15は形成されていない。また半球状プリズム1の球面部12は、凹凸が形成されており、真球の球面からずれた形状となっている。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態1と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
【0035】
レーザ光源2が半球状プリズム1へ入射したレーザ光は、試料面11で反射した後、ミラーコーティング部13によって球面部12で反射し、再度試料面11で反射する。球面部12の形状は真球の球面からずれた形状となっているので、球面部12で反射する前後のレーザ光の往路と復路とは一致せず、レーザ光は、試料面11上の前回反射した位置とは異なった位置で反射する。試料面11で再度反射したレーザ光は、実施の形態1と同様に、レーザ光源2へ入射すること無く、球面部12で反射する。以後は、実施の形態1と同様に、レーザ光は反射位置を変更しながら試料面11で複数回反射し、試料Sでラマン散乱光が発生し、ラマン散乱光は検出部42で検出される。レーザ光が試料面11で二回より多い回数反射することは容易である。本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。なお、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態2と同様に、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる形態であってもよい。
【0036】
(実施の形態5)
実施の形態5においては、半球状プリズム1とは異なる形状の透光部材を用いたラマン散乱光検出装置を示す。図5は、実施の形態5に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。ラマン散乱光検出装置は、透光部材として、台形プリズム5を備えている。台形プリズム5は、シリカガラス等の透光性の材料からなり、頂面、側面52及び底面53を備えた形状に形成してある。また台形プリズム5は、頂面を、試料Sを載置される試料面51としてある。試料面51と底面は平行であり、側面52は斜面となっている。
【0037】
レーザ光源2は、出射したレーザ光が平面鏡34で反射して底面53に交差するように台形プリズム5へ入射されるような位置に配置されている。レーザ光源2の前面には、出射したレーザ光が通過する孔331が形成された鏡33が配置されている。鏡33は、レーザ光源2へ向かうレーザ光を反射する。レーザ光源2から台形プリズム5へ入射されたレーザ光は、台形プリズム5の内部において側面52で反射し、更に試料面51で反射する。図5中には、レーザ光を矢印付きの実線で示す。レーザ光源1及び平面鏡34の位置、並びに台形プリズム5の側面52の傾きは、試料面51でレーザ光が全反射する条件を満たしていることが望ましい。なお、ラマン散乱光検出装置の構成は、レーザ光源2と台形プリズム5との間に平面鏡34以外の各種の光学部品を備えた形態であってもよく、レーザ光源2から直接に台形プリズム5へレーザ光を入射する形態であってもよい。
【0038】
レーザ光源2から台形プリズム5へ入射して試料面51で反射したレーザ光は、再度側面52で反射し、底面53と交差して台形プリズム5から出射する。鏡31は、台形プリズム5から出射したレーザ光が入射する位置に配置されている。鏡31へ入射したレーザ光は、鏡31で反射し、台形プリズム5へ再度入射し、側面52で反射し、試料面51で再度反射する。鏡31は、台形プリズム5に対するレーザ光の反射角度を使用者の操作により調整することが可能な構成となっている。鏡31は、反射する前後でレーザ光の往路と復路とが一致しないように反射角度が予め調整されている。鏡31で反射するレーザ光の往路と復路とが一致しないので、鏡31で反射して台形プリズム5へ入射するレーザ光は、出射時とは異なる角度で異なる位置に入射する。このため、台形プリズム5内でのレーザ光の光路も出射時とは異なり、レーザ光は、側面52の前回反射した位置とは異なる位置で反射し、更に試料面51の前回反射した位置とは異なる位置で反射する。
【0039】
試料面51で再度反射したレーザ光は、側面52で反射し、底面53と交差して台形プリズム5から出射し、平面鏡34で反射してレーザ光源2へ向かって入射する。レーザ光源2へ向かうレーザ光の光路は、レーザ光源2から出射されたときの光路とは一致せず、レーザ光は、鏡33の孔331を通過すること無く、鏡33で反射する。鏡33で反射したレーザ光は、平面鏡34で反射し、台形プリズム5へ入射する。鏡33は、レーザ光の反射角度を使用者の操作により調整することが可能な構成となっている。鏡33は、反射前後でレーザ光の往路と復路とが一致しないように反射角度が予め調整されている。鏡33で反射するレーザ光の往路と復路とが一致しないので、鏡33で反射した後に台形プリズム5へ入射されるレーザ光は、前回の入射時及び出射時とは異なる位置に入射される。この後、レーザ光は、側面52上の前回反射した位置とは異なった位置で反射し、試料面51の前回反射した位置とはまた異なった位置で反射する。このようにして、レーザ光は、試料面51と鏡31及び鏡33との間で反射を複数回繰り返す。特に、試料面51でレーザ光が全反射する条件が満たされている場合は、レーザ光が試料面51から出射せずに高効率で反射が繰り返される。試料面51のレーザ光が反射する位置は、毎回異なっている。最終的に、レーザ光は台形プリズム5内で減衰するか、又は台形プリズム5外へ出射する。鏡31及び鏡33は、本発明における反射手段に対応する。
