説明

ラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤及びアクアポリン3mRNA発現促進剤

【課題】安全性の高い天然物の中からラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用又はアクアポリン3mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】本発明のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤の有効成分として、月桃からの抽出物を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤及びアクアポリン3mRNA発現促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は角層、表皮、基底膜及び真皮から構成されている。基底膜は、表皮と真皮との境界部に存在し、表皮と真皮とを繋ぎ止めるだけでなく、皮膚機能の維持に重要な役割を果たしている(非特許文献1参照)。基底膜の主要骨格は、IV型コラーゲンからなる網目構造をしている。基底膜と表皮との境界に存在し、基底膜と表皮とを繋ぎとめているのがラミニン5を主成分とする各種糖蛋白質で、かかるラミニン5は、表皮に存在する表皮角化細胞より産生される。若い皮膚においては、基底膜の働きにより表皮、真皮の相互作用が恒常性を保つことで水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0003】
ところが、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、基底膜の主要構成成分であるラミニン5は分解・変質を起こし、基底膜構造が破壊される(非特許文献2参照)。その結果、皮膚は保湿機能や弾力性が低下し、角質は異常剥離を始めるから、肌は張りや艶を失い、荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。このように、皮膚の老化に伴う変化、即ち、シワ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等には、基底膜成分の減少、基底膜の構造変化が関与しており、ラミニン5の産生を促進することにより、皮膚の老化症状を予防・改善することができると考えられる。
【0004】
ラミニンは、α鎖、β鎖及びγ鎖の種々の組み合わせからなり、現在のところ15種類(ラミニン1〜ラミニン15)が知られている。これらのα鎖、β鎖及びγ鎖が長鎖(long arm)と呼ばれる部位でコイル状3本鎖構造を形成することで、巨大なラミニン分子が構成されている。その中でラミニン5(α3β3γ2)は、皮膚、消化器、腎臓、肺等の上皮組織の基底膜に多量に存在する。ラミニン5の各鎖をコードする遺伝子の先天的な異常に起因する遺伝子疾患(致死型先天性表皮水疱症,Herlitz junctional epidermolysis bullosa)においては、全身の表皮が剥離する致死性の症状を示すことが知られている。そして、ラミニン5は、他の細胞外マトリックス分子と比べ、強度に細胞を接着させ(細胞接着活性が高く)、細胞運動を強く促進する(細胞運動活性が高い)ことが知られている。
【0005】
このように、ラミニン5は、細胞運動活性が高いことから、損傷皮膚中の細胞移動を促進し、損傷治癒を促すことが知られている(特許文献1参照)。すなわち、ラミニン5の産生を促進することは、基底膜の構造が破壊されるような皮膚損傷の治癒を促す上で重要である。
【0006】
従来、ラミニン5を含有する皮膚外用剤(特許文献2参照)が知られており、また、ラミニン5産生促進作用を有するものとして、大豆抽出物(特許文献3参照)、フェニルプロパノイド類(特許文献4参照)、パントテン酸(特許文献5参照)、リゾホスファチジルコリン又はリゾホスファチジン酸(特許文献6参照)、コエンザイムQ10(特許文献7参照)等が知られている。
【0007】
一方、表皮細胞が基底膜の構成成分であるIV型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリックスタンパク質に接着するためには、その受容体として機能するインテグリンが不可欠である。インテグリンは細胞膜に発現する膜貫通型タンパク質であり、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリックスタンパク質と結合するとともに、細胞内ではテーリンやアクチニン等の細胞骨格タンパク質と結合し、細胞と細胞外マトリックス又は細胞と細胞との結合に関与する。
【0008】
インテグリンはα鎖とβ鎖とが非共有結合で会合したヘテロダイマーであり、α鎖とβ鎖との組み合わせによりリガンド特異性の異なる多様な分子が形成される。このうち、ラミニン5の受容体としては、インテグリンα6β4及びインテグリンα3β1が知られている。インテグリンα6β4は、上皮細胞、シュワン細胞、神経細胞、一部の内皮細胞などで発現しており、皮膚では表皮細胞の基底膜側に存在し、基底膜に存在するラミニン5と結合して、表皮と基底膜間の結合を担っており、正常な皮膚構造の維持に重要な機能を有している。インテグリンα6β4の各鎖をコードする遺伝子の先天的な異常は、ラミニン5と同様に致死型先天性表皮水疱症(Herlitz junctional epidermolysis bullosa)の原因となることが知られている。
【0009】
インテグリンα6β4とラミニン5との結合は、単なる接着による細胞の安定化だけでなく、インテグリンα6β4を介して表皮細胞内にシグナルを伝達し、表皮細胞の正常な増殖を開始させることが知られている。また、インテグリンα6β4は、加齢に伴って表皮細胞における発現が低下することが知られており、このことが皮膚老化の一因と考えられている。そのため、インテグリンα6β4の発現を促進することにより、表皮細胞の正常な増殖が促進され、基底膜損傷の修復や正常な皮膚構造の維持につながり、また皮膚の老化症状を予防・改善できると考えられる。
【0010】
このような考えに基づき、インテグリンα6β4発現促進作用を有するものとして、例えば、レイシ抽出物及びオウレン抽出物(特許文献8参照)、セイヨウキズタ抽出物(特許文献9参照)等が知られている。
【0011】
また、皮膚細胞では、水チャンネルとして知られるアクアポリンが、細胞膜上に発現して、細胞間隙の水をはじめとする低分子物質を細胞内へ取り込む役割を担っていることが知られている。
【0012】
ヒトでは、13種類のアクアポリン(AQP0〜AQP12)の存在が知られている。表皮細胞においては、主としてアクアポリン3(AQP3)が存在しており、水に加えて、水分保持作用に関与するグリセロールや尿素等の低分子化合物をも取り込む役割を担っていると考えられている。
【0013】