【0040】
試料Sは、台形プリズム5の試料面51上に載置される。例えば、試料Sは試料面51の中心に載置される。また試料Sは透明な物質であるとする。台形プリズム5内においてレーザ光が試料面51で反射する際に、レーザ光の一部が試料Sへ浸入し、ラマン散乱光が発生する。例えば、レーザ光が試料面51で全反射する場合、試料面51でエバネッセント光が発生し、エバネッセント光と試料Sとの相互作用によりラマン散乱光が発生する。発生したラマン散乱光は、透明な試料Sを透過して試料S外へ放出される。図5中には、ラマン散乱光を矢印付きの破線で示している。
【0041】
試料面51に対向する位置に、ラマン散乱光を集光する集光レンズ41が配置され、集光レンズ41が集光したラマン散乱光を検出する位置に検出部42が配置されている。なお、台形プリズム5と検出部42の間には、集光レンズ41以外にも、各種のレンズ及びミラー等の光学部品が備えられていてもよい。
【0042】
本実施の形態でも、レーザ光は台形プリズム5内において試料面51で複数回反射し、試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光が試料面51で二回より多い回数反射することは容易である。発生したラマン散乱光は、集光レンズ41で集光され、検出部42で検出される。またレーザ光は、鏡31及び鏡33で反射する都度、光路が変更され、レーザ光源2へ入射することが無く、また試料面51で複数回反射するときの反射位置は反射の都度異なる。従って、本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。
【0043】
なお、ラマン散乱光検出装置は、鏡31を底面53と平行に固定した形態であってもよい。鏡31の反射面は、実際には凹凸によって完全な平面では無いので、鏡31で反射する前後のレーザ光の往路と経路とは一致しない。従って、この形態でも、反射位置を変更しながらレーザ光を試料面51で複数回反射させることが可能であり、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させることができる。
【0044】
また、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態2のように、台形プリズム5の底面53に対向する位置に集光レンズ41を配置し、集光レンズ41が集光したラマン散乱光を検出する位置に検出部42が配置された形態であってもよい。この形態では、試料Sから発生したラマン散乱光は、台形プリズム5内を透過し、底面53から出射し、検出部42で検出される。この形態では、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる。
【0045】
また、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態3のように、鏡31を揺動可能な構成とし、鏡31を揺動させる駆動部32を備えた形態であってもよい。この形態では、鏡31の揺動によって、鏡31で反射するレーザ光の反射角度が変動し、レーザ光は、反射位置を変更しながら試料面51で複数回反射する。この形態では、鏡31の揺動によって、レーザ光が試料面51で反射する位置を均一に分布させ、試料Sの表面をレーザ光で均一に励起することができる。このため、試料Sの表面全体のラマン分光分析を行うことも可能となる。
【0046】
(実施の形態6)
図6は、実施の形態6に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。レーザ光源2の前面には、出射したレーザ光が通過する部分を空洞にしたコーナキューブ36が配置されている。コーナキューブ36は、二つの平面鏡の反射面を向かい合わせにして角度をつけて組み合わせたものである。レーザ光源2へ向かうレーザ光は、一方の反射面で反射し、更に他方の反射面で反射する。コーナキューブ36において二つの平面鏡を組み合わせる角度は、レーザ光源2へ向かうレーザ光とコーナキューブ36で二回反射したレーザ光とが平行になるように調整されていることが望ましい。レーザ光源2が出射したレーザ光は、平面鏡34で反射し、台形プリズム5へ入射される。台形プリズム5へ入射したレーザ光は、台形プリズム5の内部において側面52で反射し、更に試料面51で反射する。図6中には、レーザ光を矢印付きの実線で示す。
【0047】
試料面51で反射したレーザ光は、再度側面52で反射し、底面53と交差して台形プリズム5から出射する。台形プリズム5から出射したレーザ光が入射される位置には、コーナキューブ(反射体)35が配置されている。台形プリズム5から出射したレーザ光は、コーナキューブ35の一方の反射面で反射し、更に他方の反射面で反射し、底面53に交差して台形プリズム5へ入射する。コーナキューブ35において二つの平面鏡を組み合わせる角度は、台形プリズム5から出射するレーザ光とコーナキューブ35で二回反射して台形プリズム5へ入射されるレーザ光とが平行になるように調整されていることが望ましい。またコーナキューブ35は、台形プリズム5に対する相対位置を使用者の操作により調整することが可能な構成となっている。コーナキューブ35で二回反射することによって、レーザ光の光路は移動するので、コーナキューブ35での反射後に台形プリズム5へ入射するレーザ光は、出射時とは異なる位置に入射する。このため、レーザ光は、側面52の前回反射した位置とは異なる位置で反射し、更に試料面51の前回反射した位置とは異なる位置で反射する。
【0048】
試料面51で再度反射したレーザ光は、側面52で反射し、底面53と交差して台形プリズム5から出射し、平面鏡34で反射してレーザ光源2へ向かう。レーザ光源2へ向かうレーザ光の光路は、レーザ光源2から出射されたときの光路とは一致しない。レーザ光は、コーナキューブ36で二回反射し、平面鏡34で反射し、台形プリズム5へ入射する。コーナキューブ36で二回反射することによって、レーザ光の光路は移動するので、コーナキューブ36で反射した後に台形プリズム5へ入射するレーザ光は、前回の入射時及び出射時とは異なる位置に入射する。この後、レーザ光は、側面52上の前回反射した位置とは異なった位置で反射し、試料面51の前回反射した位置とはまた異なった位置で反射する。このようにして、レーザ光は、試料面51とコーナキューブ35及びコーナキューブ36との間で反射を複数回繰り返す。特に、試料面51でレーザ光が全反射する条件が満たされている場合は、レーザ光が試料面51から出射せずに高効率で反射が繰り返される。試料面51でレーザ光が反射する位置は、毎回異なっている。最終的に、レーザ光は台形プリズム5内で減衰するか、又は台形プリズム5外へ出射する。コーナキューブ35及びコーナキューブ36は、本発明における反射手段に対応する。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態5と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
【0049】
本実施の形態でも、レーザ光は台形プリズム5内において試料面51で複数回反射し、試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光が試料面51で二回より多い回数反射することは容易である。発生したラマン散乱光は、検出部42で検出される。またレーザ光は、コーナキューブ35及びコーナキューブ36で反射する都度、光路が変更され、レーザ光源2へ入射することが無く、また試料面51で複数回反射するときの反射位置は反射の都度異なる。従って、本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。本実施の形態では、コーナキューブ35及びコーナキューブ36により、レーザ光の角度を変えずに光路を変更することができる。またコーナキューブ35の位置を調整することにより、コーナキューブ35で反射する前後でレーザ光の往路と復路とが離れる距離を調整することができる。この距離を調整することにより、試料面51でレーザ光が反射する回数が調整され、ラマン散乱光の強度が調整される。
【0050】
なお、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態2のように、台形プリズム5の底面53に対向する位置に集光レンズ41を配置し、集光レンズ41が集光したラマン散乱光を検出する位置に検出部42が配置された形態であってもよい。この形態では、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる。
【0051】
(実施の形態7)
図7は、実施の形態7に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。本実施の形態に係るラマン散乱光検出装置は、実施の形態6におけるコーナキューブ35の代わりに、反射面が放物面をなす放物面鏡(反射体)37を備える。またラマン散乱光検出装置は、実施の形態6におけるコーナキューブ36の代わりに、レーザ光源2から出射したレーザ光が通過する孔が穿孔された放物面鏡38を備える。放物面鏡37及び放物面鏡38は、本発明における反射手段に対応する。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態6と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
【0052】
本実施の形態においても、レーザ光は、試料面51と放物面鏡37及び放物面鏡38との間で反射を複数回繰り返し、試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光が試料面51で二回より多い回数反射することは容易である。レーザ光は、放物面鏡37及び放物面鏡38で反射する都度、光路が変更され、レーザ光源2へ入射することが無く、また試料面51で複数回反射するときの反射位置は反射の都度異なる。従って、本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、レーザの発振不良及び試料の損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。また放物面鏡37の位置を調整することにより、放物面鏡37で反射する前後のレーザ光の往路と復路とが離れる距離を調整することができる。この距離を調整することにより、試料面51でレーザ光が反射する回数が調整され、ラマン散乱光の強度が調整される。
【0053】
なお、ラマン散乱光検出装置は、実施の形態2のように、台形プリズム5の底面53に対向する位置に集光レンズ41を配置し、集光レンズ41が集光したラマン散乱光を検出する位置に検出部42が配置された形態であってもよい。この形態では、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる。