しかしながら、アクアポリン3は加齢とともに減少し、このことが水分保持機能の低下の一因であることが示唆されているため、アクアポリン3の発現を促進することにより、加齢による水分保持能やバリア機能等を制御することが可能であると考えられる(非特許文献3参照)。このような考えに基づき、アクアポリン3発現促進作用を有するものとして、例えば、トコフェリルレチノエート(特許文献10参照)、ノウゼンハレン科植物より得られる抽出物(特許文献11参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−63033号公報
【特許文献2】特開平10−147515号公報
【特許文献3】特開2004−217618号公報
【特許文献4】特開2007−77169号公報
【特許文献5】特開2005−179243号公報
【特許文献6】特開2000−226308号公報
【特許文献7】特開2007−63160号公報
【特許文献8】特開2006−045087号公報
【特許文献9】特開2003−171225号公報
【特許文献10】特開2006−290873号公報
【特許文献11】特開2004−168732号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Marinkovich MP et al.,"J. Cell. Biol.",1992年,第199巻,p.695‐703
【非特許文献2】Lavker et al.,"J. Invest. Dermatol.",1979年,第73巻,p.59‐66
【非特許文献3】「フレグランスジャーナル」,2006年,第34巻,第10号,p.19−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、安全性の高い天然物の中からラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用又はアクアポリン3mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れたラミニン5産生促進作用を有しかつ安全性の高いラミニン5産生促進剤、優れたインテグリンα6β4産生促進作用を有しかつ安全性の高いインテグリンα6β4産生促進剤、優れたラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を有しかつ安全性の高い皮膚基底膜正常化剤、優れたラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を有しかつ安全性の高い皮膚損傷回復促進剤、並びに優れたアクアポリン3mRNA発現促進作用を有し、かつ安全性の高いアクアポリン3mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、月桃からの抽出物を有効成分として含有するものである。
【0020】
ここで、本実施形態において「月桃からの抽出物」には、月桃を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0021】
本実施形態において使用する抽出原料は、月桃(学名:Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)である。
月桃(Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)は、ショウガ科ハナミョウガ属に属する多年生常緑草本であり、九州南部からインドにまで分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。月桃は、沖縄ではサンニンと呼ばれ、琉球王朝以来の伝統菓子であるムーチーに利用されるほか、ハーブとしても利用されている。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0022】
月桃からの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、月桃の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0023】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0025】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0026】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0027】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0028】
なお、上述のようにして得られた抽出液はそのままでもラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0029】
また、月桃からの抽出物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚化粧料等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0030】
以上のようにして得られる月桃からの抽出物は、優れたラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用及びアクアポリン3mRNA発現促進作用を有しているため、ラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤の有効成分として用いることができる。
【0031】
本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、月桃からの抽出物のみからなるものでもよいし、月桃からの抽出物を製剤化したものでもよい。
【0032】
本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。ラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、他の組成物(例えば、皮膚外用剤、美容用飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0033】
本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤を製剤化した場合、月桃からの抽出物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0034】
なお、本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、必要に応じて、ラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用又はアクアポリン3mRNA発現促進作用を有する他の天然抽出物等を、月桃からの抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0035】