【0054】
(実施の形態8)
図8は、実施の形態8に係るラマン散乱光検出装置の構成を示す概略図である。レーザ光源2の前面には、両面が鏡面となっている平板状の両面鏡61が配置されている。両面鏡61は、レーザ光源2からのレーザ光が反射して台形プリズム5へ入射され、試料面51の両側に存在する側面52の内で一方の側面52で反射するような位置に配置されている。即ち、レーザ光源2からのレーザ光は、両面鏡61で反射し、台形プリズム5へ入射し、台形プリズム5の内部において、一方の側面52で反射し、更に試料面51で反射する。図8中には、レーザ光を矢印付きの実線で示す。レーザ光源1の位置、両面鏡61の位置及び傾き、並びに側面52の試料面51に対する傾きは、試料面51でレーザ光が全反射する条件を満たしていることが望ましい。なお、ラマン散乱光検出装置の構成は、レーザ光源2と両面鏡61との間に平面鏡34以外の各種の光学部品を備えた形態であってもよい。
【0055】
試料面51で反射したレーザ光は、次に、他方の側面52で反射し、底面53と交差してから出射する。台形プリズム5から出射したレーザ光が入射する位置には、鏡63が配置されている。また、両面鏡61よりも台形プリズム5から離れた位置に、両面鏡61と平行に、両面鏡61よりも大きい平面鏡62が配置されている。鏡63と平面鏡62とは、角度をつけて反射面が対向している。鏡63の位置及び傾きは、台形プリズム5から出射したレーザ光が反射して平面鏡62へ入射するように定められている。また、鏡63の位置及び傾きは、反射したレーザ光が両面鏡61へは入射しないように定められている。また鏡63の位置及び傾きは、反射して平面鏡62へ入射するレーザ光の光路が、レーザ光源2から両面鏡61へ入射するレーザ光の光路に平行になるように定められていることが望ましい。また鏡63は、レーザ光源2から両面鏡61へ入射するレーザ光の光路からは外れた位置に配置されている。
【0056】
鏡63で反射して平面鏡62へ入射したレーザ光は、両面鏡61で反射して台形プリズム5へ再度入射するか、又は平面鏡62と両面鏡61の平面鏡62に対向した側の反射面との間で一回以上反射を繰り返し、最終的に平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射する。台形プリズム5へ入射したレーザ光は、一方の側面52で反射し、試料面51で反射する。平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光の光路は、両面鏡61で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光の光路とは一致しない。このため、平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光は、側面52において、両面鏡61で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光が反射した位置とは異なる位置で反射する。更に、レーザ光は、試料面51の前回反射した位置とは異なる位置で再度反射する。試料面51で再度反射したレーザ光は、他方の側面52で反射し、底面53と交差して台形プリズム5から出射し、鏡63で反射する。また、両面鏡61及び平面鏡62の傾き及び位置は、両面鏡61で反射して台形プリズム5へ入射するレーザ光の光路と平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射するレーザ光の光路とが平行になるように定められていることが望ましい。更に、レーザ光源1の位置、両面鏡61、平面鏡62及び鏡63の位置及び傾き、並びに台形プリズム5の側面52の傾きは、台形プリズム5に対して入射及び出射するレーザ光が底面53に直交するように定められていることが望ましい。
【0057】
以上のようにして、レーザ光は、試料面51、側面52、鏡63、両面鏡61及び平面鏡62の間で反射を複数回繰り返す。試料面51でレーザ光が反射する位置は、毎回異なっている。特に、試料面51でレーザ光が全反射する条件が満たされている場合は、レーザ光が試料面51から出射せずに高効率で反射が繰り返される。更に、台形プリズム5に対して入射及び出射するレーザ光が底面53に直交する場合は、底面53を通過するときにレーザ光量の減衰が少なく、また試料面51でレーザ光が全反射する条件が保たれる。鏡63、両面鏡61及び平面鏡62は、本発明における反射手段に対応する。
【0058】
平面鏡62は、使用者の操作により位置を調整することにより、両面鏡61との距離を調整することが可能な構成となっている。平面鏡62を両面鏡61に近づけるほど、平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光が側面52で反射する領域は狭くなり、試料面51でレーザ光が反射する領域も狭くなる。逆に、平面鏡62を両面鏡61から遠ざけるほど、平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射したレーザ光が側面52で反射する領域は広くなり、試料面51でレーザ光が反射する領域も広くなる。従って、平面鏡62の位置を調整することにより、試料S中でレーザ光により励起してラマン散乱光を発生させる領域の大きさを調整することができる。ラマン散乱光を発生させる領域の大きさを調整することにより、試料S中でラマン分光分析を行うべき部分の位置及び大きさを調整することができる。ラマン散乱光検出装置のその他の構成は実施の形態5と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
【0059】
本実施の形態でも、レーザ光は台形プリズム5内において試料面51で複数回反射し、反射の都度試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光が試料面51で二回より多い回数反射することは容易である。発生したラマン散乱光は、検出部42で検出される。またレーザ光は、最初に両面鏡61で反射して台形プリズム5へ入射するときと、平面鏡62で反射して台形プリズム5へ入射するときとで光路が異なり、以降も台形プリズム5へ入射する都度光路が異なる。このため、試料面51でレーザ光が複数回反射するときの反射位置は反射の都度異なり、試料S上の一点に集中してレーザ光が複数回照射されることが無い。従って、本実施の形態においても、ラマン散乱光検出装置は、試料Sの損傷を起こすこと無く、検出可能なラマン散乱光を増加させ、ラマン散乱光の検出感度を向上させることができる。特に、試料面51でレーザ光が全反射する条件が満たされており、台形プリズム5に対して入射及び出射するレーザ光が底面53に直交する場合は、レーザ光で試料Sを励起する効率が向上し、ラマン散乱光がより増加する。
【0060】
また、本実施の形態では、台形プリズム5へ入射したレーザ光は一方の側面52で反射し、台形プリズム5から出射するレーザ光は直前に他方の側面52で反射している。台形プリズム5へ入射するレーザ光の光路と台形プリズム5から出射するレーザ光の光路とが完全に分離しているので、レーザ光がレーザ光源2へ入射することが無く、レーザの発振不良が発生することは無い。
【0061】
なお、ラマン散乱光検出装置は、台形プリズム5の底面53に対向する位置に集光レンズ41を配置し、集光レンズ41が集光したラマン散乱光を検出する位置に検出部42が配置された形態であってもよい。この形態では、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光を測定することができる。また、図8では、レーザ光源2から両面鏡61へ入射するレーザ光の光路よりも台形プリズム5から離れた位置に鏡63が配置されているが、鏡63は、前記光路よりも台形プリズム5に近い位置に鏡63が配置されていてもよい。
【0062】
また、以上の実施の形態1〜8では、試料面を試料Sの載置面とした形態を示したが、本発明のラマン散乱光検出装置は、試料の上方に試料面を配置する等、試料面が上方以外の方向を向いた形態であってもよい。また、以上の実施の形態1〜8では、光ビームとしてレーザ光を用いた形態を示したが、本発明は、コリメータを用いて絞った非コヒーレントな光線等、レーザ光以外の光ビームを用いた形態であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 半球状プリズム(透光部材)
11 試料面
12 球面部
13 ミラーコーティング部
2 レーザ光源(入射部)
31、33 鏡(反射体)
32 駆動部
35、36 コーナキューブ(反射体)
37、38 放物面鏡(反射体)
42 検出部
5 台形プリズム
51 試料面
52 側面
61 両面鏡
62 平面鏡
63 鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の試料が接触される平面状の試料面を有する透光部材と、前記試料面で反射するように光ビームを前記透光部材の内部へ入射する入射部と、前記光ビームによって試料に発生するラマン散乱光を検出する手段とを備えるラマン散乱光検出装置において、
前記試料面で反射した後の光ビームを、再度反射して前記試料面へ入射し、前記試料面上の前記試料面上で前回反射した位置とは異なる位置で反射させる反射手段を備えること
を特徴とするラマン散乱光検出装置。
【請求項2】
前記反射手段は、
前記入射部へ向かう光ビームを反射する手段を含むこと
を特徴とする請求項1に記載のラマン散乱光検出装置。
【請求項3】
前記反射手段は、
前記試料面で反射して前記透光部材から出射した光ビームを、光路を変えて前記透光部材へ入射するように反射する反射体を含むこと
を特徴とする請求項1又は2に記載のラマン散乱検出装置。
【請求項4】
前記反射体は、光の反射角度を調整可能に構成してあること
を特徴とする請求項3に記載のラマン散乱検出装置。
【請求項5】
前記反射体は、光の反射角度が連続的に変化するように揺動可能に構成してあり、
前記反射体を揺動させる駆動部を更に備えること
を特徴とする請求項3に記載のラマン散乱検出装置。
【請求項6】
前記透光部材は、平面部を前記試料面とした半球状プリズムであり、
前記反射手段は、
前記半球状プリズムの内部で光が反射するように、一部を除いて前記半球状プリズムの球面部をミラーコーティングしたミラーコーティング部を含むこと
を特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載のラマン散乱検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−242245(P2012−242245A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112652(P2011−112652)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】