本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0036】
また、本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0037】
本実施形態のラミニン5産生促進剤は、月桃からの抽出物が有するラミニン5産生促進作用を通じて、ラミニン5の産生を促進することができる。これにより、基底膜構造の再構築を誘導し、しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本実施形態のラミニン5産生促進剤は、これらの用途以外にもラミニン5産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができ、例えば、ラミニン5の欠乏(欠損)に起因する疾患(表皮水疱症等)の予防又は治療剤として用いることができる。
【0038】
本実施形態のインテグリンα6β4産生促進剤は、月桃からの抽出物が有するインテグリンα6β4産生促進作用を通じて、インテグリンα6β4の産生を促進することができる。これにより、基底膜構造の再構築を誘導し、しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本実施形態のインテグリンα6β4産生促進剤は、これらの用途以外にもインテグリンα6β4産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができ、例えば、インテグリンα6β4の欠乏(欠損)に起因する疾患(表皮水疱症等)の予防又は治療剤として用いることができる。
【0039】
本実施形態の皮膚基底膜正常化剤は、月桃からの抽出物が有するラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を通じて、ラミニン5及び/又はインテグリンα6β4の産生を促進することができ、これにより、基底膜構造の再構築を誘導し、しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本実施形態の皮膚基底膜正常化剤は、これらの用途以外にもラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0040】
本実施形態の皮膚損傷回復促進剤は、月桃からの抽出物が有するラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を通じて、皮膚の損傷の回復を促進することができ、これにより、しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができるとともに、皮膚における創傷を治療・改善することができる。ただし、本実施形態の皮膚損傷回復促進剤は、これらの用途以外にもラミニン5産生促進作用及び/又はインテグリンα6β4産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができ、例えば、皮膚創傷治療等の用途に用いることができる。
【0041】
本実施形態のアクアポリン3mRNA発現促進剤は、月桃からの抽出物が有するアクアポリン3mRNA発現促進作用を通じて、アクアポリン3の発現を促進することができるため、皮膚の水分保持能やバリア機能を改善することができ、それにより皮膚の乾燥、しわの形成、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本実施形態のアクアポリン3mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもアクアポリン3mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0042】
また、本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、優れたラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用又はアクアポリン3mRNA発現促進作用を有するため、例えば、皮膚外用剤又は飲食品に配合するのに好適である。この場合に、月桃からの抽出物をそのまま配合してもよいし、月桃からの抽出物から製剤化したラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤を配合してもよい。
【0043】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0044】
飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0045】
また、本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、優れたラミニン5産生促進作用、インテグリンα6β4産生促進作用又はアクアポリン3mRNA発現促進作用を有するので、ラミニン5の産生機構、インテグリンα6β4の産生機構又はアクアポリン3mRNAの発現機構に関連する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0046】
なお、本実施形態のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤、皮膚損傷回復促進剤又はアクアポリン3mRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、月桃からの抽出物として月桃葉抽出液BG(丸善製薬社製,試料1)の凍結乾燥品を使用した。
【0048】
〔試験例1〕ラミニン5産生促進作用試験
月桃抽出物(試料1)について、以下のようにしてラミニン5産生促進作用を試験した。
【0049】
ヒト正常新生児表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte,NHEK)を80cmフラスコでヒト正常表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて37℃、5%CO−95%airの条件下にて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10個/mLの細胞密度となるようにKGMからBPEを除いた培地(KGM−BPE)で希釈した後、24ウェルプレートに1ウェルあたり500μLずつ播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下で二日間培養した。
【0050】
培養終了後、培地を除去し、被験試料(試料1、試料濃度は下記表1を参照)を添加したKGM−BPE培地又は試料無添加のKGM−BPE培地を各ウェルに500μLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で48時間培養した。培養終了後、上清100μLをELISAプレートに移し換え、37℃で2時間プレートに吸着させた後、吸着させたラミニン5の量を、モノクローナル抗ヒトラミニン5抗体(マウスIgG,ケミコン社製)を用いたELISA法により測定した。得られた測定結果から、下記式によりラミニン5産生促進率(%)を算出した。
【0051】
ラミニン5産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「被験試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、月桃抽出物(試料1)は優れたラミニン5産生促進作用を有することが確認された。
【0054】
〔試験例2〕インテグリンα6β4産生促進作用試験
月桃抽出物(試料1)について、以下のようにしてインテグリンα6β4産生促進作用を試験した。
【0055】
ヒト正常新生児表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコでヒト正常表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて37℃、5%CO−95%airの条件下にて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10個/mLの細胞密度となるようにKGM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下で二日間培養した。
【0056】
培養終了後、被験試料(試料1、試料濃度は下記表2を参照)を添加したKGM培地又は試料無添加のKGM培地を各ウェルに100μLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で72時間培養した。培養終了後、培地を除去し、細胞をプレートに固定させ、細胞表面に発現したインテグリンα6β4の量を、モノクローナル抗ヒトインテグリンβ4抗体(マウスIgG,ケミコン社製)を用いたELISA法により測定した。得られた測定結果から、下記式によりインテグリンα6β4産生促進率(%)を算出した。
【0057】
インテグリンα6β4産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「被験試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、月桃抽出物(試料1)は優れたインテグリンα6β4産生促進作用を有することが確認された。
【0060】
〔試験例3〕アクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進作用試験
月桃抽出物(試料1)について、以下のようにしてAQP3mRNA発現促進作用を試験した。
【0061】
ヒト正常新生児表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコでヒト正常表皮角化細胞用培地(KGM)を用い、37℃、5%CO−95%airの条件下にて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を20×10cells/mLの細胞密度になるようにKGM培地で希釈した後、35mmシャーレ(FALCON社製)に2mLずつ播種し(40×10cells/シャーレ)、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。
【0062】
培養後に培地を除去し、被験試料(試料1,試料濃度は下記表3を参照)を添加したKGM培地又は試料無添加のKGM培地を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下にて24時間培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat. No. 311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0063】
この総RNAを鋳型とし、AQP3及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR Prime Script RT-PCR kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製,code No. RR063A)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。AQP3mRNAの発現量は、「被験試料添加」及び「試料無添加」でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHmRNAの値で補正値を求め、さらに「試料無添加」の補正値を100としたときの「被験試料添加」の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりAQP3mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0064】
AQP3mRNA発現促進率(%)=A/B×100
上記式において、Aは「被験試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示すように、月桃抽出物(試料1)は、優れたAQP3mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のラミニン5産生促進剤、インテグリンα6β4産生促進剤、皮膚基底膜正常化剤及び皮膚損傷回復促進剤は、しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状の予防又は改善に有用である。特に本発明の皮膚損傷回復促進剤は、皮膚の創傷の治療又は改善に有用である。また、本発明のアクアポリン3mRNA発現促進剤は、皮膚の水分保持能やバリア機能の改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするラミニン5産生促進剤。
【請求項2】
月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするインテグリンα6β4産生促進剤。
【請求項3】
月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚基底膜正常化剤。
【請求項4】
月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚損傷回復促進剤。
【請求項5】
月桃からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3mRNA発現促進剤。

【公開番号】特開2012−219031(P2012−219031A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83785(P2011−83785)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】